を期待したいと思います。最後に、お2人の発表者にいま一度感謝申し上げて、セッションを 終了することにいたします。みなさま、お疲れさまでした。
基調講演:柳興洙・駐日本国大韓民国特命全権大使
司会者:まだお食事中の方もおられるかと思いますけれども、柳興洙(ユ・フンス)駐日韓国 大使にお越しいただいてお話をうかがうきわめて光栄なる機会を得ております。柳大使は2014 年から駐日大使を務めておられますが、それ以前に韓国における国会議員を歴任されて、そう いう意味で韓国側の参加者の方にはもうご紹介する必要もないかと思います。今回のダイアロー グでもはっきりしてきたように、日本と韓国の関係そう簡単ではないわけで、東京におられる 駐日大使、それからソウルにいる在ソウル日本大使、それぞれなかなかたいへんなポジション に就いておられるわけですが、そういった日常の経験をふまえて、大使からお話をうかがいた いと思います。それでは柳興洙大使、よろしくお願いいたします。
柳興洙(ユ・フンス:駐日本国大韓民国特命全権大使):みなさまこんにちは。本日は普段から お付き合いをさせていただいている多くの方々にご出席いただいておりまして、また古い知り 合いの方々にも久しぶりにお会いすることができ、たいへんうれしく思っております。
まず本日お集まりのみなさまは、両国関係について私よりも専門家でいらっしゃいますし、
メディア・学界の実力者ばかりですので、私の話がどれだけお役に立つかわかりませんが、韓 国大使として、現状について私の思うところをを申し上げることにしたいと思います。それが みなさまの討論に少しでも役立てば私としてはこれ以上の喜びはありません。
さて、私が大使として着任してから1年と2か月ほどがたちました。その間私なりに難しい 両国関係を解決するために努力をしてまいりました。韓国では政界も経験し、また長く公職に
も就いておりましたが、それらから引退してから10年ほどものんびりしていましたところ、急 に日本の大使として呼ばれることになりまして、それから自分なりに努力をして全力投球をし てまいりましたが、率直に申し上げて簡単な道のりではありませんでした。これからは両国の 現状について、みなさまに少し説明申し上げたいと思います。
両国関係が難しい局面にあるのは事実だと思います。私が着任した当時も、非常に心配をす る方がたくさんいらっしゃいました。しかし今考えてみますと、現在の状況はその当時よりは 様々な分野において回復に向っているのではないかと思います。最悪な状態は乗り越えたので はないかと思っております。
これまで韓日両国以外の外国で外相会談が行われたことはありましたが、今年は韓国の外務 部長官が日本を直接訪れて外相会談を行いました。それを含めて今まで四回の韓日の外相会談 が開かれました。それ以外にも経済・文化・教育・通商・防衛など様々な分野において、大臣 級の会談が数年ぶりに、相次いで開催されています。たとえば今日もソウルで国防長官、そし て日本の防衛大臣の間で防衛大臣会談が開かれることになっており、これと同時に韓国の空軍 参謀総長と日本の航空幕僚長の間でも会談を行うことになっております。この国防長官会議も 実に5年ぶりに行われるものであると承知しています。もちろん他国で、たとえばシンガポー ルにおいて、会話を交わすという形で接触することはありましたが、直接お互いの国を訪問し て会談をするのは5年ぶりということを聞いています。このように様々な分野において、両国 の大臣が直接相手国を訪問して会談が行われるということは、まず政府レベルで、両国関係が 少しずつ回復に向かっているという証であると思います。
また、ほかの分野の交流に目を転じますと、両国の経済団体レベルでも、過去7年間開催さ れずにいた韓日の財界会議が昨年12月に再開されました。そのときは日本の経団連の代表がソ ウルを訪問し、今年は東京で10月、ちょうど数日後に韓国の全経連の会長が東京を訪問するこ とになっております。このように7年ぶりに再開した経済界の交流も活性化の兆しが見えてお ります。そして国会レベルでは国会議長が相互を訪問するなど交流が活発になっております。
そして国会議員同士のサッカー大会、そして囲碁の大会なども行われておりますし、親善協会 においても両国が非常に活発な交流を行っていて、両国の総会も開催しているところでござい ます。ちなみに両国の親善サッカー大会につきましては、6月にソウルで開かれましたが、そ の時には日本側が負けてしまいまして、ぜひもう一度ということで、次回は11月7日に日本の 東京で開かれることになっているとのことです。このように様々な分野において交流が回復し ているというふうに思いますし、政治は政治で実務的な接触を重ね、また他の分野、つまり経済・
安保・文化などの分野においては引き続き協力を強化していきたいというのが、韓国政府の立 場でもあります。
両国関係における一つのモメンタムとして特記すべきは、やはり本年6月22日、国交正常化 50周年を記念するレセプションに両国の首脳が出席され、東京では安倍総理、そしてソウルで は朴槿惠大統領が両国関係について、今年を新たな出発の元年にし未来志向の関係を築こうと いうメッセージを交換されたことでしょう。私はこれがとてもシンボリックな、非常に両国関 係を前向きにする一つの転機となったと思っております。
もちろん、ここに至るまでの過程は平坦なものではなく、そこには多くの困難がありましたが、
このように両国首脳から政界、財界、民間レベルまで、すべての関係者がひたむきな努力を傾 けられたことがこのような結実を生んでいるということを、あらためて申し上げておきたいと 思います。
今年の後半においても、両国の関係において様々なことがありました。そしてその中の一つ が「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録でしたが、両国が協力をする中でこれを登録す ることができました。もちろん、その過程で両国の見解が食い違うことはありましたけれども、
結果的に本来の双方の主張を反映した形で登録ができたという点、ここに意義があると思って おります。
そしてこの事例のように、私は個々の問題に過度にこだわる、あるいはそれらの問題を徹底 して避ける姿勢を双方が改め、誠実に向き合うことが関係改善のモメンタムをさらに確たるも のにする上でカギになると考えます。
たとえば、戦後70周年に際して安倍総理大臣が談話を発表されました。韓国の立場として、
この談話の細部について言いたいところがないとは言えません。しかし、木の一本一本ではな
くて全体の森のほうを見るという意味でこれをとらえることが重要であり、実際に談話の翌日、
8月15日の朴槿惠大統領の光復節談話は非常に抑制された、まさに森全体を見る観点から両国 関係の未来を考えたものになりました。実は私などは内心でたいへん心配をしていたのですが、
このように成熟した対応が取られたわけです。朴槿惠大統領が中国を訪問された際も、抗日戦 争勝利記念日の式典への参加をめぐって日本側からは懸念の声が上がりましたけれども、結果 的に朴大統領は現地で非常に冷静に行動され、発言されていました。両国の発展そして未来を 考えて、韓国政府が様々な出来事を管理し、抑制するという知性を見せた実例と言えるのでは ないかと思います。
このような前向きな流れを両国政府が最大限生かすことを期待しております。そして11月の 始め頃に予定されている―まだ正式な発表はされておりませんけれども―韓中日の首脳会談が 行われる際に韓日の首脳会談が必ず開催されるよう期待しております。やはり首脳同士の直接 対話は各分野で進む関係改善の流れを決定付けるものとなりますから、その実現を強く祈念し ています。現時点では韓日首脳会談が開催できるかはいまだ未知数ですが、そのような期待の 中で会談が成功的に開催されることが、行き詰まった両国関係において決定的な契機になると 思う次第です。
そして、その会談の成功裡の開催のためにもみなさまにぜひ強調しておきたいのが、両国関 係において今もっとも象徴的な懸案になっている慰安婦問題の解決の必要性であります。もち ろん慰安婦問題の解決が首脳会談の前提条件ということではありませんが、首脳会談の成功の ためには、この問題が解決されるか、もしくは解決のための糸口が探られなければならないと 思います。特に朴槿惠大統領としても慰安婦問題を常に重視されてきた経緯がありますので、
首脳会談の開催と事態の打開に対する韓国民の期待も高まっております。この問題については、
この場で具体的に申し上げることは難しいのですが、様々なチャンネルにおいて対話を重ねて きていますし、進展があるものと個人的には楽観視しております。
ただ、私は大使という肩書を持ってはおりますが職業的外交官ではありませんので、ときど き外交の場においても思っていることを我慢できずに言ってしまうことがあります。というこ とで、私の性分ということでどうか大目に見ていただきたいのですが、日本について、日本が 韓国を見る目について、若干思うところもある、そのことについて語らせていただきたいと思 います。
まず、今年5月に安倍総理が米国を訪問されましたが、その際は安倍総理そして日本政府も 両国間の懸案について解決しようという意気込みを持って臨んでいる、そのような姿勢が感じ られました。その後朴槿惠大統領の訪米も予定されておりましたので、特に慰安婦問題が解決 に向けて大きく動き出すのではないかと期待したのです。ただ実際には、その後の日本側の姿 勢には、こと慰安婦問題となると消極的になる、そのような傾向がみられると感じております。
外交とはこういうものなのか、と職業的外交官はない身として思いもするのですが、やはり安 倍総理のご決断が重要なタイミングであると考えます。総理にはこの間何度もお目にかかって おりますが、お会いするたびに総理からは、ご自分の選挙区が山口県にあること、またこの山 口県は朝鮮通信使が初めて日本に上陸した地で、通信使にゆかりのある人物も、また韓国人も 多く居住しているところであり、韓国には思い入れがあるのだ、というお話をうかがっており、
私は総理の強い意志を感じております。また個人として、政治家としてもたいへん柔軟な方で もありますので、総理のリーダーシップのもと、韓日首脳会談が開催され、のみならず慰安婦 問題を含めた懸案事項が前向きに、解決へ向けて動きだすことを期待する次第です。
そしてもう一つ、韓国が中国に傾いているのではないかという中国傾斜論についても―実は 私が日本のいろいろな場で講演をする際に必ず質問されることでもあるのですが―申し上げた いと思います。端的に、一言で結論を申し上げるならば、韓国は絶対に中国に傾斜しておりま せん。仮に韓国の政府がそうしようとしたとしても、韓国の国民がそれを黙過することはない でしょう。現在の大韓民国が存在すること、そして安全保障の面で国が守られ経済が成長し民 主主義国家として反映していることは、なによりも米国の力によるものであり、韓国国民はこ のことをよく知っています。また国民のなかには個人として米国と関わっている人もたくさん おりますので、国民的な感情としても、中国に傾くというのは絶対にあり得ないことだと申し 上げたいと思います。
しかし、ここでみなさまにあらためてご理解いただきたいのは、韓国という国が中国を無視