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往 来 物 に お け る
『 源 氏 物 語
』
お う ら い も の
徳 永
結 美
一
、 は じ め に 往 来 物 と は
〈 読 み
〉〈 書 き
〉 能 力 の 習 得 を 主 な 目 的 と し て 編 ま れ
お う ら い も の
た 書 物 群 を 指 し
、 江 戸 時 代 に 寺 子 屋 で 用 い ら れ る な ど
、 広 く 初 等 教 育 書 と し て 普 及 し た
。 各 種 の 往 来 物 を 紐 解 い て い く と
、 と り わ け 女 子 用 の そ れ に
『 源 氏 物 語
』 に 関 す る 記 事 が 頻 繁 に 見 つ か る
。 記 事 に は 一 定 の 類 型 が 見 ら れ
、 教 材
( 注 1
) と し て 一 つ の 流 れ を 持 っ て い た よ う で あ る
。 江 戸 時 代 は 従 来 よ り
『 源 氏 物 語
』 が 人 々 に 広 く 享 受 さ れ
、 豊 か な 文 化 を 生 み 出 し た 時 代 と 言 わ れ る
。 し か し そ の こ と が 論 じ ら れ る 際 に
、 往 来 物 に 言 及 が な さ れ
、 分 析 対 象 と し て 取 り 上 げ ら れ る こ と は ほ と ん ど な い
。 本 稿 で は
、 ま ず 江 戸 時 代 に お け る
『 源 氏 物 語
』 享 受 の 流 れ を 確 認 し
、 江 戸 時 代 の
『 源 氏 物 語
』 享 受 を 考 え る 資 料 と し て 往 来 物 の 有 効 性 を 述 べ る
。 次 に 往 来 物 に 掲 載 さ れ た
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 の 全 体 像 を 確 認 し
、 そ の 類 型 を お さ え る
。 最 後 に
、 往 来 物 の 中 で も
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 を 核 と し て 収 録 す る
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』『 女 要 点 珠 文 庫
』 を 取 り 上 げ
、 両 者 の 比 較 を 通 し て
、 特 徴 お よ び 今 後 の 分 析 課 題 を 確 認 す る
。 二
、 江 戸 時 代 に お け る
『 源 氏 物 語』 享 受
江 戸 時 代
、『 源 氏物 語
』 は 非 常 に 広 範 囲 の 人 々 に 多 彩 な 形 で 享 受 さ れ た
。 そ の 起 点 は
、 江 戸 時 代 初 期 に お け る 出 版 文 化 の 飛 躍 的 成 長 に よ り
『 源 氏 物 語
』 本 文 が 庶 民 階 層 に 普 及 し
、 も は や 一 部 特 定 な 人 々 の も の で は な く な っ た こ と に あ る
。 具 体 的 に は 版 本 と い う 形 で
、 絵 入
『 源 氏 物 語
』( 山 本 春 正
・ 承 応 三
(1654
) 年
) を は じ め と す る
『 源 氏 物 語
』 全 文 が 量 産 さ れ
、 広 く 提 供 さ れ る よ う に な っ た
。 こ れ に よ り
『 源 氏 物 語
』 は
〈 憧 れ
〉 か ら
〈 手 を 伸 ば せ ば 触 れ る こ と の で き る も の
〉 へ と 移 行 し た の で あ る
。 と は い え
、 第 一 級 と 目 さ れ る 長 大 か つ 難 解 な 古 典 文 学 を 読 む こ と は 決 し て 容 易 で は な い
。 こ れ は 現 代 の 我 々 に も 言 え る こ と で あ る が
、 た だ そ の テ ク ス ト を 追 う だ け で は 作 品 世 界 に 入 っ て い く こ と は で き な い
。 注 釈
、 研 究 論 文
、 現 代 語 訳
、 あ ら す じ と い っ た
、 作 品 へ の 何 か し ら の 橋 渡 し が 必 要 と な る
。 つ ま り 作 品 の 普 及 過 程 に お い て
、 全 文 提 供 に 次 い で
「 梗 概
」「 注 釈
」 と い っ た 作 品 へ 読 者 を 導 く た め の 数 々 の 橋 渡 し が 求 め ら れ
、 か つ 生 み 出 さ れ て い っ た の で あ る
。 こ れ ら は
『 源 氏 物 語
』 研 究 の 進 展 と 共 に 深 め ら れ
、 江 戸 時 代 が
『 源 氏 物 語
』 研 究 を 著 し く 深 化 さ せ た 時 代 と し て 位 置 づ け ら れ る に 至 る
。 国 学 者 を 中 心 と す る 人 々 の 研 究 成 果 は
、 今 日 の
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注 釈 書 の 土 台 を 築 き
、そ の 示 す と こ ろ は 未 だ 色 褪 せ る こ と は な い
。
『 源 氏 物 語
』 が 浸 透 し て く る と
、 今 度 は
『 源 氏 物 語
』 を 吸 収 し た 人 々 に よ る 二 次 的 な 営 為 が生 み 出 さ れ て く る
。そ れ は 例 え ば
、
『 源 氏 物 語
』 を も と に 新 た に 編 ま れ た 文 芸 作 品 で あ り
、 浄 瑠 璃 や 歌 舞 伎 と い っ た 演 劇 で あ る
。 王 朝 の 雅 は 大 い に 人 々 を 魅 了 し
、 多 く の 浮 世 絵 が 描 か れ た
。 或 い は
、 源 氏 香 や 装 束
・ 調 度 品 の 文 様 と い っ た 意 匠 と し て 伝 統 文 化 や 生 活 に も 自 由 に 取 り 入 れ ら れ て い っ た
。 こ の よ う に
、 江 戸 時 代 は
〈 作 品 の 提 供 お よ び 作 品 世 界 へ の 橋 渡 し
〉 と
〈 作 品 世 界 に 踏 み 入 っ た 人 々 に よ る
『 源 氏 物 語
』 の 二 次 的 営 為 の 生 産
〉 と い う 二 つ の 大 き な 流 れ が 存 在 し た
。 そ し て 両 者 が 関 わ り 合 う こ と に よ り
、 総 体 と し て 豊 か な
『 源 氏 物 語
』 文 化 を 構 築 し た 時 代 と な っ た の で あ る。 三
、 往 来 物 分 析 の 意 義 ー
『 源 氏 物 語
』 享 受 資 料 と し て ー 往 来 物 は 江 戸 時 代 に 初 等 教 育 書 と し て 普 及 し た 書 物 で あ っ た
。
〈 学 び
〉 を 前 提 と す る 書 物 で あ る た め
、 こ こ に
『 源 氏 物 語
』 が 収 録 さ れ た 場 合
、 教 材 と し て 収 録 内 容 の 選 択 が 行 わ れ
、 収 録 方 法 に 作 為 が 加 え ら れ る
。 こ の 点 が 大 き な 特 徴 で あ り
、 同 じ く 作 品 世 界 に 読 者 を 導 く 梗 概 書 や 注 釈 書 と い っ た 書 物 と は 一 線 を 画 す る こ と に な る
。 ま た
、 教 育 的 配 慮 や 作 為 と い う も の は そ も そ も 何 ら か の 目 当 て を も っ て 行 わ れ る も の で あ り
、 そ の 目 当 て は 当 時 の
『 源 氏 物 語
』 観 を 反 映 し た も の と な っ て い る は ず で あ る
。 し た が っ て 往 来 物 を 紐 解 く こ と は
、 教 育 的 観 点 を 切 り 口 と し て 当 時 の
『 源 氏 物 語
』 観 に 迫 る こ と に 他 な ら な い
。 し か も
、 往 来 物 が 初 等 教 育 書 と し て 普
及 し た 意 味 で
、 そ こ で 得 ら れ る
『 源 氏 物 語
』 観 は 当 時 の
『 源 氏 物 語
』 享 受 の 土 台 に 位 置 づ け ら れ る も の と いえ る
。 こ の よ う な 意 味 で
、 往 来 物 は
『 源 氏 物 語
』 享 受 研 究 に お い て 非 常 に 有 効 か つ 重 要 な 資 料 と し て 注 目 す べ き 存 在 な の で あ る
。 四
、 往 来 物 に お け る
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 次 に
、 往 来 物 に 収 録 さ れ た
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 の 全 体 像 を 確 認 す る
。 往 来 物 に つ い て は
、『 往 来 物 解 題 辞 典
』( 注 2
) が そ の 網 羅 的 書 誌 を 備 え る 基 礎 資 料 と な っ て い る
。 本 書 の 編 著 者 で あ る 小 泉 吉 永 氏 は
、 本 書 の 収 録 内 容 に そ の 後 の 研 究 成 果を 増 補 し
、「 往 来 物 デ ー タ ベ ー ス
」( 注 3
) と して 公 開 し て い る
。 こ れ を
「 源 氏
」 と い う 言 葉 を キ ー ワ ー ド に 検 索 す る と
、 往 来 物 に 収 録 さ れ て い る
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 を 大 掴 み に す る こ と が で き る
( 注 4
)。 こ の 結 果 を 整 理 し
、『 源 氏 物 語
』関 連 記 事 を 列 挙 す る と
、概 ね 次 の よう に な る( 注 5
)。 A. 源 氏 物 語 目 録
( 巻 名 を 列 挙 し た も の) B. 近 江 八 景 およ び 紫 式 部肖 像
( 近 江 八 景 を 背 景 に
、 石 山 寺 で 源 氏 物 語 を 執 筆 し て い る と お ぼ し き 紫 式 部 の 肖 像 を 描 く も の
) C. 紫 式 部『 源 氏物 語』 執 筆の 経 緯 D. 源 氏 物 語 引 歌 およ び 図
( 注 6
)
( 五 十 四 帖 各 巻 に つ い て
、 和 歌 一 首 を 挿 絵 と 共 に 示 す も の
) E. 梗 概
( 各 巻 ご と の あ ら す じ や 要 点 を 示 し た も の
)
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F. 文 字 鎖
(『 源 氏 物 語
』の 巻 名 を「 文 字 鎖
」( 注 7
)に 仕 立 て た も の
。)
も じ ぐ さ り
G. 消 息 文 例
( 注8
)
( 手 紙 文 例 集
。『 源 氏 物 語
』 の 由 来 お よ び概 要 を 手 紙 文 の 体 裁 に し た も の
、『 源 氏 物 語
』 の 借 用 を 申 し 出 る とい っ た 実 用 文 等 が あ る
。) H. 教 訓
( 特 定 の 場 面 や 登 場 人 物 を 取 り 上 げ て 徳 目 を 説 く も の
) I. か る た、 貝 覆い
( 遊 戯 の 解 説
。 当 時
『 源 氏 歌 か る た
』 と い う も の が あ っ た ま た 貝 覆 い の 貝 の 代 表 的 絵 柄 と し て
、 当 時
『 源 氏 物 語
』 が 用 い ら れ て い た
。) こ れ ら を 眺 め る と
、A
.
~C
. は 作 品 の 最 低 限 の 知 識 を 与 え る も の で あ り
、D
.E
. は 作 品 内 容 を 解 説 す る も の で あ る
。 こ れ に 対 し F. はA
. を 一 歩 進 め 巻 名 を 覚 え る 便 を 図 って お り
、G
. はD
.E
. に 消 息 文 の 作 法 を 理 解 さ せ る 要 素 を 加 え て い る
。H
. は
『 源 氏 物 語
』 を 教 訓 書 と し て 活 用 す る も の で あ る
。I
. は当 時 の 女 性 の 嗜 み の 一 つ と し て 提 示 さ れ て い る が
、『 源 氏 物 語
』 が往 来 物 学 習 者 に と っ て 書 物 で あ る と 同 時 に 遊 戯 と し て 認 識 さ れ て い た こ と を 伺 わ せ る
。 全 体 と し て 見 る と
、 作 者 に つ い て の 知 識
、 巻 名
、 作 中 和 歌
、 作 品 概 要 が 内 容 的 な 柱 と な っ て お り
、 こ れ ら が 最 低 限 の 知 識 と し て 共 有 さ れ た と い え る
。 場 合 に よ り 消 息 文 の 作 法 の 理 解
、 教 訓 と い っ た 要 素 と 融 合 し
、 必 ず し も
『 源 氏 物 語
』 作 品 世 界 に 導 く も の に 留 ま ら な か っ た よ う で あ る
。 五
、『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 と
『 女 要 珠 文 庫
』
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 が 掲 載 さ れ た 二 つ の 往 来 物 の 比 較 分 析 の 一 部 を 示 し
、 両 書 の 特 徴 や 今 後 の 分 析 課 題を 確 認 し て み た い
。 前 項 で 見 て き た よ う に
、 往 来 物 に お け る
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 は 多 様 に 存 在 し て い る が
、そ の 掲 載 場 所 は 大 き く 二 つ に 分 か れる
。 本 文 と 付 録 的 部 分(
「 前 付
」( 注9
)「 頭 書
」( 注
)「 後付
」( 注
)
ま え づ け
か し ら が き
あ と づ け
10
11 で あ る
。 全 体 と し て 見 る と
、 付 録 的 部 分 に 掲 載 さ れ て い る 場 合 が 多 い
。 こ こ で 取 り 上 げ る『 女 源 氏 教訓 鑑
』『 女 要 珠 文 庫
』は
、い ず れ も『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 が 往 来 物 全 体 の 中 心 を 占 め る 往 来 物 と し て 稀 少 な 存 在 で あ る
。 五 ー 一
、 書 誌 的 事 項
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 と
『 女 要 珠 文 庫
』 に つ い て は
、『 補 訂 版 国 書 総 目 録
』 に そ れ ぞ れ 次 の よ う に 示 さ れ て い る
。 女 源 氏 教 訓 鑑 お ん な げ ん じ き ょ う く ん か が み 一 冊
○
類往 来 物
○
成正 徳 三 刊
○
版正 徳 三 版ー 国会
・ 日 比 谷 加 賀
、 享 保 六 版 ー 東 大
、 元 文 元 版 ー 阪 大 女 要 珠 文 章 じ ょ よ う た ま ぶ ん し ょ う 一 冊
○
類往 来 物
○
成享 保 六
○
版岩 瀬
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い ず れ も 初 版 の 刊 行 は
、 正 徳 三
(1713
) 年
、 享 保 六
(1721
) 年 と 江 戸 前 期 と な っ て い る
。 特 に
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 に つ い て は
、 初 版 刊 行 後 に 享 保 六
(1721
) 年
、 元 文 元
(1736
) 年 と 二 度 再 版 が 行 わ れ て い る
。 中 で も 享 保 六
(1721
) 年 は
『 女 要 珠 文 庫
』 初 版 刊 行 の 年 と 重 な り
、 特 に 注 目 さ れ る
。 こ こ に 記 載 の な い 所 蔵 資 料 も そ れ ぞ れ に 複 数 存 在 し て お り
( 注
)、 あ る 程 度 の 普 及 を 達 成 し た 往 12 来 物 で あ る こ と が 伺 え る
。 五 ー 二
、 構 成 次 に 両 書 の 構 成 に つ い て
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 に 焦 点 を 当 て て 確 認 す る
( 注
)。 13 ま ず
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 は 全 七 十 七 丁 か ら な る
。 う ち 六 十 丁 の 本 文 と し て
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 を 収 録 す る
。 本 書 見 返 し に は 目 次 が あ り
、 こ こ に 示 さ れ た
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 を 示 す と 次 の 通 り で あ る
。 源 氏 六 十 帖 注 釈 源 氏 本 哥 五 十 四 首 石 山 近 江 八 景 源 氏 之 略 系 図 本 書 に は
、 ま ず 一 丁 目 裏
・ 二 丁 目 表 部 分 に
「 石 山 近 江 八 景 図
」 が あ り
、 二 十 一 丁 目 表 か ら
「源 氏 物 語 之 大 意
」( 図 1 右
)、
「 源 氏 六 十 帖 目 録
」( 図 1 左
) が 示 さ れ る
( 注
)。 こ れ に 次 い で
『 源 氏 物 14 語
』 各 巻 に つ い て の 引 歌 お よ び 挿 絵
(「 同 本 歌 五 十 四 首
」) と
、 梗 概
(「 源 氏 六 十 帖 注 釈
」 注
) を 一 組 と し て
、 桐 壺 巻 か ら 夢 浮 橋 ま 15 で そ れ ぞ れ 示 さ れ る
。 梗 概 の 見 出 し に は
、 源 氏 香 図 が あ し ら わ れ
て い る
。 後 付 部 分 に は
「 源 氏 物 語 一 部 大 意
」 が あ る
。 以 上 の よ う に
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 は
、四
、 往 来 物に おけ る『 源 氏 物 語』 関 連 記 事 の 類 型 の う ちA
.
~E
. を 収 録 し てい る こ と に な る
。
『 女 要 珠 文 庫
』 は 全 六 十 三 丁 か ら な る
。 う ち 五 十 二 丁 の 本 文 と し て
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 を 収 録 す る
。 本 書 見 返 し の 目 次 に 従 っ て 本 書 収 録 の
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 を 示 す と 次 の 通り で あ る
。 源 氏 香の 図 湖 月 女 文 章 こ れ ら の 記 事 は
、本 書 十 二 丁 目 表 か ら 一 続 き に 収 録 さ れ て い る
。 十 二 丁 目 表 に は 記 事 の 題 と し て
「 湖 月 女 文 章 粧 源 氏 同 香 之
こ け つ お ん な ぶ ん し や う
す か た け ん し
図
」 と あ り
、 紫 式 部 と 覚 し き 肖 像 が 描 か れて い る
( 図 2 右
)。 十 二 丁 裏 に は 五 十 四 巻 の 香 図 が 巻 名
( 仮 名 書 き
) と 共 に 示 さ れ て い る
( 図 2 左
)。 こ れ に 次 いで 引 歌
、 登 場 人 物 の 肖 像
、 消 息 文 仕 立 て の 梗 概 が 一 組 と な っ て 桐 壺 か ら 夢 浮 橋 ま で そ れ ぞ れ 示 さ れ る
。 以 上 の よ う に
『 女 要 珠 文 庫
』は
、 四、 往 来 物に おけ る『 源 氏 物 語』 関 連 記 事 の 類 型 の う ちA
.
~D
. お よ びG
. を 収 録 し て い る こ と に な る
。 両 書 に 収 録 さ れ る
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 の 構 成 を 見 る と
、 記 事 形 式 は 厳 密 に は 異 な る も の の
、 収 録 内 容 は 概 ね 重 な っ て い る こ と が わ か る
。
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図 1
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』「 源 氏 物 語 之 大 意
」「 源 氏 六 十 帖 目 録
」
( 東 京 都 立 中 央図 書 館 加 賀 文 庫 蔵 本
)
図 2
『 女 要 珠 文 庫
』 十 二 丁 目 表
・ 裏
( 吉海 直 人 氏 所 蔵 本
、『 稀 覯 往 来 物 集 成 第 一 六 巻
』 大 空 社 よ り 転 載
)
本図版については、最終丁に補足掲載の東京学芸大学附属図書館 望月文庫蔵本の図版を参照されたい。同書は、同一書名、刊記を備えている。
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図 3
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 桐 壺 巻
( 東 京 都 立 中 央 図 書館 加 賀 文 庫 蔵 本
)
図 4
『 女 要 珠 文 庫
』 桐 壺 巻
( 吉 海 直人 氏 所 蔵 本
、『 稀 覯 往 来物 集 成 第 一 六 巻
』 大 空 社 よ り 転 載
)
本図版については、最終丁に補足掲載の東京学芸大学附属図書館 望月文庫蔵本の図版を参照されたい。同書は、同一書名、刊記を備えている。
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両 書 の 紙 面 上 に お け る 構 成 に つ い て 考 え る た め
、 桐 壺 巻 に つ い て そ れ ぞ れ の 版 面 を 図 3
、 図 4 に 示 し た
。 こ れ ら を 見 比 べ る と
、 両 者 の 相 違 点 を 視 覚 的 に 把 握 す る こ と が で き る
。 ま ず 第 一 に 目 を ひ くの は
、 両 書 の 梗 概 文 の 差 違 で あ る
。『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 は 細 か な 文 字 に よ り 長 文 が 示 さ れ て い る
。『 女 要 珠 文 庫
』 は 大 字 で 散 ら し 書 き の 体 裁 で 示 さ れ て い る
。『 女 要 珠文 庫
』 が 往 来 物 で あ る 点 に 留 意 す る と
、 大 字 で 示 さ れ た 梗 概 は
、〈 書 き 写 す
〉 行 為 を 想 定 し た 手 本 と 見 る こ と が でき る
。 引 歌 掲 載 部 分 に つ い て 見 る と
、 両 書 共 に 散 ら し 書 き の 体 裁 で 示 さ れ て い る
。『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 で は 大 字 か つ一 部 読 み 仮 名 を 付 き で 示 さ れ
、 こ れ も
『 女 要 珠 文 庫
』 梗 概 の 場 合 と 同 じ く
〈 書 き 写 す
〉 行 為 を 想 定 し た 手 本 と 見 る こ と が で き る
。 併 せ て
、 読 み 仮 名 が 付 与 さ れ て い る こ と か ら
、〈 音 読 す る
〉 と い う 行 為 へ の 配 慮 も 施 さ れ て い る と い え る
。 こ れ に 対 し
、『 女 要 珠 文 庫
』 は 本 文の 消 息 文 に 比 べ て 小 さ な 文 字 で 示 さ れ て い る
。 本 文 に 対 し て
、 引 歌 は 付 録 的 な 位 置 づ け で あ る と い え よ う か
。 引 歌 と 共 に 示 さ れ た 挿 絵 に つ い て 見 る と
、『 女 源 氏 教訓 鑑
』 は 場 面 絵 で あ り
、 誕 生 し た 光 源 氏 を 女 房 ら し き 女 性 が 桐 壺 帝 に 対 面 さ せ る 図 柄 と な っ て い る
。 引 歌 は 光 源 氏 元 服 の 儀 式 の 場 で
、 葵 上 と の 婚 礼 を 示 唆 し て 桐 壺 帝 が 左 大 臣 に 詠 み か け た 歌
(「 い と き な き 初 も と ゆ ひ に な が き よ を 契 る 心 は む す び こ め つ や
」) であ り
、 挿 絵 と 直 接 の 関 連 を 持 つ も の で は な い
。 こ れ は 物 語 最 初 の 巻 と し て
、 光 源 氏 誕 生 の 場 面 を 配 置 し た と い う こ と で あ ろ う か
。 つ ま り
、 引 歌 と 共 に 示 さ れ る 挿 絵 は
、 引 歌 の 理 解 を 導 く 引 歌 の 補 足 資 料 で は な く
、 そ れ 独 自 が 物 語 を 読 者 に 説 き 起 こ そ う と す る も の で あ る と い え る
。 し た が っ て
、 一 度 引 歌 と 切 り 離 し て 分 析 し て い く 必 要 が あ
り そ う で あ る
。
『 女 要 珠 文 庫
』 の 引 歌 の も と に は
、 桐 壺 帝 の 肖 像 画 が 示 さ れ て お り
、「 きり つほ の み か と
」 と 見 出 し が あ る
。 天 皇 で あ る た めか
、 御 簾 に よ っ て 姿 が 伏 せ ら れ て い る
。 い わ ゆ る 人 物 便 覧 の よ う な 体 裁 で あ り
、 桐 壺 巻 以 降 各 巻 に つ い て 一 名 の 肖 像 画 を 名 と 共 に 示 し て い る
。『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 と は 異 な る 趣 向 で あ り
、『 女 要 珠 文 庫
』 の 特 徴 で あ る と い え る
。 五 ー 三
、 本 文 の 比 較
・ 分 析
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 と
『 女 要 珠 文 庫
』 は
、 共 に 本 文 と し て 引 歌 と 梗 概 を 収 録 し
、 書 物 の 中 心 と な っ て い る
。 こ こ で は 桐 壺 巻 お よ び 箒 木 巻 に つ い て 引 歌 と 梗 概 の 翻 刻 を 示 し
( 注
)、 両 者 を 比 較 し な 16 が ら そ れ ぞ れ の 特 徴 を 確 認 す る
。 ま ず
、 両 書 の 引 歌 を 巻 毎 に
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 をA
.
、『 女 要 珠 文 庫
』 をB
. と し て 以 下 に 示 す
。
【 桐 壺 巻
】 A. いと き な き 初 もと ゆひ に なが きよ を 契 る 心は む す びこ めつ や B. い と き な き はつ もと ゆひ に な か き よ を 契 るこ ゝ ろ は む すひ こ めつ や
【 箒 木 巻
】 A. 数 な らぬ ふせ やに おふ る なの う さに あ るに も あ らで き ゆ るは ゝ き ゞ
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B. 数 な らぬ ふ せや に お ふ る なの う さに あ るに も あ らて き ゆ るは ゝ き 両 ゝ
書 の 引 歌 を 見 比 べ る と
、 表 記 の 若 干 の 異 同 を 除 い て 一 致 し て い る こ と が わ か る
。 こ の こ と は こ の 二 巻 に 限 ら ず
、 全 体 を 通 し て い え る こ と で あ る こ と を 確 認 し て い る
。『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 類 型 と し て の 源 氏 物 語 引 歌 は
、 先 行 研 究 に お い て 全 て 同 じ 和 歌 に よ り 構 成 さ れ て い る こ と が 確 認 さ れ てい る( 注
)。
『女 源 氏 教 訓 鑑
』『 女 17 要 珠 文 庫
』 に 収 録 さ れ た 引 歌 は
、 こ の 引 歌 に も 一 致 し て お り
、 類 型 を 踏 襲 し た も の と な っ て い る
。 次 に 梗 概 部 分 に つ い て 見 て い く
。 両 書 の 梗 概 本 文 は
、 比 較 の 便 を 図 る た め
、 内 容 的 ま と ま り に よ り 分 け
、 そ れ ぞ れ に 記 号 お よ び 記 事 名 を つ け た
。
【 桐 壺 巻
】
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 此 き りつ ほの 巻 は 巻 の 中 のこ と ば を と りて 名 と し た る な り。 イ
. 巻 名 の 由 来 き りつ ほ と は 大 内に あ る 御 殿 の 名 な り。 そ の 桐つ ほ に ゐ 給 ふ 更 にて 此 女 官 の 御 局 にて み か どつ ねに 御 衣 を め し か ゑ 給 ふ。 更 衣 と はこ ろ も か ゆ る と よ む ゆへ に な づ く る な り。 此 更 衣 は み か ど 御 て う 愛 あ さ か ら す。 此 御 は らに いて き 給 ふ 御 子
を 光 源 氏 の 君 衣 な れ は き りつ ほ の 更 衣 と 申 也。 更 衣 と は 后 につ ぎ な る 女 官 と 申 な り。 此 巻 に は 更 衣 を み か ど の 御 て う あ ひ ふ か く あ り て。 ひ か る 源 氏 の う ま れ 給 ふ の ち ふ か く 煩 給 ひて つい に か く れ 給 ふ 也 ロ
. 物 語 の 解 説
( 光 源 氏 の 誕 生
) 又 源 氏 十 二 歳 の 御 と し 御 元 服 ま し くて 左 大 臣 の 御 む す め あ ふ ひの うへ と 御こ ん れい の 事 ま で あ り ハ
. 引 歌 詠 出 の 背 景 み か ど の 御 歌に
○い と き な き はつ も と ゆ ひに な が き よ を ち ぎ る 心 は む す ひこ めつ や。 此 心 は け ん ぷ く の 時 の 髪 を 紫 の く み た るい と にて 結 ふこ れ を はつ も と ゆ ひ とい ふ な り。 な か き よ を ち ぎ る 心 と は あ ふ ひ の うへ を こ よ ひ 御 そ ひ ぶ し に と の 心 は む す ひこ め よ と な り。
ニ
. 引 歌 の 解 釈 源 氏 十 三 四 五 歳 の 御 と し のこ と も 此 巻に こ も り て あ る な り
ホ
. 年 立
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『 女 要 珠 文 庫
』 ま
ず
、 先 程 版 面 を 示し た 桐 壺 巻 に つ い て 見 て み る
。『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 梗 概 の 内 容 を 見 る と
、 イ. 巻 名の 由 来
、ロ
. 物 語の 解 説( 光 源 氏 の 誕 生)
、ハ
. 引 歌 詠 出 の 背 景
、ニ
. 引 歌の 解 釈
、 ホ. 年 立 と い う 構 成 と な っ て い る
。 こ れ に 対 し
『 女 要 珠 文 庫
』 は
、ロ
. 物 語の 解 説( 光 源 氏の 誕 生)
、 ハ. 引 歌 詠 出の 背 景
、ヘ
. 消 息 文の 結 語 と い う 構 成 と な っ て い る
。 特 に
、『 女 要 珠 文 庫
』は 内 容 と し て は 作 品 梗 概 で あ り つ つ も
、「 か し く
」 と い う 結 語 が 添 え ら れ
、 消 息 文 の 体 裁 と な っ て い る
。 先 に 紙 面 構 成 の 比 較 で 触 れ た よ う に
、 本 書 は 紙 面 構 成 と し て
〈 書 き 写 す
〉 行 為 を 想 定 し た 手 本 と な っ て い た
。 こ の こ と を 踏 ま え る と
、 本 書 で は 消 息 文 の 形 式 と
『 源 氏 物 語
』 の 内 容 お よ び 引 歌 に つ い て の 知 識 を 習 得 す る こ と が 目 指 さ れ た こ と が わ か る
。
【 箒 木 巻
】
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 桐 壺 の 更 衣 御 産 の ひ も 御 と き 遊 は し や す
く
と 御 誕 生 玉 の や う 成 御 若 宮 にて ひ か る 君 と 申 にて ロ
. 物 語 の 解 説
( 光 源 氏 の 誕 生
) ほ と な く 十 二 才 の 御 元 ふ く も 過て あ ふ ひ の 上 と 御 こ ん れい あ り し と の 御 事 候
ハ
. 引 歌 詠 出 の 背 景 か し く
ヘ
. 消 息 文 の 結 語
此 巻 は 歌 の 詞 を もつ て 名つ き た る 也。 イ
. 巻 名 の 由 来 光 源 氏の 十 六 歳 の と き
ホ
. 年 立 御 う ち の 人い よ の 介 とい ふ も の ゝ 家。 中 川 とい ふに 御い で あ りて
。 ひ そ か にい よ の 介 がつ ま うつ せ み の 君 の も とへ 忍 ひ て 逢 給 ひて の ち。 うつ せ み の 弟 小 君 とい ふ を 御 使 に て 御 文つ か は さ れ け れ は。 うつ せ み は 世 の き こ え 身 を は ぢ て か く れて 逢 たて まつ ら す
ハ
. 引 歌 詠 出 の 背 景 その 時 け ん し よ みて や り 給 ふ は ゝ きゞ の 心 も し ら で そ の は ら の み ち に あ や な く ま ど ひ ぬ る か な。 此 歌 の は ゝ 木 ゞ と いへ る は 美 濃 の 国 と 信 濃 の 国 の 境に
。 そ の は ら ふ せ 屋 とい ふ 所 に 木 あ り。 其 木 を と ほ く よ り み れ は 箒 を た て た る や う に て 近 て み れ は か れ に に た る 木 も な し。 か れ ゆへ あ り と み て あ は ぬ 心 に た とへ てい ふ こ と 也。
- 143 -
『 女 要 珠 文 庫
』
続 い て 箒 木 巻 に つ い て 見 て み る
。『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 は
、イ
. 巻 名 の 由 来
、 ホ. 年 立、 ハ. 引 歌 詠 出の 背 景
、ニ
. 引 歌の 解 釈 と い う 構 成 と な っ て い る
。 順 序 の 違 い は あ れ
、 こ れ ら は 全 て 桐 壺 巻 と 共 通 し て 示 さ れ て い る も の で あ る
。 ま た 長 文 の 梗 概 全 体 の 大 凡 を 占 め る 記 述 で も あ る
。 こ の こ と か ら
、『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 梗 概 の 核 が 巻名
、 年 立
、 引 歌 解 説 で あ る こ と が 伺 え る
。 こ れ に 対 し
『 女 要 珠 文 庫
』 は
、ロ
. 物 語の 解 説( 雨 夜の 品 定 め)
、 ハ. 引 歌 詠 出の 背 景
、ヘ
. 消 息 文の 結 語 と い う 構 成 と な っ て お り
、 桐 壺 巻 と 一 致 す る
。 物 語 の 解 説 と し て 雨 夜 の 品 定 め と い う 著 名 な 場 面 を 取 り 上 げ て い る 点 が
、『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 と 異 な る
。 こ う し た 梗 概 の 構 成 や 特 徴 を も と に
、 両 書 に つ い て 次 の よ う に ま と め る こ と が で き る
。 い ず れ も 内 容 と し て 巻 名
、 引 歌 に 関 す る 要 素 を 備 え て い る こ と か ら
、 こ れ ら が
『 源 氏 物 語
』 理 解 に あ た っ て 不 可 欠 な 要 素 と し て 認 識 さ れ て い た と 見 る こ と が で き る
。 特 に
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 は
、 引 歌 の 理 解 に 主 眼 を 置 い た 梗 概 で あ る と い っ て よ い
。 し た が っ て 引 歌 の 解 説 分 量 に よ り
、 物 語 の 解 説 は 適 宜 抑 え ら れ た と 考 え る こ と が で き る
。 そ れ に 代 え て
、 巻 名 の
し らて と かこ ち 給 ひ し ゆへ 巻 の 名 と 成 り し ハ
. 引 歌 詠 出 の 背 景 か し く
ヘ
. 消 息 文 の 結 語
歌 心 は。 は ゝ 木 ゝ を 有 と 思 ひ て 立 よ り て み れ は。 み う し な ふ と い ゝ な ら は し た る にい ま うつ せ み を 見 う し な ひ た る よ と の 心 也。 うつ せ み かへ し か す な ら ぬ ふ せ 屋 に お ふ る 身 の う さ に あ る に も あ ら で き ゆ る はゝ 木 ゞ。 此 心 は か す な ら ぬ わ かい や し き 身 な れ は。 さ だ ま り た るつ ね あ る ゆへ
。 あ る に も あ ら れ す か く れ た る とい へ る 心 な り ニ
. 歌 の 解 釈 光
る 君 御 内 住 のつ れ
く
に わ か き 人
く
参 りつ と ひ て 女 の か み な か し も の 品 さ た め あ り し と か や 指 喰 の 女 木 か ら しの
ゆ び く い
こ
あ た 人 な と
ロ
. 物 語 の 解 説
( 雨 夜 の 品 定 め
) ま た は い よ の 介 の 妻 空 蝉 かつ れ な か り し に は ゝ き ゝ の 心 も
- 144 -
由 来 お よ び 年 立 を 示 し
、 梗 概 と し て の 基 本 要 素 を 備 え よ う と す る 姿 勢 が 見 え る
。 先 に 紙 面 構 成 の 比 較 で 触 れ た よ う に
、『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 で は 引 歌 が 大 字 か つ 振 り 仮 名 付 き で 示 さ れ て お り
、〈 書 き 写
〉 し
、〈 音 読 す る
〉 手 本 と し て の 体 裁 を 持 っ て い た
。 こ の 点 を 合 わ せ る と
、 本 書 は 引 歌 の 習 得 を 総 合 的 に 目 指 す べ く 編 ま れ た 往 来 物 で あ る と い え る
。 こ れ に 対 し
『 女 要 珠 文 庫
』 は
、 消 息 文 の 手 本 と し て の 体 裁 を 取 る ゆ え に
、 梗 概 文 の 分 量 が 概 ね 百 字 程 度 に 抑 え ら れ て い る
。 そ の 中 で 示 さ れ る の は 各 巻 の 物 語 に つ い て 最 小 限 の 解 説 と 簡 潔 に ま と め ら れ た 引 歌 詠 出 の 背 景 で あ る
。 当 時 消 息 文 の 習 得 は 特 に 重 視 さ れ た も の で あ り
、 こ れ を 目 的 と す る 往 来 物 は 往 来 物 全 体 の 中 で も 大 き な 位 置 を 占 め る
。 こ こ に
『 源 氏 物 語
』 に 関 す る 基 本 要 素 が 組 み 込 ま れ た と い う こ と は
、『 源 氏 物 語
』 に 対す る 知 識 的 需 要 を 考 え る 上 で 一 つ の 手 が か り と な る
。 六
、 ま と め ー 今 後 の 課 題 ー 往 来 物 に お け る
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 は 多 様 で あ り つ つ も
、 一 定 の 類 型 を も っ て い る
。 中 で も 梗 概 は
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 や
『 女 要 珠 文 庫
』 の 比 較 事 例 に 見 え る よ う に
、 巻 名 お よ び 引 歌 を 核 と す る 点 に 特 徴 が あ る
。 江 戸 時 代 に は
、 広 く 普 及 し 始 め た
『 源 氏 物 語
』 へ の 橋 渡 し と し て 多 く の 梗 概 書 や 注 釈 書 が 刊 行 さ れ た が
、 そ れ ら は 概 ね 物 語 を 短 く 縮 め た ダ イ ジ ェ ス ト 的 な も の で あ り
、 或 い は 本 文 テ ク ス ト を 詳 細 に 解 説 す る も の で あ っ た
。 し た が っ て 往 来 物 に み え る 梗 概 は
、 同 じ 梗 概 で あ り つ つ も
、 こ れ ら と は 異 な る 様 相 を 示 し て い る と い
え る の で は な い か
。
『 女 源 氏 教 訓 鑑
』 や
『 女 要 珠 文 庫
』 は
、 そ れ ぞ れ
〈 正 徳
〉、
〈 享 保
〉 と い っ た 江 戸 時 代 初 期 に 刊 行 さ れ
、 以 降 再 版 を 重 ね つ つ 普 及 し た
。 ま た 往 来 物 に お け る
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 全 体 の 中 で は
、 こ う し た
『 源 氏 物 語
』 を 書 物 の 中 心 と し て 扱 う も の は 稀 で あ り
、 こ れ ら に 続 く 類 書 は 現 在 の と こ ろ 見 ら れ な い
。 巻 名 や 引 歌 に 主 眼 を 置 く 記 事 が 往 来 物 に 非 常 に 多 く 見 ら れ
、 江 戸 時 代 を 通 し て 代 表 的 な 記 事 類 型 で あ り 続 け た 中 で
、 両 書 は 往 来 物 に お け る
『 源 氏 物 語
』 関 連 記 事 の 始 発 点 に 位 置 す る も の と して 注 目 さ れ る
。 今 後 の 課 題 と し て
、 両 書 を よ り 詳 細 に 分 析 し
、 時 代 背 景 や 文 化 状 況 に も 照 ら し な が ら
、 本 稿 に 示 し た 特 徴 や 傾 向 を 改 め て 論 証 す る 予 定 で あ る
。 両 書 は 数 多 く あ る 往 来 物 の ご く 一 部 に 過 ぎ な い
。 両 書 を 土 台 と し
、 さ ら に 個 々 の 往 来 物 の 分 析 を 進 め て 行 く こ と が 必 要 で あ る
。 こ れ ら の 積 み 重 ね に よ っ て
、 往 来 物 が 独 自 に 形 成 し た
『 源 氏 物 語
』 へ の ア プ ロ ー チ を 明 ら か に し
、 し い て は
『 源 氏 物 語
』 享 受 の 実 相 理 解 へ と 繋 げ た い
。 注
( 1
)「 教 材
」 は 近 代 以 降 の 学 校 教 育 に お け る 概 念 の 一 つ で
、 主 と し て 教 科 書 に 収 録 さ れ
、「 教 育 目 標 達 成 の 必 要 に 応 じ
、 子 ど も や 青 年 に 習 得 さ せ る た め に 選 択 さ れ た 文 化 的 素 材
」(
『 岩 波 小 辞 典 教 育
』 勝 田 守 道 ほ か
・ 岩 波 書 店
・ 一 九 七 三
) と 定 義 さ れ る
。 往 来 物 を 近 世 に お け る 教 科 書 と し て 位 置 づ け る と
、 そ こ に 収 録 さ れ た 記 事 お よ び 出 典 は
「 教 材
」 と し て 見 る こ と が で き る
。 本