• 検索結果がありません。

元素戦略アウトルック 材料と全面代替戦略

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "元素戦略アウトルック 材料と全面代替戦略"

Copied!
117
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)

1

 全面代替に向けた材料戦略の視点

1.元素戦略と材料技術の可能性

原田 幸明 

材料ラボ、物質・材料研究機構

1.元素戦略のアプローチ

 環境経済学者のハーマン・デイリーは持続可能な発展のた めの 3 原則として、 1.「再生可能な資源」の利用は再生速度を超えないこと 2.「再生不可能な資源」の利用は再生可能な資源で代用で きる程度を超えないこと 3.「汚染物質」の排出は環境が循環、吸収、無害化できる 速度を超えないこと をあげた。このうち、1. と 3. は目標設定として比較的容易 に受け入れることができる。しかし、2. の再生不可能な資 源に関する原則は、多種多様の金属元素など再生不可能な鉱 物資源を源泉としている材料技術の利用者や開発者にとって 容易には受け入れにくい原則であろう。すなわち、「それぞ れの元素にはその元素特有の有用性があり、その有用性ゆえ に多量のエネルギーを投入してでも希少な枯渇性の資源を発 掘し活用しているのであり、再生可能な資源との代替の可能 性があるのならばこれほどの苦労などありえなかった」と。  とはいえ、ナノテクノロジーの前進で、無機物質と有機物 質の垣根が取り払われつつある。それは有機エレクトロニク スなどに見られるように、カーボンや水素を主体とする有機 物質が電子やキャリアの伝導などに係わる金属や半導体の特 有の性質の領域にも進出してきており、再生不可能な資源か ら得られる金属元素の特性を再生可能な資源で代用すること は、あながち不可能とはいえなくなってきている。しかし、 その能力や、性能、効率などはまだまだ代替というには不十 分で、まさに研究開発のフェイズとしての可能性の探索の段 階であるものが多い。  しかし、このような研究開発の困難さに対して、現実社 会は再生不可能な資源である各種金属元素資源の需要の増大 が、持続可能性の許容範囲を超えてしまうという問題を突き つけてきた。これが元素戦略を必要としているグローバルな 意味での背景である。さらにそのような中での、特定の国へ の資源および国際的マテリアルフローの集中がより強まり、 国の経済の側面での持続可能性が、より先鋭的な形で提起さ れている。そのような社会の資源需給の状況対して、国やグ ローバルなレベルで総合戦略としての資源戦略が、探索や備 蓄、リサイクルなどの視点でもたれるべきであるが、その資 源戦略の中の中長期的で抜本的な解決の要素として、資源の 利用方法すなわち、元素の活用方法の見直しが位置づけられ る。ここに、先述したハーマン・デイリーの第二原則が、長 期的抽象的な夢としての課題ではなく、現実に現時点での 我々が答えを出さなければならない課題として社会的に要請 されているのである。  もちろん、すべてを今すぐ再生可能資源由来の物質に依存 させることは、技術開発の余地を狭め大きな迂回をもたらす 危険性もある。しかし、再生可能資源とはバイオマスのよ うに栽培可能な資源だけをさすのではない。土壌や海洋もま た大きな自然の循環の中に組み込まれた再生可能な資源であ り、そこに存在する元素を汲みつくすことは大気中の酸素を 汲みつくすようなものである。まず、代替の第一対象は、こ のような普遍性の高い元素の利用であるといえる。すなわち、 「あるものを使う」ということが、代替の目標設定となって くる。たとえば Ca,Al の複合酸化物で種々の電気的機能特性 を発現させるアプローチや Fe-Si 系の金属間化合物での特性 発現などはその例であり、構造材料系では Ti などが資源の 観点からはもっと注目されてよいはずである。  このような普遍的に存在する元素ですべての元素のもつ特 性が発揮できるかというと、それは容易に達成できる課題で はない。持続可能性に対する社会の要請が逼迫してきている 現在、その方向性を指向しつつ、「相対的に普遍性の高い元 素に代替していく」という方向をまず第一歩として追求する 必要がある。それも困難でありかつ緊要性の高い元素につい ては、「効果的に使う」すなわち、機能発現のための使用物 質量を徹底的に少量に絞り込むことが必要となる。この「あ るものを使う」、「効果的に使う」という日常的に もったい ない といわれる考え方を貫いた物質利用技術を構築できる か否かが、元素戦略の基本であるといえる。

2. 元素戦略と材料科学のイノベ

ーション

 元素戦略は、希少資源などの持続可能性に対する制約を克 服するための備蓄や探索、リサイクルなどの諸取り組みのな かでも中長期的な視点に立った先行的取り組みである。一般 に物質・材料技術が研究レベルで構築されてからそれが社会 に使われるまで十年以上の年月を必要とするケースが多い。 そのことは、逆に見れば、現時点での研究開発が大きな技術

(7)

転換をもたらす innovative なものでなければならないこと になる。類似の性質を持つ元素への代用技術や数パーセント 台の使用効率改善は、当面の課題解決には有用だが、元素『戦 略』と呼ぶには不十分なものである。  このような innovative な戦略的研究を進めていくには、 これまでの材料技術、物性科学の成果を積極的に利用し拡張 していく必要がある。金属学会、鉄鋼協会、資源素材学会、 セラミクス協会などわが国の素材系学会は、元素戦略研究を 進めるにあたり、全面代替および極小領域機能化に対して、 それぞれ表 1、表 2 のように、その基礎となる材料学アプロー チを整理している。  ここで注目しているのは、機能そのものではなく、その機 能を現出しているメカニズムに係わる構造である。全面代替 のアプローチとは、ある元素を単に類似の他の元素に置き換 えて従来のものと同等の性能を維持するのではなく、その機 能発現のメカニズムに注目してそのメカニズムの本質的な要 素から別元素への代替を図ろうということである。その場合 その機能発現のための元素のもつ役割から、原子半径や電子 軌道、さらにはフォトンやイオンなどの輸送体の形成能とし ての同等性や、機能発現に特有の欠陥構造や界面構造などを 形成させる代替などがあり、さらには強度や電気的性質など の領域では妨害因子を除去することでその妨害要素を無効化 するために添加していた元素成分の代替を図るという場合も ある。さらにミクロンオーダーの構造で現出させていた機能 をナノオーダーの挙動で現出させることで結果的に用いられ ていた元素の代替を図るということも考えられる。  また、極小領域化へのアプローチとしては、発現機構のミ ニマムの要素を把握することがまず求められる。そのミニマ ム要素が表面や界面などに局在する現象であるならば、目的 とする元素の使用をその局在部分に限定させる物質プロセス 技術が鍵となる。また、ナノコンポジット化などのナノ複合 技術はその局在領域をバルクの中に現出できるだけでなく、 それぞれの機能発現領域もしくは機能抑制領域を微細に配置 しそれらの有する電磁気的作用などの協奏的効果をもたらす 可能性もある。また、不均一領域の妨害要素の効果を制御し 代替の場合と同様にそれらの効果を無効化して特性を伸ばす ケースもある。  上記に述べたような要素が、元素戦略の基礎となるイノ ベーション要素となる。これらは、基本的には、分子レベルや、 結晶レベル、界面レベル、複合物レベル、さらには構造体レ 表 1 全面代替へのアプローチ機能発現メカニズムの他元素代替 Case1 原子径、イオン径の同等性 Case2 電子軌道の同等性(化学代替) Case3 輸送体の同等性 Case4 欠陥構造の 同等性 Case5 界面構造の同等性 Case6 隠れた機能の現出(妨害因子の排除) Case7 マクロ機能の転換 表 2 極小領域機能化へのアプローチ Case1 発現のミニマム要素の解明 Case2 局在現象の利用        表面局在、界面局在 Case3 ナノ複合による新規機能 Case4 劣化・阻害因子からの開放 図1 元素戦略研究の基本要素

(8)

ベルなどの物理的、化学的、力学的機能の出現・制御要素の 階層に合う形で、インターフェイス制御や構造制御、もしく は成分制御のかたちでのプロセスコントロールにより目的の 機能や現象を引き出すことになる。しかし、これらはまだ物 質の段階であり、材料開発としてはそれらの物質を材料にす るマテリアライズとでも呼ぶべき要素が必要である。それは、 目的とされる機能だけでなく、強度や熱特性、さらには加工 性などのプロセス能、そしてそれらを含んだ特性的安定性が 組み込まれることである。このマテリアライズの要素を獲得 し得ない物質は、「使う」段階に進むことができず、「使われ てこそ『材料』」としては不十分なものと言わざるを得ない。  ここまでが、材料科学がもっぱら責任を持つ領域である が、元素戦略が実際に、代替、減量、循環、規制などとして 効果を出すには、社会における実使用のための社会技術と結 びつかねばならないことは言うまでもない。最終的にはこの ような製品化や政策選択のための社会技術との結合を前提に して、その基礎を長期的な視点から構築していくものとして、 イノベーションおよびマテリアライズの元素戦略がある。

3.元素戦略とナノテクノロジー

 ここまで見てきたように元素戦略は、当面の希少資源対策 のための技術開発ではなく、長期的な視点での新しい資源利 用の可能性を切り開くための材料科学・材料技術の見直しで ある。そのためには、従来の材料科学の知識と経験を単に寄 せ集めるだけではなく、ひとつの集大成として、それぞれの 元素がその機能発現のために果たしていた役割の本質を見抜 き、そのメカニズムを特定の元素に依存せずに発揮させる方 向を探索していく、新しい物質探索、材料開発に他ならない。  そのように考えると、この間のナノテクノロジーの進歩が 材料技術に対して切り開いてきた様々な要素を積極的に活用 してこそ、従来の枠組みにとらわれない新たな物質探索の可 能性が出てくることは言うまでもない。  図2は、縦軸に対象物のサイズとしての階層軸を、横軸に 従来から未来へとの時間の流れとしての時間軸をとって、い くつかの代表的な技術や研究対象を概念的に配置してみたも のである。従来の物質利用において元素は自然から与えられ た人為的制御が困難なものであり、それに規定された組み合 わせの上に化学的な性質があり、さらに、よりマクロ的な結 晶、界面の制御や、構造体・機能体の構成などで物質の特性 を引き出し材料化していった。ナノテクノロジーは主として 二つの側面でそのアプローチを深化させている。ひとつは、 極薄膜や表面とその近傍領域、バルク中における原子レベル の極微細域などの解析技術の大幅な進展であり、もう一方は、 同じくその領域で人為的な原子の配置や制御を行う技術の進 展である。元素戦略研究においては、このようなナノテクノ ロジーの進展を積極的に活用していくことが鍵であり、逆に 言うと、元素戦略研究への具体化を通じてナノテクノロジー の真価が問われるということも出来る。  ナノテクノロジーの前進を糧に元素戦略研究として、代替、 減量などを図るアプローチとしては、ナノコンポジット化の 方向からのアプローチと、ラティス・エンジニアリング的ア プローチの方向がある。ナノコンポジット化は、よく知られ るように、異なる機能を持つナノサイズの物質を微細に複合 させた複合材料であり、ナノ物質自体の構造制御と分散、配 列、被覆、隔壁、ピニングなどのナノ領域での位置制御など を行うことである。これにより元素戦略的には、個別のナノ 構造体の持つ特性を引き出しつつ、さらに、その特性の増長、 図2 機能代替の手法、要素、可能性 − 階層軸 と 時間軸 から −

(9)

他の特性との協奏関係の発現、劣化・妨害機構の抑制などを 通じて、元素の持つ既知の機能の飛躍的効率化、すなわち使 用物質量の極小化や、活用できなかった要素を引き出すこと による代替物質の開発などとして進めることができる。  ラティスエンジニアリングとは、ナノ解析技術と計算科学 の発展をベースに物質構造自体を見直そうとする取組み全般 を指したもので、結晶の格子サイズでの配置や対象性、規則 性およびそれらの不均一構造等に着目することから、ここで 一括してラティスエンジニアリングと称する。このラティス・ エンジニアリングは、ナノコンポジット化と同様に、元素戦 略研究のために生まれてきた新手法ではなく、ここ近年進ん できた手法を元素戦略研究として発展させるものである。  例えば、非チタニア系光触媒の開発においては、光触媒の 適切なバンドギャップ構造を有する結晶格子状態の選択で物 質探索が進められ、巨大電歪効果の開発においても結晶格子 中の欠陥のナノ秩序対象性を制御することでそれを実現して いる。このような例だけでなく酸化物、化合物系半導体の開 発におけるドーピング元素の置換はバルク中の不純物要素と してのレベルから結晶構造の制御を通じてバンド構造を制御 する方向で進められている。さらには、最近注目されている アルミナカルシア複合酸化物系のかご型構造による電子授受 機能などもこのようなラティスエンジニアリングの典型例で ある。これまでこれらの技術はそれぞれの要素で開発されて きているが、ナノ解析技術とともに近年進歩の著しい計算材 料科学を駆使し総合化を図ることで、多様な領域での多面的 な要請に応えうる代替元素選択の拡大のための基礎を形成し ていくことが期待される。

4.元素へのこだわりと元素の制

約からの解放

 ここまで、主として元素戦略を元素の制約からの解放の観 点で見てきた。これは錬金術(alchemy)が化学となり元素 (element)の概念をその機能発現要素の中核にすえてきたの に対して、ナノコンポジット化なりラティスエンジニアリン グなり、ナノ構造が機能発現の主要素であるとして物質設計 を進めようとするものである。これは、見方によっては元素 の再否定(止揚:Aufheben)ととらえることも出来るかも しれない。その意味で、特定の機能に特定の元素を前提とし ない物質創生の追及としてナノ・アルケミーという捉え方も 意味を持ってくるものと考えられる。  他方で、元素の制約からの解放を図ったとしても、厳密に は元素選択の制約からの解放でしかないことも確かである。 物質化し、材料化し、実用化していくには必ず何かのモノが そこで使われねばならない。そのモノを我々は基本的に理解 しているのか、ということも、同時に考えておかねばならな いことである。白金が貴重であるならばその白金の本性をど こまで理解しているのか、その最も代替しがたい部分を果た して生かしているのか。アルミナやマグネシウム、チタンが 普遍的に存在するというのであれば、それらの持っている可 能性をどれだけ活用しているのか。これらは、他の元素に対 しても言えることであり、それらの可能性が引き出されるこ とで、さらに高次の元素選択の制約からの解放としてのナノ・ アルケミーの道が開けてくることが期待される。 図3 ラティス・エンジニアリングに基づく多面性能物質創製の概念

(10)

1.はじめに

 金属元素はその多様な特性によって生産と生活のあらゆる 側面で使用されているが、近年の世界的な経済規模の拡大の 中で、需要の急速な増大、価格の高騰、枯渇の危惧や資源偏 在、さらには採掘に伴う環境負荷の増大などの供給不安定要 因が急速に高まっており、情報産業や運輸、エネルギーなど の領域で求められる高効率・高機能化のための金属元素の持 続可能な活用が問われる時代に入ってきている。  この状況に対して、国レベルでは、戦略的な金属元素資源 の備蓄、新たな資源の探索、リサイクルの推進などの政策が 進められており、また、国際的にも、UNEP(国連環境計画) が IPNR(天然資源の利用に関する国際パネル)を立ち上げ、 計画的かつ公平で持続可能な資源の利用を目指すなどの動き があるが、そのような経済的、政策的展開の基礎として技術 的イノベーションが必須であることは間違いない。  そのような背景のもと 2007 年度から文部科学省および経 済産業省と内閣府が連携して希少資源・元素戦略研究を打ち 出している。それは、中長期的視点から、金属元素による高 機能素材の創生・利用に対して、省資源、代替の革新的技術 開発を進め、資源問題に対する抜本的な解決への道を追求し ようというものである。  この、希少資源・元素戦略研究のアプローチは、4 つの (Re-)で語られることが多い。それは、代替(replace)、減 量(reduce)、循環(recycle)、規制(restriction)である。  代替(replace)は、従来用いられていた元素を他の元素 で置き換えることである。この場合、従来の元素を類似の元 素でかつ資源リスクの程度の低いものに置き換える部分代替 と、元素の果たしていた機能の発現を全く異なる原理で実現 し元素の役割自体を替えてしまう全面代替の二つの解決法が ある。  減量(reduce)は、単純には省資源であるが、機能発現 要素を徹底して原子一層やクラスターレベルなどのナノオー ダーまで絞込み、製品重量的には無視できるような元素利用 のミニマム化が最終的には望まれる。循環(recycle)も使 用済み製品からのリサイクルシステムの開発だけでなく、減 量化された極微量の有価物の濃縮・分離や、副産物を含めた 資源のマテリアルフロー全体の有効活用としての物質の循環 利用形態の追求などの課題がある。  規制(restriction)では、有害懸念物質の代替や、極微量 の不純物管理・検出技術、有害懸念物質フリーの素材技術な どが対象となる。  この、代替、減量、循環、規制の 4 者の中で、特に元素 利用のあり方として大きな技術的転換を期待されているの が、全面代替である。規制を意識した部分代替や減量、循環 については、これまでも化学物質リスク管理や効率化、3R などの取り組みの一環としてもとりあげられてきたが、この 全面代替はまさにこれまでの金属元素利用のあり方を抜本的 に問う材料科学としての課題であるといえる。  全面代替の発想を可能とした背景には、ナノテクノロジー の前進がある。これまでの物質の機能設計は元素の持つ電子 軌道などの固有の特性を生かし、成分構成比やドーパント、 アディティブの制御などで特性を最大限に引き出す努力が行 なわれてきた。ナノテクノロジーは、そのようにして制御さ れた機能の発現要素を原子のオーダーで解析可能とし、原子 配列やその乱れ等の状態の関係として捉えることを可能とし てきている。これにより、機能発現のために各元素が果たし ている役割がより明確になると同時に、電子状態やフォノン への効果など目的とする機能を特定の元素に依存せず、より 普遍的に存在する元素の配列や構造制御で実現する可能性を もたらしている。  本アウトルックの後半部分には NIMS の研究例をもとに、 そのようなナノレベルでの構造制御による機能発現の一端を 示した。このように、全面代替は、まさにナノテクノロジー の実践の場であるといえよう。  その前に、どのような元素の資源リスクが大きく、全面代 替の対象として検討されねばならないかを把握しておくこと が重要である。まず、各元素を資源リスクの観点からマッピ ングした情報を整理するとともに、それらの元素がどのよう な機能と結びついた現在の研究対象となっているかを概観し ておく。

2.元素戦略研究の必要性 −データで見る元素リスクの現状−

原田 幸明 

材料ラボ、物質・材料研究機構

(11)

2.1 宇宙存在度

 元素の宇宙存在度は星の分光分析や隕石の分析などから得 られている。この存在比は一般に Si を 106として表される。 概して軽元素のほうが存在率が高いが、単純に原子量順にな るのではなく、原子番号が偶数のものは隣り合う元素より存 在率が高い(Oddo-Harkins の法則)傾向がありこれは原子 核の安定性によるものである。最も安定な原子核は Fe の原 子核であり、そのために Fe がその近辺の原子量で飛びぬけ て存在度が高い存在になっている。鉄より原子量の小さい元 素は恒星内部の核融合反応で生じ、鉄より重い元素は超新星 の爆発の時に大量に発生する中性子の吸収で生じる。地球全 体の元素組成も基本的にこれを反映しており、地球のコアの 主成分も鉄とニッケルになっている。その意味でも人類の利 用している最大の金属元素が鉄であることも納得できる。な お、Tc、Pm は超ウラン元素ではないが自然界には存在しな い人工元素である。また、Fr、At、Rn、Po も半減期が、そ れぞれ 22 秒、8 時間、3.8 日、139 日と極めて短く存在率 が低い。

(12)

2.2 地殻存在度

 地殻とは地表もしくは海底から、地震の P 波の速度が不連 続に変わるモホロビッチ不連続面までの海底は 5km から山 脈下は 70km までの地球表面の構成部分を指す。その下層 はマントルである。よく知られるクラーク数はアメリカの地 球化学者フランク・クラーク(Frank Wigglesworth Clarke、 1847-1931)が地表から海水面下 10 マイルまでの元素の割 合を、 岩石圏、水圏、気圏の三つの領域の値の合計で求めた ものである。これらの数値はどのような岩石を代表に取り算 出するかなどで微妙に値が異なり、客観性の高い数値とは言 いがたいが元素の普遍性を知るには良い目安となる。  地球全体の元素組成は地震波などの研究から推定されてお り、鉄が 34.63% と 第 1 位となり、これに酸素(29.50%)、 ケイ素(15.20%)、マグネシウム(12.70%)と続く。

(13)

2.3 年間生産量

 人間が各元素をどのくらい利用しているかは、宇宙や地殻 の存在度と異なったパターンになる。それは、その元素がど れだけ役に立つかという有用性の問題もあるが、どちらかと いうと、これまで人類が入手しやすい状態であったかに依存 している。例えば Au は、地殻存在度はきわめて低いが、元 素の中では相対的に多量に用いられている。これは自然金の 状態で入手しやすくまた、酸化しないため保存しやすいとい う理由による。Cu や Pb、Zn も地殻存在度は低いものの硫 化物として得られるため製錬しやすく、かつ比較的見つけや すい状態であったため、多くの用途が開発され、消費量も大 きくなっている。Al はかっては製錬技術も無かったがその技 術が開発された現代は有用性により生産量が急増している。  他方で、Sr などは、地殻存在度は高いものの製錬が難し く用途開発も進んでいない。レアアース類も相対的には地殻 存在度は高くかつ有用性も大きいが、難還元性であり、その うえレアアース相互間の分離に負担が大きいため生産はまだ 限定的である。Ti、Mg などは現時点でも製錬・精製に多く のエネルギーが必要だが、有用性と存在度から今後伸びるべ き元素であると期待できる。

(14)

2.4 価格

 価格は一般に需要と供給のバランスで決まるとされている が、金属の場合は、製造メーカーが限定されている寡占の場 合や、貴金属のように投機対象にされる場合もあり、価格の 決定要因を一般化して論じることは難しい。  年間消費量との関係を両対数でプロットし、傾きをマイナ ス 1 とすると切片はほぼ 100,000 すなわち、  価格(円 /kg)≒ 100,000/ (年間消費量 t/ 年) となるが、そのときの分散は 1.562 と大きく、値として一 桁以上もずれてしまう。また、Si を 1000,000 とした地殻存 在度に対してプロットしても、  価格(円 /kg)≒ 100/ (地殻存在度) で、分散は 2.684 とさ、らに二桁以上と大きくなる。  資源の貴重さが価格に反映しているとして、後に述べる資 源枯渇係数に対してみてみると、  価格(円 /kg)≒ 0.002 ×(資源枯渇係数) が得られるが、分散はやはり 2.481 である。  比較的良い相関が得られたのは、これも後に述べる関与物 質総量であり、  価格(円 /kg)≒ 0.02 ×(関与物質総量) で、分散は 0.671 と一桁以内のばらつきに抑えられた関係 になっている。これは関与物質総量が取り扱う全ての物質で あることからその処理コストが価格を大きく左右しているこ とを意味している。

(15)

2.5 市場規模

 実際の社会的インパクトは、価格よりも、それに消費量を かけた市場規模で見ておいたほうが良い。すなわち、  (市場規模) = (価格)×(年間消費量) であらわしたものである。価格は安いが大量に使用される場 合、市場規模が大きくなる。鉄のケースはこれに当てはまる。 一方、消費量は少ないが価格は高い場合も大きな市場規模と なる。例となるのは金であり、その市場規模は、鉄、アルミ、 クロム、銅に続く 4 位である。  この市場規模で見ると、漢字の金属名が使用されているよ うな、一般の消費者にも比較的知名度の高い金属が上位に並 んでいる。レアアース類がレア(稀れ)として受け取られる のは、それらの消費者に良く知られた金属類よりも市場規模 でまだ 1 ∼ 2 桁伸びていないことによる。  また、ガリウム、インジウムなどは半導体や IT 技術に不 可欠の素材となってきているが、直接の市場規模はそう大き くない。しかし、それなしでは製造できない製品の市場規模 は膨大なものがあり、これからは、単純に素材だけの市場規 模ではなく、製品を含めた評価の手法を編み出していく必要 がある。

(16)

2.6 既存埋蔵量可採年

 ここからは、持続可能性に係る数値を見る。まず、既存埋 蔵量可採年数であるが、これはよく資源の「耐用年数」とし て紹介される数字である。この数値は、 と、埋蔵量を年間消費量で割っただけの数値であり、資源そ のものの耐用年数を表すものではないし、もちろん、その期 間が過ぎれば資源がなくなってしまうというものでもない。 埋蔵量は探索によって増えるものであるし、また、さらに逼 迫してくると、それまで資源的価値が見出されなかった低品 位鉱も採掘の対象となり埋蔵量を増やす努力が行われる。ま た、ある種の金属では、この既存埋蔵量可採年数を 20 年な ら 20 年と一定に保つことを目安に探索を進めているものも ある。  しかし、その目安を 20 年として努力をしなければならな い金属元素と 100 年に設定しても問題のない金属元素では、 前者のほうが資源的な逼迫しているのは確かであり、年数そ のものの持つ意味はあまり無いが、資源の逼迫性を相互に比 較する指標としては十分に使える。なお、30 年を切るものは、 金、銀、アンチモン、鉛、錫、亜鉛、砒素であり、それに銅 が続く。  既存埋蔵量可採年数 =  現有埋蔵量 年間消費量

(17)

2.7 資源疲弊加速係数

 前記の既存埋蔵量可採年では、金属元素相互の逼迫性の比 較はできるものの、数量的な用途には不向きであったのに対 して、LCA や製品のサプライチェーン管理などで製品に使 用した種々の元素の資源消費インパクトをあらわす目的で提 案されたのが、資源枯渇加速度である。これは、「一定量の 資源を消費することによって資源消費速度がいかに加速され るか」i)というものであり、鉄を 1 とした係数は次の式で表 されている。    ここで、RFe、Riは鉄および対象とする金属 i の資源ストッ ク量であり、基本的に埋蔵量を用いている。PFe、Piはそれ ぞれの年間消費量、n は影響を考慮する対象期間の長さであ り、ここでは 100 年として計算されている。  この資源枯渇加速係数は、鉄を基準にとったことにより、 ある金属元素を 1 トン使用することは鉄を何トン使用した のに匹敵する程度資源枯渇を早めるのか、という数値になる。 具体的には鉄 700kg を使用する自動車に白金 0.4g の浄化触 媒を搭載すれば、白金の資源枯渇加速係数は、650,000 で あるから鉄を 960kg 使用したのと同等に資源枯渇を早めて いると表せる。

(18)

2.8 年間総資源疲弊加速度

1)  全体的なインパクトを見るには、これも、資源枯渇加速係 数に年間消費量をかけてみるのが良い。この場合も Fe は基 準値 1 と単位当りの値は小さかったが使用料が多いため全 体としては相対的に大きな位置を占めることになる。それよ り大きな値となっているのは、Sb、Ag、Au、Zn、Cu、Pb、 Sn などである。また B が大きくなっているのはホウ酸など としての生産量が大きいことが反映されたためである。  一方でレアアース類はあまり大きなインパクトを与えてい ない。これは使用量の少なさに起因するものであるが、レア アース元素自体も資源の枯渇性という面では比較的布存度の 高い元素群であり、抽出プロセスの複雑さ、困難さが、資源 の確保を難しくしていると見ることが出来る。

(19)

 鉱石はそのまま直接に原料となるのではなく、岩石中の鉱 床のなかから掘り出され脈石を除き選鉱され精鉱となっては じめて製錬反応にかけられるような化合物を多く含んだ原料 となる。この過程で多くの物質が不要物として廃棄されるこ とになるが、これらは経済的にはほとんど無価値であり、か つ環境の面では大量の物質移動が起きるために、修復などの 行為が必要とされる。この隠れた物質フローが関与物質総量 (TMR : Total Material Requirement)と呼ばれるものである。

また Schmidt-Bleek などブッパータルのグループではエコ リュックサックと呼んでいる。この TMR は金属鉱石に対し て剥土や脈石などの量が鉱山の環境報告書や実操業データか ら得るとともに、鉱石品位からの推定などで計算できる2) ただ、前者の場合には有償で処理した廃棄物量のみが公表さ れているケースも多いので小さく見積もられてしまう危険性 もある。  よく使用される元素でこの TMR の大きいのは、白金族元 素と金であり、前に見たように価格へも反映されている。ま た、レアアースも全体的に高い値になっており、資源の「薄 さ」という点では貴重な存在であることを示している。

2.9 関与物質総量(エコロジカルリュックサック)

(20)

2.10 年間総関与物質総量

 この元素当りの関与物質総量(TMR)に、年間消費量を かけたものが上の図である。単位は 100 万トンであり、鉄 が最大で、鉄を採掘する際に地球から掘った総量は約 100 億トンにものぼる。鉄以降は、銅、金、アルミと続き、これ らの金属を得るために、それぞれ地球から約 50 億トン、28 億トン 15 億トンの物質を掘っている。  これらの総量は、年間で約 230 億トンにものぼり、2 年 で琵琶湖が埋まってしまう量である。注意すべきは、金や 白金など、製品の中に組み込まれて使われる使用量はほん のわずかであるが、単位当りの TMR が大きいために全体と しては大きな TMR 値となってしまうことである。例えば、 90kW の出力を想定した燃料電池自動車に 1g/kW の白金が 必要だとして、わが国で年間 4% の新車が燃料電池車とな ると、毎年 1 億トンの TMR となり、わが国のアルミニウム の全消費の TMR と同程度になってしまう。また、金や Pd, Ag などが LSI 等の電子機器に量的には極わずか使用される が、TMR 構成でみると逆に金などの占める割合が大きくな る。たとえば携帯電話では、製品重量では 1% も満たない金 が TMR では 80% 近くを占めている。高機能物質の設計では、 製品重量よりも TMR で見るべきであろう。

(21)

2.11 年間総資源疲弊加速度と年間総関与物質総量からみた各元素の位置

 ここまで見てきた関係を、それぞれ の元素がどの位置にいるかという観点 で整理してみる。左上の図の横軸は元 素の単位当りの関与物質総量(TMR)、 縦軸は元素の資源枯渇加速係数であ り、バブルの大きさは年間生産量を反 映させている。右に行くものほど、採 掘のために要する物質量が多く、上に 行くものほど資源の逼迫性が高い。金 および白金などは右上の位置にありま さに「貴」金属である。  左上の図は、TMR、資源枯渇加速 係数とも単位金属あたりでプロットし てあるが、現在の全体的状況を把握す るには、それらに年間生産量を掛けた ものが社会的インパクトとしてはわか りやすい。それが、左下の図であり、 横軸が年間の総 TMR、縦軸が年間の 総資源枯渇加速度(鉄相当)である。 また、バブルの大きさも、価格と年間 生産量を掛けた市場規模であらわして いるこの場合も右上の方がインパクト は大きい。銅、金、鉄が、最も右上の グループを形成している。  レアメタルはこれらの指標で見る限 り、資源枯渇の面でも、環境へのイン パクトの面でもあまり大きな位置を占 めない。これは、資源そのもの存在形 式よりも人為的な処理に係わる因子が 資源の緊迫度に影響を与えていること に起因する。

(22)

2.12 資源の偏在度

 人為的な問題のひとつが、国境問題である。そもそも資源 は偏在しているものであり、人類が定めた国境と経済圏がそ の偏在の度合いと、配分の不平等さを増幅する。  上の図は、各資源の国ごとの偏在状況を表したものである。 素材生産ではなく資源供給の占有率が上位の三カ国をそれぞ れの棒グラフで示してある。また、グラフは左から、最大占 有国の占有率の高い順に並べてある。また、下の図は、それ ぞれの金属元素の深刻度の相違を見やすくするために、周期 表にあわせて占有率が高いほどバブルサイズを大きくして表 示してある。  ここまでの資源の地球的意味ではあまり焦点にならなかっ たレアアースやタングステン、ニオブ、白金族金属などがこ の資源の国別偏在度では重要になっていることが注目され、 これらは上位三カ国で 90% 以上の占有度になっている。

(23)

 いまひとつの人為的問題は価格およびその変動の問題であ る。上図および次ページの図は、各金属の価格の 1980 年以 降の変動を示したものである。見易さを確保するためグラフ はいくつかに分けて表示し、価格の高い順に並べた。なお、 それぞれのグラフにおいて一番価格の低い元素は、次のグラ フにもデータを記載してある。  一般に白金族金属の価格が高いが、Sc,Cs なども価格の 高いグループに入っている。これらは、酸素との活性度も高 く、不安定である要素もあり、用途も限定されており、特殊 な状況で精製されることに起因する。一方で白金属や金は、 大気中でも安定に存在し、それゆえにも貴金属と呼ばれるが、 また高度な信頼性を求められる電子材料の接触・接続部分な どに用いられ、用途はますます広がっていっており、市場規 模はますます拡大する。また、硼砂、タングステン鉱、マン ガン鉱などは、資料として一貫性を持たせるため、米国鉱山 局のデータを用いたため、それに合わせて金属価格ではなく、 鉱石価格としている。  価格そのものの問題よりも、価格変動の大きさのほうが 現実の素材選択には大きな影響を与える場合が多い。とく に 2000 年代に入ってからの価格の急上昇は著しく、今後も BRICs 諸国などの経済の拡大と素材消費の上昇を考慮する と、上昇傾向は今後も続いていくと予想される。もちろん、 金属の価格には、投機性の色合いも濃く、単純に価格の上昇 が資源の逼迫度を反映しているとは言いがたいことは理解し

(24)

ておくべきである。また、モノが動かずに価格が変動する ケースも多く、短期的な物不足が生産を阻害するよりも、中 長期的な設備投資などのなかに、そのような価格変動の大き な素材を織り込むことに対するリスクからの忌避感が問題に なる。  この価格変動を定量的に把握するために、 で表したものが次ページの図である。100 のラインは最大 価格が平均価格の二倍になっていることを表す。Ta、Se が 6 倍近い変動を示しており、多くの金属が 2 ∼ 3 倍の幅に ある。 価格変動率 = 100 × 最大価格 平均価格 − 1

(25)

 人為的供給リスクとして価格の安定性と資源の国別偏在度 の関係で、各金属を 0 から 1 の範囲で表せるようにしてプ ロットしてみたものが上図である。右上を資源リスクの軽い ものとして表せるように、横軸は、価格変動度を として 0 から 1 の間にプロットできるようにし、また、縦 軸に国別偏在度として、  遍在性 = 1 − 第一占有国の占有率 として表した。また、バブルのサイズは、市場規模を表し、 経済的インパクトの大きさに対応している。なお RE はレア アース総ての総和である。市場規模の大きい、鉄や金は相対 的に右上に位置し、比較的人為的な供給リスクは少ないと見 ることができる。他方でレアアース、白金などについては、 価格安定性 = 平均価格 最高価格

(26)

価格安定性はそこそこであるものの偏在性が大きく、逆に、 Mo、Cu などは価格安定性の面でリスクが大きくなっている。  先のページの上の図は国、価格といった人為的側面でのリ スクで捉えたものだが、さらに、資源の枯渇、地球資源の利 用などの観点も加えて総合的に各金属元素資源の状況を見た ものが先のページの下図である。 縦軸の供給リスクは、  供給リスク = ( 1 −遍在性 )×( 1 −価格安定性 ) で表している。また横軸は、以前示したその資源の年間消費 による年間の総枯渇加速度であり、鉄相当の重量として表さ れており、供給リスクに対して資源リスクとでもよぶべきで あろう。また、バブルサイズは、各資源を採掘する際に地球 から掘り出した全物質の総量に相当する年間の総関与物質総 量で与えて対数プロットしてある。  この図では、右上の方ほどリスクが大きくなる。タングス テンから、モリブデン、銅、亜鉛、スズ、鉛、銀、金といっ た比較的ポピュラーな金属元素がほぼ一群となってラインを 形成しており、アンチモン、ボロンなどがそれに加わる。レ アアース、白金、パラジウム、ニッケルなどはその次のグルー プに属するが、供給リスクは大きい。  これらの金属元素はいずれもその多様な高機能性付加能力 から今後も期待されているが、より適切な資源利用の方法を 検討していく必要がある。これは を向上し、より高度の材料パフォーマンスを、より少ない資 源量で生み出していくことであり、元素戦略として「代替」「減 量」「循環」「規制」の 4 つのキーワードで語られる。  その中でも「代替」は、基本的に資源の使用方法を大きく 転換させる可能性があり、リスクの大きな元素に依存せずに、 その有用性のみを取り出すことができれば、ここに述べてき たような資源制約を基本的に回避することができる。  とはいえ、元素の持つ固有の機能はなかなか代替困難な場 合もあり、その場合には「減量」が問題解決の重要な要素が ある。特にナノテクノロジーの前進は、原子数個、数層レベ ルでの機能発現の可能性を含んでおり、これまでになかった ような大幅な「減量」の可能性をもっている。  また「循環」は、枯渇性である金属資源の本性にかかわる ものであり、地球環境から新規に資源を汲み出す量を大幅に 削減できる循環システムベースの材料設計、製品設計が必要 になる。また「規制」としての有害物質への対応も今回の資 源の状況とは直接リンクしないが、材料開発として意識して おくべき問題である。  このような、リスクの高い金属元素に対する対応とともに、 最後の図の左下に位置する Ti などのリスクの少ない資源の 利用も促進していくことも重要になってくる。 引用文献 1) 「『鉱物資源使用』カテゴリーの特性化係数」NIMS-EMC 材料環境データ No.8(2005) 2) 日本金属学会誌、Vol.65,No.7(2001)564-570 3) F. シュミット=ブリーク : ファクター 10、訳佐々木建、 イシュプリンガー=フェアラーク東京、(1997) 資源生産性 = 材料のパフォーマンス    資源利用   

(27)
(28)

2

 元素の特性に注目した研究

1.元素別の材料研究動向

門平 卓也 

企画調査室、物質・材料研究機構

兵藤 知明 

広報室、物質・材料研究機構

1.はじめに

 元素戦略プロジェクトに関する文部科学省の公募要領 「1.研究開発の目的と研究領域」の冒頭に元素戦略の定義 が記されている。それによれば、元素戦略の定義とは、物質 材料の機能・特性を決定する元素の役割・性格を研究し、希 少元素や有害元素を使うことなく高い機能を持った物質・材 料を開発することとある。  これを達成するには、注目する物質についての知見を深く 掘り下げることはもちろんのこと、あらゆる元素の可能性を 広く見渡すことが重要である。そのためには、国内における 物質材料の研究動向を元素別や機能別に整理しておくことが 不可欠である。  本稿では、WEB から得られる情報をもとに、各元素につ いての研究動向をまとめた結果について報告する。

2.元素別の研究動向調査

 今回の調査においてその調査対象となる情報は、検索エン ジンの検索結果をもとに WEB 上の情報を収集したものであ る。集めたデータに対して、必要となる情報の抽出および分 析を行い、必要に応じて再検索やサイト内容を実際に確認す ることで情報を補完した。

2.1 注意

 情報の収集・抽出・分析の各段階においては、コンピュー タを用いた自動化作業をある程度取り入れている。それらの 作業では、ノイズ情報の混入や、逆に必要な情報を取り逃が すなどの場合が少なからず生ずる。このため、調査に際して は正確な情報の記述に出来るだけ努めたものの、誤りが含ま れている可能性はゼロではないことを注意点として述べてお く。

2.2 各論

 ここでは、元素別に抽出したキーワードと、研究実施機関 を一覧表にまとめ、注目される元素(レアメタル、レアアー スなど)ごとにその内容について検討する。金・銀・銅につい ては、用途が広範囲に及んでいることから、調査を割愛した。  なお、一覧表は横軸を研究実施機関、縦軸を研究項目とし、 それぞれチェック項目の多い順に軸項目を並べてある。先に 述べた情報ノイズにより、この順序は実際の順序と必ずしも 一致するものではないが、本稿では研究のアクティビティを 示す指標として用いた。

2.2.1 リチウム

 リチウムはすでに電池材料として広く使用されているが、 研究レベルでも次世代の電池材料への応用を目標に研究が進 められている。とくに、全固体電池の実現にむけての研究が 盛んである。ついで広く研究されているのは、圧電体である ニオブ酸リチウムに関する研究で、東京大、東北大、東工大、 長岡技科大、静岡大など多くの大学で研究が進められている。 リチウムの溶融は、再利用・廃棄のための基礎工程として、 こちらもよく研究されている分野となっている。

2.2.2 ベリリウム

 ベリリウムに関する研究件数は大変少ない。その中でも多 かったのは、すでに高強度・高伝導の物質として応用がなさ れているベリリウム銅合金に関するものであった。

2.2.3 ホウ素

 ホウ素化合物といってもさまざまであるが、非銅系の高温 超伝導体 MgB2や、窒化ホウ素などグラファイトの蜂の巣構 造を持った物質に関する研究が盛んに行われている。超伝導 体では他に、ホウ素炭化物に関して超伝導機構の解明など基 礎物理の観点から行われている。  同じく基礎物理の観点から興味深い物質に YbB12がある。 これは、近藤半導体と呼ばれる強い電子相関を持つ物質の一 つで、温度に依存して金属もしくは半導体になるなど興味深 い電子状態を持つことから注目を集めている。Yb 原子を Er や Lu などの原子で置換した物質に関しても研究されている。 ホウ素を用いた触媒に関する研究は大変多くここではまとめ きれないほどであるが、とくに北海道大で有機ホウ素化合物 の合成とその触媒反応に関して精力的に研究が進められてい る。  その他、Fe-Cu-Nb-Si-B 系の軟磁性材料、がん治療法への 寄与が期待されるホウ素イオンクラスターなどが注目される。

(29)

2.2.4 スカンジウム

 スカンジウムはレアメタルの中でも特に希少な金属で、製 錬のプロセス技術を確立すること自体が研究課題である。プ ロセスに関する研究は東京大で行われている。  その他、スカンジウム錯体を用いた触媒への応用、スカン ジウム内包フラーレンに関する研究、などがある。

2.2.5 チタン

 チタンに関する研究は大変盛んで、中でも光触媒に関する 研究は群を抜いて多く 25 箇所もの機関が検索された。つい

(30)

で、チタン塩化物、とくにチタン酸バリウムに関する研究が 広く行われている。他にも、形状記憶合金、生体用合金とし ての応用研究や、コーティング材としての研究も多い。

2.2.6 バナジウム

 これまで金属添加物として用いられているバナジウムは、 その用途に関連する題目、例えばバナジウム合金、バナジウ ムモリブデンなどについて研究が行われている。  酸化バナジウム、β バナジウムブロンズに関する研究は複 数個所で行われている。前者は各種触媒として有名な五酸化 バナジウムを指していると考えられ、一方、一次元酸化物伝 導体である後者は金属 - 絶縁体相転移を起こす強相関電子系 であることから、いずれの材料も研究者の興味を惹いている ものと考えられる。  他には、リチウム2次電池の電極材料として用いられるバ ナジウム酸リチウムに関する研究や、酸化脱水素触媒への応 用が期待されるバナジン酸マグネシウムに関する研究が注目 される。

2.2.7 クロム

 ステンレス鋼の原料であるクロムであるが、研究対象とし ては磁性材料への応用に重点が置かれており、酸化クロム、 コバルトクロム合金、Cr N 薄膜などが対象の材料にあげら れる。  他に目立つキーワードは、人工格子、ニッケルレス生体用 合金、などがある。人工格子は数種の金属を原子層レベルで 積層させるもので、従来の合金や化合物に見られない物性(例 えば、巨大磁気抵抗など)が発現する材料として注目されて いる。ニッケルレス生体用合金は岩手大で研究されており、 産学官連携促進事業の課題としても展開されている。

(31)

2.2.8 マンガン

 キーワードは多岐にわたっているが、なかでもペロブスカ イト型構造を持つマンガン酸化物に関する研究が多く行われ ている。この物質は、外部磁気によって誘起される常磁性 -強磁性相転移を利用した、磁気スイッチなどへの応用が期待 されている。  他に注目されるキーワードとして、ZnS:Mn 系における蛍 光、形状記憶合金があげられる。前者は慶応大で研究が進め られているもので、ナノ蛍光体と呼ばれている物質のひとつ である。ナノサイズで蛍光体を作成することで高い蛍光効率 を示すのが特徴で、次世代薄型ディスプレイ、蛍光診断試薬、 照明などへの応用が期待されている。一方、後者の形状記憶 合金にはさまざまなタイプが存在し、それぞれ活発に研究が 行われている。例えば、Cu-Mn-Al 系は組成の工夫により超 弾性合金として注目が集まっている。また、Ni-Mn-Ga 系を はじめとする材料は強磁性を兼ね備える形状記憶材料として 注目されていて、とくに東北大で新たに開発された物質が多 い。

2.2.9 コバルト

 各種磁石に関連した研究の他に、コバルト酸化物に関する 研究がまずあげられる。コバルト系酸化物は、低スピン状態 と高スピン状態が混在して現れるスピンクロスオーバー現象 を観測できる系として知られ、このことに起因して通常の酸 化物には見られない興味深い性質(例えば Pr-Ca-Ca-O 系で の金属絶縁体相転移、Bi-Sr-Co-O 系での負性抵抗領域など) を備える。CeCoIn5は高い転移温度を持つ重い電子系超伝導 体であり、研究も盛んである。  その他注目されるキーワードとして、スクッテルダイト化 合物、Al-Co-Ni 系準結晶、生体用 Co-Cr-Mo 系ニッケルレス

(32)

合金の高性能化などがあげられる。

2.2.10 ガリウム

 III-IV 化合物半導体に関する研究が群を抜いて多い。特に ナノテクノロジーを駆使した量子井戸・量子ドット作製とそ れを応用したレーザー発振、発光などが集中的に研究されて いる。  大阪大では、GaN ベースで半導体と磁性体の2つの性質 を併せ持つ希薄磁性半導体に関する研究が行われている。  他には、Ga-Sr-Ca-Cu-O 系酸化物高温超電導体に関して、

(33)

長岡技科大が、GaN-ZnO 固溶体をもちいた光触媒(水の可 視光分解)に関して東京大が、Ti-Mo-Ga 系における形状記 憶特性に関して東工大が行う研究が注目される。

2.2.11 ゲルマニウム

 SiGe 系の研究が、東京大、東工大、広島大、静岡大など をはじめとして複数研究機関で行われている。  合金系の研究も多く、相変化記録膜として応用されている Ge-Te 系や、形状記憶の性質を持つ Ti-Nb-Ge 合金について などがある。後者については、生体用の合金としても注目さ れている。  このほか、東京大、北陸先端科技大で行われている希薄磁 性半導体 Ge:Cr の研究も興味深い。

2.2.12 セレン

 セレンに関する研究は、特定の物質や研究施設に偏らず行 われている。とくに注目されるのは、Cd-Se-S 系と Cd-Hg-Se 系である。前者における CdSSe-SrS:Ce 超格子は青色発光の EL 素子として有力な物質で、静岡大がこれに関する研究で 博士論文を出している。一方 Cd-Hg-Se 系は光電気化学太陽 電池としての応用が期待される物質で、慶応大が組成を最適 化し6%の効率を出すことに成功している。

2.2.13 ルビジウム

 ルビジウムを使った研究は、現状ではたいへん限られてい る。物質としてのバリエーションが多い研究は、RbCuCl3や RbMnBr3、RbVBr3といった三角格子の磁性に関するもので ある。これらの系ではスピン構造が平行・反並行とは異なる 3角構造をとることが知られている。これに起因して、複雑 で多彩な磁気励起、ひいては新規物性の発現を期待される系 である。  同じく磁性体として注目を集めているのは、分子磁性体の ひとつ、RbMnFe シアノ錯体である。レーザー光パルスによ り自発磁化が消滅するという興味深い性質(光誘起磁性相)

(34)

を持ち、東京大で研究が行われている。  他に、Rb3H(SeO4)2系は超プロトン伝導体に相転移する 物質として東京理科大で研究が進められている。

2.2.14 ストロンチウム

 ストロンチウムは高温超伝導材料である Bi 系酸化物に含 まれる元素で、当然のことながらこれらの物質に関する研究 が多い。   し か し な が ら、 も っ と も 多 く の 研 究 例 が 見 ら れ た の は、Yb 添加 SrCeO3などのペロブスカイト型構造の物質や LaPO4といったプロトン伝導体であった。プロトン伝導体 は燃料電池の電解質としての応用が期待される物質で、それ ゆえに多くの機関で研究が行われていると考えられる。  他に注目される物質として、セレンの項であげた青色発 光 EL 素子 CdSSe-SrS:Ce 超格子、蓄光材料であるアルミン 酸ストロンチウム、超伝導性を示す層状ルテニウム酸化物 (Sr3Ru2O7)に関する研究などがあげられる。

2.2.15 イットリウム

  イ ッ ト リ ウ ム 系 高 温 超 伝 導 体(YBa2Cu3O7も し く は YBCO)はもっとも研究されている高温超伝導体として知ら れ、当然のことながらイットリウムに関連する研究では、こ の物質に関するものがもっとも多い。  他には、イットリウム鉄ガーネットがあるが、イットリウ ムを含む磁性体としてこれも有名な物質である。

2.2.16 ジルコニウム

 まずあげられるのが酸化ジルコニウム(ジルコニア)に関 する研究である。ジルコニアの微細構造と物性の関係を明ら かにし、より性質のよい物質の創製を目指している。  圧電体である PZT や、磁性材料の Nd-Fe-Co-B-Zr 系、Zr-Al 系金属ガラス、生体用合金としての研究が進められてい

(35)

る Ti-Nb-Zr-Ta 系などが研究対象として注目を浴びているよ うである。  その他、ジルコニウム錯体を触媒とする新物質創製もよく 行われているようである。

2.2.17 ニオブ

 ニオブ酸リチウムについてはリチウムの項で述べたとおり である。他には、ニオブ酸カリウム(ナトリウム)も鉛フリー の圧電材料として期待が大きい。高品質な単結晶育成をはじ めとして特性向上のための研究が進められている。  Nb-Sn、Nb-Ti、Nb-Al などのニオブ金属間化合物超伝導体 を線材へ応用する研究も盛んに行われている。これらの線材 は、高磁場を発生する装置に不可欠であり、また将来的には 核融合炉用の材料としても期待されるものである。  ニッケルフリー生体用合金の開発は大変需要の大きいテー マであるが、そのような物質の候補として、Ti-Nb 系ベース の形状記憶・超弾性合金に注目が集まっている。東北大、東 工大、筑波大をはじめとして、各所で研究が進められている。 その他、Fe-Nb-B 系軟磁性特性の向上、ニオブ黒鉛複合膜の 超伝導特性解析、Fe-Cu-Nb-Si-B 系アモルファス合金の磁気 特性、Nb-Si 系高温材料、などが注目される。

2.2.18 モリブデン

 モリブデン酸化物はバイクロア型構造を持つものが磁気フ ラストレーションを抱える系として基礎研究の観点から注目 を集めている。  モリブデン系の触媒は石油精製に用いられており、これを 反映してか、Co-Mo-Al 系・酸化モリブデン・硫化モリブデン・

(36)

炭化モリブデン・コバルトモリブデンなど脱硫・脱水をはじ めとする機能を持つ各種触媒に関する研究は多い。  その他、生体用合金への応用を見据えた Ti-Mo-(Ga¦Ge) 系ニッケルフリー合金に関する研究も注目される。

2.2.19 パラジウム

 パラジウム触媒に関連する研究は、錯体を応用した有機物 合成のための触媒開発がほとんどで、合成される有機物も多 岐に渡る。  Co-Pd 系は薄膜にしたときに、垂直磁気異方性や巨大磁気 抵抗が発現し、高密度記録媒体への応用を見据えた研究が盛 んに行われている。   北 海 道 大、 広 島 大、 新 潟 大 な ど で 研 究 さ れ て い る (Ce¦Yb¦Pr¦Eu)-Pd-Ge 系は、バイクロア酸化物や充填スクッ テルダイトなどと並ぶかご状物質の一つとして注目を集めて いる。これらの物質は、その構造に起因して特異な格子振動 を持ち、異常に低い熱伝導などが発現する。  他には、準結晶である(Tb¦Gd¦Dy¦Re¦Mn)-Pd-Al 系、Pd-Cu-Ni 系金属ガラスなど構造解析をはじめとして、各種物性 の基礎的な解析が進められている系も多い。  なお、パラジウムは水素透過膜の材料として知られるが、 パラジウムが大変高価であることから代替材料の開発が盛ん に進められていることを付け加えておく。

2.2.20 インジウム

 インジウムについては、透明電極素材としての活用などを はじめ、応用を念頭においた研究が多いが、そのなかでも 純粋に科学的な興味からなされている研究が散見された。価 数相転移物質 Yb-In-Cu 系における相転移現象の解析や、In-Ag-Yb 系近似結晶の構造と物性などがそれにあたる。一方の 応用研究に関しては、Cu-In-Se 系における太陽電池への応用 研究、Ag-In-Te-Sb 系相変化とそれを利用した光記録膜の特 性改善、In-P 系や In-As 系における量子ドット作製とその特 性評価、Ga-In-N-As 系での面発光レーザー、In-Ga-As-P 系レー ザーなど光デバイス創成に関連する研究、酸化インジウムと 各種ドープ元素による透明電極用材料の特性改善、などがあ

(37)

る。  他には、In-Ge 系や In-Pb 系における超伝導薄膜の形成、 In-N 系での蛍光体合成などが注目される。

2.2.21 アンチモン

 ガリウムと同様、III-V 族系に関する研究が多く、量子ドッ トレーザーやフォトダイオードなどへの応用がなされてい る。  Sb-Re 系複合酸化物が有機物合成の触媒となることが東京 大で示された。Re は触媒としてのポテンシャルが期待され るも揮発性が高いために実際の適用が難しかったが、この研 究はそれを克服したことから、Re の応用範囲を広げるもの として注目される。  その他、Ag-In-Te-Sb 系についてはインジウムの項で述べ た。

2.2.22 テルル

 Te-O 系は石英ガラスよりも広い透過帯域を持つのが特徴 で、光通信デバイスを構成する材料として期待されている物 質である。このため、テルルに関する研究では、Te-O 系に 関する研究が比較的多く、岡山大ではテルライトガラスの電 子構造について博士論文を出している。  他に注目される系として、熱電材料の Bi-Te-Se 系があげ られる。

2.2.23 セシウム

 加湿を必要としないプロトン導電体は、燃料電池への応用 を見据えて非常に高い需要があるが、物質開発が追いついて いないのが現状である。このような背景のもと、無加湿プロ トン導電体である CsHSO4についての研究が東京大で進めら れている。  他に注目される研究としては、三角格子反強磁性体に関す る研究がある。この類の物質はセシウムを含むものが多く、 Cs-(Ni¦Fe¦Cu)-Cl 系や、Cs-Fe-Br 系などについて東工大の研 究が進んでいる。

2.2.24 バリウム

 もっとも多かった研究はチタン酸バリウムに関するもので あった。この物質の詳細についてはチタンの項を参照された い。  高密度磁気記録媒体としての応用を視野にいれたバリウ ム・フェライト系に関する研究では、信州大が Bi 添加量に 対する性質の変化を調査している。  Sm-Ba-Cu-O(Sm BCO)系は超伝導体として知られ、岩手大

(38)

では種々のバルク超伝導体の熱的性質を測定し、その結果を データーベース化して公開している。  CDW 絶縁体である Ba-Bi-O 系に関する研究は東京大で確 認され、Pb 添加にともなう物性の変化を調べている。  その他注目されるのは、プロトン導電体である Ba-Ce-O 系 に関する研究(名古屋大)、超電導体 La-Ba-Cu-O 系(広島大)、 ナノコンポジット磁石 Nd-Fe-Ba-Fe 系(長崎大)などである。

2.2.25 ハフニウム

 電子デバイスの微小化に伴い High-k 絶縁膜の必要性が高 まっている。その材料の候補としてあげられるのが酸化ハフ ニウム(ハフニア)や HfAlON 膜であり、これらに関する研 究は多い。  また、ハフニウムはバルク金属ガラス材料で添加剤として 用いられており、例えば、東北大では Cu-Hf-Ti 系が見出さ れた。  Hf-C 系については、耐摩耗性・耐酸化性などの性質が良 好であることからコーティング材料への応用が期待され、長 岡技科大で博士論文を出している。

2.2.26 タンタル

 水を分解して水素を取り出す光触媒として窒化タンタルと タンタル酸ナトリウムに関する研究があり、前者については 東京大や長崎大、後者については東京理科大での研究実施が

(39)

確認された。  他には、量子常誘電体であるタンタル酸カリウムをつかっ た量子常誘電体の研究、水素試料の核融合が行われたとの 報告でにわかに注目を集めるタンタル酸リチウムに関する研 究、垂直記録媒体としての応用もある Co-Cr-Ta-Ti 系、など がある。

2.2.27 タングステン

 タングステンに関しては、フィールドエミッタや、その硬 さを利用した従来型の応用の他に、錯体やポリ酸などのキー ワードで示される物質の研究や開拓も盛んである。これらの 物質は、光触媒・抗菌作用など触媒への応用を目的としたも のや、電気化学的高活性、高吸光係数などさまざまな高機能 を期待されている。

2.2.28 レニウム

 レニウム含有触媒・オキソレニウム錯体は放射性医療用の 材料として東工大が研究を進めている。他にも、複核金属錯 体の合成においてレニウムを使用する場合も多く、東工大、 神奈川大、北陸先端科技大などでの研究例がある。  レニウムはタングステンとともに耐熱耐損耗特性に優れて おり、この性質を利用した応用研究も多い。例えば、レニウ ム中間層というキーワードが検索された自然科学研究所での 研究は、核融合実験装置のためのコーティング材の位置づけ で行われた。

2.2.29 白金

 白金に関しては、キーワードとして「代替」が白金ととも に抽出された例がいくつか見られた。いずれも、燃料電池用 の電極を代替する材料探索となっており、この種の研究需要 が高いことを裏付けている。これらの研究の他、Ce-Pt-Si 系

(40)

希土類半導体のバンドギャップ、液晶への応用が考えられる 導電性錯体、一次元錯体、形状記憶合金、燃料電池、生体へ の応用も含む Fe-Pt 系規則合金磁性材料に関する研究などが ある。  なお、御手洗氏による白金材料についての解説が次節にあ り、詳しくはそちらを参照されたい。

2.2.30 ビスマス

 Bi-Sr-Ca-Cu-O 系は高温超電導体のひとつとして知られ、 今回の調査でも複数の機関で研究が進められているとの結果 になった。ペロブスカイト型構造物質である BiNiO3は、磁 性強誘電体の候補として京都大で研究が進められ、圧力や昇 温により絶縁体 - 金属相転移が誘起されることを確認してい る。  バナジン酸ビスマスは可視光応答する光触媒として知ら れ、東京理科大で研究されている水分解や、金沢大で研究が 進む内分泌撹乱物質の分解に用いられている。ビスマスドー プシリカガラスが近赤外において蛍光を示すことを発見した のは大阪大のグループで、この物質をファイバー増幅器へと 応用する研究を進めている。同時に、発光機構の研究を通し て新規レーザー媒質の探索も行っている。   そ の 他、 熱 電 変 換 物 質 Bi-Te-Se 系、CDW 絶 縁 体 の Ba-Bi-O 系、ビスマスイットリウム鉄ガーネット、ホウ酸塩ガ ラスについては、それぞれテルル、バリウム、ガリウム、ホ ウ素の項で述べている。

2.2.31 ランタン

 ランタンを含むペロブスカイト型構造の酸化物に関する研 究が散見される。その中で、La-Ti-O 系は、PZT の代替材料 としても注目されている強誘電体物質で、複数個所で研究が 進められている。東京大では複数の酸化物をヘテロ構造へ応 用する試みがあり、ランタン系の酸化物も用いられている。  水素吸蔵合金としての研究開発も進められており、結晶も しくはアモルファスの合金が数多く作製されている。La-Ni

図 5  Eff ect of Cu implantation on PL spectra. (a) illustration of  Cu dose map. (b) intensity map at 510nm wave-length. (c) 

参照

関連したドキュメント

わからない その他 がん検診を受けても見落としがあると思っているから がん検診そのものを知らないから

共通点が多い 2 。そのようなことを考えあわせ ると、リードの因果論は結局、・ヒュームの因果

点から見たときに、 債務者に、 複数債権者の有する債権額を考慮することなく弁済することを可能にしているものとしては、

子ども・かがやき戦略 元気・いきいき戦略 花*みどり・やすらぎ戦略

子ども・かがやき戦略 元気・いきいき戦略 花*みどり・やすらぎ戦略

結果は表 2

都調査において、稲わら等のバイオ燃焼については、検出された元素数が少なか

税関手続にとどまらず、輸出入手続の一層の迅速化・簡素化を図ることを目的