『枕草子』と『源氏物語』にお ける『白氏文集』
―― 感傷詩 を 中心に ――
張 培 華
要旨
『枕草子』と『源氏物語』における『白氏文集』の影響についての研究には、引用の視点一つをとっても多種多様な考察
がある。しかし、『枕草子』と『源氏物語』の両作品全体と『白氏文集』との関係や、その受容の温度差にまでふれたものに
ついては、管見の限り見えない。そこで具体的な引用の箇所を綱羅するだけでなく、その分析に取り組むことが、本稿の目
的である。結論的なことから言えば、清少納言と紫式部の両作品における『白氏文集』への好尚は歴然と分れていると言え
る。白居易は自らの作品を諷諭、閑適、感傷、雑律詩に四分類したが、その部類の観点で『枕草子』と『源氏物語』の両作
品を分析すると、『枕草子』の方が感傷詩の引用数が多いことがわかる。また感傷詩に分類される「長恨歌」は、『枕草子』
に一箇所引かれるのに対し、『源氏物語』では十二箇所の引用が指摘され、圧倒的に多い。さらに清少納言は『枕草子』の中
で、意識的に感傷詩の表現を借りて、父藤原道隆を失った定子の悲況を表し、定子自身も自ら感傷詩を念頭に置く詠歌を行
っていた。その結果、感傷詩が多くなったといえよう。このように、清少納言と紫式部の感傷詩の引用の差異に着目して、
両作品の性格の本質を考察することを試みる次第である。
一 はじ め に
清少納 言 と紫式 部 は、 『白氏 文 集 』 を そ れ ぞ れ 次 の よ うに記 し た。 まず 、清少納言は『枕草子 』 「 文 は」の章段 で 、
「 文 は 、 文集 。 文 選 。 新 賦 。 史 記 、 五 帝 本紀 。 願 文 。 表。 博 士 の 申 文。 」 と 、「 文 集 」 、 す な わ ち 『白 氏 文 集 』 を 挙 例の
冒 頭 に採 り上 げた 。 対 し て 、紫 式 部 は 『 源氏 物語 』「 須 磨 」で 、 「 また さ る べき 書 ど も 、 文集 など 入りた る 箱 、 さて は
琴 一 つぞ 持た せた まふ 。 」 と 、 須磨 への 旅 に 携 行 す る 書 物 に 『 白氏 文 集 』 を 加 え て い る。 当時の 『 白氏 文集 』 の 流 行 が
よく 分か る一 文 で ある。
とこ ろ で 、 清 少 納 言 と 紫 式 部 は 『 白 氏 文 集 』 の ど の 部 分を 好んで 引 いた の だ ろ う か。 白居 易は 自らの 作 品を 四 分 類
した 総集 を 残 した が 、 本稿で は こ の 指 標 を 利 用 し て 考 察 し て み た い 。
元 和 十 年 ( 八 一五)十 二月 、四十四 歳の 白居易は 、親 友の元 稹 (元 九)宛 て に極 め て 長文の 手 紙を 送った。これ が
いわ ゆ る 「 与 元 九 書 ( 元 九 に 与 え る 書 )」 の 名 文 で あ り 、 白 居 易の 文学 理 念 を 理 解 す るた め に 重要 な 文 献 と な っ て い る。
こ の 手紙の後半 で は、白居 易は自ら の詩 歌の内容を諷 諭、閑適 、感 傷、雑律 詩の 四つに分類した。
その 後、 長慶 四 年 ( 八 二四 )十二月 、四 十六歳の 元 稹 が、白居 易の 詩 文 二千 一百 九十 一首 を集 め て 、初 め て 五十 巻
の総 集 『 白氏長慶 集 』 を編纂した際に も 、 白 居易 の詩の四分類 に従 って 分 類 し て い る 。 す な わ ち 前 半二 十巻の詩 歌は 、
諷諭(第 一 ~ 四巻) 、 閑適( 第 五 ~ 第八巻) 、 感 傷( 第九~第十二 巻) 、雑律詩( 第 十三~二十巻)の構成 で あ る 。
( 1)
この 『 白 氏文集』 の四 分 類 を指標 と し て 、『 枕草 子』 と 『 源 氏 物語』 に 引 か れ る 『白氏文 集 』 の詩句 が 、 ど の 部 分 に
属 す のかを考え て み た い 。 ま ず 、 先 学 で 指摘 さ れ た『枕草 子』と『源 氏 物 語 』にお け る『白氏 文 集 』 の 引 用 の 箇 所を
総覧 とし、分析 を 試 み る 。
( 2)
結論 から先に言え ば 、 『 枕草子』に は 感傷詩が 多いと言える 。また感傷詩に分類される長 恨 歌は、 『 枕草 子 』 には 一
箇所だけ 引用 され るが 、 『 源氏 物語』で は 十 二箇所で 引用されて い る。こ の 点 か ら も 、両作品の 特 質の差 と して 、 『 白
氏文 集 』 における「感 傷詩 」の扱わ れ 方 が顕著に 表 れ て い る こ とがわかる(こ の 点は本稿の後 半 で 考察 し た い) 。
『白氏文集 』 に関する 研究 は、下定雅弘 が「白居 易の 詩に関す る研 究は数多 いが 、感傷詩 につ い て は、ほと んど 論
じられたこ と がない。
( 3)
」と 言 わ れ る よ う に、 まだ まだ 問題 を残し て いる よう であ る。そ こ で、 本稿 で は 「 感 傷詩 」 の
引用のさ れ 方 を 中 心に 、 『 枕 草 子 』 と 『 源 氏 物語 』 の 性 格 を 考 察 す る 。
二 『枕 草 子 』 と 『 源 氏物 語』 に お ける『 白 氏文集』 総 覧
総 覧 で は 、 上 の二 段は 『枕 草子 』 に おけ る 『 白氏 文集 』 の 引用の 箇 所で あり 、 下 の 二 段は 、『 源氏 物語 』 に おけ る 『 白
氏文 集』 の 引 用の箇所で あ る 。『枕草子』 と 『源 氏物語 』 本文 は、 新編日本 古 典 文学全 集 に よ る 。『白氏文 集』 本文は、
『白居易集箋 校 』( 上 海 古籍 出 版 社) により、 訓読 文は 新釈漢文 大系 による 。 『枕草子』段数と『 源 氏物語 』 巻 名 及び
ページ数を記 し た 。また白 詩の巻数 、タ イトルと 順番の数字 を 、「 ○ 枕 」と「 源 」 の 下 に 示 し た。
(4)
『枕 草 子 』
【一】春はあ
けぼの。や うや う し ろ く なり ゆく 山 ぎは、す
こ し あかり て
、 紫だ ちたる 雲 の ほ そ く た なびき た る。
夏は
夜
よる。月の こ ろはさ らな り
。 闇
やみもな ほ、
蛍
ほたる
の
おほ く飛びち
がひ た る
。 また
、 た だ 一 つ 二 つなど、
ほのかにう
ち 光り て 行 く もをか し
。 雨 など降 る も をかし
。 秋は
夕暮
ゆふぐれ。夕 日 の さし て山 の端
は
いと近うなりた るに、
烏
からす
のねど こ ろへ行 くと て
、 三つ四つ、二つ
『白氏 文 集 』
巻三十一雑律
○ 枕
1早春憶蘇州
吳
苑四時風景
好 就中偏 好是春 天 霞光 曙後殷於
火 水色晴來嫩似
煙 巻二十六雑律
○ 枕
2秋思 夕照紅於燒 晴空 碧勝 藍 獸形雲不一 弓勢月初
三
『源 氏物 語』
【桐 壷
】
( 前 略)
ある時に は、大殿
おほとの
籠
ごもりすぐし
てや がて さ ぶ ら は せ た まひ な ど、あなが
ち に御前
おまへ
さら ずも て な させたま
ひ し ほ どに
(一 九頁)
たづねゆく
ま ぼろ しも がなつ て に て も魂
たま
のあり かを そ こ と知 るべく 絵 に
描
かけ る
楊 貴 妃 の
やうきひ容貌
かたち
は、いみじ
き 絵師
ゑし
と
いへども
、筆 限りありけ ればいとに
ほ ひ す くなし
(三五
頁
)
『白氏 文 集 』
巻十二感傷 源1 長 恨 歌 春宵 苦短日高
起 從此君王不早朝 承歡侍宴無閒暇 春從春遊夜專
夜 源2 長 恨 歌 臨邛道士鴻
都 客 能以精誠
致魂 魄 為感君王展轉
思
遂教方士殷勤覓
三つな ど 飛び いそ ぐさへ あはれ な り。
まい て
雁 な
かりどのつらねた
るが、いと 小さく見
ゆるは、いとを かし
。日入
い
り果 てて
、風 の音
おと
、虫 の
音
ねなど、はた 言ふべき
にあらず。
冬はつとめ
て
、雪 の降 りた るは言ふ
べき にも あ らず
、霜のい
と白きも、
ま た さ ら でもい と 寒 きに、
火などいそぎ
お こ し て
、
炭持
すみも
てわたるも、いとつ きづき し
。昼 になり て
、 ぬる くゆ る び も て い け ば
、
火
ひ桶
をけの火 も、
白 き
灰
はひがち になり て わろ し
( 二六頁
)
雁思來天北 砧愁滿 水 南 蕭條秋氣味 未老 已 深 諳
○ 枕 巻十感傷 3送兄弟迴
雪 夜 夜長火 消 盡
歲
暮雨凝結 寂寞滿 爐 灰 飄零 上階雪 對雪畫 寒 灰 殘燈明復
滅 灰死如我心 雪白如 我 髮
太
たい液
えき芙蓉
のふよう、 未
央
びあうの
柳
やなぎも、
げ にか よ ひ た り し容貌
かたち
を、
唐
からめいた る よそひ は うる はしう こ そありけめ
( 中
翼
はね 略)をな ら べ
、 枝 をかは さ むと契
ちぎ
らせたまひ
し に、
かな は ざ りける 命 の ほ ど ぞ 尽 き せ ず う ら め し き
(三五
頁
)
灯火
ともしびを挑
かか
げ尽くし
て 起 き おは します。
右近
うこん
の 司
つかさの
宿
との直奏
ゐまうしの声聞 こ ゆるは、
丑
うしになり
(中略)
明くるも 知らで と 思 し 出づ るにも
、 な ほ
朝 政
あさまつりごとは 怠 ら せ た まひ ぬ べ か め り
(三六頁
)
源3 長 恨 歌 歸來池苑皆依舊 太液芙蓉未央
柳 芙蓉如 面 柳如 眉 對此 如何不淚垂 源4 長 恨 歌 在天 願作比翼
鳥 在地 願為連理
枝 天長地久有時
盡 此恨綿綿無
絕
期
源 5 長 恨 歌 孤燈 挑 盡 未成眠 遲遲鐘鼓初長夜 源6 長 恨 歌 春宵 苦短日高
起
從此君王不早朝
【三 五】木の
花 は
(中略)
心も と な うつき た めれ
。
楊
やう貴
き妃
ひの、
帝
みかどの御
使
つかひに
会ひ て
、 泣き け る 顔に似 せて
、 「
梨花
りくわ一枝
いつし
、
春
はる、 雨
あめを帯 びたり
」 な ど 言 ひ た るは、おぼろ
けならじと 思ふに、なほ
いみじうめ でた き事 は、たぐ
ひ あ ら じとおぼえた
り
(八 七 頁
)
桐
きりの木 の花、
紫 に咲 きた るは、なほを
か し き に
、 葉 の ひろごりざまぞう
た てこちたけ
れ ど
(中略)
ま
いて
琴
ことに作り て
、さまざ まなる音
ね
の出
い
で来
く
るなど は、
をかしなど
(八 八 頁
)
巻十二感傷
○ 枕
4長 恨 歌 玉容寂寞淚闌
干 梨花 一枝春 帶 雨 巻十四雑律
○ 枕
5江 岸 梨 花 梨花有思緣和
葉 一樹江 頭 惱 殺 君 最似孀 閨 少年 婦 白妝 素袖碧紗裙
○ 枕 巻二諷諭 6答桐花 截為天子琴 刻作古人形 況此 好 顏 色 花紫 葉青青
【帚 木
】
( 前 略)
おのづ
か ら軽
かろ
き方
かた
にぞおぼ
えはべ るか し。
繋
つながぬ舟の泛
う
き
た る
例
ためしも げ に あ や な し
(六 八 頁
)
親聞 きつ け て
、酒杯
さかづき
もて
出
いでて
、『
わ が
両
ふたつの途
みち
歌
ふを聴
き
け』となむ聞
こ え ごち はべりしかど、をさ をさう ち とけて
(八 五 頁
)
【 夕 顔
】 白 栲
しろたえ
の 衣
ころもう つ
砧
きぬたの 音 も、
かすかに、
こ なた か な た 聞 きわ た さ れ
、 空とぶ
雁
かりの声とり集め
て 忍び がたきこ
と 多 か り
。
端
はし近き 御 座 所
おましどころ
なりけれ
ば
、
遣戸
やりど
を引 き
(一 五六頁)
巻三十六半格 源 7 偶 吟 無情 水任方圓器 不繫舟 隨 去住 風 巻二諷喩
源8 議 婚 四座且勿飲 聽我 歌兩 途 巻十九雑律 源9 聞 夜 砧 誰家思 婦 秋擣 帛 月苦風淒砧杵悲 巻三十三雑律
源
10酬夢得霜
夜對月
月帶
新霜色
碪和遠雁聲
【 四 七
】
職
しきの 御 曹 司
みざうし
の
西面
にしおもて
の立
たて
蔀
じとみのも と に て
(中略)
「わがもとの
心 の
本性
ほんじやう
」 と
の み の た ま ひ て
、
「改 ま ら ざるものは心な り」
とのたま
へば
、「
さ て
『はばかりな
し』とは、
何を 言 ふ にか
」 と あや し がれ ば
、 笑ひ つ つ
(一
〇六
【七七
頁)】
御仏名
みぶつみやうのまたの
日
(中略)
ひと わ た り 遊 び て、
琵 琶
弾
ひきや み た る ほ どに、大納言
殿
、 「 琵琶
、 声や んで
、物 語せむ と す る事おそし」
と誦
ず
した ま へりしに、隠れ
臥 し た り しも起き
出 で て
(一 三 四 頁)
○ 枕 巻六閑適 7詠 拙 所稟有巧
拙 不可改 者 性 巻十一 感 傷
○ 枕 8同 韓 侍 郎 遊 鄭 家 池 齒髮雖已衰 性靈未云改 巻十二感傷
○ 枕
9琵 琶 引 忽聞水 上 琶琵 聲 主人 忘歸客不發 尋聲暗問彈者
誰 琵琶聲停欲語
遲
(中略
)
いとあ
は れ に
、
朝
あしたの露に こ とならぬ世
を
、 何をむ さ ぼ る 身 の 祈 り に かと聞 き たまふ
(中略)
長生
ちやうせい
殿
でんの古 き
例
ためしはゆゆ しくて
、
翼
はねをかはさ
むと はひ き か へて
、 弥
勒
みろくの世 をかねたまふ
(中略
)
夜半
よなかも過ぎに
け んかし
、 風のやや
荒々 しう吹 き た るは
。まし て 松 の響 き
木
こ深
ぶかく聞 こ え て
、
気色
けしき
ある 鳥のから声に
鳴きた る も
、
梟
ふくろふはこ れ に や と お ぼ ゆ。
( 中略
恋しく
)て
、 「
正
まさに長 き夜
」とう ち
誦
ずむじて
臥
ふし
たまへり
(一 八九頁)
巻二諷諭
源
11不致 仕 朝露貪名利 夕陽 憂子 孫 巻十二感傷
源
12長恨歌 七月七日長生
殿 夜半無人私語
時 巻一 諷諭
源
13凶宅 梟鳴 松桂 枝 狐藏蘭菊叢 蒼苔黃葉
地 日暮 多旋風 巻十九雑律
源
14聞夜砧 八月九日正長
夜
【七八
】 頭
とうの
中将のすずろ なるそら
言
ごとを聞 き て
、
(中 略)
炭 櫃
すびつに、消 え
炭
ずみのあ るし て
、 「草の
庵
いほりを誰
たね
か
たづねむ」と
書き つけ て 取らせ つ れ ど
、 ま た
返事
かへりごと
も言はず
(一 三 六頁)
【七九】返る
年の二月二 十 余
日
よひ( 中 略
)
宰相
さいしやう
の 君 の、
『
瓦
かはらに松は あ りつる や』
とい ら へ たる に
、 い みじうめ
でて
、 『 西の
方 、
かた都門を 去 れ る 事 い くば く の地ぞ』と
口 ずさみつる こと
」な ど
、 かし が ま し きま で言 ひ し こ そ
、 を か しか り し か
(一四五
頁
)
巻十七雑律
○ 枕
10廬山草堂夜雨
獨 寄 牛二 李 七 庾三 十二 員外 蘭省 花時錦帳下 廬山雨夜草庵
中
○ 枕 巻四諷諭 11驪宮高 翠華不來
歲
月久 牆有衣 兮 瓦有 松 吾君在 位 已五載 何不一幸乎其
中 西去都 門 幾多 地 吾君不 遊 有 深 意
【末摘花】
( 前 略
)
琴
きんをぞ なつかし
き語ら ひ 人と思 へる
」 と 聞 こ ゆ れ ば、
「三 つの 友に て
、 いま
一
ひとくさ や う た て あ ら む
」 と て
、
「 我に聞かせ
( 二 六 六頁)
幼
わかき者は形
蔽
かくれず」とう ち誦
ず
じたま
ひ て も
、鼻の 色に出 で て い と寒 しと見 えつる御面影ふと思
ひ 出 でら れ て
、 ほ ほ笑
ゑ
まれ た まふ
(二 九七 頁
)
【紅葉賀
】
( 前 略)
すこ し 心づき な き
。 鄂
州
がくしうにあり けむ 昔の 人も か く や を か しか り け む と
、耳とまり て聞 き た ま ふ
(三四〇頁)
巻二十九格詩
源
15北窗三友 欣然得 三 友 三友 者為誰 琴罷輒舉酒 酒罷輒吟詩 巻二諷諭
源
16重賦 幼者形不蔽 老者 體無溫 悲喘與寒氣 并入鼻中辛 巻十感傷
源
17夜聞歌者
江月秋
澄
澈
鄰船
有歌者
【九〇】
上
うへの御
局
つぼねの御
簾
みすの前に て
(中略)
「な か ば 隠し たりけ む
、えかくは あらざ り けむ か し
。 あ は れ
(中略)
笑はせたま
ひ て
、
「別 れは知りたりや」と なむ 仰 せ ら る るも
、 い と をかし
(一 七八頁)
【九三
】 あさ まし き も の さし
櫛
ぐしすり て み がくほど に、物につ
き さへ て 折 り たる心
地
ここち(一 八二頁)
【九六】
職
しきにおはします ころ
(中略
)
「た だ秋の月 の心 を見は べ るな り
」 と 申せば
、
「さも言
ひ つ べ し」
と仰 せ
(一九
四 頁
)
巻十二感傷
○ 枕
12琵琶引 醉不成歡慘
將 別 別時茫茫
江浸 月 千呼萬喚始出來 猶抱 琵琶半遮面
○ 枕 巻四諷諭 13井底引銀缾 石上磨 玉 簪 玉簪欲 成 中央 折 巻十二感傷
○ 枕
14琵琶引 東舟 西舫 悄無 言 唯見江 心 秋月 白
【葵】
(前略
)
「旧
ふる
き枕故
ふる
き 衾
ふすま、 誰
たれと共にか
」 と あ る所 に
(六 五 頁
)
【賢木】
(前略)
十六に て
故宮
こみや
に参りた
ま ひ て
、 二 十に て
後
おくれた
(中略)
階
はしの
底
もとの薔薇
さうび
けし きばか り 咲 きて
、春秋の
花 盛 り よ り もしめ や かに
(一四
一 頁)
【須磨
】
(前略)
またさ る べき
書
ふみども、文集
な ど入 りた る箱、さて
は
琴
きん一つ ぞ持 たせたまふ
(中略)
来
こし
方
かたの 山 は
霞
かすみは る か に て、
ま こ と に 三 千 里 の
外
ほかの心 地するに、
櫂 の 雫 も
かいしづくたへがたし
(一八
七 頁
)
巻十二感傷
長恨歌
源
18 鴛鴦瓦冷
霜華 重 翡翠衾寒
誰與 共 巻三諷諭
上陽白髮
人
源
19 玄宗 末
歲
初選入 入時十六今
六 十 巻十七雑律
薔薇正 開
源
20 甕頭竹葉經春熟 階底薔薇入夏開 巻四十三記序
草堂記
源
21 堂中木榻四 素屏二
漆琴一張 儒 道 佛 書 各 三 两
巻
巻十三雑律
源
22 冬至宿楊
梅館 十一 月中長 至 夜 三千里外
遠行
人
【一〇二】二
月つ ごもり ごろ に
(中略)
すこ し 春 あ る心地
ここち
こそ す れ とあ る は
、
(中略)
空
そら寒
さむみ花 にまがへ て散 る 雪 に と
、 わ な な く わ な なく書き
て 取らせ て
、 いか に思ふ
(二 一
〇 頁
)
【一三七】
殿
とのなどの お は しまさで
後
のち(中 略)
御前の 草の いと しげきを
、『な どか。かき
は らはせてこ そ』と言
ひ つ れば
、『
こ とさら 露 置か せ て 御覧ず とて
』 と
(中略)
台の前に 植ゑ られ た り け る 牡
丹
ぼうたな
どの、をか
し き 事
」 な ど のたまふ
(二六
一 頁
)
巻十四雑律
○ 枕
15南秦雪
往
歲曾為西邑吏 慣從駱 口 到南秦 三時 雲冷多飛
雪 二月山寒
少有 春 巻九
感傷
○ 枕
16秋題牡丹叢 晚叢白露夕 衰葉涼風朝 紅豔久 已 歇 碧芳今 亦 銷 幽人坐相對 心事共蕭條
枕
まくらをそ ばだ て四
方
よもの 嵐
あらしを聞 きたま ふ に、
波 た だ ここ もとに
(一九
九 頁
)
雁
かりの連
つら
ねて 鳴 く 声
楫
かぢの音
おと
にまがへるを
、う ち な が めた まひ て
(二
〇 一 頁
)
「二
じ
千里外
せんりのほか故人心
こじんのこころ
」 と
誦
ずじたまへる、
例の涙もと どめ ら れ ず
(二
〇 二 頁
)
竹編
あ
める垣
かき
しわ た し て
、 石の階
はし
、松 の柱
、お ろ そ かなる も のからめ
づらか にを か し
(二 一三頁
)
酔
ゑひの 悲 し び涙
灑
そそく春の
盃
さかづきの裏
うち
」ともろ
声 に
誦
ずじたまふ。
御
供
ともの人 も涙 をな が す
(二 一五 頁
)
巻十六雑律
重題
源
23 遺愛 寺鐘欹枕
聽 香爐峰雪撥簾
看 巻二十四雑律
河亭晴望
源
24 晴虹橋影
出 秋雁櫓聲來 巻十四雑律
八月十五日
源
25 三五 夜中新月色 二千里外故人
心 巻十六雑律
香爐峰下
源
26 五架 三 間 新 草 堂 石階 桂柱竹 編 牆 巻十七雑律
十年 三月
源
27
醉悲灑
淚
春杯裏
吟苦支頤曉燭前
【一五五】故
こ
殿
とのの御
服 の
おんぶくころ
(中略)
宰相
さいしやうの
中将斉
ただ
信
のぶ、宣
方
のぶかたの中 将、道方
みちかた
の
少納言などま
ゐりたまへ るに、人々出でて
物など 言 ふ に
、 つ い で も な く
「 明
日
あすは い か な る 事 を か」と言ふに
、いささか 思ひ ま は し
、 と ど こ ほ り もな く、
「人間 の 四月 を こそ は
」 と い ら へ た ま へ るが、いみじ
うをか し き こそ
。 過 ぎ に た る 事 な れ ども、
心 得て 言ふは、
誰 も
たれをかし き
中
なかに、女など
こ そさや う の 物 忘れ はせね
、
男
をとこはさしも
(二八
五 頁
)
巻十六雑律
○ 枕
17大林寺桃花 人間四月芳菲
盡 山寺桃花始盛開 長恨春歸無覓
處 不知轉入此中來
【明石】
(前略)
商人
あきびとの中
にて だ に こ そ 、 古 ご と 聞
きは やす人 は
(二 四 三 頁
)
【絵 合
】
(前略)
昔の 御髪
かむ
ざし の端
はし
をい さ さ か折 り
て
(三八
四 頁)
【朝 顔
】
( 前 略
)
「 鎖 の
じやういといたく
錆
さびに け れ ば
開
あかず」
と
愁 ふ
うれ(四八
一 頁
)
【少女】
(前略)
風の音の 竹に待 ち とられて
う ち そ よめくに、雁
かり
の鳴 きわた る声のほのか
に
(四八頁
)
【玉鬘】
(前略
)
「胡
こ
の地 の妻児
せいじ
をば
虚
むなしく 棄 て
捐
すてつ
」 と
誦
ずずる を、
兵部 の君聞 き て
(一〇
一 頁
)
巻十二感傷
琵琶引
源
28 年長色衰 委身為 賈 人婦 巻十二感傷
長恨歌
源
29 釵留一 股 合 一 扇 釵擘黃金合
分 鈿 巻二十三雑律
贈皇 甫
源
30 騎少 馬 蹄 生 易 蹶 用稀 印鎖澀難
開 巻十九雑律
七言十二句
源
31 風生 竹夜窗間臥 月照松 時 臺 上 行 巻三諷諭
縛戎 人
源
32 胡地 妻兒 虛 棄 捐 沒蕃被囚思漢
土
【一七五】村上
むらかみ
の先帝
せんだい
の
御時に
(中略)
月のいと明 かき に「こ れ に歌 よめ。
いか が言ふべ
き
」 と
、 兵衛
ひやうゑの蔵
人
くらうどに給はせた
り け れ ば、
「雪
ゆき
月花の時」と奏 した り け るを こ そ
、 い み じうめ で させたま
ひ け れ
(三〇
五 頁)
【二三 七
】 雲 は 白 き
。 紫。
黒き もをか し
。 風 吹くを りの雨雲
あまぐも
。明 け は な る る ほどの黒
き雲の、
やう や う消 えて
、 し ろ う なり
行
ゆくも、
い とを か し
。 「
朝
あしたにさる色」と
かや
、
文 に
ふみも作 り た なる
(三七
二 頁)
巻二十五雑律
○ 枕
18寄殷協
律 琴詩酒伴皆
拋
我
雪月花 時 最憶 君 巻十二感傷
○ 枕
19花非 花 花非 花 霧非霧 夜半來
天明去 來如 春夢幾多
時 去似朝雲無
覓
處
(5)
【胡蝶】
(前略)
廊
らうを繞
めぐ
れ
る藤の色も
こ まやかに
ひ らけゆ き にけり
(中略)
亀の上
うへ
の山もたづねじ舟 のう ちに 老いせ ぬ 名 を ば ここ に残さむ
(一 六 七 頁)
【常 夏
】
(前略)
窓の内な るほ どは
、 ほ ど に 従ひ て
、 ゆ か しく思ふ
べかめる
わ ざな れば
(二 二七 頁
)
【行幸
】
( 前 略
)
齢
よはひなど これよ り まさ る人、腰
た へぬま で
屈
かがまり
歩 く 例 、
ありためし昔も今 も
(二 九七 頁
)
【梅枝】
(前略)
見たまふ 人の 涙さへ 水 茎
みづくき
に流れ そ ふ心 地し て
(四二
〇 頁
)
巻二諷諭
傷宅
源
33 繞廊柴 藤 架 夾砌紅 藥 欄 巻三諷諭
海漫 漫
源
34 童男丱女舟
中 老 徐福文成多誑誕 巻十二感傷
長恨歌
源
35 楊家有女
初長成 養在 深閨 人 未 識 巻二諷諭
不致仕
源
36 金章腰不勝 傴僂 入君門 巻六十八碑誌
故元 少尹
源
37
唯將
老
年
淚
一灑
故
人
文
【二 六〇
】関 白 殿
、二 月 二 十 一 日 に
、
法
ほ興院
こゐんの
積善寺
さくぜんじ
(中 略
)
さて 八
、 九 日のほどにま
か づ る を
、
「います
こ し 近うな り て を」など仰せらる
れど、
出で ぬ 。 い み じ う 常
つねより ものどか
に照 りた る昼つ 方、「花の心
ひ ら け ざ る や。
いか に、
いか に」
と のたまはせた
れば
、「秋 はいまだしく
侍 れ ど、夜
よ
に
九度
こころたび
の ぼ る 心 地 な む しはべ る
」と 聞えさせ
つ
(四
〇 二 頁)
巻十二感傷
○ 枕
20長相思 思君秋夜長 一夜魂 九 升 二月東風來 草拆花 心 開 思君春日遲 一日腸 九 迴
【藤 裏葉】
(前略
)
わが 宿 の藤 の色 こき たそ か れ に 尋ねや は こ ぬ 春の なご り
を
(四三四
頁)
【若紫上
】
(前略
)
「猶
なほ
残
れる 雪
」 と忍 び や かに 口 ずさ びたま ひ
(六 九 頁
)
【若紫下
】
(前略
)
二月の 中の 十日ば か りの青
柳
あをやぎの、
わづかに
(一 九一 頁)
【柏木】
(前略)
「静 かに 思ひ て
嗟
なげくに堪へたり」
とう ち
誦
ずうじたまふ。
五 十 八を
十
とをとり
(三二
三 頁)
【横 笛
】
(前略)
むつ かし う思 うた まへ 沈 め る耳を だに明
あき
らめ
(三五
四 頁)
巻十三雑律
三月三十日
源
38 惆悵春歸
留不得 紫藤 花 下 漸黃昏 巻十六雑律
庾樓 曉望
源
39 子城陰 處 猶 殘 雪 衙鼓聲前未有
塵 巻三十一雑律
楊柳枝詞
源
40 依依
褭褭復青青 句引春風無限
情 巻二十八雑律
與微之
源
41 五十八翁
方有 後 靜思堪喜亦堪
嗟 巻十二感傷
琵琶引
源
42
今夜聞君琵琶語
如聽
仙樂
耳暫
明
【二 七四
】 成 信
なりのぶの中将 は
、 入道兵 部
ひやうぶ
卿宮
きやうのみや
の御子に
て
(中略)
月の 明かき見
る ばかり、
ものの遠く思
ひ やら れて
、 過 ぎ に し事の、
憂
うかりし も
、うれ し かり しも
、を か し と お ぼえ し も、
ただ 今のやうにお
ぼ ゆるをりや
は ある。
こま の の 物 語 は
、 何 ば か りをか し き 事 も な く
、 こ とば も 古 めき
、見 所 お ほ からぬも、月
に昔 を思 ひ 出で て 、 虫 ば み た る 蝙 蝠
かはほり取り出 で て
、
「もと見
し こ ま に」と言ひて
た づ ね たる が
(四二七頁)
巻十四雑律
○ 枕
21贈
內
莫對月明思往
事 損君顏色
減君 年
○ 枕
22八月十五日 三五 夜中 新月色 二千里外故人
心
【夕 霧
】
( 前 略
)
夕
ゆふべの露 かかるほどのむさぼりよ。
いかでこ
の髪
剃
そり
(中略)
岩木よりけに
な び き が た きは、
契 り遠う て
、 憎 し など思ふや
う
(四 七 九 頁)
【幻】
(前略)
「窓 を う つ 声」
など、めづら
しから ぬ古言
ふること
をう ち
誦
ずじたまへ るも
(五 三九頁
)
「夕
せき
殿
でんに蛍飛んで
」 と、
例の
、 古 言
ふること
もかかる筋に のみ
口馴
くちな
れたまへり
。
(中略)
大空を か よふ まぼ ろし 夢 に だ に 見 え こぬ魂
たま
の行
ゆ
く方
へ
たづねよ 何ご と に 付け
(五 四 五 頁
)
巻二諷諭
不致仕
源
43 朝露貪名利 夕陽 憂子 孫 巻四諷諭
李夫人
源
44 人非木石
皆有情 不如 不遇傾 城 色 巻三諷諭
上陽白 髪 人
源
45 耿耿殘燈
背壁影 蕭蕭暗雨打
窗 聲 巻十二感傷
長恨歌
源
46 夕殿 螢飛 思悄然 孤燈 挑 盡 未成眠 巻十二感傷
長恨歌
源
47 臨邛道士
鴻 都 客 能以精誠
致魂
魄
【二 八〇
】雪 の い と高 う 降 り た る を
、
例
れいな ら ず 御格子
みかうし
まゐり て
、炭
す
櫃
びつに 火お こ し て
、 物語などし てあ つ ま り さ ぶ ら ふ に
、 少納言よ。
香
炉
かうろ峰
ほうの雪 い かな ら む
」と仰せ
らる れ ば
、 御格子上
げさせ て
、 御簾
みす
を高く上げ
た れば、
笑はせたまふ。
人 々も
「さ る事は知
り、歌などにさ へう たへど、思
ひ こ そ よ らざ うつ れ
、 なほこ の 宮 の人にはさべきなめ
り
」 と言ふ
(四三四頁)
巻十六雑律
○ 枕
23重題 遺愛 寺鐘 欹枕聽 香爐峰雪撥簾
看
【紅梅】
(前略
)
この
東
ひむがしのつ まに、軒
のき
近き 紅 梅 の いとおも
し ろ く
(四 七頁
)
【竹河
】
(前略)
皆人无
みなひとむ
徳
とくにもの し た ま ふ め る末に 参り て
(六 一頁
)
今宵は、なほ
鶯にも誘は れたまへ」とのたま
ひ 出 だし たれば
(七 一 頁
)
この桜 の 老木になりにけ るにつけ
て も
、過ぎにけ
る 齢
よはひを思 ひ
(七 七 頁
)
【総角
】
( 前 略
)
外国
ひとのくに
に
あり けむ
香 の 煙
かうけぶり( 三 一 二
【宿木】いと
頁)つ れ づれ な るを
、いたづ
ら に 日を 送
る 戯
たはぶれに て
(中略)
巻十六雑律
北亭招客
源
48 春風北
戶
千莖竹 晚日東園一
樹 花 巻三諷諭
上陽白 髪 人
源
49 未容君王得
見 面 已被 楊妃遙 側 目 巻十八雑律
春江
源
50 鶯聲誘引
來花下 草色句留坐水邊 巻二十九格詩
六十六
源
51 童稚盡成
人 園林半喬木 巻四諷諭
李夫人
源
52 反魂香降
夫人魂 巻十六雑律
官舍閒 題
源
53 送春唯有
酒
銷日不過棋
【二二三
】三 条の 宮 に お はし ます ころ
、
(中略)薬玉
くすだまま ゐ ら せ な ど す
。 若 き 人々
、 御
匣
みくしげ
殿
どのなど薬 玉 し て、
姫
宮
ひめみや、若宮に
つけた てま つ ら せ た ま ふ
。い と をかし き 薬玉ども、
ほ か よ り まゐ らせたるに、青
あを
ざし と い ふ物 を、
持
もて来 たる を、
青き薄様
うすやう
を、
艶 な
えんる 硯
すずりの蓋
ふた
に
(中略)
みな人の花や
蝶
てふやといそ ぐ日も わ が心をば
君ぞ知 りける
この紙 の
端
はしを引 き破
や
らせたま
ひ て 書かせ たまへる、いとめ
でたし
(四三
三 頁)
巻十一 感 傷
○ 枕
24步東 坡 新葉鳥下來 萎花 蝶 飛
去
(6)
「まづ、
今日 は、
こ の 花
一枝
ひとえだゆるす」との
たまは すれ ば
(三 七八頁)
【蜻蛉
】
(前略
)
「人木
石
ぼくせき
に あ ら ざ れ ば み な
情
なさけあ
り」と
(二 五二 頁
)
絵に
描
かきて 恋しき 人 見 る 人はなくや
は
(中略
)
「 中 に
就
つい て
腸断
はらわたた
ゆ る は秋の天」
と いふ こ と を、
いと忍 び やか
(二六
九 頁
)
【手習】狐の
人に変
化 す
へんぐゑるとは昔より
聞けど、ま だ見ぬ も の な り
(中略)
葉の薄き
が如 し」と言
ひ 知ら せて
、 「
松門
しようもん
に暁到 りて 月
徘徊
はいくわい
す」
(三四九頁
)