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「落窪物語」「枕草子」「源氏物語」の笑いについて

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(1)

L ﹁笑﹂は、いついかなる時代においても、無くなること はない。人聞を描く文学作品には、いうまでもなく至る所 に、笑う場面が描かれる。大笑・咲笑・酬明笑・微笑・悌笑 ・冷笑・苦笑文快感の笑い・悲しみを糊塗する笑い等種々 様 々 で あ る 。 落窪物語・枕草子・源氏物語にも、勿論笑う場面が描か れ て い る 。 ただ、﹁笑﹂と言えば、登場人物が笑う場面だけでなく 登場人物は極めて真面目に行為し、会話しているにも拘ら ず読者は思わず笑いを催すこともある。叉典薬助、面目駒 ・源典侍・末摘花・近江君等は、滑稽の要素の強い人物で あ る 。 作品の﹁笑﹂については、或巻、或箇所の笑いの要素や 滑稽の人物の考察がより必要であろうと思う。 だがここでは、具体的に、﹁笑ふ﹂﹁うち笑ふ﹂﹁ゑむ﹂ ﹁ う ち ゑ む ﹂ ﹁ ほ L ゑむ﹂﹁うちほ L ゑ む ﹂ ﹁ ゑ み ま く ﹂ ﹁笑み栄ゆ﹂﹁笑みひろごる﹂等笑いに関する語から考え て み た い と 思 う 。

の笑いについて

浦 英

ここに取り上げた作品の読後印象が、各々、異なるよう に、笑いの質も異なるだろう。笑いに関するこれらの語に も、何らかの相違点がありはしまいか。この仮定の上に、 考察してみたものがこの稿である。 テ キ ス ト . は 、 手 許 に あ っ た の で 、 源 氏 物 語 と 枕 草 子 が 、 日本古典文学大系、落窪物語は日本古典全書を使った。た だし頁数を比較する時は、すべて日本古典文学大系によ マQo -19-付﹁笑ふ﹂という語からみた三作品 一般的な読後印象として、落窪物語や枕草子は明るく、 源氏物語は沈んだ感じを受ける。この印象は﹁笑ふ﹂とい う語の場合、どのような結果が出るだろうか。 表

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は、各作品の﹁笑ふ﹂の語数である。 ︵※頻度とは日本古典文学大系落窪物語の凡その頁数二

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頁に﹁笑ふ﹂という語数七

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と す る。この時、枕草子の同じく約二九

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頁に一四一語は

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頁に七一語は引の頻度にな

(2)

る と い う 意 味 で あ る 。 ※﹁笑ふ﹂の中には、﹁死 にかへり笑ふ﹂﹁笑ひ死ぬ ﹂﹁笑ひののしる﹂﹁わら ひにくむ﹂﹁にくみ笑ふ﹂ ﹁ 笑 わ ら ふ ﹂ ﹁ 興 じ わ ら ふ ﹂ ﹁わらひ興ず﹂﹁わらひね たがる﹂﹁わらひありく﹂﹁わらひまどふ﹂﹁わらひそ ぼる﹁もどき笑ふ﹂﹁笑ひあなづる﹂﹁笑はす﹂﹁笑は る ﹂ を 含 む 。 ︶ 表

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をみれば分かるように、作品の量︵頁数︶を考えれ ば、枕草子が﹁笑ふ﹂の語は最も多く、次に落窪物語で、 源氏物語はこれら二作品に比べ極度に少ない。落窪物語の 約

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一 叩 、 枕 草 子 の 約

1

一 日 円 で あ る 。 註

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田 中 重 太 郎 博 士 に な ら っ て 、 暗 の 部 の 代 表 語 且 棄 を 仮 に 一 段 と し 、 コ 一 作 口 聞 を 比 較 し て み よ う 。 源 氏 物 語 で は 、 一 七 七 例 ︵﹁涙﹂一六五例、﹁御涙﹂十例、﹁老いの涙﹂﹁ひとつ 註

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涙﹂各一例︶、枕草子では三巻本・五例、能因本・七例、 l 落窪物語は七例ハ﹁涙﹂五例、﹁涙川﹂﹁涙の川﹂各一例︶ である。﹁涙﹂という語棄は、各作品の量を考慮しても、 源氏物語が他二作品の二乃至三倍はある。 ﹁笑ふ﹂のは、おかしい嬉しい時ばかりでなく、悲しみ の中で笑う例があるにしても、それは特殊である。﹁笑ふ﹂ 一 ﹁ 笑 ふ ﹂ 一 頻 度 一 の 語 数 一

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一落窪物語一刊一 1 表 一 枕 章 子 一 間 一 川 源 氏 物 語 一 汁 一 山 を明の部の代表語棄とすれば、以上の結果から一応落窪物 語や枕草子は、明の文学、源氏物語は暗の文学と言えよ A

優しい気持の伴わぬもの。 又は寧ろ悪い結果を承知し 註

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たものとも考えられる。﹂と言われている。氏は﹁笑﹂と ﹁咲﹂を区別されていると思うが、作品の個々の﹁笑ふ﹂ の例には、柳田氏の言われるワラフに該当しない場合も多 そこで仮に次のコ一つに﹁笑ふ﹂を分けて三作品の個々の 例をみてみよう o ①、柳田氏の言われる前記のワラフ、期笑の類。 ②、寛容の笑い。感心しての笑い。相手をいたわる笑 ぃ。好意的な笑い。人生の潤滑油ともいうべき笑いで むしろ結果を良い方向へ向けようとする笑い。 ③、①②どちらとも決めかねるもの。場面の設定がなく 単に笑っている様子といったその他の笑い。

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内は%を示す﹀じ方・考え方によ 柳田国男氏は、﹁ワラフは、 結 果 、 が ど う な る か を 考 え ぬ か 、 - 20←

(3)

っ て 多 少 の 変 動 が あ ろ う 。 ﹀ 落窪物語で①が多いのは、少将が継母に復讐を企てる部 r 分にある笑いが、ほとんど①に入る為である。四十一例中 三十三例迄がこの復讐謹の部分の笑いである。女君を虐待 した継母が、少将方から笑いおとされるわけである。これ ら①の笑いは柳田氏の言われる H 刃物では傷けない一種の 闘 争 、 又 は 優 劣 の 露 骨 な 決 定 を 一 示 す 笑 い μ ではあるが、笑 われる継母には継子をいじめたという倫理的欠陥がある為 に、笑いは明朗・閥達・率直の感がある。 ①以外の笑いは、落窪姫君が、夫少将の滑稽な言い方を 笑う幸福な笑いハ二三八・二六

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頁 ︶ 少 将 の 母 北 の 方 、 が 物 見の帰途、落窪姫君を自邸に連れて行こうとして、少将に 虚れ言を言って笑う、大らかな笑い︵二七

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頁 ︶ 等 が あ る 。 全体を通して落窪物語の笑いは、明朗・閥達・率直であ る 。 枕草子の①に属すると思われる笑いは、一二十六例ハ二十 六%︶程である。中で目立つのは、生昌を笑っている例八 ︵八段︶、方弘を笑っている例八︵五六段、一

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八 段 ︶ 、 家を焼かれて泣き出さんばかりの文盲の男を笑っている例 四 ︵ 一 一 二 四 段 ﹀ で あ る 。 生昌や方弘は、﹁官位が低いと同時に、宮廷的教養に適 合しないものを持っていたからだが、実は彼らこそ政治的 にも、経済的にもそして人間的にも非凡な気骨ある官吏で 他の資料によって佐藤謙三氏の強調された ヨ u v t u v ことでもあり。﹂と秋山鹿氏が述べていられる

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杉山康彦 註納 氏は又次のように言われている。﹁英雄時代の戦勝の笑い は、それは実力によって得た笑いだから明るいが、階級社 会におけるそういう笑いは残忍で暗い。それはこの笑い の笑われる立場のものは、どんな努力をしても、その 立場を脱れられないという運命にあるからである o ﹂ と ︵傍点筆者︶わトいト笑いとは、敗北者、被征服者を笑う 笑いの事である。落窪物語の復讐諸にみられる笑いは、英 雄時代の戦勝の笑いといった明るさがあるのに対して、こ れらの枕草子の笑いは、不当な醐笑という感があり、残忍 な 暗 さ が あ る 。 あ っ た こ と は 、 -21-中宮定子の笑っている例︿二十二例﹀、主上の笑いハ五 例︶等は、ほとんど②に属する笑いである。寛容を一万す笑 い、明るい知的な笑い、思いやりの笑いである o ②の中で も、女房達が笑っている例は、全く①の要素が無いとは言 えないが、しかし﹁優越を示す笑い、むしろ悪い結果を予 想している笑い﹂とも言い難い。②に入れる方が自然で、他 愛なく笑い興じるといった体のものである。むしろ人生の 潤滑油とも言える。﹁ざえ﹂の競い合いの中での笑い、機 註川 智、ウイットの笑いがある。 源氏物語では、①の笑いは落窪物語や枕草子に比べて少

(4)

ない。十例︿十四%﹀程である。その十例中七例は、物語 の登場人物が笑っている倒ではない。﹁誰々に笑われる﹂ ﹁笑わせて下さるな﹂といった類の用い方である。残りの 三例は、源典侍・末摘花・タ霧大学の学生入学の字つけ儀 式の際の博士達を笑う例である。この笑われる人は、各々 滑稽の要素を備えた人物である。従って不当な瑚笑と言っ た 暗 さ は 無 い 。 ②に入ると思われる例は、枕草子や落窪物語にもみられ る。冗談を言い合っての笑い、嫉妬する女君のさまが美し いので笑いながら男君が御気嫌を取る等である。 落窪物語・枕草子にも無い笑いで、内心困却しながら笑 う、内心の不快を押し隠して笑うという例が数例ある。 ︵ 近 江 君 ︶ 内大臣が大宮に﹁いと不調なるむすめまうけ侍りて、も てわづらひ侍りぬ﹂とうれへ聞え給うて笑ひ給ふ︵野③六 回︶嶺黒の大将が玉霊を我物顔にするのを、内心﹁からし﹂ と思いながら表面何気ない顔で笑う︵真③一五一一一﹀等であ る。複雑な陰影のある笑いとでも言おうか。

(2) (1) ﹁枕冊子に於ける笑い﹂︵﹁国文学﹂

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︶ 源氏物語と枕草子の﹁涙﹂の語数は﹁枕附子に於 げ る 笑 い ﹂ に よ る 。 ﹁ 笑 の 本 願

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女の咲顔|﹂定本柳田国男集第七巻 二 一 二 一 頁

(3)

(5)但) 同 二 コ 一 五 頁 ﹁枕草子の人生批評﹂︵﹁源氏物語の世界﹂所収 佐藤謙三氏の論文は﹁平安朝宮廷文学の背景﹂で ﹁ 文 学 ﹂

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に記載の由である。︶ 。制﹁王朝期の笑い﹂︵﹁文学﹂一九五三、八︶ 。的註仰に同じ ︵※源氏物語の引用文の下に︵︶で示じているのは、 ︵巻名・日本古典文学大系の巻数・頁﹀である。﹀ ふ そ の 表 (3) で 」 表 の 約 1

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4 笑ふ﹂は各々八七・五%、九五・一二%を占める。しかし源 氏物語では﹁うち笑ふ﹂が増していて四六・六%を占めて い る 事 で あ る 。 明解古語辞典﹁うち﹂の項をみると﹁ハ門︵動詞の前につ けて︶その意味を強める。同ハ動調の前に添えて︶その動 作の軽いことを表わす。チヨット:::スル﹂とある。 日 本 文 法 辞 典 ︵ 航 糊 山 恒 棚 一 縮 ︶ 接 頭 語 の 項 に は 、 ﹁ 下 の 語 基にある意味を付加するものである。即ちその語基の意味 を強めたり、語感をつけ加えたり、状況を象徴したり、あ る、ニュアンスを与えたりするものである o ﹂と説明され て い る 。 個々の﹁うち笑ふ﹂の例をみても﹁うち﹂は確かにある 語感・ニュアンスを与えたり、語基を強めたり、笑いの軽 い こ と を 示 し た り す る 。 換言すれば﹁うち笑ふ﹂は、笑っている人の心に、くっ たくのある笑いであり、あるいは作者のある感情がこめら れた笑いであったりする。 反して﹁笑ふ﹂は一般に笑っている人の心に陪さはなく 率直さ、明るさがあると言える。こだわりのない笑いなの で あ る 。 表制に一不す通り、落窪物語と枕草子は、﹁笑ふ﹂が大多 数を占め、源氏物語では一うち笑ふ﹂が約半数を占めてい る。源氏物語には内心のこだわり、悶惑を押しつ与んで表 面は笑うという例があった事と相倹って、落窪物語・枕草 子は明朗、率直、間違な文学であり、源氏物語は陰影の多 い 文 学 と き ? え る だ ろ う 。 伺、﹁笑ふ﹂と﹁ゑむ﹂﹁うちゑむ﹂﹁ほ L ゑ む ﹂ ち ほ L ゑむ﹂﹁その他﹂の比率からみた三作品、 笑いに関する語としては、﹁笑ふ﹂﹁うち笑ふ﹂の他に ﹁ゑむ﹂﹁うちゑむ﹂﹁ほ t 士 ゑ む ﹂ ﹁ う ち ほ L ゑむ﹂﹁笑 みまく﹂﹁笑み栄ゆ﹂﹁かたゑむ﹂﹁ゑみひろごる﹂等が あ る 。 これらは少しずつ異なった笑い方であろう。﹁ほうや日む L は︵頬にまず笑みが現れるから﹁ほ L ゑみ﹂であると柳 田国男氏が言われている。﹀落窪物語の五例中、少将が﹁ ほ L ゑむ﹂のが三例、落窪姫君が二例である。源氏物語で ﹁ ほ L ゑむ﹂のは、六六例中、光源氏が三五例、タ霧四例 紫 上 コ 一 例 、 梅 の 花 一 一 一 明 、 そ の 他 頭 中 将 ・ 薫 ・ 匂 宮 ・ 柏 木 等 である。︵枕草子に例はない。︶﹁ほ L ゑむ﹂のは階級的 にかなり上位に位置する人であり、かなり理想的に措かれ ている人々である。﹁ゑむ﹂は、面白駒が笑んだりしてい る例があって、同じえがおにしても﹁ほ L ゑむ﹂の方が上 品な美しいえがおであるようである。﹁ほ L ゑむ﹂﹁ゑむ ﹂に﹁うち﹂がつけばアフち笑ふ﹂の場合と同じく、えが おを作っている人の一、叉作者のあるくったくある感情がこ

- 23

(6)

められていると考えてよいようである。 ﹁笑みまく﹂は落窪物語四例つ二

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頁二三九タ二四八 。 三

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因。﹀源氏物語一例ハ末①二四六﹀計五例ある。こ れらの例からは、﹁笑みまく﹂は何の考えもなく、嬉しい ばフかり、可愛いばっかりに、ひたすら笑むというのであ る。老人のほけぼけしい笑いが多く、笑む人を卑しめる気 持 が 伴 っ て い る 。 ﹁笑み栄ゆ﹂は源氏物語にのみ五例ある。︵末①二五六 ・葵①三二三・明②六六・胡②三九七・総④四三︶この五 例から﹁笑み栄ゆ﹂は素晴しく美しいもの︵こと﹀を見聞 して何の考えもなくた X 笑むという意となる。これもやム 卑しめた笑み方のようである。 ﹁かたゑむ﹂﹁ゑみひろごる﹂は各々源氏物語に一例ず つである。ハ帯①七八・宿⑤一

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五 ﹀ ﹁ゑむ﹂﹁うちゑむ﹂﹁ほ L ゑむ﹂﹁うちほ L ゑむ﹂﹁ 笑みまく﹂﹁笑み栄ゆ﹂﹁かたゑむ﹂﹁ゑみひろごる﹂等 が、各々異ったえがおではあっても、﹁笑ふ﹂が戸のある 笑いであるに対して、声のない笑いとしてまとめられよ ﹀ 円 ノ 。 表 一 川 刊 は 、 ﹁ 笑 ふ ﹂ と 戸 の な い 笑 い つ え が お ﹀ と に 分 け て 各作品の例をみた表である。 ︿※﹁その他﹂は﹁笑みまく﹂﹁笑み栄ゆ﹂﹁かたゑむ ﹂﹁ゑみひろごる﹂﹁ゑみの肩関く﹂である。﹁ゑむ﹂ (4) 嵐 氏 物 語 枕 草 子 (100) (100) (100)計 211 160 89 (34)

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(79) 笑 71 70 ふ〉 (16!6 (1192) (2191) がえ許よ

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4 他 表 には﹁ゑがち﹂﹁独りゑみす﹂﹁御独りゑみ﹂を含む。﹀ 柳回国男氏は、前記﹁笑の本願﹂で﹁エガホは笑いの先 触れでも、準備でもなく、寧ろその反対に笑うまいとする 慎 し み の 一 つ で あ る 。 ・ : : ・ 又 ワ ラ フ は 笑 わ れ る 相 手 の あ る 時は不快感を与えるが、ヱムには如何なる場合にもそうい う こ と は な い 。 ﹂ と 一 言 わ れ て い る 。 個々の例をみると、えがおは柳田氏の言われる笑うまい とする慎しみの笑顔の他に、嬉しがって顔をほころばせる 場合、滑稽を感じはするが声を出して笑う程のこともなく えがおを作る場合、叉人生の潤滑油ともいうべきえがお、 別に大しておかしいこともないが、雰囲気を和げる為にえ がおを作る又は人をいたわるえがお等がある。だがいず れにしても相手に不快感を与える例は、まず無いと言え る 。 2 4 -表川刊に示す通り、落窪物語・枕草子では、﹁笑ふ﹂が各 々七九%・八八%を占め、﹁えがお﹂は二一%、一三%に

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過ぎないが、源氏物語ではえがおをする笑い方が六六%を 占 め 之 い る 。 こ れ は ハ 円 。 と 同 方 向 の 結 果 を 一 示 す よ う で 、 落 窪物語・枕草子は、明朗・率直・活淡な一面があり、源氏 物語は、穏便・沈静・複雑微妙な一面があると言えよう。 尚声のある笑いと声のない笑いという区別をすれば、﹁ 笑ふ﹂には﹁うち笑ふ﹂を加えるべきだろう。しかし既述 した通り﹁うち笑ふ﹂は、チヨット笑うの意とすべきもの が大部分であり、﹁笑ふ﹂に比べて陰影のある笑い方であ った。従って﹁うち笑ふ﹂は﹁笑ふ﹂とえがおをする笑い との中間的な笑い方と考えられるのではないかと思うので’ 表例では﹁うち笑ふ﹂は加えなかった。参考までに、声の ある笑い﹁笑ふ﹂に﹁うち笑ふ﹂を加えると、次のように な る 。 、 は 次 落 極 い

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(8)

れは落窪物語と枕草子は明の文学であり、源氏物語は暗の 文学という先の結論と同一方向に立つものであろう。前二 作品が明快・率直・闇達な面が強く、源氏物語には、複雑 な﹁うち笑ふ﹂が多いのである。 ﹁笑ふ﹂と﹁えがお﹂を対比しても、落窪物語・枕草子 に﹁笑ふ﹂が多く、源氏物語では﹁えがお﹂が増していた。 ﹁笑ふ﹂が聞達率直・明快な笑いで、﹁えがお﹂が複雑・ 微妙・穏便な笑いと考えれば、この結果も三作品の笑いの 質を示す一例となる。 以上笑いに関する語から、二一作品の笑いの質をみてみた が、物語文学と随筆文学とを、一様に取り扱うことには問 題があろうと思う。勿論成立時も各々異なるわけである。 だがここでは、ともかくこのような問題はおいて、文学 作品であるという同一線上に乗せてまとめてみた。 人の性格によって笑い方が異なり、叉笑い方によってそ の人の性格がある程度判断できるように、作品の中の笑い 方の相違によってその作品の性格の一面を探ることはでき 得 る よ う に 思 う 。 この作品の中にみられる笑いに関する語の相違は、この 意味から作品の性格の一端を一示すものでもあろうと思う。 そしてこの結果は、一般的な読後印象と合致するわけであ る 。 26

参照

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