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第 4 章 C. humicolus WU-2 による DMSO 分解

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(1)

第 4 章  C. humicolus WU-2 による DMSO 分解

4. 1. 緒言

 以前から活性汚泥で DMSO 含有廃水を処理すると、処理槽の嫌気部分から DMS などの 揮発性の高い有機硫黄化合物が発生し、悪臭問題を引き起こすことが知られていた。その解 決策として、DMSO の物理化学的な酸化と生成した DMSO

2の微生物分解を組み合わせた処 理法が種々の企業により開発され、一部のものは既に実用化されている (第 1 章)。著者はこ のような組み合わせ処理法において、紫外線や薬剤を利用した従来の DMSO 酸化法に替え て、DMSO 酸化活性を有する微生物の利用についての可能性を検討した。

 本研究における DMSO 分解微生物のスクリーニング過程で、DMSO を唯一の硫黄源とし て生育する微生物は自然界に広く存在することが明らかになった (第 3 章) 。培養液中の代 謝産物を分析したところ、DMSO 消費量の高い菌株の中には DMSO 代謝産物として DMSO

2

を生成するものが含まれていた。第 3 章では、スクリーニングで取得した DMSO を唯一の 硫黄源として生育する微生物の中から、DMSO 酸化活性の最も高い酵母 C. humicolus WU-2 を分離した。

 本章では WU-2 株の DMSO 分解特性を明らかにし、本菌株の DMSO 酸化への適用性を検 討する。さらに、代謝産物 DMSO

2を無機化するために DMSO

2分解微生物のスクリーニング を行ったので、その結果を記述する。

4. 2. 実験方法

4. 2. 1. 培養方法

 WU-2 株の前培養は 2. 3. 1 に記載した方法で行った。

 DMSO およびその構造類似体に対する WU-2 株の分解特性を、以下の手順で調べた。WU- 2 株の前培養液を 10,000×g、5 min、4℃で遠心分離して菌体を回収した。硫黄源を含まな い TA-1 培地で菌体を 2 回洗浄して同じ培地に懸濁した。この菌体懸濁液を、各有機硫黄化 合物を唯一の硫黄源として含む TA-1 培地に接種し、好気条件下 30℃、240 rpm で往復振盪 培養した。培地は以下の手順で調製した。TA-1 培地に DMSO、DMSO

2または硫酸イオンを

- 43 -

(2)

終濃度が 0.64 mM となるよう添加し、30 ml 容の試験管に各培地 5 ml を分取して蒸気滅菌 した。MSA は ストック水溶液を調製して 0.2 µmフィルターで濾過滅菌した後、終濃度が 0.64 mM となるよう蒸気滅菌済みの培地に添加した。

4. 2. 2. 休止菌体反応

 500 ml 容の坂口フラスコに TA-1 培地 200 ml を分取して蒸気滅菌した。この培地に WU- 2 株の前培養液 5 ml を接種し、好気条件下 30℃、120 rpmで 48 時間往復振盪培養した。

この培養液と 50 mM K

2HPO

4-KH

2PO

4緩衝液 (pH 7.0) を用いて、2. 6 に記載した方法で休止 菌体を調製した。特に記載しない場合には、菌体濃度が OD

66010 である休止菌体を用いた。

 休止菌体反応は全体量が 1.5 ml の反応系 (ヘテロ環系硫黄化合物が基質である場合は 0.6 ml) において、以下の手順で行った。休止菌体を 30 ml 容の試験管に分取した。ここに DMSO およびその構造類似体のストック水溶液を添加し、好気条件下、30℃で往復振盪し た。同様の手順で、ジベンゾチオフェン (DBT)、ナフトチオフェン (NTH) などのヘテロ環 系硫黄化合物を基質とする休止菌体反応を行った。Fig. 4. 1 に本実験で使用した有機硫黄化 合物の構造を示す。これらの硫黄化合物は水溶性が低いため、エタノール溶液を調製して休 止菌体に添加した。

Fig. 4. 1. Molecular structures of heterocyclic organosulfur

3 , 4 - B e n z o D B T

D B T

2, 8-DimethylDBT

4, 6-DimethylDBT

N T H

2-EthylNTH

 C2H5 

(3)

 アルキルスルフィドを基質とする休止菌体反応は以下の手順で行った。休止菌体 2 ml を 50 ml 容の血清バイアルに分取した。ここに、アルキルスルフィド-水の混合液 (1 : 9) 0.1 ml を添加した。アルキルスルフィドの揮発を防ぐため、テフロンセプタムとアルミシールで血 清バイアルを密閉し、30℃で往復振盪した。

4. 2. 3. DMSO

2を炭素源として生育する微生物のスクリーニング

 DMSO

2を炭素源として生育する微生物のスクリーニングおよび WU-OM3 株の培養には RT 培地を使用した。特に記載しない場合には、唯一の炭素源として DMSO

2 20 mM を添加 した。微生物分離源となるサンプルは、3. 2. 1 に記載した手順で懸濁液を調製して培地に接 種した。5 回以上の継代培養後も生育が安定であったサンプルから、DMSO

2分解微生物を KM 寒天プレート上で分離した。KM 寒天プレート上で分離操作を 3 回以上繰り返した後、

光学顕微鏡で分離株が純化されていることを確認した。さらに、分離株が単独でも DMSO

2

を唯一の炭素源として生育可能なことを確認した。分離株の属種は、16S rDNA の部分塩基 配列をもとに同定した。

4. 2. 4. WU-2 株と DMSO

2分解微生物の組み合せによる DMSO 分解

 WU-2 株と DMSO

2分解微生物 WU-OM3 株の組み合せによる DMSO 分解を、以下に記述 する手順で行った。 模擬廃水として、DMSO を含む 100 mM K

2HPO

4-KH

2PO

4緩衝液 (pH 7.0)を用いた。この模擬廃水中で、4. 2. 2 に記載した方法で WU-2 株の休止菌体反応を行っ た。WU-2 株の休止菌体反応におけるDMSO 初期濃度は、2.56 mM となるよう調製した。

24 時間後に休止菌体反応を停止し、菌体を 15,000×g、5 min、4℃で遠心分離した。上清は 0.2 µm フィルター (東洋濾紙製) で濾過した (Sample I)。続いて Sample I 中で、WU-OM3 株 の休止菌体反応を行った。100 mM K

2HPO

4-KH

2PO

4緩衝液 (pH 7.0) を用いて 2. 5 に記載し た方法で WU-OM3 株の休止菌体を調製し (OD

660 20)、その 0.75 ml を 30 ml 容の試験管に採 取した。ここに Sample I を 0.75 ml 加え、4. 2. 2 に記載した方法で休止菌体反応を行った (Sample II)。

- 45 -

(4)

4. 3. 実験結果

4. 3. 1. C. humicolus WU-2 の DMSO 分解経路の推定

 DMSO、DMSO

2、MSA または硫酸イオン 0.64 mMを含む TA-1 培地で、WU-2 株を培養 した。WU-2 株はこれら 全ての化合物を硫黄源として生育し、48 時間培養後の菌体生育レ ベル (OD

660) には大きな差が見られなかった。また、DMS を硫黄源とする培養でも生育し

た。硫黄源を TA-1 培地では生育しなかったことから、上記の有機硫黄化合物および硫酸イ オンが硫黄源として利用されたことを確認した。各培養液について DMSO、DMSO

2 および

硫酸イオンの検出を行ったが、硫酸イオンはいずれの培養液からも検出されなかった (Table 4. 1)。

  続いて DMS、DMSO または DMSO

2を基質とする休止菌体反応を行った。その結果、

DMS または DMSOが基質である場合には、反応液中に DMSO

2が蓄積したが、DMSO

2を基

質とした反応液から DMSO は検出されなかった。また、DMSO を基質とする休止菌体反応 において気相を窒素で置換して反応条件を嫌気的にすると、代謝産物として気相から DMS が検出された。

 以上の培養菌体および休止菌体を用いた実験結果から、WU-2 株は DMSO

2を経由して DMSO を分解することが示唆された。

ND ND

b

DMSO

2

DMSO, DMSO

2

DMS

Sulfate ion MSA

ND DMSO

2

DMSO

Metabolites

a

Sulfur sources

Table 4. 1. Metabolites of the sulfur compounds generated through the cultivation of WU-2

a

Detections of DMSO, DMSO

2

and sulfate ion were performed.

b

ND, not detected.

(5)

4. 3. 2. C. humicolus WU-2 の DMSO 分解特性

 0.64-12.8 mM DMSO を唯一の硫黄源として含む TA-1 培地で WU-2 株を培養した。Table 4. 2 に 48 時間培養後の DMSO 消費量および DMSO

2蓄積量を示す。WU-2 株は、硫黄源必 要量に対して高濃度である 6.40 mM DMSO を 83 % 消費し、DMSO 消費量当たり 72 % の 変換率で DMSO

2 を蓄積した。Table 4. 2 に示す全ての培養液からは、培養時間を延長して

も硫酸イオンの生成は認められなかった。次に、0.64-12.8 mM DMSO を基質とする休止菌 体反応を行った。Table 4. 3 に 24 時間休止菌体反応後の DMSO 消費量および DMSO

2蓄積

量を示す。WU-2 株は休止菌体でも DMSO 酸化活性を維持し、培養菌体と同様に DMSO

2 を 蓄積した。しかし、Table 4. 3 に示すいずれの休止菌体反応液においても、硫酸イオンの生 成は認められなかった。

- 47 -

a

DMSO 0.64 mM = 50 mg/l.

b

DMSO, residual concentration after the 48-h cultivation.

c

ND, not detected.

d

DMSO

2

(%) = (Molar of DMSO

2

/ molar of DMSO consumed)×

100

Table 4. 2 Oxidation of DMSO by the 48-h cultivation of WU- 2.

4.9 5.0 5.1 5.3 Growth

(OD

660

)

68 72 70 83 (%)

d

0.64

a

ND

c

0.53

6.80 1.10

4.07 3.83 1.78 ND

12.8 6.40 2.56

DMSO

2

(mM) DMSO

b

(mM) Initial concentration

of DMSO (mM)

6.08 5.64 2.01 0.57

90 92 79 89

6.07 0.27

0.64

a

ND

c

ND

12.8 6.40 2.56

(%)

d

DMSO

2

(mM) DMSO

b

(mM) Initial concentration

of DMSO (mM)

Table 4. 3 Oxidation of DMSO by the 24-h resting cell reaction of WU-2

a

DMSO 0.64 mM = 50 mg/l.

b

DMSO, residual concentration after the 24-h resting cell reaction .

c

ND, not detected.

d

DMSO

2

(%) = (Molar of DMSO

2

/ molar of DMSO consumed)

×100

(6)

 WU-2 株について、DMSO 酸化における硫酸イオンの影響を以下の手順で調べた。 TA-1 培地に、0.64 mM DMSO と共に硫酸ナトリウムを添加した。Fig. 4. 2 に、この培地で WU- 2 株を 48 時間培養した後の DMSO

2蓄積量を示す。 硫酸ナトリウムを 0.064 mM 以下の濃 度で添加しても、 48 時間培養後には DMSO が全て消費されて DMSO

2が蓄積した。しかし 0.64 mM 以上の硫酸ナトリウムを添加すると、DMSO

2蓄積量は著しく低下した。

 次に、 0.64 mM DMSO と共に硫酸ナトリウムを添加して休止菌体反応を行い、24 時間後 の DMSO

2蓄積量を測定した。休止菌体反応では、0.0064-6.40 mMの濃度範囲で硫酸ナトリ ウムを 0.0064-6.40 mMの濃度範囲で添加しても、DMSO

2蓄積量は硫酸ナトリウムを添加し ない場合と同じであった。

Fig. 4. 2. Effect of the addition of sulfate ion on the

accumulation of DMSO

2

by the 48-h cultivation or the 24-h resting cell reaction of WU-2.

Symbols: ■, cultivation; □ , resting cell reaction.

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

0 0 . 0 0 6 4 0 . 0 6 4 0 . 6 4 6.4

Resting cell reaction for 24 h Cultivation for 48 h

Initial concentration of sulfate ion (mM)

6.40

(7)

4. 3. 3. C. humicolus WU-2 による有機硫黄化合物の酸化

 DMS、エチルメチルスルフィド (EMS) およびジエチルスルフィド (DES)を基質として休 止菌体反応を行うと、相当するアルキルスルホンが生成した。また Table 4. 4 に、ヘテロ環 系硫黄化合物を基質とする休止菌体反応での基質消費率を示す。DBT が基質である場合に は、DBTスルホンが反応液から検出された。以上二点から、WU-2 株は有機硫黄化合物中の 硫黄原子に対する酸化において、広い基質特異性を有することが示された。なお、硫黄原子 に対するスルホン体への酸化反応が同一酵素によるものかは不明である。

- 49 -

( D B T ) (DBTO

2

)

O   O  

Fig. 4. 3. Oxidation of alkyl sulfides and DBT into corresponding sulfones by the resting cells of WU-2.

Abbrevations: DMS, dimethyl sulfide; DMSO

2

, dimethyl sulfone;

EMS, ethylmethyl sulfide; EMSO

2

, ethylmethyl sulfone; DES, diethyl sulfide; DESO

2

, diethyl sulfone; DBT, dibenzothiophene;

DBTO

2

, DBT sulfone.

H

3

C-S-CH

3

(DMS) (DMSO

2

)

 O

  H

3

  CH

 O

(EMS)

H

3

C-S-C

2

H

(EMSO

2

)

 O

  H

3

  C

2

H

 O

H

5

C

2

-S-C

2

H

5

(DES) (DESO

2

)

 O

  H

5

C

2

    C

2

H

 O

(8)

4. 3. 4. DMSO

2を炭素源として生育する微生物

 DMSO

2を唯一の炭素源として生育しかつ硫酸イオンを生成したサンプルから、KM 寒天プ レートを用いて DMSO

2分解株を分離した。その結果、単独でも DMSO

2を唯一の炭素源とし て生育可能な計 6 株を取得した。16S rDNAの部分塩基配列の解析結果から、 5 株を

Hyphomicrobium 属 (WU-TDL1 株、WU-TYK2 株、WU-OM2 株、WU-OM 3株、WU-OM4 株)、1 株を Pedomicrobium 属 (WU-212 株) と同定した。WU-S212 株は生育が不安定であっ たため、残りの 5 株について DMSO

2分解特性を調べた。

 WU-TDL1 株、WU-OM2 株、WU-OM 3株、WU-OM4 株 および WU-TYK2 株を DMSO

2

唯一の炭素源として含む RT 培地に接種し、代謝産物を同定した。その結果、WU-TYK2 株 以外の培養液からは MSA が検出された。とくに WU-TDL1 株の培養液からは硫酸イオンは 検出されず、 DMSO

2の分解に伴い MSA が蓄積した (Fig. 4. 4)。WU-OM 3 株は、DMSO

2

おける生育が最も速かったことから、本菌株をDMSO の組み合わせ分解における供試菌に 決定した。

The resting cell reactions were performed for 27 h.

a

Initial concentration of each substrate was 0.41 mM.

b

Consumption ratio

= (Molar of each substrate consumed / Initial concentration)×

100

Table 4. 4. Degradation of heterocyclic organosulfur compounds by the resting cells of WU-2

63 32 49 53 29 61

0.26 0.13 0.20 0.22 0.12 0.25

2-Ethyl NTH NTH

4, 6-Dimethyl DBT

Substrates

a

substrates

consumed (%)

b

Concentrations of

the (mM)

2, 8-Dimethyl DBT

3, 4-Benzo DBT

DBT

(9)

- 51 -

Fig. 4. 4. Degradation of DMSO

2

by the growing cells of WU-OM3 (A) and WU-TDL1 (B).

WU-OM3 or WU-TDL1 was cultivated at 30℃ in RT medium with 20 mM DMSO

2

as the sole source of carbon.

Symbols: ○, growth (OD

660

); □, DMSO; ▲, methanesulfonate;

△, sulfate ion.

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

0 5 10 15 20

0 20 40 60 80 100 120

Time (h) (B)

(A)

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

0 5 10 15 20

0 20 40 60 80 100 120

OD/OM3 Sulfate/OM3 MSA/OM3 DMSO2/OM3

Time (h)

(10)

0 0.5

1 1.5

2 2.5

3

0 20 40 60 80 100

Sulfate(MSA) MSA(MSA)

Time (h) (B) 3.0

2.5 2.0 1.5 1.0 0.5

Fig. 4. 5. Degradation of DMSO

2

(A) and MSA (B) by the resting cells of WU-OM3.

Symbols: ◇ , DMSO; ▲ , methanesulfonate; △ , sulfate ion.

0 0.5

1 1.5

2 2.5

3

0 20 40 60 80 100

Sulfate(DMSO2) MSA(DMSO2) DMSO2(DMSO2)

Time (h) (A)

3.0

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

(11)

 WU-OM3 株は 20 mM DMSO

2 を培養 48 時間で全て分解し、培養液中に MSA 15.2 mM お よび硫酸イオン 3.4 mM を生成した。最終的に DMSO

2 と当量の硫酸イオンが生成するまで

に、108 時間を要した (Fig. 4. 4)。また、培養液からは DMSO は検出されなかったこと、

DMSO を唯一の炭素源として含む RT 培地では生育を示さなかったことから、WU-OM3 株 は DMSO を経由せずに DMSO

2 を分解することが示唆された。

 WU-OM3 株の DMSO

2分解経路を明らかにするため、DMSO

2、DMSO および MSA を基質 とする休止菌体反応を行った。DMSO

2を基質とする反応では MSA および硫酸イオンが、

MSA からは硫酸イオンが生成したが、いずれの反応液からも DMSO は検出されなかった (Fig. 4. 5 )。また、培養菌体と同様に休止菌体反応においても DMSO は分解されなかった。

 以上の培養菌体および休止菌体を用いた実験結果から、WU-OM3 株は DMSO ではなく MSA を経由して DMSO

2を分解することが示唆された。

4. 3. 5. WU-2 株と DMSO

2分解微生物の組み合せによる DMSO 分解

  WU-2 株および WU-OM3 株の休止菌体を用いて、DMSO を含む模擬廃水の処理を行っ た。まず、WU-2 株の休止菌体を用いて DMSO 含有模擬廃水を 24 時間処理した。DMSO

2

の蓄積を確認した後、WU-OM3 株の休止菌体を用いて引き続き模擬廃水に対する処理を 行った。その結果、反応開始から 15 分以内に DMSO

2が全て消費され、初期 DMSO 濃度当 たり 96 %の変換率で硫酸イオンが生成した。

4. 4. 考察

 有機化合物含有廃水には、多くの場合、活性汚泥や生物膜を用いた微生物処理が適用可能 である。しかし、DMSO は生分解性が低くかつ嫌気的な雰囲気では DMS が蓄積するため、

DMSO 含有廃水に通常の微生物処理を施すと DMSO の残留や悪臭の発生を引き起こす。

 そこで DMS の蓄積を回避するために、DMSO を 酸化してDMSO

2や MSA に変換した 後、さらに無機化処理を行う二段階の DMSO 含有廃水処理法が開発され、一部のものにつ いては既に実用化されている。このような組み合せ処理法においては、第 1 章で紹介したと おり、DMSO の酸化にフェントン酸化 1)、オゾン酸化2)、薬剤処理2)、紫外線照射3, 4, 5)など の方法が適用されている。しかし、フェントン酸化法では大量の鉄水酸化物スラッジが発生 して工業的に不利である。また、オゾン酸化、薬剤処理および紫外線照射法では、特別な設 備が必要なうえに処理コストが高く、低濃度廃水を処理するには経済的でない。著者は、上

- 53 -

(12)

述の組み合せ処理法において、従来の物理化学的な DMSO 酸化法に替わり、本研究の過程 で取得した C. humicolus WU-2 による DMSO 酸化が適用できないかと考えた。

 本章の実験結果から、WU-2 株は DMSO

2および MSA を経由して DMSO を分解している ことが示唆された。DMSO

2および MSA はいずれも無臭の化合物であり、これらの化合物を 経由して DMSO を分解する方法は、悪臭物質の発生を抑えた実用的な分解処理法として期 待される。次に DMSO 酸化における硫酸イオンの影響を調べた。培養時に 0.64 mM 以上の 硫酸ナトリウムを添加すると、DMSO 消費量および DMSO

2蓄積量が低下した。一方、休止 菌体に硫酸イオンを添加しても、DMSO

2蓄積量は添加しないときと変わらなかったことか ら、硫酸イオンの影響は DMSO 分解に関わる酵素を阻害するものではないことが推測され た。また、WU-2 株の有機硫黄化合物酸化について基質特異性を調べた。その結果、WU-2 株はアルキルスルフィドだけでなくヘテロ環系硫黄化合物 DBT に含まれる硫黄原子も酸化 し、そのスルホン体を生成した。今までに DBT 分解微生物として、Rhodococcus sp.

IGTS86)、Rhodococcus sp. SY17)、当研究室保有の Bacillus subtilis WU-S2B8)および

Mycobacterium phlei F19)などの細菌が報告されている。しかし、酵母による DBT 酸化は例

がなく、WU-2 株の新規性は高い。

 さらに、DMSO

2を完全に無機化するために、DMSO

2を唯一の炭素源として生育する微生 物のスクリーニングを行った。今までに DMSO

2分解微生物は、Borodina ら10)によって Hyphomicrobium sp. S1、Arthrobacter sp. TGA および Arthrobacter sp. TLL が報告されてい る。これらの菌株は、 DMSO

2を DMSO に還元した後、Hyphomicrobium sp. S11)と同様の経 路で DMSO を分解することが示唆されている。これに対し WU-OM3 株は、 DMSO

2代謝産

物として 無臭のMSA を生成することから、悪臭物質を発生しない DMSO 分解プロセスへ の適用が期待される。本章では実際に、WU-2 株を WU-OM3 株と組み合せると、 DMSO が 当量の硫酸イオンに分解されることを確認した。

4. 5. 結言

 DMSO を唯一の硫黄源として生育する C. humicolus WU-2の DMSO 分解特性を明らかにし た。さらに、DMSO

2分解株 Hyphomicrobium sp. WU-OM3 を新たに取得し、WU-2 株と WU- OM3 株を組み合せることで、微生物活性を利用した DMSO の無機化について検討した。

 WU-2 株は、DMSOおよびその構造類似体に対する分解特性や代謝産物の同定結果から、

(13)

活性は高く、48 時間の培養で初期濃度 2.56 mM の DMSO を全て消費し、70 %のモル変換 率で DMSO

2を生成した。休止菌体反応では、初期濃度 6.40 mM の DMSOを 24 時間の反応 で 96 % 消費し、そのほとんどをDMSO

2へと酸化した。また、アルキルスルフィドおよびヘ テロ環系硫黄化合物を基質とする休止菌体反応の結果から、WU-2 株は有機硫黄化合物中の 硫黄原子酸化において、広い基質特異性を有することが示唆された。

 DMSO の酸化に伴い蓄積した DMSO

2を完全に無機化するために、DMSO

2を唯一の炭素源 として生育可能な微生物 WU-OM3 株を新たに取得した。16S rDNA の部分塩基配列の解析 結果から、WU-OM3 株は Hyphomicrobium 属細菌と同定された。WU-OM3 株は DMSO

2分解

に伴い MSAを生成し、最終的に DMSO

2から当量の硫酸イオンを生成した。

 WU-2 株と WU-OM3 株を組み合せた DMSO 分解では、2.56 mM DMSO を含む模擬廃水 に対して WU-2 株の休止菌体反応を行った後、引き続き WU-OM3 株を用いて休止菌体反応 を行った。その結果二段階の休止菌体反応後には、模擬廃水からDMSO および DMSO

2 は検

出されず、DMSO の初期量に相当する量の硫酸イオンが生成した。このような二種類の菌 株を組み合せた DMSO 分解は、DMS のような悪臭物質を発生しない点において実用性が高 く、新規な DMSO 含有廃水処理法への適用が期待される。

参考文献

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参照

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