近年、ハイブリッドカーのモータ用磁石の需要が伸びて いる。この用途では使用中に磁石の温度が 200℃程度にま で上昇するので、熱減磁を避けるために室温で 2,380 kA/m
(30 kOe)程度の保磁力を有する磁石が必要となってきてい る。図 5 は Nd2Fe14B 永久磁石の用途別エネルギー積、保磁 力、合金基本組成を示した図である。電気自動車で用いる モータでは動作環境が 200℃以上になることから、室温で 30 kOe もの高保磁力が必要とされる。現在市場に出荷され ている Nd-Fe-B 焼結磁石では、保磁力上昇のために重希土 類元素 Dy で Nd を置換して(Nd,Dy)2Fe14B 相として磁石化 合物の結晶磁気異方性を高めている。ところが、Dy は Fe, Nd と反強磁性的結合をする性質を持っているために、その 添加によって化合物の磁化が減少してしまうという重大な欠 点がある。そのため電気自動車用磁石では Nd の 40% を Dy で置換して高保磁力を得てはいるものの、エネルギー積は小 さくなる。さらに近年問題となっているのは Dy 自体の供給 不安である。Dy はその埋蔵量が少なく、原産地が中国にほ ぼ限定されているため、Dy 含有量が Nd との自然産出比を 超えた Dy 含有磁石をハイブリッド自動車や電気自動車用に 大量に製造すると、近い将来 Dy の市場価格が高騰し、国内 での電気自動車の生産が Dy の原料供給に左右されるように なる。Nd に対する Dy の自然存在比は 10% 程度であり、Dy 使用量を現在の半分以下に抑えつつ、室温での保磁力を 30 kOe とした Nd-Fe-B 系焼結磁石を開発していかなければなら ない。図6に見るように、Dy や Tb などの重希土類元素を 加えない Nd2Fe14B 焼結磁石の保磁力は高々 790 kA/m (10 kOe)程度であり、完全孤立した単磁区粒子の整合回転か ら期待される理想的な保磁力の異方性磁界 HA(〜 90 kOe)
のわずか 11% 程度にしか達していない。これを例えば 40%
に改善するだけでも飛躍的な磁石特性の向上が期待される。
焼結磁石の微細組織は図7の SEM-BSE 像でにグレーで観 察される 5
μ
m 程度の Nd2Fe14B 結晶粒と明るいコントラス図6 Nd-Fe-B 系焼結磁石の特性、用途、組成(佐川による)
トで観察される Nd リッチ相から構成されている。Nd リッ チ相は結晶粒界3重点で粒子として、さらに結晶粒界には薄 い粒界相として存在している。この非磁性の Nd リッチ相が 結晶粒を薄く囲んで個々の粒子間の磁気的な結合を弱める ことによって保磁力を実現している。このような結晶結晶 粒界に局所的に異方性の低い部分が存在すると、そこから 低い反転磁場で逆磁区が核生成するために保磁力が小さくな る。そのようなウイークポイントを結晶粒界から完全に取り 除き、異方性磁界まで逆磁区の核生成が押さえられると保磁 力を高めることができる。このような結晶粒界で Nd リッチ 相と Nd2Fe14B 相の界面で結晶磁気異方性が落ちないような 粒界相を均一に形成させるような合金・熱処理設計が必要と なる。Nd2Fe14B 化合物の結晶磁気異方性を高める Dy や Tb を Nd2Fe14B の Nd と置換すると飽和磁化が減少するが、こ のような重希土類元素置換を結晶粒界部分に止めることがで きれば、飽和磁化を大きく下げることなく、保磁力を増加 させる事もできと期待される。Dy は Nd の 10% 程度は自然 に存在するので、Dy を粒界に局在化させ、その使用量を Nd の 10% 以下であれば資源的な問題はない。しかしながら、
最大エネルギー積を上げるためには、完全 Dy フリーな Nd-Fe-B 系高保磁力磁石が開発されることが望ましい。
最近、加藤らは Cu を添加した焼結磁石を強磁場中で熱処 理すると著しく保磁力が増加することを見いだした17)。こ れは結晶粒界相が Nd2Fe14B との c- 軸方向にそって完全に整 合な界面を形成し、これが界面部分での保磁力の減少を防ぐ としている。このことから界面ナノ構造を制御することに よって界面部分まで結晶磁気異方性の低下しない焼結磁石組 織を実現することが可能だとしている。また保磁力は結晶粒 界での核生成頻度に比例して減少するので、個々の結晶粒を 微細化して核生成頻度を下げるというのも高保磁力焼結磁石 の設計の指針となる。しかしながら、従来の焼結磁石ではス トリップキャストした急冷片を窒素雰囲気中でジェットミル 粉砕していたたために、結晶粒界を微細化しても保磁力があ る臨界径以下で急激に失われるという現象が知られている。
これは粉体表面での酸化に原因があることが最近の我々の研 究によって明らかとなってきており、よりクリーンな環境で ジェットミル粉砕を行い、完全に制御した雰囲気のもとで粉 砕→磁場中プレス→焼結というプロセスを行えば、Dy フリー で保磁力の高い焼結磁石を製造できる可能性がある。
5.まとめ
永久磁石材料は今後環境・エネルギー材料として極めて 重要な材料であるにも拘わらず、近年の研究熱の衰退により 技術革新から遠ざかっていた。現在市場を席巻している Nd-Fe-B 系磁石の開発という世紀の大発明が我が国でなされた にも拘わらず、近年は資源問題、製造コスト問題から製造拠 点が中国に移りつつある分野である。産業上、特に今後の環 境自動車製造上の重要性を考えると、我が国のお家芸であっ た磁石研究を安易に捨て去ることはできない。本稿で概観し たような技術革新が実現すれば、資源問題をも解決できる永 久磁石材料の開発の可能性がある。産業空洞化の最後の一線 を守るためにも、今後「希少金属代替プロジェクト」「元素 戦略プロジェクト」の重要な一分野として、低希土類・脱重 希土類磁石の研究開発は活性化すべき分野である。
参考文献
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図7 焼結磁石の SEM-BSE 像と TEM 像
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13. R. Skomski and J. M. D. Coey, Phys. Rev. B, 48 (1993), 15812.
14. J. Zhang, Y. K. Takahashi, R. Gopalan, and K. Hono, Appl.
Phys. Lett. 86, 122509 (2005).
15. S. Hirosawa, Trans. Magn. Sco. Japan, 4, 101 (2004).
16. J. Zhang, Y. K. Takahashi, R. Gopalan, and K. Hono, Appl.
Phys. Lett. 86, 122509 (2005).
17. H. Kato, T. Miyazaki, M. Sagawa, and K. Koyama, Appl.
Phys. Lett. 84, 4230 (2004).
補足
文部科学省「元素戦略プロジェクト」
低希土類元素組成高性能異方性ナノコンポジット磁石の開発 代表機関 日立金属 (株)
チームリーダー 広沢 哲 参画機関
名古屋工業大学、九州工業大学、(独)物質・材料研究機構 従来の焼結磁石と同等以上の磁石特性を、ディスプロシウム など重希土類元素を用いず、ネオジウムなど希土類元素使用 量も低減した、低希土類元素組成で実現できる全く新しい磁 石材料の開発を目指す。飽和磁束密度の高い軟磁性相と保磁 力の高い硬質磁性相をコンポジット化した高性能異方性ナノ コンポジット磁石を開発し、サブミクロンサイズ微結晶粒の 磁化容易方向のそろった微結晶組織による異方性ナノコンポ ジット磁石を試作する。
経済産業省「希少金属代替材料開発プロジェクト」
希少金属代替材料開発プロジェクトディスプロシウム希土類 磁石向けディスプロシウム使用量低減技術開発
・東北大学、山形大学、(独)物質・材料研究機構、(独)日 本原子力研究開発機構、(株)三徳、インターメタリックス
(株)、TDK(株)
プロジェクトリーダー 杉本 諭(東北大)
Nd-Fe-B 結晶粒の微細化・原料粉末最適化技術、界面ナノ構 造制御技術(強磁場プロセス、薄膜プロセス、組織制御等)
を開発する。また、界面ナノ構造や磁化過程の詳細な解析や 計算科学により、高保磁力化のための指導原理を獲得する。
本研究においては、自動車会社による評価によって得られ た情報を製造プロセスへ還元し、更に高保磁力高性能な Nd-Fe-B 系焼結磁石の開発を目指す。
1.はじめに
蛍光体は、紫外線、電子線、X線などのエネルギーを吸収 して可視光線として放出する物質であり、ディスプレイや照 明の発光に使われる我々の生活を支える身近な材料である。
近年、照明は蛍光灯から LED 照明へ、ディスプレイは CRT から薄型テレビへ方式が移りつつある。新しい方式では、耐 久性に優れた高性能蛍光体が必要とされており、新しい蛍光 体が盛んに研究されている。
蛍光体は、母体となるセラミックス結晶に Eu や Ce など の発光を担う金属イオンが微量添加した材料である。発光に 寄与するは金属イオンであり、外から加えられたエネルギー を吸収して励起され、その後基底状態に戻る時に発光する。
ホスト結晶の格子は金属イオンを取り囲むことによりイオン を化学的に安定化させたり、結晶場や配位環境を整えること により発光色や発光強度を制御する働きをする。このよう に、蛍光体では有益な微量の金属元素から機能を引き出して おり、その使用量は少なく、元素戦略の面では優等生といえ る。ここでは、現在活発に研究されている薄型テレビや白色 LED 用の次世代の蛍光体の研究状況を述べる。