慢 性 日光 口唇 炎
慢性 日光 口唇炎
村 田 洋 三*
Chronic Actinic Cheilitis Yozo MURATA*
* Department of Dermatology, Hyogo Medical Center for Adults
As skin cancers occur on sun-exposed skin, lip cancers develop on sun-damaged the lower lip, namely on chronic actinic cheilitis. The prognosis of lip cancer is worse than skin cancer, and more sophisticated ways of reconstruction may be required. Diagnosis and treatment of chronic actinic cheilitis is needed before it may progress into invasive squamous cell carcinoma.
On the basis of 24 cases we treated, clinical features, histopathology, and mode of therapy of treating chronic actinic cheilitis were discussed. When examining the lip, care should be made to check erosion, crusts, loss of plasticity, indistinct vermilion border and focal areas of whitish thickening. [Skin Cancer (Japan) 2003;
18:118-123]
Key words: Skin cancer, Lip cancer, Cheilitis, Chronic actinic cheilitis, Carcinoma
は じ め に 唇 紅(vermilion)は, ヒ トの み に み られ る 特 殊 な皮 膚 と さ れ, 組 織 学 的 に も唇 紅 は汗 腺 や 毛 包 な どの 皮 膚 附 属 器 を欠 如 して い る。 ま た, 唇 紅 で はmelanocyteは 少 な い。 ま た 角 層 は薄 い とい っ た組 織 学 的 特 徴 が あ る。 こ れ らの 組 織 学 的 な 理 由 に 加 え, 人 類 は 直 立 す る た め, 最 も 紫 外 線 を多 く有 す る真 昼 の直 射 日光 を下 口 唇 は 垂 直 に浴 び る こ と に な り, 下 口 唇 は紫 外 線 の 影 響 を強 く受 け る と考 え られ る1)。 日光 に よ っ て露 光 部 皮 膚 に は 日光 角 化 症 あ る い は光 線 角 化 症 が 生 じ, そ の 一 部 は 有 棘 細 胞 癌 に発 展 す る こ とは周 知 の こ とで あ る。 日光 の 影 響 下 に, 下 口 唇 に も同 様 に 表 皮 基 底 細 胞 層 で の 異 常 増 殖 が 生 じ, 慢 性 日 光 口 唇 炎(chronic actinic cheilitis)と 呼 ぶ2)。 慢 性 日光 口 唇 炎 の 臨床 像, 病 理 組 織 像 につ い て の 記 載 は, 簡 単 に actinic keratosisの 粘 膜 版 と さ れ て い る こ とが 多 い。 しか し, 実 際 の 臨 床 像 につ い て, 本 邦 で 論 じ られ る こ と は少 な い と思 わ れ る。 当 科 で経 験 し た24例 を 検 討 しつ つ, 慢 性 日光 口唇 炎 の 臨 床 像, 病 理 組 織 像, 治 療 に つ い て述 べ る。 但 し, 慢 性 日光 口 唇 炎 の 症 状 を 主 訴 に来 院 す る こ とは稀 で あ り, 当 科 に お い て慢 性 日光 口 唇 炎 の * 兵 庫 県 立成 人病 セ ン タ ー皮膚 科
診 断 を行 っ た 症 例 の 多 くは 既 に有 棘 細 胞 癌 を生 じて お り, この 場 合 に は, む しろ潰 瘍 や 腫 瘍 形 成 が 主訴 で あ っ た。 慢 性 日光 口 唇 炎 の 記 載 は, 1923年Ayresが 日光 の 関 与 を指 摘 した の が 最 初 で あ る3)。以 後, この 慢 性 日光 口唇 炎 とい う名 称 が使 用 さ れ て い る が, solar cheilosisと す る もの も あ る4)。 疫 学: 高 齢 男 性 に多 く, 女 姓 に は 少 な い51。 女 性 に 少 な い 理 由 は戸 外 の労 働 が 男 性 よ り も少 な く, 紫 外 線 の 蓄 積 照 射 量 が 少 な い こ と, 口 紅 の 使 用 に よ っ て 紫 外 線 が 防 御 され る こ とが 挙 げ ら れ て い る6)。 当 科 の 症 例 で は 男 性14例, 女 性10例 で, や や 男 性 に多 か っ た。 年 齢 は, 当 科 で は37歳 か ら94歳 で, 60歳 代 が9例 と最 も多 く, 70歳 代 は5例, 80歳 代 は4例 で あ っ た。 大 量 の 日光 暴 露歴 は11例 と約 半 数 に あ り, そ の 内4例 は 農 業, 3例 は 漁 業 に 従 事 して い た。 臨 床 像 部 位: 慢 性 日光 口唇 炎 は下 口 唇 に多 い。 当 科 の24例 中, 上 口 唇 は1例 だ け で, 下 口唇 の 症 例 が23例 で あ っ た。 慢 性 日光 口 唇 炎 は 両 交 連 にわ た る下 口唇 全 体 に 生 じ る と さ れ て い る。 当 科 の経 験 で は, 皮 疹 の 範 囲 は, 唇 紅 の ほ ぼ全 体 を 占 め る の が 大 半 で18例 で あ り, 唇 紅 の 中 央2/3を 占 め る もの は4例, 唇 紅 中央!/3の 症 例 は わ ず か に2例 で あ っ た。oral florid papillomatosisが 口 角 に好 発 す る の と対 照 的 で あ る。 病 変 の程 度 は 下 口唇 の 中 で も必 ず し も一 様 で は な く, 部 分 的 に よ り角 化 の著 しい 箇 所 が 目立 つ こ と は あ る。 ま た 慢 性 日光 口唇 炎 で は 一 年 を通 して 症 状 は持 続 す る2)。 皮 疹 の 性 状: 通 常 自覚 症 状 は ない が, ひ りひ り した痛 み や灼 熱 感 を訴 え る こ と が あ る7)。 下 口唇 全体 に わ た る乾 燥 と鱗 屑 が 主 で, 進 行 す る と上 皮 の 肥 厚, 小 さな 灰 白色 の 局 面 を伴 い, 可 塑 性 が 消 失 す る。 赤 白 色 の ま だ ら な 斑, vermilion borderの 不 分 明 化, 持 続 す る び ら ん, 痂 皮 を認 め る場 合 に は悪 性 化 の 可 能 性 を考 え る べ き だ とす る も の もあ る2)。 鱗 屑 の 付 着 は早 期 か らみ られ る変 化 で, 当 科 で の 症 例 の殆 ど に鱗 屑 は認 め られ たが, そ の 程 度 は 様 々 で あ っ た。 白色 調 変 化 は, しば し ば leukoplakiaと 表 現 さ れ る が, 慢 性 日 光 口 唇 炎 で は高 頻 度 に認 め ら れ, 上 記 の鱗 屑 と混 在 す る こ と も多 い。 当科 の24例 の 内 で は19例 で み ら れ た。14例 は斑 状, 3例 は 板 状, 1例 は 網 状 を 呈 した。 た だ し, leukoplakiaと い う表 現 は そ の意 味 合 い が 曖 昧 で, 使 用 に 際 して は 注 意 が 必 要 で あ る8)。 慢 性 日光 口 唇 炎 で は 口 唇 は本 来 の 柔 軟 さが な くな る。 こ の 可 塑 性 の 消 失 は, 口 唇 の 縦 走 す る (口唇 の 長 軸 に垂 直 方 向 に平 行 して走 る)織 壁, 亀 裂 の 形 成 と して 把 握 で き る2)。 自験 例24例 中17例 と高 頻 度 に み ら れ, 本 症 の 特 徴 的 な 臨 床 像 と思 わ れ る(図1)。 vermilion borderは, 正 常 で は 境 界 明 瞭 な 曲 線 で あ るが, 慢 性 日光 口 唇 炎 で は 不 整 で 不 分 明 に な る(図2)。 こ の 変 化 が あ る場 合 に は 有 棘 細 胞 癌 の 合 併 の 可 能 性 が 高 い とLa Riviereら は 述 べ て い る6)。 我 々 の 経 験 で はvermilion borderの 不 分 明 化 は24例 中12例 で み られ た。 こ の12例 中 にSCCを 生 じて い た の は10例 と 確 か に多 い。 しか し, vermilion borderの 不 分 明 な 部 分 に 有 棘 細 胞 癌 が 特 に 多 く発 生 し た わ け で は な か っ た。 一 方, 自 験 例 に お い て vermilion borderの 不 分 明 化 を認 め な い12例 に お い て も9例 にSCCが 発 生 し て い た。 図1. 58歳 男 性, 農 業. 下 口 唇 全 体 に まだ らな 紅 斑 と 鱗 屑 が み られ, 一 部 に 痂 皮 を形 成 して い る. 縦 に走 る籔 壁, 亀 裂 の形 成 に注 意
LaRiviereら の 文 献 で は, 統 計 的 な検 討 を示 し て は お らず, む しろ 注 意 を喚 起 す る ニ ュ ア ンス で あ る。 故 にvermilion borderの 不 分 明 化 は, 有 棘 細 胞 癌 の合 併 の サ イ ン とい う よ り も, む し ろ 慢 性 日光 口唇 炎 の 診 断 に有 用 な所 見 で あ る と 考 え た 方 が よい と思 わ れ る。 び らん, 痂 皮 は19例 に認 め ら れ た。 しか し, び らん, 痂 皮 は可 逆 的 な変 化 で, 同 じ症 例 で も, 時 期 に よ っ て軽 快 す る こ と もあ る。 び らん, 痂 皮 が 一 時 的 にで も, 緩 解 し得 る こ と は注 意 を要 す る。 なぜ な ら折 角 患 者 が 口 唇 の び ら ん, 痂 皮 を 訴 え て来 院 して も外 用 剤 な ど で軽 快 した場 合 に 炎 症 性 疾 患 と誤 診 し, 本 症 を見 落 とす 可 能 性 が あ る か らで あ る。 び らん, 痂 皮 形 成 は必 ず し も慢 性 日光 口 唇 炎 そ の もの の 変 化 で は な く, 二 次 感 染 や 外 傷 に も起 因 し, こ の 場 合 に は 当然 対 症 治 療 に反 応 す る。 病 理 組 織 学 的 所 見: 病 理 組 織 学 的所 見 は, 皮 膚 のactinic keratosisと 同様 で2), 過 角 化, 基 底 層 を 中心 とす る細 胞 異 型, 真 皮 上 層 の 帯 状 の リ ン パ 球 ・形 質 細 胞 の 浸 潤, basophilic degenerationが 認 め られ る。 鑑 別 診 断: 他 の 炎 症 性 の 口唇 病 変 との 鑑 別 が 必 要 で, そ の 内 容 は接 触 性 口唇 炎, 口角 炎, 肉 芽 腫 性 口 唇 炎, 落屑 性 口 唇 炎, 開 口 部 形 質 細 胞 症, な ど多 数 の疾 患 が 含 まれ る。 そ の 他, 慢 性 円 板 状 エ リ テマ トー デ ス や 扁 平 苔 癬, 単 純 庖 疹 や 放 射 線 障 害 も鑑 別 が 必 要 な こ とが あ る。oral florid papillomatosisは 口 角 に 生 じ る乳 頭 腫 状 の 隆 起 性 病 変 で, 斑 は 伴 わ な い。 治 療: 外 用 療 法, レー ザ ー 治 療, 外 科 治 療 が あ る。外 用 と して はfluorouracil9), tretinoin, TCAが 挙 げ ら れ る。fluorouracil外 用(図3) で は 一 過 性 の 強 い び ら んの 後 に慢 性 日光 口唇 炎 の 症 状 が 軽 快す る こ とが 多 い。 患 者 は び ら ん 反 応 を薬 害 と誤 解 し外 用 を 中 断 す る こ と も あ る の で, 処 方 時 に十 分 な 説 明 を して お く こ とが 必 要 で あ る。tretinoin, TCAに つ い て は本 邦 で は 承 認 され て お らず, 割 愛 す る。 炭 酸 ガ ス レ ー ザ ー に つ い て はDavidは 良 好 な 成 績 を 示 し, 手 術 治 療 と異 な り術 後 の 合併 症 が な い と して い る10)。 外 科 的 方 法 と して は唇 紅 を切 除 す るvermilionL ectomyが 行 わ れ る。 本 法 はvermilionを 端 か ら端 まで 筋 層 上 で 切 除 した 後, 後 面 の 口 唇 粘 膜 を1cmほ ど剥 離 し て, 引 き上 げ る よ う に 口 唇 皮 膚 と単 純 縫 合 す る もの で, 局 所 麻 酔 で も可 能 で あ る(図4)。 口唇 粘 膜 のundermineを 十 分 に 行 わ な い と, 皮 膚 面 が 口 腔 に 引 き込 まれ, 男 性 で は髭 が 上 口 唇 を刺 激 す る。 小 さ な 浅 い 有 棘 細 胞 癌 を 伴 う場 合 に は, そ の 部 分 のwedge切 除 を併 用 す る2)。 再 発 の 予 防 の た め, 口唇 へ の 長 時 間 の 直 射 日光 照 射 を 避 け る こ と も重 要 で あ るosunscreenの 使 用 が 勧 め られ る。 予 後: 慢 性 日光 口唇 炎 自体 は 生 命 に 問 題 は な い が, 慢 性 日光 口 唇 炎 か ら有 棘 細 胞 癌 が 発 生 す れ ば, そ の 予 後 は 不 良 で あ る。 悪 性 腫 瘍 に移 行 す る 頻 度 に つ い て の 信 頼 で き る 統 計 は な い7)。 しか し, 身 体 の 他 の 部 位 に生 じた有 棘 細 胞 癌 に比 べ て, 慢 性 日光 口唇 炎 か ら生 じた 下 口 唇 の 有 棘 細 胞 癌 は予 後 は よ り悪 い1D。 こ の た め 慢 性 日光 口 唇 炎 の 診 断 治 療 は, 有 棘 細 胞 癌 の 発 生 の 予 防 に つ なが る とい う意 味 で 重 要 で あ る。 付 記: 以 上 は既 に よ く記 載 され て い る 事 柄 に つ い て 述 べ た が, 今 回 の24例 の 中 で 気 付 い た他 の 特 徴 を 付 記 す る。 そ れ は, (1)下 口 唇 の 突 出, (2)皮 膚 のactinic keratosisの 合 併, (3) 粘 膜 へ の 浸 潤 で あ る。 (1) 本 症 を 生 じ た 下 口 唇 は 前 方 に 突 出 して い る 図2. 68歳 女 性. vermilion borderが 不 分 明 化 して い る, 正 常 で は こ け しに朱 を 塗 る様 に 緩 や か な弧 を描 くが, 本 症 で は不 規 則 な境 界 も特 徴 で あ る
図3. nuorouracil外 用 例 a. 外用 前, b. 外 用 中の び らん 反応, C. び らんが 消 槌 し, 慢 性 日光 口 唇炎 も軽 快 図4. 手 術 治 療 例 a. 術 前, b. vermnionectomy施 行, c. 術 直 後, d. 術 後
こ とが 多 く, 24例 の う ち19例 に突 出 が あ る と 思 わ れ た。 慢 性 日光 口唇 炎 が 生 じた こ とに 引 き 続 き浮 腫 や 細 胞 浸 潤 が 生 じ, こ れ に よ っ て, 二 次 的 に下 口 唇 が 突 出 して い る の か も し れ な い。 しか し, 逆 の 可 能 性 もあ る。 つ ま り, 「元 来 下 口唇 の突 出 す る傾 向 の あ る人 で は 光 線 の影 響 を よ り強 く受 け る た め に, 慢 性 日光 口 唇 炎 が 発 症 しや す い」 の か も しれ な い。 (2)本 症 とactinic keratosisと は い ず れ も紫 外 線 に よ る前 癌 性 変 化 で あ る か ら 当然, 同 じ個 体 に合 併 して よい は ず で あ る。 しか し, こ の こ と を意 識 して診 察 した18例 の 内, actinic keratosis の 合 併 を認 め た の は4例 だ け で, 意 外 に少 な い 結 果 で あ っ た。 そ の 理 由 は不 明 で あ る が, よ り 多 くの 症 例 で 検 討 す る 必 要 が あ る。 し か し, actinic keratosisの 症 例 を み る 時 に は, 皮 膚 科 医 は慢 性 日光 口唇 炎 の 可 能 性 を念 頭 に お い て, 必 ず 口唇 の チ ェ ック をす る, とい う の は 悪 くな い 習 慣 と思 わ れ る。 (3)口 唇 粘 膜 へ の 浸 潤 は24例 中13例 に み ら れ た。 慢 性 日光 口 唇 炎 は 唇 紅, つ ま り皮 膚 に始 ま る が, 口唇 粘 膜 へ も連 続 性 に浸 潤 して い くよ う で あ る。 しか し, そ の 口唇 粘 膜 部 の粘 膜 固 有 層 に もactinic degenerationが み られ る こ と も あ る。 この た め, 必 ず し も皮 膚 で の 上 皮 の 変 化 が 水 平 に浸 潤 して い くば か りで は な く, 粘 膜 自体 に 日光 が 照 射 して, そ の 結 果 直 接 粘 膜 上 皮 に前 癌 性 変 化 を きた し て い る 可 能 性 もあ る と思 わ れ る。(1)に 述 べ た 下 口 唇 の 突 出 と関 係 す る か も しれ な い。 最 後 に 日光 に よ る 口唇 の 前 癌 性 変 化 は, 正 常 の状 態 か ら徐 々 に発 生 す る と思 わ れ る。 臨床 的 に, 当 初 の軽 微 な 変 化 で 来 院 す る こ と は な い。 単 な る 年 齢 的変 化 と して 自他 と も に放 置 して い る の で あ り, 実 際 には 慢 性 日光 口 唇 炎 の頻 度 は 低 くな い と思 わ れ る7)。 そ し て, そ の後, 下 口唇 の 明 らか な変 化 が 生 じ, 更 に は腫 瘍 形 成 を 生 じて初 め て来 院 す る こ とが 通 常 で あ る。 この 時 点 で は 治 療 は有 棘 細 胞 癌 に 向 け て 行 わ れ, 慢 性 日光 口 唇 炎 へ の 注 意 は あ ま り払 わ れ な い。 こ れ らの 両 極 端 の 問 で あ る慢 性 日光 口 唇 炎 の 時 点 で の 受 診 は少 な く, ま た, た とえ 受 診 して も こ の疾 患 の 知 識 が な け れ ば 単 な る 口 唇 炎 と して処 理 され, 腫 瘍 を形 成 しな い 限 り精 査 され る こ と は な い で あ ろ う。 最 近, 我 々 は, actinic keratosisで followし て い る 症 例 で は 必 ず 口 唇 を チ ェ ック す る よ う努 め て い る。 そ う した積 極 的 な 介 入 は有 用 と思 わ れ る が, actinic keratosis以 外 の 症 例 で は, な か な か納 得 は され ず, 限 界 が あ る。 む し ろ こ う した積 極 的 な 介 入 の努 力 は皮 膚 科 や高 齢 者 を診 察 す る機 会 の 多 い オ フ ィス で 日常 的 に行 わ れ れ ば, よ り 有 用 で あ る と思 わ れ る。 実 際, 患 者 と接 す る と き に簡 単 に視 診 で きる 部 分 で あ り, 何 の 操 作, 道 具 も要 しな い で 疑 診 を付 け る こ とが で きる。 簡 単 に軟 膏 を処 方 した り, 単 な る老 人 性 変 化 と して 放 置 して は な らな い。 紫 外 線 に よる 変 化 と 加 齢 に よ る変 化 と は 区 別 す べ きで あ る こ と は皮 膚 に お い て は 強 調 さ れ て い る が, 口唇 に お い て も同様 で あ る。 ま と め 日光 照 射 に よ っ て 皮 膚 に はactinic keratosis が 生 じ, 有 棘 細 胞 癌 に至 る こ とは よ く知 られ て い る。 口 唇 皮 膚 で も 同様 の 変 化 が 生 じ, 慢 性 日 光 口唇 炎 と呼 ば れ る。 口唇 の 有 棘 細 胞 癌 は 予 後 が 悪 く, 治 療 上 の 困 難 は大 き い。 前 癌 状 態 で あ る慢 性 日光 口 唇 炎 の 時 点 で 診 断 ・治 療 す べ きで あ る。 当 科 で の24例 を検 討 しつ つ, 慢 性 日光 口 唇 炎 の 臨床 像, 病 理 組 織 像, 治 療 につ い て 述 べ た。 唇 紅 全 体 の皮 疹 で, び ら ん, 痂 皮, 縦 走 す る搬 壁, vermilion borderの 不 分 明化, 白 色 調 変 化 を伴 う場 合 に は, 日光 暴 露 歴 を参 考 に し て, 積 極 的 に診 断 す る必 要 が あ る。
文 献
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「日光(性)口 唇 炎」 に対 す る コ メ ン ト
虎 の門病院皮膚科 大 原 國 章 粘 膜 移 植 に よ る 唇 紅 の 再 建 下 口唇 は 上 口 唇 に比 べ て, 上 方 か ら 降 っ て く る 紫 外 線 に 暴 露 され や す い。 そ れ ゆ え, 口唇 癌 の 多 くは下 口 唇 の 日光 性 口唇 炎 か ら生 じる。 この 事 実 を踏 ま え れ ば, 口 唇 癌 を 治 療 す る 際 に は そ の母 床 と な っ て い る 日光 性 口唇 炎 も 同 時 に 治療 す べ きで あ る。 実 例 を供 覧 す る。 下 口唇 左 側 に径1cmの 口 唇 癌 が あ り, 下 口 唇 全 体 は乾 燥 性 で び らん を生 じ やす く, そ の 病 理 組 織 も 日光 性 口 唇 炎 の状 態 で あ る(図1)。 口唇 癌 は懊 形 に全 層 で 切 除 す る の だ が, この 際 に 下 口唇 の 唇 紅(vermilion)も 含 め て, 一 塊 に切 除 す る(図2)。 唇 紅 全 体 を筋 層 直 上 で, 薄 くそ ぎ取 る よ うに 切 除 す る の が ポ イ ン トで あ る(lip shave, vermilionectomy)。全 層 欠 損 部 に つ い て は そ の 欠 損 幅 に応 じ た 色 々 な術 式 が あ るが, こ の症 例 で は 一 次 的 に縫 合 で きた。 唇 紅 の 欠損 は, 一 般 的 に は唇 紅 の 粘 膜 縁 と皮 膚 縁 を直 接 に一 次 縫 合 す る こ とが 多 い が, こ れ で は 下 口唇 が 内 方 に 引 き込 まれ て薄 くな って し ま う。 こ の 欠 点 を 克 服 す る 目的 で, 私 は唇 紅 欠 損 を粘 膜 移 植 で 再 建 す る こ と に して い る。 下 口 唇 の 粘 膜, 頬 粘 膜 を11番 の 尖 メ ス で 採 取 して, 欠 損 部 に移 植 す る の で あ る。 これ に よ り, 下 口 唇 の厚 み が 再 現 可 能 とな る。 粘 膜 採 取 の コ ツ: 全 層 欠 損 部 を縫 縮 す る前 に 粘 膜 片 を採 取 す る の が 一 つ の ポ イ ン トで あ る。 縫 縮 して し ま う と下 口 唇 を 反 転 しに く くな り, 粘 膜 採 取 が 困 難 と な る。 襖 形 切 除 の 断 端 や 下 口 唇 の 皮 膚 側 に糸 を掛 け て お き, そ れ を引 っ張 っ て採 取 部 に 緊 張 を も たせ る(tensionを 掛 け る) と採 取 しや す い(図3)。 生 食 水 を 注 入 して 採 取 部 を緊 張 させ る の も, 同様 の 意 味 が あ る。 採 取 直 前 に は, 粘 膜 を 生 食 水 で濡 ら して お く と, メ ス の 刃 が 滑 りや す く(前 後 にstrokeし や す く)な る。 ま た, あ らか じめ粘 膜 上 皮 側 に ピ オ ク タ ニ ンで マ ー キ ング して お か な い と, 採 取 し た 粘 膜 の 裏 ・表 が 分 か りづ ら くな る。 そ して, 採 取 した 粘 膜 は本 来 の大 き さ の 半 分 くら い に 収 縮 して し ま う の で, 多 め に採 っ て お か な い と足 りな くな る。 図1. 58歳, 男 性. 下 口 唇全 体 が 日光性 口唇 炎 で, 左 側 に は浸 潤 癌 あ り. 手 術 の デ ザ イ ン を示 す 図2. 切 除検 体. 唇 紅 切 除 と模 形 切 除 が 一 塊 に 成 され てい る
固 定 法: 一 枚 の 大 きな 粘 膜 片 を採 取 す る の は な か なか 無 理 で, 結 局 は何 枚 か の 断 片 を貼 り合 わ せ る こ と に な る。 こ の 際, 一 片 ず つ 縫 合 ・固 定 す る の は 困 難 で, フ ィ ブ リ ン糊 を 使 っ て patch graftの 要 領 で 接 着 す る の が 実 際 的 で あ る。 粘 膜 片 同 士 に 多 少 の 隙 間 が あ っ て も支 障 は な く, 術 後 数 日で 隙 間 は埋 ま っ て くれ る。 接 着 が 終 了 した ら, 皮 膚 側 と粘 膜 側 に 数 本 糸 を掛 け, 外 側 血 ムtie over固 定 を行 う(図4)。 粘 膜 採 取 部 は特 に処 置 を必 要 とせ ず, 数 日で 速 や か に再 上 皮 化 す る。Tie overは 術 後4日 前 後 で 除 去 し, そ の 間 の 食 事 は 当 初 は 流 動 食 あ る い は 粥 食, そ の 後 は 常 食 とす る。 こ の術 式 は, 浸 潤 癌 を伴 わ な い 日光 性 口唇 炎 の み の 症 例 で も 適 用 可 能 で あ る。 ま た, DLE や 扁 平 苔 癬 に対 して も, 難 治 性 病 変 の 治 療 と い う意 味 か ら も, 癌 の 予 防 の観 点 か ら も積 極 的 に 応 用 して い た だ きた い。 図3. 粘 膜 を採 取 して い る と こ ろ. 粘 膜 片 が 不 足 で あ れ ば, 上 口 唇 粘 膜, 頬 粘 膜 か ら も採 る. 糸, 生 食 水 注 射, 指 で 緊 張 させ て い る こ と に 注 目. 採 取 に は, 11番 の尖 刃 メス を細 か くstrokeす る の が コ ツ 図4. patchgraftの 要 領 で, フ ィ ブ リ ン 糊 で 接 着. 固 定. 外 側 に 糸 を 掛 け てtie over固 定
