博 士 ( 理 学 ) 森 田 千 鶴 子
rMolecular and Genetic Studies on Sugar Signaling during Shoot Development and Defense Activation Mechanism depend on Negative Regulator of Cell Death, CADl gene, in ArabidopsisJ
( シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ に お け る 栄 養 成 長 期の 糖 応 答機 構 と 細胞 死 を 負に 制 御 する CAD1遺 伝 子 に 着 目 し た 植 物 免 疫 機 構 に 関 す る 分 子 遺 伝 学 的 研 究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
植物 は、発芽から開花結実まで移動することなくーつの場所で生息するため、動物に 比べ より環境への適応能カが求められる。植物の環境適応メカニズムを研究し解明する ことは、生命現象の解明のみならず、農学的、環境学的に・も重要な課題であり、今後、
植物 の機能を有効利用し、人類や地球環境に役立てていくためにも必須と考えられる。
本論 文は、シロイヌナズナの発芽時における糖応答機構と植物の免疫機構とぃうニつの 植物 の環境適応現象に着目し、それらの分子機構に関する遺伝学的解析を試みたもので ある。
シ ロイヌナ ズナの発 芽時に おける糖 応答の 解析
シ ロイヌナズナの芽生えにおいて、本葉の展開を停止する休眠現象が観察されること が ある。す なわち、シロイヌナズナの芽生えには、環境に応じて茎頂分裂組織の分裂活 性 を制御す る機構の存在が想定される。植物細胞の分裂には、植物ホルモンの一種であ る ア ブシジ ン酸(ABA)と糖が 拮抗的に 作用す ることが 知られ ている。 本研究で は、シ ロ イヌナズ ナにおい て糖の 内生量低 下がABAの生合成上昇を促進すると共に、茎頂分裂 組 織の分裂 活性の低下を誘導すること明らかにし、発芽時の子葉の展開に続く形態形成 過 程におい て、糖とABAが 茎頂分裂 の分裂活性制御に拮抗的に作用することを示した。
シロイヌナズナ糖高感受性変異体ghsl (glucosehyper‑sensitive1)の遺伝学的・生理学的 解析
糖 シ グ ナリ ン グ 機構 を 明 らか に する ためシ ロイヌナ ズナの 糖高感受 性変異体 餉口 (glucosehyper‑sensitivel)の遺伝学的・生理学的解析を行った。野生株コロンビアは7% のグル コースを 含んだ培地上において本葉展開の阻害やアントシアニンの蓄積、クロロ
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フイル合成の抑制などの糖 応答を示す。これに対して、ghsl変異体では5%以上のグル コ ース を含 んだ 培地上 でこれらの応答が観察された。原因遺伝子単離の結果、 蝕閉遺 伝 子は 色素 体30Sリ ボソームタンバク質S21をコードした遺伝子にT一DNAが挿入 される ことで生じた劣性変異体で あることを明らかにした。この変異体において、1)RBCLと RBCSの タン パク 量の減 少、2)光合成活性の減少、3)発芽初期における葉緑体 の発達 障害が観察された。これら の結果から、GHS1遺伝子は色素体のタンノヾク質合成や光合 成機能に関与することが示 された。また、葉緑体機能と糖シグナリングとク口ストーク 機構の存在が示唆された。
植物免疫機構活性化経路の解明
免疫シ ステムは、その様式は様々であるが、生物界に広く保存された共通の生存戦略 である。 一見、無抵抗の植物さえも、その例外ではなく、固有の免疫システムを進化さ せてきた 。高等植物は、病原体の侵入に対して、様々な防御システムを発動させ、病原 体の増殖 を積極的に抑制する機構を備えている。しかし、病原体の侵入から、抵抗性の 発動まで にかかわる過程についての詳細は、未だに解明されていない部分が多い。この 分野の進展を目的とし、本研究を遂行した。
植物の 病原体に対する抵抗性は、病斑形成とぃう過敏感細胞死を伴うことが多い。こ の細胞死 は、病原体の侵入をそれ以上広げないとぃった役割があり、戦略的な細胞死と 考えられ ている。シロイヌナズナのT‑DNA挿入変異体ライブラリーのスクリーニングに より恒常 的に過敏感細胞死が引き起こされる劣性の cadl (constitutively activated ceHーdeath´)変異体を単離した。病原体が感染した際に発現誘導されるPR遺伝子の発現が 恒常的に 観察されたことから、この変異体の形質は、植物免疫機構の過剰な活性化の結 果と推測 された。植物の抵抗性は、病原体の認識と共に植物ホルモンであるサリチル酸 (SA)の 上昇 が必 要 であることがこれまでの研究で明らかにされている。遺 伝学的な解 析から、cadl変異体の原因遺伝子甜田は、既存のSAシグナル伝達機構を介さない植物免 疫機構経路の活性抑制に機能することが示された。
CAD1遺伝 子は 、 新規のタンパク質をコードし、動物の免疫機構に関わる 補体やパー フォリン 夕゛ンパク質で保存されるMACPFドメインを有することが明らかになった。一般 に、これ らMACPFを有する遺伝子群は 、進化過程で共通のプロトタイプからパラログ成 分 を増 やす と同 時 に新たな機能を獲得してきたと考えられている。cadl変 異体の解析 から、シ ロイヌナズナにおける新たな植物免疫機構ならびに細胞死活性化抑制機構が解 明された 。さらに、MACPFドメインを 持つ遺伝子が、高等植物であるシロイヌナズナに おいても 免疫機構の制御に関与することを示し、生物界における自然免疫の進化・獲得 機構における研究に貢献した。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 山口淳二 副査 教授 山本輿太朗,
副査 助教授 池田 亮
副査 教授 田中 歩(低温科学研究所)
. ‑f rMolecular and Genetic Studies on Sugar Signaling during Shoot Development and Defense Activation Mechanism depend on Negative Regulator of Cell Death, CADl gene, in Arabidopsis̲i
(シ ロイヌナ ズナにお ける栄養成長期の糖応答機構と細胞死を負に制御する CAD1遺 伝 子 に 着 目 し た 植 物 免 疫 機 構 に 関 す る 分 子 遺 伝 学 的 研 究 )
植物は、発芽から開花結実まで移動することなくーつの場所で生息するため、動物に 比べより環境への適応能カが求められる。植物の環境適応メカニズムを研究し解明する ことは、生命現象の解明のみならず、農学的、環境学的にも重要な課題であり、今後、
植物の機能を有効利用し、人類や地球環境に役立てていくためにも必須と考えられる。
本論文は、シロイヌナズナの発芽時における糖応答機構と病原体が侵入した際に引き起 こされる植物の免疫機構とぃうニつの植物の環境適応現象に着目し、それらの分子機構 に関する遺伝学的解析を試みたものである。
シロイヌナズナの発芽時における糖応答の解析
シロイヌナズナの芽生えにおいて、本葉の展開を停止する休眠現象が観察されること がある。すなわち、シロイヌナズナの芽生えには、環境に応じて茎頂分裂組織(SAM)の 分裂活性を制御する機構の存在が想定される。植物細胞の分裂には、植物ホルモンの一 種であるアブシジン酸(ABA)と糖が拮抗的に作用することが知られている。本研究で は、シロイヌナズナにおいて糖の内生量低下がABAの生合成上昇を促進すると共に、SAM の分裂活性の低下を誘導すること明らかにし、発芽時の子葉の展開に続く形態形成過程 に おい て 、糖 とABAがSAMの 分裂 活 性 制御 に拮抗的 に作用す ることを示 した。
シロイヌナズナ糖高感受性変異体ghsl (glucose hyper‑sensitive1)の遺伝学的・生 理学的解析
糖シグナリング機構を明らかにするためシロイヌナズナの糖高感受性変異体ghs̲l
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(glucose hyper‑sensitive1)の遺伝学 的・生理学的解析を行った。野生株コロンビア は7%のグルコースを含んだ培地上にお いて本葉展開の阻害やアントシアニンの蓄積、
ク口口フイ ル合成の抑制などの糖応答を示す。これに対して、カ釘 変異体では5%以上 の グル コー スを 含ん だ培 地上でこれら の応答が観察された。原因遺伝子単離の結果、
GHS1遺 伝子 は色 素体30Sリ ボソ ーム タン バク 質S21をコ ード した 遺伝 子にT−DNAが挿 入されることで生じた劣 性変異体であることを明らかにした。この変異体において、1) RBCLとRBCSのタ ンパ ク量 の減少、2)光合成活性の減少、3)発芽初期における葉緑体 の 発達 障害 が観 察さ れた 。これらの結 果から、GHSI遺伝子は色素体のタンパク質合成 や光合成機能に関与する ことが示された。また、葉緑体機能と糖シグナリングとク口ス トーク機構の存在が示唆 された。
植物免疫機構活性化経路 の解明
免疫システムは、その 様式は様々であるが、生物界に広く保存された共通の生存戦略 である。一見、無抵抗の 植物さえも、その例外ではなく、固有の免疫システムを進化さ せてきた。高等植物は、 病原体の侵入に対して、様々な防御システムを発動させ、病原 体の増殖を積極的に抑制 する機構を備えている。しかし、病原体の侵入から、抵抗性の 発動までにかかわる過程 についての詳細は、未だに解明されていない部分が多い。この 分野の進展を目的とし、 本研究を遂行した。
植物の病原体に対すぢ 抵抗性は、病斑形成とぃう過敏感細胞死を伴うことが多い。こ の細胞死は、病原体の侵 入をそれ以上広げないとぃった役割があり、戦略的な細胞死と 考えられている。シロイ ヌナズナのT―DNA挿入変異体ライブラリーのスクリーニングに よ り恒 常的 に過 敏感 細胞 死が 引き 起こ され る劣 性のcadl(constitutively activated cel ‑dea thの変異体を単離した。病原体が感染した 際に発現誘導されるPR遺伝子の発 現が恒常的に観察された ことから、この変異体の形質は、植物免疫機構の過剰な活性化 の結果と推測された。植 物の抵抗性は、病原体の認識と共に植物ホルモンであるサリチ ル 酸(SA)の 上昇 が必 要であることが これまでの研究で明らかにされている。遺伝学的 な解析から、cadl変異体 の原因遺伝子CAD1は、既存のSAシグナル伝達機構を介さない植 物免疫機構経路の活性抑 制に機能することが示された。
CAD1遺伝子は、新規の タンパク質をコードし、動物の免疫機構に関わる補体やパーフ ォリンタンパク質で保存 されるMACPFドメインを有することが明らかになった。一般に、
これらMACPFを有する遺伝子群は、進化過程で共通の プロトタイプからバラログ成分を 増やすと同時に新たな機 能を獲得してきたと考えられている。cadl変異体の解析から、
シ ロイ ヌナ ズナ にお ける新たな植物 免疫機構ならびに細胞死活性化抑制機構が解明さ れた。さらに、MACPFドメインを持つ遺伝子が、高等 植物であるシロイヌナズナにおい ても免疫機構の制御に関 与することを示し、生物界における自然免疫の進化・獲得機構 における研究に貢献した 。
これらの研究業績により、著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格 があるものと認める。
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