本研究では, 臭素化難燃剤の一種である
DBDE
の発達期曝露により, 発達期甲状腺機能低下に関連する不可逆的な白質の低形成が生じることを示した。また, 発達期甲状腺機能低下
により生じる白質低形成に関連する分子マーカーとして, 帯状束に分布する
vimentin
陽性未成熟アストロサイトおよび
Ret
陽性オリゴデンドロサイトを見出し, これらの細胞が, DBDE発達期曝露動物および
HBCD
発達期曝露動物における不可逆的な白質低形成およびオリゴデンドロサイト密度の減少と関連して増加することを示した。
DBDE
は食糧農業機関/世界保健機関 合同食品添加物専門家会議 (JECFA) およびEFSA
におけるリスク評価にて, 曝露マージンが十分に大きく, ヒトの健康リスクへの影響の懸念は
ないと結論されており, HBCDも
EFSA
にて同様の評価がなされている [17, 18, 39]。本研究で適用したこれらの物質の曝露量は, 現状のヒトへの曝露量と比較してかなり高い用量ではあ ったが, これらの物質が大脳白質に器質的な変化を生じる可能性を示し, その影響は離乳時
の
vimentin
陽性未成熟アストロサイトおよびRet
陽性オリゴデンドロサイトの数の測定により検出可能であった。EPAでは
DBDE
を段階的に代替していく旨を2009
年に発表しており,HBCD
についても2013
年にリスク評価を実施する予定としている。本邦においても, DBDEは化管法の第1種指定化学物質, HBCDは化審法の監視化学物質に指定されており, 将来的に は他の難燃剤への代替が進んでいくことが想定されるが, 代替が進まず, ヒトへの曝露量が
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増加していった場合は, 高蓄積・難分解性という物質特性からも, 発達期曝露された子供の脳 発達に障害が生じる可能性が懸念される。
本研究は, 臭素化難燃剤による発達期甲状腺機能低下に焦点をあて, 白質低形成に関連す
る分子マーカーの探索・有用性検討を進めたが, DBDEおよび
HBCD
については, 発達期甲状腺機能低下を介さない脳への直接影響についても
vimentin
陽性細胞およびRet
陽性細胞で検出することができた。著者らは, 過去に本研究と同様のアプローチにて, 発達期甲状腺機能低 下に起因する海馬でのニューロン発達障害に関連する分子として, 甲状腺ホルモンにより発
現制御を受け, ニューロンの移動や位置情報を決定する分子である
Reelin
を見出している[63]。
歯状回門に分布するReelin
陽性未熟GABA
ニューロンについて, 本研究と同様にDBDE,
HBCD
およびTBBPA
の3
種類の臭素化難燃剤について評価を行ったところ, DBDEについては
vimentin
陽性細胞と同様に中間用量から, TBBPAについても中間用量から, Reelin陽性細胞の増加が認められ, 発達期甲状腺機能低下を介さない脳への直接影響を検出している [64]。
本研究では, Ret陽性オリゴデンドロサイトの増加がオリゴデンドロサイトのアポトーシスを 誘導し, vimentin陽性未成熟アストロサイトの増加は, オリゴデンドロサイトの減少に対する
反応性変化であることが示唆されており, これらの細胞は各群
5
匹の子動物の測定により影響を定量的に評価可能であるほどの感度を有していたことから, OECDおよび
EPA
から示されたガイドラインに則った高次の発達期神経毒性試験を実施する前の簡便なスクリーニング 試験のマーカーとして有用であると考えられる。今後, これら分子に関するメカニズムの詳
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細な解析を進めると共に, WHOから例示されている発達神経毒性を引き起こす化学物質
[38] , OECD
およびEPA
のガイドラインに則った発達期神経毒性試験で影響が確認されている化学物質 [45] に関して, 本研究で見出した白質発達に関するマーカーおよび先に示した
reelin
等のニューロン発達に関するマーカーを用いた評価を実施し, これらマーカーが検出可能な化学物質およびそのカテゴリー, 機序を把握することにより, 環境中にある神経毒性物 質を検出する有用なスクリーニング系の構築が可能になると考えられる。