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博 士 ( 生 命 科 学 ) 菅 野 幸 人 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 生 命 科 学 ) 菅 野 幸 人

学 位 論 文 題 名

カ ル ボニ ル イ リ ドの 分 子 内 1 , 3 一 双 極 付加環 化反応 を 機 軸 と す る ポ リ ガ ロ リ ド 類 お よ び

プ ラ テ ン シ マ イ シ ンの 全 合 成 研究

学 位 論 文 内 容 の 要旨

  分子内の適当な位置にカルポニル基を持っa―ジアゾカルポニル化合物は、ロジウム(II)錯体によるジ アゾ分解を経て環状カルポニルイリドを生成し、種カの多重結合と1,3‐双極付加環化反応を起こすこと が知られ ている。本反応では官能基化された含酸素多環式化合物 が得られることから、近年、天然物 の骨格構 築に利用される機会が増えているが、天然物そのものの全合成にいたった例は少ない。また、

付加環化の際の選択性(位置、面およびエンド/エキソ)の制御は問題となる。筆者は分子内1,3―双極 付加環化 反応を行うことで、ポリガロリド類およびプラテンシマ イシンに含まれる複雑な骨格が効率 的 に 構 築 で き る も の と 考 え 、 本 反 応 を 鍵 工 程 と す る こ れ ら の 天 然 物 の 合 成 研 究 を 行 っ た 。

1.ポリガロリドAおよぴBの全合成

  ポリガロリド類は中国南部で強壮および抗肝炎薬として用いられている生薬Pob´gala fallax Hemsl.の 成分探索研究の結果、2003年にWeiらにより単離・構造決定された化合物群で ある。これらの化合物 は、 連続 する2つの第四級不斉中心を含み、計4つの含酸素5員環および6員環が複雑 に縮環している これまでに例のない構造様式をもつ。ポリガロリ ド類の絶対立体配置は決定されていなかったことか ら、 まず は絶 対立 体配 置の 決定 を目 的と し て全 合成 経路 の確 立を目指し、合成研 究に着手した。

  はじめに、環化前駆体の合成を行った。Dーアラビノースより得られる文献既知のアルコールに対し、

臭化物を用いてアルキル化を行い四炭素ユニット を導入した。次に、ジチオアセタールを酸化的に加 水分解した後、亜塩素酸酸化、(Boc)20との反応によりter卜ブチルエステルへと変換した。二重結合を 接触水素化した後、TBDPS基を除去してアルコールを得た。C2―C3二重結合の 導入は、アルコールを Swern酸化してアルデ ヒドを生成させた反応液にDBUとEschenmoser塩を加える ことで行い、アルデヒ ドは還元してアリルアルコールとした。Cl位水酸 基は4‐メトキシフェニル(MP)エーテルとして保護 した。アセトニドを加水分解してジオールとし、 生じた第一級水酸基をTBDPS基で選択的に保護し、

第二級水酸基をDess―Martin酸化してケトンを得た。tert‑ブチルエステルを脱保護した後、混合酸無水 物を調製し、ジアゾメタンと反応させることでジ アゾケトンを合成することができた。環化前駆体が 合成できたので付加環化反応の検討を行った。反 応条件を種々検討した結果、ベンゾトリフルオリド 溶媒中、加熱還流下、触媒量の酢酸ロジウム(II)と反応させた場合にもっとも良い収率(73%)で付加環 化生成物が単一異性体として得られることが分か った。本反応により3つの環および連続する2つの第 四級不斉中心を含む3つの不斉中心を一挙に構築できた。

  得 られ た付加環化生成物 のMP基をCANにより除去した 後、Dess‑Martin酸化、亜塩 素酸酸化、ジア ゾメ タン 処理によルメチル エステルヘと導いた。酢酸共存下BU4NFと反応させることでTBDPS基の除 去とラクトン化を行い、四環性化合物を得た。芳 香環部の導入法に関しては種々検討を行った結果、

1356

(2)

ケ トンから生成させた亜鉛エノラートとアセチル基で保護したバニリンとのアルドール反応を行うこ と で収率よ く目的 物が得ら れることが分かった。最後にエノン形成、脱保護を行いポリガロリドA 全 合成を達 成した 。また、 シリングアルデヒド誘導体を用いることでポリガロリドBの全合成も達成 し た。合成したポロガロリドAおよびBの各種スペクトルおよび比旋光度の符号は文献値と一致した。

し かし、比旋光度の値は大きく異なり、天然物がほぼラセミ体として生合成されていることが明らか になった

  全合成を達成することはできたが、環化前駆体合成の工程数が長い点に問題を残した。そこで、L‐セ リンから容易に調製可能なa,p‑不飽和エステルに対するアルコールのへテロMichael反応を経る改良合 成法の検討を行った。その結果、水素化ナトリウムを塩基として用いて、塩化メチレン溶媒中ー23 0C で反応を行った場合に、極めて高いsyn‑選択性で付加生成物が得られることが分かった。syn‑付加生成 物は、先と同様の変換を行うことでケトンヘと導くことができ、これにより全合成ルートと比べて9 程短縮することができた。

2.プラテンシマイシンの合成研究

  プラテンシマイシンは2006年にメルク社の研究グループにより放線菌から単離・構造決定された化 合物であり、脂溶性の四環性コア部と高度に酸素官能基化された芳香族アミンがアミド結合した側鎖 からなる。本化合物の抗菌活性は脂肪酸合成酵素FabFの阻害によるものと考えられていて、新しい作 用機序を持つ抗菌薬となることが期待されている。本化合物の特異な構造と生物活性は多くの合成化 学者の注目を集め、Nic01aouらにより初全合成が達成された後、国内外の多くのグループにより形式全 合成が報告されている。アルデヒド由来のカルボニルイリドの分子内1,3−双極付加環化反応を鍵工程と する逆合成解析に基づき、実際の合成を開始した。

  まず、文献既知のビシクロ化合物の立体選択的なアルキル化を行い、C8位第四級不斉中心を構築し た。次に、ラクトンを還元的に開裂してジオールとした後、ラクトン形成、水酸基の保護を行った。

DIBALH還元 した後、C10位 水酸基をTES基 で保護してアルデヒドヘと導いた。これに対して酢酸メ チルとのアルドール反応、DessーManin酸化を行うことでp―ケトエステルへと変換した。ジアゾ基を導 入後、TES基を除去し、DessーMaJtin酸化を行い環化前駆体を得た。

  付加環化反応の検討を行った結果、Rh2(tfa)4を触媒として用いて1,2−ジクロロエタン中加熱還流下反 応を行っ た後、NaBH4処理 することで目的の四環性化合物が収率20%で得られた。得られた化合物の 不要な酸 素官能 基を除去 した後、BOM基を加水素分解してNicolaouらにより報告されているプラテン シマイシンの合成中間体へと導き、形式合成を達成した。

  以上、カルポニルイリドの分子内1,3一双極付加環化反応を鍵工程とするポリガロリド類の全合成とプ ラテンシマイシンの形式合成を行った。ポリガロリド類の合成研究においては、光学活性なジァゾケト ンを合成しロジウム(II)触媒による1,3‐双極付加環化反応を行った。本反応では、天然物が持つ4つの不 斉中心 のうち3つの 不斉中心をC7位からの不斉誘起により構築することができた。ラクトン環を構築 後、アルドール反応による芳香環部導入などを経てポリガロリドAおよぴBの初全合成を達成した。ま た、アルコールの不飽和エステルに対するジアステレオ選択的なヘテローMichael反応を経る、カルポニ ルイリ ド前駆 体の改良 合成を 行った。 本法を用 いることで、不飽和エステルから全16工程、総収率 9.7%および5.8%でポリガロリドAおよびBを合成することができた。

  プラテンシマイシンの合成研究においては、これまでにほとんど前例のないアルデヒドに由来するカ ルボニルイリドの1,3‐双極付加環化反応を行うことで本化合物が持つ四環性骨格を構築することができ た。付加環化反応の収率に大きな問題を残すものの、本反応を用いることで天然物からの誘導が困難 なコア部修飾類縁化合物合成への展開も可能であると考えている。

1357

(3)

学位論文審査の要旨 主 査    教授    橋本俊 一 副 査    教授    周東    智 副査   准教授   有澤光弘 副査   准教授   中村精一

学 位 論 文 題 名

カルボニルイリドの分子内1 , 3 一双極付加環化反応を 機軸とするポリガロリド類および

プラテンシマイシンの全合成研究

  

本論 文 は ポリ ガ ロリ ド類お よびプラ テンシマ イシンの 全合成研究 に関する もの である。 分子内の 適当な位 置にカル ボニル基を 持つ

Q

‐ジ アゾカルボニル 化合 物は、ロ ジウム

(II)

錯 体による ジアゾ分解を経て環状カルボニルイリドを 形成し、種々の多重結合との1,

3

‐双極付加環化反応により含酸素多環式化合物 を与える。著者は、分子内1,

3

一双極付加環化反応を行うことでポリガロリド類 お よ びプ ラ テ ンシ マ イシン に含まれ る複雑な 骨格が効 率的に構築 できるも の と 考 え 、 本 反 応 を 鍵 工 程 と す る こ れ ら の 天 然 物 の 合 成 研 究 を 行 っ た 。

1

.ポリガ ロリドAお よび

B

の全 金成

  

ポ リ ガロ リ ド 類は 中 国南 部 で強 壮薬およ ぴ抗肝炎薬 として用 いられて いる 生薬

Polygala fallax Hemsl.

の成分探 索研究の 結果、

2003

年 に

Wei

らによ り単 離・ 構造決定 された化 合物群で ある。こ れらの化合 物群は、 連続する

2

っの第 四級 不 斉 中心 を 含み 計

4

っ の 含酸 素

5

員 環お よ び

6

員 環が こ れま でに例の ない 様式 で 複 雑に 縮 環し て い るコ ア 部に酸素 官能基化さ れた芳香 族アルデ ヒドが 縮合した 特異な構 造を持つ 。著者が 研究を開 始した時点でポリガロリド類の全 合成や合 成研究に 関する報 告はなく 、また本 化合物群の絶対配置は決定されて い な か っ た こ と か ら 、 絶 対 配 置 の 決 定 を 目 的 と し て 研 究 を 開 始 し た 。

  

まず著者 は環化前 駆体の合 成を行っ た。

D

‐ア ラビノースより4工程で得られ るア ル コ ール を 出発 原 料 とし て 用い、

15

工 程の変換を 経て環化 前駆体と なる 丗ジ ア ゾ ケト ン を合 成 し た。 付 加環化反 応に関して は詳細な 検討を行 った結 果、 ベンゾト リフルオ リド中加 熱還流下 、触媒量の

Rh2(OAC)4

と反応さ せるこ

(4)

と で 、 目的 の 三環性化 合物が収 率

73

%で単 一異性体 として得 られること を見 出 した。得 られた三 環性化合 物に対して

5

工程の変 換を行い 、ラクトン環の構 築 を行った 。芳香環 部導入法 に関しては、塩基性条件下でのアルドール反応と 向 山アルド ール型反 応の検討 を行った。その結果、いずれの反応を適用した場 合 に も 同程 度 の収 率 で ポリ ガ ロリ ド

A

お よ びBを合 成 する こ と がで き た。 合 成 品と天然物の比旋光度の値の比較から、天然物がほぼラセミ体(

3

〜4%ee)と し て 生 合成 さ れている ことが明 らかとな り、この 結果を基 に本化合物 群の生 合 成経路に 関する考 察を行っ た。

  

ま た、環化 前駆体の 短工程合 成を目的としてa,p−不飽和エステルに対する ア ルコール のへテロ

‑Michael

反応の検討を行った。その結果、塩化メチレン溶 媒 中 で 反応 を 行った場 合に、極 めて高い

syn‑

選択性で 付加生成 物が得られ る こ と が 分か っ た。 本 法 を用 い るこ と で 、先 の全 合成ルー トと比べて

9

工程短 縮 すること ができた 。

2

.プラ乏Z2ヱイシンの形基金成

  

プ ラテンシ マイシンは 、

2006

年にメ ルク社の 研究グル ープによ り放線菌 よ か ら 単離・ 構造決定さ れた抗生 物質であ り、脂溶 性の四環 性コア部 と高度に 酸 素 官能基 化された芳 香族アミ ンがアミ ド結合し た側鎖か らなる。 本化合物 の 抗 菌活性 は細菌の脂 肪酸合成 阻害に基 づくもの であり、 新しい作 用機序を 持 つ 抗菌薬 となること が期待さ れている 。プラテ ンシマイ シンの特 異な構造 と 生 物活性 は多くの合 成化学者 の注目を 集め、Nicolaouら により初 全合成が 達 成 された 後、相次い で形式合 成が報告 された。 著者は、 天然物か らの誘導 が 困 難なコ ア部を修飾 した類縁 化合物の 合成も視 野に入れ 、効率的 な合成ル ートの確立を目指して研究を開始した。

  

環 化前駆体 となるa− ジアゾ‑p‑ケトエステルは、文献既知のビシクロ化合物 を 出 発原料 として、立 体選択的 なアリル 化による

C8

位第四級 不斉中心 の構築 な ど

12

工程の 変換を経て 合成した 。鍵工程 である付 加環化に 関して検 討を行 った結果、Rh2(tfa)4を触媒として用いて1,2‐ジクロロエタン中加熱還流下で反 応 を 行った 場合に目的 の四環性 化合物が 単一異性 体として 得られる ことが分 か っ た。し かし、シク ロプロパ ン化など の副反応 を抑える ことはで きず、低 収率(20%)でしか目的物は得られなかった。得られた付加環化生成物の不要な 酸 素 官能基 を還元的に 除去して

Nicolaou

らにより 報告され ているプ ラテンシ マイシンの合成中間体へと導き、形式合成を達成した。

  

以上、著者はカルボニルイリドの分子内1,3‐双極付加環化反応を利用するこ と で 天 然物 に 含ま れ る 複雑 な 骨格 を立 体選択的 に構築し 、ポリガ ロリドAお よ び

B

の 初全 合 成 とプ ラ テ ンシ マ イシン の形式合 成を達成 した。こ れらの結 果は、分子内1,3−双極付加環化反応の含酸素多環式骨格構築における有用性を 示すものである。

(5)

  

従って、審査委員会は菅野幸人氏の論文が博士(生命科学)の学位を受ける のに十分値すると認めた。

参照

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