博士(理学)宮内 浩 学位論文題名
Synthesis of Sulfur‑containing Triazole Antifungal Agent8
(硫 黄原 子を 有す るトリ アゾール系抗真菌剤の合成研究)
学位論文内容の要旨
深 在性 真菌 症は 、免 疫不 全患 者の 増加 に伴 い益 々増 加の 傾向に ある が、 その 治療 に使 用可 能な薬 剤は 僅か6剤 しか なく 、その いず れも が問 題を 抱え ている。かかる状況下、
著 者の 属 す る 住 友 製 薬 株 式 会 社 研 究所 では 、ト リア ゾー ル系 抗真 菌剤SM‑8668が 優れ た活 性を有 する こと を見 い出 した っSM‑8668は、 既存 のア ゾー ル系抗真菌剤と異なり、
3― メ チ ル ス ル ホ ニ ル‑1― ト リ ア ゾ リ ル‑2− プ タ ノ ー ル構 造 を 有 す る こ と を 特 徴 と する が、その連続する2つの不斉中心を立体選択的に構築することは困難とざれていた。
本 研究は 、SM−8668及 びそ の光 学活性体を立体選択的に合成する方法を確立すること を目 的とし て行 われ た。
S31‑8668
[dl‑rhreo‑2‑(2,4‑Difluorophenyl)‑3‑methylsulfonyl:
1 ‑( 1 H‑ 1,2,4‑triazol‑ l‑yl)‑2‑butanol]
著者 は先 ず、 ロ− 位に 不斉 炭素を 有するケトンと硫黄イリドとの反応におけるジアス テ レオ 選択 性に つい て検 討し 、燕力 学的に安定なスレオ型オキシランを選択性良く得る 条 件 を 見 い出 して 、こ れをS¥I‑8668の 合成 に適 用し 、SM−8668を メタ ジフ ルオ ロベン ゼ ン か ら 僅 か 5段 階 、 通 算 収 率 40c7cで 合 成 す る 方 法 を 確 立 し た 。 次に 著者 は、 ラセ ミ体 であ るS¥I‑8668の光学異性体間での生物活性の差異に興味を持 ち 、SM‑8668の光 学分 割を 試み た: トリ アゾ ール 化合 物は 塩基性 が低く光学活性カルボ ン 酸で は塩 化で きな かっ たが 、光学 活性カンファースルホン酸を用いることにより、効 率よく光学分割できた。生物活性評簡の結果、(2R,3R)・体のみが抗真菌活性を有するこ と 、及 び、 両鏡 像体 が同 等の 肝毒性 を有することがわかった。また、光学活性体がラセ ミ 体 の 約20倍 の水 溶性 を有し 、経 口剤 とし ての みな らず 注射 剤と して も開 発可 能であ る こ と が わか った 。こ れらの 結呆 から 、著 者ら は、 ラセ ミ体 であ るSM−8668に 代えて
(2R,3R)‑体SM−9164を開発することに決めた。
一 方、著者は、SM‑8668の合成中間体であるa‑メチルチオオキシランの反応性につ いて検討し、これが酢酸と直接反応して2種の特徴的な開環体を与えることを見い出し て、その反応機構を明らかとした。さらに、この反応をラセミ体a‑メチルチオオキシ ランの光学分割に応用して、オキシラン化合物の光学活性カルボン酸による直接的光学 分割に初めて成功した。著者はこの方法を光学活性体SM−9164の合成に適用し、対掌 体を全く含 まないSM‑9164を メタジフルオロベンゼンから8段階、通算収率25矚で合 成することを可能とした。
さ ら に 著 者 は 、 不 斉 合 成 に よ るSM―9164の 合 成 法 に つ い て も 検討 し 、 香月
‑ Sharpless酸化による不斉導入と、塩基性条件下でのエリスロ体のスレオ体への変換を 特徴とする合成ルートを見出した。本法は、光学純度98弼e.e.のSM−9164を、メタジ フルオロベンゼンから11段階、通算収率13ワ。で与えた。
以上の様に、著者は、SMー8668及びその光学活性体SM9164を短段階かつ高収率で立 体選択的に合成する方法を確立した。
ところで、SM‑8668は、既存の抗真菌剤に比べて活性、安全性の両面において優れる ものの、未だ十分に満足のゆくものではない。著者はまた、SM―8668より強い活性を有 しかつ肝毒性の弱い化合物の探索を目的に、SM‑8668をりード化合物とした誘導体合成 を展開し、それらの構造活性相関を検討した。
著者は、SM−8668の優れた生物活性はSM‑8668に特徴的なスレオ―3―メチルスルホ ニル―1―トリアゾリル―2−ブタノール構造に由来することを作用メカニズムから推 測し、この構造を維持しつつ硫黄原子上の置換基を種々変換して、7−.ヒドロキシヘプ チルチオ体等が良好な活性を有することを見い出した。
さらに著者は、SM‑8668骨格の3位への更なるメチル基の導入を試み、かかるメチル 基の導入が抗真菌活性の強化に大変有効であることを見い出した。これら誘導体を種々 合成しその生物活性及び肝毒性を評価した結果、SM‑8668と同等以上の抗真菌活性を有 しかつ肝毒性の低い化合物数点を見い出した。
3位へのメチル化により3位は不斉炭素でなくなったが、かかる誘導体の光学活性体 を得ることはさらに困難と考えられた。しかしなカミら著者fま、自らが開発したオキシラ ンの光学分割法がこの種のオキシランにも適用可能なことを見い出し、その光学活性体 の合成を可能ならしめた:
以上、まとめると、著者は
1)硫黄 イリドの反 応条件を精査し、2個の不斉中心を有するトリアゾール系抗 真菌剤SM‑8668の立体選択的合成を初めて成し遂げた。
2)SM‑8668の 活性が(2R,3R)→体(SM‑9164)に局在することを明らかとし、そ の合成法を検討‐した結呆、新規なエポキシドの光学分割法を見い出しS M‑9164 合 成に応用し た。また、 香月一Sharpless酸化による 不斉合成法も確立した。
3)SM―8668の誘導体の構造活性相関を検討し、より優れたプロフイールを有す る化合物群を見出した。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Synthesi゛ s of Sulfur― containlng Triazole Antifungal Agents
( 硫 黄 原 子 を 有 す る ト リ ア ゾ ー ル 系 抗 真 菌 剤 の 合 成 研 究 )
宮 内 浩 氏 提 出 の 学 位 論 文 は 全 部 で171ペ ー ジ に お よ ぶ 英 語 論 文 で あ り 、 他 に 業 績 論 文が7報 ある 。
深 在 性 真 菌 症 は 、 免 疫 不 全 の 増 加 に 伴 い 益 々 増 加 の 傾 向 に あ る が 、 そ の 治 療 に 使 用 可 能 な 薬 剤 は わ ず か6剤 し か な く 、 そ の い ず れ も が 問 題 を 抱 え て い る 状 況 に あ る 。 こ の よ う な 状 況 の も と で 、 著 者 が 所 属 す る 住 友 製 薬 株 式 会 社 研 究 所 で は 、 ト リ ア ゾー ル 系 抗 真 菌 剤SM‑8668が 優 れ た 活 性 を 有 す る こ と を 見 い 出 し た 。SM‑8668は 、 既 存 の アゾ ール 系抗 真菌 剤と 異な り、3―メチルスルホニル−1−トリアゾリル―2―ブタ ノール 構 造 を 有 す る こ と を 特 徴 と す る が 、 そ の 連 続 す る2つ の 不 斉 中 心 を 立 体 選 択 的 に 構 築 す る こ と は 困 難 と さ れ て い た 。 本 研 究 は 、SM‑8668及 び そ の 光 学 活 性 体 を 立 体 選 択 的に 合成 する 方法 を確 立す るこ とを 目的 とし て 行わ れた 。
著 者 は 先 ず 、a‐ 位 に 不 斉 炭 素 を 有 す る ケ ト ン と 硫 黄 イ リ ド と の 反 応 に お け る ジ ア ス テ レ オ 選 択 性 に つ い て 検 討 し 、 熱 力 学 的 に 安 定 な ス レ オ 型 オ キ シ ラ ン を 選 択 性 良 く 得 る 条 件 を 見 い 出 し て 、 こ れ をSM‑8668の 合 成 に 適 用 し 、SM−8668を メ タ ジ フ ル オ ロ ベ ン ゼ ン か ら わ ず か5段 階 、 通 算 収 率40% で 合 成 す る 方 法 を 確 立 し た 。 次 に 、 ラ セ ミ 体 で あ るSM‑8668の 光 学 異 性 体 間 で の 生 物 活 性 の 差 異 に 注 目 し 、SM‑8668の 光 , 学 分 割 を 試 み た 。 そ の 結 果 、 光 学 活 性 カ ン フ ァ ー ス ル ホ ン 酸 を 用 い る こ と に よ り 、 効 率 よ く 光 学 分 割 で き た 。 生 物 活 性 評 価 の 結 果 、(2R,3R)‑体 の み が 抗 真 菌 活 性 を 有 す る こ と 、 及 ぴ 、 両 鏡 像 体 が 同 等 の 肝 毒 性 を 有 す る こ と が わ か っ た 。 ま た 、 光 学 活 性 体 が ラ セ ミ 体 の 約20倍 の 水 溶 液 を 有 し 、 経 口 剤 と し て の み な ら ず 注 射 剤 と し て も 開 発 可 能 で あ る こ と が わ か っ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 著 者 は 、 ラ セ ミ 体 で あ るSM‑
8668に 代 え て(2R,3R)‑鰆 で あ るSM―9164を 開 発 す る こ とを 計画 した 。そ の結 果、SM‐ 8668の 合 成 中 間 体 で あ るQ‐ メ チ ル チ オ オ キ シ ラ ン の 光 学 分 割 を 適 用 し 、 対 掌 体 を 全 く 含 ま な いSM―9164を メ タ ジ フ ル オ ロ ベ ン ゼ ン か ら8段 階、 通算 収率25ゲ 。で 合成 する こ と を 可 能 と し た 。 更 に 著 者 は 、 不 斉 合 成 に よ るSM一9164の 合 成 法 に つ い て も 検 討 し 、 香 月 − シ ャ ー プ レ ス 反 応 に よ る 不 斉 導 入 と 、 塩 基 性 条 件 下 で の エ リ ス ロ 体 の スレ オ 体 へ の 変 換 を 特 徴 と す る 巧 妙 な 合 成 経 路 を 確 立 し た 。 本 法 は 、 光 学 純 度98%eeの SM‐9164を 、 メ タ ジ フ ル オ ロ ベ ン ゼ ン か ら11段 階 、 通 算 収 率13% で 与 え た 。 こ れ ら
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の化合物は、従来に抗真菌剤に比ベ、活性、安全性の両面において優れるものの、
若干の肝毒性が認められた。そこで著者はSM−8668の誘導体の構造活性相関を検討 し、より活性が強く肝毒性の低い数種の化合物の開発にも成功している。合成にお け る 各 段 階 の 展 開 過 程 は 非常 に 優 れ た も の で あ り 、 水 準は 極 め て 高 い 。 これを要するに、著者は、抗深在性真菌剤について全く独創的かつ効率的な合成 経路の開発、およぴ、より活性が強く肝毒性の低い数種の新しい抗真菌剤の開発に ついての新知見を得たものであり、有機合成化学を駆使しての新規医薬品の開発研 究に貢献するところ大なるものがある。よって著者は、北海道大学博士(理学)の 学位を授与される資格あるものと認める。