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3.NIMS の研究

ドキュメント内 元素戦略アウトルック 材料と全面代替戦略 (ページ 107-113)

1.はじめに

 WC-Co に代表される超硬合金は、硬さと破壊靭性に優れ ることから、各種切削工具や耐摩耗性が要求される様々な用 途に用いられている。近年、世界的な需要増加と産出国の国 家的資源戦略により、WC の原料価格は高騰しており、「希 少金属代替材料開発プロジェクト」(経済産業省実施事業)

でも超硬工具向けタングステンを対象とした研究課題が2件 採択された。

 他方、産業界では工具以外にも製鉄、製紙、印刷などの製 造設備の各種ロールや摺動部品の表面に超硬合金のコーティ ングが大量に使用されている。また、硬質クロムメッキの 代替コーティング技術も求められている。NIMS では新しい コーティングプロセスとそれに適合した原材料の開発を並行 して行うことによって、超硬コーティングの特性の飛躍的 な向上と焼結超硬合金の一部代替を目指した研究を進めてい る。

膜の破壊靭性値は 2.5MPam1/2程度で、焼結体の 20%程度 の低い値にとどまっている。XRD 回折パターンで示された ように W2C 相やη相の生成を抑えることには成功したもの の、破壊靭性値の改善にはいたらなかった。

 これは、皮膜内に存在する微細な欠陥の存在が主要因と考 えられる。また、XRD 回折パターンでは認められなかったが、

WC/Co 界面部の微小領域では反応相が生じていることも考 えられ、この界面部がき裂進展経路となっている可能性もあ る。皮膜微視組織の透過電子顕微鏡による分析や、プロセス 条件と破壊靭性値との相関などについて、今後、明らかにし ていくことが必要である。

4.まとめ

 WC-Co 焼結バルク体に匹敵する特性を有する超硬コー ティングを実現することを目的として、成膜時の粒子温度を 広範囲に制御できるウォームスプレー法を適用した。従来の 高速フレーム溶射法では実現することのできなかった脆性な 脱炭相やアモルファス相の検出されない厚さ 300μm 程度の 皮膜の作成に成功した。硬さは HVOF 溶射皮膜および焼結 体と同程度の 1200 〜 1400Hv であったが、破壊靭性値は 焼結体の 20% 程度に留まった。この要因として、皮膜内の  図 2 にウォームスプレーにて作成した皮膜の断面 SEM 像

の例を示す。原料粉末は WC-12wt%Co の造粒焼結粉で WC 一 次 粒 子 径 は 1 〜 2

μ

m、 造 粒 粒 子 径 は 10 〜 30

μ

m で あ る。作製条件を適切に選ぶと写真から明らかなように、厚 さ 300

μ

m 程度のかなり緻密に見える皮膜を得ることができ た。図 3 に原粉末および各試料の X 線回折パターンを示す。

HVOF 溶射皮膜の場合、40°近辺に明瞭なピークがある。ま た 30 〜 50°全域に渡ってハローパターンを示しており、皮 膜内に W2C やアモルファス相が形成していることが分かる。

一方、原粉末、バルク焼結体、そしてウォームスプレー皮膜 では W2C 相やアモルファス相に対応するようなパターンは 認められない。したがって、少なくとも X 線回折により捕 捉できるレベルでは、WC および Co 相のみから構成されて いるといえる。ただし、ウォームスプレー皮膜では、Co のピー ク位置が左側にシフトし、また半値幅も大きくなっている。

これは、プロセス中の固相粒子の衝突により、残留応力が生 じていることやバインダー相の結晶粒が微細化していること を示唆していると考えられる。

 次に機械的特性であるが、硬度に関しては HVOF、ウォー ムスプレー、焼結バルク体の三者の間において明瞭な差異は 認められなかった。しかし、各組織内に存在する炭化物の体 積率は、WC-12wt%Co という同じ組成比(理論的には WC 体積率 81% に相当)の原料から作製されているにも関わら ず、HVOF 皮膜では 52% と激減しているのに対し、ウォー ムスプレー皮膜で 73% 程度とある程度維持していた。した がって、従来の HVOF 溶射では WC の減少による硬さの低 下を、堅く脆い W2C の生成および Co バインダー相へのタ ングステンの溶解やアモルファス化による硬化が補っている 状態と推測される。ウォームスプレー皮膜の値は焼結体に近 く、XRD 回折や組織観察の結果からも納得できるものであ り、目指している超硬合金と同等の組織・特性を有するコー ティング材に近づいているといえる。

 圧子圧入法(IF 法)により測定したウォームスプレー皮 図2  ウォームスプレーによって作製した WC-12wt% 皮膜

の断面組織 SEM 像

図3  WC-Co 粉末、焼結体、ウォームスプレー皮膜、HVOF 皮膜の X 線回折スペクトル

微視欠陥の存在が考えられ、今後、プロセスパラメータおよ び原粉末組織と、皮膜組織や特性の相関について明らかにし、

最適化を図っていくことが必要である。

引用文献

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Matsuo, H. Fukanuma: Surf. Coat. Technol. 201 (2006) 

1250-1255.

1.はじめに

 燃料電池用の燃料として必要な高純度水素製造を一段階で 精製することのできる水素透過膜用合金材料の開発に期待が 寄せられている。現在、Pd-Ag 合金を代表とするパラジウム 合金が実用化されているが、パラジウムは資源量に乏しく、

製造時の環境負荷が高いという問題を抱えており、水素透過 膜用として大量に使用するのは困難である。このため、パラ ジウムに替わり、パラジウムを凌ぐ水素透過膜の開発が強く 期待されている。ここでは、非パラジウム系の水素透過膜材 料の開発動向を述べる。動向については、論文データベース

(SCI Expanded)の検索結果に基づき、1986 年から 2005 年までの過去 20 年間の国別英語論文発表数という形で整理 した。

2.世界の研究動向

2.1 メンブレン・リフォーミング法

 今日、世界の水素生産量は約 5000 億 Nm3であると言われ、

その約 97% が天然ガス(メタン)やナフサなどの化石資源 から製造されている。1) 主なプロセスは水蒸気改質法、部分 酸化法、およびそれらを組み合わせた自己熱改質法(オート サーマル法)である。これらは商用プロセスとして確立され ており、それに関連する材料研究は、一部の例外を除いて世 界的に見ても殆どないと言ってよい。材料研究が貢献できる 新しい水素製造プロセスに、水素透過膜による膜分離を組み 込んだメンブレンリフォーミングがある。通常のメタン水蒸 気改質法は、

CH4 + H2O → CO  + 3H2  (△ H = 169 kJ)  (1)

CO  + H2O → CO2 +  H2  (△ H = -42 kJ)  (2)

CH4 + 2H2O → CO2 + 4H2 (△ H = 127 kJ)  (3)

(1)式と(2)式(シフト反応または変性反応と呼ばれる)

の総和として(3)式で表される。このうち(1)式は 169  kJ の大きな吸熱反応であり、800℃付近まで加熱しないと 水素への高い転換率は得られない。一方(2)式のシフト反 応は発熱反応であり、200 〜 300℃程度の低い温度が有利 である。そのためメタンの水蒸気改質反応は通常一段階で行 うことができず、未反応物を分離回収した後、別の反応容器 でシフト反応させる。

 一方、メンブレンリフォーミングではル・シャトリエの法 則を巧妙に利用する。すなわち、反応と同時に生成した水素

を分離膜により透過させて反応系外へ選択的に除去すること で、系内の反応を水素が生成する方向((1)式、(2)式で 右側への反応)に移行させることで、高い転換率を得ること ができる。また反応温度も 550℃程度まで下げることが可 能であり、さらにシステムを大幅に小型化できる。メンブレ ンリフォーミングを行う新しいタイプの反応器のことをメン ブレンリフォーマーまたはメンブレンリアクターと呼ぶ。

 メンブレンリフォーマーにおいて重要な役割を果たす水素 透過膜についての動向を見る。図 1 は、「水素透過」で検索 した結果である。日本が 148 件で 1 位であり、2 位の米国

(114 件)を大きくリードしている。3 位以下はインド、中国、

ドイツ、英国と続くが、上位 2 国との差は大きい。

2.2 水素透過膜による分離・精製機構

 図 2 は研究開発レベルにあるものを含めて、水素透過膜 による水素の分離精製機構をごく単純に 2 つに分けて示し たものである。高分子膜、セラミック膜、ゼオライト膜、お

7)パラジウム代替水素透過膜用合金材料

西村 睦 

燃料電池材料センター、物質・材料研究機構

図1 水素透過に関する論文件数の多い上位 10 カ国

(1986-2005 年)

図2 水素透過膜用材料の種類と分離機構

よびナノカーボン材料などの膜は全て、微細な孔(細孔)を 透過する気体分子の速度の差を利用して水素を分離する。そ の際水素以外の気体分子も少しは透過してしまうため、高純 度の水素を得るには、2 段階、3 段階の透過プロセスを経る 必要がある。

 一方金属膜では気体分子が通ることのできる細孔は存在せ ず、分子が金属表面で原子に解離して金属の結晶格子中に固 溶し、その原子が格子中を拡散して透過する。膜の出口側表 面で水素原子は再度結合して分子となって放出される。金属 への水素の固溶が可逆的であり、金属中の水素原子の拡散係 数が他の原子よりもはるかに大きいために、膜にピンホール さえなければ、極めて高い分離係数が一段階で得られること になる。

 水素の格子拡散速度は、酸素や窒素および炭素など他の侵 入型不純物元素と比べて桁違いに速い。一例としてバナジウ ム中の水素原子と炭素原子の拡散係数を 200℃で比較して みると、水素の拡散係数は 1 x 10-8 m2/s、炭素は 3 x 10-19  m2/s である。これを元に 1 秒間の平均拡散距離を求めると 200,000 倍もの差があることになり、水素は 0.1 mm、炭素 は 0.5 nm となる。つまり水素が厚さ 0.1mm の V 膜を完全 に透過してしまう間に、炭素は V の結晶格子1つ分しか動 けないということである。このように金属中には水素のみが 自由に出入りでき、また金属中を自由に動けるとみなせるの で、実質的に水素のみが金属格子を透過できると考えてよい。

このようなことから、透過速度と分離係数の総合特性におい て他の追随を許さないのが金属系水素透過膜である。

2.3  Pd 合金とその問題点(資源量と高環境 負荷)

 水素透過膜用合金として唯一実用化されているのがパラジ ウム合金であり2)、径 2mm、膜厚 80

μ

m 程度の細いチュー ブを多数束ねたモジュールなどが使われている。水素透過流 量を大きく取るためには膜厚を薄くすればよいが、そうする と膜の強度が低下してしまう。そこでステンレス、アルミナ、

ガラス、ポリイミドなどの多孔質支持体の上に無電解メッキ 法などで、パラジウムやその合金薄膜を作製する試みがなさ れている。3)しかし、成膜法で厚さ数

μ

m 以下の薄膜を作成 するとピンホールの発生をゼロに抑えることはできず、高い 分離係数を 100% 保証するのが困難になるため、実用化に はまだ至っていない。

 パラジウムは、高価であり、資源量が少なく、限られた国 に偏在している。また、環境負荷も大きいという材料として の難点がある。

 図3にパラジウムと、水素透過度が高く水素透過膜候補の 金属であるバナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタンタル

(Ta)の資源量、環境負荷の度合い、現在の年間使用量をグ ラフにして示す。資源量は地殻存在度であり、地球上の珪素

(Si)の原子数 100 万に対するその金属の原子数で表されて

いる。環境負荷の指標としては、金属原子 1 トンを得るの に採掘しなければならない鉱石の量、ton/ metal-ton を用い た。パラジウムの資源量は 0.01/100 万 Si 原子であり、バ ナジウムと比較すると約 26500 分の1、ニオブの約 2100 分の1、Ta と比べても約 100 分の1しかない。また貴金属 であるパラジウムは鉱石中の成分濃度が極めて薄く、単位 重量を得るのに必要な鉱石量は、バナジウム、ニオブの約 1000 倍、タンタルの約 100 倍となり、エネルギー投入量な ど採掘時に環境に与える負荷が非常に大きいことが分かる。

このように資源的な問題と環境への配慮から、パラジウムを 大量に使うのは困難な状況にある。このような状況の中で、

最近では他の金属系で高性能の透過膜の開発を目指した研究 もいくつか見られるようになった。

3.国内の研究動向

 前項で水素透過膜材料において我が国が世界一の高い研究 アクティビティを誇ることを示した。ここでは我が国の研 究動向を物語るデータを示す。図 4 は、「水素透過」と「Nb または V またはアモルファス」の論理積で検索した結果で あるが、日本が 28 件で他を大きく引き離して 1 位となって 図 3  パラジウム、バナジウム、ニオブおよびタンタルの

資源量、年間使用量および環境負荷の比較

図4  「水素透過」かつ「V または Nb またはアモルファ ス」の条件で検索した論文件数の多い上位 10 カ国

(1986-2005 年)

ドキュメント内 元素戦略アウトルック 材料と全面代替戦略 (ページ 107-113)