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化学物質の発達期曝露による脳白質発達障害の短期評価手法開発に関する研究

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Title

化学物質の発達期曝露による脳白質発達障害の短期評価手

法開発に関する研究( 本文(Fulltext) )

Author(s)

冨士本, 仁

Report No.(Doctoral

Degree)

博士(獣医学) 乙第123号

Issue Date

2013-09-24

Type

博士論文

Version

ETD

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12099/47369

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

(2)

1

化学物質の発達期曝露による脳白質発達障害の

短期評価手法開発に関する研究

2013 年

岐阜大学大学院連合獣医学研究科

冨士本 仁

(3)

2

目次

序論

4

1 章

デカブロモジフェニルエーテル (DBDE) 発達期曝露によるオリゴデンドロサイ

トの発達への影響

緒言

8

材料および方法 10

結果 15

考察 19

小括 24

2 章

発達期甲状腺機能低下に起因する脳白質低形成に関連する分子マーカーの探索

緒言 26

材料および方法 28

結果 33

考察 35

小括 40

3 章

臭素化難燃剤の発達期曝露動物における発達期甲状腺機能低下に起因するグリ

ア細胞発達障害分子の動態

緒言 42

(4)

3

材料および方法 44

結果 49

考察 52

小括 58

総合考察 59

結論 62

謝辞 65

引用文献 66

要旨 81

Abstract 84

図表 88

(5)

4

序 論

甲状腺ホルモンは, 胎児期や新生児期の正常な脳発達に不可欠であり, ニューロン, グリ

ア細胞の増殖, 移動および分化を制御している。妊娠初期の甲状腺機能低下は胎児の脳発達

に悪影響を与え, 発達遅延や神経障害, 行動障害および学習障害を引き起こすことが知られ

ている。近年, 環境中の難分解・高蓄積性化学物質の母親に対する曝露により, 母親の胎盤を

経由した胎児への曝露, 出生後の母乳を介した乳児への曝露から, 脳発達障害が生じる可能

性が指摘されている。これらの化学物質による, 甲状腺ホルモン産生抑制作用, 甲状腺ホルモ

ン輸送タンパク質および甲状腺ホルモン受容体に結合する直接作用を介した, 甲状腺ホルモ

ンかく乱作用に関する懸念が増加している。このような特徴を持つ化学物質のうち, ポリブ

ロモジフェニルエーテル類 (PBDEs), ポリ塩化ビフェニル, ペルフルオロオクタンスルホン

酸等の化学物質が, 2001 年に採択された「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約

(POPs 条約)」および 2006 年に EU で施行された「RoHS (Restriction of Hazardous Substances) 指

令」において規制対象物質に指定され, 現在も指定対象化学物質に関する議論が継続してい

る。

化学物質の発達神経毒性に関する評価については, 現在, 経済協力開発機構 (OECD) およ

び米国環境保護庁 (EPA) から試験ガイドラインが提示されている。これらガイドラインに則

った発達神経毒性試験は, 試験の信頼性および再現性については優れているものの, 高次試

(6)

5

験であるため, 必要とされる動物数, 検査項目および試験方法の複雑さから, 試験実施機関

には多大な労力が要求されている。また, 病理組織学的検索においては, 脳の組織構築の形態

計測が主体であり, 神経行動学的検査との整合性は乏しいため, 発達神経毒性の病理発生を

基盤とした解析手法の開発が望まれている。ことに, 実施する動物試験のサテライト指標と

しての導入はもとより, 簡便で高感度なスクリーニング試験指標としての確立が望まれてい

る。

本研究では, 神経毒性物質を短期試験でスクリーニングすることを目的として, 発達期甲

状腺機能低下に起因する白質の形成異常に関連する分子マーカーに着目した評価系の開発を

行った。第

1 章では, POPs 条約の規制対象外とはなっているものの, PBDEs の一種であるデカ

ブロモジフェニルエーテル (DBDE) の発達期曝露の影響について, 脳発達障害指標の形態計

測手法を導入して評価した。第

2 章では, 発達期甲状腺機能低下に起因する白質発達異常に

関連する分子マーカーを見出すために, 抗甲状腺剤を発達期において曝露したラットの脳を

用いて, マイクロアレイによる白質組織特異的な網羅的遺伝子発現解析を行い, 抽出した分

子について, 免疫組織学的手法による細胞局在解析を実施した。第 3 章では, 軽度の発達期甲

状腺機能低下が認められた

DBDE について, 発達期曝露ラットを用いた白質組織特異的な網

羅的遺伝子発現解析を行い, 抗甲状腺剤を発達期曝露したラットにおけるプロファイルと共

通して発現変動を示した分子を抽出した。抽出した分子については, DBDE と同様に臭素化難

燃剤であるヘキサブロモシクロドデカン (HBCD) およびテトラブロモビスフェノール A

(7)

6

(TBBPA) を発達期曝露した動物についても DBDE 発達期曝露ラットと同様に免疫組織学的

解析を行い, 見出したマーカーの有用性について検討した。

(8)

7

1 章

デカブロモジフェニルエーテル (DBDE) 発達期曝露によるオリゴデンドロサイトの発達へ

の影響

(9)

8

緒 言

甲状腺ホルモンは, 胎児期, 新生児期の正常な脳発達に不可欠であり, この時期の甲状腺

機能低下は, 発達遅延, 行動障害および学習障害等の神経障害を引き起こす [1, 57, 60, 66]。動

物実験においても, 母動物の血清中甲状腺ホルモン濃度は胎児の甲状腺ホルモンレベルに直

接の影響を及ぼし, 母動物がプロピルチオウラシル (PTU) 等の抗甲状腺剤に曝露された子

動物では, ニューロンの移動異常や, 軸索の髄鞘形成不全, オリゴデンドロサイトの減少お

よび白質の低形成が生じる [28, 44, 56, 66, 71]。妊娠初期においては, 軽度の甲状腺ホルモン

レベルの変化でも子供に有害影響が生じる可能性が示唆されていることから, 環境中の甲状

腺ホルモンかく乱化学物質への懸念が近年高まっている。

臭素化難燃剤は, コンピューターやテレビ, 携帯電話, 家具, カーペット, 断熱板, マット

レス等, 様々な製品に使用されている効果的な難燃剤である [5]。臭素化難燃剤の多くは, 脂

溶性が高く, 難分解性であり, 生物濃縮性が高いことから, 環境影響およびヒトの健康への

影響が懸念されている [15]。近年の研究により, 臭素化難燃剤の一種である PBDEs は発がん

性, 甲状腺への毒性, エストロゲン作用あるいは神経毒性をヒトおよび実験動物で示すこと

が明らかになり, PBDEs 曝露による発達期甲状腺機能低下等の子供への影響について強く懸

念されている [43, 59, 72]。DBDE は PBDEs の中で最も使用量が多く, PBDEs の中では比較的

生物蓄積性が低いと考えられているものの, ヒトの血中でも検出されており, 職業曝露の影

(10)

9

響も報告されている [73, 77, 82]。また, マウスおよびラットの新生子への DBDE 曝露により,

行動異常を起こすとの報告もある [82, 83]。

本章では, DBDE 発達期曝露の影響を評価するため, 妊娠ラットに DBDE を 10, 100 および

1,000 ppm で妊娠 10 日目から離乳時まで混餌投与し, 子動物に経胎盤・経乳的に曝露した際

の毒性影響を検討・評価した。特に, 発達期甲状腺機能低下に関連する脳発達異常について

検索するため, 著者らが過去に確立した, ニューロンの移動異常やオリゴデンドロサイトの

発達異常を検出する形態計測手法を導入して評価した [71]。

(11)

10

材料および方法

化学物質

DBDE は和光純薬工業 (Osaka, Japan) より購入した。

供試動物

妊娠

3 日目の雌性 CD (SD) IGS ラットを日本チャールス・リバー (Yokohama, Japan) より購

入し, 温度 24 ± 1℃, 湿度 55 ±5 %, 照明サイクル 12 時間明/12 時間暗条件の環境下でポリカー

ボネートケージ内において飼育した。飼料は, 甲状腺ホルモン産生への影響を除くため, 大豆

由来の植物性エストロゲンを除いた

SF (NIH-07 変型) 飼料 (オリエンタル酵母工業, Tokyo,

Japan) を用い [47], 飲用水は上水道水を用いて, それぞれ自由摂取とした。一週間の馴化期

間の後, 異常が認められなかった動物を実験に供した。

実験デザイン

32 匹の母動物を 4 群に分け, 0, 10, 100 および 1,000 ppm DBDE を妊娠 10 日目から離乳時 (出

産後

20 日) まで混餌投与した (無処置群, 10 ppm DBDE 群, 100 ppm DBDE 群および 1,000 ppm

DBDE 群)。事前に 0, 10, 100 および 10,000 ppm DBDE を妊娠 10 日目から離乳時まで混餌投与

する用量設定試験を各群

3 匹の妊娠ラットを用いて実施した。明確な用量反応性は認められ

(12)

11

なかったものの, 全用量において, 甲状腺の絶対・相対重量が増加傾向を示し, 甲状腺の濾胞

上皮細胞の肥大が認められた。用量設定試験では, 妊娠, 出産に関連するパラメーターに影響

は認められなかった。10 ppm においても母動物の甲状腺重量に影響が認められたことから,

投与濃度の最低濃度を

10 ppm とした。

本試験では, 全ての母動物について, 妊娠・授乳期の体重と摂餌量を測定した。子動物につ

いては,生後翌日に出生子数,体重および肛門・生殖突起間距離 (AGD) を測定し,生後 2

日目に

1 匹の母動物あたり雌雄各 4 匹となるようにリッター・サイズを調整した。体重は離

乳までの間, 毎週測定した。離乳時には,母動物に対する DBDE 投与を終了し,全ての母動

物を剖検に供した。子動物についても, 離乳時(生後 20 日目)に各群雌雄 10 匹ずつについ

て春期発動前の剖検を実施し, 病理組織学的評価を行った。さらに, 各群の雌雄 10 匹ずつの

子動物を剖検し, 免疫系への影響評価に供した [26]。残りの子動物は, 通常の基礎飼料である

CRF-1 (オリエンタル酵母工業) に切り替えて飼育し, 生後 11 週目に剖検を行った。これらの

動物について, 雌動物は生後 26 日目, 雄動物は生後 34 日目より春期発動 (包皮分離および膣

開口) の日と体重を記録した。雌動物については,生後 8 週目より膣スメアの観察による性

周期回帰の検討を行い,発情休止期を示す日に解剖を行った。いずれの剖検時も, エーテル

麻酔下で腹大動脈から採血後に放血し, 安楽殺した。

子動物の離乳時の剖検では,脳,甲状腺, 肝,腎,副腎,精巣,精巣上体,卵巣および子

宮を採材し,甲状腺以外は臓器重量を測定した。精巣と脳はブアン固定を,他の臓器はホル

(13)

12

マリン固定を行った後にパラフィン包埋した。生後

11 週目の剖検時には更に,前立腺,精嚢,

凝固腺および下垂体を採材し, ホルマリン固定後に重量測定, パラフィン包埋を実施した。母

動物については, 離乳時の剖検時に甲状腺を採取して病理組織学的検索を実施し,子宮の着

床痕数を確認した。

動物実験計画は, 実施施設 (国立医薬品食品衛生研究所) の動物実験倫理委員会に提出し

て承認を受け, 動物の取り扱いは施設の実験動物指針を遵守した。

甲状腺関連ホルモンの測定

離乳時および

11 週目の剖検時に, 各群 10 匹の雄子動物から採取した血液を用いて, 甲状腺

刺激ホルモン (TSH), トリヨードサイロニン (T

3

) およびサイロキシン (T

4

) の血清中濃度を,

エスアールエル (Tokyo, Japan) にて, 化学発光免疫測定法により測定した。

病理組織学的解析

離乳時および

11 週目の剖検時に採取した各臓器について, パラフィン包埋後に, 3 µm の厚

さに薄切した後にヘマトキシリン・エオジン (HE) 染色を施し, 病理組織学的検索を行った。

大脳については, Bregma の後方約–3.4 mm の 1 カ所で冠状割面を作製し, その対称面が薄切面

となるようにして

Bregma の後方–4.5, –2.3 mm で病理標本を作製した。

(14)

13

免疫組織化学的解析

生後

11 週目の剖検時に得られた雄子動物の脳を用いて, オリゴデンドロサイトを特異的に

標識する

2’,3’-cyclic nucleotide 3’-phosphodiesterase (CNPase; mouse monoclonal antibody, 1: 300,

CHEMICON International, Inc., Temecula, CA) および有糸分裂後ニューロンの核を特異的に標

識する

neuron-specific nuclear protein (NeuN; mouse monoclonal antibody, 1: 1,000, CHEMICON

International, Inc.) について免疫組織化学的解析を実施した。CNPase 抗体使用時には, 標本を

10 mM クエン酸緩衝液内でマイクロウェーブにより 10 分間加熱することにより抗原賦活化

を行った。シグナル検出は, VECTASTAIN Elite ABC Mouse IgG kit (Vector Laboratories, Inc.,

Burlingame, CA, USA) のプロトコールに従い, 免疫反応は 3,3’-diaminobenzidine/H

2

O

2

を用い

て可視化した後, ヘマトキシリンにより対比染色した。

海馬

CA1 領域でのニューロン分布を検討するために, NeuN 染色切片を用いて,Bregma の

後方–4.5 mm の冠状割面における左右 1 箇所の CA1 領域(海馬台の頭側)を 200 倍の顕微鏡視

野で観察した (Fig. 1-1)。また, 白質領域の測定に関しては, CNPase 染色切片を用いて, 1 個体

につき大脳の

2 つの冠状割面での脳梁面積を測定した。即ち, 左右の大脳半球をまたぎ, 帯状

束と背側海馬交連に挟まれた脳梁領域のうち上縁 (外側縁) が頭頂部に最も近いところで区

切った部位の面積を求め, 2 割面の平均値を求めた (Fig. 1-2)。次に, 大脳皮質に分布する

CNPase 陽性オリゴデンドロサイトの単位面積 (mm

2

) 当りの数を, 100 倍の顕微鏡視野におけ

る内側下端が帯状束の上端に重なるように視野を固定した状態で, 拡大を 200 倍にした際の

(15)

14

頭頂部大脳皮質中間層において計測し, 2 割面の左右の平均値を求めた (Fig. 1-2)。定量解析の

ために, DP70 Digital Camera System (オリンパス, Tokyo, Japan) を搭載した BX51 microscope

(オリンパス) にて染色標本の写真を取り込み, WinROOF image analysis software 5.7 (三谷商事,

Fukui, Japan) を用いて細胞数や面積を計測した。

統計解析

定量データについては無処置群と各

DBDE 投与群間で比較した。Bartlett 法により分散性の

同等性を評価した後に, 分散が等しい場合は Dunnett 法, 分散が等しくない場合は Dunnett 型

の多重比較検定を実施した。病理組織学的検査における病変発生頻度および性周期について

Fisher の正確確率検定を実施し, 病理組織学的検査における病変の程度については

Mann-Whitney の U 検定を実施した。

(16)

15

結 果

母動物に対する影響

妊娠期間 (妊娠 10~20 日目) を通して, 母動物の体重増加および摂餌量に DBDE 投与によ

る変化は認められなかった (Table 1-1)。授乳期間中 (出産後 1~20 日目) においても, いずれ

のパラメーターにも

DBDE 投与による変化はなかった。よって, 母動物の DBDE の一日摂取

量は混餌濃度に比例すると考えられた。出産関連のパラメーターである子宮の着床痕数, 出

産子動物数, 子動物雌雄比についても DBDE 投与による変化は認められなかった (Table 1-1)。

離乳時の剖検において, 体重に DBDE 投与による変動は認められなかったが, 甲状腺の絶

対・相対重量が

10 ppm および 1,000 ppm DBDE 群で有意に増加し, 100 ppm 群においても, 統

計学的に有意な差は認められなかったものの, 増加傾向を示した (Table 1-1)。甲状腺濾胞上皮

のび漫性肥大については, 発生頻度, 程度ともに無処置群と DBDE 投与群で統計学的に有意

な差は認められなかった。

離乳時剖検までの子動物に対する影響

出産翌日の子動物において, 外表奇形はいずれの投与群でも認められず, 子動物体重およ

AGD についても, 雌雄ともに DBDE 曝露による影響は認められなかった (Table 1-1)。

(17)

16

れ, その他の臓器重量および体重は, 無処置群と比較して各 DBDE 曝露群に差異は認められ

なかった (Table 1-1)。雄子動物では, 明確な用量反応性は認められなかったが, 10 ppm DBDE

群の肝臓の絶対・相対重量, 1,000 ppm DBDE 群の肝臓絶対重量が有意に増加した。雌子動物

では, 1,000 ppm DBDE 群の肝臓の絶対・相対重量が有意に増加した。

子動物の春期発動および性周期に対する影響

雄子動物の包皮分離, 雌子動物の膣開口の時期およびその際の体重について, DBDE 曝露に

よる変化は認められなかった (Table 1-2)。性周期についても, DBDE 曝露による異常所見の統

計学的に有意な変動は認められなかった (Table 1-2)。

離乳時から成熟時剖検までの子動物に対する影響

100 ppm DBDE 群の雄子動物では, 生後 4 週から生後 11 週目まで, 試験期間を通して有意な

体重増加を示した (Fig. 1-3)。10 ppm DBDE 群の雄子動物においても, 生後 4, 5, 8 週目を除い

て有意な体重増加を示した。雌子動物については, 試験期間を通して, DBDE 曝露による体重

の変化は認められなかった (Fig. 1-3)。

生後

11 週目の剖検では, 10 および 100 ppm DBDE 群の雄子動物に体重の有意な増加が認め

られた (Table 1-3)。100 ppm DBDE 群の雌子動物においても, 統計学的に有意ではなかったも

のの体重の増加傾向が認められた。臓器重量については, 脳の相対重量の有意な減少が 10,

(18)

17

100 ppm DBDE 群の雄子動物および 100 ppm DBDE 群の雌子動物で認められた (Table 1-3)。ま

た, 100 ppm DBDE 群の雄子動物では, 腎臓および甲状腺の絶対重量が有意に増加した (Table

1-3)。

血清中甲状腺関連ホルモン

各剖検時に雄子動物について血清中甲状腺関連ホルモンを測定したところ, 1,000 ppm

DBDE 群において, 離乳時に T

3

の有意な減少が認められ, 生後 11 週目に T

4

の有意な減少が認

められた (Table 1-4)。

子動物の各剖検時における病理組織学的解析

離乳時の剖検では, 全ての DBDE 曝露群の雄子動物において, 甲状腺濾胞上皮のび漫性肥

大が認められ, 1,000 ppm DBDE 群では, 発生頻度, 程度共に有意に増加した (Table 1-5, Fig.

1-4)。雌子動物でも同様の変化が 10, 1,000 ppm DBDE 群で認められたが, 発生頻度および程度

に統計学的に有意な差はなかった。肝臓では, 全ての DBDE 曝露群の雄子動物で, 細胞質が好

酸性を示す肝細胞のび漫性肥大が, 発生頻度および程度に有意な増加を示した (Table 1-5, Fig.

1-4)。雌子動物でも同様の変化が認められ, 100 ppm DBDE 群では発生頻度が有意に増加し,

1,000 ppm DBDE 群では発生頻度および程度が有意に増加した。腎臓では, 皮質近位尿細管上

皮の細胞質好酸性の増加が雌雄共に全ての

DBDE 曝露群で認められ, 雄子動物では 100 ppm

(19)

18

以上, 雌子動物では 10 ppm 以上で発生頻度および程度が有意に増加した (Table 1-5, Fig. 1-4)。

さらに, 雌子動物では, 卵巣の間質腺細胞の増加が 1,000 ppm DBDE 群に認められたが, 統計

学的に有意な差はなかった。

生後

11 週目の剖検時には, 全ての DBDE 曝露群の雄子動物で, 甲状腺濾胞上皮のび漫性肥

大が認められたが, 発生頻度および程度に統計学的に有意な差はいずれの群においてもなか

った (Table 1-5, Fig. 1-4)。雌子動物では, 同様の変化は 100, 1,000 ppm DBDE 群にそれぞれ 1

例ずつ認められたのみであった。その他の病理所見に関しても, 雌雄ともに, 統計学的に有意

な差は認められなかった。

成熟時の子動物における脳形態計測

海馬

CA1 領域でのニューロン分布に関しては, NeuN 陽性ニューロンの錐体細胞層からの平

均距離, 錐体細胞層内の NeuN 陽性ニューロン数および異常分布を示した NeuN 陽性ニューロ

ン比のいずれにおいても, DBDE 曝露による変化は認められなかった (Table 1-6)。白質発達に

関しては, CNPase 陽性の脳梁面積, 大脳皮質の CNPase 陽性オリゴデンドロサイト数共に, 100,

1,000 ppm DBDE 群で有意に減少したが, 明確な用量反応性は認められなかった (Table 1-6,

Fig. 1-5)。これらの白質発達に関連する指標は, 10 ppm DBDE 群においても, 統計学的に有意

な差はなかったものの減少傾向を示した。

(20)

19

考 察

本章では, 代表的な臭素化難燃剤である DBDE の発達期曝露による影響を, 特に甲状腺機

能低下に関わる脳発達障害に注目して評価した。本研究では, 1,000 ppm DBDE 曝露群の雄子

動物で, 離乳時に血清中 T

3

のわずかな低下が認められた。同時に甲状腺濾胞上皮細胞の肥大

が用量依存的に生じており, 1,000 ppm DBDE 群で統計学的に有意であった。これらの結果か

ら, DBDE は少なくとも高用量群で軽度の発達期甲状腺機能低下を誘発することが示唆され

た。成熟後の子動物に関して, DBDE のマウスへの出生前曝露により, 血清中 T

3

濃度の減少が

報告されているが [79], 本研究では, 過去に報告されている SD ラットを用いた発達期曝露試

験の結果と同様, 1,000 ppm DBDE 曝露群において T

4

がわずかに減少した [40]。PBDEs の低臭

素化体は, 甲状腺ホルモンのホメオスタシスに影響を及ぼし, ラットおよびマウスの血清中

T

4

濃度に影響を及ぼすことが知られている [31, 37, 89]。その原因としては, 肝臓のウリジン

二リン酸グルクルノシルトランスフェラーゼ (UDPGT) の誘導とその活性化により, 甲状腺

ホルモン, 特に T

4

の肝臓でのクリアランスが亢進し, それによって血清中の全 T

4

および遊離

T

4

の濃度が減少するというメカニズムが報告されている [89]。また, 多くのハロゲン化ジ

フェニルエーテルは構造的に甲状腺ホルモンと類似しているため, 甲状腺ホルモンの受容体

や, トレンスサイレチン等の輸送タンパク質との結合に拮抗作用を有するという直接作用の

可能性も示唆されている [9, 46]。マウスを用いた DBDE のがん原性試験において, 甲状腺濾

(21)

20

胞上皮細胞の増殖性病変の発生頻度が増加していることから [52], DBDE も低臭素化 PBDEs

と同様に,甲状腺機能に影響をおよぼす可能性が示唆されるが, DBDE による発達期甲状腺機

能低下の発生メカニズムが, 低臭素化 PBDEs と同様であるかは明らかではない。

低臭素化

PBDE (テトラブロモジフェニルエーテル, ペンタブロモジフェニルエーテル, ヘ

キサブロモジフェニルエーテル, ヘプタブロモジフェニルエーテル, オクタブロモジフェニ

ルエーテルおよびノナブロモジフェニルエーテル) のマウスへの発達期曝露により, ポリ塩

化ビフェニルと同様な自発運動の異常を引き起こすことが報告されている [19-22]。DBDE の

発達期曝露に関しても, シナプス形成異常を含む, 神経毒性に関する in vivo での証拠が増え

てきている [84, 86]。著者らは以前, 発達期甲状腺機能低下モデルラットを用いて, 神経発達

障害に起因する神経組織における構造的な影響について, 本研究と同様の形態計測手法を用

いて検討した。その結果, 甲状腺機能低下に関連して, オリゴデンドロサイトの発達に関連す

る指標と同様に, 海馬 CA1 領域のニューロン分布にも変化が生じることを確認している [71]。

他の報告においても, 発達期甲状腺機能低下により, 成熟アストロサイトが減少し, 脳梁の

ような交連線維の面積が減少することが示されている [66]。本研究では, 生後 11 週目におい

て, 脳梁面積およびオリゴデンドロサイト密度の減少が 100 ppm 以上の DBDE 曝露により認

められているが, ニューロン分布に関する指標に変化は認められなかった。これらの結果か

ら, DBDE は甲状腺機能低下に関連するメカニズムにより, オリゴデンドロサイト発達に対し

てのみ軽度の影響を与えることが示唆された。著者らは, HBCD の発達期曝露 (10,000 ppm)

(22)

21

により, 軽度の甲状腺機能低下およびオリゴデンドロサイト密度の減少が生じることを見出

している [62]。しかし, 本研究の DBDE 曝露と同様に, HBCD 曝露においても, ニューロン分

布に関する指標に変化は認められなかった。

放射性同位体である

14

C で標識した DBDE をマウス新生子に投与した実験において, DBDE

は新生子の脳に分布することが示されており, 脳における放射活性は, 投与後 1 週間まで増

加した [82]。この結果は, DBDE の発達期曝露が直接的な神経毒性を引き起こす可能性を示唆

している。投与方法が本研究とは異なるが, 生後 3 日目のマウスおよびラットの新生子への

DBDE の単回投与 (20.1 mg/kg body weight, 強制経口投与) により, 成熟後における自発運動

障害が生じ, 経時的に悪化することも報告されている [82, 83]。

一方, 市販 DBDE (純度 77%, ノナブロモジフェニルエーテル 21.8%, オクタブロモジフェ

ニルエーテル 0.8%) の強制経口投与による発達期曝露試験において, 胎子吸収の増加が 10

mg/kg/day および 100 mg/kg/day 群で妊娠 6~15 日目に認められたが, 1,000 mg/kg/day 群では認

められず, 用量反応性はなかった [53]。本変化について著者らは, 被験物質投与とは関連のな

い偶発的変化であろうと結論している。本研究では, DBDE を 1,000 ppm まで (66.3~224.3

mg/kg/day) 母動物に混餌投与したが, 生殖パラメーターに変化は認められなかった。同様に,

新生子の体重, 雌雄比, AGD にも投与の影響は認められなかった。DBDE を 1,000 mg/kg/day

で妊娠初日から

19 日目までラットに投与した過去の報告においても, 母動物および新生子に

(23)

22

本研究では, 子動物において, 離乳時の肝臓の相対重量が増加し, 肝臓および腎臓に病理

組織学的変化が認められたが, これらの変化は成熟後には完全に回復した。経口投与された

DBDE は主に肝臓に分布することが知られており [13, 50, 82], ラットおよびマウスを用いた

経口投与による

DBDE のがん原性試験では, 雌雄ラットで肝臓に腫瘍発生頻度が増加し, 雄

マウスで肝細胞腺腫/腺癌の発生頻度が増加した [52]。最近の報告では, DBDE の経口投与に

より, 肝臓におけるシトクロム P450 1A, 2B の発現が誘導され, DBDE 発達期曝露によって S9

7-エトキシレゾルフィン-デエチラーゼ活性を増加することが示されている [79, 81]。肝臓の

第Ⅰ相および第Ⅱ相酵素の誘導については, UDPGT も含めて, 過去の試験では一貫しない結

果も得られているが [10], 本研究における子動物の肝細胞肥大は, 母動物を介した DBDE 曝

露による酵素誘導が原因であると推測される。本研究で認められた離乳時の子動物における

近位尿細管上皮の細胞質好酸性増加については, DBDE 曝露による同様の変化の報告がない

ものの, ラットへの DBDE 反復投与により尿細管の硝子変性が生じることが報告されている

[53]。尿細管上皮の細胞質好酸性増加が生じる病理学的メカニズムは明らかではないが, 肝細

胞においても同様の可逆的な細胞質の好酸性化が認められたことを考慮すると, 両臓器で共

通のメカニズムに起因している可能性が示唆された。投与された

DBDE は腎臓にも分布する

ことが報告されており [50], DBDE ないしその代謝物と細胞の相互作用により, 反応性に細

胞質好酸性化が生じた可能性が示唆された。

ラット子動物は生後

14 日前後から徐々に摂餌を開始するため, 生後 3 週目の被験物質摂取

(24)

23

量は, 授乳による摂取のみではない可能性が考えられるが, 本研究において DBDE のラット

発達期曝露による最小毒性量 (LOAEL) は, 離乳時の肝臓および腎臓の病理組織学的変化,

肝臓重量変化から, 10 ppm (0.7~2.4 mg/kg/day) と判断された。

(25)

24

小 括

第1章では, 代表的な臭素化難燃剤のひとつである DBDE の母動物を介した発達期曝露に

よって子動物に現れる発達神経影響を, 甲状腺機能低下に起因する神経発達障害指標を導入

して雄子動物で検討した。その結果, DBDE 曝露により成熟後まで継続する軽度の甲状腺機能

低下が生じ, 100 ppm 以上の曝露群ではオリゴデンドロサイトを標的とした不可逆的な白質の

低形成を誘発した。高用量群におけるこの不可逆的な変化は, 発達期甲状腺機能低下に起因

して生じるものと考えられた。

本研究における

DBDE 発達期曝露の LOAEL は, 可逆的な変化ではあるものの, 離乳時の肝

臓および腎臓の病理組織学的変化, 肝臓重量変化から, 10 ppm (0.7~2.4 mg/kg/day) と判断し

た。

(26)

25

2 章

(27)

26

緒 言

1 章の結果から, 臭素化難燃剤のひとつである DBDE のラットを用いた発達期曝露によ

り, 軽度の甲状腺機能低下および不可逆的な白質の低形成を生じることが示された。

発達期甲状腺機能低下は発達遅延や神経障害の他, 様々な行動障害を引き起こし [1, 12],

母動物に抗甲状腺剤である

PTU およびメチマゾール (MMI) を曝露した子動物は, 白質形成

不全, 髄鞘形成不全, オリゴデンドロサイトの減少, 増殖異常, ニューロンの移動異常あるい

はシナプス形成の異常等, 様々な脳発達障害を起こすことが知られている [28, 30, 44, 66]。こ

れらの脳発達異常は構造および機能的な異常を伴う不可逆的な変化であるが, その発生メカ

ニズムについてはいまだ不明な点が多い。

病変発生時のメカニズムについて解析する際には, マイクロダイセクション法により標的

とする組織部位を採取し, 部位特異的な分子解析を行うことにより有用な情報を得ることが

できる [63, 70, 85]。その際には, 分解度合いの低い高品質の RNA を組織標本から採取するこ

とが重要である。有機溶媒, 酸およびアルコールを組み合わせたメタカーン液による組織固

定後にパラフィン包埋して得られた組織標本を用いた

DNA, RNA およびタンパク質の分子解

析は, 未固定凍結組織から得られた生体高分子に準ずる抽出効率と品質を保証し, バラツキ

の少ない正確なデータ取得が可能であることが知られている [69, 76, 80]。

2 章では, 発達期甲状腺機能低下に起因する白質発達異常に関連する分子マーカーを見

(28)

27

出すために, 抗甲状腺剤を発達期曝露したラットの脳を用いて, マイクロアレイによる白質

部位特異的な網羅的遺伝子発現解析を行った。白質組織特異的な遺伝子発現プロファイルを

得るため, メタカーン固定後にパラフィン包埋した組織標本の脳梁およびそれにつながる両

側の大脳白質 (外包) をマイクロダイセクション法により採取し, マイクロアレイに供した。

得られた遺伝子発現プロファイルを基に, 免疫組織化学的解析が可能な候補分子の細胞局在

についても併せて解析した。

(29)

28

材料および方法

化学物質

PTU および MMI は Sigma (St. Louis, MO, USA) より購入した。

供試動物

妊娠

3 日目の雌性 CD (SD) IGS ラットを日本チャールス・リバーより購入し, 温度 24 ± 1℃,

湿度

55 ± 5%, 照明サイクル 12 時間明/12 時間暗条件の環境下でポリカーボネートケージ内に

おいて飼育した。飼料は, 甲状腺ホルモン産生への影響を除くため, 大豆由来の植物性エスト

ロゲンを除いた

SF (NIH-07 変型) 飼料 (オリエンタル酵母工業) を用い [47], 飲用水は上水

道水を用いて, それぞれ自由摂取とした。一週間の馴化期間の後, 異常が認められなかった動

物を実験に供した。

実験デザイン

32 匹の妊娠 SD ラットを無処置群, 3 ppm PTU 群, 12 ppm PTU 群および 200 ppm MMI 群の 4

群に分けた。抗甲状腺を投与した

3 群については, 上述の濃度で妊娠 10 日目から離乳時まで

飲水投与した。無処置群については, 上水道水を与えて飼育した。生後 2 日目に, 1 匹の母動

(30)

29

動物を飼育した [16]。投与終了後, 各群雌雄各 20 匹の子動物について, エーテル麻酔下で腹

大動脈から放血することにより安楽殺した。摘出した臓器のうち, 本研究では雄子動物の脳

を以後の検索に用いた。

動物実験計画は, 実施施設 (国立医薬品食品衛生研究所) の動物実験倫理委員会に提出し

て承認を受け, 動物の取り扱いは施設の実験動物指針を尊守した。

組織標本作製およびマイクロダイセクション

採取した各群

4 匹の雄子動物の脳をメタカーン液にて 4°C で 2 時間固定した後, Bregma の

後方約−3.5 mm の 1 カ所で冠状割面を作製し,その対称面が薄切面となるように前後の脳を

パラフィン包埋した。

20 µm 厚の切片 40 枚を作製し, PEN-foil film 付きスライドガラス (Leica

Microsystems GmbH, Welzlar, Germany) に貼付してマイクロダイセクション用サンプルとした。

各サンプルは

LCM staining kit (Ambion, Inc., Austin, TX, USA) を用いて染色し, 脳梁および両

側大脳白質(外包)組織をレーザーマイクロダイセクション (Leica Microsystems GmbH) を用

いて採取した (Fig. 2-1)。

RNA 抽出およびマイクロアレイ解析

レーザーマイクロダイセクションにより採取したサンプルから, RNAqueous-Micro (Ambion,

Inc.) のプロトコールに従い total RNA を抽出し, RiboGreen RNA Quantitation kit (Molecular

(31)

30

Probe Inc., Eugene, OR, USA) を用いて濃度を測定した。Total RNA 200 ng を MessageAmp II

aRNA Kit (Ambion, Inc.) のプロトコールに従い 2 回増幅を行った。2 回目の増幅の際に,

biotin-UTP, biotin-CTP (Enzo Biochem, Inc., Farmingdale, NY, USA) を用いて aRNA をラベルし

た。断片化したビオチンラベル

cRNA 15 µg について, GeneChip Rat Genome 230 2.0 Array

(Affymetrix, Santa Clara, CA, USA) および GeneChip Scanner 3000 (Affymetrix) を用いて遺伝子

発現データを取得した。遺伝子の選抜には

GeneSpring software 7.2 (Silicon Genetics, Redwood

City, CA, USA) を用いた。各マイクロアレイチップにおいて, 全遺伝子の発現量の中央値にて

各遺伝子の発現量を除することによりチップ間のバラツキを除いた後に, 無処置群および抗

甲状腺剤曝露群のそれぞれについて平均値を求めた。無処置群の発現量から

2 倍以上の増減

を示す遺伝子を各抗甲状腺剤曝露群にて選抜した後, 抗甲状腺剤曝露群で共通して変動した

遺伝子を選抜した。

Real-time RT-PCR

マイクロアレイ解析で得られた発現変動遺伝子プロファイルを確認するため, ABI Prism

7900 HT (Applied Biosystems Inc., Foster City, CA, USA) を用いて real-time RT-PCR により

mRNA 発現の定量解析を実施した。検討した遺伝子は, いずれかの抗甲状腺曝露群で無処置

群の発現量から

2 倍以上の増減を示したものとし, 発現量が増加した遺伝子として vimentin,

(32)

31

現量が減少した遺伝子として

claudin 11 (Cld11), zinc finger homeobox 1b (Zfhx1b)を選択した。

cDNA 合成には, マイクロアレイ解析時に調整した aRNA (1 回増幅) を用い, 各遺伝子のプラ

イマーは

TaqMan Gene Expression Assays (Applied Biosystems Inc.) を用いた。内因性コントロ

ールとして

glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (GAPDH) の発現量を TaqMan Rodent

GAPDH Control Reagents (Applied Biosystems Inc.) を用いて測定した。発現量の定量は検量線

法により実施し, 各遺伝子の発現量は GAPDH の発現量で補正した。

免疫組織化学的解析

各群

10 匹 (無処置群は 6 匹) の雄子動物の脳をブアン固定後にパラフィン包埋し, 4-5 µm

の厚さに薄切した標本を用いて, マイクロアレイ解析で抽出した以下の分子について免疫組

織化学的解析を実施した;vimentin (mouse monoclonal antibody, 1:200; Millipore Corporation,

Billerica, MA, USA), glial fibrillary acidic protein (GFAP, rabbit polyclonal antibody, 1: 500; Dako,

Glostrup, Denmark), Ret (rabbit polyclonal antibody, 1: 50; Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa

Cruz, CA, USA), deleted in colorectal carcinoma (DCC, mouse monoclonal antibody, 1:40; Leica

Microsystems GmbH), oligodendrocyte specific protein (OSP, Cld11 と同一分子, rabbit polyclonal

antibody, 1: 200; Novus Biologicals, Inc., Littleton, CO, USA)。Vimentin 抗体および DCC 抗体使用

時には, 標本を 10 mM クエン酸緩衝液内でマイクロウェーブにより 10 分間加熱することによ

り抗原賦活化を行った。シグナル検出は, VECTASTAIN Elite ABC Mouse IgG kit および

(33)

32

VECTASTAIN Elite ABC Rabbit IgG kit (Vector Laboratories, Iic.) のプロトコールに従い, 免疫

反応は

3,3’-diaminobenzidine/H

2

O

2

を用いて可視化した後, ヘマトキシリンにより対比染色し

た。

Vimentin, Ret および GFAP 陽性細胞については, 2 つの切片 (約 100 µm 間隔) を用いて, 各

切片の両側の帯状束における単位面積 (mm

2

) 当の陽性細胞数を測定した。定量解析のために,

DP70 Digital Camera System (オリンパス) を搭載した BX51 microscope (オリンパス) にて 100

倍の倍率で染色標本の写真を取り込み, WinROOF image analysis software 5.7 (三谷商事) を用

いて定量した。DCC および Cld11 の大脳白質における染色強度は, 次に示す様な基準でスコ

ア化した;0 発現なし, 1 軽微な発現, 2 軽度の発現, 3 中等度の発現, 4 強度の発現。

統計解析

定量データについては, 無処置群と各抗甲状腺剤曝露群間で比較し,

Bartlett 法により分散

性の同等性を評価した後に, 分散が等しい場合は Dunnett 法,分散が等しくない場合は Dunnett

型の多重比較検定を実施した。DCC および Cld11 の免疫染色強度のスコアは, Mann-Whitney

U 検定を用いて無処置群を基準とした検定を実施した。なお, 有意水準 5%以下を有意差あ

りとした。

(34)

33

結 果

マイクロアレイ解析による遺伝子発現変動

マイクロアレイ解析の結果, 抗甲状腺剤曝露の 3 群に共通して, 無処置群と比較して 2 倍以

上の発現増加が見られた遺伝子は

428 遺伝子, 0.5 倍以下の発現低下が見られたは遺伝子は 58

遺伝子であった (Table 2-1, -2, Fig. 2-2)。200 ppm MMI 群は, 3 ppm, 12 ppm PTU 群に共通して

変動した遺伝子数と比較し, 変動遺伝子数が少なかった。抗甲状腺剤曝露の 3 群に共通して

変動した遺伝子のうち, 24 遺伝子 (発現増加:20 遺伝子, 発現減少:4 遺伝子) がグリア細胞

分化, 軸索誘導, 髄鞘形成および細胞移動等の中枢神経系発達に関連する遺伝子であった

(Table 2-3)。

マイクロアレイ解析による発現変動プロファイルを検証するため, 発現増加した 4 遺伝子

および発現低下した

2 遺伝子について real-time RT-PCR による遺伝子発現解析を実施したとこ

ろ, いずれの遺伝子についても, マイクロアレイデータと同様の変動を示した (Fig. 2-3)。

マイクロアレイ解析により変動が認められた分子の大脳白質における発現局在

Vimentin, Ret, DCC および Cld11 について, 大脳白質における発現局在を免疫組織学的手法

により解析した。

Vimentin 陽性細胞は, 無処置群では白質に散在性に認められた。抗甲状腺剤

曝露群では, 帯状束を中心に発現細胞が認められ, 200 ppm MMI 群および 12 ppm PTU 群で発

(35)

34

現細胞の有意な増加が認められた (Fig. 2-4)。

Ret 陽性細胞は, 無処置群では白質において発現が認められ, 200 ppm MMI 群および 12 ppm

PTU 群では帯状束を中心とした発現細胞の有意な増加が認められた (Fig. 2-4)。

DCC は髄鞘と考えられる白質でび漫性に染色性を示し, 200 ppm MMI 群および 12 ppm PTU

群で無処置群と比較して有意な発現強度の増加が認められた (Fig. 2-5)。

Cld11 は髄鞘と考えられる白質でび漫性に染色性を示し, 200 ppm MMI 群で無処置群と比較

して有意な発現強度の増加が認められた (Fig. 2-5)。

GFAP の大脳白質における発現局在

Vimentin 陽性細胞の詳細について検討するため, アストロサイトのマーカーである GFAP

の発現局在を免疫組織学的手法により解析した。

GFAP 陽性細胞は, 無処置群では大脳白質に

散在性に認められ, vimentin 陽性細胞より多い陽性細胞数を示した。抗甲状腺剤曝露群では,

200 ppm MMI 群および 12 ppm PTU 群で発現細胞の有意な増加が認められ, vimentin 陽性細胞

と同様に, 帯状束を中心とした分布を示した (Fig. 2-6)。

(36)

35

考 察

2 章では, オリゴデンドロサイトの発達障害による白質構造の形成不全を示した MMI お

よび

PTU 発達期曝露ラットの脳を用いて, グリア細胞を標的としてマイクロダイセクション

法にて採取した大脳白質における発現変動遺伝子をマイクロアレイ法にて探索し, 発現変動

分子の局在を免疫組織学的手法により検討した。本研究に用いたラットは, 甲状腺ホルモン

濃度の変化, ニューロンの移動異常による海馬 CA1 領域の錐体ニューロンの分布のばらつき

等, 甲状腺機能低下に起因する典型的な変化を示すことを確認している [71]。甲状腺ホルモ

ンのグリア細胞の機能・構造に対する作用に関しては, ホルモンレベルの変動に伴うオリゴ

デンドロサイトの髄鞘関連分子およびアストロサイトの酵素や細胞骨格分子の遺伝子発現の

変化が報告されている [4, 14, 23, 24, 35]。したがって, オリゴデンドロサイトとアストロサイ

トの両方が発達期甲状腺機能低下の標的と考えられるため, 本研究では, 過去に報告されて

いる大脳皮質および海馬に関する解析と同様のアプローチを用いて, 白質特異的な遺伝子発

現変化をマイクロアレイにより解析した [41, 61, 63]。本研究では, 抗甲状腺剤曝露がグリア

細胞分化, 軸索誘導, 髄鞘形成および細胞移動等の中枢神経系発達に関連する数々の遺伝子

の発現変動を引き起こすことを示し, それらの遺伝子のうち, vimentin, Ret, DCC および Cld11

は, 大脳白質において免疫組織学的な分布の変化も示した。

Cld11 は 4 回膜貫通型タンパク質であり, 中枢神経系のオリゴデンドロサイトに主に発現し,

(37)

36

髄鞘の密着結合の形成に関与している [7, 8, 29, 51]。また, in vitro 試験においては, Cld11 の過

剰発現により, オリゴデンドロサイトの増殖が誘導されることが示されている [78]。発達期

甲状腺機能低下は生後

10 日より脳梁領域のオリゴデンドロサイトの減少を引き起こすこと

が知られているため [66], 本研究で認められた抗甲状腺剤曝露終了時 (生後 20 日) における

Cld11 の過剰発現は, オリゴデンドロサイトの減少に対する代償性反応であることが示唆さ

れた。mRNA レベルでは発現減少を示した点については, mRNA の安定性やタンパク質のタ

ーンオーバー等, 転写後の制御が関係していると推察される。

DCC は 4 つの fibronectin type III ドメインを介して結合する netrin-1 の膜貫通型受容体であ

る [42]。Netrin-1 は, オリゴデンドロサイト移動, 軸索誘導, 髄鞘形成, 神経突起の成長円錐

伸長およびニューロン移動を調整する分泌タンパク質であり, 制御は DCC と Unc5 の受容体

二量体の組み合わせによって行われる [2, 25, 58, 67, 74]。すなわち, DCC がホモ二量体を形成

している受容体は誘導方向に, DCC と UNC-5 のヘテロ二量体を形成している受容体では抑制

方向にシグナルを伝達する。本研究において, 発達期甲状腺機能低下により生後 20 日に認め

られた

DCC の髄鞘における発現増加は, 髄鞘形成の抑制 [66] に対する代償的反応である可

能性が考えられた。

一方, 他の報告において, DCC は netrin-1 が存在しない状況下において, ミ

トコンドリアおよび細胞外からのシグナルと関連のない経路によりアポトーシスを誘導する

機能を有することが示されている [26, 27, 48]。本研究のマイクロアレイ解析において,

netrin-1 は mRNA の発現増加が認められなかったため, DCC の発現増加によりリガンドが結合

(38)

37

していない

DCC が増加し, オリゴデンドロサイトのアポトーシスを誘導した可能性が考えら

れる。発達期甲状腺機能低下ラットは, 成長期においても脳梁面積および脳梁領域のオリゴ

デンドロサイトの減少が進行することが知られているが [66, 71], その原因の一つとして, リ

ガンドに結合していない

DCC の増加によるアポトーシスが関連している可能性が示唆され

た。

Ret は transforming growth factor- (TGF-) ファミリーである glial cell line-derived

neurotrophic factor (GDNF) のチロシンキナーゼ型受容体である [65]。GDNF シグナルは神経

系, 腎臓および精子の形成に主要な役割を果たすことが知られている。Ret のオリゴデンドロ

サイトにおける機能的な役割は報告されていないが, オリゴデンドロサイト前駆細胞株およ

びオリゴデンドロサイト細胞株に発現しており, GDNF 処理によって, Ret を介したシグナル

が細胞増殖を誘導することが

in vitro 試験にて確認されている [75]。このことから, 発達期甲

状腺機能低下により生後

20 日に認められた Ret の発現増加は, オリゴデンドロサイトの減少

[66] に対する代償性増加である可能性が考えられた。もう一つの可能性として, Ret は DCC

と同様に, リガンドが結合していない状態においてアポトーシスを誘導する機能を有してお

り [6], 本研究のマイクロアレイ解析において GDNF の mRNA は増加していなかったため,

リガンドが結合していない

Ret の増加によるオリゴデンドロサイトのアポトーシス誘導によ

り, 成長過程における脳梁面積およびオリゴデンドロサイト密度の減少が引き起こされた可

能性が示唆された。

(39)

38

Vimentin は中間径フィラメントの一種であり, 脳においては, 発達期の未成熟なアストロ

サイトに発現していることが知られている [3, 11, 55]。また, vimentin は中枢神経系の実質傷

害に反応して生じるグリオーシスの過程で活性化した未成熟アストロサイト (反応性アスト

ロサイト) においても発現している [16, 68]。反応性アストロサイトは成熟アストロサイトと

同様に

GFAP を発現しているため [16, 68], 未成熟アストロサイトは vimentin と GFAP の両分

子を発現していると考えられる。一方, 発達期甲状腺機能低下は胎子ラットの脳における

vimentin の発現増加を誘導し, GFAP も発達期甲状腺機能低下を受けたラットの生後 15 日の脳

梁において発現増加することが報告されている [23, 54]。これらのことから, 発達期甲状腺機

能低下は未成熟なアストロサイトの増加を誘導することが示唆される。本研究において,

vimentin 陽性細胞は GFAP 陽性細胞と同様の局在を示したことから, 発達期甲状腺機能低下に

誘導された帯状束の

vimentin 陽性細胞群は, 反応性アストロサイトに類似した未成熟アスト

ロサイトによって構成されていると考えられる。興味深いことに, 筆者らはすでに, 本研究で

使用した発達期甲状腺機能低下ラットにおいて, 脳梁領域に皮質下帯状異所性灰白質が頻繁

に発生していることを確認している [71]。異所性組織の解剖学的な局在は, 発達期甲状腺機

能低下によって未成熟アストロサイトが集積している帯状束に近接していることから, 病因

的関係があると考えられる。未成熟アストロサイトの増加は, 発達期甲状腺機能低下による

オリゴデンドロサイトの減少 [54, 66, 71] に対する反応性変化であると推察されるが, 発達

期甲状腺機能低下によってグリア前駆細胞の分化に障害が生じ, オリゴデンドロサイトへの

(40)

39

(41)

40

小 括

2 章では, 発達期甲状腺機能低下に起因する白質発達の異常に焦点をあて, 抗甲状腺剤

を発達期曝露した動物の脳を用いて白質組織特異的マイクロアレイ解析を行い, 脳発達に関

連する分子の発現変動を見出した。得られた遺伝子発現プロファイルの中から, Cld11, DCC,

Ret および vimentin について免疫組織学的解析を行い, 白質におけるこれらの分子の陽性細胞

数ないし染色強度の増加を認めた。帯状束に主に分布する

vimentin 陽性未成熟アストロサイ

トおよび

Ret 陽性オリゴデンドロサイトは定量的に評価可能であることから, vimentin および

Ret は甲状腺ホルモンかく乱化学物質の発達期曝露に反応するグリア細胞発達障害に関する

有用なマーカーとなる可能性を示した。

(42)

41

3 章

臭素化難燃剤の発達期曝露動物における発達期甲状腺機能低下に起因する

グリア細胞発達障害分子の動態

(43)

42

緒 言

2 章の結果から, 帯状束に主に分布する vimentin 陽性未成熟アストロサイトおよび Ret

陽性オリゴデンドロサイトが, 発達期甲状腺機能低下に起因する白質発達の異常を早期検出

する有用なマーカーとなる可能性が示された。

防火を目的として広く用いられている臭素化難燃剤のうち, DBDE, HBCD および TBBPA

は世界中で最も多く用いられている。これらの物質は, ヒトの血中および母乳中でも検出さ

れていることから, 甲状腺機能低下および神経毒性の影響に関して調査が進められている

[5]。第 1 章にて示した通り, DBDE の発達期曝露は, 高用量群において発達期甲状腺機能低下

に起因すると考えられる不可逆的な白質の低形成を誘発し, 中間用量群においては, 血清中

甲状腺ホルモン濃度の変化を伴わない白質低形成を示した。著者らは, HBCD の発達期曝露に

より弱い甲状腺機能低下および不可逆的なオリゴデンドロサイト密度の減少が生じる一方,

TBBPA 発達期曝露では, 血清中甲状腺ホルモン濃度および白質発達のいずれにおいても顕著

な影響を示さないことを報告している [62]。

3 章では, 甲状腺かく乱化学物質の発達期曝露により白質発達に影響を及ぼす分子を明

らかにするため, 軽度の発達期甲状腺機能低下が認められた DBDE 発達期曝露ラットを用い

て, マイクロダイセクション法による白質組織特異的な網羅的遺伝子発現解析を行った。発

現変動を示した分子のうち, 発達期甲状腺機能低下に関連する分子および DBDE の直接影響

により変動した分子を分離するため, 第 2 章にて検討した, 抗甲状腺剤を用いた発達期甲状

(44)

43

腺機能低下モデルのプロファイルとの比較を行った。共通して発現変動を示した分子につい

ては, DBDE 発達期曝露ラットと併せて, HBCD および TBBPA を発達期曝露したラットを用い

て免疫組織学的手法による細胞局在の解析を行い, 見出した分子のマーカーとしての有用性

について検討した。

(45)

44

材料および方法

化学物質

DBDE は和光純薬工業より購入した。TBBPA および HBCD は東京化成工業 (Tokyo, Japan)

より購入した。

供試動物

妊娠

3 日目の雌性 CD (SD) IGS ラットを日本チャールス・リバーより購入し, 温度 24 ± 1℃,

湿度

55 ± 5%, 照明サイクル 12 時間明/12 時間暗条件の環境下でポリカーボネートケージ内に

おいて飼育した。飼料は, 甲状腺ホルモン産生への影響を除くため, 大豆由来の植物性エスト

ロゲンを除いた

SF (NIH-07 変型) 飼料 (オリエンタル酵母工業) を用い [47], 飲用水は上水

道水を用いて, それぞれ自由摂取とした。一週間の馴化期間の後, 異常が認められなかった動

物を実験に供した。

実験デザイン

DBDE, TBBPA および HBCD の曝露実験はそれぞれ個別に実施した。DBDE については第 1

章に記載した試験動物を用いた (DBDE 無処置群, 10 ppm DBDE 群, 100 ppm DBDE 群および

1,000 ppm DBDE 群)。TBBPA については, 32 匹の母動物を 4 群に分け, 0, 100, 1,000 および

(46)

45

10,000 ppm TBBPA を妊娠 10 日目から離乳時まで混餌投与した (TBBPA 無処置群, 100 ppm

TBBPA 群, 1,000 ppm TBBPA 群および 10,000 ppm TBBPA 群)。HBCD については, 40 匹の母動

物を

4 群に分け, 0, 100, 1,000 および 10,000 ppm HBCD を妊娠 10 日目から離乳時まで混餌投

与した (HBCD 無処置群, 100 ppm HBCD 群, 1,000 ppm HBCD 群および 10,000 ppm HBCD 群)。

いずれの試験系も, 生後 2 日目に, 1 匹の母動物あたり雌雄各 4 匹となるようにリッター・サ

イズを調整し, 離乳時まで子動物を飼育した。投与終了後, 各群雌雄 20 匹の子動物について,

エーテル麻酔下で腹大動脈から放血することにより安楽殺した。摘出した臓器のうち, 本研

究では雄子動物の脳を以後の検索に用いた。

動物実験計画は, 実施施設 (国立医薬品食品衛生研究所) の動物実験倫理委員会に提出し

て承認を受け, 動物の取り扱いは施設の実験動物指針を尊守した。

組織標本作製およびマイクロダイセクション

DBDE 曝露試験にて採取した各群 4 匹の雄子動物の脳をメタカーン液にて 4°C で 2 時間固

定した後, Bregma の後方約−3.5 mm の 1 カ所で冠状割面を作製し,その対称面が薄切面となる

ように前後の脳をパラフィン包埋した。

20 µm 厚の切片 40 枚を作製し, PEN-foil film 付きスラ

イドガラス (Leica Microsystems GmbH) に貼付してマイクロダイセクション用サンプルとし

た。各サンプルは

LCM staining kit (Ambion, Inc.) を用いて染色し, 脳梁および外包をレーザー

(47)

46

RNA 抽出およびマイクロアレイ解析

レーザーマイクロダイセクションにより採取したサンプルから, RNAqueous-Micro (Ambion,

Inc.) のプロトコールに従い total RNA を抽出し, RiboGreen RNA Quantitation kit (Molecular

Probe Inc.) を用いて濃度を測定した。Total RNA 200 ng を MessageAmp II aRNA Kit (Ambion,

Inc.) のプロトコールに従い 2 回増幅を行った。2 回目の増幅の際に, biotin-UTP, biotin-CTP

(Enzo Biochem, Inc.) を用いて aRNA をラベルした。断片化したビオチンラベル cRNA 15 µg

について, GeneChip Rat Genome 230 2.0 Array (Affymetrix) および GeneChip Scanner 3000

(Affymetrix) を用いて遺伝子発現データを取得した。遺伝子の選抜には GeneSpring software

7.2 (Silicon Genetics) を用いた。各マイクロアレイチップにおいて, 全遺伝子の発現量の中央

値にて各遺伝子の発現量を除することによりチップ間のばらつきを除いた後に, DBDE 無処

置群および各

DBDE 曝露群について平均値を求めた。DBDE 無処置群の発現量から 2 倍以上

の増減を示す遺伝子を各

DBDE 群にて選抜した後, 第 2 章で記載した, 抗甲状腺剤曝露群によ

り変動した遺伝子と共通した遺伝子を選抜した。

免疫組織化学的解析

DBDE 曝露試験, TBBPA 曝露試験, HBCD 曝露試験における各群 5 匹の雄子動物の脳をブア

ン固定後にパラフィン包埋し, 4-5 µm の厚さに薄切した標本を用いて, マイクロアレイ解析

(48)

47

にて, DBDE 曝露と抗甲状腺剤曝露で共通して変動した vimentin (mouse monoclonal antibody,

1:200; Millipore Corporation) および Ret (rabbit polyclonal antibody, 1: 50; Santa Cruz

Biotechnology, Inc.) について免疫組織化学的解析を実施した。さらに, DBDE 曝露試験の動物

については, マイクロアレイ解析で変動が認められた neuregulin 1 (Nrg1, heregulin と同一分子;

mouse monoclonal antibody, 1: 40, Exalpha Biologicals, Inc., Watertown, MA), Crk (mouse

monoclonal antibody, 1:2000, BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ) および Cld11 (rabbit polyclonal

antibody, 1: 200, Novus Biologicals, Inc.) についても免疫組織化学的解析を実施した。

Vimentin 抗体および Nrg1 抗体使用時には, 標本を 10 mM クエン酸緩衝液内でマイクロウェ

ーブにより

10 分間加熱することにより抗原賦活化を行った。シグナル検出は, VECTASTAIN

Elite ABC Mouse IgG kit および VECTASTAIN Elite ABC Rabbit IgG kit (Vector Laboratories, Iic.)

のプロトコールに従い, 免疫反応は 3,3’-diaminobenzidine/H

2

O

2

を用いて可視化した後, ヘマト

キシリンにより対比染色した。

Vimentin および Ret 陽性細胞については, 2 つの切片 (約 100 µm 間隔) を用いて, 各切片の

両側の帯状束における単位面積 (mm

2

) 当の陽性細胞数を測定した。定量解析のために, DP70

Digital Camera System (オリンパス) を搭載した BX51 microscope (オリンパス) にて 100 倍の

倍率で染色標本の写真を取り込み, WinROOF image analysis software 5.7 (三谷商事) を用いて

定量した。Nrg1, Crk および Cld11 の大脳白質における染色強度は, 次に示す様な基準でスコ

ア化した;0 発現なし, 1 軽微な発現, 2 軽度の発現, 3 中等度の発現, 4 強度の発現。

(49)

48

統計解析

定量データについては, 各試験について, 無処置群と各臭素化難燃剤曝露群間で比較した。

Bartlett 法により分散性の同等性を評価した後に, 分散が等しい場合は Dunnett 法,分散が等し

くない場合は

Dunnett 型の多重比較検定を実施した。Nrg1, Crk および Cld11 の免疫染色強度

のスコアは, Mann-Whitney の U 検定を用いて無処置群を基準とした検定を実施した。なお, 有

意水準

5%以下を有意差ありとした。

(50)

49

結 果

DBDE 発達期曝露ラットのマイクロアレイ解析における遺伝子発現変動

マイクロアレイ解析の結果, 3 用量の DBDE 群に共通して, DBDE 無処置群と比較して 2 倍

以上の発現増加が見られた遺伝子は

129 遺伝子, 0.5 倍以下の発現低下が見られたは遺伝子は

16 遺伝子であり, 100 ppm および 1,000 ppm DBDE 群に共通して, DBDE 無処置群と比較して 2

倍以上の発現増加が見られた遺伝子は

669 遺伝子, 0.5 倍以下の発現低下が見られたは遺伝子

224 遺伝子であった (Table 3-1, -2, -3, -4, Fig. 3-1)。3 用量の DBDE 群に共通して変動した遺

伝子のうちの

12 遺伝子 (発現増加:11 遺伝子, 発現減少:1 遺伝子) および 100 ppm, 1,000 ppm

DBDE 群に共通して変動した遺伝子のうちの 70 遺伝子 (発現増加:52 遺伝子, 発現減少:18

遺伝子) が中枢神経系発達に関連する遺伝子であった (Table 3-5)。

抗甲状腺剤ないし

DBDE 発達期曝露における遺伝子発現プロファイルの比較

DBDE 発達期曝露ラットの白質組織における網羅的遺伝子発現プロファイルを第 2 章で示

した抗甲状腺剤発達期曝露ラットの遺伝子発現プロファイルと比較したところ, 発現増加遺

伝子については, 4 遺伝子が 3 用量の DBDE 群および抗甲状腺剤投与 3 群の全てに共通して変

動を認め, 42 遺伝子が 100 ppm, 1,000 ppm DBDE 群および抗甲状腺剤投与 3 群間に共通, 33 遺

Table 1-1. Effects on dams and offspring until prepubertal necropsy by exposure to DBDE from  mid-gestation to the end of lactation
Table 1-2. Onset of puberty and estrous cycles in the offspring exposed to DBDE from  mid-gestation to the end of lactation
Table 1-3. Body and organ weights of the offspring exposed to DBDE from mid-gestation to the  end of lactation and examined at PNW 11
Table 1-4. Serum levels of thyroid-related hormones of the male offspring exposed to DBDE  from mid-gestation to the end of lactation
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参照

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