本日最後となる第3セッション、「経済の視角から考える日韓関係」に移りたいと思います。6 時半までというのが当初の予定でしたが、だいたい6時45分くらいまでこのセッションを行っ て、その後夕食会場に直行、ということにさせていただきます。
セッションに入る前に一つお願いがあります。これまでのセッションでみなさまに非常に活 発にご議論いただいております。ただ、みなさん限られた持ち時間のなかでいろいろなことを
おっしゃりたいということか、たいへんにご発言が速すぎて通訳者の方がご苦労されています ので、ご発言内容を正確に伝えるためにも、できるだけ同時通訳の方に配慮したスピードで発 言をお願いしたいと思います。
それではさっそく発表に入りたいと思います。まず日本側、次に韓国側という順序で、また お1人につき15分から20分程度で、よろしくお願いします。
「新しい日韓協力をどう考えるか:経済的側面から」
日本側発表者:ありがとうございます。発表の機会をいただきまして光栄です。また韓国側の 先生とは以前から旧知の間柄で、お互いに相手の考え方もよく知っておりますので、経済セッ ションらしく効率のよい、コンパクトな発表にさせていただきたいと思います。
さて、私の方からは少し補完的に、特に経済とメディアに関することを中心に日韓関係につ いてお話をしたいと思います。実際に起きていることと、メディアが報道していることの間には、
やっぱり距離があるのではないかと私も感じておりますし、特に経済畑の人にはかなりそうい う方が多いのではないかと思います。たとえば、ここ数年、日韓関係は悪いと一貫していわれ てきましたが、国旗を背負っている人、政府とか、シェア争いをしている大企業とか、メディ アとか、そういう人たちは、非常に垂直的にものごとをとらえて、どっちが勝ったとか負けた とかいう発想で考えますので、日韓関係が悪いというメディアの報道を見ても違和感を覚える ことはないでしょうし、ご本人自身もそのような見方をしていると思います。ただ、文化や観 光関係者、あとは地方自治体や個人、こういう人たちは別に垂直的に勝った負けたとか考えて いるわけではなくて、協力することが自分自身の利益にとっても意味がありますので、日韓関 係に対するとらえ方も自然と違ってくるわけです。
では経済はどうかというと、その中間といったらいいでしょうか、もちろん一部の分野では シェア争いで勝った・負けたの世界もあるのですけれど、経済関係者全体でみれば単なる勝った・
負けたの関係よりは市場の論理に基づいていて、国同士の関係がどうであっても、ビジネスは 市場の論理に従っていくと考えている、よってビジネスの関係は成り立っていると、そういう 状況だろうと思います。
そして、特に報道との関連で申し上げると、失礼ながらメディアの報道ぶりというのは経済 関係者の目から見ると、多分に20世紀的な発想でやっているのだな、と思わされるところがあ るのですね。どういうところが20世紀的かというと、国境に仕切られているというか、やたら と境界線を引いてものごとを考える傾向が非常に強いということです。実際にはいまや企業は どこでも、国境を越えて産業集積を作っていますから、企業に国籍を問うとか、どこからどこ までうちの国で作っているかを追及しても始まらない時代なのですけど、報道の方は概してそ ういう発想が多いということです。
たとえば、韓国のメディアですと、よくあるパターンは、輸出は勝ちだけど輸入は負け、輸 入超過は自国の負けを意味するというような書きぶりですね。韓国メディアはこういう発想で ずっと対日貿易赤字を問題にしてこられましたが、その間韓国経済が成長できなかったかとい うとそうではなくて継続的に成長してきたわけで、むしろ日本からの輸入は韓国の成長に役立っ てきたというのが経済関係者の常識的な理解です。メディアの見方が実態からずれている、と いう一つの例だと思います。
それから、外資を差別的に考えるのは、世界で日本と韓国だけですね。今はGATTの時代で はなくてWTOの時代ですから、どうやって自国の立地条件を良くして、世界の競争力ある企 業をホストできるかということを競争するというWTO時代の競争をどこもやっているのです が、日本と韓国は20世紀の成功の思い出から抜け出せていない、その記憶に頼っているところ があって、またメディアの方でも相変わらず外資に侵略されたとか、そういう報道がいまだに 多いのですが、実はこれは日韓両国だけなのですね。その間に中国のほうがはるかに外資をた くさん多く受け入れてやってきていますから、ある意味中国のほうが先に21世紀型になってい ると言えるかもしれません。また、外国製品に対する差別的な姿勢も同様に見られます。たと えばわが国の国産品―特に農産物―は信頼できる、いい人が作っているから安全だけれども、
外国産はどんな人が作っているかもわからないから危険だ、というような。日韓はこの点で、
よくこんな国がまだあるなと思うぐらい似た者同士といえます。
ちなみに、日韓両国の成功体験が多分に20世紀的であるということがメディアのみならず経 済全体に影響を与えているところもあるのですね。この点でも日韓はよく似ているのですが、
たとえば大企業による大量生産・大量輸出の市場シェア争いという思考・行動様式。また、そ れを助けるやたら介入好きの政府。それから、韓国の場合はいまだにファミリービジネスです ので、経営者の問題がありますし、日本の場合はサラリーマン経営者なのですけど、失敗して も責任を取らない経営者という問題がある。さらに、それぞれ経営者がなかなか代わらないと いういろんな問題も抱えておりますし、変動相場制で非常に為替レートが行ったり来たりする 中で、それに対して慌てふためくというところにも、非常に似た体質を抱えた国同士という点 がよく表れていると思います。
メディアに再び話を戻しますが、そういう報道をしている人たちには、日本側メディアにつ いて言えば1980年代にソウルに駐在したような方が多くて、まことに1980年代的な、キャッ チアップする韓国と、追われる日本のようなとらえ方をいまだにやっている人がいる。そして それがそのまま報道に反映されているというところがあるのですね。したがって、まずメディ アは経済について、もう少しありのままを報道するということが大事ではないかと、ここしば らく感じてきました。
さて、次に日韓両国の経済関係がどのようなものであったかに目を向けてみますと。ここ数 年は日本と韓国の間で、ある種のシーソーゲームが展開されてきたと思います。まず一つの時 期は2008年のリーマンショック・世界金融危機から2012年ぐらいまで。つまり日本がアベノ ミクスで円安に転じる前までですね。この時期には、韓国の爆発的なグローバリズムでの成功 というのがありました。他方で日本はずっと円高に苦しめられましたし、エネルギー価格も特 に東日本大震災のあと高騰して、これも苦しかったです。そして民主党政権のひたすら分配だ けという政策の下で、法人税がものすごく高くて、世界で競争していくには非常に苦しい時代 でもありました。さらに法人税以外にも、労働法規は労働保護ばかりやっていたので労働市場 の改革もなかなかできなかったし、環境規制は世界会議に出ていって、できもしない目標を言っ たりして、これが財界に高いハードルとなって跳ね返ってきました。そして最後に、日韓の2 カ国間FTAが農業保護の問題で実現できなかったために、韓国は関税がかからないけど、日本 から輸出すればかかる。つまり日本でビジネスをすると韓国に比べてすべてが高くつくという 悪条件まで加わって、いわゆる「6高」という時代だったわけです。そしてそれを尻目に、韓 国は爆発的に発展することができたのですね。
そして2013年からの時期には、これが全部、オセロゲームで白が黒になっていくようにひっ くり返ってしまって、韓国がかつての日本と非常に似たようなことで苦しみ始めていると思い ます。不況の中でも経常収支は黒字がどんどん大きくなっていますので、ウォン安になる理由 はないですし、エネルギーは非常に韓国電力の赤字の問題とか、いろんな問題を抱えていまして、
今までのように安いエネルギーを提供することもできない。それから韓国の2015年の財政予算 を見ていただくと、非常に大きくなってきているのが福祉の予算ですが、これはどこかに財源 を求めないとできないことで、税金を取れるところというと、やはり取りやすいのは企業から、
ということになるのですが、そんなわけで法人税ももはやこれ以上は下げられない。そして労 働改革は、今、朴槿惠政権が一生懸命やろうとしていますが、これもすんなりいくとはなかな か思えない。労働改革は日本でも同じように進めようとしているのですが、日本のように高齢 化が行き着くところまで行き尽くして人手不足になって、その人手不足の中で労働改革をする のと、絶望的に働き口がない、特に若い人に行くところがない状態で労働改革をするのでは、やっ ぱり政治的には韓国のほうが厳しい状況にあると思います。また環境規制も厳しくなってきて おりますし、さらに今後TPP、つまり環太平洋経済連携協定が―米国が批准してくれるかどう かが最大の問題ですが―できますと、日米間および日豪間、日加間の貿易自由化は、韓国と米国、
韓国とオーストラリア、韓国とカナダよりもずっと開放度の進んだものになるので貿易条件も 変わってくることになります。今度は韓国が「6高」に直面しつつあるわけです。
この「6高」のシーソーゲームを繰り返しながら、日韓関係は悪化してきたと思うのですけ れども、その過程で認識の対立というものが深くなってしまったという点も指摘せざるを得ま せん。たとえば日本の「6高」が韓国経済にとって有利だったころ、爆発的なシェア拡大が実 現したころに李明博前大統領の「日本を恐れる必要はない」という発言があったわけですが、
当時の経済環境がこの発言に作用していたことは間違いのないところでしょう。そして一方の