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地方政治に対する信頼

参加経験・社会関係資本・対人情報環境ー一—

堤 英 敬

1 ・ 問 題 関 心

今日進められている地方分権においては,行政の効率化とともに住民が 積極的に地方政治へ関与することが期待されている。地方政治に関する議 論について,包括的かつ詳細なレビューを行った曽我 (1998)は,地方政 府の存在根拠を (1)地方政府による公共サービスの供給がそれ以外の供給形 態より効率的であること, (2)地方政府が何らかの形で政治権力の民主化を 強化することに寄与することの二点に集約している。後者に関して J.S. ミ ルは,地方政府は市民に参加の機会を提供し,市民や政治家の政治的教育 の場となることでデモクラシーの基本要素を構成しているとする。また,

地方政治においては選挙以外にも参加のルートが豊富にあり,これらを通 じて公共問題を解決していくことで協調性を涵養することに寄与するであ ろう。さらに住民との距離が近い地方政府は,デモクラシーの基礎となる

「市民性」を涵養するために必要なコミュニティとしての一体感,メンバ ーシップを代表し,醸成する機能を持つという議論もある(曽我 1998, 90 

‑92頁を参照)。

地方分権が目指す住民の地方政治への関与が,

~

このような議論で期待さ

(2)

れるように機能するためには,住民によるインプットが政策的なアウト プットに反映されるという認識すなわち地方政治システムヘの信頼が必 要となるだろう。実際に,政治への信頼は,様々な政治活動への参加を促 進する要因となることが知られている(蒲島 1988,山田 2004)。しかし,

地方政治への信頼は(国政への信頼と比較すれば高いが)時系列的に見る と国政と同様,低下傾向にあり,少なくとも現状において,住民が地方政 治に積極的に関与する素地があるとは考えにくい(図 l参照)。

また,政治的な信頼が必ずしもデモクラシーの機能に対して正の効果を 持たないケースも考えられる。すなわち,住民が委任的に政治を信頼し,

政治に積極的に関与しようとしないパターンである。このような場合,仮 に地方政府への信頼が高かったとしても,住民の意思を基盤とした統治が

(1) 

行われるとは考えにくい(村山 2003)。政治への信頼に対するこのような

1 各レベルの政治に対する信頼の推移 70% 

60% 

50% 

40% 

30% 

20% 

10% 

0% 

60.6% 

1976  1983 

一 国 政

‑‑‑都道府県政 -•-市区町村政

1993  1996 

※数値は「いつも」「大体」信頼できるの合計。綿貫 (1997) p.36より作成。なお, 1996年 に つ い て はJESII調 査

7波)から箪者が追加したc

(1)  村山 (2003)はこのような問題意識から,社会的な信頼が低くても社会システムの パフォーマンスが良くなる可能性を議論しているこ村山は,京都府のある町における 悉皆調査データから,社会的需要(ニーズ意識しや社会的技能(団体活動やコミュニ ケーションなどの行政活動に対応するスキル\の高さが,行政のパフォーマンスの評 価や行政の施策の浸透度に影響を与えていることを明らかにした。

24‑2‑239 (香法2004) ‑ 2 ‑

(3)

二つの見方からは,地方政治への信頼は分権化後の地方政府のパフォーマ ンスや,住民が地方政治において果たす役割の大きさに対して,推進要因 とも抑制要因ともなりうることが分かる。

本稿では政治に対する信頼を,差し当たり政治に対する包括的な評価・

感情と捉え,地方政治への信頼について国政と比較しながら検討する。特 に,地方政治がデモクラシーを強化するという議論の中でその根拠とされ る,政府と住民の距離の近さ,および地方政府とコミュニティとの関係に 注目していく。これを通じて,住民が積極的に政治に関与する,よく機能 するデモクラシーが成立する基盤が,現状において存在しているのかを考 察することが本稿の目的である。地方分権によって地方政府の権限が拡大 することは,住民が地方における政治的決定に関与できる範囲を広げるこ

とに繋がるが,問題はこの過程に住民が積極的に関与しようとするか否か である。もし国政に比較して,身近さに起因する「住民が政府をコントロ ールできる」という認識や,コミュニティ内部で蓄積された信頼が地方政 治への信頼に結びついているのであれば,分権化後,住民参加型のデモク

ラシーが実現する基盤が整っている,ということになるだろう。逆に,住 民との距離の近さやコミュニティの代表性といった,地方政府の持つ優位 性が,地方政府に対する認識に反映されていなければ,(住民の地方政府 に対する認識が大きく変わらない限り)一概に分権化によって住民参加型 のデモクラシーが実現するとはいえないであろう。

2 .  

分析の焦点

2 . , .  

政治信頼の多次元性と地方政治への信頼

本稿の第一の関心は,地方政府が持つとされる住民との距離が近いとい

う中央政府との質的な違いが,地方政治と国政の信頼の構造,すなわち信 二 頼を構成する要素にいかなる差異をもたらすのか,という点にある。そも

そも一般に信頼と呼ばれる概念自体が多様な意味を包含しており,山岸 (1998)のように信頼と安心を区別するような議論もある。また,信頼の対

(4)

象を政治に限定してみても,それは多元的な概念であることが知られてい

(2) 

る。実証的には Finifter (1970)によって,政治的疎外には政治的無力感

(政治的有効性感覚)と政治的無規範性の二次元構造があることが見出さ れ,さらに政治的有効性感覚には,自分自身が影響力を行使しうるイメー ジとしての内的有効性感覚と,政府が応答的であるというイメージとして の外的有効性感覚との二つの要素が含まれるとされる (Almond& Verba  1974)。また Easton (1965)は,政治家への支持とは別に政治システム全 般への信頼があることを指摘している。日本を対象とした研究において も,例えば田中 (1996)が政治信頼(国・地方政治への信頼)と,政治シ ステムの応答性(国会・選挙・政党の意義),および政治の在り方への信 頼(政治家や政党などへの認識)の三次元が存在していることを明らかに している(同様に政治信頼の多次元性を実証的に示したものとして,綿貰 (1997),  Kabashima, Marshall, Uekami & Hyun (2000),  蒲島・マーティン (2004) など)。

本稿では地方政治への信頼に敢えて明確な定義は与えず,仮に地方政治 に対する包括的な評価.感情と捉えることとする。というのは,人々が政 治という対象を信頼できる,あるいは信頼できないと考える際には,政治 信頼を構成する複数の要素(次元)のうち,特定の要素が強く作用する一 方で,別の要素はあまり関連しないという可能性があるからである。ここ では,政治に対する信頼は,それを構成する幾つかの要素が複合された包 括的な認識として捉えられると想定しているが,どのような要素が包括的 な政治信頼と深く関連しているかは,評価の対象となる政治のレベルや 様々な環境要因に左右されるであろう。つまり,国政への信頼と地方政治 への信頼とでは,それらを構成する要素には違いがあるものと考えられ る。理念的に想定されるように,地方政府が中央政府に比較して身近であ るのならば,地方政治への包括的な評価.感情である信頼を構成する要素

(2)  アメリカを中心とした政治不信に関する議論をまとめたものとして,山田 (1994) を参照。

24‑2‑237 (香法2004) ‑ 4 ‑

(5)

としては,政府をコントロールすることが可能であるという内的有効性感 覚との関連が(国政に比較すれば)強くなるのではないだろうか。

2. 2.  地方政治の特質と政治信頼の形成

第二の関心は,国政と地方政治の質的な相違は,それぞれへの信頼を形 成する要因に違いを生じさせるか,という点にある。地方政府の特質とさ れる政府と住民の距離の近さ,および地方政府とコミュニティとの関係に 注目すれば,地方政治への信頼の構造やそれが形成される過程には,以下 のような独自の特性があるものと考えられる。

2. 2. 1.  政治システムヘの入力と地方政治への信頼

政治信頼を形成する要因に関する代表的な議論は MillerとCitrinによる ものであろう。 Miller (1974) は,政治不信の要因を政党の政策的立場か らの距離に求めたのに対し, Citrin (1974) は現職政府のパフォーマンス に満足できない人々が政治不信になるとした。日本のデータを用い, Miller とCitrinの 議 論 を 参 照 し な が ら 政 治 信 頼 を 形 成 す る 要 因 を 分 析 し た Kabashimaら(Kabashima,Marshall, Uekami & Hyun 2000)は,政府のパフォ ーマンスが特に政治信頼に影響を与え,国会・選挙・政党といった制度へ の支持が市民意識にも影響している一方,政党間の相違や 1955年体制か らの影響はほとんど見られないことを示している。また,政治への不満を 日本とアメリカとで比較した村山 (1994) によれば, 日本人の政治不満は

「出力型不満」と特徴づけられるという。すなわち,「国のやり方がよく ないから政治は信じられないのであって,どちらかといえば,我々の政治 へ の 影 響 力 が 少 な い か ら 信 じ ら れ な い と い う わ け で は な い 」 ( 村 山 1994,  105頁)。

政府の応答性や政治に携わるアクターに政治信頼の形成要因を求めるこ れらの議論は,基本的に国政レベルでの信頼を対象としていたり,国政と 地方政治を特に区別していなかったりするが,地方政治への信頼を国政と

(6)

比較して考える場合には異なる観点が必要となろう。国政においては,多 くの市民の政治過程に参入する度合が限定的であるのに対し,地方政治で は住民に身近な問題が扱われることから,国政に比較して政治過程に関与 した経験を持つ住民も多いと考えられる。また,地方政治の場合,国政と 比較すれば住民による政治過程への参与と政策的なアウトプットとの対応 が見えやすいことから,政府のコントロール可能性を実際の経験として認 識することが可能であろう。つまり地方政治への信頼は,政治システムへ の入力経験によって形成されるとの予測が成立しうる。本稿ではまずこの 点を検討する。

2. 2. 2.  社会関係資本と地方政治への信頼

Putnam (1993)によれば,人間関係が水平的で互酬性なネットワーク では,社会関係資本が蓄積され,一般的他者信頼の向上が向上するとい

う。このような一般的信頼は,社会・政治制度への信頼を形成し,よく機 能するデモクラシーを作り上げるとされる。 Putnam (1993,  2000)は, 社会関係資本が蓄積される上でボランタリーな組織での活動を重要視して いるが,日本においても平野 (2002)が,団体加入が政治的信頼や政治参 加に与える効果を分析し,政治的有効性感覚に対しては積極的に参加して いる団体の数が,また政治制度への信頼に対しては加入している団体の数

(3) 

がプラスの効果を持っていることを示した。また,団体活動に積極的に参 加することが他者一般への信頼や互酬性の規範を高め,これを経由して政 治制度への信頼が高められているという効果も示している。このような効 果が生じる過程について池田 (2001)は,ボランタリー組織内部でのコミュ ニケーションを通じて政治的意見の集約を学び,集団内での決定の経験が

「民主主義の学校」として機能するためであると論じた。この議論を敷術 すれば,組織内部でのコミュニケーションに留まらず,周囲の他者との政

(3)  ただしアスレイナー (2004)のように,ポランタリー団体への参加は必ずしも人々 の協力を促進しないとする議論もある。

24‑2‑235 (香法2004) ‑ 6 ‑

(7)

治的なコミュニケーションを通じても社会関係資本は形成されることが想 定される。実証的にも, LaDue Lake & Huckfeldt  (1998)や池田 (2002)

によって,周囲の他者との日常的なコミュニケーションを通じて形成され た社会関係資本が,政治参加行動を促進することが示されている。

Putnam (1993)によるイタリア

1 + 1

政 治 の 研 究 の 基 本 的 な 課 題 が 「 な ぜ デモクラシーがよく機能する朴lと機能しない1‑Mがあるのか?」であったよ うに,社会関係資本の蓄積によって形成された一般的な信頼は,国政と比 較すれば地方政治により反映されると考えられる。他者への一般的な信頼 が社会・政治制度への信頼へと繋がっていくとき,それは現実的に実感で きる範囲から徐々に広がっていくであろう。そうであるならば,まず国政 より身近な地方政治への認識に対して社会関係資本の効果は波及するもの と思われる。また,地方政府がコミュニティの代表性を有しているという 議論に即して考えれば,コミュニティ(操作的には対人ネットワーク)内 部の信頼は,地方政府への信頼に投影されるであろう。本稿では,団体活 動および日常的なコミュニケーションを通じて形成される社会関係資本が 政治への信頼に及ぼす影響について,国政と地方政治を比較しながら検討 する。

2. 2. 3.  対人情報環境と政治への信頼

池田 (1997, 2000 a,  2000 b,  2001,  2004) は , 党 派 性 や 政 治 的 な 知 識 といった政治への認識が対人ネットワークの内部で均質化することを明ら かにしている。さらに,政治参加行動に対しても(配偶者に限ってではあ るが)周辺他者からの影響が見られるという(池田 2002)。このような現 象に対する説得的コミュニケーションからの影響は限定的であり,ネット

ワ ー ク 内 部 で 形 成 さ れ た 情 報 環 境 か ら の 影 響 で あ る と さ れ る ( 池 田

(4) 

2000 a,  2004)。すなわち,ネットワーク内部における日常的なコミュニ ケーションの中で流通する政治的な情報には一定の偏りがあり,これが ネットワーク内部における政治認識を特定の方向へと共通化させていくと

(8)

いう。

地方政治の方が住民にとって身近であるという前提に立ちつつ,国政と 地方政治に関する情報が形成する環境の相違という観点からこの議論を捉 えると,どのようなことが考えられるであろうか。多くの市民にとって,

国政に関する情報のほとんどがマスメデイアを通じてもたらされる。一 方,地方政治に関する情報は,集団活動や日常的なコミュニケーションの 中からも(より直接的に)得ることが可能であろう。すなわち他者とのコ ミュニケーションの中で話題に上る情報が,国政に関しては媒介されたも のが主であるのに対して,地方政治に関してはより直接的で,実際の経験 に近いものとして捉えられると考えられる。これがすべての住民に当ては まるわけではない点に注意する必要はあるが,このような情報接触上の特 性を考慮すれば,住民の周囲にある対人環境は,国政よりも地方政治への 認識に影響を及ぼすことが予想される。そこで,国政・地方政治への信頼

に対する対人情報環境の持つ効果についても検討していく。

3.  データの概要

本稿の分析には, 2001年5月 に 高 松 市 在 住 の 有 権 者 か ら 二 段 階 確 率 比 例抽出法で抽出した 700人を対象とした郵送調査(研究代表者:中央大学 文学部安野智子)で得られたデータを用いる(以下,高松調査と呼ぶ)。

有効回答数は, 319(回収率45.6%)であった。なお,この調査では併せ て主回答者 1人につき 3人まで「よく話す人」(以下,スノーボール他者 と呼ぶ)を挙げてもらい,回答を依頼するスノーボール調査も実施した。

(5) 

有 効 回 答 数 は , 第 一 ス ノ ー ボ ー ル 他 者 が253(回収率 36.1%/79. 3%), 

(4)  政治的なコミュニケーションを行う相手と,日常的なコミュニケーションを行う相

手とが重複していることも知られており,コミニニケーションの結果として政治的認 識の共有があるとすれば,日常的なコミュニケーションの結果と考えられる(木村 2000)

(5)  回収率は(全サンプル中の回収率/主回答者で回答があった者に占める回収率)を 示している。これ以降に示す回収率についても同様である。

24‑2‑233 (香法2004) ‑ 8 ‑

(9)

第ニスノーボール他者が230(回収率32.9%/72.1 %) , 第三スノーボー ル他者が216(回収率30.9%/67. 7%)である。ただし,主回答者による スノーボール他者に関する回答と,スノーボール他者自身の回答とに麒甑 があるものは分析から除外したため,実際に分析の対象となったスノーボ ール他者は,第一他者が 177(回収率25.3%/55. 5%), 第 二 他 者 が 130

(回収率 18.6%/40.8%),第三他者が 111(回収率 15.9%/34. 8%)で

(6) 

あった。

本稿の分析対象となる国政,香川県政,高松市政への信頼について,簡 単に触れておこう。表 1に各レベルの政治に対する信頼の分布を示した が,国政,香川県政,高松市政の順で信頼できるとする人の割合が増える 傾向にある。国政を信頼する人は 3割を下回っているのに対し,高松市政

は6割近くの人が信頼できるとしている。また,各レベルの政治への信頼 同士の相関は,国と香川県,高松市との間ではさほど高くない一方 (n

1 各レベルの政治に対する信頼

国 政 香川県政 高松市政 いつも信頼 0.3%  0.3%  1.9% 

だいたい信頼 27.9%  52.4%  57. 7% 

あまり信頼できず 62. 7%  41.1 %  36.4% 

まったく信頼出来ず 6.9%  3.4%  2.2% 

DK,  NA  2.2%  2.8%  1.9% 

(6)  本調査は日本学術振典会科学研究費を受けて行われた(調査時点における研究代表 者の所属は,香川大学経済学部である)。本調査のデータを使用することをお許しい ただいた安野氏に感謝を申し上げる。なお,スノーボール調査の詳細は以下の通りで ある。

・対象者に対し,ネットワーク設問として,「ふだんよく話をする人」を3人まであげ てもらう。

• それぞれの人について,その基本的属性や主回答者との関係などを回答。

・主回答者への質問票には共通のIDナンバーを持つ他者用質問票,送付用封筒,(調

査者への)返送用封筒をそれぞれ3部同封し,主回答者のネットワーク設問で「1 四

番よく話す人」「2番目によく話す人」「3番目によく話す人」としてあげられた本 人に転送するよう依頼。

・主回答者によるスノーボール他者の性別,年齢の回答と,スノーボール他者自身の 回答とに麒齢があるものは分析から除外した。

(10)

=.450,  .446), 香川県と高松市との間では極めて高かった (Tb=.829)。 高松市は香川県の県庁所在地であり,香川県と高松市の政治がかなり近い ものとして捉えられているものと思われるが,これらの傾向は全国調査に

¥ i) 

おいても,同様に見られる傾向である。

4.  地方政治の特質と形成要因

4. 1.  地方政治への信頼を構成する要素

各レベルの政治信頼がいかなる要素から構成されるかを検討するに当た り,ここでは政治システムヘの信頼,内的有効性感覚,および外的有効性 感覚との関連を確認する。ただし外的有効性感覚については,高松調査で は明らかに国政について尋ねた質問しか用意されていないため,地方政治 への信頼との関連を正確に把握することはできないことに注意が必要であ る。それぞれの要素を表す変数は,次のように作成した。政治システムへ の信頼については,「政党があるから」「選挙があるから」「国会があるか ら」庶民の声が反映されるという質問への回答 (4段階)の合計値を算出

(8) 

している。また,内的有効性感覚は「自分一人くらい棄権しても構わない」

「政治や政府は複雑で理解できないことがある」という質問への回答 (4

(7)  質問文に若干の違いがあるが,全国調査である JESII調 査 の 第7 (199610 11月)に同様の調査項目がある。各レベルの政治への信頼は,以下のような分布を

とっている。

都道府県 市区町村

旦?ーーも堡璽竺きゑ_――---―ーし墜_――---~:.?_~~---~:

だいたい信頼できる 30.3%  36.6°0  40.2% 

---疇•ときどきは信頼できる 45. 9%  41. 5°0  37. 2% 

まったく信頼できない 17.5%  10.7°0  10.3% 

DK, NA  5. 0%  9. 0°0  8. 8% 

また,国政と都道府県政への信頼の相関係数,ti'.619, 国政と市区町村の政治 では.487,都道府県政と市区町村の政治とでは.718であった。

(8)  政治システムヘの信頼も国政を対象とした質問から合成された変数であるが,選 挙,国会,政党といった国政レベルでの政治制度への信頼は,地方レベルにおける政 治制度への信頼と相関が高い (JEDS2000調査で地域の役所への信頼を尋ねている が,選挙制度や国会,政党などへの信頼との相関係数は概ね0.5 0.6であった)た め,分析に加えることは差し支えないと判断したこ

24‑2‑231 (香法2004) ‑ 10  ‑

(11)

2 政治信頼の諸次元と各レベルの政治への信頼 国 政

システム信頼 0. 323* *  内的有効性感覚 0.147* * 

外的有効性感覚 0.259*** 

※数値はケンドールの Tb

***: <0.005 

香川県政 0.322*** 

0.162*** 

0.195* * 

高松市政 0.308*** 

0.140*** 

0.179* * 

段階)の,外的有効性感覚は「誰が担当しても国の政治はよくならない」

「国会議員は当選後,国民のことを考えなくなる」という質問への回答 (4 段階)の合計値である。いずれの変数も,数値が大きくなるほど政治シス

テムヘの信頼や有効性感覚が高くなるよう処理を行っている。なお,これ らの政治信頼を構成する要素は,包括的な政治信頼を形成する要因という よりはその一部を成すものであることから,変数間の因果関係を測定する ことには馴染まないと考えられる。したがって,ここでは各レベルの政治 への信頼との相関係数を示すに留める。

結果は表2のとおりである。まず国政への信頼について見ると,政治シ ステムヘの信頼との相関が最も強く,これに外的有効性感覚が続く。内的 有効性感覚との間にも統計的に有意な相関は見られるが,他の二つの要素 と比較すると相関はかなり弱い。香川県政,高松市政について見ると,や はり政治システム信頼との相関が高く,内的有効性感覚との相関は低いと いう,国政への信頼と共通の傾向が確認できる。外的有効性感覚との相関 は国政ほど強くはないが,それでも内的有効性感覚と同程度かそれ以上の 相関が見られる。この変数を国政に関する質問から作成したことを考慮す れば,実際には(仮に地方政治をも包含する,もしくは地方政治に対する 外的有効性感覚を測定した場合)より強い相関が見られるであろう。さら に,留保が必要な外的有効性感覚を除けば,それぞれの要素との相関の程 度は国政と地方政治との間でほとんど差がない。

ここから,国政と地方政治への包括的な信頼はほぼ同じような構造を 持っている,すなわち政治制度など政治システムヘの信頼と主要アクター

(12)

である政治家への信頼を中心として構成され,自らの影響力に関する信頼 はごく一部を成しているに過ぎないと考えることができるだろう。地方政 治の方が住民にとって身近であるならば,地方政治への信頼は内的有効性 感覚の占める部分が大きいと予想したが,国政と同様に地方レベルにおい ても,政治システムヘの入力に関する指向は,包括的な信頼の主要な構成 要素とはなっていないようである。

4. 2.  地方政治への信頼を形成する要因 4. 2. 1.  分析枠組み

ここからは,地方政治への信頼を形成する要因について分析を行うが,

あらかじめ分析に用いる変数について説明しておく。従属変数には,国政,

香川県政,高松市政への信頼を用いる。質問文では各レベルヘの政治につ いて「いつも信頼できる」「だいたい信頼できる」「あまり信頼できない」

「まったく信頼できない」の 4段階で回答を求めているが,表 lにあるよ うに,「だいたい信頼できる」「あまり信頼できない」へと回答が集中して いる。このような傾向は,いずれのレベルの政治についても同様に見られ るため,ここでは各レベルの政治への信頼を,「信頼できる」か「信頼で きない」かの二値変数へと変換した。したがって,分析にはロジスティッ ク回帰分析を用いることとする。

独立変数には,本稿が注目する政治過程への入力経験,社会関係資本,

対人情報環境に関する変数に加え,党派性,個人資本,社会的属性変数を 投入する。具体的には,以下のような変数を独立変数として用いた。まず,

政治過程への入力経験を表す変数としては,過去 5年間における自治会活 動,および住民・市民運動への参加経験の有無 (1/ 0のダミー変数)を 利用する。政治信頼はしばしば政治参加の独立変数として扱われるよう

に,参加と信頼の間にある因果の方向には注意が必要である。ただ,自治 会活動や住民・市民運動といった活動は,政治信頼の度合に関わらず,必 要が生じれば実際に活動に参加するものと考えられ,また入力の対象が地

24‑2‑229 (香法2004) ‑ 12  ‑

(13)

方であることが一般的と思われるので分析に加えることにした。なお,厳 密には自治会活動が政治過程への入力を伴うものであるとは限らないが,

地方政府の行政活動と自治会とは密接な関連があることから,ここでは政 治過程への参加経験を表すものと見なすことにする。なお,自治会活動,

住民・市民運動への参加経験を持つ人の割合は,それぞれ35.1%, 5.3% 

である。

社会関係資本の変数には,コミュニケーションを通じて蓄積される社会 関係資本として周辺他者と政治的会話をする頻度,周辺他者との親しさを 分析に投入する。具体的には,政治的会話をよく,または時々する人の数,

および非常に親しい人の数をそれぞれの値としている (0‑‑‑‑‑3の 4段階)。

なお,参加経験として用いる自治会活動への参加は,ふつう集団的かつ恒 常的に行われる活動であることから,団体活動を通じた社会関係資本の蓄 積をもたらすと考えられる。したがって,分析結果を検討する際には,社 会関係資本の観点からも考察を加えていくことにする。

対人情報環境からの影響には,周辺他者が有する各レベルの政治への信 頼を用いる。ここでは,主回答者と周辺他者との 1対 1の関係に留まらず,

主回答者が所属するネットワーク全体が持つ情報環境からの影響を見るた めに,スノーボール他者のうち各レベルの政治を信頼している人の割合を 算出し,この値を分析に利用する。ただし,スノーボール他者の回答者が 一人しかいない場合には値が 1か0に集中し,極端に信頼・不信が強い ネットワークに属していることになってしまうため,ここでは 2名以上の ネットワーク他者から回答が得られたサンプルのみを分析の対象としてい る。

その他にコントロール変数として,性別,年代,教育程度 (5段階),

職業(無職,自営・家族従業)といった社会的属性,個人資本としての政

(9) 

治関心 (4段階),政治知識 (4段階),そして自民党への好感度 (4段階)

という党派性を表す変数も分析に加える。

(14)

4. 2. 2.  分析結果

結果は表 3のとおりである。なお, 2名以上のネットワーク他者から回 答があったか否かによってバイアスが生じる可能性も考えられるため,

ネットワーク他者からの影響以外の変数については全サンプルを対象とし

(10) 

た分析も行っている。表2の左列に対人情報環境を含まないモデルの,右

3 政治的信頼のロジスティック回帰分析

国政 香川県政 高松市政

参加経験 自治会活動への参加 0.108  0.224  0.467+  0.070  0,344  0.022  市民・住民運動への参肌 0.344  2.228+  0.296  ‑1.623+  0.616  ‑1.803*  社会関係資本 政治的会話をする人の数 0.263*  0.412+  0.117  0.151  0.216+  0.269 

親しい人の数 0.243+  0.118  0.135  0.123  0.092  0.032  ネットワークの目政信頼 1.065 

対人情報棗境 11  llI 1.630* 

  謡輯蒻 .  5167* 

性別 0.558+  0.306  0.1.JS  O.  lll  0.022  0.073  年代 0.218  0.159  0. 5* 0.346+  0.345* *  0.380+  社会的属性 教育程度 0.298* *  0.247  0.103  0.010  0.095  0.045 

職業:無職 0.142  0. 7 0.292  0.146  0.484  0.243  職業:自営・家族従業 0.464 1.562+  0.416  1.164+  0.650+  1.323*  個人資本 政治関心 0.027  0.254  0.128  0.130  0.064  0.124 

政治知識 0.092  0.211  0.  0.125  0.042  0.182  党 派 性 自民党への好感度 0.  930* *  0.8i3* *  ,',.~.,, 拿** 0.637*  0.553***  0.  785* * 

定数 0.636    51.71  11 .'‑" ‑ 1.062  0.374  0. 627  310  129  こ,•,.I~ 128  311  128 

‑2対数尤度 333.498  126. 755  ー・,・・-・.— 149.211  373. 730  139.894 

Cox & Shell R ‑sq  0.121  0.170  .  0.174  0.131  0.212 

※+: 

.l<p~.05, *: .05<p~.01, **: .Ol<p~.005, ***: p<.005 

(9)  政治知識は,「省庁再編後の旧大蔵省の名H印.―民

t

党の代表名」(ともに自由回答)

から算出した。具体的には,旧大蔵省の名前を正しく回答していたら 2点,誤ってい

たら 0点を,また民主党の代表名を正しく回答'̲,‑ていたら 2点,部分的に誤りがある 場合は 1点,誤っていたら 0点を与え,両方の点款を合計している。

(10)  2名以上のネットワーク他者から回答があっ、てか否かを従属変数とし,ここでの分 析に用いる変数群を独立変数としたロジスティン'ク[

j帰分析を行ったところ,政治知 識のみから有意な影響が確認された。

24‑2‑227 (香法2004) ‑ 14  ‑

(15)

列に対人情報環境を含むモデルのロジスティック回帰係数を示した。あわ せて,主要な独立変数である参加経験,社会関係資本,対人情報環境およ び自民党への好感度からの影響の大きさについて,他の要因をコントロー

2 政治的信頼:シミュレーション結果

親しい人の数 政治参加経験

80%  80% 

70%  70% 

‑‑‑‑-• ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑a  ̲̲ . ..

60% 

  . .

60% 

50%    50% 

40% 

40% 

~ 30% 

20% I 

20%  、ー

I,•~

靡 賛 [

10%  10% 

0%  0% 

なし自治会活動 市民・住民運動なし

政治的会話をする人の数 対人情報環境

80%  80% 

70%  ‑‑‑‑‑‑---~--‑‑‑‑‑‑ 70% 

50%  ▲ ‑‑‑‑‑‑‑‑‑

イ '

60%50% 

40%

I1

7

開 叫 [

40%

率 3 

^ 

20% 10% 

‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑

20% 10% 

0 %   0% 

0% ネットワーク内で信頼している人の割合33%  67%  100% 

自民党への好感度 90% 

80% 

70% 

50% 

409{, 

I  ヽ ~~

30%  \ 

20% 

10% 

0 %  

好き やや好き やや嫌い 嫌い

J¥ 

(16)

0七

(11) 

ルした上でシミュレーションを行った(図2参照)。

まず参加経験について見ると,国政,地方政治ともに,自治会活動から の影響は弱いものに留まっている。自治会活動への参加は,参加しなかっ た場合に比較して香川県政,高松市政への信頼を 10%程度高める効果は あるものの,統計的に有意とはいえない。自治会活動は政治過程への関与 を表すだけでなく,団体活動を通じた社会関係資本の蓄積をもたらすもの と考えたが,いずれにしてもその効果は大きいとは言えない。また,市民・

住民運動団体に参加した経験との間には政治信頼との関連性が見られる が,国政以外は想定していたものとは逆の効果,すなわち参加したことの ある人ほど不信となる傾向が見られた。市民・住民運動への参加は,政策 的なアウトプットヘの不満や,強い政策的な指向を背景としてなされ,そ のため活動への参加自体は政治への信頼には結びつかないのであろう。

コミュニケーションを通じた社会関係資本は,政治への信頼に結びつい ているだろうか。結果としては,国政への信頼に対しては政治的な会話か らの影響が見られたが,社会関係資本の議論から想定されるものとは逆 に,政治的な会話が少ないほど信頼が高まるという関係であった。香川県 政や高松市政といった地方政治への信頼との間には想定したとおり正の関 係が見られるが,ネットワーク内部の人たち皆と政治的な会話を交わした り,皆と親しかったとしても,そうでない場合と比較して 10%程度信頼 する確率が高まる程度であり,さほど大きな効果があるとは言い難い。

これに対し,対人情報環境については典味深い結果が得られた。国政の 場合,ネットワーク内部が信頼度の高い環境であるほど本人の信頼も高ま るという関係が見られるが,統計的に有意というほどではない。それに対

し,香川県政,高松市政に対する信頼は,かなり強い対人情報環境からの 影響を受けていることが分かる。また,国政については多くのネットワー クが不信の強い環境を形成しているのに対し,地方政治については不信の

(11)  対人情報環境以外は,全サンプルを対象とした分析結果を用いてシミュレーション を行っている。

24‑2‑225 (香法2004) ‑ 16  ‑

(17)

3 ネットワークの持つ政治信頼

国政

香川県政

高松市政

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

10%

33.3%

□ 

50.0%  lil 66. 7%

■ 

100%1 

2名以上のネットワーク他者から回答があったサン プルのみを対象としている。なお,数値はネットワ ーク内部において,各レベルの政治を信頼している 人の割合を示している。

強いネットワークから,かなり信頼の高いネットワークまで多様なネット ワークが存在している(図 3参照)。このことも考え合わせれば,国政よ り地方政治への信頼の方が,対人環境の持つ効果は強いと言えるだろう。

その他の変数では,自民党への好感度からの影響が,国政と地方政治を 問わず,極めて強いことが目を引く。シミュレーションを行うと,自民党 に強い好感を抱いている人と強い嫌悪感を抱いている人とでは,信頼する 確 率 が50%前 後 変 わ り , こ の 傾 向 は 国 政 , 地 方 政 治 の 間 で ほ と ん ど 違 い がない。香川県,高松市ともに首長は保守系であり,また議会も保守系議 員が多数を占めることから,党派性は(国政の場合と同様)地方政府を構 成するエリートヘの信頼や地方政府の施策への評価を,部分的にではある が表しているものと考えられる。地方政治が住民にとって身近であり,コ ミ ュ ニ テ ィ の 代 表 性 を 有 す る と い う 議 論 か ら 考 え ら れ る 要 因 か ら の 効 果 が,対人情報環境についてしか見られないことと党派性から強い影響が見 られることとを併せて考えれば,中央・地方というレベルの如何に関わら ず,政治への信頼は政府や政治エリートヘの評価・認識を主要)レートとし

0六

(18)

て形成されているとは言えないだろうか。

0五

4 .  3 .  

何が信頼・不信の共有をもたらすのか

前節の分析で,地方政治への信頼に対する対人情報環境からの影響を確 認することができた。それでは,何がこうした対人情報環境の形成を媒介 するのであろうか。言い換えれば,対人間のどのような相互作用を通じて,

地方政治への信頼あるいは不信の共有は進むのであろうか。対人情報環境 が形成される上では何らかの形でネットワーク内部に情報が流通する必要 があるが,ここでは政治的な情報や政治に対する認識を他者に伝える機会 として,政治的な会話と自治会活動に注目する。なお,ここでは主回答者 と第一他者,主回答者と第二他者,主回答者と第三他者というペア・デー タを作成し,その後,このペアをユニットとして作成したデータセットを 用いている(主回答者の回答が三回出現するリピート・データセットであ

る)。

表4に,政治的会話の有無,自治会活動経験によって,どの程度の信頼・

不信の共有が見られるかを示した。具体的には,政治的会話があるペアと ないペア,および自治会活動をともに経験しているペアといずれかが経験

しているペア,どちらも経験していないペアの間で,双方が信頼している 割合,いずれかが信頼している割合双方が不信である割合を示した。

まず,政治的会話について見ると,国政と地方政治とでは信頼の共有の パターンに明確な違いが見られる。国政に関しては,会話がないペアほど 信頼についても不信についても共有される傾向がある。それに対して地方 政治の場合,政治的な会話があるペアでは信頼が共有され,わずかな差で はあるが,政治的な会話がないペアでは不信が共有されているようであ る。自治会活動について見ると,やはり国政と地方政治とでは信頼・不信 を共有するパターンが異なることが分かるこ国政については自治会活動経 験と共有の間に一貫した傾向を見出すことが出来ないが,地方政治につい ては,ともに自治会活動に参加しているペアの場合,信頼が共有されると

24‑2‑223 (香法2004) ‑ 18  ‑

参照

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