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『 源 氏 物 語

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(1)

- 134 -

往 来 物 に お け る

『 源 氏 物 語

徳 永

結 美

、 は じ め に 往 来 物 と は

〈 読 み

〉〈 書 き

〉 能 力 の 習 得 を 主 な 目 的 と し て 編 ま れ

た 書 物 群 を 指 し

、 江 戸 時 代 に 寺 子 屋 で 用 い ら れ る な ど

、 広 く 初 等 教 育 書 と し て 普 及 し た

。 各 種 の 往 来 物 を 紐 解 い て い く と

、 と り わ け 女 子 用 の そ れ に

『 源 氏 物 語

』 に 関 す る 記 事 が 頻 繁 に 見 つ か る

。 記 事 に は 一 定 の 類 型 が 見 ら れ

、 教 材

( 注 1

) と し て 一 つ の 流 れ を 持 っ て い た よ う で あ る

。 江 戸 時 代 は 従 来 よ り

『 源 氏 物 語

』 が 人 々 に 広 く 享 受 さ れ

、 豊 か な 文 化 を 生 み 出 し た 時 代 と 言 わ れ る

。 し か し そ の こ と が 論 じ ら れ る 際 に

、 往 来 物 に 言 及 が な さ れ

、 分 析 対 象 と し て 取 り 上 げ ら れ る こ と は ほ と ん ど な い

。 本 稿 で は

、 ま ず 江 戸 時 代 に お け る

『 源 氏 物 語

』 享 受 の 流 れ を 確 認 し

、 江 戸 時 代 の

『 源 氏 物 語

』 享 受 を 考 え る 資 料 と し て 往 来 物 の 有 効 性 を 述 べ る

。 次 に 往 来 物 に 掲 載 さ れ た

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 の 全 体 像 を 確 認 し

、 そ の 類 型 を お さ え る

。 最 後 に

、 往 来 物 の 中 で も

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 を 核 と し て 収 録 す る

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』『 女 要 点 珠 文 庫

』 を 取 り 上 げ

、 両 者 の 比 較 を 通 し て

、 特 徴 お よ び 今 後 の 分 析 課 題 を 確 認 す る

。 二

、 江 戸 時 代 に お け る

『 源 氏 物 語』 享 受

江 戸 時 代

、『 源 氏物 語

』 は 非 常 に 広 範 囲 の 人 々 に 多 彩 な 形 で 享 受 さ れ た

。 そ の 起 点 は

、 江 戸 時 代 初 期 に お け る 出 版 文 化 の 飛 躍 的 成 長 に よ り

『 源 氏 物 語

』 本 文 が 庶 民 階 層 に 普 及 し

、 も は や 一 部 特 定 な 人 々 の も の で は な く な っ た こ と に あ る

。 具 体 的 に は 版 本 と い う 形 で

、 絵 入

『 源 氏 物 語

』( 山 本 春 正

・ 承 応 三

1654

) 年

) を は じ め と す る

『 源 氏 物 語

』 全 文 が 量 産 さ れ

、 広 く 提 供 さ れ る よ う に な っ た

。 こ れ に よ り

『 源 氏 物 語

』 は

〈 憧 れ

〉 か ら

〈 手 を 伸 ば せ ば 触 れ る こ と の で き る も の

〉 へ と 移 行 し た の で あ る

。 と は い え

、 第 一 級 と 目 さ れ る 長 大 か つ 難 解 な 古 典 文 学 を 読 む こ と は 決 し て 容 易 で は な い

。 こ れ は 現 代 の 我 々 に も 言 え る こ と で あ る が

、 た だ そ の テ ク ス ト を 追 う だ け で は 作 品 世 界 に 入 っ て い く こ と は で き な い

。 注 釈

、 研 究 論 文

、 現 代 語 訳

、 あ ら す じ と い っ た

、 作 品 へ の 何 か し ら の 橋 渡 し が 必 要 と な る

。 つ ま り 作 品 の 普 及 過 程 に お い て

、 全 文 提 供 に 次 い で

「 梗 概

」「 注 釈

」 と い っ た 作 品 へ 読 者 を 導 く た め の 数 々 の 橋 渡 し が 求 め ら れ

、 か つ 生 み 出 さ れ て い っ た の で あ る

。 こ れ ら は

『 源 氏 物 語

』 研 究 の 進 展 と 共 に 深 め ら れ

、 江 戸 時 代 が

『 源 氏 物 語

』 研 究 を 著 し く 深 化 さ せ た 時 代 と し て 位 置 づ け ら れ る に 至 る

。 国 学 者 を 中 心 と す る 人 々 の 研 究 成 果 は

、 今 日 の

(2)

- 135 -

注 釈 書 の 土 台 を 築 き

、そ の 示 す と こ ろ は 未 だ 色 褪 せ る こ と は な い

『 源 氏 物 語

』 が 浸 透 し て く る と

、 今 度 は

『 源 氏 物 語

』 を 吸 収 し た 人 々 に よ る 二 次 的 な 営 為 が生 み 出 さ れ て く る

。そ れ は 例 え ば

『 源 氏 物 語

』 を も と に 新 た に 編 ま れ た 文 芸 作 品 で あ り

、 浄 瑠 璃 や 歌 舞 伎 と い っ た 演 劇 で あ る

。 王 朝 の 雅 は 大 い に 人 々 を 魅 了 し

、 多 く の 浮 世 絵 が 描 か れ た

。 或 い は

、 源 氏 香 や 装 束

・ 調 度 品 の 文 様 と い っ た 意 匠 と し て 伝 統 文 化 や 生 活 に も 自 由 に 取 り 入 れ ら れ て い っ た

。 こ の よ う に

、 江 戸 時 代 は

〈 作 品 の 提 供 お よ び 作 品 世 界 へ の 橋 渡 し

〉 と

〈 作 品 世 界 に 踏 み 入 っ た 人 々 に よ る

『 源 氏 物 語

』 の 二 次 的 営 為 の 生 産

〉 と い う 二 つ の 大 き な 流 れ が 存 在 し た

。 そ し て 両 者 が 関 わ り 合 う こ と に よ り

、 総 体 と し て 豊 か な

『 源 氏 物 語

』 文 化 を 構 築 し た 時 代 と な っ た の で あ る。 三

、 往 来 物 分 析 の 意 義 ー

『 源 氏 物 語

』 享 受 資 料 と し て ー 往 来 物 は 江 戸 時 代 に 初 等 教 育 書 と し て 普 及 し た 書 物 で あ っ た

〈 学 び

〉 を 前 提 と す る 書 物 で あ る た め

、 こ こ に

『 源 氏 物 語

』 が 収 録 さ れ た 場 合

、 教 材 と し て 収 録 内 容 の 選 択 が 行 わ れ

、 収 録 方 法 に 作 為 が 加 え ら れ る

。 こ の 点 が 大 き な 特 徴 で あ り

、 同 じ く 作 品 世 界 に 読 者 を 導 く 梗 概 書 や 注 釈 書 と い っ た 書 物 と は 一 線 を 画 す る こ と に な る

。 ま た

、 教 育 的 配 慮 や 作 為 と い う も の は そ も そ も 何 ら か の 目 当 て を も っ て 行 わ れ る も の で あ り

、 そ の 目 当 て は 当 時 の

『 源 氏 物 語

』 観 を 反 映 し た も の と な っ て い る は ず で あ る

。 し た が っ て 往 来 物 を 紐 解 く こ と は

、 教 育 的 観 点 を 切 り 口 と し て 当 時 の

『 源 氏 物 語

』 観 に 迫 る こ と に 他 な ら な い

。 し か も

、 往 来 物 が 初 等 教 育 書 と し て 普

及 し た 意 味 で

、 そ こ で 得 ら れ る

『 源 氏 物 語

』 観 は 当 時 の

『 源 氏 物 語

』 享 受 の 土 台 に 位 置 づ け ら れ る も の と いえ る

。 こ の よ う な 意 味 で

、 往 来 物 は

『 源 氏 物 語

』 享 受 研 究 に お い て 非 常 に 有 効 か つ 重 要 な 資 料 と し て 注 目 す べ き 存 在 な の で あ る

。 四

、 往 来 物 に お け る

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 次 に

、 往 来 物 に 収 録 さ れ た

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 の 全 体 像 を 確 認 す る

。 往 来 物 に つ い て は

、『 往 来 物 解 題 辞 典

』( 注 2

) が そ の 網 羅 的 書 誌 を 備 え る 基 礎 資 料 と な っ て い る

。 本 書 の 編 著 者 で あ る 小 泉 吉 永 氏 は

、 本 書 の 収 録 内 容 に そ の 後 の 研 究 成 果を 増 補 し

、「 往 来 物 デ ー タ ベ ー ス

」( 注 3

) と して 公 開 し て い る

。 こ れ を

「 源 氏

」 と い う 言 葉 を キ ー ワ ー ド に 検 索 す る と

、 往 来 物 に 収 録 さ れ て い る

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 を 大 掴 み に す る こ と が で き る

( 注 4

)。 こ の 結 果 を 整 理 し

、『 源 氏 物 語

』関 連 記 事 を 列 挙 す る と

、概 ね 次 の よう に な る( 注 5

)。

( 巻 名 を 列 挙 し た も の)

( 近 江 八 景 を 背 景 に

、 石 山 寺 で 源 氏 物 語 を 執 筆 し て い る と お ぼ し き 紫 式 部 の 肖 像 を 描 く も の

( 注 6

( 五 十 四 帖 各 巻 に つ い て

、 和 歌 一 首 を 挿 絵 と 共 に 示 す も の

( 各 巻 ご と の あ ら す じ や 要 点 を 示 し た も の

(3)

- 136 -

(『 源 氏 物 語

』の 巻 名 を「 文 字 鎖

」( 注 7

)に 仕 立 て た も の

。)

( 注8

( 手 紙 文 例 集

。『 源 氏 物 語

』 の 由 来 お よ び概 要 を 手 紙 文 の 体 裁 に し た も の

、『 源 氏 物 語

』 の 借 用 を 申 し 出 る とい っ た 実 用 文 等 が あ る

。)

( 特 定 の 場 面 や 登 場 人 物 を 取 り 上 げ て 徳 目 を 説 く も の

( 遊 戯 の 解 説

。 当 時

『 源 氏 歌 か る た

』 と い う も の が あ っ た ま た 貝 覆 い の 貝 の 代 表 的 絵 柄 と し て

、 当 時

『 源 氏 物 語

』 が 用 い ら れ て い た

。) こ れ ら を 眺 め る と

は 作 品 の 最 低 限 の 知 識 を 与 え る も の で あ り

は 作 品 内 容 を 解 説 す る も の で あ る

。 こ れ に 対 し

を 一 歩 進 め 巻 名 を 覚 え る 便 を 図 って お り

に 消 息 文 の 作 法 を 理 解 さ せ る 要 素 を 加 え て い る

『 源 氏 物 語

』 を 教 訓 書 と し て 活 用 す る も の で あ る

は当 時 の 女 性 の 嗜 み の 一 つ と し て 提 示 さ れ て い る が

、『 源 氏 物 語

』 が往 来 物 学 習 者 に と っ て 書 物 で あ る と 同 時 に 遊 戯 と し て 認 識 さ れ て い た こ と を 伺 わ せ る

。 全 体 と し て 見 る と

、 作 者 に つ い て の 知 識

、 巻 名

、 作 中 和 歌

、 作 品 概 要 が 内 容 的 な 柱 と な っ て お り

、 こ れ ら が 最 低 限 の 知 識 と し て 共 有 さ れ た と い え る

。 場 合 に よ り 消 息 文 の 作 法 の 理 解

、 教 訓 と い っ た 要 素 と 融 合 し

、 必 ず し も

『 源 氏 物 語

』 作 品 世 界 に 導 く も の に 留 ま ら な か っ た よ う で あ る

。 五

、『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 と

『 女 要 珠 文 庫

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 が 掲 載 さ れ た 二 つ の 往 来 物 の 比 較 分 析 の 一 部 を 示 し

、 両 書 の 特 徴 や 今 後 の 分 析 課 題を 確 認 し て み た い

。 前 項 で 見 て き た よ う に

、 往 来 物 に お け る

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 は 多 様 に 存 在 し て い る が

、そ の 掲 載 場 所 は 大 き く 二 つ に 分 か れる

。 本 文 と 付 録 的 部 分(

「 前 付

」( 注9

)「 頭 書

」( 注

)「 後付

」( 注

10

11 で あ る

。 全 体 と し て 見 る と

、 付 録 的 部 分 に 掲 載 さ れ て い る 場 合 が 多 い

。 こ こ で 取 り 上 げ る『 女 源 氏 教訓 鑑

』『 女 要 珠 文 庫

』は

、い ず れ も『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 が 往 来 物 全 体 の 中 心 を 占 め る 往 来 物 と し て 稀 少 な 存 在 で あ る

。 五 ー 一

、 書 誌 的 事 項

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 と

『 女 要 珠 文 庫

』 に つ い て は

、『 補 訂 版 国 書 総 目 録

』 に そ れ ぞ れ 次 の よ う に 示 さ れ て い る

お ん な げ ん じ き ょ う く ん か が み 一 冊

往 来 物

正 徳 三 刊

正 徳 三 版ー 国会

・ 日 比 谷 加 賀

、 享 保 六 版 ー 東 大

、 元 文 元 版 ー 阪 大 じ ょ よ う た ま ぶ ん し ょ う 一 冊

往 来 物

享 保 六

岩 瀬

(4)

- 137 -

い ず れ も 初 版 の 刊 行 は

、 正 徳 三

1713

) 年

、 享 保 六

1721

) 年 と 江 戸 前 期 と な っ て い る

。 特 に

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 に つ い て は

、 初 版 刊 行 後 に 享 保 六

1721

) 年

、 元 文 元

1736

) 年 と 二 度 再 版 が 行 わ れ て い る

。 中 で も 享 保 六

1721

) 年 は

『 女 要 珠 文 庫

』 初 版 刊 行 の 年 と 重 な り

、 特 に 注 目 さ れ る

。 こ こ に 記 載 の な い 所 蔵 資 料 も そ れ ぞ れ に 複 数 存 在 し て お り

( 注

)、 あ る 程 度 の 普 及 を 達 成 し た 往 12 来 物 で あ る こ と が 伺 え る

。 五 ー 二

、 構 成 次 に 両 書 の 構 成 に つ い て

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 に 焦 点 を 当 て て 確 認 す る

( 注

)。 13 ま ず

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 は 全 七 十 七 丁 か ら な る

。 う ち 六 十 丁 の 本 文 と し て

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 を 収 録 す る

。 本 書 見 返 し に は 目 次 が あ り

、 こ こ に 示 さ れ た

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 を 示 す と 次 の 通 り で あ る

本 書 に は

、 ま ず 一 丁 目 裏

・ 二 丁 目 表 部 分 に

「 石 山 近 江 八 景 図

」 が あ り

、 二 十 一 丁 目 表 か ら

「源 氏 物 語 之 大 意

」( 図 1 右

)、

「 源 氏 六 十 帖 目 録

」( 図 1 左

) が 示 さ れ る

( 注

)。 こ れ に 次 い で

『 源 氏 物 14 語

』 各 巻 に つ い て の 引 歌 お よ び 挿 絵

(「 同 本 歌 五 十 四 首

」) と

、 梗 概

(「 源 氏 六 十 帖 注 釈

」 注

) を 一 組 と し て

、 桐 壺 巻 か ら 夢 浮 橋 ま 15 で そ れ ぞ れ 示 さ れ る

。 梗 概 の 見 出 し に は

、 源 氏 香 図 が あ し ら わ れ

て い る

。 後 付 部 分 に は

「 源 氏 物 語 一 部 大 意

」 が あ る

。 以 上 の よ う に

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 は

の 類 型 の う ち

を 収 録 し てい る こ と に な る

『 女 要 珠 文 庫

』 は 全 六 十 三 丁 か ら な る

。 う ち 五 十 二 丁 の 本 文 と し て

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 を 収 録 す る

。 本 書 見 返 し の 目 次 に 従 っ て 本 書 収 録 の

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 を 示 す と 次 の 通り で あ る

こ れ ら の 記 事 は

、本 書 十 二 丁 目 表 か ら 一 続 き に 収 録 さ れ て い る

。 十 二 丁 目 表 に は 記 事 の 題 と し て

「 湖 月 女 文 章 粧 源 氏 同 香 之

」 と あ り

、 紫 式 部 と 覚 し き 肖 像 が 描 か れて い る

( 図 2 右

)。 十 二 丁 裏 に は 五 十 四 巻 の 香 図 が 巻 名

( 仮 名 書 き

) と 共 に 示 さ れ て い る

( 図 2 左

)。 こ れ に 次 いで 引 歌

、 登 場 人 物 の 肖 像

、 消 息 文 仕 立 て の 梗 概 が 一 組 と な っ て 桐 壺 か ら 夢 浮 橋 ま で そ れ ぞ れ 示 さ れ る

。 以 上 の よ う に

『 女 要 珠 文 庫

』は

の 類 型 の う ち

お よ び

を 収 録 し て い る こ と に な る

。 両 書 に 収 録 さ れ る

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 の 構 成 を 見 る と

、 記 事 形 式 は 厳 密 に は 異 な る も の の

、 収 録 内 容 は 概 ね 重 な っ て い る こ と が わ か る

(5)

- 138 -

図 1

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』「 源 氏 物 語 之 大 意

」「 源 氏 六 十 帖 目 録

( 東 京 都 立 中 央図 書 館 加 賀 文 庫 蔵 本

図 2

『 女 要 珠 文 庫

』 十 二 丁 目 表

・ 裏

( 吉海 直 人 氏 所 蔵 本

、『 稀 覯 往 来 物 集 成 第 一 六 巻

』 大 空 社 よ り 転 載

本図版については、最終丁に補足掲載の東京学芸大学附属図書館 望月文庫蔵本の図版を参照されたい。同書は、同一書名、刊記を備えている。

(6)

- 139 -

図 3

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 桐 壺 巻

( 東 京 都 立 中 央 図 書館 加 賀 文 庫 蔵 本

図 4

『 女 要 珠 文 庫

』 桐 壺 巻

( 吉 海 直人 氏 所 蔵 本

、『 稀 覯 往 来物 集 成 第 一 六 巻

』 大 空 社 よ り 転 載

本図版については、最終丁に補足掲載の東京学芸大学附属図書館 望月文庫蔵本の図版を参照されたい。同書は、同一書名、刊記を備えている。

(7)

- 140 -

両 書 の 紙 面 上 に お け る 構 成 に つ い て 考 え る た め

、 桐 壺 巻 に つ い て そ れ ぞ れ の 版 面 を 図 3

、 図 4 に 示 し た

。 こ れ ら を 見 比 べ る と

、 両 者 の 相 違 点 を 視 覚 的 に 把 握 す る こ と が で き る

。 ま ず 第 一 に 目 を ひ くの は

、 両 書 の 梗 概 文 の 差 違 で あ る

。『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 は 細 か な 文 字 に よ り 長 文 が 示 さ れ て い る

。『 女 要 珠 文 庫

』 は 大 字 で 散 ら し 書 き の 体 裁 で 示 さ れ て い る

。『 女 要 珠文 庫

』 が 往 来 物 で あ る 点 に 留 意 す る と

、 大 字 で 示 さ れ た 梗 概 は

、〈 書 き 写 す

〉 行 為 を 想 定 し た 手 本 と 見 る こ と が でき る

。 引 歌 掲 載 部 分 に つ い て 見 る と

、 両 書 共 に 散 ら し 書 き の 体 裁 で 示 さ れ て い る

。『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 で は 大 字 か つ一 部 読 み 仮 名 を 付 き で 示 さ れ

、 こ れ も

『 女 要 珠 文 庫

』 梗 概 の 場 合 と 同 じ く

〈 書 き 写 す

〉 行 為 を 想 定 し た 手 本 と 見 る こ と が で き る

。 併 せ て

、 読 み 仮 名 が 付 与 さ れ て い る こ と か ら

、〈 音 読 す る

〉 と い う 行 為 へ の 配 慮 も 施 さ れ て い る と い え る

。 こ れ に 対 し

、『 女 要 珠 文 庫

』 は 本 文の 消 息 文 に 比 べ て 小 さ な 文 字 で 示 さ れ て い る

。 本 文 に 対 し て

、 引 歌 は 付 録 的 な 位 置 づ け で あ る と い え よ う か

。 引 歌 と 共 に 示 さ れ た 挿 絵 に つ い て 見 る と

、『 女 源 氏 教訓 鑑

』 は 場 面 絵 で あ り

、 誕 生 し た 光 源 氏 を 女 房 ら し き 女 性 が 桐 壺 帝 に 対 面 さ せ る 図 柄 と な っ て い る

。 引 歌 は 光 源 氏 元 服 の 儀 式 の 場 で

、 葵 上 と の 婚 礼 を 示 唆 し て 桐 壺 帝 が 左 大 臣 に 詠 み か け た 歌

(「 い と き な き 初 も と ゆ ひ に な が き よ を 契 る 心 は む す び こ め つ や

」) であ り

、 挿 絵 と 直 接 の 関 連 を 持 つ も の で は な い

。 こ れ は 物 語 最 初 の 巻 と し て

、 光 源 氏 誕 生 の 場 面 を 配 置 し た と い う こ と で あ ろ う か

。 つ ま り

、 引 歌 と 共 に 示 さ れ る 挿 絵 は

、 引 歌 の 理 解 を 導 く 引 歌 の 補 足 資 料 で は な く

、 そ れ 独 自 が 物 語 を 読 者 に 説 き 起 こ そ う と す る も の で あ る と い え る

。 し た が っ て

、 一 度 引 歌 と 切 り 離 し て 分 析 し て い く 必 要 が あ

り そ う で あ る

『 女 要 珠 文 庫

』 の 引 歌 の も と に は

、 桐 壺 帝 の 肖 像 画 が 示 さ れ て お り

、「 きり つほ の み か と

」 と 見 出 し が あ る

。 天 皇 で あ る た めか

、 御 簾 に よ っ て 姿 が 伏 せ ら れ て い る

。 い わ ゆ る 人 物 便 覧 の よ う な 体 裁 で あ り

、 桐 壺 巻 以 降 各 巻 に つ い て 一 名 の 肖 像 画 を 名 と 共 に 示 し て い る

。『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 と は 異 な る 趣 向 で あ り

、『 女 要 珠 文 庫

』 の 特 徴 で あ る と い え る

。 五 ー 三

、 本 文 の 比 較

・ 分 析

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 と

『 女 要 珠 文 庫

』 は

、 共 に 本 文 と し て 引 歌 と 梗 概 を 収 録 し

、 書 物 の 中 心 と な っ て い る

。 こ こ で は 桐 壺 巻 お よ び 箒 木 巻 に つ い て 引 歌 と 梗 概 の 翻 刻 を 示 し

( 注

)、 両 者 を 比 較 し な 16 が ら そ れ ぞ れ の 特 徴 を 確 認 す る

。 ま ず

、 両 書 の 引 歌 を 巻 毎 に

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 を

、『 女 要 珠 文 庫

』 を

と し て 以 下 に 示 す

【 桐 壺 巻

【 箒 木 巻

(8)

- 141 -

書 の 引 歌 を 見 比 べ る と

、 表 記 の 若 干 の 異 同 を 除 い て 一 致 し て い る こ と が わ か る

。 こ の こ と は こ の 二 巻 に 限 ら ず

、 全 体 を 通 し て い え る こ と で あ る こ と を 確 認 し て い る

。『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 類 型 と し て の 源 氏 物 語 引 歌 は

、 先 行 研 究 に お い て 全 て 同 じ 和 歌 に よ り 構 成 さ れ て い る こ と が 確 認 さ れ てい る( 注

)。

『女 源 氏 教 訓 鑑

』『 女 17 要 珠 文 庫

』 に 収 録 さ れ た 引 歌 は

、 こ の 引 歌 に も 一 致 し て お り

、 類 型 を 踏 襲 し た も の と な っ て い る

。 次 に 梗 概 部 分 に つ い て 見 て い く

。 両 書 の 梗 概 本 文 は

、 比 較 の 便 を 図 る た め

、 内 容 的 ま と ま り に よ り 分 け

、 そ れ ぞ れ に 記 号 お よ び 記 事 名 を つ け た

【 桐 壺 巻

『 女 源 氏 教 訓 鑑

. 巻 名 の 由 来 殿

. 物 語 の 解 説

( 光 源 氏 の 誕 生

. 引 歌 詠 出 の 背 景

. 引 歌 の 解 釈

. 年 立

(9)

- 142 -

『 女 要 珠 文 庫

』 ま

、 先 程 版 面 を 示し た 桐 壺 巻 に つ い て 見 て み る

。『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 梗 概 の 内 容 を 見 る と

と い う 構 成 と な っ て い る

。 こ れ に 対 し

『 女 要 珠 文 庫

』 は

と い う 構 成 と な っ て い る

。 特 に

、『 女 要 珠 文 庫

』は 内 容 と し て は 作 品 梗 概 で あ り つ つ も

、「 か し く

」 と い う 結 語 が 添 え ら れ

、 消 息 文 の 体 裁 と な っ て い る

。 先 に 紙 面 構 成 の 比 較 で 触 れ た よ う に

、 本 書 は 紙 面 構 成 と し て

〈 書 き 写 す

〉 行 為 を 想 定 し た 手 本 と な っ て い た

。 こ の こ と を 踏 ま え る と

、 本 書 で は 消 息 文 の 形 式 と

『 源 氏 物 語

』 の 内 容 お よ び 引 歌 に つ い て の 知 識 を 習 得 す る こ と が 目 指 さ れ た こ と が わ か る

【 箒 木 巻

『 女 源 氏 教 訓 鑑

. 物 語 の 解 説

( 光 源 氏 の 誕 生

. 引 歌 詠 出 の 背 景

. 消 息 文 の 結 語

. 巻 名 の 由 来

. 年 立

使

. 引 歌 詠 出 の 背 景

(10)

- 143 -

『 女 要 珠 文 庫

続 い て 箒 木 巻 に つ い て 見 て み る

。『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 は

と い う 構 成 と な っ て い る

。 順 序 の 違 い は あ れ

、 こ れ ら は 全 て 桐 壺 巻 と 共 通 し て 示 さ れ て い る も の で あ る

。 ま た 長 文 の 梗 概 全 体 の 大 凡 を 占 め る 記 述 で も あ る

。 こ の こ と か ら

、『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 梗 概 の 核 が 巻名

、 年 立

、 引 歌 解 説 で あ る こ と が 伺 え る

。 こ れ に 対 し

『 女 要 珠 文 庫

』 は

と い う 構 成 と な っ て お り

、 桐 壺 巻 と 一 致 す る

。 物 語 の 解 説 と し て 雨 夜 の 品 定 め と い う 著 名 な 場 面 を 取 り 上 げ て い る 点 が

、『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 と 異 な る

。 こ う し た 梗 概 の 構 成 や 特 徴 を も と に

、 両 書 に つ い て 次 の よ う に ま と め る こ と が で き る

。 い ず れ も 内 容 と し て 巻 名

、 引 歌 に 関 す る 要 素 を 備 え て い る こ と か ら

、 こ れ ら が

『 源 氏 物 語

』 理 解 に あ た っ て 不 可 欠 な 要 素 と し て 認 識 さ れ て い た と 見 る こ と が で き る

。 特 に

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 は

、 引 歌 の 理 解 に 主 眼 を 置 い た 梗 概 で あ る と い っ て よ い

。 し た が っ て 引 歌 の 解 説 分 量 に よ り

、 物 語 の 解 説 は 適 宜 抑 え ら れ た と 考 え る こ と が で き る

。 そ れ に 代 え て

、 巻 名 の

. 引 歌 詠 出 の 背 景

. 消 息 文 の 結 語

. 歌 の 解 釈

. 物 語 の 解 説

( 雨 夜 の 品 定 め

(11)

- 144 -

由 来 お よ び 年 立 を 示 し

、 梗 概 と し て の 基 本 要 素 を 備 え よ う と す る 姿 勢 が 見 え る

。 先 に 紙 面 構 成 の 比 較 で 触 れ た よ う に

、『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 で は 引 歌 が 大 字 か つ 振 り 仮 名 付 き で 示 さ れ て お り

、〈 書 き 写

〉 し

、〈 音 読 す る

〉 手 本 と し て の 体 裁 を 持 っ て い た

。 こ の 点 を 合 わ せ る と

、 本 書 は 引 歌 の 習 得 を 総 合 的 に 目 指 す べ く 編 ま れ た 往 来 物 で あ る と い え る

。 こ れ に 対 し

『 女 要 珠 文 庫

』 は

、 消 息 文 の 手 本 と し て の 体 裁 を 取 る ゆ え に

、 梗 概 文 の 分 量 が 概 ね 百 字 程 度 に 抑 え ら れ て い る

。 そ の 中 で 示 さ れ る の は 各 巻 の 物 語 に つ い て 最 小 限 の 解 説 と 簡 潔 に ま と め ら れ た 引 歌 詠 出 の 背 景 で あ る

。 当 時 消 息 文 の 習 得 は 特 に 重 視 さ れ た も の で あ り

、 こ れ を 目 的 と す る 往 来 物 は 往 来 物 全 体 の 中 で も 大 き な 位 置 を 占 め る

。 こ こ に

『 源 氏 物 語

』 に 関 す る 基 本 要 素 が 組 み 込 ま れ た と い う こ と は

、『 源 氏 物 語

』 に 対す る 知 識 的 需 要 を 考 え る 上 で 一 つ の 手 が か り と な る

。 六

、 ま と め ー 今 後 の 課 題 ー 往 来 物 に お け る

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 は 多 様 で あ り つ つ も

、 一 定 の 類 型 を も っ て い る

。 中 で も 梗 概 は

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 や

『 女 要 珠 文 庫

』 の 比 較 事 例 に 見 え る よ う に

、 巻 名 お よ び 引 歌 を 核 と す る 点 に 特 徴 が あ る

。 江 戸 時 代 に は

、 広 く 普 及 し 始 め た

『 源 氏 物 語

』 へ の 橋 渡 し と し て 多 く の 梗 概 書 や 注 釈 書 が 刊 行 さ れ た が

、 そ れ ら は 概 ね 物 語 を 短 く 縮 め た ダ イ ジ ェ ス ト 的 な も の で あ り

、 或 い は 本 文 テ ク ス ト を 詳 細 に 解 説 す る も の で あ っ た

。 し た が っ て 往 来 物 に み え る 梗 概 は

、 同 じ 梗 概 で あ り つ つ も

、 こ れ ら と は 異 な る 様 相 を 示 し て い る と い

え る の で は な い か

『 女 源 氏 教 訓 鑑

』 や

『 女 要 珠 文 庫

』 は

、 そ れ ぞ れ

〈 正 徳

〉、

〈 享 保

〉 と い っ た 江 戸 時 代 初 期 に 刊 行 さ れ

、 以 降 再 版 を 重 ね つ つ 普 及 し た

。 ま た 往 来 物 に お け る

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 全 体 の 中 で は

、 こ う し た

『 源 氏 物 語

』 を 書 物 の 中 心 と し て 扱 う も の は 稀 で あ り

、 こ れ ら に 続 く 類 書 は 現 在 の と こ ろ 見 ら れ な い

。 巻 名 や 引 歌 に 主 眼 を 置 く 記 事 が 往 来 物 に 非 常 に 多 く 見 ら れ

、 江 戸 時 代 を 通 し て 代 表 的 な 記 事 類 型 で あ り 続 け た 中 で

、 両 書 は 往 来 物 に お け る

『 源 氏 物 語

』 関 連 記 事 の 始 発 点 に 位 置 す る も の と して 注 目 さ れ る

。 今 後 の 課 題 と し て

、 両 書 を よ り 詳 細 に 分 析 し

、 時 代 背 景 や 文 化 状 況 に も 照 ら し な が ら

、 本 稿 に 示 し た 特 徴 や 傾 向 を 改 め て 論 証 す る 予 定 で あ る

。 両 書 は 数 多 く あ る 往 来 物 の ご く 一 部 に 過 ぎ な い

。 両 書 を 土 台 と し

、 さ ら に 個 々 の 往 来 物 の 分 析 を 進 め て 行 く こ と が 必 要 で あ る

。 こ れ ら の 積 み 重 ね に よ っ て

、 往 来 物 が 独 自 に 形 成 し た

『 源 氏 物 語

』 へ の ア プ ロ ー チ を 明 ら か に し

、 し い て は

『 源 氏 物 語

』 享 受 の 実 相 理 解 へ と 繋 げ た い

。 注

( 1

)「 教 材

」 は 近 代 以 降 の 学 校 教 育 に お け る 概 念 の 一 つ で

、 主 と し て 教 科 書 に 収 録 さ れ

、「 教 育 目 標 達 成 の 必 要 に 応 じ

、 子 ど も や 青 年 に 習 得 さ せ る た め に 選 択 さ れ た 文 化 的 素 材

」(

『 岩 波 小 辞 典 教 育

』 勝 田 守 道 ほ か

・ 岩 波 書 店

・ 一 九 七 三

) と 定 義 さ れ る

。 往 来 物 を 近 世 に お け る 教 科 書 と し て 位 置 づ け る と

、 そ こ に 収 録 さ れ た 記 事 お よ び 出 典 は

「 教 材

」 と し て 見 る こ と が で き る

。 本

図 4 補足図版 『女要珠文庫』 桐壺巻(東京学芸大学附属図書館 望月文庫蔵本 請求記号 T1A0/83/3 )T1A0/83/3)

参照

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