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広範な植物病原菌に対する抵抗性遺伝子 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 50, No. 9, 2012 627

今日の話題

広範な植物病原菌に対する抵抗性遺伝子

イネから BSR1 遺伝子を FOX ハンティングにより発見

世界的な人口増加の下,飢餓の克服や食料の安定供給 を図るうえで,作物病害を防ぐことは極めて重要な課題 である.細菌や糸状菌は植物に病害を引き起こす主要な 病原体である.その被害を農薬により防ぐ方法が通常用 いられているが,植物自身のもつ抵抗性機構を強化した 耐病性作物を開発することができれば,農薬散布にかか るコストや労力の低減が可能となる.そこでこれまで作 物に病害抵抗性を付与するために,多くの抵抗性遺伝子 が交配により栽培品種に導入され農業の現場で利用され てきたが,複数の病原菌に対して有効な抵抗性遺伝子は ほとんどなかった.ここでは筆者らの研究グループによ り,広範な植物病原菌に対する抵抗性遺伝子がイネから 単離された経緯について紹介する.

イネは全ゲノム配列が解読された最初の作物であり,

完全長cDNAなどのゲノム情報も整備されている.ま た近年,機能獲得型の大規模変異系統を用いた植物遺伝 子 単 離 法 と し て FOX (Full-length cDNA over- expressor) ハンティング法が開発され(1),イネの完全 長cDNAをイネにおいて過剰発現させた,イネFOXイ ネ系統が1万系統以上作製されている(2).さらにイネの 完全長cDNAをシロイヌナズナにおいて網羅的に過剰 発現させた約2万系統のイネFOXシロイヌナズナ系統 も作製されている(3).この系統を用いたFOXハンティ

ングの例としては,耐塩性スクリーニングにより原因と なる遺伝子が単離されている(4).大規模なスクリーニン グを行うには,イネFOXイネ系統よりも,生育が早く 小型のシロイヌナズナを宿主に用いたイネFOXシロイ ヌナズナ系統のほうが有利であると考えられる.

動物が自然免疫を有するように,植物にも機構は異な るものの自然免疫があると考えられ,植物免疫と呼ばれ ている.植物免疫の実態はまだ完全には明らかにされて いないが,これを増強することができれば広範囲の病害 に抵抗性をもつようになることが期待できる.植物免疫 の中には種を超えて保存されている部分もあると考えら れるので,イネの植物免疫に関する遺伝子がシロイヌナ ズナで過剰発現されれば,シロイヌナズナでも植物免疫 が増強され,病害抵抗性になる可能性が考えられる.以 上のような考えから,筆者らはイネFOXシロイヌナズ ナ系統に対する病原菌感染抵抗性スクリーニングを実施 することにした.

シロイヌナズナではトマト斑葉細菌病菌 (

 pv.   DC3000) が最もよく用いられ る病原細菌であり感染も容易なので,スクリーニングに 用いた.イネFOXシロイヌナズナ系統2万系統にトマ ト斑葉細菌病菌を感染させ,ほとんどの系統が死滅する 中で生存する系統を選抜する,という感染抵抗性スク

図1BSR1過剰発現シロイヌナズ

ナおよびイネの広範な病原菌に対す る抵抗性

(左上)トマト斑葉細菌病抵抗性.野 生型は菌の感染によりしおれている.

(右上)アブラナ科野菜類炭疽病抵抗 性.野生型は菌の感染によりしおれ ている.(左下)イネ白葉枯病抵抗 性.野生型(原品種)は菌の感染に より葉が白く枯れているが,過剰発 現体では接種部位近傍以外はほとん ど枯れていない.▼印は菌の接種部 位.(右下)イネいもち病抵抗性.野 生型は菌の感染による病斑が多く現 れているが,過剰発現体では病斑数 が激減した.

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化学と生物 Vol. 50, No. 9, 2012

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今日の話題

リーニングが行われた.3回のスクリーニングにより,

最終的に抵抗性系統が72系統選抜され,それらの原因 遺伝子が特定された.さらに72系統の中で病原糸状菌 のアブラナ科野菜類炭疽病菌 (

) にも抵抗性を示すものが,同様の感染スクリー ニングで13系統選抜された.アブラナ科野菜類炭疽病 菌は,イネに最も甚大な被害を及ぼす病原糸状菌のいも ち病菌と感染機構が類似しているために用いた.トマト 斑葉細菌病菌とアブラナ科野菜類炭疽病菌の両菌に感染 抵抗性を示したイネFOXシロイヌナズナ系統において 過剰発現させていたイネ由来の完全長cDNAを,今度 はイネに過剰発現させて,イネにおける病害抵抗性が調 べられた.すると,そのうち一つの完全長cDNAを過 剰発現させたイネが,病原細菌である白葉枯病菌 (

) と病原糸状菌のいもち病菌 (

) に対して非常に強い抵抗性を示した(図 1.いもち病抵抗性の程度は,極強の抵抗性品種を超え るほどの非常に強いものであった.この遺伝子は双子葉 植物のシロイヌナズナと単子葉植物のイネの2種の植物 種において4種類の病原菌(図1)に抵抗性を示したこ

とから,  ( ) と命名さ

れた(5)

は新規の受容体様細胞質キナーゼ (Receptor- like cytoplasmic kinase ; RLCK) を コ ー ド し て い た.

RLCKとは受容体様キナーゼ (RLK) と同様のキナーゼ ドメインをもつが,細胞外ドメインや膜結合ドメインを もたないキナーゼのことである.イネには300以上の RLCKが存在しているが,機能の明らかになっているも のはほとんどない.シロイヌナズナでは病害抵抗性関連 タンパク質であるPBS1やBIK1などがこのグループに 属している.BSR1タンパク質はシロイヌナズナの既知 タンパク質の中ではBIK1と最も相同性が高かった(5). BIK1キナーゼは,細菌に由来する鞭毛タンパク質フラ ジ ェ リ ン を 認 識 す る 受 容 体FLS2と 複 合 体 (FLS2/

BAK1/BIK1) を形成し,受容体複合体のリン酸化を介 してフラジェリン受容のシグナルを細胞内に伝達するこ と,その結果植物免疫が活性化されることが報告されて いる(6).このあたりの詳細については本誌5月号で解説 されているので参照されたい(7).さらにBIK1は細菌に 由来する翻訳伸長因子EF-Tu(EF-Tuを認識する受容 体はEFR)によってもリン酸化されることが明らかに なっており,BIK1は病原菌認識に関わるさまざまな受 容体からのシグナル伝達を仲介することにより植物免疫 の初期過程に関与していると考えられている(6).BIK1 と相同性の高いBSR1タンパク質も同様に,さまざまな 病原菌認識受容体からのシグナルを細胞内に伝達すると ころで機能しているのではないかと考えられる.

の過剰発現により,これらの受容体からのシグナルが増 強されたと考えると,イネで2種類の病原菌に抵抗性に なったこと,異種のシロイヌナズナでも2種類の病原菌 に抵抗性になったことが説明できる.

以上のように は,過剰発現することにより単子 葉植物,双子葉植物の両方で,細菌病にも糸状菌病にも 抵抗性を付与する遺伝子であり,このように広範な病害 抵抗性遺伝子はこれまでほとんど報告がない.そこで今 後はBSR1の機能解明を行うとともに,種々の作物にお いて 遺伝子を過剰発現することにより,広範な病 原菌に抵抗性を有する品種の作出が期待される.

  1)  T. Ichikawa  : , 48, 974 (2006).

  2)  H. Nakamura  : , 65, 357 (2007).

  3)  Y. Kondou  : , 57, 883 (2009).

  4)  N. Yokotani, T. Ichikawa, Y. Kondou, S. Maeda, M. Iwa- buchi, M. Mori, H. Hirochika, M. Matsui & K. Oda :

71, 391 (2009).

  5)  J. G.  Dubouzet,  S.  Maeda,  S.  Sugano,  M.  Ohtake,  N. 

Hayashi, T. Ichikawa, Y. Kondou, H. Kuroda, Y. Horii, M. 

Matsui,  K.  Oda,  H.  Hirochika,  H.  Takatsuji  &  M. 

Mori : , 9, 466 (2011).

  6)  D. Lu  : , 107, 496 (2010).

  7)  蔡 晃植,平井洋行:化学と生物,50, 363 (2012).

(前田 哲,森 昌樹,(独)農業生物資源研究所)

参照

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