序 文
インフルエンザは,冬季に流行する感染症の代 表的な疾患であり,高齢者においては,冬季の超 過死亡の原因として重要である. 小児においても,
特に乳幼児の本症入院率が高く,肺炎,中耳炎,
まれに脳炎・脳症などの合併症を引き起こすの で, 社会的問題となっている
1)2).本邦においては,
1998 年 11 月からアマンタジンが A 型インフル エンザに使用されるようになり,1999 年にはノイ
ラミニダーゼ阻害薬が A 型,B 型インフルエンザ の両者に対し認可された. 2002 年〜03 年シーズン からは乳児を除く小児においてもオセルタミビル の使用が可能になったが,抗ウイルス薬の小児に お け る 有 効 性 と 安 全 性 に 関 す る 報 告 は 少 な い
3)〜6).
今回,我々は,迅速診断キットを用いてインフ ルエンザと診断した後,当科に入院した 162 症例 を対象として,有熱期間,入院期間,解熱薬の投 与回数,併発症状などを調査し,オセルタミビル 投与群,アマンタジン投与群,非投与群で比較検 討することにより,抗ウイルス薬の小児における
小児の A 型インフルエンザに対するオセルタミビルの 有用性に関する検討
1)公立相馬総合病院小児科,2)星総合病院小児科,3)福島県立医科大学医学部小児科
今村 孝
1)細矢 光亮
3)大西 周子
2)佐藤 敬
1)片寄 雅彦
1)川崎 幸彦
3)鈴木 仁
3)(平成 15 年 3 月 28 日受付)
(平成 15 年 8 月 5 日受理)
2001 年 1 月から,2002 年 7 月にかけて,当科に入院した A 型インフルエンザウイルス感染者 162 人を 対象に,発熱持続期間,入院期間,解熱薬使用回数,併発症状などを調査し,抗ウイルス薬(オセルタ ミビル,アマンタジン)投与群と非投与群で比較検討した.オセルタミビル投与群においては,非投与 群やアマンタジン投与群に比較して,有熱期間と入院期間が有意に短縮していた.オセルタミビル 2mg
!
kg!
日投与群と 4mg!
kg!
日投与群の間で有熱期間に差は認められなかった.解熱薬の使用回数は,オセル タミビル投与群において有意に減少していた.オセルタミビルを投与した症例における抗菌薬の併用群 と非併用群との比較では,有熱期間,解熱薬の使用回数に有意差はみられなかった.オセルタミビル投 与例の約 9% に嘔吐,腹痛,易興奮などの症状を認めたが,いずれも軽微であった.この頻度は,抗ウ イルス薬非投与群やアマンタジン投与群に比較して低かった.以上より,オセルタミビルは小児のイン フルエンザに対し有効であり,副作用も少なく,抗菌薬や解熱薬の使用を減少させることができるもの と考えられた.〔感染症誌 77:971〜976,2003〕
要 旨
別刷請求先:(〒976―0011)福島県相馬市新沼字坪ヶ迫 142 番地
公立相馬総合病院小児科 今村 孝
Key words: influenza, rapid diagnosis, amantadine, oseltamivir
有効性と安全性を明らかにすることを目的とし た.
対象と方法
1.対象
2001 年 1 月から 2002 年 7 月までの期間に当科 に入院した小児のうち, 38℃ 以上の高熱, 咳嗽,
咽頭痛,倦怠感,関節痛などのインフルエンザ様 症状で発症し, 発症後 48 時間以内に迅速診断キッ トで鼻咽頭拭い液からインフルエンザウイルス A 抗原を検出した 162 症例を対象とした.男児 87 人,女児 75 人で,年齢は 3.12±2.06 歳であった.
哺乳力低下,経口摂取困難,けいれん,肺炎,喉 頭炎などの合併を認めたものを入院対象とした.
2.方法
抗ウイルス薬投与の適否に関しては,6 カ月未 満の乳児を除き, 明確な基準は設けなかったため,
2001 年は,対症療法が中心となった.2002 年は流 行初期に脳症合併例を経験したため,抗ウイルス 療法が中心となった.その結果,抗ウイルス薬を 投与しなかった非投与群(I 群)は 27 例,アマン タジン投与群(II 群)は 51 例,オセルタミビル投 与群(III 群)は 84 例であった.アマンタジンは 5mg! kg! 日,最高 100mg! 日,分 2, 5 日間投与し た.オセルタミビルは 1〜3(平均 2.3)mg ! kg ! 日 あるいは 3〜5(平均 3.7)mg ! kg ! 日,最高 150mg ! 日,分 2, 5 日間投与した.なお,アマンタジン,
オセルタミビルの投与に際しては,本邦では実施 時,小児に認可されていなかったため,家族に十 分な説明を行い,同意が得られた場合にのみ投与 した.対症療法として全例に喀痰溶解薬,気管支 拡張薬等を投与した.解熱薬は,39℃ 以上の発熱 があり,全身倦怠や食欲低下などの症状がある場 合に,アセトアミノフェンを屯用で用いた
7).6 時間毎に 1 日 4 回検温し,体温が 37.5℃ 以下を持 続するようになった初めの時点を解熱とした.有 熱期間,入院期間,解熱薬使用回数,併発症状を 入院カルテを基に調査し,3 群間で比較検討した.
また,III 群ではオセルタミビルの投与量による違 い,および抗菌薬併用の有無による違いを検討し た.数値は,平均±SD で表示し,有意差の検定に は Student t テストを用いた.
成 績
1.患児背景
2001 年には I 群が 24 例,II 群が 13 例で,2002 年には I 群が 3 例,II 群が 38 例,III 群が 84 例で あった.年齢分布は,I 群が 4 カ月から 12 歳(平 均 年 齢;2.70±2.10 歳) ,II 群 が 8 カ 月 か ら 9 歳
(同;2.71±1.69 歳) ,III 群 が 8 カ 月 か ら 12 歳
(同;3.49±2.27 歳)で,3 群間に有意差はなかっ た.併発症は,気管支炎・肺炎が 108 例,熱性け いれんが 25 例,脱水症が 11 例,喉頭炎が 8 例,
中耳炎が 5 例であった.また,当地域において,
2001 年, 2002 年に流行の主流になったのはインフ ルエンザ AH3 型と B 型で,入院患者全例にウイ ルス分離を施行しなかったが,一部分離されたウ イルスは両年ともに多くは AH3 型であった.
2.有熱期間の検討
1)Fig. 1 に抗ウイルス薬内服開始後,解熱する までの期間を示した.なお,I 群は対症療法薬内服 開始後,解熱するまでの期間とした.
III 群では,内服開始後 1 日に 30% が,3 日まで に約 75% の症例が解熱した.II 群では,内服開始 後 3 日までに約 50% の症例が解熱した. 各群の平 均有熱期間を Fig. 2 に示した.発熱してから内服 開始までの期間は,I 群が 1.19±0.37 日,II 群が 1.09±0.34 日,III 群が 1.02±0.36 日で,3 群間に有 意差はなかった.内服開始後の有熱期間は,I 群
(3.20±1.28 日)に比べ III 群(2.26±1.24 日)にお いて有意に短縮していた (p=0.0073) .II 群 (2.93±
1.56 日) と I 群の有熱期間には有意差はなかった.
Fig. 1 Time to resolution of fever after administra- tion of antiviral drugs.
Table 1 The comparison of clinical characters be- tween patients treated by oseltamivir with antibi- otics and those by oseltamivir alone
p value oseltamivir
oseltamivir
+ antibiotics
NS 26:20
20:18 male:female
3.59 ± 2.40 NS
(0 〜 11)
3.37 ± 2.10
(0 〜 12)
Median age, yr
(range)
2.16 ± 0.96 NS 2.36 ± 1.58
Term of fever
(day)
NS 31
bronchitis or 22 pneumonia
NS
0
2
otitis media
NS 7,809 ± 2,259 8,489 ± 2,777
(/µl)WBC
0.0093 0.62 ± 0.45
1.29 ± 1.16 CRP
(mg/dl)
2)オセルタミビル投与量と有熱期間との関係 を示す(Fig. 3).1〜3mg! kg! 日(平均 2.3mg! kg!
日)を投与した症例が 43 例,3〜5mg ! kg ! 日(平 均 3.7mg ! kg ! 日) が 41 例であった.内服開始後の 有熱期間に投与量の違いによる差は認めなかっ た.
3)解熱薬を使用した症例は,I 群で 27 例中 10 例(37.0%)で,II 群で 51 例中 18 例(35.3%)で あった.III 群で解熱薬を使用した症例 84 例中 14 例 (16.7%) で,I,II 群に比較して有意に (p<0.05)
低率であった.III 群において,解熱薬を使用しな かった群の内服開始後有熱期間は,2.07±1.14 日,
解熱薬を 1 回投与した群のそれは,2.63±1.00 日 であり,有意差はなかった.
4)I 群で抗菌薬を使用した症例は 26 例,使用 しなかった症例は 1 例であった.II 群ではアマン タジン単独投与例は 10 例, 抗菌薬を併用した症例 は 41 例であった.III 群ではオセルタミビル単独 投与例は 46 例で,抗菌薬を併用した症例は 38 例 であった.I 群,II 群では症例数が少なく有意差の
検討はできなかった.III 群において,抗菌薬併用 群とオセルタミビル単独投与群との間では年齢,
性差,白血球数,有熱期間,入院期間に有意差を 認めなかった(Table 1) .
3.入院期間
各症例の入院期間は I 群では 6 日間,II 群では 5 日間,III 群では 4 日間にピークがみられた (Fig.
4) .III 群の平均入院期間は 4.80±1.09 日で I 群の 6.52±1.65 日 に 比 べ 有 意 に 短 縮 し て い た(p=
0.00087) .II 群のそれは,5.51±1.48 日で I 群と比 べ有意差を認めた(p=0.049) .
4.副作用
II 群では,投与 51 例中 6 例(11.8%)に併発症 状があった.嘔吐などの消化器症状が 2 例,易興 奮などの中枢神経症状が 4 例で,1 例ではこのた
Fig. 2 The average duration of fever in Group I,IIand III.
Fig. 3 The comparison of the duration of fever be- tween patients treated with oseltamivir at 2mg!kg! day and those at 4mg!kg!day.
Fig. 4 The time of treated in our hospital in each group
めに服薬が中断された.III 群では,投与 84 例中 7 例(8.3%)に併発症状があった.腹痛,嘔吐など の消化器症状が 4 例に,不穏,易興奮などの中枢 神経症状が 2 例に認められたが,いずれも対症療 法にて軽快し,服薬を中断した例はなかった.I 群では,投与 27 例中 9 例(33.3%)に腹痛,嘔吐 などの消化器症状を認めたが,不穏,易興奮など の中枢神経症状は認めなかった.
考 察
1998 年 11 月にアマンタジンが抗インフルエン ザ薬として認可され,1999 年 12 月からノイラミ ニダーゼ阻害薬である吸入薬ザナミビルと経口薬 オセルタミビルが認可された.アマンタジンが M 2 蛋白を有する A 型インフルエンザのみに有効 であるのに対して,ザナミビルとオセルタミビル はノイラミニダーゼ(NA)に対し阻害作用を有す ることから,A 型および B 型の両インフルエンザ に対して効果がある.これら薬剤の成人領域にお ける有効性に関しては多数の報告があるが,
4)8)〜10)小児における抗ウイルス薬の有効性と安全性に関 した報告は少ない.特にプラセボを対照とした無 作為二重盲検試験は,Whitley ら
4)の報告のみであ る.これによると,臨床症状出現後 48 時間以内に オセルタミビル 4mg ! kg ! 日,5 日間投与した場 合,プラセボ投与群における臨床症状持続時間の 中間値が 137 時間であるのに対し,オセルタミビ ル投与群では 101 時間と 36 時間の短縮が認めら れたとしている.本邦においても,藤井ら
5),三田 村ら
6)は,アンケート調査をもとに,小児における オセルタミビルの有効性を検討し,内服開始後短 期間(1.6〜1.9 日)に解熱がみられたとしている.
我々は,無作為割り付け試験ではないが,抗ウイ ルス薬非投与群,アマンタジン投与群を対照とし て,オセルタミビルの有効性を検討した.特に,
入院症例を対象とし,入院カルテを基に調査する ことにより,発熱期間,解熱薬使用回数,併発症 状の有無を正確に把握し,オセルタミビルの効果 と副作用を検討しようと試みた.その結果,オセ ルタミビル投与群においては,内服開始後解熱ま での期間が 2.26±1.24 日と,抗ウイルス薬非投与 群(3.20±1.28 日)やアマンタジン投与群(2.93±
1.56 日) に比較して有意に短縮していた.臨床症状 の全般的改善を示す入院期間は,オセルタミビル 投与群(4.80±1.09 日)において,抗ウイルス薬非 投与群(6.52±1.65 日)に比較して,約 1.7 日(41 時間) 短縮しており,Whitley らの症状持続時間の 短縮に近似していた.
Hayden ら
11)は,成人における実験的インフルエ ンザ感染において,オセルタミビル 40mg ! 日,200 mg ! 日,400mg ! 日の群間で治療効果に違いがみら れなかったとしている.我々の結果においても,
オセルタミビル 4mg ! kg ! 日投与群と 2mg ! kg ! 日 投与群の間で有熱期間に違いがみられなかった.
オセルタミビルの少量投与に至った過程には,実 施時,剤形はカプセルのみでカプセルをはずして 無駄なく投与を行おうとした処方上の問題,また 乳児に対する投与など年齢的要素を考慮した背景 がある.小児の場合,年齢,全身状態,薬剤の性 状などにより,服薬が困難なことが多く,処方し た量を服薬していないケースもまれではない.オ セルタミビルの場合,仮に実際の服用量が基準量 に満たない場合であっても効果を期待できる可能 性もあると考えられた.さらに,オセルタミビル 投与群においては,抗ウイルス薬非投与群やアマ ンタジン投与群に比較して解熱薬の使用回数が減 少していた.また,解熱薬を投与した群と投与し なかった群との間で,有熱期間に有意差を認めな かったことを踏まえると,早期の解熱が期待でき るため,多くの例において解熱薬を使用せずに経 過観察できると思われた.
近年,抗菌薬の使用が氾濫し,乳幼児において は耐性肺炎球菌や耐性インフルエンザ桿菌の増加 が問題にされている
12).インフルエンザにおける 抗菌薬併用の主な適応は,中耳炎や肺炎など細菌 混合感染に対してであるが,二次感染予防を目的 として,合併症の有無にかかわらず抗菌薬が併用 されているケースが少なくない. 今回の検討では,
2001 年には抗菌薬の投与例が多かったが,2002
年にはオセルタミビルを単独に投与された症例が
増加した.オセルタミビル投与群の中で抗菌薬併
用群と非併用群とを比較すると年齢,性差,有熱
期間,入院期間などに有意差はなかった.また,
下気道感染などの合併の明らかでない例におい て,発熱期間及び有熱期間を抗菌薬の使用の有無 で比較すると有意差はなかった.以上より,中耳 炎や下気道感染症などの合併が明らかでない場合 には,たとえ入院例であっても抗菌薬の使用は避 けられるであろうと思われた.
アマンタジン投与群においても内服開始後解熱 までの期間及び入院期間は,抗ウイルス薬非投与 群に比較して,いずれも短縮していた.既存の報 告どおり
13)有効であると思われたが,オセルタミ ビル投与群に比べ,内服開始後解熱までの期間が 長かった理由として,投与後,二峰性の発熱がみ られた症例が同群の約 40% に認めたことや今回 のような明らかな合併症を伴う入院例に対して は,効果の発現に時間差がある可能性を考えた.
インフルエンザウイルス感染症対策の中心は現 在においても予防接種であると考えるが,迅速診 断法と有効な抗ウイルス薬が開発されてインフル エンザの治療が容易になった.オセルタミビルの 投与により,乳幼児の入院率を減少させ得るか,
あるいは脳炎・脳症などの重篤な合併症を予防し 得るかに関しては,今後の検討が必要である.
なお, 本研究は 2 シーズンにわたるものであり,
入院患者全例からのウイルス分離は実施していな い.そのため,ウイルスによる重症度に差がある 可能性があり,本研究の限界(limitation)として 考慮する必要があると思われた.
文 献
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The Study on Efficacy of Oseltamivir for Influenza A in Children Takashi IMAMURA
1), Mitsuaki HOSOYA
3), Noriko OONISHI
2), Kei SATO
1)Masahiko KATAYOSE
1), Yukihiko KAWASAKI
3)& Hitoshi SUZUKI
3)1)Department of Pediatrics, Soma General Hospital
2)Department of Pediatrics, Hoshi General Hospital
3)Department of Pediatrics, Fukushima Medical University School of Medicine