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Zorn の補題

ドキュメント内 幾何学序論講義ノート (ページ 110-115)

1.9 選択公理

1.9.1 Zorn の補題

Definition 1.9.5. X を順序集合とする.

1. Aが(X の)鎖(chain)である

defAXの全順序部分集合である.(Xの部分集合であり,全順序部分集合になっ ている.)

2. X の任意の鎖が上に有界であるとき, X を帰納的順序集合(inductively ordered set) という

Example 1.9.6. 1. Qに数の大小関係で順序をいれる. 明らかにQは帰納的順序集 合ではない.

Q0 ={r Q r 0}とおくと, 明らかにQ0 は帰納的順序集合である. 2. P(X)は帰納的順序集合である.

exercise 60. 上の例の主張を確かめよ.

選択公理を仮定すると(ZFのもと)次が成り立つことが知られている. この講義では 証明は省略する.

Theorem 1.9.7 (Zornの補題, Zorn’s lemma). 帰納的順序集合は少なくともひとつの 極大元をもつ.

Zornの補題を使う際, 次のことに注意しておくとよい.

Lemma 1.9.8. X を空でない順序集合とする. このとき次は同値である. 1. X は帰納的順序集合である.

2. X の任意の空でない全順序部分集合は上界をもつ.

Proof. 12はあきらか. 逆を示すには∅ ⊂X が上に有界であることを示せばよい( 全順序部分集合である.)がEx.1.7.18でみたように, X ̸=であれば∅ ⊂X は有界であ る.

逆にZornの補題を仮定すると, 選択公理を示すことが出来る. Zornの補題の使い方の よい例であるので証明してみよう.

Theorem 1.9.9. Zornの補題を仮定する. このとき, 任意の全射 f: X Y は切断を もつ.

Proof. XまたはY が空集合の場合はf = id となるのであきらか. X, Y ともに空でない場合を考える. f: X →Y を写像とする.

S ={(B, g) B ⊂Y, g: B →X, f◦g = 1B}

とおく.

1. S ̸= である. 実際, x∈ X をひとつとりy =f(x) Y とおく. g: {y} →Xg(y) =xで定めると, 明らかに({y}, g)∈ Sである.

2. (B, g),(B, g)∈ S に対して

(B, g)(B, g)

defB⊂B かつ g|B =g と定めると, あきらかにS に順序を定める.

3. この順序に関してS は帰納的順序集合である. 実際, T ⊂ S を全順序部分集合と する.

T = ∪

(B,g)∈T

B

とおき, t: T X を, (B, g) ∈ T に対しy Bであるとき, t(y) = g(y)で定め る. t well-definedである. 実際, (B, g) ∈ T に対しy B であるとすると, T は全順序集合なので(B, g) (B, g)または (B, g) (B, g)のいずれかが成 り立つ. (B, g) (B, g)としてよい. このときy ∈B Bであり, g|B = gな のでg(y) = g(y). 作り方からf ◦t = 1T なので(T, t) ∈ S であり, また任意の (B, g)∈ T に対しB⊂T かつt|B=gであるから(T, t)はT の上界である. (T の上限であることもすぐわかる.)

4. Zornの補題より, S には極大元が存在する. (Y, s) ∈ S を極大元とする. f が全 射であればY = Y である. 実際, Y ̸= Y であるとすると, Y \Y ̸= である. y0 ∈Y \Y をひとつとるとf が全射なのでf(x) = y0となるx∈ Xが存在する.

˜

s: Y∪ {y0} →X

˜ s(y) =

{

s(y), y∈Y x, y=y0

とおけば(Y, s)<(Y∪ {y0},˜s)∈ S となり極大性に反する.

Remark . 帰納的順序集合を「任意の全順序部分集合が上限をもつ順序集合」と定義する

流儀もある. 区別するため, この定義をみたすものを「きのうてき順序集合」と書くこと にする.

あきらかに「きのうてき順序集合」は帰納的順序集合であるが, 逆は成り立たない. えば例. 1.9.6のQ0 は「きのうてき」ではない. しかし, Zornの補題はどちらの定義を 用いても成り立ち, 以下は同値である.

1. 選択公理.

2. 帰納的順序集合は少なくともひとつの極大元をもつ.

3.「きのうてき順序集合」は少なくともひとつの極大元をもつ.

実際, 23は「きのうてき」ならば帰納的であることからあきらかであり, Thm. 1.9.9の 証明は, S が途中注意したことから「きのうてき順序集合」となっているので, 31 の証 明になっている.

Zornの補題の典型的使用例.

Theorem 1.9.10. 選択公理を仮定する.

Rを(乗法に関する単位元をもつ)可換環とする. 任意のイデアルIRに対し, I を 含む極大イデアルが存在する.

特に={0}の場合, Rには極大イデアルが存在する.

Remark . 代数で学んだと思うが, Rの部分集合I がイデアルであるとはIRR部 分加群であるということ, つまり

1. x, y ∈I ⇒x+y∈I 2. a∈R, x∈I ⇒ax∈I

をみたすということ. またmが極大イデアルであるとは, 包含関係に関して極大であるよ うな真部分イデアルであるということ, つまり

1. m⊊R

2. m⊊IRとなるようなイデアルI は存在しない ということ.

Proof. IRをイデアルとする. I を含む真部分イデアル全体 S ={

J I ⊂JR, J はイデアル} に包含関係で順序をいれる. S が帰納的順序集合であることを示そう.

あきらかにI ∈ S だからS ̸= であるから, ∅ ̸=T ⊂ S を全順序部分集合とするとき T が上界をもつことを示せばよい.

K = ∪

J∈T

J とおく. K ∈ S を示す.

• T ̸=だからI ⊂K である.

x, y K とする. ある J, J ∈ T が存在し, x J, y J である. T は全順序集 合なのでJ JJ ⊂J のいずれかが成り立つ. J J としてよい. このとき x, y ∈J であり, J はイデアルなのでx+y∈J ⊂K. a ∈R, x∈K とする. ある J ∈ T が存在しx J である. J はイデアルであるからax∈ J K. よってK はイデアルである.

任意の J ∈ T に対し, JRであるから 1 ̸∈ J である. よって1 ̸∈ K となり KR.

以上からK ∈ Sであり, あきらかにKT の上界, ゆえSは帰納的順序集合である. Zornの補題よりSには極大元mが存在するが, これが求めるものである.

証明はしないが, 同様な議論で次が示せる. Theorem 1.9.11. 選択公理を仮定する.

kを体とする. k 上のベクトル空間は基底をもつ. 問題集 . 59

1.9.2 整列可能定理

Ex. 1.7.4でみたように, 任意の集合に自明な順序をいれることが出来るが, 選択公理を

仮定すると整列順序をいれることが出来ることがわかる.

選択公理を仮定すると(ZFのもと)次が成り立つことが知られている. この講義では 証明は省略する.

Theorem 1.9.12. 整列可能定理(wellordering theorem) 任意の集合は, うまく順序を 定義してやることで整列集合(Def. 1.8.7)にすることができる.

整列集合では数学的帰納法と同様な議論(超限帰納法(transfinite induction)と呼ばれ る)が使えるため, 選択公理を利用する場面でよく使われる.

実はこれも(ZFのもと)選択公理と同値であることが示せる. Theorem 1.9.13. 整列可能定理を仮定すれば選択公理が成り立つ.

Proof. f: X Y を全射とする. 仮定よりX に整列順序をいれることが出来るので, Prop. 1.8.10より, f は切断をもつ.

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