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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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氏 名 授 与 し た 学 位 専攻分野の名称 学 位 授 与 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

学位論文の題目

論 文 審 査 委 員

出射 明美 博 士 歯 学

博甲第6163号 令和2年3月25日

医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻

(学位規則第4条第1項該当)

機械的伸展刺激がヒト歯肉線維芽細胞と共培養したヒト iPS 細胞由来心筋細胞の 成熟に与える影響

松本 卓也 教授 窪木 拓男 教授 小橋 基 准教授

学位論文内容の要旨

【緒言】

iPS(induced Pluripotent Stem)細胞を用いた再生医療は近年多様な分野で研究が進み、一部では既に臨 床応用されている。心臓移植は、末期心不全に対する唯一の治療法であるが、本邦ではドナーの不足が問題 となっており、心臓移植の適応がありながら亡くなる人が後を絶たない。iPS 細胞から心臓を作製すること が可能となると、この移植待機の問題が一気に解決し得る。iPS 細胞から心筋組織への分化誘導は様々な方 法が考案されてきたものの、現状では大量の心筋組織を得ることは困難であり、分化誘導効率は重要な課題 となっている。過去の研究では、歯肉線維芽細胞(human gingival fibroblast, HGF)がiPS細胞の分化誘導 を促進することが報告されている。また機械的伸展刺激によりiPS細胞由来の心筋組織の成熟が促進するこ とも報告されている。そこで本研究では、iPS細胞から心筋組織への分化誘導効率、及び得られる心筋組織の 成熟度の向上を目標とし、iPS細胞とHGFとの共培養条件下で機械的伸展刺激を与えることで、iPS-CMsの 分化効率の促進、成熟度の向上が得られるとの仮説を立て、これを検証した。

【材料ならびに方法】

HGF は、岡山大学病院矯正歯科治療中の患者の智歯抜去を行う際に採取した健常な歯肉組織から単離した。

HGFとヒトiPS細胞(201B7型)を播種し、心筋細胞への分化誘導を行った。心筋組織への分化誘導中に機 械的伸展刺激を加えるため、全てのサンプルはストレッチチャンバーを用いて培養した。分化誘導開始15日 目から72時間、機械的伸展刺激を与えた。これをストレッチ群とし、伸展刺激を与えないものをコントロー ル群として両群を比較した。定量性 RT-PCR および蛍光免疫組織染色にて心筋組織への成熟度を評価した。

また細胞内構造を観察するため、電子顕微鏡による観察を行った。iPS-CMsの自発的収縮を撮影した動画を 解析し、収縮能を定量化した。さらに機械的伸展刺激前後での収縮能の変化率を両群で比較した。

【結果および考察】

定量性RT-PCRの結果より、伸展刺激開始72時間後の18日目において、心筋マーカーであるcTnTの

発現量はコントロール群と比べ、ストレッチ群で有意に増加していた。また未分化度の指標となる多能性マ

ーカーのOct4、Sox2の発現量は、両群において継時的に減少した。このことから、機械的伸展刺激によって

iPS細胞から心筋組織への分化が促進されていることが示唆された。

(2)

より詳細に細胞内構造を観察するために、電子顕微鏡による観察を行ったところ、両群においてサルコメア 構造の配列が認められた。健康で成熟した心筋細胞内線維の配列は整っていることが知られており、心筋細 胞内線維の配列の変化が、心筋組織の拍動に影響を及ぼすことが報告されている。したがって、協調性の高 い拍動を示す心筋組織を作製する上で、心筋細胞内線維の配列は非常に重要であると言える。両群のサルコ メア長を比較したところ、コントロール群が1.164±0.158 μmであるのに対し、ストレッチ群は1.586±0.194 μm と有意に大きい値を示した。ヒト成熟心筋のサルコメア長は1.6〜2.2 μm とされており、ストレッチ群 の方がこれに近い大きさを呈していた。またストレッチ群において、暗帯と明帯を有するサルコメア構造が 確認でき、より成熟心筋に近い構造を呈していた。したがって、機械的伸展刺激によってサルコメア構造が より成熟したことが分かった。

iPS-CMsの自発的収縮を記録した動画を解析し、ストレッチ前後における収縮能の変化をベクトル場とし

て可視化したところ、ストレッチ群において、収縮能が増大している傾向が見られた。収縮能を数値化して 比較したところ、コントロール群において、1/4 において収縮能の低下が認められ、他の1/4 は変化がほぼ 認められなかった。一方で、収縮能が大きく増大したものもあり、コントロール群の中でサンプルによって ばらつきが大きかった。また、ストレッチ群においては収縮能が低下したサンプルはなく、平均的には安定 した収縮能の増大が認められた。このことから、心筋組織分化誘導中に機械的伸展刺激を与えることで、収 縮能の向上が得られることが示唆された。

【結論】

HGF との共培養条件下で iPS 細胞の心筋分化誘導中において機械的伸展刺激を与えることで、iPS-CMs

の成熟度の向上、分化効率の促進が示唆された。

(3)

論文審査結果の要旨

iPS(induced Pluripotent Stem)細胞から心筋組織への分化誘導は様々な方法が考案されてきたものの、

現状では大量の心筋組織を得ることは困難であり、分化誘導効率は重要な課題となっている。過去の研究で は、ヒト歯肉線維芽細胞(human gingival fibroblast,HGF)がiPS細胞の分化誘導を促進することが報告さ れている。また機械的伸展刺激によりiPS 細胞由来の心筋組織の成熟が促進することも報告されている。そ こで本研究では、iPS細胞とHGFとの共培養条件下で機械的伸展刺激を与えることで、iPS由来心筋細胞(iPS- CMs)の分化効率の促進、成熟度の向上が得られるとの仮説を立て、これを検証した。

HGFは、岡山大学病院矯正歯科治療中の患者の智歯抜去を行う際に採取した健常な歯肉組織から単離した。

HGFとヒトiPS細胞(201B7型)を播種し、心筋細胞への分化誘導を行った。心筋組織への分化誘導中に機械 的伸展刺激を加えるため、全てのサンプルはストレッチチャンバーを用いて培養した。分化誘導開始15日目 から72時間、機械的伸展刺激(伸展率:2%、周期: 30回/分)を与えた。これをストレッチ群とし、伸展刺 激を与えないものをコントロール群として両群を比較した。定量性RT-PCRおよび蛍光免疫組織染色にて心筋 組織への成熟度を評価した。また細胞内構造を観察するため、透過型電子顕微鏡による観察を行った。iPS- CMs の自発的収縮を撮影した動画を解析し、収縮能を定量化した。また機械的伸展刺激前後での収縮能の変 化率を両群で比較した。

定量性RT-PCRの結果より、伸展刺激開始72時間後において、心筋マーカーであるcTnTの発現量はコント

ロール群と比べ、ストレッチ群で有意に増加した。未分化度の指標となる多能性マーカーのOct4、Sox2の発 現量は、両群において継時的に減少した。このことから、機械的伸展刺激によってiPS 細胞から心筋組織へ の分化が促進されていることが示唆された。蛍光免疫組織染色の結果より、両群において cTnT 陽性細胞、

MYL2陽性細胞が認められ、MYL2陽性細胞にはcTnTが共発現していた。また両群ともにサルコメア構造が確 認でき、心筋組織への成熟が示された。さらに電子顕微鏡による観察を行ったところ、両群においてサルコ メア構造の配列が認められた。両群のサルコメア長を比較したところ、コントロール群と比較し、ストレッ チ群において有意に大きい値を示し、ストレッチ群の方がヒト成熟心筋のサルコメア長に近い大きさを呈し ていた。したがって、機械的伸展刺激によってサルコメア構造がより成熟したことが分かった。iPS-CMsの自 発的収縮を記録した動画を解析し、ストレッチ前後における収縮能の変化を定量化し比較したところ、スト レッチ群において、安定し収縮能が増大する傾向が認められた。このことから、心筋組織分化誘導中に機械 的伸展刺激を与えることで、収縮能の向上が得られることが示唆された。

以上のことから、HGF との共培養条件下で iPS 細胞の心筋分化誘導中に機械的伸展刺激を与えることで、

iPS-CMsの成熟度の向上、分化効率の促進が示唆された。

今回得られた結果は、心筋分化誘導の研究の発展に寄与するものであると期待される。よって、審査委員 会は本論文に博士(歯学)の学位論文としての価値を認める。

参照

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