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2.コンビナトリアル手法を用いた材料探索

井上 悟 

ナノセラミックスセンター、物質・材料研究機構

法開発10)、無機材質研究所のスラリーや溶液を原料として 使用する湿式・乾式セラミックスライブラリー合成法・評価 法開発11)、コンビナトリアルガラス研究システム開発12)、 コンビナトリアルイオン注入装置開発13)、そして金属材料 技術研究所(後に NIMS に改組)の PLD 法による半導体ゲー ト材料探索研究14)等が実施され多大な成果を挙げた。

3.3 NIMS の現状

 現在、COMET プロジェクトを発展させた半導体関連材料 探索研究、湿式・乾式セラミックスライブラリー合成法・評 価法開発、新ガラス探索研究を実施している。

 湿式・乾式セラミックスライブラリー合成法・評価法開発 においては、普及型湿式セラミックス原料調合・ライブラリー 作製装置 “COMBIT”(登録商標)を開発している15)。図 1 に装置の写真を示す。

 また、図 2 には COMBIT によって調合作製した模式試料 ライブラリーの写真を示す。

 写真上部の 4 枚の白色アルミナ板が試料ライブラリーホ ルダーである。6 × 6 = 36 試料のライブラリーが作製でき る。また、6 × 6 = 36 試料の熱処理後の生成結晶相を高速 で同定するコンビナトリアルX線回折装置も開発されてい る16)

 新ガラス探索研究は、図 3 に示すコンビナトリアルガラ ス研究システムを使用して実施している。

 世界に先駆けて開発したコンビナトリアルガラスバッチ調 合装置17)では 4 種類の原料粉体を任意の割合で最大 24 サ ンプルまで量り取ることが出来る。4 種類の原料を混ぜて 5 グラム程度の原料を 24 種類調合するのに要する時間は 30

〜 40 分程度であり無人で自動運転することを考えればかな りの高速化となる。また、5 成分以上の調合の場合は、原料 コンテナを交換して更に原料を量り取ることで対応してい る。

 コンビナトリアルガラスバッチルツボ溶融装置18)は、実 験室で我々が手作業でガラス試料を作製する方法をそのまま ロボット化して効率化を計ろうとするものである。融液の流 しだしをロボット化することにより研究者個人による冷却の 違いが無くなり、常に同じ冷却速度でガラス化を試験するこ とが出来る。したがって、ガラス形成が冷却速度に大きく影 響されることを考慮すると、冷却速度の再現性により信頼性 の高いガラス化領域デ−タの決定に有効である。処理できる ルツボ数は 9 個× 2 列= 18 個である。1 日 200 個程度の 試料作製が可能となっている。

 コンビナトリアルガラス形成テスター19)は、バッチ量を 減らして多数の試料を並列溶融試験する装置であり、融液を ルツボ内で冷却する点でガラスバッチ溶融装置と異なる。1 度に 24 個の調合のガラス形成が試験できるようになってい る。溶融後の融液は冷却室に下降後速やかに冷却テーブル上 に移され冷却される。冷却ステージ上では一様な冷却速度は 図 1:COMBIT 湿式セラミックス原料調合・ライブラリー作製装置

図 2:COMBIT で作製した模擬試料ライブラリーの写真 図 3:コンビナトリアルガラス研究システム概念図

得られないが、冷却速度は、平均的にみれば従来の手作業実 験の冷却速度と同程度である。ガラス形成テスタ−でガラス 化範囲の当たりを付けて、ルツボ溶融装置で試料を作製して いる。

 新ガラス探索の実例を挙げる。WO3-P2O5-ZnO 系蛍光発 光ガラスは、当初鉛を含有しないX線遮蔽ガラスの探索を目 的に研究している過程で偶然に見つけられたものである。研 究を担当している学生さんが、たまたましまい忘れられてい たブラックライトを自分で作製したガラスに照射し、その内 のたった一つが発光しているのに気づき発見されたものであ る。X線では発光せずに紫外線のみに対してオレンジ色に発 光する希土類を含有しない蛍光発光ガラスである。コンビナ トリアル探索による網羅的な試料作製であったために発見さ れた発光ガラスといえる。Wを使用しているので元素戦略材 料としては不十分であるが、希土類を使用しない点で優れる。

また、コンビナトリアル手法を用いていないが、希土類を含 まないガラスでクラーク数上位の元素のみを用いた蛍光発光 や 2 次の非線形光学効果を示すガラスの開発研究も進めら れている20)

 低軟化温度ガラス形成系の中で表面硬度の高いガラスも探 索している。従来から表面硬度はガラスを構成する網目の化 学結合強度が強いほど堅い事が分かっている。しかしながら、

結合が強くなればガラス転移温度、軟化温度共に上昇し、結 果的に原料の溶融に高い温度が必要となり、実用化上余り好 ましくない。したがって、低軟化温度、すなわち、比較的低 い温度で溶融できるガラス系で同程度の表面硬度を有するガ ラスは実用上非常に有効である。希土類を使用すると高硬度 ガラスが得られるが、遷移金属を多量に含むホウ酸塩系にお いて探索を進め、アルミノシリケ−トガラスに近い表面硬度 を有していて約 500℃もガラス転移温度の低いガラス形成 系が発見されている21)

4.今後の研究動向

 元素戦略研究のような新組成探索が必要となるような研究 ではコンビナトリアル合成法・評価法の利用が非常に効果的 である。また、既存材料の組成の修正や最適化についても有 効である。コンビナトリアル手法の固体材料科学への適用は、

その有効性が次第に明らかとなっているので、広く普及して 行くものと考えられる。

5.まとめ

 コンビナトリアル材料研究システムは、一言で言えば研究 の自動化・ロボット化によるラボラトリ−オ−トメ−ション の一種であるが、各研究分野に合わせてソフトから開発され るシステムであり、研究者の研究能力を何倍にも増幅するシ ステムである。また、コンビナトリアルシステムの網羅的ア

プロ−チにより思いも掛けぬ材料や現象に遭遇する場合があ る。従来の材料設計・開発の手法では網羅的アプロ−チを無 駄として捉え、出来るだけ少ない試験で目的の材料を短期間 で開発してきたのであるが、これはこれで一つの手段であり、

なんら否定すべきものではない。やはり、コンビナトリアル 手法の利点は、大胆な作業仮説と高速網羅試験により思いも よらぬ材料を見出す可能性が高く、結果的に短期間に新規の 材料を発見し得るところである。すなわち、材料設計によ る開発では、予測された物性を発現するのみであるが、コン ビナトリアル的アプロ−チでは 1 + 1 が 2 ではなく 5 や 10 になる可能性を秘めており、特にガラス材料開発ではガラス 化という二次的かつ予測困難な要素が入ってくるため予期せ ぬ結果をもたらす可能性が高い。まだまだ未発見のユニ−ク なガラスが埋もれていると期待され、継続的な探索を進める 必要がある。

引用文献

  1) K. Kennedy et al: J. Appl. Phys. 36(1965)3808. 

  2) J. J. Hanak: J. Mater. Sci. 5(1970)964. 

  3) H. Koinuma et al: Jpn J. Appl. Phys. 27(1988)L376.

  4) R. B. Van Dover et al: Science 392(1998)162.

  5) X.-D. Xiang et al: Science 268(1995)1738.

  6) E. Danielson et al: Nature 389(1997)944.

  7) Y. Matsumoto et al: Science 291(2001)854.

  8) H. Koinuma et al: CREST Highlight 2(2002)  20. 

  9) 例えば、K. Horiba et al : Rev. Sci. Instrum. 74(2003) 

3406.

10) 例 え ば、M. Ohtani et al : Appl. Phys. Lett. 79(2001) 

3594.

11) 例えば、I. Yanase et al : Solid State Ionics 151(2001) 

189.

12) 例 え ば、S. Inoue et al : Appl. Surf. Sci. 223(2004)

233.

13)  例 え ば、Y. Sato et al : Jpn J. Appl. Phys. 42(2003)

5867.

14) 例 え ば、P. Ahmet et al: Appl. Surf. Sci. 189(2002)

307.

15) S. Suehara et al: Appl. Surf. Sci. 252(2006) 2456.

16) K. Fujimoto et al: Appl. Surf. Sci. 223(2003)49 17) S. Inoue et al: Appl. Surf. Sci. 189(2002) 327.

18) T. Konishi et al: Appl. Surface Sci. 252(2006) 2450.

19) S. Inoue et al: Mat. Res. Soc. Symp. Proc., 700(2002) 

201.

20) 例えば、Y. Takahashi et al: App. Phys. Lett. 88(2006) 

151903-1.

21) 坂本知之 他:  第 47 回ガラスおよびフォトニクス材料 討論会講演要旨集 p.142(2006).

1.はじめに

 元素戦略とは、物質・材料を構成し、その機能・特性を決 定する元素の役割・性格を研究し、物質・材料の機能・特性 の発現機構を明らかにすることで、希少元素や有害元素を使 うことなく、高い機能をもった物質・材料を開発することで ある1)。このコンセプトは、地球上における資源の枯渇や偏 在という問題に対して資源を有さない日本がどう対応すべき かという基本姿勢でもある。日本が産出できる最大の資源が 人の知恵であるという認識に基づけば、元素戦略は言い換え れば知恵戦略と観ることもできる。