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青果物から分離した「天然酵母」の製パン試験 - 化学と生物

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Academic year: 2023

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化学と生物 Vol. 51, No. 2, 2013

本 研 究 は,日 本 農 芸 化 学 会

2012

年 度 大 会(開 催 地:京 都 女 子大学)の「ジュニア農芸化学会」で発表され,銅賞を受賞 し た.「『天 然 酵 母 パ ン 』 っ て よ く 目 に す る け ど,い っ た い ど ん な 酵 母 な ん だ ろ う 」

と 調 べ て み た が,よ く わ か ら な い.そこで

,高校生たちは身近な野菜や果物などから酵母を

分離・同定し

,パンを作ってみた.

 

本研究の目的・方法および結果

【目的】 青果物から酵母を分離・同定し,分離した酵母 を用いた製パン試験やパンの官能検査を行って,ドライ イーストと比較した「天然酵母」の性質を明らかにする ことを目的とした.

【実験方法】

1. 酵母の分離・同定 材料は地元福岡県産の野菜や果

物など(表

1

)を用いた.YPD培地にNaClを添加した

ものとしないものに材料の野菜などを加え,30℃で1週 間培養した.その後,YM寒天平板培地に塗抹して3日 間培養し,酵母を単離した.酵母の同定は,19種類の 炭素源の資化性を調べる市販キット アピCオクサノグ ラム を使用した.48時間後および72時間培養後の濁 りを記録し,同キットのWEBサイトに記載されている データと照合した.さらに,染色法で子嚢胞子形成の有 無を確認し,酵母の属・種を同定した.

2. 製パン試験 分離した4種類の酵母と対照のドライ

イーストを用い,中種法と呼ばれる方法で製パン試験を 行った.砂糖の割合を変えて膨張率を比較し,焼き上げ たパンの外観,味,香りなどの項目について官能評価を 行った.

【結果と考察】

1. 酵母の分離・同定 YPD培地に4% (w/v) のNaCl

を添加して酵母の集積培養を行ったところ,約半数の材 九州国際大学付属高等学校環境化学部

八木葉奈子,福山紗英子,黒川正道(顧問:大坪泰輔)

青果物から分離した「天然酵母」の製パン試験

表1分離された酵母の同定結果

分離源 NaCl添加培地 NaCl無添加培地

巨峰

*

リンゴ   ×

スモモ

ワサビナ カビが発生

*

トマト   ×

合馬タケノコ 季節外れになり,入手難

オオバシュンギク

*

カビが発生

コメ カビが発生   ×

高倉ビワ   × カビが発生

ドラゴンフルーツ   × カビが発生

タチバナの葉   ×

タチバナの花   ×

*

カッコ内は完全世代の名称,

*

の4株とドライイーストを製パン試験に用いた.

(2)

130

化学と生物 Vol. 51, No. 2, 2013

料からは酵母の増殖が確認できなかった.そこで,

NaClを添加せずに培養をしたところ,発酵が確認でき た.顕微鏡観察でさまざまな形の酵母が確認できたこと から,数種類の酵母が混在していると考えられた.これ らの酵母をプレートで分離し,アピキットと子嚢胞子形 成の有無から,属・種を同定した(表1)

.これらの株

から,食品の製造に関与することが報告されている4種 4株を選択し,製パン試験に用いた.

2. 製パン試験 高校生たちが分離した

と,市販のドライイースト ( ) を 比較したところ,ドライイーストのほうが2倍大きく膨 らんだ.しかし,プレート法で菌数をカウントしてみる と,ドライイーストは2倍近く菌数が多いことがわかっ た.そこで,以降は菌数を揃え,すべて中種法で製パン 試験をすることとした(図

1

.その結果,巨峰から分

離された はドライイーストとほぼ同じ発酵 性を示した(図

2

.そのほかの酵母もスピードこそ遅

いものの,時間をかければ同定度の膨張率まで到達でき た.次に,甘い菓子パンの製造にも使える酵母がいない

か調べるため,前回の糖分5%に対し,糖分30%で製パ ンを行ったが,いずれの株も低い膨張率にとどまった.

これは,高糖濃度によるパン生地の水分活性の低下が原 因と考察された.

次に,5種類の酵母を用いて焼き上げたパンの官能検 査を,38名の高校生を評価者にして行った(図

3

.外

観,香り,味,口当たり,粘り,柔らかさの6項目を評 価し,その合計点である総合で最も評価が高かったもの は,タチバナの花から分離された で あった.このタチバナ酵母は,培養のときから甘い香り があり,外観,香り,味の評価が高かった.

は平均的な評価だった.ワサビナから分離された は,自由記述で「チーズのような 味がする」という回答が多くあった.このワサビナ酵母 を用いると乳製品を加えなくても乳製品の風味を出すこ とができ,乳製品にアレルギーのある人にとって朗報と なるのでは,と考えられた.

 

今後の計画と展望

製パン試験を行うなかで,パン生地がドロドロのスラ

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200

0 50 100 150 200 250

膨張率(%)

発酵時間(分)

ドライイースト 巨峰 シュンギク タチバナ ワサビ

図2酵母の発酵性の比較(糖分

5%

0 50 100 150 ドライイースト:

112

ドライイースト:

105

タチバナ:130

巨峰:119 ワサビナ:100

シュンギク:109

外観

0 50 100 150

タチバナ:121

巨峰:138 ワサビナ:97

シュンギク:

113

香り

0 50 100 150 ドライイースト:

112

ドライイースト:

125

タチバナ:125

巨峰:120 ワサビナ:94

シュンギク:

119

0 50 100 150

タチバナ:107

巨峰:113 ワサビナ:91

シュンギク:

135

口当たり

0 50 100 150 ドライイースト:

102

タチバナ:116

巨峰:106 ワサビナ:130

シュンギク:

118

粘り

0 50 100 150 ドライイースト:

140

タチバナ:125

巨峰:105 ワサビナ:73

シュンギク:

124

柔らかさ

0 200 400 600 ドライイースト:696800

タチバナ:724

巨峰:701 ワサビナ:585

シュンギク:718

総合結果

図3分離酵母で作ったパンの官能試験の結果 図

1

■酵母の発酵性(膨張率)を調べる製パン試験

(3)

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化学と生物 Vol. 51, No. 2, 2013

リー状になってしまうことがあった.スラリー状になる のは特定の酵母で,スラリー状になる回数が増えるにつ れて,パンが酸っぱくなる,という現象が認められた.

酵母が生産する酵素に原因があるのではないか,と考え てアミラーゼ,グルコアミラーゼ,プロテアーゼの各活 性を測定したが,酵母による活性の違いはほとんどな かった.今後,この原因を解明していきたい.

官能検査の自由記述では,「素朴な味」など好印象な 意見もあったが,「甘味が少ない」「香りが薄い」との意 見も多くあった.今回は,単独の酵母を使用した製パン 試験を行ったが,天然酵母パンのおいしさは複数の菌株 が作用しあった結果ではないか,と考えている.一方

で,自家製の分離株には食用に適さない株が紛れている 可能性も明らかになった.今後は数種類の酵母菌を混合 し,よりよい酵母を開発していきたい.

この取り組みでは,自分たちで「考え」「やってみる」

ことと,酵母の安全性などについて「調べる」こと,ま た,製パン試験からどう結果を出すか,顧問の先生に官 能評価という方法を「教えてもらう」ことがうまく機能 して研究が進んでいることがうかがえる.高校生たち は,自分たちで天然酵母パンを商品として作れないか,

と思うようになった,とのこと.さらなる健闘を期待し たい.

  (文責「化学と生物」編集委員)

参照

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4 1はひたすら手を動かすのみです。少し特殊な推移図になるので、きちんと整理して書かないとミスの原因にな ります。2からは1で発見した規則性をうまく用いることで解くことができます。気づいた人は大きな時間短 縮になったと思いますが、気づかなかった人は多くの時間を溶かしてしまったのではないでしょうか。このよう