博 士 ( 歯 学 ) 辻 潔 美 Periodontal ligament cells under intermittent tensile stress regulate mRNA expression of osteoprotegerin and tissue inhibitor of matrix metalloprotease‑l and‑2.
(周 期的伸展刺激によるヒト歯根膜細胞におけるosteoprotegerinと tissue inhibitor of matrix metalloprotease―1,−2mRNA発現の調節)
学位論文内容の要旨
【緒言】
歯根膜は,生理的条件下で咬合や咀嚼による機械的負荷を受けており,歯に 加わる圧カの緩衝はその主要な機能である.歯根膜の一方は歯槽骨と接してお り, 歯根膜と歯 槽骨の問に は機能的な相互作用があると考えられている,
一般に,骨吸収を担う破骨細胞の分化と機能は,骨芽細胞が産生するreceptor activaorofnuclearkappか月ligand(RAM江)ならびにosteoprotegerin(OPG)等 の分 子によって調節されていることが知られている.RAM糺は,破骨細胞前 駆細胞のRANKと結合し,破骨細胞分化を誘導する.了方、可溶性因子である OPGはR心巛I, に結 合 する ことでRANKとRANKI,との結 合を阻害し ,破骨 細胞 分化を抑制する,歯根膜細胞においてもR鮒巛IーとOPGの産生が報告さ れており,これらの分子を介する骨吸収の調節の可能性が示唆されている.ま た , 歯周 組 織に お ける 細 胞外基質の 代謝は,そ の分解酵素 であるmatrix meta110proteaSeS(MMPS) と ,そ の 抑制 因 子で あ るtiSSueinhibitorof meta110proteases(TMPs)による制御が知られている.
本研究では,ヒト歯根膜細胞培養系を用い,周期的伸展刺激の付与による細 胞のRANKL OPG,Tm佃ならぴ にMMP等の 産生とその 制御を調べ ,ヒト歯根 膜細胞が伸展刺激によって骨吸収系に対してどのような影響を及ばすかを明ら かにすることを目的とした.
【材料と方法】
歯 科 矯 正 治 療 に よ る 便 宜 抜 歯 に よ り 得 ら れ た 小臼 歯 の 歯根 中 央3分 の1の部 分 よ り 歯 根 膜 を 回 収 し ,a ‑MEM培 地 を 用 い ,C02イ ン キ ュ ベ ー タ ー 内 で 培 養 し た .4継 代 ま で 培 養 し た 細 胞 をI型 コ ラ ‐ ゲ ン で 表 面 処 理 し た 可 動 性 の シ リ コ ン 膜 底 面 を持 つ 培 養用 デ ィ ッシ ュ に1X l05cells/wellの 割合 で 播 種し ,その 後コ ン フノレ エントに なるま で3日 間,培養 した. この細胞 を,Flexercell strain unit (Flexcell InternationalCo.McKeespon,I A,USA)を使用して,周期10cycles/minの 伸 展 カ を 加 え 培 養 を 行 っ た . 伸 展 刺 激 の 細 胞 内 情 報伝 達 が どの よ う な分 子 群 を 介 す る か を 明 ら か に す る た め , 種 々 の 細 胞 内 情 報 伝達 系 の 阻害 剤 を 添加 し 培 養
した.また,伸展刺激と感染との複合作用を明らかにするため,グラム陰性菌 の外毒 素であるLPSを添加し ,同様に細 胞への伸展 刺激の負荷 を行った.
性が考えられた,一方,ヒト歯根膜細胞における伸展刺激によるTIMP‑1 mRNA 量の増加がタンパク質合成阻害剤によって抑制されたことから,いくっか複数 の経路を介して伸展刺激による細胞内情報が伝達されていると考えられた,
LPSの 添加によっ て,歯根膜 細胞のOPG mRNA量の伸 展刺激による増加が 認められなくなったことは,歯根膜細胞における伸展刺激による細胞内情報伝 達分子の活性化経路の少なくともーっをLPSが制御しうることを示すものと思 われた.このことは,歯根膜における感染は,機械的刺激の骨に及ばす作用を,
制御する可能性を示唆するものと考えられた,
【結論】
伸展刺激の負荷によってヒト歯根膜細胞培養系におけるOPG,TIMP‑1ならび に‐2のmRNA発現が増加することが明らかとなった,また,この伸展刺激に よるこれら分子の発現には複数の細胞内情報伝達系が関与していること,なら ぴにLPSはその経路 を制御しうることが明らかとなった.OPGは破骨細胞分 化の抑制,TIMPは細胞外基質の分解抑制を介して歯周組織代謝の調節におい て機能しうることから,本研究結果で示された伸展刺激によるそれら分子の発 現の変化は,伸展刺激に適応するための歯根膜細胞の応答であると考えられ,
これらの分子を介して歯根膜の生理的機能が維持されていることが示唆された.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Periodontal ligament cells under intermittent tensile stress regulatenlRNAeXpreSS10nofOSteoprotegerin andtiSSueinhibitorofmatriXmetanoproteaSe‐ 1and‐ 2. ( 周 期 的 伸 展 刺 激 に よ る ヒ ト 歯 根 膜 細 胞 に お け るosteoprotegerinと tiSSueinhibitorofmatriXmetalloproteaSe|1, ‐2mRNA発現 の 調 節)
審査は, 全審査委 員出席のも と,学位 申請者に 対して提 出論文の 内容の説明 を 求 め た 。 学 位 申 請 者 か ら は 以 下 の 内 容 の 論 述 が な さ れ た . 歯 根膜 は , 生理 的 条件 下 で 咬合 や咀嚼に よる機械 的負荷を 受けてお り,歯に 加 わ る 圧カ の 緩衝 は そ の主 要 な 機能であ る.歯根 膜の一方 は歯槽骨 と接して い る.骨吸収を担う破骨細胞の分化と機能は,receptor activator of nuclear kappa‑B ligand (RANKL)な らびにost.eoprotegerin (OPG)等の分子によって調節されてい る こ と が 知 ら れ て い る .RANKLは , 破 骨 細 胞 前 駆 細 胞 のRANKと 結 合 し , 破 骨 細 胞 分化 を 誘導 す る .ま た , 歯根膜に おける細 胞外基質 の代謝は ,その分 解 酵 素 で あるmatrix metalloprote髑es(MMPs) と , その 抑 制 因子で あるtissue inhibitorofmetalloproteaSes(TIMPs) に よ る 調 節 が 知 ら れ て い る . 本 研究 で は ,ヒ ト 歯根 膜 細 胞培 養系を用 い,周期 的伸展刺 激の付与 による細 胞 のm`NKL,OPGTIMPな ら び にMMP等 の 産 生 と そ の 制 御 を 調 べ , ヒ ト 歯 根 膜 細 胞 が ,伸 展 刺激 に よ って 骨 吸 収に対し てどのよ うな影響 を及ぼす かを明ら か にすることを目的とした.
歯 科矯 正 治 療に よ る便 宜 抜 歯に よ り得 ら れ た小 臼 歯よ り 歯 根膜を 回収し,a
‐MEM培 地を 用 い,C02イ ンキ ュ ベ ータ ー 内で 培 養 した .4継 代ま で培養し た細 胞を1X105cells/we11の割合で播種しコンフルエントになるまで培養した.この細 胞を,Flexercells弧inu血を使用し周期10cycles/minの伸展カを加え培養を行った.
伸 展刺激の 細胞内情 報伝達が どのよう な分子群を 介するかを明らかにするため,
種 々 の 阻害 剤 を添 加 し 培養 し た .また, 伸展刺激 と感染と の複合作 用を明ら か に す るため ,グラム 陰性菌の 外毒素であ るLPSを添加 し,同様 に伸展刺 激の負荷 を 行 っ た. こ れら 伸 展 刺激 を 負 荷し た 後, 細 胞 より 全RNAの 抽 出を行 い逆転写
人 学
明
正
邦
村 田
木
田 森
鈴
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
後,RT‑PCR法 ならびにり アルタイム 定量PCR法を用いmRNA量を測定した.ま た培養上清を回収し,ELISA法ならびにEIA法を用いOPGのタンパク量ならぴに プロスタグランジン(PG)E2量を測定した・
ヒト歯 根膜細胞へ 伸展刺激を 負荷するとOPG mRNA量 は48時間後には増加 し120時間後に も持続した .培養上清 中のOPGタ ンパク質の 量は,伸展刺激 に よっ て 約3倍 に 増加 し た.LPSを 添加し,伸 展刺激を加 えたところ ,OPG mRNA量 の増 加 は認 め られ な かっ た .ま た 凡 へNKLmRNA量 はLPSの 添加もし くは無添加に関わらず伸展刺激によって変化しなかった.伸展刺激によるこの OPGIl心玳Aの発現誘導は,インドメタシンもしくはゲニスタチンの添加によっ て抑制された.培養上清中のPGE2は,伸展刺激によって約3.8倍に増加した.
またTIMP‐1ならぴに‐2mRNA量は,伸展刺激によって増加した.このTIMP‐1 mRNA量の増加はシクロヘキシミドの添加によって抑制された.しかしながら,
MMP.1なら びに−2のmRNA量は,伸 展刺激による変化が認められなかった.
これらの結果から,歯根膜細胞は伸展刺激によって破骨細胞分化を調節する 可溶性タンパク質の産生を変化させ,骨吸収を制御している可能性が考えられ た.すなわち,適度な伸展刺激は,歯根膜細胞の産生するOPGを介して歯槽骨 吸収を抑制しTIMPの産生の増加をもたらし細胞外基質の分解を抑制しうる可 能性が考えられた.また,いくっか複数の経路を介して伸展刺激による細胞内 情報が伝達されていると考えられたが,0PG産生の増大には,シクロオキシゲ ナーゼの活性化が関与すると考えられた.さらに,伸展刺激による細胞内情報 伝達分子の活性化経路の少なくともーっをLPSが制御しうることを示すものと 思われた.
以上の論述に引き続き,各審査委員より提出論文の内容について口頭により 質疑が行われた.主な質疑項目は,歯根膜細胞採取の方法,歯根膜と歯槽骨の 関連,歯根膜における伸展と圧縮の生理的意義,歯根膜におけるPGの受容体に ついて,LPSの作用機構にっいて,使用した歯根膜細胞の採集数等であった。
また,本研究の背景となる骨吸収の生化学的機構についてなど多岐にわたる関 連事項の試問も行った.学位申請者からは,いずれの質問に対しても適切かつ 明快な回答が得られた.更に,今後の研究の方向性にっいても明確な将来の展 望が示された.
本論 文 は、伸 展刺激の負 荷によるヒ ト歯根膜細 胞培養系に おけるOPG, TIMP‑1ならぴに‐2のmRNA発現とその制御機構を明らかにした点が評価され,
この業績は,今後の研究の発展に大きく寄与するものと考えられた.加えて,
試問の結果より学位申請者は専攻分野の専門領域のみならず関連分野について も十分な学識を有していることが認められた.従って,学位申請者は,博士(歯 学)の学位を授与されるにふさわしいと認められた.