岬 2クー 20
監査意見における適正性 概念について
森 実
Ⅰ ほ じ め に
現代の財務諸表監査の目的ほ,企業が利害関係者に公表する財務諸表に対し て,独立の職業的専門家としての会計士が意見を表明することに・よって−信頼性 を賦与することにある。こ.の会計士の専門的意見ほ,財務諸表が企業の経常成 績および財政状態を適正に表示しているか否かについて行なわれる。したがっ
て,この監査意見に.おける適正性概念こそが財務諸表監査の中核的地位を占め るものということができる。ところが,これまでぬ.,適正性ほあたりまえの概 念として.深く議論されず紅きたのであるがノ最近,適正性が問題としてとりあ
(1)
げられることが多くなっている。これは最近の目まぐるしい会計理論の発展に 対応して,財務諸表監査の目的ともいうべき適正性の概念を本質的紅再検討し
ようという動きを示すもののように思われる。
本稿でほ,適正性概念の動向が,実時,監査思考の変化を背景に.しているも
(1)久保田音二郎,「監査報告基準における適正表示の構造」,『包民経済雑誌.』,昭和44年6 月。久保田音二郎,「監査理論としての適正表示の基礎研究」,『産業経劉,昭和43年12 月。久保田普二郎,「公正の会計公準と適正表示の監査」、『産業経理』,昭和45年1月。大 矢知浩司,「監査証明における「適正」の意味と会計原則」,『企業会計.』,昭和45年5月。
桜井弘蔵,「英・米・加三国の監査報告基準紅おける「適正性概念」について」,『産業経 理』,昭和45年2月。これらにおいてことりあげられた主要な外国文献ほつぎのようなもの である。DR Scott, The Basis for Accounting Principles〃.Accounting Review,
Dec.1941、Arthur Andersen and Co.,Accounting and Reporting Problemiof Accounting Profession,1964。Arthur Andersonand Co.,ThePostulate of Acc,
Ounting,1960.C.H,Stan1ey,Obiectivityin Accounting,1965.A。J.Briloff,The Effectivieness ofAccounting Communication,1967.J巾W.Pattilo,The Foundation
Of FinanCialAccountng,1965.H.E..Arnett,=Th占Concept of Fairness ,TheAc COunting Review,Aprilユ967.E。L.Kohler, Fairness〃,TheJournalof Accoun,
tancy,December1967.
監査意見における適正性概念紅ついて
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−− ごノ ーのであることを指摘するとともに・,適正性概念の分析および構造紅ついて若干 の試論を展開することにしたい。
ⅠⅠ適正性概念の支持構造
適正値概念は,−・般に,財務諸表自体の問題として.,換言すれば,会計構造 の問題として出発し,そして会計構造のみに関連する問題であるかのように思 われがちである。
しかし,元来,適正性概念ほ,監査の側から生じた問題である。すなわち,
適正性概念は,会計士の監査報告書における企業の会計に.対する監査人として の結論の表現の問題として生じてきたものである。また,監査報告書の構造に おいても,それが監査の概軍区分を受けて意見区分が記載されるようになって いることからも分かるように,適正性概念ほ.,単に.会計構造によっても支持され
(2)
る概念であるに.とどまらず,監査構造によって−も支持されて.−いる。
もちろん,適正性概念が,本質的に,会計構造に.よって基本的に.支持される ものであることはいうまでもない。それは,監査構造ほ,単に.こ.の適正性を支 持するばかりでなく,むしろ,それを規制する面が強ぐでてくるからである。
いわば会計構造の適正洩が監査構造というフィルタ−を通して,監査意見にお ける適正性として−あらわれるというこ.とができる。したがって,適正性概念ほ.,
会計構造と監査構造とによって二重に支持され,かつ規制されていること紅な る。
ところで,このような監査報告書に.おける監査の結論の表現としての適正性 軋該当する文言は,会計士監査の歴史の過程において少しずつ変化してきてい る。もともと,監査報告書の表現は,それが公表を意図している場合にほ,
きわめて−\般的かつ抽象的なものになってしまう性質をもっている。しかし,
そのような性質のものであっても,なおそのような表現の変化の背後にほ,そ れと密接な関連をもった監査思考の動きを秘めていると考えられる。したがっ
(2)このような考え方を明確に示しているのがコp∵ラJ7:ある。E.L.KohleI, Fairnes・
S‖,TheJoumalof Accountancy,December1967.
鴇43巻 策1・2・3号
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て,詳細な議論を展開するまえ軋,これまでの会計士の監査報告書にあらわれ た適正性に該当する文言の変化の概略をたどりながら,適正性概念の分析の手 がかりを求めることに.したい。
Ⅰ王Ⅰ適正性概念の変避 1 兵実かつ正確な表示
英国の株式会社の監査制度ほ.,1844年の会社法の規定にはじまり,これが会 計士監査の契機になったことは周知のとおりである。ところがこの1844年の法 律でも,また1845年の法律でも,監査報告書の内容についてほ別段なに・も規定
していなかった。監査報告番の内容についてほじめて規定を設けたのほ,1856
(3)
年の会社法の附属定款雛形のB表の第84条であった。
ここでほ,監査役ほ,取締役が提出した貸借対照表が法痩の規定に.したが い,かつ会社の状況を責実かつ正確に・表示しているかどうかについての意見お
よび監査の実施に.必要な情報および説明を月文締役に報告すべきものとしてい た。ここに監査の結論として,貸借対照表の「兵実性および正確性」について の意見を表明しなければならないことが明らかにされた。
実務的にほ,当時の監査報告書は,単純かつ形式的なものであり,「貸借対 照表の金額を帳簿と比較し,その−激することを認めた」といったようなもの が多かったといわれ,さらに極端に簡潔化された場合には,「監査し,その正 確であることを認めた」という記載形式が−・般化し,これより「説明書」の形
(4) 式が発展してこきたのである。
なお,「会社の帳簿に記載されたとおりに・」という文言が入れられるようにな ったのは,すべての鈍行に監査制度が要求されるように、なった1879年の会社法
(5)
以後のことであった。
(3)H..C.EdeyandProt Panitpakdi, British Comparly Actounting and the Law 1844〜1900=,Studiesin History of Accounting,edited by Litt王eton and B.S.
Yamey,1956,p.364.
(射 A.C.Littleton,AccGuntingEvolution to1900,p。29b,p 314.拙稿,「英国における 監査役の独立性と限定監査報告苫」,『香川大学経済論叢』,昭和34年ユ2月。
t5)H.C.Edey and Prot Panitpakdi,Op小Cit.,p。370.
監査意見における適正性概念について …2β−
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このように,当時の適正性概念に・相当する表現ほ,「真実性」と「正確性」
(6)
とであり,当時の監査の目的がここにあったということができる。
2 適正な表示
英国において誕生した会討土監査ほ,前世寵末ごろに英国会封士によって米 国に・伝えられて急速な発展をとげた。米国では,最初曙,英国式監査のまった くの模倣から出発し,やがて独自の貸借対照表監査をうみだしてきたものの,
監査報告書に・つい てほ,英国の監査報告書をそのまま引きついで使用してし、
た。米国独自の監査報告書を考えださねばならなくなったのは,1930年代の世 界的大恐慌後の証券投資家保護目的の財務諸表監査を契機にしでである。すな わち,1932年から1934年までのAIAの株式取引所協力特別委員会の酒動の過 程に・おいて提示された監査報告書ほ,概要区分に続いて,つぎのような意見区
(7)
分の記載を含んでいた。
「以上のような監査に・もとづいて,貸借対照表,損益計算書および剰余金引 算書は,われわれの意見においては,当該会社の1932年12月31日現在の財政状 態およびその年度の経常成績を,−・般に認められた会計原則に.準拠して適正.に 表示してし、る。」
ここでほ,財務諸表の「適正性」が監査の目的であることが示されて\おり,
しかも「適正性」がト叔に蔑められた会計原則」と\の関連においてあらわれ てきている。
3 兵実かつ適正な表示
このように.,米国では,監査報告書は,英国式の証明書タイプのものから意 見二番タイプのものへと移行してきたのであるが,米国が会計士監査理論の発展
の中心になるに.およんで,これが逆に.英国の監査報告書に影響を与えたとみる
(6)拙稿,「英国の監査報告書の構造と論理」、『香川大学経済論叢』,昭和41年6月。
(7)George Cochrane, The Auditor/s Report:Its Evolutionin the U.SいAt=,Sel ected ReadingsinAccounting and Auditing,edited byM.E.MuIphy.拙稿,「米国 における生成期の監査報告書について」,『香川大学経済論叢』,昭和34年7月。拙稿,「米
国における監査報告書の発展(1)(2)」,『香川大学経済論造』,昭和35年6月、12月。拙著,『
会討士監査論』,昭和45年。
弟43巻 発1・、、2・3弓 24
一− ヱ・ゴ ー
ことができる。すなわち,1948年会社法附則算9灸は,監査報告書に,財務諸 表が会社の財政状態および経営成績を兵突かつ適正に・表示しているか否か,お
よび法規に準拠しているか否かk.っいての監査人の意見を表明すべきものとし
(8)
ている。
このような英国での監査報告書に.おける表現上の変化ほ,「真実性」および
「正確性」に代えて,「兵実性」および「適正性.」が監査の目的として示され たということであり,実質的に.は,「正確性」より「適正性」への移行である
ということができる。
4 適正かつ合理的な表示
さらに.,もっとも最近の考え方を示すものとしては,会計士国顔研究グルー プが,1969年に発表した「英米加三国の監査報告基準」をあげることができる0 これは,財務諸表に∴ついて監査人の意見の目的として「適正かつ合理的な表示」
(9)
という表現を使用している。しかし,その内容自体についてはあまり明確な説 明が与えられていないが,「合理性」ということが財務諸表監査の目的として大 きく主張されるように・なってきたことほ注目されるべきである。
以上ほ,いわゆる適正性概念の変化をきわめて.表面的かつ形式的にとらえて きたのである。そこでほ,英国も米国もー・括して単純に変化としてとりあげた
ので;厳密には問題ものこっているかもしれなシ、0 しかし,このような変イヒの
なかに.,それを検討する手がかりが含まれている。すなわち,表現の変化とそ れをもたらした要因との関連を究明することによって,適正性概念の内容をよ
り深く掘り下げることが可能紅なるのであるd
ⅠⅤ 炎実性と正確性
会計の理想としては,利害関係者に.企業紅関するすべての事実をそっくりそ の寧まの形で報告セきることであろう。したがって,単純な意味の典実性ほ,
L8)B.Magee,Dicksee′s Auditing,1951,pこ261.
(9;AccountbntsInternationalStudy Group,TheIndependent Auditors‡モeporting
StandaIdsin Three Nations,1969.
ーー ヱ5 −
監査意見における適正性概念についで
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文字どおり,事実そのままの報告ということであろう。こ・のようなことは,企 業の活動が非常に.単純かつ小規模の場合には可能であったかもしれない0 ま た,あまり会計が複雑でなかった段階では,こ・のような単純な意味の真実性が
追求できるものと考えられたであろう0
このような真実性を追求するためにほ,事実の記録それ自体が非常に重要で ある。したがってニ,個々の記録が事実に基づいて行なわれ,また,そ・の記録,
集計お声.び報告書作成の過程に・おいて正確に行なわれることが要求される0
これに.対応する監査ほっ いわば「事実の追求の監査」であり,その実際的方 法は「正確性の追求の監査」として行なわれる。それは,過去の個々の事実ほ,
結局のところ記録の正確性に依存せざるをえないからである0したがって,そ
れほ証憑書類の監査となり,帳簿の監査となり,計算の監査となり,しかもそ れらの監査は,「正確性」を重視するので,精細な監査とならざるをえない0
ところで,このような単純な意味の「真実性」の追求で満足されるのは,企 業とその利害関係者との関係が非常に明確かつ単純な場合であろう○すなわち,
株主は地域的,かつ縁故的に−・定範囲に限られ,また株主と企業とがかなり固
定的な関係に.あるような場合である。したがって,株主と企業との関係は非常
軋密接であり,株主は企業の内容については相当に・詳細な事項にまで通じてい るのが常である。
したがって,このような株主にとって鱒,会計の処理方法であるとか,評価 方法であるとか,あるいほ表示方法であるということはあまり重要な問題では
ない。かれらにとって重要な問題は,経営者または従業員が不正を行なってい ないかどうかということ,換言すれば経営者または従業員の行為の誠実性が問 題なのである。そこで,経営者またほ従業員の個々の行為を会計的に記録して おいて,そこに不正または誤謬が含まれていないかどうかを監査することが必 要になるのである○
このような「行為の誠実性の監査」のために,企業内の個々の記録紅つい て「事実の追求の監査」が行なわれ,その結果として会計帳簿に一徹するこ
とが証明された貸借対偲表が「良夫かつ正確な」ものとしてあらわれるのであ
貨43巻 鵠1・2・3弓
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(10)
る。
このような監査思考ほ.,英国の監査制度に伝統的にみられたものであり,ま た,米国でも初期の会計士監査において経営者目的の現金監査として行なわれ たさいにみられたものである。
Ⅴ 公正性と合理性
企業の利害関係者が渾沌な場合には,「兵実性」ほ一・義的なものとしてとら えることができるので,これを会計的に.追求することもあながち無理とほいえ ない。しかし,利害関係者の範囲が次席に拡大され,かつ流動的に・なってくれ ば,利害関係者の企業に対する関係ほ,敏雄かつ多樺なものになって−こざるを え.ない。また,それに対応して−,企業に対する利害関係者の関心も多様なもの になって:くる。たとえば,株主グループだけをとってこみたところで,企業を支配 する事業株主もあれば株価にのみ関心のある投機株主もあり,さらに.長期的な 安定株主もある。法人株主もあれば,個人棟主,機関投資家もある。さらに.,
優先株主もあれば普通株主もある。このように株主グル−プ自体が多様化し,
多様な関心を企業に対し.て示しているのである。
このような企業の利害関係者の分化かつ多様化の過程を経て,企業と利害関 係者との関係が密接でないものが次第紅増加し,その結果として,企業の内容 をあまり詳しくしらないものが増加してくる。このような関係に‥おいて,利害 関係者の意思決定の資料として会計の情報的意味が重要になるのである。した がって,会計の情報的意味に密接な関連をもつ会計の処理方怯,評価方法およ び表示方法などが重要な問題としてうかびあがってくる。
ところで,多様な関心をもつ利害関係者砿対して,企業の状況に・ついて事実 そのままを示すということほ,大規模かつ複雑化し,したがってその会計に 多くの人為的な会計処理と判断が要求される近代企業の場合には,もほや不可 能なことセある。そこで可能なことは,企業の利害関係者のいずいにも偏しな
(10)拙著,『近代監査の理論と制度』第7章「行為の裏付けとしての会封監査から情報表示
としでの会計監査へ,」籍4牽「試査の思考の発展とその史的背景」。
監査意見における適正性概念に.ついて −−27_・
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い公正な会計情報を提供するということである。
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