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5.NIMS におけるチタン研究の シーズ

ドキュメント内 元素戦略アウトルック 材料と全面代替戦略 (ページ 114-117)

 新しいチタン精錬法の開発が発表され、2011 年度には生 産能力 56% 増強が計画されている現在においてもチタンは 未だ高価である。このため基盤研究といえども研究開発を行 う材料の想定適用先は、民生用では高付加価値部品、工業用 では極限環境部品を対象とするのがまずは妥当であると考え ている。ここでは、この条件を満足した NIMS における研究 シーズを紹介する。

5.1 不純物元素の積極利用

 チタンにとって代表的な不純物元素は酸素である。この酸 素の積極利用が可能な研究シーズとして、自動車用制振部品

(民生用高付加価値部品)に用いられるベータ型チタン合金 とロケットエンジン用部品(極限環境部品)として使用され ているアルファ型チタン合金の例をあげる。

 振動を吸収する制振部品は、静粛性を求められる数々の システムで求められている。特に自動車では居住環境として 静粛性が付加価値に直結するために、エンジン回りでの高温 で制振性能を持つ材料開発が望まれている。NIMS ではベー タ型チタン合金に酸素を添加すると、侵入型元素である酸素 の拡散によって高温域で制振性能を発揮することを見出し た9)。ベータ型チタン合金に酸素を利用するというアイデア は、NIMS が世界に先駆けて見出したものである。

 液体水素ダーボポンプなどに使用されるアルファ型チタン 合金部品は、H-II ロケットの信頼性向上のための最重要部品 の一つである。このアルファ型合金は、極低温では耐力や 引張強度が上昇するにも関わらず、高サイクル疲労寿命が常 温と比べて低下するという問題を NIMS は指摘してきた10)。 そして、疲労寿命の低下が特定の結晶面に形成される双晶に 起因することをごく最近見出した。双晶の発生はチタン合金 の酸素濃度と密接に関係して、酸素は双晶発生を抑制する。

このことから、ロケット用チタン合金部品の信頼性向上に とって、酸素濃度を十分に考慮した合金化学成分の規格化に 向けた基礎研究が求められる。

5.2 合金化元素の選択幅の拡大

 チタン基の金属間化合物の低い成形性という課題を克服 し、合金化元素選択の幅を拡大するプロセスシーズとして、

マイクロマシン(民生用高付加価値部品)への適用が期待さ れるチタン基形状記憶合金薄膜部品と、ジェットエンジン部 品(極限環境部品)への適用が期待されるチタン基耐熱合金 の例をあげる。

 TiNi 合金は代表的な形状記憶合金であるが、その特性を 向上させようとして合金化元素を添加すると加工性が極端に 低下するという課題があり、マイクロアクチュエータ部品な どへの広範な利用が制限されていた。NIMS ではスパッタリ ングなどの非平衡プロセスを用いることにより超微細な結晶 粒組織が得られて高い加工性を発現することを見出した11)。 すでに Ti-Ni-Cu 系合金において従来から 10% 以下に制限 されていた Cu の添加量を 40% まで増やすことに成功して おり、優れた形状記憶特性を有する合金薄膜を作製してい る12)。このプロセスによれば、これまで加工性のために利 用が制限されていた種々の未開拓の合金化元素の添加が可能 であり、部品部材としての形状記憶特性を格段に向上させる ことができる。

 ジェットエンジンのブレード(極限環境部品)には、現在、

ニッケル基耐熱合金が用いられている。しかし、この合金は 大変高価であることから、より安価で軽量なチタン基合金を 適用しようという研究開発がなされてきた。その代表的候補 として TiAl 合金が内外で精力的に検討されてきたが、室温 での延性が極端に劣るために広範囲での実用化には至ってい ない。そして新たな候補として Ti-22Al-27Nb 合金が GE 社 から提案されたが、多量のニオブ(Nb)を含み高価である ことに加えて室温延性が未だ十分でなく、これも実用化さ れていない。課題は室温での延性確保である。NIMS は加工 熱処理プロセスによって金属組織を微細化すれば難加工性の Ti-22Al-27Nb 合金であっても室温で 15% 以上の伸びを確保 できることを示した13)。このプロセス技術を利用すれば、

これまで室温延性の確保という制限のために採用されなかっ た合金化元素を活用することができる。ごく最近、NIMS で は鉄の添加によって高温クリープ特性を保持したたままでニ オブ量を大幅に低減できる可能性を示した。これは、合金化 元素選択の幅を広げることによって希少元素量を削減可能で あることを示している。

6.まとめ

 資源枯渇・資源制約という加工貿易立国日本にとっての厳 しい近未来の状況を見据えて、元素戦略の視点から我々が取 り組むべき材料プロセス研究について述べた。「減量・代替・

再利用」というこれまでの材料戦略視点に加えて、「不可避 的な不純物元素の積極利用」や「合金化元素の選択幅の拡大」

といった視点を加えた基礎基盤研究の重要性を強調した。ユ ビキタスであり比強度と耐環境性に優れたチタンをよりよく 使うためのヒントとなれば幸いである。

引用文献

  1) 守 屋 惇 郎、 金 井  章 :  資 源 と 素 材 , 109 (1993) 

1164.

  2) 鈴木亮輔 : チタン , 52 (2004) 281.

  3) 岡部 徹 : 軽金属 , 55 (2005) 537. 西田俊夫、島崎圭 :  低温工学 39 (2004) 115.

  4) 福澤 章、櫻谷和之、渡邉敏昭、岩崎 智、福澤安光、

古山貞夫、月橋文孝、三井達郎 : 金属材料技術研究所研 究報告集 , 20 (1998) 169.

  5) 櫻谷和之、渡邉敏昭、岩崎 智、福澤 章 : 材料とプロ セス , 9 (1996) 859, 10 (1997) 202, 10 (1997) 822.

  6) Y.  Kawabe,  S.  Muneki:  ISIJ  International,  31 (1991) 

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  7) H. Onodera, S. Nakazawa, K. Ohno, T. Yamagata, and M. 

Yamasaki: ISIJ International, 31 (1991) 

  8) H. Onodera, T. Abe, and T. Yokokawa: Acta Metall., 42 

(1994) 887.

  9) Fuxing  Yin,  S.  Iwasaki,  Dehai  Ping,  and  K.  Nagai: 

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10) Y. Ono, T. Yuri, H. Sumiyoshi, S. Matsuoka, and T. Ogata: 

Mater. Trans., 44 (2003) 1702.

11) 石田章:軽金属 , 57(2007)293.

12) 特願 2006-155385、特願 2005-172939

13) S. Emura, A. Araoka, M. Hagiwara: Scripta Materialia, 48 

(2003) 629.

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