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学位(博士-甲)論文審査結果の要旨

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Academic year: 2021

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氏 名 ・(本籍) 富樫 俊太郎(秋田県)

専 攻 分 野 の 名 称 博士(医学)

学 位 記 番 号 医博甲第 935 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 29 年 3 月 22 日

学 位 授 与 の 要 件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研 究 科 ・ 専 攻 医学系研究科医学専攻

学 位 論 文 題 名 High dose of antibiotic colistin induces oligomerization of molecular chaperone HSP90

(抗多剤耐性菌抗菌薬コリスチンのHSP90凝集誘発作用及び 神経毒性との関連)

論 文 審 査 委 員 (主査) 教授 廣川 誠

(副査) 教授 三浦 昌朋 教授 南谷 佳宏 Akita University

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学 位 論 文 内 容 要 旨

論 文 題 目

High dose of antibiotic colistin induces oligomerization of molecular chaperone HSP90

( 抗 多 剤 耐 性 菌 抗 菌 薬 コ リ ス チ ン の HSP90 凝 集 誘 発 作 用 及 び 神 経 毒 性 と の 関 連 ) 申 請 者 氏 名 富 樫 俊 太 郎

研 究 目 的

近 年 , 多 剤 耐 性 菌 の 出 現 に よ る 院 内 感 染 の 拡 大 が 社 会 問 題 と な っ て い る . Colistin( Polymyxin E) は ポ リ ミ キ シ ン フ ァ ミ リ ー に 属 す る 抗 菌 薬 で , 2015 年 3 月 に 新 規 抗 多 剤 耐 性 抗 菌 薬 剤 と し て 国 内 販 売 が 認 可 さ れ た . 特 に グ ラ ム 陰 性 桿 菌 に 対 し て 有 効 と さ れ る も の の , 神 経 毒 性 や 腎 毒 性 等 の 重 篤 な 副 作 用 を 有 す る こ と が 報 告 さ れ て い る .Colistin の 副 作 用 発 現 機 序 は ,未 だ 解 明 さ れ て い な い .今 回 , Colistin の 神 経 毒 性 を 解 明 す る 目 的 で ,Colistin 結 合 タ ン パ ク 質 を 解 析 し た 結 果 , 熱 シ ョ ッ ク タ ン パ ク 質 ( HSP) 90 が 主 要 結 合 タ ン パ ク 質 で あ る こ と が 判 明 し た . HSP90 は ATP 依 存 性 分 子 シ ャ ペ ロ ン で あ り ,特 に 中 枢 神 経 系 に 多 く 存 在 す る .HSP90 は , 細 胞 機 能 を 維 持 す る た め の 必 須 タ ン パ ク 質 の 一 つ で あ り , ク ラ イ ア ン ト タ ン パ ク 質 は 数 百 に も の ぼ り , 細 胞 内 シ グ ナ ル 伝 達 系 に お い て 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る . Colistin と HSP90 と の 相 互 作 用 の 結 果 , 重 篤 な 神 経 毒 性 が 誘 発 さ れ る と い う 仮 説 を 立 て , 分 子 レ ベ ル で の 発 現 機 序 を 解 析 し た .

研 究 方 法

Colistin ア フ ィ ニ テ ィ ー カ ラ ム を 作 製 し ,in vitro に お い て , ブ タ 脳 可 溶 性 画 分 を 添 加 し , Colistin の 濃 度 勾 配 に よ り 結 合 タ ン パ ク 質 を 溶 出 し , SDS-ポ リ ア ク リ ル ア ミ ド ゲ ル 電 気 泳 動 (SDS-PAGE)で Colistin 結 合 タ ン パ ク 質 を 解 析 し た .同 時 に ,抗 HSP90 抗 体 を 用 い て immunoblot を 行 っ た .コ ン ト ロ ー ル と し て ,ア ミ ノ 酸 が 1 分 子 異 な る だ け で 副 作 用 の 報 告 さ れ て い な い Polymyxin B を 用 い て , 同 様 の 実 験 を 行 っ た .Colistin 存 在 下 ,及 び 非 存 在 下 に お け る HSP90 の ATPase 活 性 ,お よ び シ ャ ペ ロ ン 活 性 を 測 定 す る こ と で , HSP90 の 生 理 機 能 に 及 ぼ す Colistin の 影 響 を 解 析 し た .HSP90 の シ ャ ペ ロ ン 活 性 測 定 は ,熱 に 最 も 不 安 定 な タ ン パ ク 質 の 一 つ で あ る ク エ ン 酸 合 成 酵 素 ( CS) の 熱 凝 集 抑 制 効 果 を 解 析 し た . ま た , HSP90 の Colistin 結 合 ド メ イ ン を 同 定 す る た め , HSP90 の 各 ド メ イ ン( N-,M-,お よ び C- ド メ イ ン ) を 発 現 , 精 製 し , 各 ド メ イ ン を 用 い た シ ャ ペ ロ ン 活 性 測 定 に よ り , 結

合 ド メ イ ン を 同 定 し た .In vivo に お け る Colistin の 神 経 細 胞 に 及 ぼ す 影 響 は , ヒ ト 神 経 芽 細 胞 腫 株( SHSY5Y)細 胞 を 用 い て 行 っ た 。Colistin 単 独 ,ま た は Colistin と ATP 添 加 時 に お け る 細 胞 生 存 率 を 解 析 す る と と も に , HSP90 の 凝 集 塊 形 成 は , フ ィ ル タ ー ト ラ ッ プ ア ッ セ ィ ー を 用 い て 解 析 し た .

研 究 成 績

SDS-PAGE の 結 果 よ り , Colistin 結 合 タ ン パ ク 質 の う ち , 高 濃 度 Colistin に よ っ て 溶 出 さ れ た タ ン パ ク 質 は 90kDa 付 近 に 明 瞭 な バ ン ド が 確 認 さ れ , 抗 HSP90 抗 体 を 用 い た immunoblot に よ り ,Colistin 結 合 タ ン パ ク 質 は HSP90 で あ る こ と が 判 明 し た . 一 方 , Polymyxin B 結 合 タ ン パ ク 質 は Colistin と は 異 な り , immunoblot に お い て , 抗 HSP90 抗 体 と の 交 叉 反 応 は 確 認 で き な か っ た . 以 上 の 結 果 か ら , Colistin は HSP90 と 高 親 和 性 を 有 し , 特 異 的 結 合 タ ン パ ク 質 で あ る こ と が 判 明 し た .HSP90 の ATPase 活 性 は ,Colistin の 濃 度 を 変 化 さ せ て も 有 意 な 変 化 は み ら れ ず ,Colistin は HSP90 の ATPase 活 性 に 影 響 を 及 ぼ さ な い こ と が 示 唆 さ れ た .シ ャ ペ ロ ン 活 性 測 定 で は ,Colistin が HSP90 の N-ド メ イ ン に 結 合 し て 凝 集 が 誘 発 さ れ る こ と , さ ら に 同 一 条 件 下 で ATP を 添 加 す る こ と に よ り HSP90 の 凝 集 が 軽 減 さ れ る こ と が 判 明 し た . SHSY5Y 細 胞 に Colistin の み を 添 加 し た 場 合 , Colistin 濃 度 の 上 昇 に 伴 い 細 胞 生 存 率 が 低 下 し , Colistin 濃 度 300M か ら は 有 意 に 細 胞 生 存 率 が 低 下 し た . 一 方 , Colistin 濃 度 300M の 条 件 下 に お い て , ATP を 細 胞 に 事 前 投 与 す る こ と に よ り , 細 胞 生 存 率 の 上 昇 が み ら れ た . 特 に ATP 濃 度 100µM で 最 も 細 胞 生 存 率 が 上 昇 し た .

結 論

Colistin 特 異 的 結 合 タ ン パ ク 質 は 分 子 シ ャ ペ ロ ン HSP90 で あ り , 高 親 和 性 で あ る こ と が 判 明 し た .さ ら に Colistin が HSP90 の N-ド メ イ ン に 結 合 し て 凝 集 を 誘 発 し , 生 体 内 の HSP90 シ ャ ペ ロ ン 活 性 を 必 要 と す る 多 数 の タ ン パ ク 質 が 不 安 定 状 態 に 陥 り , 結 果 と し て 神 経 毒 性 を 誘 発 す る こ と が 示 唆 さ れ た . Colistin 存 在 下 に お け る HSP90 の ATPase 活 性 に 有 意 な 変 化 は み ら れ な か っ た が , ATP は HSP90 の シ ャ ペ ロ ン 活 性 に 及 ぼ す 影 響 を 軽 減 し 得 た . SHSY5Y 細 胞 に お い て も , ATP は Colistin 添 加 時 に お け る 細 胞 生 存 率 を 上 昇 さ せ た . HSP90 N-ド メ イ ン に は ATP 結 合 領 域 が 存 在 す る が , HSP90 の Colistin 結 合 部 位 は ATP 結 合 部 位 と は 完 全 に は 一 致 し な い も の の , 近 傍 に 存 在 す る こ と が 示 唆 さ れ た . Colistin の 結 合 に よ り HSP90 の 凝 集 が 誘 発 さ れ る こ と で ,HSP90 の シ ャ ペ ロ ン 活 性 を 必 要 と す る 数 多 く の ク ラ イ ア ン ト タ ン パ ク 質 に 大 き な 影 響 を 及 ぼ す が ,ATP が 結 合 す る こ と に よ り HSP90 の 構 造 変 化 が 生 じ , HSP90 の 凝 集 形 成 が 阻 害 さ れ , 結 果 と し て SHSY5Y 細 胞 の 生 存 率 が 上 昇 し た と 推 測 さ れ た .至 適 用 量 の Colistin と ATP 製 剤 を 併 用 す る こ と で ,多 剤 耐 性 菌 感 染 症 の 治 療 に 貢 献 す る と と も に , 副 作 用 を 軽 減 で き る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た .

Akita University

(3)

学位(博士-甲)論文審査結果の要旨

主 査: 廣川 誠

申請者: 富樫 俊太郎

論文題名: 英文(和訳)High dose of antibiotic colistin induces oligomerization of molecular chaperone HAP90 (抗多剤耐性抗菌薬コリスチンのHSP90凝集誘発作用及び 神経毒性との関連)

要旨

多剤耐性菌による難治性感染症は日本においても迫りくる脅威であり、その治療と予防は 喫緊の課題である。コリスチン(ポリミキシンE)はペプチド系抗生物質のひとつで、多剤 耐性グラム陰性桿菌に対する最後の砦として 2015 年にわが国でも販売承認された抗菌薬で あるが、重大な有害事象として腎機能障害および神経系障害が良く知られている。申請者は コリスチンの神経系障害のメカニズムを明らかにすること、さらに神経系の有害事象に対す る予防策を開発することを目的として、大動物の神経組織よりコリスチンの標的分子の同定 を試み、またヒト神経系細胞に由来する細胞株を用いてコリスチンの細胞毒性の機序を生化 学的に解析した。

コリスチンを固相化したアフィニティカラムによりコリスチンの結合蛋白を生成し、その 分子量ならびにイムノブロット法によりHSP90がその標的分子であることを明らかにした。

コリスチンは 50~100M の濃度ではブタ脳由来 HSP90 ATPase 活性およびシャペロン 機能に対して抑制作用を示さなかったが、高濃度(5mM)のコリスチンはHSP90分子の凝 集を誘導した。リコンビナント HSP90 蛋白を用いた解析により、コリスチンの結合部位は

N-ドメインであることが判明した。コリスチンによるHSP90の凝集はATPの添加により抑

制された。ヒト神経芽細胞腫由来細胞株の生存率はコリスチンの添加により減少し、外来性 ATP添加により回避されることが示された。

本論文の斬新さ,重要性,実験方法の正確性,表現の明瞭さは以下の通りである。

1) 斬新さ

哺乳類におけるコリスチンの標的分子が HSP90 であることを直接的に調べたのは本研究 が初めてである。

2)重要性

本研究はコリスチンの標的分子が HSP90 であることを明らかにしただけではなく、

HSP90 がシャペロンとして蛋白の成熟に関わっている多くのクライアント蛋白質の代謝に

影響を与える結果として神経細胞毒性が現れる可能性を示唆したこと、さらに外来性のATP を投与することによってヒト由来神経細胞株におけるコリスチンの神経細胞毒性が回避でき ること、そしてそのメカニズムは細胞内HSP90の凝集を抑制するためであることを示した。

これらの知見は、多剤耐性グラム陰性桿菌感染症に対する治療としてコリスチンが使用され る際に発生する有害事象をATPの投与により減ずることができる可能性を示唆しており、臨 床的にも極めて重要な知見と考えられる。

3)研究方法の正確性

蛋白質の精製および生化学的解析手法、リコンビナント蛋白の合成手法、細胞生物学的解 析方法は標準的かつ正確であり、結果の解釈ならびにディスカッションも適切である。

4)表現の明瞭さ

これまで明らかにされていなかったコリスチンの細胞毒性のメカニズムに関する学術的背 景と本研究の目的、研究方法,実験結果,考察を簡潔,かつ明瞭に記載していると考える。

以上より,本論文は学位を授与するに十分値する研究と判定された。

Akita University

参照

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