博 士 ( 生 命 科 学 ) 日 向 優
学 位 論 文 題 名
ニ ッ ケ ラ サ イ ク ル 中 間 体 を 経 由す る 触 媒 的 不 斉 環 化 反 応 の 開 発 と 応 用
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
含窒素ヘテロ環カルベン(NHC)を配位子とした、ニッケル触媒による1,3−ジェンとアルデヒドの分子 間カップリング反応は、Z一配置のオレフインを持っカップリング体が単一生成物として得られる。本反 応は、7員環オキサニッケラサイクル中間体を経由していると考えられるが、平衡関係にあると考えら れ る5員環ニッケラサイクル中間体由来の生成物は全く得られなぃ。文献上、5員環ニッケラサイクル 中間体を経由する反応は数多く報告されていることから、本反応は反応機構の観点から大変興味深い。
そこで今回著者は本反応におけるニッケラサイクル中間体の反応性に関するさらなる知見を得るべく、
分 子内反 応を検討したところ、ニッケラサイクル形成時におけるジェン上の置換基の影響に関する興 味 深い知 見を得た 。さら に光学活 性NHC配 位子を 用いた不 斉環化 反応へと 展開し 、それを利用した (‑)‑ChokolAの全合成を行った。
第一章:ニッケル‑NHC触媒によるジェンとアルデヒドの分子内環化反応
1,3−ジェンとアルデヒドの分子内環化反応を行ったところ、ジェンの末端に置換基を持たない基質を 用いた場合には、分子間反応の場合とは異なり5員環ニッケラサイクル中間体由来であると考えられる 環化生成物が得られた。分子間反応と分子内反応の相違点を考察したところ、ジェン上の置換基の存在 が本選択性の発現に大きく影響している可能性が考えられた。そこでジエン末端にフェニル基を持つ基 質を用いると、分子間反応と同様に7員環ニッケラサイクル由来のZ・オレフインを持つ環化生成物が選 択的に得られることがわかった。この結果は、ニッケラサイクル中間体において、ニッケルのd炭素に 結合する置換基が反応経路およぴ生成物の選択性に深く関わっていることを示しており、反応機構の観 点から大変興味が持たれる。さらに基質を検討すると、ジェン上にシリル基、ビニル基またはメチル基 を持つ基質を用いても、フェニル基の場合と同様に7員環ニッケラサイクル由来の生成物が選択的に得 られることがわかった。次に基質の適用範囲に関する検討を行ったところ、ヘテロ環化合物や6〜8員環 化合物が高収率かつ高立体選択的に得られることが明らかとなった。さらにアルデヒドだけではなく、
ケトンを基質とした場合にも本反応は収率良く進行し、四置換炭素を有する環状化合物が立体選択的に 得られることがわかった。
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第二章:光学活性NHC配位子を用いた触媒的不斉環化反応への展開
著者らは既に、光学活性NHC配位子を用いた1,3ージエンとアルデヒドの分子間不斉カップリング反 応が、高工ナンチオおよびジアステレオ選択的に進行することを報告している。そこで第一章の環化反 応を不斉環化反応へと展開することにした。分子間反応において最も良好な結果を与えた光学活性NHC 配位子を用い、アルデヒド基のa位にベンジルオキシメチル基を持つ基質の環化反応を検討したところ、
7員環ニッケラサイクル由来のZlアルケンを持つ環化体が収率74%で得られ、不斉収率は740/0と良好な 値を示 した。一 方、副生成物として5員環ニッケラサイクル由来の環化体も25%の収率で得られたが、
興味深いことにその不斉収率は200/0と非常に低い値を示した。この結果より、本環化反応は速度論的分 割型の過程を経て進行していることが示唆された。他の基質を用いた検討でも、やはり2種類の生成物 が得られ、それぞれの不斉収率は大きく異なっていることが明らかとなった。ケトンを基質とした場合 にも四 置換不斉 炭素中心を有する2種類の環化体が得られるが、興味深いことに7員環ニッケラサイク ル由来のZ一アルケンを有する環化体の不斉収率は非常に高い値を示すことがわかった。そこでさまざま なケトンを用いて検討したところ、最高980/0 eeという極めて高い不斉収率で四置換不斉中心を持つシ クロペンタノール誘導体が合成できることがわかった。
第三章:(‑)‑ChokoIAの全合成
本不斉環 化反応 の応用研 究とし て、(‑)‑ChokolAの全合成を行った。(‑)‑ChokolAは北海道大学農学 部で単離・構造決定された、抗菌活性を有する5員環セスキテルペノイドである。構造的特徴として、
一つの四 級炭素 を含む三 っの連 続する不 斉中心を 有して おり、光学活性体での全合成はこれまでに 四つのグ ループ によって 達成さ れた。第 二章で述 べた不 斉環化反応により得られる環化体はニつの 連続する不斉中心を有しているため、残りーつの不斉中心をいかにして構築するかが問題となった。
そこで環 化体の ニつのベ ンジル オキシメ チル基を アルド ールヘと変換した。このアルドールをエタ ノール溶媒中、炭酸セシウムと反応させると、レトロアルドール反応とエピメリ化が一挙に進行し、
望みの立体配置を持っアルデヒドが単一ジアステレオマーとして得られた。これにより、(‑)‑Chokol Aの持 つ三つ の連続す る不斉炭 素中心 を全て構 築する ことがで きた。 さらにこ のアルデヒドは数段 階を経て(−)―ChokolAへと変換することができ、各種機器スペクトルデータは文献値と一致した。な お、(ー)ーChokolAの従来の不斉合成ではキラルプール法や化学量論量の不斉補助基を用いており、本 合成は初の触媒的不斉全合成である。
まとめ
1. ジェンと アルデ ヒドの環 化反応を 検討し、ジェン上の置換基が反応経路に大きな影響を与え、生 成物の 立体選択 性発現 に深く関 わって いること を見いだ した。 また、本反応は様々な基質が適用可 能 で あ り 、 ケ ト ン を 用 い た 場 合 に も 高 収 率 かつ 高 立 体選 択 的 に環 化 体 を 得る こ と がで き た 。 2. 本環化反 応を不斉反応へと展開し、ニッケラサイクル中間体を経由した2種の環化体が得られ、そ
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れらは速度論的分割型の過程を経 ていることが示唆された。また、ケトンを基質とした場合にはZ‐ア ル ケ ン を 持 つ 環 化 体 が 非 常 に 高 い エ ナ ン チ オ 選 択 性 で 得 ら れ る こ と が わ か っ た 。 3, 本 不 斉 環 化 反 応 の 応 用 研 究 と し て 、 ( ー)‑ChokolAの 触 媒 的 不 斉 全 合 成 を 達 成 し た 。
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学位論文審査の要旨 主 査 教授 佐藤美 洋 副 査 教授 橋本俊 一 副査 准教授 齋藤 望 副査 准教授 穴田仁洋
学 位 論 文 題 名
ニッケラサイクル中間体を経由する 触媒的不斉環化反応の開発と応用
含窒素ヘテ口環カルベン(NHC)を配位子とした、ニッケル触媒による1,ゴージエンとアルデヒドの分 子間カップリング反応は、乙配置のオレフィンを持っカップリング体が単ー生成物として得られる。
本反応は、.7員環オキサニッケラサイクル中間体を経由していると考えられるが、平衡関係にある と考えられる5員環二ッケ ラサイクル中間体由来の生成 物は全く得られない。文献上、5員環二ツ ケラサイクル中間体を経由 する反応は数多く報告されていることから、本反応は反応機構の観点か ら大変興味深い。今回著者 は、本反応におけるニッケラサイクル中間体の反応性に関するさらなる 知見を得るべく、分子内反 応を検討したところ、二ッ ケラサイクル形成時におけるジェン上の置 換基 の影 響に 関 する 興味 深い 知見 を 得た 。さ らに 光学 活性NHC配位子 を用いた不斉環化反応へ と展開し、それを利用した(‑)‑ChokolAの全合成を行った。
第一章:ニッケル‑NHC触媒によるジエンとアルデヒドの分子内環化反応
1,3‐ジェンとアルデヒドの分子内環化反応を行ったところ、ジエンの末端に置換基を持たない基質 を用いた場合には、 分子間反応の場合とは異な り5員環二ッケラサイクル中間体由来であると考え られる環化生成物が 得られた。分子間反応と分子内反応の相違点を考察したところ、ジエン上の置 換基の存在が本選択 性の発現に大きく影響している可能性が考えられた。そこでジエン末端にフェ ニル基を持つ基質を 用いると、分子間反応と同様に7員環二ッケラサイクル由来のz‐オレフインを 持つ環化生成物が選 択的に得られることがわかった。この結果は、二ッケラサイクル中間体におい て、二ッケルのd炭素に結合する置換基が反応経路および生成物の選択性に深く関わっていることを 示しており、反応機 構の観点から大変興味カ滞たれる。さらに基質を検討すると、ジェン上にシリ ル基、ピニル基また はメチル基を持つ基質を用 いても、フェニル基の場合と同様に7員環二ッケラ サイクル由来の生成 物が選択的に得られることがわかった。次に基質の適用範囲に関する検討を行 ったところ、ヘテ口 環化合物や6〜8員環化合物が高収率かつ高立体選択的に得られることが明らか となった。さらにアルデヒドだけではなく、ケトンを基質とした場合にも本反応は収率良く進行し、
四置換炭素を有する環状化合物が立体選択的に得られることがわかった。
第 二 章 : 光 学 活 陸 NHC 9aft.+を 用 い た 角 虫 媒 的 不 斉 環 化 反 応 へ の 展 開 著者らは既 に、光学活性NHC配位子を用いた1,3‐ジェンとアルデヒドの分子聞不斉カップリング ‑ 1513ー
反応 鹹高工 ナンチ オおよ びジア ステレオ選択的に進行することを報告している。そこで第一章の 環化反応を不斉環化反応へと展開することにした。分子間反応において最も良好な結果を与えた光 学活性NHC配位子を用い、アルデヒド基の〔x位にべンジルオキシメチル基を持つ基質の環化反応を 検討 したと ころ、7員環二ッケラサイクル由来の乙アルケンを持つ環化体が収率74%で得られ、不 斉収 率は74% と良好な値を示した。一方、副生成物として5員環二ッケラサイクル由来の環化体も 25%の収率で得られたが、興味深いことにその不斉収率は20%と非常に低い値を示した。この結果 より、本環化反応は速度論的分割型の過程を経て進行していることが示唆された。他の基質を用い た検 討でも 、やはり2種類の生成物が得られ、そ捫ぞ捫の不斉収率は大きく異なっていることが明 らか となっ た。ケトンを基質とした場合にも四置換不斉炭素中心を有する2種類の環化体が得られ るが 、興味 深いことに7員環二ッケラサイクル由来の乙アルケンを有する環化体の不斉収率は非常 に高い値を示すことがわかった。そこでさまざまなケトンを用いて検討したところ、最高98%eeと いう極めて高しゝ不斉収率で四置換不斉中心を持つシクロベンタノール誘導体が合成できることがわ かった。
第 三章: (‑)‑ChokoIAの全 合成
本 不斉環 化反応 の応用 研究とし て、( ー)‑ChokolAの全合成を行った。(‑)‑ChokolAは北海道大学 農 学部で 単離・ 構造決 定された 、抗菌 活性を 有する5員環セ スキテルベノイドである。構造的特 徴 として 、一つ の四級 炭素を含 む三つ の連続 する不 斉中心 を有し ており 、光学 活性体での全合 成 はこれ までに 四つの グループ によっ て達成 された 。第二 章で述 べた不 斉環化 反応により得ら れ る環化 体はニ つの連 続する不 斉中心 を有し ている ため、 残りー つの不 斉中心 をいかにして構 築 するか が問題 となっ た。そこ で環化 体のニ つのべ ンジル オキシ メチル 基をア ルドールヘと変 換 した。 このア ルドー ルをエタ ノール 溶媒中 、炭酸 セシウ ムと反 応させ ると、 レト口アルドー ル 反応と ェピメ1」化が 一挙に 進行し、 望みの 立体配 置を持 つアルデヒドが単一ジアステレオマ ー として 得られ た。こ れにより 、(‑)‑ChokolAの持つ 三つの連 続する不斉炭素中心を全て構築す る ことが できた 。さら にこのア ルデヒ ドは数 段階を 経て(‑)‑ChokolAへと変換することができ、
各 種機器 スベク トルデ ータは文 献値と 一致し た。な お、(‑)‑ChokolAの従来の不斉合成ではキラ ル プール 法や化 学量論 量の不斉 補助基 を用い ており 、本合 成tま初の触媒的不斉全合成である。
以上の ように 、著者 はジエ ンとア ルデヒ ドの環 化反応を詳細に検討し、ジエン上の置換基が反応 経路に大きな影響を与え、生成物の立体選択性発現に深く関わっていることを見いだした。また、
本反応は様々な基質が適用可能であり、ケトンを用いた場合にも高収率かつ高立体選択的に環化体 を得ることができた。更に、本環化反応を不斉反応へと展開し、二ッケラサイクル中間体を経由し た2種の 環化体 が得ら れ、それらは速度論的分割型の過程を経ている可能性を見いだした。また、
ケトンを基質とした場合にはZ‐アルケンを持つ環化体が非常に高しゝエナンチオ選択性で得られるこ とも明 らかに し、本 不斉環 化反応の応用研究として(‑)‑ChokolAの触媒的不斉全合成を達成した。
よって著者は、北海道大学博士(生命剰!矜の学位を授与される資格あるものと認める。
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