ことでお願いしたいと思います。
「安全保障問題と日韓関係」
日本側発表者:ありがとうございます。初めからプレッシャーをかけられてしまいまして緊張 しておりますが、なるべくコンパクトに申し上げるようにいたします。
ただいまの韓国側のご発表をうかがって、情勢認識は私が描いているものと完全に一致して いることがわかりたいへん興味深く感じました。日韓間で基本的な認識にはなんら違いがない ということがはっきりしたためです。ただ、情勢認識が同じだからといって発表を「以上、終 わり」で済ませるわけにもいきませんので、逆に異なる点に注目しながら発表をしたいと思い ます。具体的には、もう少し考え方を大きく見るということ、日本と韓国の置かれた地政学的・
歴史的な状況の違いというものがこれから中国と向き合うときにどう反映してくるのか、そし て、そのずれの根っこはどこにあるのかということを考えてみたいと思います。
実は私、昨日こちらの会場に来る前に自衛隊の観艦式に行ってきました。そして、「くらま」
という観閲艦に乗ったのですけれども、この式典には安倍総理も来ていて、同艦で観閲した後、
日本の最新鋭護衛艦の「いずも」に、そしてその次に横須賀を母港としている米原子力空母「ロ ナルド・レーガン」に乗艦して視察しました。スクリーンにその時の写真を出していますけれ ども、まさに安倍総理が今年―昨年来と言ってもいいでしょう―続けてきたアジア太平洋戦略 というものを象徴するような出来事だったと思います。こういう写真を見て、韓国からは―先 ほどご発表の中でもあったように―そんなに米国にのめり込んでいいのかという疑問が出てく るのだろうと思うのですが、もちろん日本人にもそういう気持ちがないとは言えませんけれど も、やはり中国に対する認識というのがちょっと違っていることがこういう見方の違いにつな がってくるのだろうということ、まずこれをちょっと記憶しておいていただきたいと思います。
さて、次に安倍政権の安保外交戦略を簡単にご説明しますと、基本的な考え方はご存知の通 り積極的平和主義、価値外交というものです。具体論としては日米同盟を強化することがまず 基盤になるのだということ、そして安保法制の整備によって抑止力を向上させ、日本の安全保 障を高める必要があるということで、有事でも平時でもないグレーゾーン事態にシームレスに 対処できるよう、日米同盟を中心に態勢を整えていくと、こういう考え方をしています。そして、
そのような考え方に基づいて、まず4月の安倍総理訪米があって、日米同盟協力の指針、ガイ
ドライン改定が表明されましたし、9月には集団的自衛権の行使容認などを含む安保関連法案 が成立しました。これが安保外交戦略の下地ということになります。
そして、さらにもう三つほど力を入れていることがありまして、まずは日米関係を基軸に据 えて、価値を共有する韓国・豪州・インドとの安保対話連携協力を進めていくということ。こ れは特に外交に課せられた大きな課題だと思います。また二つ目が東南アジア諸国などへのキャ パシティービルディング(能力向上)の支援で、これによって日本から見るとたいへん乱暴に 思える中国の海洋進出に対応しようとしています。そして三つ目が国連平和維持活動や人道復 興支援などでの国際貢献の拡大です。あとは10月5日に大筋合意されたTPP(アジア太平洋経 済連携協定)も、経済的な意味だけでなく政治的・外交的な意味がある、安保面で補強材のよ うな役割をはたすということで、ここに含めることができるかもしれません。
あともう一つ、これは安倍総理が盛んに口にするフレーズですが、地球儀を俯瞰する外交と いうのもありますね。これは首脳外交を強化していくというもので、その一環として国家安全 保障会議を創設し、その要となる国家安全保障局長に安倍総理の信頼の厚い谷内正太郎氏を起 用したというのもご承知の通りです。以上が安倍政権の安保外交戦略のあらましです。
次に、では韓国の方はどうか、ということを見ていきたいと思います。先ほどのご発表の中 でも、また午前中のセッションでも日本側の見方は韓国のそれとは違う、ということが指摘さ れていましたけれども、日本の目に朴槿惠政権の外交戦略がどう映っているのか、に触れてお くことも重要だと思いますので…。まずスクリーンをご覧いただきたいのですが、朴大統領の 中国訪問時の、習近平主席とともに軍事パレードの会場に向かう場面です。向かって左にプー チン大統領、右に黄色いジャケット姿の朴槿恵大統領が見えますね。象徴的なシーンとして報 道で大きく取り上げられたので記憶に新しいところだと思います。この写真が示すように、ま た先ほどのご発表にもあった通り、韓国は米韓同盟を維持しつつ中国にも接近するという対米 均衡外交をやっているわけです。もちろん、ただ単に米中の間で均衡をとろうとしているわけ ではなくて、分断国家ということで統一戦略がここに絡んでくるわけですね。この点を見落と すと韓国の対中接近というものはまったく理解できないものということになってしまうでしょ う。つまり北朝鮮の軍事的脅威というものが韓国にとっては最大の懸念の対象なわけですから、
これを抑止するために朝鮮半島有事に備えて在韓米軍の存在を重視する。そして北朝鮮に影響 力を持つ中国にアプローチすることが対北抑止のためにも必要だということで、朴槿惠政権期 に入って以来、中韓FTA正式署名ですとか、アジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟ですとか、
先ほどの中国の抗日戦勝70年軍事パレード、記念式典への出席などが行われてきたわけです。
ただ、日本としてはそのような米韓同盟を維持しつつ中国に接近する均衡外交に対して、理 屈というか考え方としては分かるけれどもはたしてそれでうまくいくのか、何らかの形で齟齬 が出てくるのではないのかという懸念を抱くのですね。また現実的にも、いろいろな課題がま だ残されていると思います。たとえば米韓同盟の中でも―再延期で合意したそうですが―戦 時作戦統制権の移管問題ですとか、韓国のミサイル防衛への参加問題、そして在韓米軍への
THAAD(終末高高度防衛ミサイル)導入問題等々です。特にTHAADの導入は中国からすれば
自国にとっての脅威になりうるということで、中国がこれに対して陰に陽に朴槿惠大統領を牽 制しているというふうに当然、日本からは見えるわけです。
そして、もう一つの柱の統一戦略については、まず首脳外交を切り口として見てみたいので すが、朴大統領の就任後初外遊は米国で、次が中国だったのはご存知の通りですが、これまで の政権の、初外遊は日本というパターンを変えてきたわけで、米国と中国のバランサーになる という、こういう意思があったのだろうと思います。そして、この9月までに行った首脳会談 を記録に取ってみても、中国とは七回、米国とは四回、ロシアとは二回、日本とはゼロという ことで―11月1日にあると言われていますけれども―同様のことが見て取れるわけですね。た だ、少なくとも対北朝鮮・統一戦略ということでいえば、基本的には、この米中均衡外交から 目に見えるだけの成果というものは得られていないようで、おそらくは懸念を深める米国から のプレッシャーというものがかなり大きかったのではないか、と私は思っています。もちろん 統一戦略はこれだけではなくて、たとえば朴槿惠大統領が2014年の新年の会見にあたって、統 一はテバク(大当たり)だ、統一によって大きな機会がもたらされるのだという形で国民に語 りかけたわけですが、このような象徴的な話に加えて、報道によりますと、在韓21カ国地域の 大使らで構成する韓半島クラブ、あるいは、在韓高官と韓国外交部の協議会、平和クラブを設
立したということですから、課題に直面しながらも路線に沿って外交安保政策を進めている、
というべきかもしれません。
さて、このように見てきた上で、じゃあ韓国の対中接近外交の背景・要因―対北朝鮮という 目的意識ではなくて、より根本的なもの―はなんなのだろう、ということを考えてみたいので すが、まずここまでにご指摘の出た韓国経済の対中依存、これは当然のことながら大きくある でしょう。ただ、それがすべてではなくて、世界観の認識、戦略論を立てる上での認識が日本 とは違う―すべての日本国民が同じ考えを持っているわけではありませんから、正確には「日 本の今の政権」の認識とは違うというべきでしょうか―ということがあるのだろうと私は考え ています。たとえばG2論、米中二極論ということが以前言われて、一時はワシントンでも大 はやりになりました。ただ当の米国で廃れた後も、韓国では依然として、戦略論を立てる際の 発想の根底にこれが位置していると思います。特に長期的な展望として、いずれは衰退する米 国、そして台頭する中国という、こういう構図がこのG2論のおおもとにある認識なのだろう と思います。また、中国の方もこれに符合するような考え方を打ち出しているわけですね。習 近平主席が2013年6月の訪米時にカリフォルニアで提起した「新型大国関係」がそれです。こ れははっきりと公式には説明されていませんけれども、中国のほうから数年前から聞こえてき た、アジア太平洋二分割、太平洋二分割管理論というものがベースにあるのではないかと言わ れていますから、事実上は中国版のG2論と言えるのではないかと私は思うわけです。そして、
米国のいらだちというのも結局はこの点、G2論に依拠した韓国の対中外交に起因するのだろう と思います。先日行われた米韓首脳会談では、中国が国際規範を守らなかった場合は、韓国が 声を上げることを期待するとまで米国側から言われているわけですが、象徴的なエピソードと 言えるでしょう。つまり、このような対中認識において日本と韓国の間にはたいへん深い溝が あるのであって、したがって今後も中国をどう見るか、たとえば今展開されている中国の海洋 進出の意味合いをどうとらえ、評価するかということが折に触れて問題になってくると思いま す。
ですから、日韓両国が協力してやっていくためには別の視角が必要になるのだろうと私は考 えています。具体的には、日韓国交正常化50年とか、あるいは日韓併合100年あまりというよ うな、もっとタイムスパンを大きくした形での視点が必要ではないかと思うわけです。またそ うしてこそ、中国や米国側の文脈、つまりこの2大国がどういう戦略、どういう目標を立てて いるかということ、あるいはその発想の基点をどこに置いているかということ―それが日韓両 国にも影響を及ぼすわけですが―も見えてくるのではないでしょうか。たとえば中国の場合、
習近平体制が目指しているものは、アヘン戦争で味わった屈辱を二度としないことであって、
その前の清帝国の時代に戻るんだというような、そういう「中国の夢」を現に語っているわけ ですね。これは結局、欧州、あるいは欧米を中心に―それこそナポレオン戦争以来200年にわたっ て―形づくられてきた価値観とそれを反映した国際法に基づく秩序・国際規範に対する挑戦を 目指している、と解釈することができるでしょう。日本や韓国が直面しているのは、そういう ぶつかり合いの中でどういうふうに生きていくか、という問題なのだということです。
こういうとらえ方に立つならば、先ほど朴槿惠政権の安保外交戦略に対して「考え方として は理解できるけれども…」と申し上げた意味もご理解いただけるのではないかと思います。韓 国と北朝鮮がある朝鮮半島は中国と隣接していて、日本は海で隔てられているという地政学的 な違いはもちろんあるのですが、やはり日本からすると、韓国には中国に対して、あるいは、
歴史的にこれまで歩んできた中国との関係というものについて、もう少し考えてほしいという ところがあります。また、あるいは逆に、歴史に慣れすぎてしまっているようにも見えるわけ ですね。つまり巨大な中国がさらに大きくなるなかで、あるいは中国が自分の価値観をあらわ にしてくるなかでどう生き抜くかというのは現在に限らず過去においても韓国や朝鮮半島の主 要課題であったわけですが、そのような歴史の過程で韓国が諦観といいますか、ある意味運命的・
宿命論的なものとして中華世界との関係を―華夷秩序というのでしょうか―築いていく、その なかでうまく生きてくのだというような感覚にとらわれているようにも見えてしまうわけです。
それが日本と韓国の違いとなって出てきているのではないでしょうか。
しかしながら、今の時代というのは、かつてとは違った形でパワーゲームが行われている時 代です。ご承知の通り、19世紀から20世紀、21世紀に至る過程では、最初は領土の争奪とい う形で世界戦争、パワーゲームというものが行われてきました。第一次世界大戦・第二次世界