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福岡大学 商学論叢 第48巻 第2号

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(1)

現代企業のグローバル化に

関する検討(㈵)

多国籍企業論的アプローチとその限界

――

――

目次 はじめに 1.「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」に関する用語 2.「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」に関する規定1 ひとり「多国籍企業」等とするアプローチ ―― ―― 3.「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」に関する規定2 発展段階的規定 ―― ―― 4.「ミニ多国籍企業」と「準ミニ多国籍企業」 むすび

対外直接投資は,19世紀から第二次大戦までの㈰「イギリスの時代」

,第

2次大戦後の1950年代から70年代前半にかけての㈪「アメリカの時代」

,そ

の後80年代までの㈫「先進諸国相互投資の時代」を経て,90年代に入って㈬

「先進諸国・発展途上諸国相互投資時代」に突入したとかつていわれたこと

がある 。

1)

ところで,東西冷戦構造が崩壊し,おおかた社会主義諸国は市場経済化に

向かい,直接投資を受け入れることによって,工業化を図りつつある。逆に,

亀井政義[1996年],1ページ。 1)

(2)

これら社会主義諸国が対外直接投資を行うようになっているという事実を踏

まえると,1990年代以降,対外直接投資は「先進諸国・発展途上諸国相互投

資時代」に入っているというよりも,

「世界相互直接投資の時代」に入って

いるといった方がより正確であろう。

以前は,

「外国にある法人(現地子会社・関係会社)を通じて国境・地域

を越え経営活動を行っている企業」

(以下,簡単に「現地法人を通じて経営

活動を行っている企業」という)といえば,多くの場合,

「多国籍企業」と

呼ばれ,市場に対して独占的なあるいは寡占的な巨大企業を指していたとい

ってよいが,

「世界相互直接投資の時代」において対外直接投資はこうした

巨大企業がひとり行うものではなくなってきている。

交通の高度な発達,また筆者がこれまで検討しているように ,情報技術

2)

(IT)やネットワーク技術の発達とも相俟って,国境という垣根が格段に低

くなった今日,中堅・中小規模の企業の中にも「現地法人を通じて経営活動

を行っている企業」が多くみられるようになっている 。大企業が国境・地

3)

域を越えて生産活動をますます活発化させることに対応して,小規模なサプ

ライヤー(部品供給企業)の中にも海外直接投資(海外生産)に乗り出す企

業もあり,あるいは乗り出さざるを得ない企業も多くなっている。

これまで相当の研究蓄積がある多国籍企業論的アプローチではあるが,こ

れで「企業のグローバル化」は捉え切れるのか,以下検討してみよう。

川上義明[2002年a]および川上義明[2002年b]。 2) こうした現象を,すなわち交通やインターネットなど情報通信技術(IT)が発達 3) し,世界が小さくなり,世界(経済)が一体化しつつあることを強調するあまり, 「ボーダーレス(化)」という用語が好んで使用されるが,それでは現実を見誤る ことになるであろう。そこで,小稿ではこのように「国境という垣根が格段に低く なっている」という表現を用いることにしたい。

(3)

図表1−1 「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」をさす用語

○Cosmocorp

○Extranational Enterprise

○Global Corporation, Global Company

○International Business(国際企業), International Corporate Group, International Firm, International Producing Enterprise

○Multinational Company, Multinational Corporation, Multinational Enterprise(多国籍企業), Multinational Family Group, Multinational Firm, Multinational Producing Enterprise, Multinationale Unternehmung

○La Grande Entreprise, La Grande Entreprise Multinationale, La Grand Unite Interterritoriale´ ○Supranational Firm(超国家企業)

○Transnational Company, Transnational Enterprise(超国籍企業), Transnational Firm ○World Corporation, World Enterprise, World Wide Enterprise

○跨国公司 (資料)各文献(巻末「引用・参考文献」参照)より筆者作成。

1.

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」に関する用語

現地法人を通じて経営活動を行っている企業

今日では,企業が国境・地域を越えてますます経営活動を活発化させつつ

ある。そうした中,こうした分野を対象とする研究もいっそう増加しつつあ

る。

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」が多くなっていく現象を

みて,これまで国際連合や各国研究機関,研究者,マスコミ関係者などが調

査研究や取材にあたっている。そうした調査・研究については当然のことな

がらそれぞれの立場・視点からのアプローチがなされ,様々な概念や用語が

生まれた。

それではどのような用語や定義がみられるのか整理してみよう。

いま,筆者が様々な文献(巻末「引用・参考文献」を参照)から,

「現地

法人を通じて経営活動を行っている企業」に関する用語を集めてみたのが,

図表1−1である。これからじつにいろいろな用語が使用されていることが

分かる。

(4)

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」をさす用語の中で最も一

般的だといってよい用語は国際企業(International Business)であろう。

次いで,よく見聞きするのが「多国籍企業」

(Multinational Corporation)と

いう用語である。この用語は,戦後(それも,

「はじめに」で指摘した対外

直接投資 の「アメリカの時代」に)

4)

,登場した用語であるが,一般的に(と

はいってもやや大きな辞書を引けば)よくみることができる 。

5)

米国近代企業の海外進出

多国籍企業という捉え方の特徴は,世界的な大企業を研究対象としている

というのが,第1の要件であるといってよい。

さて,

19世紀末以降,

米国企業は国際化を推し進めていく上で強みをもって

いた。当時の「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」は大企業だった。

米国企業の初期の多国籍化について,例えば寺本義也教授たちは,以下の

ような指摘を行っている。

第1の強みは,

「米国式の大量生産方式」を導入したことにある。その基

礎をなしたのが,ホイットニーによる互換性部品の開発とそれを組み合わせ

て仕上げるという「部品の互換方式」であった 。この互換性部品という考

6)

え方はコルト銃の生産に最初に取り入れられたが,急速に他の多くの産業に

「直接投資」(direct investment)とは,「単なる資産運営ではなく,経営権,つま 4) り企業経営上のコントロールを伴う資本移動のこと」であり,以下の3つの形態に 分けられる――笠原伸一郎[1995年],11ページ。 ㈰経営参加を目的とする外国企業の買収もしくはその株式の取得 ㈪外国における現地子会社の設立 ㈫事業活動目的による実物資産の取得(支店,営業所,工場の開設,買収,拡張) 例えば『広辞苑』(岩波書店)や『日本語大辞典』(講談社)など。 5) Sheldrake[1996],p.85および塩見治人[1978年],87ページ。なお,ハウンシェ 6) ル(David A. Hounshell)は,ホイットニーは互換性部品製造の創始者(creator) だったのではなく,宣伝係であったと評価している――Hounshell,[1984],p.31. 邦訳書,45ページ。マイヤー=ポスト(Otto Mayr and Robert C. Post)も同様の評 価をしている――Mayr and Post[1981]/邦訳書(小林達也訳),12ページ。

(5)

広がっていった 。

7)

第2の強みは,大量生産方式に対応して「大量販売方式」が開発されたこ

とである。大量に生産される製品を効率的に売りさばくためには,マスメデ

ィアを利用した大量の広告・宣伝,できるだけ短い流通網と大量販売のため

の新しい小売機構,さらに割賦販売方式といった新しい需要創造手段を必要

としたからである。第3の強みは,言語(英語)であった。米国人は世界中

のほとんどの場所で母国語(英語)でビジネスをすることができた。こうし

た,生産,販売に関する技術やシステム,言語が米国企業が事業を海外展開

していく上で大きな強みとなった 。

8)

かくて,米国企業(=大資本)は他に先駆けて多国籍化を進めていったの

である。

その実例の1つとしてまず挙げられるのが,機械技師シンガ−(Isaac M.

Singer)によって,1851年に設立されたシンガー社である。

シンガー社は,ミシンに関する20以上に上る特許を基盤として,互換式大

量生産という生産システムや製品の下取り制度,月賦販売制度の導入などを

通じて急速な成長を実現した。ちなみに,寺本義也教授たちは,このシンガ

ー社が,1867年には英国グラスゴーに工場を建設し,本格的な海外生産に着

手したのが,近代的な企業として本格的な多国籍化に取り組んだ企業である

と評価している 。

9) 南北戦争(1861∼1865年)当時,南北両軍から大量の銃の注文を受けたコルト社 7) は,できるだけ早くその注文に応えるために,初めて部品に互換性を持たせること を考え出した。それまでの銃の製造方法は,職人による1丁ずつの手作りという方 法であった。したがって,一時に大量の銃を生産することも,また迅速に修理に対 応することもできなかった。コルト社は,互換性のある標準部品を設計し,その仕 様どおりの部品を大量に生産することによって,銃の生産と修理のプロセスを大幅 に短期化することに成功した――寺本義也・神田 良ほか[1990年],9ページ。 寺本義也・神田 良ほか[1990年],9∼10ページ。 8) 寺本義也・神田 良ほか[1990年],7ページ。 9)

(6)

「多国籍企業」という用語

「多国籍企業」という用語は,1960年4月にカーネギー工科大学工業経営

大学院創立10周年記念シンポジウムにおいて,リリエンソール(David E.

Lilienthal)が造語として用いて以来,急速に普及していった

(補注)

(補注)リリエンソール,曰く。「ひとつの国に本拠をもつとともに,他の国の法律と慣 習のもとに仕事をし生活をしている」企業を多数国家間にまたがる企業,すなわち 「マルチナショナル企業」と定義したい ,と。10)

図表1−1にある用語のいくつかについて簡単にその規定と概要をみてお

けば,図表1−2のとおりである。先に指摘したとおり,各研究機関・研究

者によってそれぞれ用語も規定も異なっていることが分かる

(補注)

(補注)宮崎義一教授は,すでに1980年代初頭の段階で,多国籍企業の研究については, 次の4つのアプローチがあるとしている――宮崎義一[1982年],1∼3ページ。す なわち,㈰「経営学的アプローチ」ないし「ビジネス・スクール的アプローチ」,㈪ 「国際経済法的アプローチ」,㈫「ルポルタージュ的アプローチ」,㈬「国際経済学的 アプローチ」,㈭「帝国主義論的アプローチ」である。 これとは別に,長谷川 礼教授は,次の4つが多国籍企業理論を進展させる上で影 響があったとしている。すなわち,㈰経営者モデル,㈪産業組織論的アプローチ,㈫ プロダクト・サイクル論,㈬内部化論である――長谷川 礼[1993年],45ページ以下。 山崎 清教授は,㈰国際的資源移転論的アプローチ,㈪プロダクト・ライフサイク ル論的アプローチ,㈫産業組織論的アプローチ,㈬政治経済学的アプローチ,㈭内部 化理論的アプローチに加えて㈮「反多国籍企業論」からのアプローチがあるとしてい る――山崎 清[1982年],20ページ以下。 このように,多国籍企業を研究する様々なアプローチがみられるようになっている。

もう1点指摘しておきたいのは,これらの用語が「世界のあらゆる国に生

産拠点や子会社をもつ企業」(Donald P. Kircher)といったように ,必ず

11) Lilienthal[1960]/邦訳書(名東孝二訳),108ページ。なお,corporation を邦訳書 10) では,「会社」と訳しているが,ここでは「企業」とした。 Kircher[1964], p.6. 例えば,シンガー社やロイヤル・ダッチ・シェル,ユニリ 11) ーバー社,ネッスル社などのようにである――Kircher[1964], p.10。

(7)

しも現実には存在してはおらず,将来,出現するであろう「理念型企業」を

意味している場合もあるということである。

図表1−2 諸国際機関および研究者による「現地法人を通じて経営活動を 行っている企業」の名称・規定 機関/研究者 名 称 主な規定: 国(地域)数 備 考 S. E. Rolfe International Corporation − 外国での事業活動の割合が25%以上に 達する企業。 J. H. Dunning International Producing Enterprise 複数の国 生産施設(工場,鉱山,石油精製施設, 流通販路,事務所等)を複数の国にお いて所有または支配。

Business Week Multinational Company 1つ以上の 外国 1つ以上の外国に定着した製造拠点な いしは直接投資。全世界的な見通しを もつ。 M.Z. Brooke and H.L. Remmers Multinational Company 2カ国以上 主要な事業活動を少なくとも2カ国以 上。 米国商務省 Multinational Corporation − 米国内企業とその海外子会社のすべて によって構成される世界的広がりをも つ組織。 P. M. Sweezy and H. Magdoff Multinational Corporation 多数の国 個々の国を基盤としてではなく,集団 全体として利潤を極大化することを目 的として,多数の国で事業活動。 国際連合事務局 Multinational Corporation 2カ国以上 工場,鉱山,海外事業所等の資産を2 国〔地域〕以上の国々において支配す るすべての企業。 P. J. Buckley and M. Z. Brooke Multinational Enterprise 2カ国以上 2カ国以上の国で生産される財・サー ビスを有する企業。 カナダ政府 Multinational Enterprise 数 カ 国(少 な くとも4カ国 か 5 カ 国)に またがる。 数カ国(少なくとも4カ国か5カ国)に またがって存在し,世界的規模の事業 活動。 N. Hood and S. Young Multinational Enterprise 1カ国以上の 〔外〕国 1カ国以上の〔外〕国において所得を 生む資産を所有し,それをコントロー ルし,経営する企業。

(8)

(つづき) 機関/研究者 名 称 主な規定: 国(地域)数 備 考 J.M. Stopford and L.T.Wells, Jr. Multinational Enterprise 製造施設に対 する投下資本 の25%以上を 海外6カ国以 上に投下 諸外国に子会社をもち,少なくともあ る程度までは,共通の経営戦略に従っ てこれらの子会社の活動を調整し,統 制しようとしている大企業 R. Vernon Multinational Enterprise 6カ国もしく はそれ以上の 国 6カ国もしくはそれ以上の国に製造子 会社をコントロールしている親会社。 D. P. Kircher Transnational Enterprise 世界のあらゆ る国 理念型。各国の多数の株主が出資。各 国の多数の人により経営。世界のあら ゆる国で事業。世界を1つの経済単位 とみる経営。にもかかわらず統一した 意思決定。 滕 維藻・ 蒋 哲時 跨国公司 多くの国・ 地域 主要資本主義国の独占的企業がたいて い直接投資を通じて多くの国や地域に 系列会社や子会社。 吉原秀樹教授 多国籍企業 5カ国以上 製造業企業の場合,売上高上位500社以 内,5カ国以上に海外製造会社を所有。 上野 明教授 多国籍企業 2国以上 2国以上の外国で生産活動(メーカー の場合)または事業活動(第3次産業の 場合)を行っている企業。 (注)〔 〕内は筆者による。 (資料)宮崎義一[1982年],13∼19ページおよびその他の文献より筆者作成。

2.

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」に関する規定1

ひとり「多国籍企業」等とするアプローチ

――

――

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」の発展段階的規定

企業経営に関して動態的な(dynamic)見方をすれば(企業経営のダイナ

ミズムや成長・発展を前提にすれば)

,企業が国境・地域を越えて経営活動

を行う場合,当初は国内から,やがては多くの国で経営を展開していくこと

が容易に考えられる

(補注)

(9)

(補注)ハイマー(Stephen H. Hymer)も,企業は産業革命が始まって以来,代表的に は,「仕事場より工場へ,そして全国規模の企業(National Firm)へ,そして他部門・・・ ・・ ・・・・・・・ ・・・ 制企業へ,そして今日では多国籍企業へと規模を拡大する傾向がある」と企業の発展 ・・・ ・・・・・ 過程を認めている――Hymer[1972a]/邦訳書(宮崎義一訳),106ページ。

やや詳しく言えば,㈰企業が1国内の経済,人口,土地,制度(通貨制度,

外国為替制度,関税,その他の税制,諸法律〔独占禁止法,特許法,民法,

商法等々〕

,政府が定めた枠組み・規制)の中で,資金調達,生産,販売・

マーケティング等々の経営活動を行っている段階,㈪しだいに企業内に輸出

部門をもち,海外輸出活動を直接行う段階,㈫さらには海外事業部を設け,

海外との事業をいっそう展開させる段階,㈬現地法人を設ける段階,㈭多数

の国に現地法人を設け,世界各国の現地法人を包摂した企業グループを構築

し,様々な関係を結びながら経営を展開する段階である 。

12)

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」に関する静態的単一

規定

a.バーノン

すべての企業の中から,一定の要件を満たす「現地法人を通じて経営活動

を行っている企業」をさすものとして,ヒーナン=パールミュッター(David

A. Heenan and Howard V. Perlmutter)もいっているのだが ,論者によっ

13)

ては,国際企業,超国家(Supranetional)企業,グローバル企業,超国籍

(Transnational)企業,多国籍企業という用語が区別されることなく,ほぼ

同義に用いられる場合が少なくない。

なお,最近では,国境・地域を越えた「生産・流通ネットワーク」や「生産・流 12) 通システム」そして「サプライチェーン」の全部あるいは一部で捉えられることも ある。

Heenan and Perlmutter[1979]/邦訳書(江夏健一・奥村皓一監修/国際ビジネス 13)

(10)

バーノン(Raymond Vernon)も,

「現地法人を通じて経営活動を行ってい

る企業」を論者たち(the writer)がそれぞれの言葉の好みから「グローバル

企業」とも「超国家企業」とも「国際企業」あるいは「多国籍企業」とも呼

ぶと指摘している。自らは,

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」

のうち一定の要件を満たす企業(図表1−2を参照)を「多国籍企業」と呼

んでいる。バーノン自身はこれらの用語を発展段階的に捉えてはいない

14)

(図表2−1)

b.ストップフォード=ウェルズ

ストップフォード=ウェルズ(John M. Stopford and Louis T. Wells)は,

「私どもや,他のたくさんの論者が〔多国籍企業をどう規定するかという〕

この論題に含めているのは,諸外国に子会社をもち,少なくともある程度ま

では,共通の経営戦略に従ってこれらの子会社の活動を調整し,統制しよう

としている大企業である」 とし,ストップフォード=ウェルズも,バーノ

15)

ンと同じように「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」のうち一定

の要件を満たす企業をひとり多国籍企業のみであるとしている。

上で,多国籍企業などと呼ばれる企業は「一定の要件を満たす『現地法人

を通じて経営活動を行っている企業』をさす」といったが,その要件の第1

は巨大企業ということである。

c.吉原秀樹教授

こうした議論とは別に,吉原秀樹教授は日本の製造業企業の場合,㈰製造

Vernon[1977],p.3. 邦訳書,3ページ。 14)

Stopford and Wells[1972]/邦訳書(山崎 清訳),6ページ。(〔 〕内は筆者に 15) よる。) なお,彼らは研究方法としては帰納法をとっている。すなわち,「諸外国に製造 組織をもつ大企業のうち,私どもは,一九六三年と六四年の『フォーチュン』誌の 五〇〇社リストにあるアメリカ製造業の大企業で,製造施設に対する投下資本の二 五%以上を,一九六三年末現在で海外の六か国以上に投下している企業を」選び, その結果得られた187社を調査対象とし,ヒアリングやアンケート調査を行ってい る――Stopford and Wells[1972]/邦訳書(山崎 清訳),6ページ。

(11)

(資料)著者作成。 企業 1国・地域内で経営活動 を行っている企業 現地法人を通じて経営活動 を行っている企業 国際企業,超国家企業, 超国籍企業,グローバル 企業,多国籍企業

業企業(水産業,鉱業を含む)であり,かつ㈪大企業(東京証券取引所一部

上場企業のうち売上高上位500社以内)であり,しかも海外5カ国以上に

「製造子会社」 をもつ企業を多国籍企業と規定している 。そしてこの規定

16) 17)

から外れる企業を「非多国籍企業」と呼んでいる (図表2−2)

18)

図表2−1 バーノンの規定 ここで,吉原秀樹教授は「製造子会社」とは海外で製造活動を行っており,「日 16) 本の親会社の出資比率が25%以上」の会社としている――吉原秀樹「1994年」,19 ページおよび22ページ。持株比率の点からいえば,「子会社または関係会社(関連 会社)」と呼ぶ論者も多い。 なお,吉原秀樹教授は,非製造業企業の場合,次の3つの要件を満たす企業が多 17) 国籍企業(非製造業)であるとしている。㈰全産業のうち製造業を除いた(建設, 商業,金融,不動産,陸海空運,倉庫,通信,電力,ガス,サービス)企業。㈪大 企業(東京証券取引所一部上場企業)であること。㈫海外5カ国以上に海外子会社 をもつ企業――吉原秀樹[1997年],36ページ。 吉原秀樹[1997年],22ページ。 18)

(12)

(資料)著者作成。 企業 1国・地域内で経営活動 を行っている企業 現地法人を通じて経営活動 を行っている企業 非 多 国 籍 企 業 多 国 籍 企 業 非 多 国 籍 企 業

3.

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」に関する規定2

発展段階的規定

――

――

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」に関する動態的単一

規定

a.ハイマー

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」を動態的に,発展段階的

に捉えようとする研究がみられる。以下,みてみよう。

ハイマーも「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」をひとり多国

籍企業であるとする。すなわち,企業には一国内企業から多国籍企業へと規

模が拡大する傾向があるとしている。そして,企業が多国籍化していく成長

段階には,㈰マーケティング段階(企業が外国へ輸出を開始したとき)

,㈪

図表2−2 吉原教授の規定

(13)

(資料)著者作成。 (注)①:マーケティング段階の多国籍企業    ②:生産段階の多国籍企業    ③:資本化段階の多国籍企業 企業 1国・地域内で経営活動 を行っている企業 現地法人を通じて経営活動 を行っている企業 多 国 籍 企 業

生産段階(企業が生産拠点を国外に開設し,そこで外国の労働力を利用する

とき)

,㈫資本化段階(企業が国外で借り入れあるいは資金調達を行うとき)

の3つの段階があるとしている(図表3−1)

ハイマーは当時(1970年頃),米国企業の成長過程は,一般的には第2段

階から第3段階へ移行しているとみていた 。

19)

b.パールミュッター

パールミュッター(Howard V. Perlmutter)は,ハイマーと同様に,

「現地

図表3−1 ハイマーの規定 Hymer[1972b]/邦訳論文(宮崎義一・原田眞知子訳),49ページ。 19)

(14)

(資料)著者作成。 (注)E:本国志向型(Ethnocentric)多国籍企業    P:現地志向型(Polycentric)多国籍企業    R:地域志向型(Regiocentric)多国籍企業    G:世界志向型(Geocentric)多国籍企業 企業 1国・地域内で経営活動 を行っている企業 現地法人を通じて経営活動 を行っている企業 多 国 籍 企 業 E P R G

法人を通じて経営活動を行っている企業」をひとり多国籍企業とし,それを

4つのタイプに分ける。

㈰本国志向型(Ethnocentric)多国籍企業(E)

,㈪現地志向型(Polycentric)

多国籍企業(P)

,㈫地域志向型(Regiocentric)多国籍企業(R)

,㈬世界志

向型(Geocentric)多国籍企業(G)である(図表3−2)

多国籍企業のこの4つのタイプ(パールミュッター自身がいう「EPRG

プロファイル」 の現われ方は様々であり,必ずしもE→P→R→Gといっ

20)

た言わば進化論的な発展をするのではない。またEPRGのどれかに決定す

図表3−2 パールミュッターの規定

(15)

るのは難しく,混合型もみられるとする。ともあれ,パールミュッターは,

類型化とはいえやや発展段階論的視点にある 。

21)

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」に関する複数規定

a.上野

明教授

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」に関して複数の規定を設

ける研究者や研究機関がある。

国内では,上野

明教授は,

「現地法人を通じて経営活動を行っている企

業」を多国籍企業と世界企業の2つに区分する。多国籍企業が成長し,しかる

後に「世界企業」になっていくという見通しを立てる。

「企業がワールド・

エンタープライズ(世界企業)と呼ばれるほどに成長するためには,〔企業

は〕多国籍化路線という道をたどることが必然のコースなのである」 と

22)

(図表3−3)

b.キンドルバーガー

キンドルバーガー(Charles P. Kindleberger)も事業活動の広がりや収益

に対する企業の関わりなどの点から,

「現地法人を通じて経営活動を行って

いる企業」を3つの発展段階に区分している (図表3−4)

23)

すなわち,㈰外国でも事業活動を行う一国内企業(National Corporation

with Foreign Operation:ある特定の国の市民。国際事業部が外国の事業活動

をコントロール)

,㈪多国籍企業(現地の国々で善良な市民になろうとする。

パールミュッターは,これより前には,実務家は,自分たちの企業のプロファイル 20) を本国志向(E),現地志向(P),あるいは世界志向(G)の3つのタイプにしたが って表すことができるとし,これを「EPG プロファイル」としていた――Perlmutter [1969],p.496. 邦訳書,599ページ。

Heenan and Perlmutter[1979]/邦訳書(江夏健一・奥村皓一監修/国際ビジネス 21) 研究センター訳),18∼22ページ。 上野 明[1990年],2ページ。(〔 〕内は引用者による。) 22) Kindleberger[1969],pp.180-182. 邦訳書,244∼247ページ。 23)

(16)

(資料)著者作成。 企業 1国・地域内で経営活動 を行っている企業 現地法人を通じて経営活動 を行っている企業 多国 企業 世界 企業

現地資本の参加を認める。現地人を経営陣や支配人に登用),㈫国際企業

(広い視野に立って危険を調整し,全世界において投下資本に対する収益率

の均等化を図る)である。

c.ロビンソン

ロビンソン(Richard D. Robinson)は,企業の内部機構,現地法人の経営

陣の国籍,出資者の国籍といった企業意志決定過程の広がりの観点から,

「現地法人を通じて経営活動を行っている企業」を4つの発展段階に規定し

ている。キンドルバーガーは「国際企業」を「現地法人を通じて経営活動を

行っている企業」の発展段階において最高次の企業と規定しているが,これ

とは逆にロビンソンは,「国際企業」を低次に位置づけている (図表3−

24)

5)

図表3−3 上野教授の規定

(17)

(資料)著者作成。 企業 1国・地域内で経営活動 を行っている企業 現地法人を通じて経営活動 を行っている企業 多国籍 企 業 外国でも事業 活動を行う一 国内企業 国 際 企 業

すなわち,㈰国際企業(国際的関心と国際的専門知識は国際事業部だけに

集中。経営方針は外国市場参入戦略によっては影響されない。国内志向的)

㈪多国籍企業(海外子会社は現地人経営者によって経営されるようになる。

現地の資本参加が認められるようになると親会社本部によるコントロールが

効かないようになる)

,㈫超国籍企業(多国籍の株主によって所有。多国籍

の経営者によって経営。企業は単一の特定国への忠誠心を失う)

,㈬超国家

企業(自らの企業目標に従って地球規模で資源の最適配分を図る。構造的に

も心理的にも法律的にも自由に企業の経営方針を決定)である。

図表3−4 キンドルバーガーの規定

この部分は,R. D. Robinson, Beyond the Multinational Corporation in Multinational 24)

Corporations in World Development, United Nations, 1973(unpublished manuscript. 宮 崎義一[1982年]より孫引き)によっている。

(18)

(資料)著者作成。 企業 1国・地域内で経営活動 を行っている企業 現地法人を通じて経営活動 を行っている企業 国 際 企 業 多国籍 企 業 超国籍 企 業 超国家 企 業

4.

「ミニ多国籍企業」と「準ミニ多国籍企業」

以上,検討したように多国籍企業論的研究アプローチは,世界的な大企業

を捉え,その特徴づけを行っているといってよいが,ところで,多国籍企業

論の立場から中堅・中小企業企業を「ミニ多国籍企業」としてその特徴を指

摘しようという研究がある。

「ミニ多国籍企業」という用語はすでに1990年にみられるのだが ,吉原

25)

教授は,次の3つの要件を満たす企業を「ミニ多国籍企業」と規定する。す

なわち,㈰非上場企業,㈪資本金10億円未満であること,海外5カ国以上に

図表3−5 ロビンソンの規定 ちなみに,商工総合研究所[1990年],7ページ,を参照。 25)

(19)

海外子会社(製造業企業の場合は海外製造子会社,非製造業企業の場合は海

外子会社)をもつこと,である 。

26)

さらに,この「ミニ多国籍企業」とは別に,㈰非上場企業,㈪資本金10億

円未満であること,海外3カ国以上に海外子会社(製造業企業の場合は海外

製造子会社,非製造業企業の場合は海外子会社)をもつ企業を「準ミニ多国

籍企業」と規程している(図表4−1)

これらの企業の中から将来海外5カ国以上に子会社をもつ「ミニ多国籍企

業」に成長・発展する企業があるだろうと予測している 。

27) 図表4−1 吉原教授の規定 (資料)著者作成。 企業 1国・地域内で経営活動 を行っている企業 現地法人を通じて経営活動 を行っている企業 準ミニ 多国 企業 ミニ 多国 企業 多国 企業 吉原秀樹[1997年],40ページ。 26) 吉原秀樹[1997年],41ページ。 27)

(20)

小稿で検討したことから分かるように,

「現地法人(現地子会社・関係会

社)を通じて経営活動を行っている企業」を分析する主要なアプローチとし

てこれまで多国籍企業論からのアプローチがみられた。

ところが,このアプローチは「現地法人を通じて経営活動を行っているす

べての企業」を対象とするのではなく,一定に作業規定を設け,市場に対し

て独占的ないしは寡占的な企業を分析しようとするアプローチである。その

上,これの延長線上においてある作業規定を設け,中堅企業や中小企業をも

分析し(例えば「ミニ多国籍企業」として)

,その特徴を抽出しようとする。

が,筆者がみるところこの研究方法は一般化していない。

ところで,小稿で検討したように,多国籍企業それ自身が発展し,世界企

業化するという捉え方やさらには超国家企業化するという見方をする研究が

みられる。最終的には(今日の段階以降を考えれば)

,筆者の用語では「完

全なグローバル企業〔フルグローバル企業〕

」になるということであろう。

実際,今日の様々な領域におけるグローバル化そのものの展開とまた様々

な研究分野におけるグローバル化的な捉え方とも相俟って,今度は多国籍企

業のグローバル化やグローバル経営戦略が論じられるようになっている

(補注)

(補注)多国籍企業論の視点からグローバルな経営活動が説かれることがある。ちなみに, 吉原秀樹教授は次のように述べている。「グローバル経営とは多国籍企業にふさわし い経営である」。また,「グローバル経営とは多国籍企業の優位性を生かした経営とい いかえることができる」 と。28)

これらの論者たちは,多国籍企業論的アプローチを放棄するのではない。

多国籍企業のグローバル化を説こうとする 。

29)

研究の当初から「企業一般のグローバル化」や「グローバル企業」を説く

(21)

論者たちとは対照的である。こうした点の検討が次なる課題である。

吉原秀樹[1997年],269ページ。 28) ここでは,「グローバル経営」=「多国籍企業にふさわしい経営」=「多国籍企 29) 業の固有の優位性を生かした経営」である。そして,「多国籍企業の〔固有の〕優 位性」とは,㈰グローバルな発想(一国〔本国親会社の所在国〕に限定されること なくグローバルにものごとを考えることができる),㈪グローバルな経営資源の利 用(多くの国々の経営資源を利用できる),㈫グローバルなビジネスチャンス(多 くの国々のビジネスチャンスに接することができる)に集約されると。つまり,多 国籍企業のこれらの3点を生かした経営」=「グローバル経営」であるいう――吉 原秀樹[1997年],267∼268ページ。(〔 〕内は筆者による。) ところで,様々な領域でグローバル化が進んでいる今日,海外で経営活動を行っ ている企業は多国籍企業に限定されない。すなわち,多国籍企業論的アプローチは あらゆる企業のグローバル化を対象としないということになる。しかして,そこに 1つの限界を見出すことができる。

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