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00紀要-目次-21世紀NO.5:00紀要-目次-21世紀NO.5

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現代社会における新しい助産師の役割と今後の展望に関する研究

─ 企業における次世代育成支援対策等の提案 ─

金子 純子

KANEKO Junko

1.はじめに 現在の「助産師」はそのほとんどが病院や診療所に勤務する勤務助産師である。2002(平 成 14)年の助産師就業者数を就業場所別で見ると、総数 25,877 人のうち、病院に勤めるの は 1 万 7,798 人、診療所には 4,465 人、助産所に至っては助産所開設者 730 人、その従事者 195 人、出張のみを取り扱うものは 780 人の計 1705 人にのぼる(1) 。 病院、診療所に勤務する助産師は少子化の影響を受け、産科病棟の閉鎖などの危機に晒さ れ、専門性を発揮できない現状がある。出産や子育てが社会福祉や社会保障の根幹に関わる 人口問題と密接に関連する最重要課題であるにもかかわらず、国の助産師および助産に関わ る人々への財政的支援は他の専門領域に比してはるかに脆弱であることは事実である。次世 代育成支援対策に助産師の姿は「いいお産」において注目されているものの、次世代育成支 援対策などといった一連の次世代育成支援対策に一切姿を現していない。 本論文では、助産師が現代までにどのような制度を歩んできたのかといった歴史的背景と 共に、少子化についてのわが国の取り組みを整理し、企業で今後必要となる次世代育成 支援対策を提案した上で、現代社会における新しい助産師の役割と今後の展望を考察する。 2.戦後の少子化と助産師の姿 (1)産婆とその制度の変化 出産を扱う歴史は、民俗学、人口学、医学史などの学問分野で多くの研究がされてきた。 有史以前の出産の歴史は、縄文時代の共同体では妊娠土偶などにより推測するにとどまるも のの、杉立は(2) 「分娩のときにはおそらく共同体の女性同士で助け合い、お産の経験豊富な 年長者が、産婦に注意を与えお産をうまくリードしていたであろう。当然のなりゆきとして、 後世にいう取上婆的女性が存在したと思われる。」としている。古くはヨーロッパなどでも 魔女狩りの対象とされた時代もあった「産婆」であるが(3) 、わが国の歴史的背景として明確 とされているものは、飛鳥・奈良時代の「女医」(4) である。 産婆の身分・業務確立の時代として、1868(明治元)年の太政官布達には産婆取り締まり

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規則(堕胎、売薬の禁止)制度ができた。1874(明治 7)年には東京・大阪・東京の主要都 市三府に発布された「医制」により、産婆に関する条文が 3 箇条(第 50 条より第 52 条)条 文化され、産婆は免状制となり、産科医との業務区別が明確化されるとともに、わが国の産 婆制度の大綱となる(5) 。その後、1875(明治8)年には西洋式産婆教育が開始された。また、 1899(明治 32)年には産婆規則が発布され、それまでされなかった国による法的身分、業 務内容、教育の確立(試験、登録制度)が始まり、ここではじめて全国レベルでの産婆の資 質水準の統一が図られ、それまでの産婆とは区別される。甲種免許(養成教育を受けた新産 婆)、乙種免許(簡易試験を受けた旧産婆)、登録者(学校卒で無試験で合格したもの)と、 産婆の資格制度には大きく3 つに分かれ、この3 資格の混在は昭和初期まで続くことになる(6) 。 現代では 1948(昭和 23)年に保健婦助産婦看護婦法が制定され、従来の資格とは異なり、 看護婦教育後の課程として助産婦教育を位置づけた。2002(平成 14)年 3 月より「保健婦 (士)」、「助産婦」、「看護婦(士)」及び「准看護婦(士)」は、それぞれ「保健師」、「助産 師」、「看護師」及び「准看護師」に改称され現在に至っている。 (2)産婆とそのコミュニティの変化 出産は、夫や母などの家族か近隣の出産経験をもった年輩の女性などの援助を受け、自宅 (ニワと呼ばれる土間や納戸)や産小屋で行われていた(7) 。経験ある女性たちの中でも半ば 職業化した女性たちは「トリアゲバアサン」と呼ばれ、産婆が来るまで、産婦たちは膝をつ いたり、天上から下げた力綱につかまるなどして、自分の娩出する力をもっとも発揮しやす い姿勢で出産をしていた(8) 。 今から約50 年前、出産は家庭分娩が殆どであった時代から、後の日本の経済成長と共に出 産場所も家庭から施設(病院、医院)へと急激に変化した。この変化はいわば流行のような ものが伝播し、こぞって皆が施設分娩を選択するに至ったといわれる。 大林(9) は開業助産婦衰退の要因を詳細に述べ、佐藤(10) は「1.GHQ による看護制度の改 革、2.産科医療の急速な進歩や開発、3.医師の正常分娩への進出、4.家庭分娩許容条件 の急激な変化、5.家族計画の普及と少産傾向、6.生活水準の上昇、7.女性の身体や意識 の変化、8.近代的分娩指向、9.社会変化に対する助産婦の対応の遅れ、10.日本助産婦会 の看護協会統合・離脱そして独立(11) 、11.長期的展望の欠如」と分析した。 一方、子どもを産む側の変化については、自宅出産から施設出産の比率が逆転されたとい われている 1960(昭和 35)年は、高度成長期の中にあり、子育ての混乱期とも言われ始め た(12) 。 (3)少子化をめぐる背景と法律 日本は少子・高齢社会と言われ久しいが、わが国のありようは多産多死から多産少死へま た現在に至っては少産少死の時代を迎えている。2002(平成14)年に厚生労働省より発表さ れた「日本の将来推計人口」では、将来「少子化は一層進展する」として2000 年には120 万 人の出生児数から 2050 年には 67 万人(合計特殊出生率 1.39)という予測がなされている。 (図表− 1) 晩婚化・非婚化、子供を持たない夫婦の増加、仕事を生きがいとする女性の選択、「男は 仕事、女性は家事・育児」という固定的性別役割意識の変化、結婚したカップルの 10 組に 1

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組の不妊症、男性の子育てへの参加度の低さ、育児における妻の孤独感や不安感、長時間労 働や残業の多い日本企業での子育てと仕事の両立の難しさ、乳幼児期の保育所の不整備、学 童期の時間外保育の不整備、子育てを支援する社会生活環境の不整備、高い教育費、離職後 の再就職困難、長引く不況により若年層に非正規労働者が増え、将来に期待が持てないなど の絶望感が、若い世代が子どもを育てていくという喜びや経験を困難にするような社会経済 的・心理的な要因や社会構造を創り出している。 白井は(13) 「自宅出産から施設出産へ移行した歴史的変動は、三つの側面からなる変動とし て捉えられる。それはすなわち、(1)出産の場の変化、(2)出産の介助者の変化、(3)出産 にさいする医療行為の変化である。」と、わが国の出産の変化を社会学視点により考察して いる。 次世代育成支援対策法を整備するに当たって、2003(平成 15)年及び 2004(平成 16)年 の 2 年間は「基盤整備期間」とされた。この基盤整備期間にどれだけの成果があったのかが 数量化し、評価されるまでには合計特殊出生率の数値を待つ状況にある。少子化対策推進関 係閣僚会議として 2003(平成 15)年 3 月 14 日に厚生労働省より発表された「次世代育成支 援に関する当面の取組方針」では、基本的な考え方を示しているが、「子どもを生みたいと 思う人が理想どおりの数の子どもを生み育てることができる社会の実現等を目指す」ための 政策としては労働者に対する「心理的サポート」と「知識啓発」と言う点が希薄なように思 われる。妊産婦死亡率や乳児死亡率の低さは世界トップレベルにあり、出産を「生死に関わ る危険なもの」という認識から遠ざけることには成功していると言えるが、少産の影に、若 者世代の人工妊娠中絶の増加、性感染症増加、不妊の増加などがあり、社会的にも大きな問 題となっている。また、環境面やメンタル面では、育児と仕事の両立困難や育児不安がある。 職場では妊娠・出産による退職や身分変更の強要等不利益扱い事例が多発している。産休・ 今回中位推計 (2050 年) 現在の状況 (2000 年) (参考) 前回中位推計 (2050 年) 合計特殊出生率 1.39 1.36 1.61 平均初婚年齢(女性) 27.8 歳 24.4 歳 27.4 歳 夫婦の完結出生児数 1.72 人 2.14 人 1.96 人 生涯未婚率(女性) 16.8 % 4.9 % 13.8 % 出生児数 67 万人 120 万人 81 万人 【図表− 1】 ※合計特殊出生率:一人の女性が一生(15 ∼ 49 歳)の間に産む子供の数 ※夫婦の完結出生児数:結婚した夫婦が生涯に産む子供数 ※平均初婚年齢、夫婦の完結出生児数、生涯未婚率については、「今回中位推計」は1985 年生まれ、「現 在の状況」は 1950 年生まれ(ただし、夫婦完結出生児数のみ 1948 ∼ 52 年生まれ)、「前回中位推計」 については、1980 年生まれの者の数値である。 出典)厚生労働省:日本の将来推計人口(平成 14 年 1 月推計)について

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育児休暇取得困難や保育待機児童の問題なども離職に繋がり、復職の困難さなどを目の当た りにしている女性は「仕事」と「家庭」の 2 者択一を選ぶことになる。 (4)現代の産科医療の現状 出産の場の変化として、わが国の出産が、病院や医院で行われることが日常化するのは 1960 年代からである。その歩みとともに、本質的には、生理現象であるはずの出産にさまざ まな医療の介入が行われるようになった。どの時代にも困難な出産はあり、産科医の技術や 知識が要請された。しかし、1960 年代以降の医療による出産の管理は、正常な進行の出産に 対しても、会陰切開や剃毛、浣腸を施し、分娩監視装置を腹部に装着し、そして陣痛促進剤 を使用するといったことの一部、もしくは全部をルーティン化して行う形で進められた。そ して、管理された出産は、誕生の時(曜日や時間帯)までを、産む側の都合ではなく、医療 者側の都合でコントロールするという体制へと変化を遂げた(14) 。 大学を卒業する医師の数は増える一方で、過重労働である産婦人科への入局を嫌い、産婦 人科の医師は減少傾向にある。また現在活躍する産婦人科の医師たちにも高齢化がみられ、 わが国の周産期医療を担う産婦人科医師たちの減少は、極めて憂慮する状況にある。さらに、 近年の分娩件数減少に伴い、産科病棟の閉鎖や、複数の診療科を跨いで担当するいわゆる 「混合化」が問題となっている。 この混合化する産科病棟の問題と共に、産科診療所が助産師を求人しても就職者が少ない という事実もある。 3.新たな次世代育成支援対策の提案 (1)企業と次世代育成支援対策 日本の女性の年齢別労働力率は、依然M 字型の形状である。このM 字型は25 歳∼29 歳層 (74.0 %)と 45 歳∼ 49 歳層(73.0 %)を左右のピークとし、30 歳∼ 34 歳層(61.4 %)をボ トムとしている。30 歳∼ 34 歳層のボトムは結婚や出産を期にいったん職場を離れる女性た ちの背景にあると言われるが、2003(平成 15)年と 2004(平成 16)年ではこのボトムの部 分が 1.1 ポイント上昇している(15) 。(図表− 2) 我が国では、女性の仕事と育児の両立どころか、むしろ、妊娠・出産等を理由とする退職 勧奨や解雇が増加している現状にある(16) 。先進諸国においても、いくつかの国では女性の年 齢別労働力が M 字型カーブを描いた時期もあったが、近年ではそのほとんどが解消し台形型 となっている。わが国も M 字型カーブの底はなだらかになってきているが、他の先進諸国と 比べ M 字型の形状が際立っている状況はかわらない(17) 。 我が国に比べ労働力率も出生率も高いスウェーデンなどでは、男性も含め育児休業制度が 普及し、保育サービスも充実しているなど、女性が仕事と育児の両立をしやすい、働きやす い状況にあるため、女性の就業が必ずしも少子化につながっていないと考えられている(18) 。

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(2)質問紙調査 1)研究背景 厚生労働省では、ファミリー・フレンドリー企業に向けた取組を積極的に行っている。 「ファミリー・フレンドリー企業」とは、仕事と育児・介護とが両立できるような様々な制 度を持ち、多様でかつ柔軟な働き方を労働者が選択できるような取組を行う企業をいう。具 体的には 4 つの柱からなっており、1 つめには、法を上回る基準の育児・介護休業制度を規 定しており、かつ、実際に利用されていること。2 つめには、仕事と家庭のバランスに配慮 した柔軟な働き方ができる制度をもっており、かつ、実際に利用されていること。3 つめに は、仕事と家庭の両立を可能にするその他の制度を規定しており、かつ、実際に利用されて いること。最後には、仕事と家庭との両立がしやすい企業文化をもっていることについて積 極的に取り組む企業を指す。といった内容になっている(19) 。平成 11 年から表彰を受けてい る企業は平成 16 年までに 227 社にのぼる。 この「ファミリー・フレンドリー企業」に焦点をあて、次世代育成支援対策がどの程度進 んでいるのかを知ると同時に、助産師が企業という場で保健活動等を行うことについて、そ のニーズ調査を含めて質問紙調査を試みた。 助産師と企業は一見結びつかないようであるが、筆者はその点にあえて注目した。少子化 に対する課題は現在のわが国喫緊の問題でもある。最近では、晩婚化の進行と、夫婦そのも のの出生力の低下が少子化の原因と言われており、女性の職場進出と子育てと仕事の両立の 難しさなども背景にあると言われている。助産師の活動のうち、分娩介助以外の活動は、学 校に出張する性教育や地域での研修やイベントの実践例があるが、企業に対して次世代育成 支援対策を中心に行うものは参考例がなく、先行研究を調べると、助産師と企業と言うキー ワードに関しては皆無であった。 2)質問紙調査の概要 今回の質問紙調査のテーマは、助産師が分娩介助以外に行う保健活動のうち、健康相談、 【図表− 2】 女性の年齢階級別労働力率 出典)総務省統計局:「労働力調査」

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子育てに関する相談、子どもへの性教育などを対象に、労働環境下にある人々について関わ ることのニーズと、その可能性に着目した。男性の育児参加を含め、働き盛り世代の次世代 育成支援対策に資する専門職として「助産師」がその能力を発揮していくことを企業に提案 し、新しい助産師の役割獲得につなげていくため、試験的にどの程度の価値があるのかを調 べることにした。 この研究の意義としては、今回のこの質問紙調査によって得られた結果をまとめ、次世代 育成支援対策の中でも「独身・既婚を問わず子育て支援に興味を抱くきっかけをつくる。」 「子育支援を今よりももっと積極的に企業の中にも取り入れられる材料を提供する。」「男性・ 女性特有の健康相談などきめ細かいサービスを企業に提案する。」「各種サービスに助産師が 参入することで次世代育成支援対策に貢献する。」事などを考えた。 調査対象としたのは、厚生労働省より「ファミリー・フレンドリー企業」として平成11 年 ∼ 16 年度に「厚生労働大臣優良賞」、「厚生労働大臣努力賞」、「都道府県労働局長賞」のい ずれかの表彰を受けている企業 227 社である。統廃合などで既に存在しない会社などもあっ たため、住所が判明した企業(206 社)について質問紙を配票することにした。 【調査方法】郵送配票調査【調査期間】平成17 年8 月23 日∼9 月10 日【回収率】23.3 %< 内訳:配票(206 票)返送(48 票)>【属性】従業員数 300 人以下 15 社(31.3 %)、301 人 以上 32 社(66.7 %)、無回答 1 社(2 %)であった。 3)結果(抜粋) <次世代育成支援に関連した制度> 「次世代育成支援に関連する制度を行っているか」については、24 社が何らかの制度をお こなっており、うち 1 社は「社員を対象にした健康に関する研修等を行っているか」につい ては行っていなかった。 この次世代育成支援に関する研修や制度については、ファミリー・フレンドリー企業とし て会社独自のものが多くばらつきがあった。中でも統計がとることが可能であったのは「育 児休業者復帰講習」で13 社が実施、ついで多かったものは「育児短縮時間勤務」は8 社、「子 どもの出産時父親の休暇取得」も 4 社で実施、「子の会社見学(会)」で 3 社が実施、実施し ていた。その他実施されていたものは以下のものである 育児休業制度/育児短縮時間勤務/こどもの3 歳の誕生日前日まで、小学校6 年まで/妊婦特 別有給制度/通院時間 5 日(40 時間)/賞与の算定(就業とみなし全額支給)/配偶者特別有 給制度/出産時 2 日妊娠中 1 人につき 5 日・ 3 日間/看護休暇制度/0 歳から小学校就学前子 1 人につき年 5 日(40 時間)/小学校∼高校卒業前 従業員 1 人につき年 2 日(16 時間)/ファ ミリーフレンドリー施設/保育士常勤 2 名/ペアレエントファンド/サポートファンド/育児 クーポン制度/育児短縮期間延長(3 歳 3 ヶ月末より小学校就学始期まで)/育児休職期間の 変更(1 歳 3 月末に加え 1 歳 6 ヶ月までも可)/ファミリーフレンドリー休暇制度(医療看護 休暇制度)/産後休職者への情報提/育児休業者の在宅講習/育児休業者復帰講習/育児休業制 度に関する相談/フレックスタイム/家事援助補助(6 週)/24 時間フリーダイヤル電話相談/ 福利厚生カフェテリアプラン(育児・介護メニュー)/子どもの会社見学会/育児・介護休職 規定の改定/ジェンダー関係研修/店長会議等での意識啓発/育児相談窓口設置/子育てサービ ス利用支援/小中学生の見学者受け入れ/こども参観日/産休前の説明会/育児休業者情報提供 /両立相談/育児情報交換会/深夜業の制限/育児休業・産前産後休業制度他の周知/年休の一

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斉取得日の設定/父親への特別休暇制度の周知/子どもに対する家族手当の支給額を段階的に 増額するとともに、支給対象年齢を 20 才まで引き上げる。/出産祝金の段階的な増額/毎年 1 人以上の男性社員に育児休職を取得させる/夏休みに地元の小学校を対象にした「お米の学 校」を開校。などがあった。 また、最も力を入れて取り組んでいる次世代育成対策(図表− 3)、今後企業で取り組みた い次世代育成対策(図表− 4)、次世代育成に助産師が参入することについて(図表− 5)、 次世代育成支援に関する保健活動を助産師が行うとしてのニーズ(図表− 6)について調 べた。 このほか、次世代育成支援に関する保健活動を助産師が行うとしての金額設定として、上 記の保健活動内容に沿って 1 回にかかる費用について金額を、法人の場合と個人負担とに分 け自由記述してもらった。 【図表− 3】 【図表− 4】 【図表− 5】 次世代育成支援に助産師が参入することについて(n =48) 今すぐ必要 3 (6.2 %) 時期は特定できないが今後必要となる 23 (48.0 %) 必要ではない 18 (37.5 %) 無回答 4 (8.3 %) 今後企業で取り組みたい次世代育成支援対策(複数回答) 就業中の男女の子育てへの関心、興味を惹くこと 26 子育ての不安を解消し就業と子育ての両立が図れること 22 保育園、託児所の確保が出来ること 8 病児保育が充実すること 5 育児休業取得者の復職率が向上すること 2 その他 5 最も力を入れて取り組んでいる次世代育成支援対策(n =48) 子育ての不安を解消し就業と子育ての両立が図れること 33 (68.7 %) 育児休業取得者の復職率が向上すること 5 (10.4 %) 就業中の男女の子育てへの関心、興味を惹くこと 4 (8.3 %) 保育園、託児所の確保が出来ること 2 (4.2 %) 病児保育が充実すること 2 (4.2 %) その他 2 (4.2 %)

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4)考察 <最も力を入れて取り組む次世代育成支援対策について> 企業にとって現在最も力を入れて取り組んでいる次世代育成支援対策については、「子育 ての不安を解消し就業と子育ての両立が図れること」が 68.7 %と一番多かった。(図表− 3) やはり、子育てと仕事の両立を不安定なものにしているのは、「育児不安」である。育児不 安も精神的なものの他に、子どもの成長の事、突然の疾患、環境問題などその内容は広範囲 なものであり、その不安材料の解消には国を挙げて取り組むべき問題でもあるが、まずは、 「何」が不安要因なのか、その不安を取り除くためには何が必要かと言ったことを考えた時、 「子育て相談」といった相談事業でカバーすることが望ましい。 <今後企業で取り組みたい次世代育成支援対策について> さらに、今後取り組みたい次世代育成支援対策について尋ねると、「就業中の男女の子育 てへの関心、興味を惹くこと」、「子育ての不安を解消し就業と子育ての両立が図れること」 が上位にあがった。(図表− 4)育児不安の解消については前述の通りだが、興味深い結果と なったのは、この「就業中の男女の子育てへの関心、興味を惹くこと」という結果である。 この結果に関して言えば、企業も積極的に子育てへの関心や興味を促していく必要性を感じ ており、また、この点が現代に欠けていると、企業も認識し、指摘している点と捕らえてよ いのではないかと思われる。この点に関しては、就業中の男女に限らず、全世代が関心を寄 保健活動 内容 すでに 行っている すぐにでも 行いたい 検討を要す るが必要性 を感じる 必要性を 感じない その他 無回答 健康相談 6 (12.5 %) 2 (4.1 %) 24 (50 %) 10 (20.9 %) 0 6 (12.5 %) 健康体操 (8.3 %)4 (12.5 %)6 (31.3 %)15 (35.4 %)17 0 6 (12.5 %) 子育て相談 (8.3 %)4 (14.6 %)7 (43.7 %)21 (20.9 %)10 0 6 (12.5 %) プレパパ・ママ 体験 1 (2.1 %) 0 18 (37.5 %) 21 (43.7 %) 1(2.1 %) 7 (14.6 %) おっぱい相談 (4.1 %)2 0 15 (31.3%) 22 (45.9 %) 2(4.1 %) 7 (14.6 %) 親と子のいきい きセミナー 0 1 (2.1%) 19 (39.6 %) 19 (39.6 %) 2(4.1 %) 7 (14.6 %) 子どもへの 性教育 1(2.1 %) 0 15 (31.3 %) 24(50 %) 1(2.1 %) 7 (14.6 %) 【図表− 6】次世代育成支援に関する保健活動を助産師が行うとしてのニーズ(n = 48) 小数点以下四捨五入

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せていることが望ましいと筆者は考えている。兄弟姉妹が多数居れば、幼い子どもの世話を 焼くこともあった世代が今はない。子育てへの興味関心は子ども時代から培うものであり、 積み重ねが大切である。 <助産師が次世代育成支援に参入することについて> 助産師が次世代育成支援に参入することについては「今すぐ必要」、「今後必要」を合わせ ると 48 社中 26 社にものぼった。(図表− 5)助産師の参入に関しては、企業にとっても、助 産師が企業で保健活動を行うというアイデアに企業側も回答に窮した部分も、自由回答や無 回答から読み取ることが出来た。その一方で、回答のあった質問紙のうち、助産師の参入を 必要としていないものより、今後は必要と回答するものが 54.2 %を占め、今後の助産師の役 割獲得に期待感が持てる回答となった。 <健康相談や子育て相談についてのニーズ> 企業の多くは、(図表―6)にあるように、健康相談、子育て相談といった相談事業に関し ては、今後取り入れたいと思っている回答を含め、ニーズが高いことがわかる。医師や保健 師といった専門職が入り、実際に健康相談を行なう企業は多いが、より専門性の高い相談事 業を行うために、助産師は適している。ただ、全体的な傾向として、「すぐにでも行いたい」、 「検討を要するが必要性を感じる」と答えたものが、「必要性を感じない」と答えたものより も多かったことは、今後、次世代育成支援対策を考えた時に、各企業が実施を検討すること が示唆された項目でもあり、助産師がその業務内容を遂行できる点で言えば企業に何らかの 形で貢献できるのではないかと推測できる。特に助産師は、女性の身体の相談や避妊、不妊 相談、更年期障害などの相談が可能な点では他の健康相談とは別に、今後更にニーズも高ま ると思われる。 また、子育て相談については、60 %以上が必要性を感じているという興味深い結果が出 た。子育て不安の解消については現代社会の課題でもあり、この課題解決が次世代育成支援 対策の要でもあると言える。子育て相談についても、就学前のトラブルの多い時期の子ども についての相談などがアピール可能であると思われる。 <保健活動に対する価値> 今回は、次世育成に関する保健活動の価値を図る尺度として適切なものが無いかと考えた 時、一回にかかる費用の法人負担額と個人負担額を聞いてみることにした。金額設定につい ては、実際に企業に行なっている事例がある訳ではなかった。項目は、先駆的に小・中学校 などで行う保健活動を参考にして立てたに過ぎないので、若干無理があったことと思う。回 答する側も、金銭感覚という回答者の主観の入るものであったために、企業に投げかけた質 問紙としては良い質問ではなかった。しかし、回答された項目を処理すると、大きなばらつ きは無く、むしろ妥当な値段としてマーケティングできたのではないかと思われる。今回の 調査では、法人負担額としては、1,000 円が最も多く、次いで 2,000 円∼ 3,000 円が妥当な金 額であり、個人負担額は、0 円または 500 円程度が妥当な金額であった。 4.まとめ 今回の質問調査で企業が今後最も取り組みたいこととして、「就業中の男女の子育てへの

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関心、興味を惹くこと」が上位にあげられた。これは、裏を返せば、子育てに無関心な部分 が少子化を招いているということを示唆していると捉えることは出来ないだろうか。で、あ るとすると、子育てへの関心を惹くことは就労者となってからでよいのだろうか。大学進学 が当たり前になり、就職年齢が上がった。就職直後に結婚・出産を女性達は選択しなくなり、 晩婚化が進んだ今日、合計特殊出生率が示すように、一生のうちに女性が子どもを産む数は 1 人程度である。筆者は子育ての興味関心を惹く時期については、もっと早い時期が妥当で あると考えている。無論、その機会は度々行われることが望ましく、企業が積極的に取り組 んでいくことに異論がないが、小学生の時期から「生」や「死」を真剣に考える機会に触れ、 自分の誕生を学ぶ機会などを持つことも大切であると考えている。 確かに、ライフサイクルの上で一時的に仕事と家庭の両立が難しい時期はある。今後はそ の時期を見極めて次世代育成支援を行うことも必要不可欠なことである。 高度経済成長期以降、親たちはそれ以前に増して忙しくなった。自給自足が生活の中心で あった第一次産業から、はるかに自分の時間を他人に合わせて働くようになり、「企業」に 家庭を持ち込むのはタブーとなった。家庭と企業は切り離され久しいが、ここにきて急に 「企業」がそれぞれの持ち味を出して次世代育成を推進しようとしても、それはそれで難し い話である。 「企業」に家庭を持ち込もうとしても、以前よりも忙しい子どもが増えた。何らかの習い 事などが学校の他に入っている。もはや躾は家庭でするものでは無くなった。親子間の会話 は少なくなったが、親も「自分の時間」を持つようになったことは喜ばしいことだと錯覚し、 子どもと距離を置くようになった。 助産師が産婆であったころとは時代がまるで違う。家庭を職場に持ち込まず働き続けた結 果少子化が息づいた。企業にもっと家庭の環境が入り込んでもいいのではないだろうか。子 育ては従来、親だけがするものではなかった。地域社会が一丸となって子どもを成長させて いた。親の目の届かないところでは、他の大人が子どもを見守っていた。今は他人との接触 は出来るだけ避けるようになり、あえて他人の子に声を掛けることも少なくなった。 親世代が躾を行ってこなかったのであれば、企業が子どもを招き、親と共に躾を行っても いいように思う。その点では、今回調査した企業の何社かは、子どもの職場訪問などを行っ ており、非常に子どもへの関心が高い企業であるという印象を受けた。子どもの職場訪問に よってその後どのような変化を持つのかという点は気になるところでもある。 子どもを職場に連れて行くきっかけになる託児所は、企業にもっと増えるべきであるし、 中小企業で託児所を作る規模でない企業は、近隣の大企業にある託児所に子どもを預けるこ とが出きるような柔軟さがほしい。企業が集まって街を作ると考えれば、一つ一つの企業は 「家庭」であると考えてもよいのではないだろうか。 「助産師」の活動の場に関しては、今後、病院などの医療機関に限らず、地域社会に根差 した活動を行っていくことを願ってやまない。少子社会の中、次世代育成支援について「助 産師」は最も重要なキーパーソンであると考えている。地域社会の中でも、労働環境のコ ミュニティに着目した今回の調査は、多くの時間を労働環境で過ごす男女にとって、企業が どのように考えているのかを知るきっかっけを掴むことが出来たといえる。 今回の質問紙調査でも新しい知見があったように、「子育てに興味・関心を惹くこと」を 中心に、今後はその方策を見つけていく必要があるといえる。昔はあって、今はなくなって

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しまった地域社会と人々を結びつける「絆」の役割を、産婆が古くから取っていたように、 助産師は今後「企業」の中で、「絆」を創り出す役割を担えればと考える。 ■註 (1) 厚生労働省:第六次看護職員需給見通しに関する検討会、平成 16 年 6 月 17 日、資料 3 看護職 員の就業と要請の現状について、助産師就業者数(年次別、就業場所別) (2) 杉立義一、『お産の歴史』集英社(2002)pp.18-25 (3) B. エーレンライク、D. イングリッシュ、長瀬久子訳、『魔女・産婆・看護婦』法政大学出版局 (1996) (4) 杉立義一、(2002)前掲書 pp.43-44 (5) 関口允夫、『理想のお産とお産の歴史 日本産科医療史』日本図書刊行会(1998)pp.57-58 (6) 日本助産師会:日本における助産師制度の変遷、http://www.midwife.or.jp/ (7) 西川麦子、『ある近代産婆の物語』桂書房(1997)pp.125-126 (8)「若狭の産小屋」文化庁編『日本民俗地図 V(出産・育児)』国土地理協会(1977) (9) 大林道子、『助産婦の戦後』勁草書房(1989)pp.264-266 (10)佐藤香代、『日本助産婦史研究』東銀座出版社(1997)pp.97-99 (11)職能団体の歴史については、現在の日本助産師会と日本看護協会のことを指している。助産師 が加入している主な団体には前述の 2 つの組織があるが、開業助産師を主要メンバーとする日 本助産師会に対し、日本看護協会は保健師・助産師・看護師を統合した団体である。現在の日 本看護協会の中には保健師職能委員会・助産師職能委員会・看護師職能委員会があり、それぞ れ日本看護協会会長への諮問機関として機能している。独自での決議のもとでの事業展開はし ておらず、よって独立採算ではない。この協会への統合・離脱というのは、1946 年に保助看三 婦を統合し日本看護協会が結成されたが、その後、様々な問題が浮上し 1955 年に当時の助産婦 会のメンバーの大多数が日本看護協会から脱退、日本助産師会を創設した経緯があった。 (12)増山 均、『地域づくりと子育てネットワーク』大月書店(1986)pp.14-16 (13)白井千晶、「自宅出産から施設出産への趨勢的変化── 戦後日本の場合」『社会学年誌』40 号 (1999 年 3 月)pp.125-139、早稲田社会学会(1999)pp.125-139 (14)船橋惠子、『赤ちゃんを産むということ』日本放送出版協会(1994)pp.56-60 (15)厚生労働省雇用均等児童家庭局(編集)、『女性労働白書−働く女性の実情(平成 16 年度版)』 21 世紀職業財団(2005)p.2 (16)女性週刊誌「女性自身」(2003 年 7 月 1 日号)「会社に赤ちゃんを殺される 緊急レポート 働 く女性を襲う『妊娠リストラ』実態」 (17)厚生労働省雇用均等児童家庭局(編集)、『女性労働白書−働く女性の実情(平成 16 年度版)』 21 世紀職業財団(2005)p.30 (18)総理府内閣総理大臣官房男女共同参画室、『男女共同参画白書(平成 12 年度版)』大蔵省印刷 局(2000) (19)厚生労働省ホームページ内 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/family/ ファミリー・フレンドリー企業表彰について参照

参照

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