氏 名 ・(本籍) 畠山 佑子(宮城県)
専 攻 分 野 の 名 称 博士(医学)
学 位 記 番 号 医博甲第 920 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 28 年 9 月 27 日
学 位 授 与 の 要 件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研 究 科 ・ 専 攻 医学系研究科医学専攻
学 位 論 文 題 名 Neutrophil elastase in amniotic fluid as a predictor of preterm birth after emergent cervical cerclage
(治療的頸管縫縮術後の早産予測因子としての羊水中エラスターゼの有用性)
論 文 審 査 委 員 (主査) 教授 髙橋 勉
(副査) 教授 清水 宏明 教授 今井 由美子
Akita University
学 位 論 文 内 容 要 旨
論 文 題 目 : Neutrophil elastase in amniotic fluid as a predictor of preterm birth after emergent cervical cerclage
( 治 療 的 頸 管 縫 縮 術 後 の 早 産 予 測 因 子 と し て の 羊 水 中 エ ラ ス タ ー ゼ の 有 用 性 )
申 請 者 氏 名 畠 山 佑 子
研 究 目 的
頸 管 縫 縮 術 は 、 子 宮 頸 管 無 力 症 の 可 能 性 が あ る 妊 婦 に 対 し 、 妊 娠 の 延 長 を 図 る た め に 行 わ れ る 。 適 応 に よ っ て 、 流 早 産 既 往 の あ る 妊 婦 が 対 象 と な る 予 防 的 頸 管 縫 縮 術 と 、 経 腟 超 音 波 検 査 で の 子 宮 頸 管 長 短 縮 や 、 性 器 出 血 、 下 腹 部 痛 な ど の 臨 床 症 状 を 示 し た 妊 婦 が 対 象 と な る 治 療 的 頸 管 縫 縮 術 と が あ る 。 し か し 、 治 療 的 頸 管 縫 縮 術 の 一 部 は 、 術 後 に 絨 毛 膜 羊 膜 炎 や 前 期 破 水 を き た し 、 流 早 産 に 至 る た め 、 術 前 に 子 宮 内 の 炎 症 が 存 在 す る か ど う か を 評 価 す る 必 要 が あ る 。子 宮 内 の 炎 症 を 直 接 評 価 す る 方 法 と し て 羊 水 中 の イ ン タ ー ロ イ キ ン 6 や ブ ド ウ 糖 、 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ な ど の 測 定 が 報 告 さ れ て い る 。 当 教 室 で は こ れ ま で 、 プ ロ テ ア ー ゼ 活 性 を 持 ち そ れ 自 体 が 細 胞 外 マ ト リ ッ ク ス を 分 解 す る エ ラ ス タ ー ゼ に 着 目 し 、 絨 毛 膜 羊 膜 炎 を 有 す る 妊 婦 に お い て 、 炎 症 の 程 度 と 羊 水 中 の エ ラ ス タ ー ゼ 値 が 相 関 す る こ と を 報 告 し て い る 。 今 回 、 治 療 的 頸 管 縫 縮 術 を 施 行 し た 妊 婦 に お い て 羊 水 中 の エ ラ ス タ ー ゼ が 妊 娠 延 長 を 予 測 す る マ ー カ ー と な り う る か を 検 討 し た 。
研 究 方 法
2000 年 1 月 か ら 2011 年 8 月 ま で の 間 に 、 胎 胞 膨 隆 の た め 秋 田 赤 十 字 病 院 へ 入 院 し 、 治 療 的 頸 管 縫 縮 術 を 受 け た 妊 娠 19 週 か ら 妊 娠 26 週 ま で の 妊 婦 を 対 象 と し た 。 全 例 、 入 院 時 に 経 腹 的 羊 水 穿 刺 を 施 行 さ れ 、 羊 水 中 の ブ ド ウ 糖 濃 度 が 15mg/dl 以 上 を 根 拠 に 子 宮 内 感 染 を 否 定 し た う え で 、頸 管 縫 縮 術 を 受 け て い た 。得 ら れ た 羊 水 検 体 は 、遠 心 分 離 し た の ち 上 清 を -30℃
で 保 存 し た 。エ ラ ス タ ー ゼ 値 は 測 定 キ ッ ト を 用 い 、ラ テ ッ ク ス イ ム ノ ア ッ セ イ 法 で 測 定 し た 。 妊 娠 30 週 、 34 週 、 36 週 の 3 つ の エ ン ド ポ イ ン ト を 設 定 し た 。 こ れ ら の 週 数 を 超 え て 妊 娠 継 続 が 可 能 で あ っ た 症 例 と 、達 さ ず 早 産 と な っ た 症 例 と で 、エ ラ ス タ ー ゼ 値 を 比 較 し た 。2 群 間 の エ ラ ス タ ー ゼ 値 の 差 は 、Mann-Whitney's U 検 定 を 用 い て 検 定 し 、有 意 水 準 を 5% と し た 。 エ ラ ス タ ー ゼ 値 の ROC 曲 線 を 作 成 し 、 3 つ の 週 数 を 超 え て 妊 娠 継 続 が で き る 最 適 な カ ッ ト オ フ 値 を 検 討 し た 。
次 に 、 エ ラ ス タ ー ゼ 値 が カ ッ ト オ フ 値 以 上 で あ っ た 群 と 、 カ ッ ト オ フ 値 未 満 で あ っ た 群 と
で 縫 縮 か ら 分 娩 ま で の 日 数 を Kaplan–Meier 曲 線 で 表 し 、 有 意 差 が あ る か ど う か を log-rank 検 定 で 検 討 し た 。
研 究 成 績
34 例 の 妊 婦 が 対 象 と な っ た 。 妊 娠 30 週 、 34 週 、 36 週 ま で 妊 娠 継 続 を 果 た せ た 頻 度 は 、 そ れ ぞ れ 73.5% (25/34)、70.1% (24/34)、58.8% (20/34)で あ っ た 。ROC 曲 線 か ら 、妊 娠 30 週 、 34 週 、 36 週 ま で 妊 娠 継 続 を 予 測 す る 最 適 な エ ラ ス タ ー ゼ の カ ッ ト オ フ 値 は 、 共 通 し て 180ng/ml で あ っ た 。180ng/ml に お け る 、妊 娠 30 週 、34 週 、36 週 ま で の 妊 娠 継 続 に 対 す る 感 度 、 特 異 度 、 PPV、 NPV、 オ ッ ズ 比 は 、 そ れ ぞ れ 、 妊 娠 30 週 : 84.0%、 77.8%、 91.3%、 63.7%、
18.4(95%信 頼 区 間 ; 2.7-122.9)、妊 娠 34 週 :87.5%、80.0%、91.5%、72.3%、28.0(95%信 頼 区 間;3.9-199.9)、妊 娠 36 週:85.0%、71.4%、80.9%、76.9%、14.2(95%信 頼 区 間;2.6-76.7)で あ っ た 。 羊 水 の ブ ド ウ 糖 濃 度 が 15mg/dl 以 上 の 症 例 に お け る 妊 娠 30 週 、 34 週 、 36 週 未 満 の 早 産 率 は 、そ れ ぞ れ 26.5%(9/34)、29.4%(10/34)、41.1%(14/34)で あ っ た 。一 方 、エ ラ ス タ ー ゼ 値 が 180ng/ml 以 上 で あ っ た 12 症 例 を 除 外 し 、 羊 水 の ブ ド ウ 糖 濃 度 が 15mg/dl 以 上 で か つ 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ 値 が 180ng/ml 未 満 の 症 例 に 限 定 し た 早 産 率 は 、 13.6%(3/22) 、 13.6%(3/22)、 27.2%(6/22)で あ っ た 。 縫 縮 術 の 適 応 に エ ラ ス タ ー ゼ 値 を 加 え る と 各 エ ン ド ポ イ ン ト で 15%程 度 早 産 率 が 低 下 す る こ と が 判 明 し た 。エ ラ ス タ ー ゼ 値 が 180ng/dl 未 満 の 症 例 と 180ng/ml 以 上 の 症 例 の 妊 娠 継 続 日 数 は 、そ れ ぞ れ 95.1±5.4 日 、44.8±14.3 日 と 、前 者 で 有 意 に 延 長 し た 。
結 論
羊 水 中 の ブ ド ウ 糖 濃 度 が 15mg/dl 以 上 よ り 子 宮 内 感 染 を 否 定 さ れ 、 頸 管 縫 縮 術 を 施 行 さ れ た 妊 婦 の う ち 、エ ラ ス タ ー ゼ 値 が 180ng/ml 未 満 の 症 例 で は 、そ れ 以 上 の 症 例 に 比 較 し て 有 意 に 妊 娠 が 延 長 さ れ た 。頸 管 縫 縮 術 後 の 妊 娠 継 続 日 数 と 羊 水 中 の IL-6 濃 度 と の 相 関 に つ い て は 少 数 の 報 告 が あ る が 、 エ ラ ス タ ー ゼ に つ い て は こ れ ま で 報 告 さ れ て お ら ず 、 本 研 究 が 初 で あ る 。
頸 管 縫 縮 術 後 の 妊 娠 継 続 に 関 す る 他 の 報 告 で は 、 術 前 に 羊 水 穿 刺 に よ る 子 宮 内 感 染 の 評 価 を 行 わ な い も の で は 妊 娠 継 続 は 40-70 日 で あ る 。 一 方 、 羊 水 中 の ブ ド ウ 糖 濃 度 14mg/dl 未 満 ま た は 羊 水 中 の 乳 酸 脱 水 素 酵 素 400mg/dl 以 上 を 子 宮 内 感 染 の 指 標 と し 、い ず れ も 存 在 し な い 妊 婦 に 頸 管 縫 縮 術 を 行 っ た 報 告 で は 、妊 娠 継 続 日 数 は 93.4±33.4 日 で あ っ た 。我 々 の 研 究 に お い て も 、 複 数 の 指 標 で 子 宮 内 感 染 を 評 価 す る こ と で 、 妊 娠 継 続 の 延 長 が 得 ら れ る こ と が 分 か っ た 。
Akita University
学位(博士―甲)論文審査結果の要旨
主 査: 髙橋 勉 申請者: 畠山 佑子
論文題名:Neutrophil elastase in amniotic fluid as a predictor of preterm birth after emergent cervical cerclage(論文題目の和訳)治療的頸管縫縮術後の早期予後因子 としての羊水中エラスターゼの有用性
要旨
著者の研究は、論文内容要旨に示すように、妊娠の延長を図る目的で治療的頸管縫縮術を施 行した妊婦に対し術後流早産に至らせる絨毛羊膜炎などの子宮内感染の有無を評価するため、
子宮内炎症マーカーとして汎用される羊水ブドウ糖濃度に加え、新たに羊水好中球エラスター ゼを測定し、好中球エラスターゼ濃度が治療的頸管縫縮術を受けた妊婦の妊娠継続を予測する マーカーとなりうるかどうかを検討した。
本論文の斬新さ、重要性、実験方法の正確性、表現の明瞭さは以下の通りである。
1) 斬新さ
妊娠 19 週から妊娠 26 週までの胎胞膨隆のために入院した妊婦で、経腹的羊水穿刺を施行し、
羊水中のブドウ糖濃度が 15mg/dl 以上を根拠に子宮感染を否定した上で、経管縫縮術を施行し た 34 名を対象とした。それぞれに対し羊水好中球エラスターゼをラテックスイムノアッセイ 法で測定した。対象が妊娠 30 週、34 週、36 週に妊娠継続を果たせた頻度は、それぞれ 73.5%、
70.1%、58.8%であり、ROC 曲線から、それぞれの週数で妊娠継続を予想する最適な好中球エラ スターゼのカットオフ値は、共通して 180ng/ml と判明した。以上から好中球エラスターゼ 180ng/ml 未満と 180ng/ml 以上での妊娠継続日数を比較したところ、それぞれ 95.1±5.4 日、
44.8±14.3 日であり前者で有意に延長していた。以上から羊水好中球エラスターゼが治療的 頸管縫縮術後の妊娠延長を予想するマーカーになりうることを示した。
2)重要性
子宮内の炎症を直接評価する方法として羊水中のインターロイキン6やブドウ糖が知られ ていたが、本研究で好中球エラスターゼが有用であり、特に治療的頸管縫縮術後の流早産の原 因となる絨毛膜炎の指標として好中球エラスターゼが有用であり、妊娠継続の新たな予後マー カーとしても使用できることが示された。
3)研究方法の正確性
本研究は適切な対象数を用いて行われており、研究方法も正確に実施され、詳細 な統計学的な検討も加えており、客観的な評価法で、正確性があると考えられる。
4)表現の明瞭さ
これまでの問題点の解決、すなわち治療的頸管縫縮術後の子宮内感染の有無の判定 や、妊娠継続の有用な予後マーカーとして羊水好中球エラスターゼが有用であるかどうかを明 らかにするために、研究目的、方法、研究結果、考察を簡潔、明瞭に記載していると考える。
以上述べたように、本論文は学位を授与するに十分値する研究と判定された。