国立国語研究所学術情報リポジトリ
方言文法全国地図解説 1 : 付資料一覧
著者 国立国語研究所
発行年月日 1989
シリーズ 国立国語研究所報告 ; 97‑1(別冊)
URL http://doi.org/10.15084/00001563
国立国語研究所報告 97−1(別冊)
方言文法全国地図解説1
付 資料一覧
国立国語研究所
1989
ま え が き
『方言文法全国地図』第1集には,助詞の形態を中心とする60枚の言語地図と,参考図として調 査地点番号地図1枚を収めた。また,このr方言文法全国地図解説1』では,まず,研究の方法に 関する解説として,研究の目的,研究の経過,調査の方法,編集の方法を述べた。次いで,それぞ
れの言語地図にづいて,項目の性格,語形の処理,語形の分類と記号の与え方を解説した。なお,言語地図の分布についての言語地理学的な解釈は今後の課題とし,ここでは行わなかっ1た。そのほ
か,付録として,準備調査の調査地点一覧,本調査の調査地点・話者一覧,調査地点番号順都道府
県名索引(本調査),参考話者一覧(同),準備調査票および本調査票,調査票付図を収載し,最後 に「資料一覧」として,調査結果の原資料の大部分を載せた。なお,各図の説明,および,「資料一覧」末尾の「文章による注記」の中で各地点の語形を示す場
合は,原則として調査者の報告した表記(音声記号またはカタカナ)を用いた。しかし,とくに詳
しい音声内容を示す必要がないと判断したときには,もとの音声記号を簡略表記またはカタカナに
変えて示した場合がある。『方言文法全国地図』は全6集とし,以後,第2集(活用編1),第3集(活用編2),第4集
(表現法編1),第5集(表現法編2),第6集(表現法編3)を順次刊行していく予定である。
この解説を執筆したのは,言語変化研究部第1研究室の佐藤亮一,沢木幹栄,小林隆であり,ま
た,各付録のうち,「資料一覧」を除く部分は白沢宏枝が作成した。「資料一覧」の作成は全員が担当したが,とくに,沢木幹栄と白沢宏枝の努力によるところが大きかった。また,解説(方法)の
英文概要は非常勤研究員のW.A.グロータースが執筆した。1989年3月
r方言文法全国地図』第1集編集・作図・資料整理の担当者
国立国語研究所言語変化研究部第1研究室
佐藤亮一(室長) 沢木幹栄(主任研究官)
小林 隆(研究員) 白沢宏枝(研究員)
W。A.グロータース(非常勤研究員)
このほか,多数のアルバイターの協力を得た。その中で,河西秀早子からは,とくに長期にわ
たって助力を受けた。目
一方
研究の目的…・…・…………・………
研究の経過………・……・…・…………・……・
調査の方法・…・…………一……・……・……
1.調査項目・調査票…・………・……
1.1.選定の経過・基本方針……・・……
1.2.活用形項目…・……・………・…・…・
1,3.助詞項目・…………・……・…・…・…
1.4.表現法項目…………・……・・…・…・
2.質問の形式……・…………・………・
3.調査者…………・……・…・…………・…・
4.調査地点・・………・…………・…・
5.話者………・…・…………・・……・…
6.調査の対象としたことば…………・・…
7.調査の依頼と謝意・………・……
8. 言己録・・・… 一・。・一・・。・。… 一・。・一・・一一一… 。・一・
9.調査結果の報告………・…・…
編集の方法…………・…………・………
1.編集の基本方針…………・…………・
2.語形の採用規則………・……・…
3.語形の統合規則・………
3.1.表記レベルの統合…………・…
3.2.音声レベルの統合………・
3.3.凡例における見出し語形の表記・・
4.語形の記号化………・・…・…・…・…
4.1.記号化の原理…………・………・・
4.2.記号の種類………
4.3.記号のプロット・………
5. 白地図………・………・…
次
法一
11122222222223333333
5.1. 白地図の体裁…・………・……・………・…・………・……・…・・…………33 5.2.地点番号システム………・………・・……・…………・兜……・・…………・……・………・…・……33 6.製図法…………・………・・……・・……・…・・…・…・…………・………・・…・…・…37 7. 「資料一覧」について・………・…………・・……・…・………・・…・………・……・…・…38 8.情報の電子化と利用………・・………・…・………・………・39 8.1噸 コード化の方法…・・………・…・・…………・・……・・………・………・・…………・……・…・∴…・39 8.2.データの出町………・………・・………・…・・…・………・・…・………・…・…・…∴40 9.編集作業の流れ……・…………・…・…………・…・.・…・….………・・…・・………・………・……・・40
!0.編集の分担…・・………・・…・…・……・………・…・………・……・・………・…・…・…・…………・・41
1ntroduction ・・… 一・・・・・・… 一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・….・・・… 一・・・・… 一・・・・・・・・・・・・・・・… り・・・… }・一・・・… ∴・・・・・・・… 一43
付録Appendix
調査地点一覧(準備調査)……・…・………・…・……・………・・………・………・…・………・……・50 Surveyed localities(preparatory survey)
調査地点・話者一覧(本調査)………・・………・…・……・…・………・………・・…53 Localities and informants(main survey)
調査地点番号順都道府県名索引(本調査)………・………・……・…・…・…・………77 Localities according to number and provinces
参考話者一覧………・…・・………・…………・…・…・…・……・・……,・・……・・…………84 List of third persons
調査票・調査項目一覧………・………・…・・……・…・……;……・…………・…………88 方言文法の全国調査のための準備調査票・………・…・…・…………・…・………・………・・…89 Questionnaire 1(preparatory survey)
表現法の全国調査のための準備調査票・………・………・…・…・…………・…・・………・……gg Questionnaire 2(preparatory survey)
方言文法の全国調査第1調査票(本調査)………・・…・………・………∴…… 114 Questionnaire l(main survey)
方言文法の全国調査第2調査票(本調査)………・………・・…・一…………・…… 119 Questiohnaire 2(main survey)
調査票付図(本調査)・……・…………・・………・…・………・……・…・・…・……… ・…・・129 DrawingS used during the survey
目
次
一各 図 の 解 説一
1.雨が(降ってきた)…・…………・
2.先生が(来られた)………・・……
3.どろぼうが(入った)・…・………
4.酒が(飲みたい)………・………・
5.酒が(好きだ)・…………・………
6.酒を(飲む)……・……・…………
7.おれを(連れて行ってくれ)・・…
8.そんなことを(言うな)・………・
9.そんなことを(言うな)…・…・…
10.あれは(学校だ)………
11.ビールは(飲まない)………
12.酒は(飲む)………・・………・……
13.おれの(手拭)…………・…・…・…
14.先生の(手拭)・………・・……
15,どろぼうの(手拭)…・…………・・
16.(ここに)有るのは………
17.行くのでは(ないか)………
18.行くのに(便利だ)………・・
19.東の方へ(行け)・………・・…
20.東京に(着いた)………
21.見に(行った)………
22.仕事に(行った)…………・…・…
23.大工に(なった)………・曾・
24.ここに(有る)・…………・…・……
25.おれに(貸せ)…………・……・…・
26.息子に(手伝いに来てもらった)
27.犬に(追いかけられた)…………
28.運動場で(遊ぶ)…………・…・…
塒悩闇闇闇闇㎜凹凹幽聞姫即㎜慨則隈隈燗旧旧㎜瑚鵬脳燭研鵬
・一・一。・・・・… 。・・・・・・… 169 299船で(来た)……・………・………・……・…・・……・…………・………・………
30.1万円で(お願いします)…・………・・…・………・・…・………一・・一………170
31.それより(あの方が良い)………・・……・・…………・……・……・……・……・………・…・・172
32.田中という人………・・………・………・・……・………・…・・………173
.。.・・。… .・.。・.・.・.・.。.,・・・・・・・・・・・・・… 。。・・。。・。・・。… 。・・ 174
33.(雨が)降っているから………・・…・…… 34.だから(言ったじゃないか)・………・…・……・………・・………・・…一…………177
35.だから(言ったじゃないか)………・………・・…・………・………一…・…………・……180
36.子どもなので(わからなかった)………・…・………・…………・・…・………180
37.子どもなので(わからなかった)………・………・…………・・…・…………・………182
38.寒いけれども(がまんしよう)………・・…………・……・………・・……、・…………・…・…183
39.だけど(行かなければならない)………・…・・……・…………・…・………185
40.植えたのに(枯れてしまった)………・・………・…・・…・…・……・…・・……・……・…188
41.食いながら(歩くな)・………一・………・・………・・…・………・………・・190
42,買物がてら(見物する)………・・………・…・・…・………・………・…・……191
43.帰りがけに(買物をした)・…・…・………・…………・…・…・…・……・………・………・・…194
44.お茶でも(飲もう)………一・………・………・・…・…………・…・…………・……・・………・196
45.パンでも御飯でも(好きな方を食べなさい)・………・…………・……・・…………・……197
46,子どもでも(知っている)………・・………・………・・………・………・・……・………199
47。皮だけ(食べた)………・・………・………・………・………・・……・……… … …曾 201 48.(食って)寝るだけなら…………・……・・………・・………・…202
49.雨ばかり(降っている)・…………・…・・………・……・………・・…・205
50.百円くらい(使った)……・・……・…………・・………・………・……… ○ … …… 2!6 51.百円しか(ない)・・…………・…・・…………・一…・………一・………・…………・208
52.百円ぶん(ください)………・・…一…・………・……・…・………・・………210
53.皮ごと(食べた)…・……・…・…・………・…・……・……・・…………・・………・………・…・…・……212
54.傘なんか(いらない)………・………・…・・………・・………・・………・…・……・・……215
55.安ければ安いほど(良い)………・…・………一………・・………・…………217
56。何が起こるやら(わからない)………・・…・・………・…・……一……・………・219
57.誰やら(来た)………・………・一…………・………・・……・……・…・222
58.筆やら紙やら(たくさんもらった)……・……・・…・・……・…………・…………・……・・…・・……224
59。行くだの行かないだの(ぐずくず言うな:)・………・……・………・…・………1225
60.今日こそ(終わらせる)……・…・…・…・・……・…………・…・………・・…・…・…………・・一227 資料一覧 Materials…・・……・………・……・…・一………・・……・…………・・…・………・229
研 究
の
目 的
『方言文法全国地図』は,文法裏象に関するこれまで の研究に地理的視野を与えることを目的として作製され
た。
これまでの方言文法研究は,各方言における個々の文 法事象の特徴や文法体系の特徴を,共通語と対照しつ つ,あるいは,方言独自に記述するものが主であった。
本書の刊行の目的は,これまでに記述されている各地の 文法事象が,どこに,どのような広がりをもって分布し ているかを,全国的な視野で明らかにすることによっ て,以下に記すような分野の研究あるいは教育に貢献す ることにある。
(1)各地の文法体系に関する研究を促進する。一本 書は,各種語形の文法的意味・用法に関する情報を断片 的ながら提供しているので,本書の刊行を契機として,
各地の文法体系に関する研究が新たな方向に伸展するこ とが期待される。
② 分布類型論,および,方言区画論に寄与する。
本書には多数の言語地図が収録されるので,それら の分布を総合的に分析することによって,全国的な観点 から地理的分布の類型を明らかにし,方言区画論に貢献
する。
(3)文法事象の全国分布を言語地理学的に解明する。
多種多様な方言語形の全国分布を考察することに よって,それらの語形の伝播の経路,他の対立する語形 との闘争の歴史を究明し,各地の文法事象の成立過程を 言語地理学的に明らかにする。また,諸方言の文法体系 の特徴と,個々の文法事象との関連について考察し,各 地の文法体系の成立過程を構造言語地理学的に解明す
る。
(4)全国共通語の基盤とその成立過程を明らかにす る。 東京のことばを基盤として成立している現代日 本共通語が,方言としてどのような地域に分布している のか,また,どの程度他の地方の方言を加味しているの かについて考察し,現代共通語成立の経緯を文法事象に 関して明らかにする。
(5)文献研究による日本語の歴史と方言分布との関連 について考察する。一この分野の研究は『日本言語地 図』(1966〜74刊)の刊行後,語彙に関して急速に伸展し つつある。文献における文法事象の用例は語彙の用例よ
りもはるかに豊富であり,文献研究と方言研究とを総合 した形での日本語の歴史の解明が一段と発展することが 期待される。
(6)方言社:会,あるいは;方言地域出身者に関わる国 語教育・日本語教育のあり方について検討する。一近 年の急速な共通語化の傾向にもかかわらず,文法事象に 関しては,各地における微妙な方言的特徴や,地域差を 背景にした都市における用法のゆれが,各年齢層にわ たって存在する。本書は,どの地域にどのような方言的 特徴が存在するかを明示しており,方言地域出身者が共 通語と誤認して用いる方言的特徴や,共通語における文 法事象のゆれの方言的背景も本書によって知ることがで きる。文法事象が語彙よりも言語の根幹的な部分である だけに,本書は日本人を対象とする国語教育や外国人を 対象とする日本語教育にも役立つ側面が大きいものと期 待される。
研 究 の 経 過
昭和50年度末に言語変化研究部第正研究室における次 年度以降の研究テーマとして,方言文法に関する全国的 調査研究が候補にあげられ,研究室会議,研究部会議で の議論を経て決定した。
このテーマが提案されたのは次のような理由によるも のであった。
(1)1906年に刊行された『口語法調査報告書』r口語 法分布図』以降,この分野に関する全国的調査の報告は
ない(第2次調査が行われたが,関東大震災で資料のす べてを焼失した)。また,この調査は通信調査によるも のであり,調査項目数も著しく不十分である。
(2)第2次大戦後の方言研究の伸展に伴って地域ごと の方言文法に関する基礎的な情報が蓄積されつつあり,
それらを統合する形での全国的調査が期待される。
(3) 『日本言語地図』作製のための調査研究,同書の 編集・刊行をとおして,言語地理学的観点にもとつく全 国調査の方法論が著しく伸展している。
(4) 『日本言語地図』は主として語彙に関する調査の 結果であり,次は音韻および文法に関する全国調査が期 待される。しかし,音韻に関しては,多数の調査者によ
る統一的な調査は著しく困難である。
⑤ 比較的方言衰退の度合が小さいと言われてきた文 法事象も共通語化の影響を強く受けつつあり,できるだ け早い時期に方言文法事象を収録・記録しておく必要が
ある。
昭和51年度は,「各地方言文法調査の準備的研究」の テーマの下に,まず,調査項目・調査方法を検討するた めに必要な,方言文法に関する既刊文献の目録を作成し た。また,この分野における地域差と個人差との関連な どについて考察するために,宮崎県内の5地点で実験的 小調査を実施した。さらに,「表現法の全国的地域差を 明らかにするための調査方法に関する研究」のテーマの 下に科学研究費補助金(総合B,期間1か年)を受け,
1地点の個人差や,1個人の質問法の違いによる結果の ゆれを考察することを目的として,全国21地点で実験的 小調査を実施した。また,昭和52年3月,国立国語研究 所において,研究分担者・協力者が,実験的調査によっ て得られた各地の具体的資料にもとづいて検討し,次年 度以降の全国的規模の準備調査について見通しを立て た。なお,これらの調査の結果の一部を,佐藤亮一・真 田信治・沢木幹栄「表現法の調査方法について」(国立 国語研究所『研究報告集1』1978)として発表した。
昭和52年度以降は「方言における音韻・文法の諸特徴 に関する全国的調査研究」のテーマの下に特別研究費
(期間5か年)を,「表現法の全国的調査研究」のテーマ の下に科学研究費補助金(総合A,期間2か年)を受 け,本格的な調査に着手した。52年度には,まず,担当 研究室で準備調査票の原案を作成し,52年9月に地方研 究員代表者会議を開いて『方言文法の全国調査のための 準備調査票』(89ページ参照),および,『表現法の全国調
査のための準備調査票』(99ページ参照)を作成し,地方 研究員ほかの協力を得て,全国各地でこの調査票による 調査を実施した。調査項目数は両調査票を合わせて544,
調査地点数は161(50ページ参照)であった。
昭和53年度には,まず,前年度に行った準備調査の結 果を一々の項目について分布地図の形に整理した。次い で11月前地方研究員代表者会議を開き,それらの分布地 図を参考にしつつ,本調査のための項目について検討し た。その結果に基づいて280項目から成る「本調査のた めの調査票(案)」を作成し,地方研究員(46名)に,こ の調査票を用いて試験的調査を行った上で,これについ ての意見を報告することを求めた。また,W.八グロー タース,佐藤喜代治,柴田武,日野資純,平山輝男,藤 原与一,北条忠雄の各氏にも,この調査票についての意 見を求めた。さらに,国立国語研究所の担当者も,この 調査票を用いて全国主要地点で試験的調査を行った。な お,準備調査結果の分布図の中から,全国的に見て地域 差の著しいもの60枚を選び,科学研究費補助金成果報告 書『表現法の全国的調査研究一準備調査の結果による分 布の概観一』1979として印刷,報告した。
昭和54年度には,まず,前年度に作成した「本調査の ための調査票(案)」に最終的な検討を加え,全部で267 項目から成る「方言文法の全国調査・第1調査票」(114 ページ参照)「同・第2調査票」(119ページ参照)を作成
した。そして,地方研究員を中心とする各地の方言研究 者に,この調査による臨地調査を依頼し,国立国語研究 所の担当者もこの調査票を用いて調査を行った。昭和 55・56年度も引き続いてこの調査票を用いての調査を実 施した。
特別研究費を用いての研究は昭和56年度に終了し,57 年度には「文法の諸特徴についての全国的調査研究一補 充調査一」のテーマのもとに,全国23地点で補充調査を 実施した。補充調査を実施した地点は,地点密度等の関 係で必要と認めた地点が大部分であるが,そのほか,話 者の条件不備等の理由で再調査を行った地点を含んでい る。調査地点総数は補充調査地点を含み,全国807で あった,(ただし,この地点の中には,諸般の事情で58年 度以降に調査を実施した地点を若干含んでいる)。なお,
昭和55〜57年度に,準備調査結果の一部(合計180項目)
を『方言文法資料図集1』1981,『同2』1982,『同3』
1983,として印刷し,地方研究員等の関係者に配布し
た。
昭和58年度〜62年度には「文法的特徴の全国的地域差 に関する研究」のテーマの下に新たに特別研究費(期間 5か年)を受け,本調査の結果に基づいて言語地図(草 稿)を作成するとともに,新たに全国14地点で体系的調 査(記述的研究)を実施した。これは,将来,個々の事 象を対象とした言語地図を解釈する際に,体系的調査の 結果が役立つと考えたことなどによる。なお,言語地図 作成と並行して,本調査の結果のすべてを電子計算機に 入力する作業を行った。これは,文法事象が著しく体系 性を有するために,言語地図を作成する際に項目間の関 連を見る必要があり,そのために電子計算機が役立つと 考えたこと,全データをカードとフロッピーとに分けて 保存することによりデータ保存の安全性が確保されるこ と,将来コンピューターを用いた計量方言学的な研究が 可能になること,調査の結果を報告書として刊行する際 に,言語地図のほかに,調査結果の一部または全部を電
子計算機から出力することも考えられること,さらに,
言語地図そのものを電子計算機を用いて作製することも 検討すべきであると考えたことなどによる。なお,電子 計算機への入力には,科学研究費補助金「方言研究資料 の電子計算機による作成および分析に関する研究」(一 般B,期間3か年)の一部を使用した(この研究の成果 の一部は『方言研究と電子計算機』1986として印刷し
た)。
昭和63年度には,新たに「方言文法地図作成のための 研究」(期間6か年)のテーマを立て,研究報告書『方言 文法全国地図1』の作製(言語地図印刷用原稿作製,解 説書執筆,電子計算機による「資料一覧」の作成)を 行った。今後1994年度(平成6年度)までに,『方言文法 全国地図』全6集を順次刊行していく予定である。
以上に記したように,この研究は,発足から報告書刊 行開始までに13年の歳月を要したことになる。
調 査 の
方
法
1.調査項目・調査票
1.1.選定の経過・基本方針まず,担当研究室が準備調査票の原案を作成,地方研 究員代表者会議を開いて検討を加え,次に示す2種類の 準備調査票を作成した。
①『方言文法の全国調査のための準備調査票』(B5 版50ページ。横綴じ。水色表紙。主に活用形に関す る項目と助詞に関する項目,合計296項目を収載)
②『表現法の全国調査のための準備調査票』(B5版52 ページ。横綴じ。黄色表紙。表現法に関する項目,
合計248項目を収載)
調査票を2冊に分けたのは,後に「話者」の項で述べ るように,主として話者の負担を軽減するためであり
(調査ごとに話者を変えても良いとした),・調査票の名 称を①と②とで変えたのは,前者は特別研究費による研 究,後者は文部省科学研究費補助金によって行った研究 であったためである(本調査では調査票の名称を統一し た)。なお,準備調査票の原案を作成するに当たって,国
立国語研究所第1研究部話しことば研究室が作成した
『全国方言文法の対比的研究・調査1調査票』1966,お よび『同・調査W調査票』1968を参考にした。
準備調査の項目を選定するに当たっては,次のような 基本方針を立てた。
(D 全体を,用言の活用に関する項目,助詞の形態に 関する項目,表現法に関する項目の3つの分野に分 ける。
(2)各調査地点において,上のそれぞれの分野におけ る体系の概略が把握できるよう配慮する。
(3)これまでの研究で,地域差のあることが判明して いることがらについては,それらをできるかぎり調 査項目にとり入れるようにつとめる。
準備調査の結果を参考にして,本調査の項目を選定す るに当たっては,基本的には地域差の有無・大小を基準 とした。具体的に言えば,琉球(奄美・沖縄)地域を除 いて,共通語と異なる形式が一定の領域をもって分布す ると認めた項目は,原則的に,本調査項目として採用す ることとした。ただし,互いに関連する複数の項目にお いて,それらの項目における各語形の分布が並行的であ る場合(すなわち,一つの項目の分布から他の項目の分
布を類推できるような場合)には,その中の一つを代表 として本調査項目に採用した。
なお,琉球にのみ地域差の認められる項目を,原則と して採用しなかったのは,そうしないと,かなり多くの 項目を本調査項目に採用しなければならなくなり,限ら れた期間と経費の範囲で調査を遂行することが困難であ ると判断されたことによる。また,そもそも準備調査項 目を選定する際に,琉球方言の文法的特色を十分に反映 するような項目設計がなされていないという問題もあっ
た。
本調査では,次の2種類の調査票を作成した。
①『方言文法の全国調査・第1調査票』(B5版31 ページ。天綴じ。灰色表紙。主に活用形に関する項 目と助詞に関する項目,合計146項目を収載)
②r方言文法の全国調査・第2調査票』(B5版34
ページ。天綴じ。黄色表紙。表現法に関する項目,合計121項目を収載)
以上に記した準備調査票および本調査票は,88ページ 以下に付録5として掲げた。
1.2.活用形項目
次に,3つの分野のそれぞれについて,準備調査項目 の構成と,それぞれの項目のねらいを述べ,その中から
どの項目を本調査項目として採用.したかを記す。
まず,活用形に関する項目では,動詞については,共 通語における上一段2拍,上一段3拍,下一段2拍,下 一段3拍,五段,力変,サ変,ラ変,の各動詞の代表と
して,「見る」「起きる」「寝る」「あける」「書く」「来 る」「する」「有る」の語を基本調査語に選び,それぞれ の語の「否定形」「過去形」「終止形」「連体形」「意志 形」「推量形」「仮定形(1)」(〜するなら),「仮定形(2)」
(〜すれば),「命令形」「受身形」「使役形」「〜はじめる 形」の各活用形を調べることとした(ただし,「有る」に ついては「意志形」「受身形」「使役形」を除いた)。
また,形容詞ク活用,同シク活用,形容動詞,(形容動 詞の関連としての)体言+だ,の代表として,「高い」
「めずらしい」「静かだ」「鳥だ」を選び∫それぞれの
「否定形」「過去形jr終止形」「連体形」「推量形」「仮定 形(1)」「仮定形(2)」「〜なる形」「〜て(で)形」を調査す ることとした。
そのほか,使役の助動詞の「(書か)せる」と受身の助 動詞の「(書か)れる」を基本調査語に加え,動詞の場合
とほぼ同様の活用形を調べることとした。
なお,基本調査語には,方言として全国的に使われて いることが予想される語(すなわち,大部分の地域で僅 一二の使われていないことが予想される語)を選んだ。
以上は,体系的な観点から,各活用形を網羅的に調査 することを目指した基本調査語であるが,そのほかに,
特定の活用形について地域差の予想されるものとして,
「カセル」など下一段化形式の認められる「貸す」,「カ ル」「タル」「アク」「マカス」など五段化形式の認められ る「借りる」「足りる」「飽きる」「まかせる」,「シヌル」
などナ変形式の認められる「死ぬ」,「ミユル」など二段 化形式の認められる「見える」,「マチル」など上一段化 形式の認められる「待つ」,「ケレ」.「ケロ」など,命令形 にゆれや地域差の認められる.「蹴る」(この語について は過去形と,本調査では否定形も調査の対象にした),
「ダイタ」「ケーダ」「ヌーダ」「イキタ」など,音便形の 有無・内容に特色の予想される「出す」「漕ぐ」「売る」
「飲む」「飛ぶ」「行く」「(受け)させる」「立つ」,以上 の各語について,問題部分の活用形を調査項目に加えた
(本調査では,音便形を問題にする語として,さらに,
「研ぐ」「買う」,および,「立つ」との関係を見るための 「建つ」と「建てる」を加えた)。
そのほか,やや特殊な例であるが,「(書か)ない」の 「連体形」,および,「(雨が)モレル・モル」「愛スル・
愛ス」「愛スレバ・愛セパ」「愛シナイ・愛サナイ」「感ズ ル・感ジル」「感ズレバ・感ジレバ」「信ズル・信ジル」
「信ズレバ・信ジレバ」のそれぞれいずれかを問う項目 を,活用に関する地域差の予想される項目として,準備 調査項目に加えた(ただし,これらは本調査ではすべて 削除された)。
以上に記した活用形に関する調査項目は,別表の「活 用形調査項目一覧」(7ページ)に掲げた。準備調査項目 の一つ一つについて,その結果をもとに分布図を作成 し,さきに述べた基準により本調査項目を選定したが,
準備調査項目と本調査項目の関係も,この一覧表で見る ことができる。
この一覧表に見られるように,本調査において,たと えば,「起きる」「寝る」「あける」の連体形を調査してい ないのは,準備調査において,それらの動詞の終止形の 分布とほぼ一致していたからであり,「見る」の終止形 を採用していないのは,その分布が「寝る」の終止形の 分布と平行的であり,一方の分布から他方の分布を推定
活用形調査項目一覧
否定形 過去形 終止形 連体形 意志形 推量形 仮定形1 仮定形2 命令形 受身形 使役形 〜はじめる 〜なる
〜丁で
見る ● ○ ○ ○ ○
○ ○ ○
● ○
○ ○
起きる ● ○ ● ○
● ○ ● ● ● ○
○ ○
寝る ● ○ ● ○ ● ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ あける
●
○
●
○
●
○ ○ ○
● ○ ● ○
書く ● ● ● ● ● ● ● ◎ ○ ●
● ○
一一■
齊」一
来る ● ○
● ○ ● ● ● ● ● ● 、● ○
する ● ○ ● ○ ● ● ● ● ● ● ● ○
有る ○ ○
○ ○ ○
○ ○ ○ ○
貸す ● ○ ● ○
○
借りる ● ○ ○
○ ○
足りる
●
○ ● ○
飽きる ● ● ● ○
まかせる ● ● ● ● ●
死ぬ ○ ● ●
見える
○
待つ
○ ○
○ ○
蹴る ◎ ● ●
冒曹
oす
●漕ぐ ○
売る ○
飲む ●
飛ぶ ●
行く ●
立つ ●
建つ ◎
建てる ◎
買う ◎
研ぐ ◎
(書か)せる ○
● ●
○ ● ○ ○ ○ ● ● ○
(受け)させる, ○
(書か)れる ○
○ ● ○ ○
○ ○ ○
○ ○
(書か)ない
○
高い ● ● ○ ● ●
●
● ● ●
めずらしい
O
○ ○ ○ ○ ○ ○ ●』 ○静かだ ● ● ● ● ● ● ○ ○ ○
一鳥だ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○
○
○
●◎
準備調査のみで打ち切り 準備調査・本調査とも 本調査で追加
できると判断されたためである。一方,「起きる」と「あ ける」の終止形を両方とも採用しているのは,一部の地 域(九州の一部)で両項目の分布(オクル,アクルのよ
うな二段活用であることを示す語形の領域)が違ってい たためである(一段活用動詞の否定形について,「見る」
「起きる」「寝る」「あける」の4語とも採用している が,これも,ミラン,オキラン,ネラソ,アケランのよ うな語形の分布領域に関し項目間の差が認められたこと
による)。
このように,個々の項目の地域差の有無に着目して本 調査項目を選定したために,「活用形調査項目一覧」に 示したように,本調査項目については,著しく体系性を 欠いた項目構成のようにも見える。しかし,上に述べた ように,少くとも琉球を除く地域については,体系的に 欠けている部分の分布は,他の項目の分布を参考にして 補うことがある程度可能なことに留意すべきである。な お,上に述べた本調査項目選定の基本方針は,活用に関 する項目だけではなく,助詞や表現法に関する項目につ
いても同様である。
1.3.助詞項目
次に,助詞の形態に関する項目では,共通語の助詞,
および,それに準ずる形式(接尾辞の.一部)にってい て,各方言の形式を調べた。ただし,「〜ても(でも)」
と「〜たって(だって)」などのように,意味・用法が類 似する複数の形式については,そのうちの一つを代表項
目として選んだ。
具体的な調査項目,および,それぞれの項目のおよそ のねらいは次のとおりである(以下,〈 〉内は準備調 査票(89ページ参照)における項目番号,《 》内は,
その項目が本調査項目として採用された場合の,本調査 票(114ページ参照)における項目番号である)。
●共通語の「が」(格助詞)および「の」に当たる各地 の形式を調べるもの……「花が咲いた」〈202>,「おれが 書いた」〈2q3>(とりたて),「これ杢お前の靴か」〈206>
(連体修飾文節「〜の」の直前にある,と.りたての
「が」),「海より山隠良い」〈207>(比較),「誰墾来た か」〈206>(疑問詞に付く場合),「腹が減ったなあ」〈20 9>(話しことばとして自然に使われる文脈を与え,助詞 省略の有無などを見るもの),「雨が降って来た」〈210>
→本調査では「雨が降って来たぞ」《094》(同上。名詞と の融合の有無についても見るもの),「水が飲みたいな
あ」〈234>→本調査では「酒が飲みたいなあ」《116》,
「字がじょうずに書ける」〈235>,「あの人は歌がじょう ずだ」<236>,「おれはうどんが好きだ」〈237>→本調査 では「おれは酒が好きだ」《117》(以上,種々の文脈にお ける,対象をあらわす「が」に当たる形式を見るもの),
「雨の降る日は仕事を休む」<211>(連体修飾の連文節中
.における「の」「が」の現れ方を見るもの),「先生が来 た」〈204>→本調査では「先生が来られた」《100》,「ど ろぼうが入った」〈205>《101》,.「先生璽手ぬぐい」〈21 5>◎04》,「どろぼう2手ぬぐ》・」<216>《105》,「おれ 両手ゆぐい」〈214>《103》,「年生璽忘れた手ぬぐい」〈2
12>,「どうぼうの忘れた手ぬぐい」〈213>(以上,種々の 文脈における尊卑の「の」と「が」の使い分けの有無を 見るもめ。あわせて連体格の「の」に当る各地の形式を 見るものを含む),..「おれのだ」<217>,「ここにあるのは お前の手ぬぐいか」〈218>→本調査では「ここに有るの は何か」《102》(以上,準体助詞の「の」に当たる形式を 見るもの)。
●共通語の「は」に当たる各地の形式を調べるも の……「あれは学校だ」〈244>《120》(主題提示,単文の 場合),「あの人は,色参黒い」〈243>(同,複文の場 合),「東京に行くのではないか」<291>《143》(「で」+
「は」の形式),「ビールは飲まないが,酒は飲む」
〈239>《119》(対象,とりたて)。
●共通語の「を」に当たる各地の形式を調べるも の……「酒を飲んでいる1<238>吟本調査は「酒を飲む」
.《118》(対象),「ビールを飲まずに酒を飲もう」〈240>
(対象,とりたて),「外から帰ったら,まず手を洗いな さい」〈265>(対象,順序),「おれをつれていってくれ」
〈241>《115》(対象が人間の場合。名詞との融合の有無 も見る),「鳥をつかまえた」〈242>(対象が動物の場合。
同)ゐ
●共通語の「に」に当たる各地の形式を調べるも の……「東京に行く」〈219>,本調査は「東の方へ行け」
《106》(方向),「大阪に寄ってから東京に行く」〈22 1>(経由・方向),「東京に着いた」〈222>《107》(帰着 点),「9時に寝た」〈223>(時刻),「花火を見に行った」
〈224>《108》(目的,動詞に付く場合),「遊びに行っ た」<225>(目的,転成名詞に付く場合),「仕事に行っ た」〈226>《1!0》(目的,名詞に付く場合),「東京に,遊 びに行く」<220>(方向・目的),「大工になった」〈227>
《112》(変化の結果),「ここに有る」〈228>《113》(場
所),「どこにでも有る」(場所,「に」+「でも」),<229>
「あの山導主」〈230>(場所,「に」+「は」),「お前に貸 してやる」〈231>(対象,対称代名詞に付く場合),「おれ 些貸せ」〈232>《114》(対象,自称代名詞に付く場合),
「茶わんにお茶をそそぐ」「〈233>.(目標),「父にしかられ た」〈250>,「犬に追いかけられた」〈251>《124》,「息子 些来てもらった」〈249>《122》(以上,種々の文脈におけ
る,動作を受ける場合の動作の主),「入れるのに便利 だ」<293>→本調査は「行くのに便利だ」《098》(目的,
準体助詞に付いた場合)。
●共通語の「で」に当たる各地の形式を調べるも
の・…・・「運動場で遊ぶ」〈245>. s121》(場所),「筆で書 く」〈246>(手段),「船竺来た」〈247>《123》(手段),
「木が風で倒れた」〈248>(原因),「1万円でお願いしま す」<264>《135》(動作の状態)。
●共通語の「と」に当たる各地の形式を調べるも の……「酒がきらいだと言っていた」〈252>(動作の内 容),「田中という人」〈253>《099》(引用句)。
●共通語の「から」「ので」「けれども」「が」(接統助 詞)「のに」「ながら」「なり」「し」.および,助詞に準ず る「がてら」「がけに」に当たる各地の形式を調べるも の……「雨が降っているから行くのはやめろ」〈254>《095》
(順接・理由,命令文の場合),「雨が降っているから行 くのはやめた」〈255>(同,平叙文の場合),「子どもなの でわからなかった」〈283>(同,断定の.「だ.」に付く場 合),「寒いけれどもがまんしよう」〈257>《092》(逆接の 確定条件),「雨は降ったが,雪は降らない」<258>(同,
対比),「植えたのに枯れてしまった」〈259>《097》(同,
望ましくない結果),「食べながら歩く」<260>→本調査 は「食いながら歩くな」《129》(動作の共存),「帰って来 るなりしかられた」〈281>(「〜とすぐに」.の意),「あそ こにも行ったし」ここにも行ったし……」〈292>(列 叙),「買物がてら見物する」〈294>《109》(併行的行 為),「帰りがけに買物をした」〈295>《111》(同)。
●程度や限定をあらわす,共通語の「ぶん」「くらい」
「ほど」「ばかり」「だけ」.「しか」「きり」に当たる各地 の形式を調べるもの……「百円ぶんください」〈267>
《134》(量の限定),「百円くらい使った」〈266>《136》
(およその量),「食べるくらいは何とかなる」<269>(例 示),「大きいほどいい」〈275>→本調査は「安いほど良 い」《138》(程度の例示),「雨ぽかり降っている」〈276>
《093》(限定・強調),「皮だけ食べた」〈262>《131》(限
定,名詞に付く場合),「食って寝るだけなら……」〈26 1>《130》(限定・強調,動詞に付く場合),「百円しかな い」〈268>《137》(量の限定。否定を伴なう場合。),「あ きらめる⊥塑ない」〈270>(行為の限定)1「あれっきりも う来ない」〈271>(限度),「あしたまで待ってくれ」〈272>
(期間の限度)。
●例示をあらわす,共通語の「でも」「さえ」「なり と」「なり」「なんか」「やら」「だの」に当たる各地の形 式を調べるもの……「子どもでも知っている」〈284>
《142》(極端な場合の例示),「これさえ有ればいい」
〈273>(同),「お茶でも飲もう」〈285>《133》(二曲),
「何なりと言ってください」〈282>(対象・範囲の例 示),「傘なんかいらない」〈274>《139》(否定すべき対象 の提示),「パンを食べるなり、ごはんを食べるなり、自 由にしなさい」〈256>→本調査は「パンでも御飯でも,好 きな方を食べなさい」《128》(選択すべき対象の例示),
「筆幣紙埜たくさんもらった」<289>《127》(多種類 の中の一部を例示),「行くだの行かないだのぐずぐず言
うな」〈290>《144》(反復列挙)。
●強調をあらわす,共通語の「こそ」「も」に当たる各 地の形式を調べるもの……「今日こそ終わらせる」〈280>
《146》(強調),「それこそめいわくだ」〈279>(慣用句 的,副詞的用法),「まだ1時間もある」〈277>(予想外の 事実の強調)。
●その他(意味・用法はさまざまであるが)共通語の
「やら」「ごと」「も」「より」「ねえ」に当たる各地の形 式を調べるもの……「誰やら来た」〈287>《126》(不確 実,疑問詞に付く場合),f何が起こるやらわからない」
〈288>《125》(同,述語に付く場合),「皮ごと食べた」
〈263>《132》(「〜もいっしょに」の意),「飲んでもよ かった」〈286>(助動詞の「で」+「も」),「それよりあの ほうがいい」〈278>《140》(比較の対象),「今日ネー,お れがネー,学校に行ったらネー」〈296>(間投助詞)。
なお,終助詞,間投助詞,および,各種の助動詞につ いては,主として,次に記す表現法に関する項目の中で 調査することとした。
1.4.表現法項目.
表現法に関しては,全体を,「命令・禁止・義務」「強 調・詠嘆」「意志・勧誘・希望」「推量・伝聞・比況」(本 調査では「推量・様態・伝聞」),「否定」「疑問・反語」
「過去・回想」「アスペクト」「仮定・確定」(本調査では
「仮定」),「可能」「やり・もらい」(本調査では「授 受」)の11分野に分け,そのほか,これらと性格が異なる が,「あいさつ」と.「待遇」の2分野を設けた。
ここでは,『表現法の全国調査のための準備調査票』
(99ページ参照)の順序に従って,それぞれの項目のね らいの概略を記す(なお,〈〉内の数字は準備調査票に おける項目番号,《 》内の数字は本調査票のうちの『方 言文法の全国調査・第2調査票』(119ページ参照)の項
目番号である。
●あいさつく001〜009>《237〜241》
あいさつ表現の類型およびその具体形式について調査 するものである。準備調査では,「道端での朝のあいさ つ」〈001>,「道端での日中のあいさつ」〈007>,「道端で の夕方のあいさつ」〈009>,「日中に人の家を訪ねたとき のあいさつ」〈005>,「夕方人の家を訪ねたときのあいさ つ」〈008>,「客を部屋に招き入れるときのあいさつ」
〈002>,「物をもらったときのあいさつ」<003>,「人の家 を辞去するときのあいさつ」<006>,「客を送り出すとき のあいさつ」〈004>の9場面について調査.し、このう ち、.「朝」「日中」「夜j(〈oo9>の夕方を改訂),「日中の 訪問」「物をもらったとき」の5場面を本調査項目とし
た。
●命令・禁止・義務〈OlO〜023>《147〜154》
最初に,具体的な場面を設定して,それぞれの場面で 使われる表現全体を求めた。まず,命令表現について は,「孫を起こす」「孫に窓をあけさせる」の2場面につ いて,それぞれ「ふつう」「きびしく」「やさしく」の3 文体,のべ6場面の表現を調査することとした〈010〜
015>。これらの項目は,オキロ(オキレ,オキヨ,オ キー)のような裸の命令形が,具体的な場面でどのくら い使われるか,オキナサイ,オキナイカ,オキタラ(ド ウダ),オキテ(ヨ),オキナキャダメダのような命令表 現(あるいはそれらに対応する各地の方言形式)の類型 が各地にどのように現れるかを見るものである。
義務表現としては,共通語の「行かなければならな い」〈023>に当たる各地の形式を求めた。
禁止表現については,「行くな」(以下,下線は調査の 対象とした部分を示す。ただし,話者に回答を求めた部 分は付録の調査票に示したように,これより長い場合が ある),および「泳ぐな」に対応する各地の表現類型 (イッテワダメダ,イカナイデ,イカレナイなどに対応 する形式を含む)を「やさしく」と「きびしくjの2文
体について求めようとするもの(017,018,020,021),
および,「行かなければならない」に対応する禁止表現 としての「行ってはいけない」〈016>,「泳いではいけな い」<019>に当たる各地の形式を求めるもの,さらに,
「泳がないでおけ」<022>に当たる形式を求めるものを 調査項目とした。
なお,本調査では,表現類型を見る項目では,命令表 現についても「やさし.く」と「きびしく」の2文体のみ
とし,また,「泳ぐ」に関する項目はすべて削除した。
●強調・詠嘆〈024〜029>《155〜157》
単純な肯定として「飲む」・<024>,強調表現として,
「もちろん飲む」<025>,「おれが飲むんだ」〈026>,「今 日は飲むぞ」<027>を設定し,詠嘆表現として,「よく酒 を飲むなあ」〈028>,「ここは何と美しいのだろう」〈029>
を設定した。このうち,025〜027は強意の終助詞,028は 詠嘆・感動の終助詞,029は「〜ノウツクシサ」に対応す るよう.な形式を含む各地の詠嘆文の類型を求めることを ねらいとしたものである。
本調査では,025〜027の代表項目として「もちろん亘 く」《155》が設定され,029は質問文を「あの花の美しい こと.!」《157》と変更して採用した。<028>の「なあ」
に当たる形式を求めるものは,過去・.回想の分野の「あ のときはおもしろかったなあ」《223》,および,待遇表現 の分野の「今日は寒いな」《244》にまわした。
●意志・勧誘・希望〈030〜041>《158〜164》
意志に関する項目では,肯定意志として「行こう」「行 こうか」(以上〈030>),「行こうとしたら」<031>,否定 意志として「行くまい」〈032>を設定した。030は「自分 の気持(意志)を心の中でつぶやくとき」という条件設 定であったが,これは話者にとってややむずかしい質問 であることが判明したので,本調査票では,肯定意志の 代表項目として,「東京に行こうと思っている」《158》と いう質問文を設定した。「行くまい」については,そのま ま本調査項目に採用した。
勧誘表現では,「私のかわりに行かないか」〈033>,
.「いっしょに行かないか」〈034>,「いり.しょ.に行こう よ」〈035>,「さあ行こう」〈036>,「行くといいよj〈037>,
を設定し,、希望表現では,「行きたいなあ」〈038>,「行き たくてたまらない」〈039>,「行きたがる」〈040>,「行き たくない」<041>を設定した。033〜036は項目ごとに分 布が異なることを予想したのであるが,実際にはそれほ
ど大きな分布差が見られなかったので,本調査では
「いっしょに行こうよ」《160》で代表させた。また,「行 くといいよ」は「行くと」の部分にイケバ,イクギーな どの地域差が見られたが,これについては仮定表現の項 目の中で調べることとし,この項目を本調査では削除し た。希望表現では,〈038>〈039><041>の3項目を本調 査で採用し,〈040>は削除した。〈038>では,「行きた い」に当たる各地の形式のほか,「なあ」に当たる詠嘆の 終助詞についても,この項目で見ることにした。「行き たくてたまらない」と「行きたくない」は,共通語では 前部分の「行きたく」が共通であるが,地域によっては 両項目に異なる形式が認められたので両者とも採用し た。そのほか,本調査では,新たに「行ってもらいた い」《164》を調査項目として立てた(この項目は,準備 調査では,『:方言文法の全国調査のための準備調査票』
のく200>の中で「『もっとゆっくり話シテホシイ』と
『もっとゆっくり話シテモライタイ』のいずれを使う か」という形で調査したものである)。
●推量・伝聞・比況〈042〜072>(本調査では,推量・
様態・伝聞《165〜175》)
推量については,(D確信の有無,(2)肯定・否定,(3)現 在・過去,(4)準体助詞の有無,この4つのカテゴリーを 考慮しつつ項目を設計した。
「たぶん行くだろう」〈042>……確信なし・肯定・現 在・準体助詞なし 「きっと行くだろう」〈043>……確信あり・肯定・現 在・準体助詞なし 「役場に行くのだろう」〈045>……確信?・肯定・現 在・準体助詞あり 「たぶん行かないだろう」〈046>……確信なし・否定 ・現在・.準体助詞なし 「きっと行かないだろう」<047>……確信あり・.否定 ・現在・準体助詞なし 「行っただろう」〈050>……確信?・肯定・過去・準 体助詞なし
「行かなかっただろう」<051>……確信?・否定・過 去・準体助詞なし 「役場に行ったのだろう」〈052>……確信?・肯定・
過去・準体助詞あり このほか,推量表現については,形容詞,形容動詞,
体言の推量形として,「その山はだぶん高いだろう」
〈053>,「あの山はきっと高いだろう」〈054>,「たぶん静 かだろう」〈055>,「たぶん雨だろう」.〈056>の各項目を
設定した。また,きわめて強い根拠のある推量として,
「行くにちがいない」〈044>,「行かないにちがいない」
〈048>の2項目を立てた。
以上の準備調査項目の中から,本調査では,「たぶん 行くだろう」,「たぶん行かないだろう」,「役場に行くの だろう」,「行っただろう」,「役場に行ったのだろう」,
「たぶん雨だろう」の6項目を代表として選んだ。
次に,比況(様態)については,動詞,形容詞,形容 動詞に共通語の「そうだ」が続く形として,「降りそう だ」〈057>,「良さそうだ」〈059>,「高そうだ」〈060>,
「静かそうだ」〈061>,動詞と体言に「らしい」が続1く.形 として「行くらしい」〈056>と「若者らしい若者」
〈071>,体言に「のようだ」が続く形として「富士山のよ うだ」〈068>,「富土山のように見える」〈069>,「富士山 のような山」〈070>の各項目を設定した。「ようだ」につ いては,この語の活用形の一部も見ようとしたのであ
る。
上記のうち,本調査では,「降りそうだ」「良さそう だ」「富士山のようだ」.を代表として選び,「若者らしい 若者」は質問文が非日常的な表現であると反省されたの で,「(顔色の悪い人.を見て).あの人はどうも病気らし い」《173》という質問文に変えて採用した。
そのほか,様態に関しては,「そんなことを言うな」
〈072>という文脈で「そんなことを」に当たる各地の形 式を調べる項目があり,これは本調査でもそのまま採用 した。ただし,質問の流れから見て,調査票における位 置が不自然であると反省されたので,本調査では,これ を,助詞項目(『第1調査票』)の中の「行くだの行かな いだのぐずぐず言うな」の次《145》に置いた(118ペー ジ参照)
次に,伝聞については,動詞,形容詞,形容動詞,体 言のそれぞれに,共通語の伝聞の「そうだ」が続く形と
して,「降るそうだ」〈062>,「あの山は高いそうだ」
〈064>,「静かだそうだ」<065>,「雨だそうだ」〈063>を 設定した。動詞に「そうだ」が続く形としては,ほか に,「昔,鬼がいたそうだ」〈067>という項目も設けた。
このような日常良く使われたと思われる文脈では他の伝 聞表現と異なる慣用的な表現が各地にあるかもしれない と考えたからである。そのほか,他人から聞いた話を,
その内容を知っていると思われる別の人に伝えるときの
「あの人は外国に行くんだってね」〈066>という表現も 調査項目に加えた。
本調査では,こ.れらの中から,「雨だそうだ」「高いそ うだ」「鬼がいたそうだ」の3項目を代表として選んだ。
ただし,「高いそうだ」は,準備調査では「あの入の話で は,あの山はずいぶん高いそうだ」という文脈であった が,この質問文は,その内容が現実には不自然であると の批判を受けたので,本調査では,これを「あの人の話 では,東京はずいぶん物価が高いそうだ」《175》という 質問文に変えた。「山が高い」と「物価が高い」とでは
「高い」の意味が異なるが,現われる形式に大きな差は ないであろうと予想した。
●否定<073〜082>《196〜205》
動詞・形容詞の各活用型の代表語と形容動詞の代表語 の否定形については,『方言文法の全国調査のための準 備調査票』,および,『方言文法の全国調査・第1調査 票』(本調査用)の活用形に関する項目の中で調査する
ことになっている。ここでは,助動詞の「ない」および 形容詞の「ない」の,いくつかの文脈における各地の形 式を見ることにした。
助動詞「ない」については,接続助詞の「て」「で」が 付いた形の「行かなくて」<074>と「行かないで」
〈073>(なお,「行かないで」の「ないで」は,助動詞
「ない」の連用形と見る説もある),および,とりたての
「は」を介する表現として,「行きはしない」〈075>,「行 きはしなかった」〈076>,「見はしない」〈077>,「来はし ない」〈077>,「ない」の過去形を見るための「行かな かった」〈079>(<076>も)を設定した。本調査では,こ れらのうち,「行きはしない」を削除し,あらたに,形容 詞に「ない」が付く形(の過去形)として,「高くはな かった」《202》を加えた。なお,「は」を介する形には,
西日本では,〜ヘソ,〜ピン,〜センなど多様な形が予 想されるので,やや詳しく調査することにした。
形容詞の「ない」については,準備調査では,言い切 りの形の「ない」〈080>,強調の形を見るための「そんな ものはない」〈081>(ここでは,アラヘンなどの形も見 る),中止の形を見るための「車もないし,クーラーもな い」〈082>を項目として立てたが,本調査では,「ない」
の過去形を見るための「いや,無かった」.《203》,およ び,肯定疑問文(「きのう運動会は有ったか」)でたずね
られたときと,否定疑問文(「今,お前のところに車はな いだろう?」)でたずねられたときの応答の形式を,応 答詞(「うん」「いや」)を含めて見るための項目《204》
《205》に,項目設定を変更した。
●疑問・反語〈083〜102>《186〜195》
この分野では,単純疑問文と疑問詞疑問文,疑問の助 詞が文末にあるときと文中にあるとき,そして,述懐疑 問文,反語文,問い返し文,以上のカテゴリーにおける 疑問の助詞(共通語の「か」や「かな」に当たる形式).
について項目を設定した。
まず,単純疑問文については,準備調査では,「今度の 旅行に行くか」〈083>,「行くか行かないかわからない」
<084>,「ほんとうにそんなに大勢行くのか」〈088>(準 体助詞+か),「あの人は先生か」〈090>(体言+か),の 4項目を立てたが,本調査では疑問の助詞が文中にある
く084>のみを採用した(文末に疑問の助詞がある単純疑 問文は,待遇表現の項目の中で,「家にいますか」《249》,
「パンを食べますか」《253》,「東京へ行くのか」《267》
など多数調査している)。疑問詞疑問文については,「ど こに行くのか」<085>,「誰が行くのか」〈086>,「誰が互 くかわからない」〈087>,「あの人は誰か」<089>,「誰か が知っているだろう」〈091>,「どこかにあるだろう」
〈092>,「いっか聞いたことがある」〈093>,「いっかはや るだろう」〈094>の8項.目を準備調査で設定し,本調査 ではその中の〈087><089>〈091>〈092>〈093>を代表項 目として選んだ。ただしく089>は質問文を「それは何 か」《188》に変更した。
述懐疑問文については,「誰がやるのかな」〈095>,「こ れで良いのかな」〈096>,.「あしたは晴れるだろうか」
〈093>の文脈で,いずれも「心の中でつぶやくとき」と いう述懐表現を求める場面設定で3項目を立て,このう ちのく096>を本調査に採用した。
反語文については,「そんなばかげたことはやるもの か」〈098>,「誰がやるものか」〈099>,「やらないことが あるものか」〈100>の3項目を立て,本調査ではその中 の〈099>とく100>を代表項目として選んだ。
問い返し文については,疑問詞を伴わない「また台風 が来るんだって?」〈101>と,疑問詞を伴う「誰が来る んだって?」の2項目を準備調査項目として立て,その
うち,前者を本調査用に採用した。
●過去・回想〈103〜120>《223〜230》
まず,「インダ」「イキタ」などの予想される「行く」
の過去形「行った」〈103>(ただし,この項目は,活用に 関する項目の〈087>と重複している)を,次いで,各品 詞の打消過去についての項目を設定した。具体的には,
動詞について「しなかった」<104>,形容詞については音