学 位 論 文 審 査 要 旨 公開審査日 2015 年 2 月 25 日(水)
報告番号:甲第 1650 号 氏名: 叶 一乃
論文審査
担当者 主査 教授 宮澤 啓介 印
副査 教授 長尾 俊孝 印
副査 教授 河島 尚志 印
審査論文の題目: クリスタル紫の抗菌効果と臨床応用に向けた検討
著 者:叶 一乃,島村 明花,松本 哲哉
掲載誌: 東京医科大学雑誌(2015 年掲載予定)
論文要旨:
グラム染色で使用されるクリスタル紫は抗菌効果を有することが知られており,一部で外用薬としても 使用されている。しかし,Methicillin resistant Staphylococcus aureus (MRSA)を含めた各種臨床分 離株に対する抗菌効果に関する具体的な報告はない。そこで,クリスタル紫の臨床応用を踏まえて,臨 床分離株 18 菌種 113 株および標準菌株 5 菌種に対する抗菌活性ならびに抗菌活性に影響を及ぼすと考え られる諸条件について検討を行った。
クリスタル紫はグラム陽性菌全般に対して良好な抗菌効果を示した。特に MRSA を含む黄色ブドウ球菌の Minimum Inhibitory Concentration (MIC)は 0.25~0.5 g/ml であり,MRSA の MIC90は 0.5 g/ml と 強い抗菌活性を示した。一方,グラム陰性桿菌については腸内細菌科の MIC90は 16~128 g/ml と全体 的に高い傾向を認めた。臨床応用に向けて各種条件下における抗菌活性を検討したところ,アルブミン 添加により MIC 値の上昇が認められたが,血球添加の影響は軽度であった。温度および曝露時間につい ての検討結果では,1%クリスタル紫溶液は 3℃, 25℃,37℃において,曝露時間 30 秒で菌の発育を 抑制した。さらに低濃度の 0.2%溶液では,25℃,37℃では 1 分間の曝露で菌の発育抑制効果が認めら れた。臨床分離株全般に対する強い抗菌活性により,クリスタル紫の臨床応用の拡大が示唆された。
審査過程:
1. 実臨床で使用可能なクリスタル紫の濃度と今回の実験で得られた MIC の観点から,臨床応用の可能性 と問題点が適確に説明された。
2. クリスタル紫の抗菌活性の作用機序に関する作業仮説が明確に説明された。
3. グラム陽性菌とグラム陰性菌における抗菌力の差について明確な説明がなされた。
4. 抗菌活性測定における,アルブミン添加,赤血球添加,温度変化の諸条件の意義を明確に説明された。
5. 本研究結果を基盤とする今後の展望ならびに研究テーマ設定が明確に述べられた。
価値判定:
本研究はクリスタル紫(ピオクタニン)の抗菌作用について,118 種もの臨床分離菌株および標準菌株 を用いて,感受性ならびに抗菌活性に影響を及ぼす培養条件を詳細に検討したものである。クリスタル 紫は菌全般に良好な抗菌活性を有するとともに,特に MRSA をはじめとする薬剤耐性菌に対しても優れた 効果が示された。今後の臨床応用の上で貴重な基礎データーであり,学位論文としての価値を認めた。