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21 世紀における企業広報の研究領域( 1)

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(1)

■ 研究論文

21 世紀 における企業広報の研究領域 ( 1)

一 企業広報の発端、定義、技術、特質 一

m eRe s e a r c hAr e a so f t heCo r p o r a t ePu bl i cRe l a t i o nsi nt he21 s tCe n t u r y( 1 )

:T

heOr i g in, De 丘n i t i o n, Te c hn i q uea ndCha r a c t e r i s t i c

神奈川大学大学院 経営学研究科 国際経営専攻 博士後期課程

宣 京 哲

Ⅹua nJ i n gz he

■キーワー ド

企業広報、パ ブ リック、利害関係者、信頼関係、双方向 ・対称型広報

1 は じめに

広報 (パブ リック ・リレーシ ョンズ)が研究 さ れ始めてか ら

1 0 0

年以上 も経ち、企業 において広 報の重要性 が叫ばれて久 しい。に もかかわ らず、

企業経営 を研究す るうえで、企業広報 を取 り上げ るケ‑スは少ない。つ まり、企業理念、企業倫理、

企業文化、企業統治、企業戦略 といった さまざま な経営要素 を取 り上げるに して も、企業広報はあ まり取 り上げ られていない。企業広報の研究に関 心 を抱 く研究者の1人 として、その原因 を考 えた

ところ、主に、3つの問題が浮かび上がる。

1つ 目は、企業広報の意味である。広報 とい う 言葉が我々の 日常生活のなかで盛んに使われて き ているが、 どうもそれには宣伝、広告、売 り込み といった意味で使われていることが原 因の1つ だ と考 えられ る。つ まり、企業広報 といえば、企業 の商品 ・サービスを消費者に向けて一方的に売 り 込むための宣伝活動であるといった印象が強 く、

企業経営の健全な発展 を導 くうえで必要な経営要

素 として取 り上げ られていない ことである。

2

つ 目は、企業広報の定義で ある。広報の定義 をめぐる議論 といって も、論者により さまざまで あり、多岐にわたる。たとえば、パ ブ リックの利 益 を前提 とす る情報の発信 を主な活動 とす るもの か ら、パ ブ リックの利益に奉仕す ることを前提 と す る組織体の リーダーの責任 と役割 を指す ものま で、 さまざまに語 られる。そこで、企業経営にお ける広報の役割 を再確認 し、企業広報の定義や役 割を明確化す る必要がある。

3つ 目は、企業広 報の理論で ある。上記の2つ の原因か ら、広報には理論がないといった指摘 さ えある。 これは、そもそも広報問題は多種 多様で あり、関与す る研究分野 も非常に広 いか らだ と考 えられる。たとえば、メデ ィア ・リレーシ ョンズ を論 じる場合 にはメデ ィア論 と関わ りを持ち、イ ンベスター ・リレーシ ョンズを論 じる場合 には財 務論、コンシューマー ・リレーシ ョンズを論 じる 場合 にはマーケテイング論、エ ンプロイー・リレー シ ョンズを論 じる場合 には人事管理論 と関わ りを

(2)

22 神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』 第14 2010年3

持つなど、多 くの研究分野 と関わ りを持つのであ る。

本研究では、以上の問題意識に基づいて、図表 1に示 され るように、企業経営の観点か らみ られ る広報問題 に焦点を当てて、その発端、定義、そ して、技術 的 な側面 と特質的な側面の両視点か らみ られ る企業広報の議論、および、理論的展開、

最後に研究領域 と研究課題 を考察 し、一定の整理 ができることを期待する。なお、紙面の関係 もあ り、3部 に分けて取 り組む ことに し、第1部では、

企業広報の発端、定義、議論、第2部では、企業 広報の理論的展 開、第3部では、企業広報の研究 領域 と研究課題 を中心に考察 を行 い、21世紀 に おける企業広報の研究領域 を明 らかに していきた い。

2

広報の誕生 と企業広報の発端 2.1 アメリカにおける広報の誕生

今 日、 さまざまな組織体において広範に使われ ている広報の考 え方は、民主主義 と自由軍済 を旗 印に繁栄 を先導 してきたアメ リカで誕生 し発展 し て きたといわれている。そ して、パ ブ リック ・リ レーシ ョンズとい う言葉 を初めて用いたのは、ア メ リカ独立宣言の起草者で第3代大統領で もある トーマス ・ジェフ ァー ソン

( Tho ma sJ e f f e r s o n )

だといわれているIo

その一方、 アメ リカの多 くの広報専門書 で紹 介 されているように、広報が誕生 した背景には、

18世紀 にアメ リカで起 きた独立宣言 や憲法批准 などといった政治 を舞台とする歴史的出来事があ り、愛国運動の展開や国民支持の獲得 を狙 って広

報活動が行われたとされ る。

たとえば、独立論者 の1人であるサ ミュエル ・ アダムス

( S a mu e l Ad a ms )

をは じめ、様 々な宣 伝組織 を組み、演壇や説教台を設置 し、独立イベ ン トを仕掛 けた とされ るO なかで も、1766年1月 に、ボス トンで組織化 された愛国団体の 「自由の 子」や、1772年6月に、同 じくボス トンで形成 さ れた情報発信組織体の 「通信委員会」などが特徴 的だといわれている2.‑万、1776年に、 トマス・

ペ イ ン (

m o ma sPa i ne )

よ り発表 され た独立 を 提唱す るパ ンフレッ トの 『コモ ン ・セ ンス』 は、

発行 されてわずか3ヵ月の間に12万部 も売れ、「革 命が始 まって以来、最 も有効なパ ンフレッ ト」で あり、「新聞業界 を吸い寄せた最初のパ ンフレッ

ト」であったとい う評価 もなされている3。 また、憲法批准 をめぐって、 アレキサ ンダー ・ ハ ミル トン (

J ue X a nd e rHa mi l t o n )

やジェームズ・

マデ ィンソン

Ua m e sMa d i s o n )

をは じめとす る 憲法提唱者 たちは、憲法の重要性 と必要性 を強調 した

8 5

篇の論文集 『ザ ・フェデ ラ リス ト』 を発 表 したが、アメリカの世論 を大 きく刺激 したとい われ る。 た とえば、『ザ ・フェデ ラリス ト』の発 表 を、「全E]で最初規模の政治キ ャンペ‑ン」で あると評価 している学者 もいれば、ハ ミル トンの ことを 「広報人の誕生」であると評価 している学 者 もいることか ら、その影響力は大 きかったと予 想できる4。

したがって、広報活動 は、18世紀後半 におけ るアメ リカ独立革命が発端 となり、独立論者や憲 法提唱者 などの政治運動が契機 となって誕生 した といえる。 また、組織体 あるいは個人の利益 より も、社会問題 を解決す るところに重点が置かれ、

国表1本 研究の流れ

(出所 ) 筆 者 作 成 。

(3)

最終 的に、独立戦争の勝利 を導 き、憲法草案の批 准 を得 るといった歴史的な成功 を収めることがで きた といえる

2.2 企業広報の発端 と広報 コンサル テ ィング 会社の誕生

このように、主 に、政治舞台で使われていた広 報活動が企業の経営活動に用い られたのは、 さら に100年 を経て19世紀後半 に入 るの を待 たねばな

らなかった。

1880年代後半 に起 こった電流戦争 は、直流式 電気 システムを開発 したエジソン社 と交流式電気 システムを開発 したウェステ ィングハ ウス社 との 間の送電 システムをめ ぐる敵対関係の始 まりが契 機 になったといわれ る。 この戦争で、エ ジソン社 代表の トーマス ・エジソン (ThomasEdison)は、

秘書のサ ミュエル ・インサル (Samuellnsull)を リーダーとして、 ウェステ ィングハ ウス社の交流 式 システムの普及 を阻害す る活動 を展 開 した とさ れ る。なかで も、交流式 を用いた電気椅子 とい う 死刑執行具 を開発 し、次々 と交流式の恐 ろしさが 証明で きる感電死実験 を行い、威嚇キャンペーン

を行 った ことが特徴的だ といわれている

これに対 して、ウェステ ィングハ ウス (George Westinghouse)は、 自社 の交流 式電 気 システ ム

に対す る批判 が強 まるなか、 アーネス ト・へ イ ンリックス (ErnestHeinrichs)を広報担 当者 と して雇用 し、エジソン社の自社 に対す る威嚇キャ ンペーンに対抗 した とされ る。たとえば、へイン リックスは、世論の批判 が強 まるに も関わ らず、

交流式の メ リッ トが伝 わ る文章 を書 き続 けて メ デ ィアの理解 を求めた とされている。最後に、交 流式電気 システムのメ リッ トが多 くの市民の心に 響 き、電流戦争 はエジソン社の敗北で幕 を閉 じる

こととなったので ある5

アメ リカの多 くの広報専門書 には、へ インリッ クスの ことを、「アメ リカ最初の企業部門のプ レ スエージェン ト」だ と記載 されている。 この こと は、19世紀後半 に起 きた電流戦 争 が企業広報 の 発端であると考 えられ る しか しなが ら、企業広

報が専門職 として本格的に経営活動に用い られた の は、 さらに10年 を経 て20世紀 に入 るの を待 た ねばな らなかった。

1990年代 に入 ったアメ リカで は、 マ ック レー カーズを中心に、政府 の腐敗や大企業の弊害 など を非難す る活動が頻繁 に行われた。 フランク ・ノ リスの著書 『タコ』 (1901)、 イー ダ ・タ‑ベル の著書 『スタンダー ド・オイル社の歴史』 (1904)、 アプ トン ・シ ンク レアの著書 『ザ ・ジャングル

(1906)などにおいて、いずれ も大企業 が社会的 地位 の仮面 を被 って人々を欺 くような道徳的な犯 罪や不正行為 などを摘発 してお り、大 きな社会的 反響 を巻 き起 こしたといわれている6。

こうした動乱の時代 に、誕生 したのが広報 コン サル テ ィング会社 (PR会社) で ある。1900年 に ボス トンで最初 のPR会社パ ブ リシテ ィ ・ビュー ロー社が誕生 し、1902年 に2番 目のス ミス &ウオ ル マ一社、1904年 に3番 目のパ ーカー & リー社、

とい った広報専 門の会社 が次 々 と設立 され たの で ある7。 当時のPR会社 の主 な仕事 とい えば、如 何 に世論 の大企業 に対 す る非難活動 を抑 制す る かで ある た とえば、鉄道業界 が中心 となって、

■■ら

1906年 にアメ リカ議会 で通過 され た鉄道規制措 置 に関す るへポバ ーン法 を阻止す るために行 った 広報活動 も8、無煙炭業界 が中心 となって、1906 年 にペ ンシルバニア州で起 こった炭鉱 ス トライキ を静 め るために行 った広報活動 も、 「アメ リカで 最 も悪意 に満 ちた富豪家族」とい う汚名 を背負 っ たロックフェラー ・プアミリが、家族 のイメージ を高 め るために行 った広 報活 動 も、PR会社或 い は広報専門家 が関わった といわれている9。

したがって、企業広報 が専門職 として本格 的に 経営活動 に用い られ たの は、1900年代 に入 って か らであ り、世論 が政府 の腐敗や大企業の弊害 な どを非難す るなかで、その役割 を発揮す るように なった といえる。

(4)

24 神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』第14 2010年3月

3

広報の定義 と企業広報の定義 3.1 広報の定義 をめぐる議論 と変遷

広 報 の定義 をめ ぐる議論 とい って も、論者 に よ りさま ざまで あ り、多岐にわた る。 た とえば、

Hadow (1976)は、アメ リカにおける広報に関す る多 くの書籍か ら472個 に ものぼ る広報の定義 を 抽 出 して研究 して お り、小 宮 山 (2003)も、 日 本 にお ける用語辞典 か ら12個、広報書籍 か ら17 個 にのぼ る異なる広報の定義 を取 り上 げて研究 し ていた。 このことは、広報の問題の複雑性 を表 し、

それにともな う広報の定義づ けの難 しさも判明 し た といえる。

とはいって も、企業広報 が誕生 して約100年 も 経 っているが、当時の広報専門家の間で も、広報 の定義について明確 な基準 を設 けることがで きな か った といわれてい る。 それは、「広報 の父」 と も呼 ばれ るアイ ビー ・リー (IvyLee) さえ、 自 分たちがやってい る仕事の名前 をどう呼べばいい かよ くわか らなか った といわれてい る10。 しか し なが ら、1906年 に起 こった炭 鉱 ス トライキ をめ ぐる広報活動に関った リ‑は、炭鉱会社の代弁者 で あ りなが ら、「原則 の宣言

1 1

」 を発表 し、 その なかで、広報の真実性 を主張 したとされ る。つ ま り、 リ弓 ま、広報活動 において、パ ブ リックに対 して事実 をそのまま伝 え、誠実、理解、妥協が重 要であると主張 してい る12。

一 方、 リー と並 び に も う1人 の 「広 報 の父

と呼 ば れ るエ ドワ ー ド・バ ー ネ イズ (Edward Bernays)は、広報 は、①パ ブ リックに向けて情 報 を公開す る、⑦パ ブ リックを説得 ・指導 し、パ ブ リックの態度や行動 を変 える、③パ ブ リックの 態度や行動が組織体 と共感 を持つ ように働 きかけ、

これによってパ ブ リックの支持 を得 る、 とい う3 つの意味 を持つ と主張 してい る13。

「広 報 の父」 とも呼 ばれ る

2

人 の定義 を比較 す ると、 リーの定義 は、組織体がパ ブ リックに対 し て一方的に情報 を発信す るところに重点が置かれ、

それに対 して、バ ーネイズの定義 は、組織体が広 報活動 を通 じてパ ブ リックを説得 し、それによっ

てパ ブ リックの支持 も得 られ るところに重点が置 かれたといえる。 しか しなが ら、 レックス ・ハ ‑ ロー (RexHarlow)の定義か らは、広報の役割が 一層具現化 された とみ ることがで きる。

Harlow (1976)は、「広報 とは、独特 なマネ ジ メ ン ト機能であり、組織体 とパ ブ リックとの間に 相互の コ ミュニケーシ ョンを通 じて、互いに相手 を受 け入れ、協力関係 を保つ ことであり、経営層 が組織体の運営における問題や議題 を把握す るこ とに役立 ち、パ ブ リックの意見 を吸収 して適切 な 対応 を行 うことに役立 ち、パ ブ リックの利益 を重 視 した社会的責任 を意識す ることに役立 ち、危機 に対 して あ らか じめ警戒す る機能 を有 し、組織体 の趨勢 を予期す る機能 を有 し、急変 な経営環境 に 適応 す ることに役立 ち、倫理 的かつ効果 的 な コ ミュニケーシ ョン技術 を主な手段 とす るものであ る14」 と定義づ けている。

この定義では、広報 を一種のマネジメン ト機能 として捉 えていたことが特徴的であ り、倫理的か つ効果的なコ ミュニケーシ ョン技術 によって、① 経営問題 を発見 し、②適切 な経営行動 を導 き、③ 企業 の社会 的責任 を意識 し、(塾経営危機 を警戒 し、(9経営の趨勢 を予期 し、⑥急変 な環境 に適応 す ることに役立つ ことだ と強調 してい る。 ただ、

Harlow (1976)の定義 が長 い こ とか ら、Grunig

&Hunt(1984)は、「広報 とは、組織体 とその組 織体 を取 り巻 くパ ブ リックとの間にコ ミュニケー シ ョンを中心 とす るマネジメン ト機能である」 と 簡略化 したのである15。

その他、1982年11月に、アメ リカリヤブ リック・

リレーシ ョンズ協会 (PRSA)よ り発表 された 「広 報 に関す る公式声 明」 において も、「広報 は、マ ネジメン ト機能 として、組織体の 目標、計画、運 営、政策 な どに関わ る16」と指摘 してい る。 さら に、 スタンダー ドな広報 テキス トとして評価 され てい るCutlipetal.(2008)において も、「広報 とは、

組織体 とその組織体の成功或いは失敗 を左右す る パ ブ リックとの間に、互 いに利益 をもた らす関係 を構 築す るマ ネジメ ン ト機 能 で ある17」と定義づ け られている。 この ことか ら、広報 は、宣伝、広

(5)

図 表

2

広 報 定 義 の変 遷 情報発信型

(IvyLee)

説得型 (EdwardBernays)

(出所 ) 筆者作成o

告、売 り込みではな く、組織体 とその組織体 を取 り巻 くパ ブ リックとの間に健全 な利害関係 を構築 す ることを目的す る重要 なマネジメン ト機能 とし て捉 えるべ きで あると考 えられ る

したが って、広報の定義 は、図表2に示 され る よ うに、おおむね、① リーに代表 され るよ うに、

組織体 がパ ブ リックに対 して一方的に情報 を発信 す るとい う情報発信型か ら、⑦バ ーネイズに代表 され るよ うに、組織体 が広報活 動 を通 じてパ ブ リックを説得 し、それによってパ ブ リックの支持 を得 られ るとい う説得型へ と変遷 し、そ して、③ ハ ‑ローに代表 され るよ うに、一種のマネジメン ト機能 として組織体の健全 な発展 に貢献で きると い うマネジメン ト型へ と発展 して きたといえる

3.2 パ ブリックの考 え方

以上、広報の定義 をめ ぐる議論および変遷 を考 察 したが、広報問題 を企業経営に当てはめて考 え

る場合 に、1つ重要 な問題 に気づか ざるを得 ないO それは、パ ブ リック」 とい うキーワー ドで ある。

パ ブ リックの和訳 は 「公衆」或いは 「大衆」 とな るが、企業に とって、広報の対象 となるパ ブ リッ クといって も、具体的に誰 を指 し、誰 を相手に広 報活動 を展開すべ きかが明確化 されていない。つ まり、 コ ミュニケーシ ョン相手が明確化 されない 限 り、 コ ミュニケーシ ョン技術 がどのように優れ たとして も、高い効果 は得 られない といえる。

この問題 に早 く気付 いた代表的な広報研究者 は、

ジェームズ・グルーニ ッグOamesGrunig)である。

グル ーニ ッグは

、1 9 7 0

年代 か らパ ブ リックの研 究 に興味 を示 し始め、社会学者ハ ーバ ー ド・ブル ‑ マ‑ (HerbertBlumer)や哲学者 ジ ョイン・デュー イ UohnDewey)な どの先行研究 を基 に、情勢 理論 (situationaltheory)を確立 したので ある。

マネジメン ト型 (RexHa一low)

具体 的には、1) ブル ーマー とデ ューイのパ ブ リックに関す る考 え方、つ まり、パ ブ リックとい うのは、 ある問題 ・議題によって結合 され、その 問題 を解決す るために一定の意欲 を持 って行動す る集合体であ り、パ ブ リックは、単 なる組織 も規 律 もない群衆ではなく、 また、問題や議題の違い によってパ ブ リックも異 な り、同 じ問題や議題 を 抱 えてい る と して も個 々の考 え方 は異 なって く ることと18

、2 )

デ ューイの考 え方、つ まり

1個 人 は、 あ る事情 あ るい は情勢 に対 して,何 の理 由 もな く思考 あるいは討論す ることはないO し か し、 その事情 あ るい は情勢 が 自分 に とって問 題 となれ ば、態度 は違 って くる ことか ら19、① 問 題 認 識 (Problem Recognition)、 ② 抑 制 認 識 (ConstraintRecognition)、 ① 関 わ り程 度 (Le vel oflnvolvement)の3つの変数 を考 えたので ある。

まず、第1変数 で ある 「問題認識」 は、 自分 に 関わ る問題 に対す る認識度 を̲指す。た とえば、自 分の利益 に直接的に関わ る問題で あれば認識度 は 高 く、そ うでなければ認識度 は低 い とされ る。つ ぎに、第2変数で ある 「抑制認識」 は、問題 を発 見 あるいは解決す るにあたっての阻害度 を指すo た とえば、 ある問題 を解決 しよ うとして も、邪魔 あるいは進行 を妨 げるものがた くさんあれば、や る気 を失 うとされ る。加 えて、第3変数である 「関 わ り程度」 は、問題 に対す る関心 あるいは関わ り の程度 を指す。 た とえば、環境汚染が自分の生活 に直接影響 を及ぼす場合 には、積極的に問題 に関 わ り、そ うでなければ、無関心の立場 を選択す る ことになる20。

グル ーニ ッグの情勢理論 は、図表3に示 され る よ うに、4つ の行為類型、4つ のパ ブ リック種類、

そ して、8つの組み合わせ として整理 されている

まず、4つ の行為類型 は、図表3の左側 に配置

(6)

26 神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』 第14 2010年3月

されて お り、第1変数 で あ る問題認識 と、第2変 数で ある抑制認識の高低 によって構成 されている。

つ ぎに、4つのパ ブ リック種類 は、 それぞれ、① 行動型パ ブ リック

( a c t i v e )

、②意識型パ ブ リック

( a wa r e )

、③潜在型パ ブ リック

( l a t e n t )

、④存在 しなパ ブ リック

( No n e )

を指 し、 この

4

つのパ ブ リック種類 が、4つ の行為類型 と第3変数 で あ る関わ り程度 との組み合 わせ によって、8つの組 み合 わせ を形成す るのである。

このなかで、行動型パ ブ リックは、問題の認識 が高 く、抑制の認識が低い うえで、関わ り程度 も 高いため、 自発的に情報 を収集 し、積極 的に問題 解決 に取 り組む とい う、最 も理想的なパ ブ リック であるとされ る。その一方、問題意識があまりに も高 いため、組織体 にとっては最 も説得 しに くい パ ブ リックで あるとされ る。そ して、意識型や潜 在型 も、組織体 にとっては無視で きない存在であ るとされ る。 なぜ な らば、意識型や潜在型は、情 報 を吸収す ることによって行動型へ と移行す る可 能性があり、特 に、意識型の場合 は、最 もメデ ィ アの影響 を受 けやすいタイプであるとされ る。 な お、存在 しないパ ブ リックは、問題意識 も低 く、

運命 に依頼 し、す ぐあきらめるタイプであるため、

組織体 にとっては必要のないパ ブ リックで あると され る21

グルーニ ッグの情勢理論 は、組織体 が広報活動 を行 ううえで、パ ブ リックを分類す る必要性 を強 調 した点か らみれば、大 きく評価すべ きだと思わ れ る。 しか しなが ら、4つのパ ブ リック種類 が存

在す るとして も、おおぜいの大衆 の中か らそれ を 如何 に区分 し、異 な るパ ブ リックに対 して ど う や って広報活動 を展開すべ きか、 とい う疑問は残

されたままであると考 える。

3.3 企業広報の定義

その一方、企業 において社会性重視の経営 を求 める議論がな されて久 しいが、なかで も、企業 と 企業 を取 り巻 く利 害 関係者

( s t a k e ho l d e r )

との 関係のあり方 をめ ぐる研究が中心 とな り、経営学 の基礎理論 として も位置づ け られている。 このよ うななか

、Fr e e ma n

(1984)の利害 関係者 に関す る理論研究が高い影響力 を持 ち、今 もなお、様 々 な研究分野で採用 されてい るといわれてい る22。

Fr e e ma n

(1984)は、利害関係者 とは、 ある組 織体の 目標や政策、決断や行動 などを起 こす こと に一定の影響 を与 える 「一群 の人 々」 または

「 1

個人」であると定義 し、 その支持がな くては、組 織体 は存続 で きな くなると指摘 してい る23。 これ は、ブルーマーとデューイのパ ブ リックに関す る 考 え方 と共通す る部分が非常に多いため、企業 に おける広報活動で も、広報対象 となるパ ブ リック を 「一般大衆」 とい う広 い意味で捉 えるのではな く、企業 を取 り巻 く様 々な利害関係者、具体的に いえば、利害 関係者の一人ひ とりを、特性 を持 っ た広報対象 として捉 え、個 々の利害関係者 (グルー プ)の要望や期待、不満 に応 えるような、的を蔽 っ たいわゆる 「狭報」活動 を展開す ることが重要 と なる24。

図表3情 勢 理 論 の

3

つの変 数、4つのパブリック種 類、8つの組 み合 わせ

関わり程度 高い 関わり程度 低い

問題の認識 高

抑制の認識 低 行動型パブ リック 意識型&行動型パブ リック 問題の認識 高

抑制の認識 高 意識型&行動型パブ リック 潜在型&意識型パブ リック 問題の認 低 行動型パブ リック 存在 しない&潜在型パブリック 抑制の認 倭 (情報吸収によって問題意識が高まる)

(出所 )

Gr u . n i g

&

Hu n t

(1984)p.153を基に、筆者作成。

(7)

図表

4

企業 広報 の定 義

(出所)筆者作成。

以上 を踏 まえて、企業広報の定義 を考 えると、

図表4に示 され るように、企業広報 とは、企業が 利害関係者の一人ひ とりを、特性 を持 った広報対 象 として捉 え、その利害関係者に真実な企業情報 を適切かつ適時に伝 えると同時に、積極的な対話 を図るコ ミュニケーション戦略を展開す ることに よって、利害関係者の企業に対す る要望や意見 を 吸収 し、期待や不満に応 え、経営の趨勢や危機 な ども予期でき、最終的に利害関係者 との相互理解 が深 まり、信頼関係が構築で きる健全 な企業経営 を実現するマネジメン ト機能である、 と定義づけ ることがで きる。

4

企業広報の技術 と特質 4.1 企業広報の技術的な側面

企業広報 をめぐる議論は、一般的に、その過程 や戦略を重視 した技術的な側面 と、その特徴や考 え方 を重視 した特質的な側面の

2

つが中心 となっ て行われてきたとみることができる。

技術 的 な側面 において は、①Marston(1963) の 「RACEモデル」、⑦Jefkins(1983)の 「広報の 仕事‑6ステ ップ」、(∋Harris&Wh alen(2006)の「広 報戦略‑7ステ ップ」などがあげられ る。

まず、 ①Marston(1963)の 「RACEモ デル 」 は、「リサーチ、 アクシ ョン、 コ ミュニケーシ ョ ン、評価」のことを指 し、企業広報の一般的な過 程 を示 したものとみ ることがで きる。それに対b

て、⑦Je蝕ins(1983)の 「広報の仕事16ステ ップ」 は、「形勢の分析、目的の設定、パ ブ リックの確認、

媒体 と技術の選択、方案 と予算の制定、効果の測 定」のことを指 し、企業広報の過程 よりも、手段 に重点を置いたもの とみ ることがで きる25

つ ぎに、Harris&Whalen(2006)の 「広報戦 略‑7ステ ップ」 は、図表5に示 され るよ うに 「形 勢の分析、 目的の設定、戦略の立案、ターゲ ッ ト の識別、メッセージの作成、戦術の立案、効果の 測定」の ことを指すOこのモデルは、Jefldns(1983) の 「広報の仕事‑6ステ ップ」 と共通す る部分 を持 つが、企業広報の一般的な過程、手段 よりも、広 報戦略に重点 を置いたことが特徴であり、今 もな お、広報の技術 として多 くの組織体で使われてい るといえる。

具体的には、 まず、形勢の分析の場合 は、企業 の外部 と内部の経営環境、およびメデ ィア論調な どを分析するうえで、マーケテ イング環境の分析 のなかで最 もよく使われている

S W

m 分析 (強み:

Strength、弱み:Weakness、脅威 :Threat、機会 : Opportunity)を用 いて、 それ ぞれ に属 す る企業 情報 を整理す るのである。

つ ぎに、 目的の設定の場合 は、経営課題 を把握 す ることが重要 とな り、広報活動の具体的な数値 目標 を明確化 し、企業 目標 と広報 目標の一貫性 を 図 るのである。 また、広報戦略 を立案す る際に、

企業情報の伝 え先 を明確化するように、ターゲ ッ トの設定が重要 となり、その うえで、企業広報の

(8)

2 8

神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』第

1 4

2 0 1 0

3

図表5 Whalenの 「広 報 戦 略

‑7

ステップ」

(出所)Harris

&

Whalen

( 2 0 0 6 )p. 5 7

を基に、聾者作成。

目的に沿 って、伝 えるべ き企業情報 を企画 し、メ ッ セージを創出す るのである。加 えて、各プロジェ ク トを実行す るなかで、メデ ィアを確認 し、 メッ セージの シナ リオや伝 えるタイ ミングといって戦 術 を立案 し、最後 に、企業広報の効果 を測定す る のである26。

企業広報の具体的なステ ップや戦略 といった技 術的な側面 については、別の機会でより詳 しく考 察 したいが、議論の展 開 としては、企業広報の一 般 的な過程か ら、効果性 を高めるための広報手段 の研究へ と変遷 し、最後に経営戦略 を構成す る重 要な要素 として確立す る広報戦略の研究へ と発展

した とみ ることがで きる。

4.2 企業広報の特質的な側面

企業広報の特徴や考 え方 を重視 した特質的な側 面 において は、Grunig

&

Hunt

( 1 9 8 4 )

の 「広報 の4モデル」に関す る研究が代表的であるOグル ー ニ ッグ とハ ン トは

、1 9 8 0

年代 の初期 か ら、 アメ リカにおける広報の歴史および早期の広報関連の 書籍 を詳 しく研究 し、広報の4モデル を確立 した が、今 もなお、広報研究における基礎理論 として 高 い影響力 を持つので ある。図表6に示 されてい

るように、Grunig

&

Hunt

( 1 9 8 4 )

の 「広報の

4

デル」 は、企業広報の歴史的変遷 に沿 って、4つ のモデル として整理 されている。

1

の広 報 モ デ ル は、「媒 体 代 理 型 / 宣 伝 型 (PressAgentry/Publicity)」と名付 け られ、 主 な 目的 は、 宣 伝 (Propaganda)で あ る と され る。具体 的 には、発信者 が受信者 に向 けて一方

的 に企 業情報 を伝 えることで あ り、かつ情報 の 真実性が確保 されていないことで ある (One‑way;

completetruthnotessential)。 このモデル は、一 般的に、 スポーツやサーカス、商品プロモーシ ョ

ンなどで用い られ、 このモデル に適 した代表 的な 広報人物 として、 フイニアス ・バ ーナム (Phineas Barnum)が取 り上 げ られてい る270

1 8 0 0

年代前半 の アメ リカで は, シ ョー ビジネ スが繁栄 期 を迎 え、 サ ーカス業 を経営 していた バ ーナムは、巧妙な宣伝活動 を行 うことによって、

サーカス業 を売 り込み、パ ブ リックのサ‑カスに 対す る関心 と興味 を持たせた とされ る。バ ーナム の最初 の広報活動 は

、1 6 0

歳 を超 えた とされ る初 代 ワシ ン トン大統領 の乳母 を見世物 にす る、 と いった情報 を発信 し、新聞に大 きく取 り上げ られ、

高い宣伝効果 を果た した といわれている。その後 も、真偽の疑わ しいネタを作 り続 け、無料で報道 機 関に売 り込 んだとされ る2

第2の 広 報 モ デ ル は、「情 報 発 信 型 (Public information)」 と名付 け られ、主 な 目的は、情報 の普及 (Disseminationofinformation)で あると され る。 このモデル の コ ミュニ ケー シ ョン性質 も、第1の広報 モデル と同 じく、発信者 が受信者 に向けて一方的に情報 を伝 えるとい う一方向型で はあるが、情報の真実性が確保 されていることが 大 きな進歩 で あ る とい え る (One‑way;tru仇 not essential)O この モデル は、一般 ビジネスで用 い

られてい るほかに、特 に、政府機 関や非営利組織 で よ く用い られ、 このモデルに適 した代表的な広 報人物 として、 アイビー ・リーが取 り上げ られて

(9)

図 表

6

広 報 の

4

モデル および特 徴

媒体代理/宣伝型 情報発信型 双方 向,非対称型 双方向.対称型

目的 宣 伝 情報 の普及 論理的説得 相互理解

コミュニケーション 一方向型 一方向型 双方向型 双方向型

性 質 非全真実 真実 効 果 不 均衡 効 果均 衡

コミュニケーションモデル 発信者‑受信者 発信者‑受信者 (発信者‑受信者フィー ドバック) グループ‑ (フィー ドバック)→グループ 適した歴史人物 フイニアス .バーナム アイビー .リー エ ドワー ド.イズバーネ バーネイズ(教育家)

応 用 スポーツ、サーカス 政府、非営利組織 一般企業 正規である企業 (出所 )Grunig

&

Hunt(1984)

p. 2 2

を基に、筆者作成 。

い る29。

1 9 9 0

年代前半 の アメ リカで は、マ ック レーカー ズ を中心 に、政府 の腐敗 や大企業 の弊害 などを非 難す る活動 が頻繁 に行 われた。 その なかで、 リー は

、1 9 0 4

年 に

3

番 目のPR会 社 で あ るパ ー カ ー &

リー社 を設立 し、大企業 の広報代理 として世論 の 批判 を収 め る一 役 を果 た したの で あ る。 た と え ば

、1 9 0 2

年 か ら始 ま った無煙 炭 企 業 の ス トライ キに関わ り、従業 員の企業 に対 す る非難活動 を収 め る広報活動 を展 開 し、社会 の ロ ックフェラー家 族 に対す る批判 が強 まるなか、 ロ ックフェラーの イメージア ップ を目的 とす る広報活動 に も関わ っ て きた と され る。 その よ うな なか

、1 9 0 6

年 の あ る無煙 炭企業 の ス トライキで、 「原則 の宣言」 を 発表 し、広 報 の真実性 を主張 した ことが高 く評価

されてい る30。

第3の広報 モデル は、 「双方 向 .#対称型 (Two‑ WayAsymmetric)」 と名 付 け られ、主 な 目的 は、

論理 的説得 (ScientiBcpersuasion)で あ るとされ る. このモデル の コ ミュニ ケーシ ョン性質 は、一 方 向型 か ら双方 向型へ と深化 し、論理 的 な説得 に よ り受信者 を納得 し、 それ によってパ ブ リックの 支持 を得 ることで あ る。 ただ、組織体 の利益 が優 先 され るた め、効 果 は、 発信 者 で あ る組織 体 に 偏 向 す る とい われ て い る (Two‑way;imbalanced effeccts)。 この モ デル は、 一般 企 業 やPR会社 で よ く用 い られ、 このモデル に適 した代表 的な広報 人物 と して、エ ドワー ド ・バ ーネイズが取 り上 げ

られてい る31。

バ ー ネ イ ズ は

、1 9 2 3

年 に広 報 に 関 す る最 初 の 著 書 『世 論 の 覚 醒 化 (Crystal1izingPublic Opinion)』 を発表 したが、 その なかで、初 めて広 報 カ ウ ンセル (PublicRelationsCounsel) とい う 言 葉 を使 った と され る。彼 は

、1 9 2 3

年 に ニ ュ ー ヨーク大学 で最初 に広報科 目を教 えることとなっ た が、 あ るセ ミナ ーで、広 報 の こ とをパ ブ リシ テ ィ ・デ ィ レ ク シ ョン (Publicity Direction)か ら広 報 カ ウ ンセルへ と呼び変 える必要 が あ ると強 調 した とされ る。つ ま り、企業広報 は、単 に、企 業情報 をパ ブ リックに知 らせ る‑だけで はな く、パ ブ リックの ことを説得 し、支持 を得 られ ることが 重要 だ と指摘 してい る32。

第4の広 報 モデル は、「双方 向 ・対称型 (TwoIWay Symmetric)」 と名 付 け られ、主 な 目的 は、 相 互 理 解 (Mutualunderstanding)で あ る と され る。

このモ デル の コ ミュニ ケ ー シ ョン性質 は、第3の 広 報 モ デル と同 じ く、双 方 向型 を重 視 して い る が、効果 が両方 に あるべ きで あることが主張 され (Two‑way;balancedeffeccts)、最 も理想 的 な広 報 モデル だ と評価 されて い る33。

双方向 ・対称型広報 の出現 は、広報 が宣伝 、広告 、 売 り込みで あるとい った先入観 を打 ち破 り、 良 き コ ミュニ ケーシ ョン戦略 に基づ いて、企業 と利 害 関係者 との間 に健 全 な利害 関係 を構築 し、互 い に 利益 を もた らす方 向性 を 目指す ので ある。つ ま り、

双方 向 ・対称型広報 は、常 に利害 関係者 の立場 を

(10)

30 神奈J廿大学大学院経営学研究科 『研究年報』第14 2010年3月

図表

7

双方 向 ・対 称 型 広 報 の実 現 と企業 経 営の健 全 な発 展

(出所)筆者作成 。

考 える必要があり、利害関係者の一人ひ とりを、

特性 を持 った広報対象 として捉 え、個々の利害関 係者の要望や期待、不満に応 えるような、的を絞 っ た広報活動 を展開す ることを強調 したともいえる。

5 双方向 ・対称型広報の実現に向けて

今 日の企業社会は,不祥事が続発す る一方であ るといえる。アメ リカの場合は、基本的に 「企業 は株主の もの」 とい う考 え方が定着 してお り、そ れが、機関投資家を中心 とした企業統治の展開を 導いたといわれている。そこで、株主に対するア カウンタビ リテ ィの強化や社外取締役 の重視 と いったアメ リカ型統治モデルが模範化 されてきた が、 それ に して も、2000年代 に入 って、エ ンロ ン事件やワール ドコム事件に代表 され る巨大な企 業不祥事 を食い止めることはで きなかった34。

中国の場合 は、1993年以降の近代的企業制度 の実施にともない、会社資産の不正流用や粉飾決 算、虚偽情報の開示や相場操縦 などの企業不祥事 が多発 し、一時証券市場の崩壊 を招 くおそれ さえ 憂慮 された。 その よ うななか、2000年代 に入 っ て中国証券監督管理委員会や上海証券取引所など では、企業統治原則の策定や経営者教育 システム の構築 に多大 な力 を入れて きた。 それに して も、

2003年か ら2007年 までの間に、上場会社 におけ る証券 をめ ぐる企業不祥事だけで1,052件 にのぽ

35、2009年度上半期では、すでに148件の不祥 事が摘発 されたといわれる36。

日本 の場合 も、2000年代初 頭か ら、集団食 中 毒、食肉偽装、自動車欠陥 ・リコール隠 し、耐震 偽装、粉飾決算、インサイダー取引、利益水増 し、

介護報酬不正請求などの企業不祥事が数え切れな いほど頻発 している。企業不祥事は、株価の下落 や証券市場 に対す る不信感 を招 くばか りでな く、

ときとして社会全体 に大 きな影響 を及ぼす。その ため、企業統治や企業倫理などのキー ・コンセプ トが登場 し、 これによって、企業 と企業 を取 り巻 くさまざまな利害関係者 との間に信頼関係 を構築 するといった議論が盛んになされているが、実態 は大 きく変わっていないと言わ ざるを得ない。つ まり、企業が自社 を取 り巻 く様 々な利害関係者 と 信頼関係 を構築す ることによって、企業経営の健 全な発展 を図るという議論の方向性には問題がな いが、信頼関係 を構築する方法論 を論 じる場合 に、

単なる厳格 な企業統治 システムの構築や立派な企 業倫理の強調にとどまるだけでは、実現が難 しく なって くるといって も過言ではない。

そこで必要 なのは、企業 が良 きコ ミュニケー シ ョン戦略に基づいて さまざまな利害関係者 と誠 実 な対話 を行 うことである。つ まり、図表7に示 され るように、企業は、利害関係者の一人ひ とり を、特性 を持 った広報対象 として捉 え、自らの意

(11)

恩や真実 な企業情報 を適切 かつ適時に伝 えると同 時に、利害関係者の企業 に対す る要望や意見 を吸 収 し、期待や不満 に応 えるような双方向 ・対称型 広報 を展開す ることによって、経営の透明性 につ なが り、利害 関係者 か ら信頼 され る企業 として、

企業経営の健全 な発展 を実現す ることが可能だ と 考 えられ る。

6

おわ りに

本稿 は

、「 2 1

世紀 における企業広報の研究領域

」の第1部 として、企業広報の発端、定義、そ して、

技術的な側面 と特質的な側面の両視点か らみ られ る企業広報の議論 を中心に、考察 を行 なって きたO

企業広報の発端では、今 か ら100年以上 を遡 っ て、19世紀 後半 に起 こった電 流 戦 争 を考察 し、

企業 におけ る広報 の必要性 を解 明す ることがで き、1990年代 に入 って誕生 したPR会社 の社会 的 背景 も明 らかにす ることがで きた。企業広報の定 義 で は、 「広 報 の父」 とも呼 ばれ る2人 の広報専 門家 をは じめ、 さまざまな代表的な広報の考 え方 を取 り上げ、広報の定義が情報発信型か ら説得型 へ、そ して、マネジメ ン ト型へ と発展 して きた と い う歴史的な変遷 を整理す ることがで きた。技術 的な側面か らみ られ る企業広報の議論では、企業 広報の一般 的な過程の研究か ら、効果性 を高める ための広報手段の研究へ、そ して、経営戦略を構 成す る重要 な要素 として確立 され る広報戦略の研 究へ と発展 して きたことを解明す ることができた。

特質 的な側面 か らみ られ る企業広報の議論で は、

Grunig

&

Hunt(1984)の 「広報の4モデル」 を中 心に、媒体代理型/宣伝型、情報発信型、双方向 ・ 非対称型、双方向 ・対称型のそれぞれの性質や特 徴 などを考察 し、企業広報の最 も理想的なモデル

を確認す ることがで きた。

最終的に、企業 は、双方向 ・対称型広報の展 開 によって、利害関係者か ら信頼 され る企業 として、

企業経営の健全 な発展 を実現す ることが可能であ るといった ところに大 きな期待 を寄せ ることに なった。第2部 では、企業広報の理論的展 開 を整

理す るうえで、双方向 ・対称型広報 を展 開す るう えで必要 だと思われ る研究領域、および研究課題 を考察 し

、2 1

世紀 にお け る企業広 報 の新 た な方 向性 を解明で きることが期待 され る。

【注

1 小倉 (2006)p.2700 2 Cutlip(1995)pp.17‑18.

3 Cutlip(1995)pp.26‑27.

4 Cutlip(1995)p.34.

5 Cutlip(1995)pp.199‑204.

6 Newsom&Sco仕(1981)p.35.

7 Cutlip(2008)pp.121‑123.

8 Cutlip(2008)p.121. 9 Seitel(1992)p.33.

10 Hiebert(1966)p.ll.

ll Newsom&Scott(1981)p.37.

12 Hiebert(1966)p.ll. 13 Bernays(1952)pp.3‑4.

14 Harlow (1976)p.36.

15 Grunig&Hunt(1984)p.7.

16 公式声 明 の詳細 は、PublicRelationsSociety ofAm erica:http://www.prsa.org/aboutUS/ OfficialStatement.htmlを参照の こと。

17 Cutlipetal.(2008)p.7.

18 Grunig&Hunt(1984)p.143.

19 Grunig&Hunt(1984)pp.143‑144.

20 Grunig&Hunt(1984)p.150.

21 Grunig&Hunt(1984)pp.153‑154.

22 水村 (2001)p.360

23 Freeman(1984)p.25.

24 「狭報」 の考 え方 は、松 岡 (1982)p.25にお いて指摘 された。つ まり、広報の対象 となる パ ブ リックを 「一般大衆 」 とい う広 い意 味 ではな く、利害 を同 じくす る 「一群 の人々」、

一人ひ とりを指す ことで あり、その意味で広 い とい うことは重要ではない とい う主張であ る。

25 Jefkins(1983)p.85.

26 Harris&Whalen(2006)p.57.

(12)

32 神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』第14 2010年3

27 Grunig

&

Hunt(1984)pp.21‑26.

28 Cudip(1995)pp.171‑175.

29 Grunig&Hunt(1984)pp.22‑27.

30 Hiebert(1966)pp.47‑48.

31 Grunig&Hunt(1984)pp.23⊥27.

32 Seitel(1992)p.38.

33 Grunig&Hunt(1984)pp.22‑27.

34 出見世 (2000)pp.32‑520 35 証券監督管理委員会 (2008)p.220 36 『中国証券報』2009年8月14日付。

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図表 4 企業 広報 の定 義 ( 出所)筆者作成。 以上 を踏 まえて、企業広報の定義 を考 えると、 図表 4 に示 され るように、企業広報 とは、企業が 利害関係者の一人ひ とりを、特性 を持 った広報対 象 として捉 え、その利害関係者に真実な企業情報 を適切かつ適時に伝 えると同時に、積極的な対話 を図るコ ミュニケーション戦略を展開す ることに よって、利害関係者の企業に対す る要望や意見 を 吸収 し、期待や不満に応 え、経営の趨勢や危機 な ども予期でき、最終的に利害関係者 との相互理解
図 表 6 広 報 の 4 モデル および特 徴 媒体代理/宣伝型 情報発信型 双方 向, 非対称型 双方向. 対称型 目的 宣 伝 情報 の普及 論理的説得 相互理解 コミュニケーション 一方向型 一方向型 双方向型 双方向型 性 質 非全真実 真実 効 果 不 均衡 効 果均 衡 コミュニケーションモデル 発信者‑受信者 発信者‑受信者 ( 発信者‑受信者 フィー ドバック) グループ‑ー( フィー ドバック)ー→グループ 適した歴史人物 フイニアス .バーナム アイビー .リー エ ドワー ド.イズ

参照

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