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(1)博士論文 ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌 ヒドロゲナーゼの水素生産に及ぼす影響 Hydrogenase and photobiological H2 production in N2-fixing heterocystous cyanobacteria. 早稲田大学大学院理工学研究科 物理学及応用物理学専攻 植物生理学研究 増川 一 Hajime Masukawa.

(2) 目次 はじめに 第一章. 1 研究の背景. 第一節 第二節 第三節. 第二章. 6 10. 序論 方法 結果 考察. 14 16 25 36. ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌における ヒドロゲナーゼの分布. 第一節 第二節 第三節 第四節 第四章. 2. ヒドロゲナーゼ遺伝子破壊の水素生産および ニトロゲナーゼ活性に及ぼす影響. 第一節 第二節 第三節 第四節 第三章. 莫大な太陽光エネルギーを利用した再生可 能エネルギーの創出 光生物的水素生産の利点とその概要 ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌の水素 代謝とその水素生産性増大に向けた改良計 画の枠組み. 序論 方法 結果 考察. 38 41 45 50. ヒドロゲナーゼ変異株の光から水素へのエネ ルギー変換効率. 第一節 第二節 第三節 第四節. 序論 方法 結果 考察. 52 53 56 60. 謝辞. 63. 参考文献. 64.

(3) 略語表 ADP. アデノシン二リン酸. ATP. アデノシン三リン酸. Chl a. クロロフィル a. EEZ. (200 海里)排他的経済水域. Fdx. フェレドキシン. FMN. フラビンモノヌクレオチド. lb. ポンド、1 lb = 0.45359 kg. Hox. 双方向性ヒドロゲナーゼ. Hup. 取込み型ヒドロゲナーゼ. NAD+/NADH. ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型/還元型. N2ase. ニトロゲナーゼ. PAR. 光合成有効放射. Pi. 無機リン酸. PMS. phenazine methosulfate. PS I. 光化学系 I. PS II. 光化学系 II. RET. 呼吸電子伝達系. TES. N-tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid.

(4) はじめに 大気中のCO2を始めとする温室効果ガス濃度は年々顕著な上昇を 続けており、地球温暖化を初めとする気候変動の悪影響が懸念され ている(Houghto n et al. 2001)。温室効果ガスの削減対策として、化 石燃料に替わ る再生可能なエネルギー源を 創出することが強く 望 まれている。本研究は、ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌の酸素 発生型光合成と同時に水素生産ができるという特徴を活かし、太陽 光エネルギーから再生可能なクリーンエネルギーである水素を、経 済的 かつ効率良く生産 することを 目指した 長期開発戦略の一環 を なすものである。. 1.

(5) 第一章 研究の背景 第一節. 莫大 な太陽光 エネルギー を利用し た再生可能 エネルギー. の創出 地表に届く太陽光エネルギーの総量は莫大で、人類社会が消費す るエネルギーの 6,000 倍を超える(Table 1-1)。太陽光エネルギーは、 量的に巨大であるばかりでなく、枯渇することがないので、化石燃 料に替わるエネルギー源として利用拡大が期待されている。しかし、 太陽光エネルギーの密度は低く、日本では 1 m2 当たり年間約 1,500 kWh で、変換効率を 1%または 5%と仮定すると、得られるエネル ギーはそれぞれ 1 m2 当たり年間約 15 kWh または約 75 kWh にすぎ ない。したがって、太陽光エネルギーを開発するときの一番の難題 は、いかにして経済性を確保するかにある。 経済性確保の必要条件として、太陽光エネルギーから生産される 最終産物の収入を試算すると、1 kWh 当たり 10 cents と仮定したと き、効率 1%で 1 m2 当たり年間 150 cents、効率 5%で年間 750 cents と見積もられる(Table 1-2)。したがって、システムの建設、運転、 廃棄にかかるコストの総額をこの収入以内に収める必要があるが、 これは大変な難題であるように思われる。しかし、近代的農業にお けるサトウキビを例にとると、年間を通せば約 1%の光合成効率で 砂糖の生産が経済的に成り立っている。ニューヨーク市場の砂糖価 格は、最近 10 年間(1991-2001 年)で 4.36-15.83 cents/ポンドの範囲に あり、砂糖 10 cents/ポンドは 4.8 cents/kWh に相当する。したがって、 砂糖 1 kWh 当たりのコストは約 2.1-7.6 cents 範囲に収まっているこ とになる。砂糖生産では、上記の 1 kWh 当たり 10 cents の経済性の 目標値は既に達成されており、最終産物が利用しやすいものならば、 効率的な農業 のような システムによる太陽光エネルギーの利用 は 経済的に成り立つ可能性が十分にあると考えられる。 次に、希薄な密度で広がっている太陽光エネルギーから十分なエ 2.

(6) ネルギー量を得るには広大な設置面積が必要である。例えば、必要 な設置面積は、1%の変換効率で日本の一次エネルギー量(23×1018 J、1999 年度)の 1%を賄うには、約 4,300 km2(山梨県の面積に相 当)、さらに 10%を賄うには、約 43,000 km2(北海道の約半分の面 積に相当)が必要だと計算される。5%の変換効率で日本の一次エ ネルギー量の 1%または 10%を賄うには、計算上それぞれ約 850 km2 (佐渡島の面積に相当)、約 8,500 km2(広島県の面積に相当)の面 積が必要である。広大な未利用面積の確保の点で、日本は陸地面積 (378,000 km2)は狭いが、その約 12 倍の面積の 200 海里排他的経 済水域(4,510,000 km2)を未開のスペースとして持っている。陸地・ 海洋を合わせた日本の国土面積には、日本の一次エネルギー量の約 1,500 倍もの太陽光エネルギーが降り注いでおり(Table 1-1)、台風 などの障害となる自然条件を克服できれば、海洋域を太陽光を利用 したエネルギー生産の場として開発・利用できる可能性がある。ま た、世界には、太陽光は豊富にあるのに農耕に不適な広大な荒地を 持つ国々もあるが、プラスチックバッグなどを培養装置とすること により、同様に水素エネルギーを生産できる可能性がある。. 3.

(7) 4.

(8) 5.

(9) 第二節. 光生物的水素生産の利点とその概要. 藻類は、好適な条件下ではサトウキビと同等またはそれ以上の光 合成効率が期待され、微量金属塩を含む水と空気さえあれば生育・ 増殖していく能力をもつ。太陽光のような密度の低いエネルギーを 広大な面積から利用可能なエネルギーに経済的に変換するには、藻 類を利用したシステムが適していると考えられ、生産システムの建 設から廃棄までにかかる総コスト、環境への負荷も低く抑えられる 可能性がある。それらの長所を持った窒素固定ラン色細菌の光合成 を利用した水素生産系も、長期戦略に基づいて研究開発を積み重ね れば経済的な水素生産実現の可能性が開けると考えられる。 開発目標の特徴 水を電子供与体としたときの可視光(550 nm)のエネルギー変換 効率は、最終産物ごとに Table 1-3 のように試算される。 Table 1-3. 光生物的エネルギー変換効率(理論的最高値). 最終産物. 変換効率 *. 炭水化物. 27%. CO2 + H2O → (CH2O) + O2. 28%. 2 H2O → 2 H2 + O2. H2 (ヒドロゲナーゼ) (一段階生産) H2 (ヒドロゲナーゼ) (二段階生産). 反応式. CO2 + H2O → (CH2O) + O2. 19%. (CH2O) + H2O →[PS I]→ 2H2 + CO2. H2 (ニトロゲナーゼ). 4%. 4 H2O + N2 → H2 + 2 NH3 + 2 O2. H2 (改変ニトロゲナーゼ). 16%. 2 H2O → 2 H2 + O2. *効率の算出に当たって、 電子非循環電子伝達系による場合の H+/2e比を 6、電子循環電子伝達系による場合の H+/2e -比を 6 、H+/ATP 比を 4 と仮定した。. 6.

(10) 太陽光のうち光合成に利用できるのは、エネルギーにしてその約半 分をしめる可視光線なので、全太陽光に対する効率は Table 1-3 に 示した値の約半分となる。水素生産の理論的最大エネルギー変換効 率はヒドロゲナーゼ系の方が優れているが、ラン色細菌や緑藻の酸 素発生型光合成を利用する場合、ヒドロゲナーゼは反応が可逆的で あるため水素発生だけでなく吸収も起こり、さらに酸素感受性であ るため、すぐに活性が失われる。そのため、実際に水素生産を行わ せるには、好気明条件下での光合成による糖質の蓄積と嫌気明条件 での 糖質分解 による水素放出とい う二段階生産方式が 必要であっ て(Benemann 1996)、嫌気的にするための手数とコストを考えると、 長期的には経済的生産の実現は困難だと考えられる。一方、ニトロ ゲナーゼ系は、多量の ATP を消費し、そのエネルギーの大部分が 窒素 の固定に 使われるため水素へ のエネルギー変換効率が極め て 低い(Burris 1991)という欠点はあるが、反応が一方向的に水素生 産に向かうという利点がある。しかも、窒素固定と水素発生に対す る電子の配分比率(電子割当係数)は固定したものではなく、活性 部位にバナジウムと鉄のクラスター(VFe cofactor)を持つ V 型ニ トロゲナーゼはモリブデンと鉄のクラスター(MoFe cofactor)を持 つ Mo 型ニトロゲナーゼに比べて水素発生の割合が高い(窒素固定 の効率が悪い)ことが知られている。また、分子状窒素の還元には、 活性部位周辺のアミノ酸残基の配置も重要であり、ニトロゲナーゼ の部位特異的改変等により、窒素固定に向いていた電子を水素発生 により多く振り向けられる可能性もある。電子の配分をすべて水素 生産 に向けることができた場合の 水素生産 の究極的最大変換効率 は約 16%と試算される。 ニトロゲナーゼは極めて酸素感受性が高いが、ヘテロシスト型窒 素固定ラン色細菌は、窒素欠乏状態に置かれると栄養細胞の一部が 分化して、窒素固定のために特化した異型細胞(ヘテロシスト)を 形成する。ヘテロシストは、光化学系Ⅱを持たないので酸素を発生 せず、厚い細胞壁に囲まれているので細胞内酸素濃度を低く保つこ 7.

(11) とができ、また光化学系 I を持っているので環状電子伝達系により ニトロゲナーゼ反応に必要な ATP を生産することができる(Fig. 1-1)。隣接する栄養細胞は、酸素発生型光合成により CO2 を同化し て得た有機物をヘテロシストに送り、ヘテロシストはこれを還元力 として空気中の分子状窒素を固定し、グルタミンとして栄養細胞に 送るが、この反応の必然的副産物として水素を発生する。このよう な分業によって、全体として酸素発生型光合成と両立した連続的水 素生産が可能である(Markov et al. 1995)。したがって長期的視点か らは、後者のように操作が単純なシステムの方が経済的水素生産に 適していると判断した(Masukawa et al. 2002)。 ラン色細菌のニトロゲナーゼ系を利用する水素生産系の特徴は、 次のようにまとめられる。 1. エネルギー源は太陽光で、資源量が極めて大きい。 2. 原料は水で資源量は無尽蔵と言ってよい。 3. 微量金属塩を含む水と空気と光さえあれば生育でき、産物は水 素と酸素でプラスチックバッグなどを培養装置とすることによ り、システムの建設から廃棄までにかかるコスト、エネルギー、 環境への負荷を低く抑えられる 4. 最終産物の水素はクリーンなエネルギーであり、燃料電池の燃 料として直接利用でき、そのエネルギー変換効率は非常に高い。 5. 利用後の細胞は、魚の餌に利用できる。. 8.

(12) 9.

(13) 第三節. ヘテロシスト 型窒素固定 ラン色細菌の水素代謝とその 水. 素生産性増大に向けた改良計画の枠組み ラン色細菌の水素代謝 ラン色細菌は、水を電子供与体として酸素発生型の光合成を営む 原核光合成生物である。一部のラン色細菌は窒素固定を行なうこと ができ、これらは、窒素固定に特化したヘテロシストを形成するも のとしないものに分けられる。ラン色細菌の水素代謝には、酵素ヒ ドロゲナーゼとニトロゲナーゼが関わる。ニトロゲナーゼは窒素固 定を行なう一部のラン色細菌が持っており、窒素欠乏状態では次式 のように空気中の分子状窒素を固定すると同時に、必然的副産物と して水素を発生する。 N2+ 8 H+ + 8 e- + 16 ATP → H2 + 2 NH3 + 16 (ADP + Pi) ヒドロゲナーゼとして、一般にヘテロシスト型窒素固定ラン色細 菌 は 生 理 機 能 的 に 取 込 み 型 ヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ ( Hup: uptake hydrogenase ) と 双 方 向 性 ヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ ( Hox: bidirectional hydrogenase or hydrogen-H+ oxidoreductase)に分類される2種類を持 つ が 、 一 部 の ラ ン 色 細 菌 は Hup の み を 持 つ と 報 告 さ れ て い る (Tamagnini et al. 2000)。 Hupは、これまで調べられた限り全ての窒素固定ラン色細菌が持 っており(Houchins 1984; Tamagnini et al. 2000)、ヘテロシスト形 成型株では窒素欠乏状態でのヘテロシスト形成に伴って、その遺伝 子が主にヘテロシスト内で発現する(Axelsson et al. 1999; Carrasco et al. 1995)。in vitro活性では、酸化還元電位の高い電子受容体があ れば、一方向的に水素を吸収する方向へ反応が進む。 H 2 → 2 H + + 2 e⇓ 電子受容体 細胞内でHupはニトロゲナーゼが生産した水素を吸収することによ. り、ヘテロシスト内の酸素濃度を下げ、酸素感受性であるニトロゲ 10.

(14) ナーゼを保護しているか、または水素をエネルギー源として電子伝 達系を通して再利用することによりATPを合成し、ニトロゲナーゼ の生理的活性を維持することに貢献していると考えられている (Bothe et al. 1977; Fay 1992; Happe et al. 2000)(Fig. 1-1)。 Hoxは、窒素固定能力や単細胞性、糸状性に関係なく、ラン色細 菌に広く存在する。しかし、一部のヘテロシスト型窒素固定ラン色 細菌には、Hoxの遺伝子も活性も持たないものがあると報告されて おり(Tamagnini et al. 2000)、近年の全ゲノムDNA配列が決定され た単細胞性非窒素固定 ラン色細菌数株やヘテロシスト 型窒素固定 ラン色細菌Nostoc sp. PCC 73102株においてHoxの遺伝子群がない ことが確認された。in vitro活性は、強還元条件下では水素を発生す るが、酸化的条件下では水素を吸収し、触媒する反応は可逆的であ る。 H2 ? 2 H+ + 2 eその生理的機能は不明であるが、これまでに2つの働きが考えられ ている。第一は、微好気的条件下で水素を吸収しエネルギー源とし て利用している可能性(Houchins and Burris 1981b; Schmitz and Bothe 1996; Hansel and Lindblad 1998)で、第二は嫌気暗条件での糖の発酵 過程 または明条件で光合成により 生じた余 剰な還元力 を排出す る た め の 調節弁として機能 している可能性である( Houchins 1984; Appel and Schulz 1998; Appel et al. 2000)(Fig. 1-1)。 研究目的 本研究では、生物材料としてヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌 を用いた。これは、ヘテロシストを形成しないものに比べて、一般 に生化学的、分子生物学的研究が進んでいるからである。このタイ プの ラン色細菌の酸素発生型光合成系およびニトロゲナーゼ系 を 利用した水素生産系は、好気的条件下でも持続的に水素を生産でき る利点があるが、一般に光エネルギー変換効率が極めて低い。その 主な原因の一つとして、ヒドロゲナーゼによる強い水素再吸収活性 11.

(15) があげられ、このためニトロゲナーゼ活性の高い株が必ずしも高い 水素生産性を示すとは限らない可能性が考えられる(Table 1-4)。 そこで、ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌の水素生産性増大に向 けた改良の長期開発戦略の第一段階として、水素の再吸収に関わる ヒドロゲナーゼ活性を抑え、そのときの水素生産に係わる諸反応に 対する様々な影響を調べる必要があると考えた。本研究では、2種 類あ るヒドロゲナーゼ の生理的役割とその 不活性化が 水素生産 に 与える影響について調べ、さらにヒドロゲナーゼ変異株の光強度に 依存した水素への変換効率とその特性について評価した。さらに、 これらの知見をもとに、今後の一層の効率化に必要な事項を整理し た。. 12.

(16) 13.

(17) 第二章. ヒドロゲナーゼ遺伝子破壊の水素生産および ニトロゲナ. ーゼ活性に及ぼす影響 第一節. 序論. ヘテロシスト 型窒素固定ラン色細菌の酸素発生型光合成系 およ びニトロゲナーゼ系を利用した水素生産系においては、水から水素 と酸素が生産される。しかし、多くのラン色細菌では、取り込み型 ヒドロゲナーゼ Hup と双方向性ヒドロゲナーゼ Hox の両ヒドロゲ ナーゼが水素を再吸収することにより、水素生産効率を低下させて いる可能性が高い。これまでに、Anabaena variabilis のヒドロゲナ ー ゼ変異株の作 製とその水素生産活性 が Mikheeva ら ( 1995) と Happe ら(2000)により報告されている。前者は、化学的突然変異 誘発により作製した Hup と Hup/Hox 変異株の水素生産活性は野生 株よりも有意に増大したが、培養時間を長くすると水素吸収活性が 野生株よりもかえって大きくなったと報告している。これらの事実 を総合すると、この変異株ではヒドロゲナーゼの発現調節遺伝子に 変異が起こったものと推定されるが、ヒドロゲナーゼの活性レベル が生育段階により変動すること、変異の起きた遺伝子が具体的にわ からないことが研究の価値を下げている。後者は、相同的組換えを 利用して作製した hupSL 遺伝子破壊株では、水素生産活性が野生株 の 4-6 倍増大したが、ニトロゲナーゼ活性は野生株よりもわずかに 低下したと報告している。彼らが用いた Anabaena variabilis 株は Hox も持っている(Schmitz et al. 1995)が、hox 遺伝子の破壊はま だ報告されていなかった。彼らが報告したニトロゲナーゼ活性の低 下は、Hup がニトロゲナーゼにより生産された水素を吸収すること によりヘテロシスト内の酸素濃度を下げ、酸素感受性であるニトロ ゲナーゼを酸 素による 損傷から保 護している可能性を 示唆してい るが、このことを他の株についても調べる必要がある。 そこで、ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌で全ゲノム DNA 塩 14.

(18) 基配列が決定されており(Kaneko et al. 2001)、遺伝子導入法が確立 されている(Elhai and Wolk 1988; Thiel and Wolk 1987)Anabaena PCC 7120 株をモデル生物として用い、その Hup 構造遺伝子(hupL)お よび Hox 構造遺伝子(hoxH)の一方および両方を抗生物質耐性遺 伝子の挿入により破壊した 3 種の変異株、すなわち ?hupL、?hoxH および ?hupL/?hoxH 株を作製し、ヒドロゲナーゼの不活性化がニト ロゲナーゼによる水素生産性の増大につながるかどうかを調 べた 。. 15.

(19) 第二節 方法 ラン色細菌、大腸菌、プラスミドと培養条件 本研究で使用した細菌株およびプラスミドを Table 2-1 に示す。 ヘテロシスト 型窒素固定ラン色細菌の非窒素固定条件下での生 育 のための培養には BG11 を基本培地(Rippka 1988)に用い、窒素固 定条件下での生育のための培養には BG11 培地から NaNO 3 を除いた BG110 (N-free)を基本培地に用いた。ヒドロゲナーゼ活性の誘導には、 BG11. お. よ. び. BG11 0. 各. 基. 本. 培. 地. に. N-tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid (TES ) (pH 8.2)と NiCl2 をそれぞれ最終濃度 10 mM と 1 µM になるように三角 フラスコの培養容器に加え、空気または空気+1% CO2 を通気し、 スターラーで撹拌しながら培養した。以下本論文では、これらの試 薬を含む培地を BG11 および BG110 培地と略記する。双方向性ヒド ロゲナーゼ Hox を誘導するための培養は、0.5 l の BG11 0 培地に上 記以外に NH4Cl を最終濃度 5 mM になるように加え、1% CO2 を含 むアルゴンガスを通気し、スターラーで撹拌しながら 30-36 時間行 なった(Serebriakova et al. 1994)。ラン色細菌の培養には、いずれ の誘導条件の場合も 26℃で、光強度 70 µmol photon m-2 s -1 PAR (PAR: Photosynthetically Active Radiation) (Model LI-250 Light Meter, LI-COR Inc.)の白色光の蛍光灯を連続照射した。 大腸菌株は、L broth 寒天(関東化学、1%)培地または液体培地 で、37℃において一晩培養した。Anabaena sp. PCC 7120 変異株選抜 のために培地中に加えた抗生物質の濃度は、5 µM erythromycin (Em)、 30 µM neomycin (Nm)、2 µM streptomycin (Sm)、2 µM spectinomycin (Sp)である。大腸菌の培地中に加 えた抗生物質の濃 度は、 100 µM ampicillin、100 µM chloramphenicol、 100 µM erythromycin、50 µM kanamycin 、 50 µM streptomycin 、 50 µM spectinomycin 、 50 µM tetracycline である。. 16.

(20) ニトロゲナーゼ活性、水素発生活性測定 ニトロゲナーゼ活性はアセチレン還元法により、エチレン生成量 を Shimadzu GC-8A chromatograph ( flame ionization detector, Porapak R column (80/100 mesh, I.D. 2 mm × 2 m)装置)で測定した。水素発 生 活 性 は Shimadzu GC-8A chromatograph( thermal conductivity detector, Molecular Sieve-13X column (30/60 mesh, I.D. 3 mm × 4 m)) で測定した。経時的な活性測定には、BG11 で培養した対数増殖期 にある細胞を BG11 0 培地で 2 回洗い、初濃度を 0.13 mg chlorophyll a /l となるように 1.5 l の BG11 0 培地に植え、培養を続けた。そこから 軽く遠心し細胞を集め、適当な細胞濃度(5-9 µg Chl a/ml)に調整 し、その懸濁液 1 ml を、内容積 7.5 ml のガラス容器に採り、ブチ ルゴム栓で密閉した。ガラス容器内の気相は、水素生産活性の測定 にはアルゴンガスとし、ニトロゲナーゼ活性の測定にはアルゴンガ スで置換後、アセチレンガスを最終濃度 12% (v/v)になるように加 えた。細胞懸濁液に 70 µmol photon m-2 s -1 PAR の白色光を照射しな がらロータリーシェーカー上で約 1 時間撹拌し、ガスタイトシリン ジで 200-500 µl の気相を抜き取り、ガスクロマトグラフィーにより 水素濃度またはエチレン濃度の変化量を測定した。水素発生活性お よびニトロゲナーゼ活性は、細胞のクロロフィル量を基準に表した。 ガスクロマトグラフィーのキャリブレーションには、濃度既知の 水素ガス(500 ppm)またはエチレンガス(100 ppm)を用いた。な お、市販のアセチレンガス中には、不純物としてエチレンガスが含 まれているため、12%アセチレンガス中のエチレン量も測定し、エ チレン生成量の測定値を補正した。 酵素活性測定 双方向性ヒドロゲナーゼ Hox の誘導には、細胞を 0.5 l の 5 mM NH4Cl を含む BG11 0 培地に移し、1% CO2 を含むアルゴンガスを通 気しながら細胞を 30-36 時間培養した。取り込み型ヒドロゲナーゼ Hup の誘導には、細胞を 1.5 l の BG110 培地に移し、空気を通気し 17.

(21) ながら 45 時間培養した。それぞれの誘導条件下で培養した細胞を 遠心して集め、40-50 ml の 50 mM Tris -HCl buffer (pH 7.5)に懸濁し た。以下の操作は、嫌気プラスチックバッグ中で窒素またはアルゴ ンガス存在下の嫌気条件下で行なった。懸濁液に少量(1 mM)の Na2S 2O4 を加え、フレンチプレス(140 Mpa)に 2 回通して細胞抽出 物を得た。これを 48,000 × g, 30 min, 16°C で遠心し、上清と沈殿物 に分けた。上清は Centriprep YM-3 (Millipore)で約 10 倍以上に濃縮 し、沈殿物は 50 mM Tris-HCl buffer (pH 7.5)に懸濁し、それぞれ以 下の活性測定に用いた。 Hox による水素発生は、7.5 ml 内容積のブチルゴム栓で密閉され たガラス容器内において、気相をアルゴンガスで置換後、上清 (0.5–1.0 mg protein)を最終液量 3 ml の反応液(50 mM Tris -HCl (pH 7.5)、2 mM methyl viologen、 20 mM Na2S 2O4)に加え、暗所下で反 応させ約 1 時間後、100-200 µl の気相を抜き取り、ガスクロマトグ ラフィーにより水素濃度を定量した。 Hox の活性確認は、活性染色法によっても行なった。活性染色に は、細胞抽出物の上清を 7.5%非変性ポリアクリルアミドゲルで電 気泳動(15 mA、 2 時間、室温)後、ゲルを 2 mM methyl viologen と 1% 2,3,5-triphenyltetrazolium chloride を溶かした 10-20 ml の 50 mM Tris-HCl (pH 7.5)を含む内容積 500 ml のガラス容器に入れた。 容器内をアルゴンガスで十分通気させ空気を除去した後、水素ガス を 2-3 分通気し、容器を密閉し、3 時間から一晩静置して反応させ た(Tamagnini et al. 1997)。 Hup による水素取り込みは、ブチルゴム栓で密閉した内容積 7.5 ml のガラス容器内において、気相をアルゴンガスで置換後、最終 液 量 3 ml の 反 応 液 ( 50 mM Tris-HCl (pH 7.5)、 3 mM phenazine methosulfate (PMS) ) に 、 上 清 (5 mg protein) ま た は 沈 殿 物 (2 mg protein)を加え、最終濃度 2.2%になるように水素ガスを気相に加え、 暗所下で約 3 時間反応させた。反応後、20 µl の気相を抜き取り、 ガスクロマトグラフィーにより水素濃度の変化量を測定した。 18.

(22) サザンハイブリダイゼーション 100-200 ml の BG11 培地で 1-2 週間培養した細胞を遠心して集め、 ガラスビーズ 法により ゲノム DNA を 抽 出し た( Tamagnini et al. 1997)。 2-5 µg のゲノム DNA を HindIII( 100 U, 37℃, overnight)で 完全消化後、1%アガロースゲルで電気泳動により分離し、ゲルを ナイロンメンブレン(Hybond -N+, Amersham-Pharmacia)にブロッティ ングした。そのメンブレンをジゴキシゲニンでラベルしたプローブ (DIG Labeling Mix, Roche)で、一晩サザンハイブリダイゼーション し、Luminescent Detection Kit (Roche)で検出した。プローブは hupL 、 hoxH 、Sm/Sp 、 Nm/Km に対するプローブをそれぞれ次のプライ マ ー か ら 作 製 し た ; 7120L-s1/7120L-a1 、 7120H-s1/7120H-a1 、 SmSp-s/SmSp-a、NmKm-s/NmKm-a(Table 2-2)。 プラスミドの作製 相同的組換えを利用した hupL および hoxH 遺伝子破壊のために、 塩基配列情報をそれぞれ Carrasco et al. (1995)と Kaneko et al. (2001) から得て、目的とする遺伝子断片を PCR により増幅した(Fig. 2-1)。 hupL 破壊のために、xisC-hupL の部分配列を Anabaena PCC 7120 株のゲノム DNA を鋳型にして 7120xC -s1 と 7120L-a2 のプライマー (Table 2-2)を用いて Ex-Taq DNA polymerase (Takara)により増幅後、 pGEM-T Easy vector (Promega)へクローニングした(pHL515)。クロ ーニング後、pHL515 内の xisC-hupL 部分断片の塩基配列を DNA シ ーケンシングシステム Model 4000L( Li-COR)を用いて、ジデオキ シ法により確認した。選抜マーカーの Sm/Sp 抗生物質耐性カセット は、pRL277(Black et al. 1993)から PshBI で切り出し T4 ポリメラ ーゼにより平滑化した断片を pHL515 内の EcoRV 切断部位へ挿入し た(pHL703)。pHL703 から EcoRI で xisC-Sm/Sp-hupL 断片を切り 出し、pUC19 の EcoRI 部位へ挿入し(pHL672)、これから SpeI/PstI で切り出して、pRL271( Black et al. 1993)内の SpeI/PstI 部位へ挿 入した(pHL1012)。 19.

(23) hoxH 破壊のために、hoxH 遺伝子を完全に含んだ DNA 断片を 7120H-sUP と 7120H-aLOW のプライマー(Table 2-2)を用いて Pfu Turbo DNA polymerase (Stratagene)により増幅後、pBluescript II SK+ vector (Stratagene)へクローニングし(pHH694)、塩基配列を確認し た 。 選 抜 マ ー カ ー の Nm/Km 抗 生 物 質 耐 性 カ セ ッ ト は 、 pUC4K (Pharmacia)から EcoRI で切り出し、pHH694 内の EcoRI 切断部位へ 挿入した(pHH823)。pHH823 から Nm/Km 抗生物質耐性カセット を挿入された hoxH 遺伝子を含む DNA 断片を EcoRV/SacI で切り出 し、T4 ポリメラーゼにより平滑化した断片を pRL271 内の NaeI 部 位へ挿入した(pHH1113)。 相同的組換えを利用した遺伝子破壊株の作製 hupL 破壊株の作製には、ヘルパープラスミド pRL623(Elhai et al. 1997)を保持した大腸菌 HB101 に pHL1012 を導入し、この大腸菌 と接合プラスミド RP4 を保持した大腸菌 J53 の混合液をニトロセル ロースメンブレン(0.45 µm, White Surfactant Free, HATF 82 mm, Millipore)上で Anabaena PCC 7120 の細胞懸濁液のスポット上に重 ねてスポットすることで接合させた(Elhai and Wolk 1988; Thiel and Wolk 1987)。相同的組換えにより一重交差した変異株は、Sm/Sp 抗 生物質を含む BG11 寒天培地上で選抜した。この培地で生育した数 個のコロニーを Sm/Sp 抗生物質を含む BG11 液体培地中で培養し、 数回植え継ぎ、0.5-1 ml の培養液を 7% (w/v) sucrose (Suc)を含む BG11 寒天培地(Sm/Sp)上に広げた。この培地で生育したコロニー を BG11 寒天培地(Sm/Sp、7% (w/v) sucrose)と BG11 寒天培地(Em) に移し、Smr/Sp r Ems Suc r の形質を示したものを二重交差により遺伝 子置換された変異株(Cai and Wolk 1990)(?hupL 株)とした。 hoxH 破壊株の作製のために、pHH1113 を大腸菌 HB101(pRL623) へ導入し、同様に大腸菌 J53(RP4)を用いて、Anabaena PCC 7120 野生株ならびに ?hupL 株へ接合により導入した。Nm 抗生物質を含 んだ BG11 寒天培地上で ?hupL 株と同様にして Nmr Ems Suc r の形質 20.

(24) を 示 す 二 重 交 差 に よ り 遺 伝 子 置 換 さ れ た 変 異 株 ( ?hoxH 、 ?hupL/?hoxH 株)を選抜した。 クロロフィル a とタンパク質定量 クロロフィル a 濃度は、細胞懸濁液を 85% (v/v)メタノール中で 5-10 分間抽出し、650 nm と 664 nm の波長における吸光度を分光光 度計で測定し、次式から計算した(Porra 1991)。 Chlorophyll a (µg/ml) = 16.41 x A664 – 8.09 x A650 タ ン パ ク質 濃 度 は 、 可 溶 性 画 分 に つ い て は Bradford 法 (1976) (Bio -Rad Protein Assay Kit)によって、膜画分については改良 Lowry 法 (Bio-Rad DC Protein Assay Kit, Bio -Rad US/EG Bulletin 1069)によ って定量した。 試薬 試料は、(. )内に示すメーカーの製品である。. NiCl2 ·6 H2O (和光), Na2S 2O4 (和光), sucrose (関東化学), 寒天(粉末) ( 関 東 化 学 ), phenazine methosulfate (Sigma), Tris (Invitrogen), N-tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid (同 仁 化 学 ), methyl viologen (Sigma), 2,3,5-triphenyltetrazolium chloride (Sigma), glass. beads. (150-212. microns). (Sigma),. ampicillin. ( 和 光 ),. chloramphenicol ( 和 光 ), erythromycin ( 和 光 ), kanamycin ( 和 光 ), neomycin ( 和 光 ), streptomycin ( 和 光 ), spectinomycin (Sigma), tetracycline (和光 ), EcoRI (Takara), EcoRV (Takara), NaeI (Takara), PshBI (Takara), PstI (Takara), SacI (Takara), SpeI (Takara), Ex-Taq DNA polymerase (Takara), Pfu Turbo DNA polymerase (Stratagene), T4 polymerase (Takara), PCR DIG labeling mix (Roche), Luminescent Detection Kit (Roche), Protein Assay Kit (Bio -Rad), DC Protein Assay Kit (Bio-Rad). 21.

(25) 22.

(26) 23.

(27) Fig. 2-1 Strategy for insertional inactivation of A hupL and B hoxH. The locations of hupL and hoxH in the vegetative-cell genome of Anabaena sp. PCC 7120 are shown. A fragment containing hupL3' or hoxH amplified by PCR using the primer pair (horizontal arrows under the gene cluster) is marked by a thick line. The site and orientation of insertion of a 1.9-kb Sm/Sp resistance cassette into hupL and a 1.3-kb Nm/Km resistance cassette into hoxH are shown. The gray boxes below the thick line indicate the probe. Restriction enzymes: E = EcoRI, Ev = EcoRV, H = HindIII. Vertical arrows in A; recombination sites that border the 10.5-kb hupL excision element.. 24.

(28) 第三節 結果 突然変異株の作製と確認 かずさ DNA 研究所により全ゲノム DNA 塩基配列が決定された ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌 Anabaena PCC 7120 株(Kaneko et al. 2001)を用いて、取込み型ヒドロゲナーゼ Hup および双方向 性ヒドロゲナーゼ Hox の不活性化のため、それぞれの構造遺伝子 hupL と hoxH の一方および両方を破壊した 3 株の変異株 ?hupL、 ?hoxH、?hupL/?hoxH 株を作製した。変異体は、上述のように大腸 菌との接合導入法(triparental mating 法, Wolk et al. 1984)により作 製し、抗生物質耐性をマーカーとして選抜したが、得られた変異体 が目的とするものであることを以下の実験により確認した。 サザンブロット法による確認 変異株から抽出したゲノム DNA を、制限酵素 HindIII で完全消化 し、hupL、hoxH および抗生物質耐性遺伝子の部分配列を持つ DIG で標 識したオリゴヌクレオチドプローブを 用いてサザンブロット 実験をおこなった結果、いずれも期待された大きさの塩基対長を持 つことが確認された(Fig. 2-2)。 生化学的活性測定による確認 1)取込み型ヒドロゲナーゼ活性(Hup): Hup 活性は、窒素固定条件下で誘導され、窒素欠乏培地へ移行約 2 日後に最大活性となる。細胞内局在性に関しては膜に結合してい る と い わ れ る ( Lindblad and Sellstedt 1990; Houchins and Burris 1981b)が、細胞破壊と抽出の過程で一部可溶化される可能性が考 えられるので、念のため膜と可溶性画分の両方について、電子受容 体 phenazine methosulfate(PMS)存在下で水素吸収を測定した。野 生株、?hoxH 株抽出物は活性を示したが、?hupL 株、?hupL/?hoxH 株抽出物では Hup 活性が検出できなかった(Fig. 2-3,4、Table 2-3)。 25.

(29) 2)双方向性ヒドロゲナーゼ活性(Hox): Hox 活性は、アルゴンガスを通気し嫌気的に培養することで誘導 される(Serebriakova et al. 1994)。その細胞抽出物を用いて、Na2S 2O4、 methyl viologen 存在下で Hox による水素発生活性を測定した結果、 ?hoxH 株と ?hupL/?hoxH 株は、Hox による水素発生活性が期待通り 完全に失われていることが確認された(Table 2-3)。 また、同じ細胞抽出物を非変性条件下でゲル電気泳動後、methyl viologen、2,3,5-triphenyltetrazolium chloride および水素ガス存在下で Hox 活性染色を行った(Fig. 2-5)。野性株と ?hupL 株抽出物では、 一般に 3 本のバンドが検出され、Hox バンドはこの内の 2 番目の泳 動速度を示す主要なバンドと同定されたが、これ以外に最も遅いバ ンドも Hox の凝集物だと推定された。これらの他に、主要 Hox バ ンドのやや先に最も速く泳動される薄いバンドが見られた。?hoxH 株および ?hupL/?hoxH 株抽出物に濃い Hox バンドは見られず、期 待通りの結果が得られたが、これらにも 1 本の薄いバンドは見られ、 その泳動速度は、野性株と ?hupL 株における最も速い薄いバンドに 一致していた。このバンドは水素の代わりにアルゴンを満たした条 件下でも現れたので、ヒドロゲナーゼ以外のタンパク質によるアー ティファクトだと考えられるが、その実体は不明である。 野生株とヒドロゲナーゼ欠損株の水素生産性、ニトロゲナーゼ活性、 成長曲線 上述のように特徴づけのなされた ?hupL、?hoxH、?hupL/?hoxH 株および野生株を硝酸塩などの窒素源を含まない BG11 0 ニトロゲ ナーゼ誘導培地に移して空気を通気しながら培養し、水素生産性、 ニトロゲナーゼ活性(アセチレン還元活性) 、成長曲線(クロロフ ィル濃度)を経時的に測定した。 水素生産活性の最大値を比較したところ、?hupL 株は用いた測定 条件下では野性株の 4-7 倍の活性を示した。なお、?hupL/?hoxH 株 には ?hupL 株と比べてそれ以上の生産性向上は認められなかった 26.

(30) (Fig. 2-6)。?hoxH 株は水素生産性増大につながらず、野生株に比 べてむしろ 15-33%活性が低下していた。 アセチレン還元法により測定したニトロゲナーゼ活性は、?hupL 株と ?hupL/?hoxH 株では野性株との比較で、ニトロゲナーゼに対す る負の影響は認められなかった。?hoxH 株は野性株と比べてわずか に(10%以下)低い傾向が認められた(Fig. 2-7)。 成長曲線を比較すると、?hoxH 株は、空気+1% CO2 を通気した 場合は野性株との差が見られなかったが(Fig. 2-8A)、空気を通気 し た 場合 は野 性 株よりも 成長 が 有意 に遅 くなった ( Fig. 2-8B)。 ?hupL 株および ?hupL/?hoxH 株は、空気+1% CO2(Fig. 2-8A)ま たは空気(Fig. 2-8B)を通気した場合、窒素欠乏培地に移してから 18-95 時間は野性株よりも速く成長したが、95 時間以降では差は認 められなくなった。また、硝酸塩を含む BG11 培地で同様に空気+ 1% CO2 または空気を通気した場合には、どの株にも成長の差は見 られなかった。. 27.

(31) 28.

(32) Fig. 2-2 Southern blot analysis of hupL and/or hoxH gene disruption. Probes were generated with the primer pairs (Table 2-2) and covered parts of the target genes hupL, hoxH shown in Fig. 2 -1 or of the inserted antibiotic resistance genes Sm/Sp, Nm/Km. Genomic DNA from Anabaena sp. PCC 7120 wild-type, ?hupL, ?hoxH, ?hupL/?hoxH mutant cells was digested by HindIII.. 29.

(33) 80. 60. 40 wild-type ΔhoxH ΔhupL ΔhupL/ΔhoxH. 20. 2. [H ] (relative to initial conc., %). 100. 0 0. 1. 2. 3. 4. 5. time (h). Fig. 2-3 Measurements of Hup activity of membrane preparations. The membrane fractions (2 mg protein) extracted from N2-fixing cultures at 48 hr after transfer to N-free medium were incubated for the times indicated in a 3-ml reaction mixture with an initial H2 concentration of 2.2% (v/v). ● , Wild-type; ■ , ? hupL; ○, ? hoxH; □, ? hupL/? hoxH.. 30.

(34) 80. 60. 40 wild-type ΔhoxH ΔhupL ΔhupL/ΔhoxH. 20. 2. [H ] (relative to initial conc., %). 100. 0 0. 1. 2. 3. 4. 5. time (h). Fig. 2-4 Measurements of Hup activity of soluble preparations. The soluble fractions (5 mg protein) extracted from N2 -fixing cultures at 48 hr after transfer to N-free medium were incubated for the times indicated in a 3-ml reaction mixture with an initial H2 concentration of 2.2% (v/v). ● , Wild-type; ■ , ? hupL; ○ , ? hoxH; □, ? hupL/? hoxH.. 31.

(35) Fig. 2-5 Hox activities visualized by activity staining. 32.

(36) 2. wild-type ΔhoxH ΔhupL ΔhupL/ΔhoxH. 50 40 30. 2. -1. H production rate. -1. (µmol H mg Chl a h ). 60. 20. 10 0 0. 50. 100. 150. Growth time (h). Fig. 2-6 Time course of in vivo H 2-production activities of wild-type and mutants after transfer to BG11 0 medium. At the times indicated, aliquots of cell were taken for activity measurements. Vertical bars SD values for triplicate measurements. ● , Wild-type; ■ , ? hupL; ○ , ? hoxH; □ , ? hupL/? hoxH.. 33.

(37) 2. wild-type ΔhoxH ΔhupL ΔhupL/ΔhoxH. 4. -1. 40. 30. 20. 2. 2. C H reduction rate. -1. (µmol C H mg Chl a h ). 50. 10. 0 0. 50. 100. 150. Growth time (h). Fig. 2-7 Time course of in vivo nitrogenase of wild-type and mutants after transfer to BG11 0 medium. At the times indicated, aliquots of cell were taken for activity measurements. Vertical bars SD values for triplicate measurements. ● , Wild-type; ■ , ? hupL; ○, ? hoxH; □, ? hupL/? hoxH.. 34.

(38) (A). -1. [Chl a] (mg l ). 10. 1 wild-type ΔhoxH ΔhupL ΔhupL/ΔhoxH. 0.1 0. 50. 100. 150. 200. 250. Time (h). [Chl a] (mg l-1). 10. (B) 1 wild-type ΔhoxH ΔhupL ΔhupL/ΔhoxH. 0.1 0. 50. 100. 150. 200. 250. Time (h) Fig. 2-8 Growth curves of wild-type and mutants sparged with (A) air plus 1% CO2 (v/v) or (B) air. ●, Wild-type; ■, ? hupL; ○, ? hoxH; □, ? hupL/? hoxH.. 35.

(39) 第四節 考察 前節で述べたように Anabaena PCC 7120 株から 3 株のヒドロゲナ ーゼ欠損株を作製し、これらが目的とする変異株であることを分子 生物学的および生化学的方法により確認した。これは、ラン色細菌 において遺伝的背景が明らかな 3 株のヒドロゲナーゼ欠損株を作製 した最初の報告である。 Anabaena PCC 7120 株がニトロゲナーゼにより生産する水素は、 本実験条件下では主として Hup により再吸収されることが示され た。Hup の生理的機能としては、吸収した水素を利用して、細胞内 の酸素濃度を下げることにより、酸素感受性であるニトロゲナーゼ の保護に働いている可能性が考えられる。Anabaena variabilis につ いての Happe ら( 2000)の研究では ?hupL 株のニトロゲナーゼ活性 が低下したので、この可能性が示唆される。しかし、Anabaena PCC 7120 株では Fig. 2-7 の結果より、?hupL 株のニトロゲナーゼ活性は 野生株と比較して低下が認められなかった。この株では Hup のニト ロゲナーゼ保護効果は 証明されず 、他のニトロゲナーゼ保護機構 (Fay 1992)が十分に機能していると結論された。したがって、本 ラン色細菌のニトロゲナーゼによる水素生産にとって、hup 遺伝子 破壊が有効であることが示された。 一方、Hox は Fig. 2-6 において、その遺伝子破壊が水素生産性向 上につながらなかったことから、この実験条件下では窒素固定条件 下で放出された水素の再吸収に有効に働いていないと結論された。 ?hoxH 株には、野生株と比較して成長速度(Fig. 2-8B)、水素生産 (Fig. 2-6)およびニトロゲナーゼ活性(Fig. 2-7)の低下傾向が認 められた。Appel と Schulz( 1998, 2000)は、非窒素固定ラン色細菌 Synechocystis sp. PCC 6803 株において Hox は光合成で生じた余剰な 還 元 力 を 排 出す る た め の調 節 弁 として 働 く と提 案 している 。 Anabaena PCC 7120 株についての本研究の結果は、この提案と調和 したものである。 36.

(40) 野生株では Hox 活性染色法(Fig. 2-5)により 3 本のバンドが検 出 さ れ た が 、こ の う ち の泳 動 速 度 が最 も 速 い薄 い バ ン ドは 、 Tamagnini ら(1997)によっても報告されており、彼らは Hox の分 解産物だと提案していた。しかし、?hoxH 株および ?hupL/?hoxH 株 においてもこのバンドが検出されることから(Fig. 2-5)、これは Hox の分解産物ではあり得ないと結論される。しかも、水素なしでアル ゴンを満たした条件下でもこのバンドが現れることから、これは細 胞抽出物の中 にこの活性染色法で 反応する ヒドロゲナーゼ以外 の 物質が存在するためだと考えられる。これらの知見を総合すると、 この物質は還元性物質ではないかと考えられるが、その実体の解明 は今後の課題である。. 37.

(41) 第三章. ヘテロシスト 型窒素固定 ラン色細菌における ヒドロゲナ. ーゼの分布 第一節. 序論. ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌には、取込み型ヒドロゲナー ゼ(Hup)と双方向性ヒドロゲナーゼ(Hox)の 2 種類の NiFe 型ヒ ドロゲナーゼが知られている。Hup は、ほとんど全てのヘテロシス ト型窒素固定ラン色細菌が持ち、主にヘテロシスト内で発現するこ とから、その生理的役割は窒素固定に付随して発生する水素の再吸 収にあると考えられる。一方、Hox については、ヘテロシスト型窒 素固定ラン色細菌の中で持つものと持たないものがあると報告さ れており(Tamagnini et al. 2000)、また、単細胞性非窒素固定ラン 色細菌の中にも相同な hox 遺伝子を持つものが存在する。これまで に同定されたラン色細菌の hox 遺伝子から予想される産物は、従属 栄養細菌 Ralstonia eutropha 株の HoxF、HoxU、HoxY、HoxH サブ ユニットから構成される bidirectional NAD-linked hydrogenase との 間に高い相同性が見られる(Appel and Schulz 1996; Boison et al. 1996; Schmitz et al. 1995)が、生理的機能は明らかでない。Appel と Schulz(1998, 2000)は、単細胞性非窒素固定ラン色細菌 Synechocystis sp. PCC 6803 の ?hoxH 株は、野生株と比較して光照射 時の PSI 酸化速度の減少、PSII からの蛍光強度の増加および光強度 変化に対する適応時間の増加(成長速度の減少)が認められたこと から、Hox は光照射開始時に生じる低ポテンシャル電子を排出する ための調節弁として機能していると提案している。 ラン色細菌の hox 遺伝子群は、これまでに研究された単細胞性非 窒素固定ラン色細菌では hoxEFUYH から構成されていた (Appel and Schulz 1996; Boison et al. 1996)。一方、ヘテロシスト型窒素固定ラ ン色細菌では Anabaena PCC 7120 の全ゲノム DNA 配列が明らかに されるまでは、Anabaena variabilis の hoxFUYH の塩基配列が決定さ 38.

(42) れていたのみで(Schmitz et al. 1995)、また、単細胞性非窒素固定 ラン色細菌 Synechococcus sp. PCC 6301 株から作製した hoxE プロ ーブを用いてサザンブロットを行った研究からは、R. eutropha と同 様に hoxE は検出されなかった(Boison et al. 1999)。こうしたこと から、ラン色細菌の Hox 複合体は、R. eutropha の bidirectional NAD-linked hydrogenase と同様に、NAD、FMN と FeS 結合部位を 持つ HoxFUから成るジアフォラーゼ部分と HoxYH からなるヒドロ ゲナーゼ部分の 2 つのダイマーから構成された四量体だと考えられ ていた。しかし、最近 Schmitz ら(2002)により、単細胞性非窒素 固定ラン色細菌 Synechocystis sp. PCC 6803 株と Synechococcus sp. PCC 6301 株から活性を持つ Hox 複合体が精製され、この複合体は 単細胞性非窒素固定ラン色細菌の場合と同様に HoxEFUYH の 5 量 体から構成されていることが生化学的に証明された(Fig. 3-1)。同 様に、Anabaena PCC 7120 で決定された全ゲノム DNA 配列からも hoxF の上流に hoxE が同定され(Kaneko et al. 2001)、ヘテロシスト 型窒素固定ラン色細菌においても hoxEFUYH のクラスターを構成 していると考えられるに至った。 本研究では、ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌 15 株について サザンブロット法により hoxE 遺伝子の存否に注意して、hup およ び hox 遺伝子の分布を調べた。また、生化学的方法により、15 株の Hox 活性を調べた。. 39.

(43) Fig. 3-1 Proposed structural and functional model of the five subunit of the bidirectional hydrogenase (Hox) of cyanobacteria. The arrows indicate the electron flow proposed in Schmitz et al. (2002).. 40.

(44) 第二節 方法 ラン色細菌株と培養条件 日、仏、米国 3 ヶ所の藻類保存センター(それぞれ the IAM Culture Collection, University of Tokyo、the Pasteur Culture Collection、the Culture Collection of Algae, University of Texas)が所有する 15 株のヘ テロシスト型窒素固定ラン色細菌 Anabaena cylindrica IAM M 1、 Anabaena variabilis IAM M 3、Anabaenopsis circularis IAM M 4、 Nostoc commune IAM M 13、Nostoc muscorum IAM M 14、Nostoc punctiforme IAM M 15、Nostoc linckia IAM M 30、Anabaena variabilis IAM M 58、Anabaena sp. PCC 7120、Nostoc sp. PCC 73102、Nostoc sp. PCC 7422、Nostoc sp. PCC 8307、Anabaena cylindrica UTEX B 629、 Anabaena flos-aquae UTEX B 1444、 Anabaena flos-aquae UTEX LB 2558 株を BG11 培地で培養した。双方向性ヒドロゲナーゼ Hox を 誘導するための培養は、0.5 l の BG110 培地中に TES (pH 8.2)、NiCl2、 NH4Cl をそれぞれ最終濃度 10 mM、1 µM、5 mM になるように加え、 1% CO2 を含むアルゴンガスを通気し、スターラーで撹拌しながら 30-36 時間培養した。 オリゴヌクレオチドプローブの作 製とサザンハイブリダイゼーシ ョン hupL プローブは、Anabaena PCC 7120 株の Hup 構造遺伝子を鋳型 に(Fig. 3-2)、hupL-s2/hupL-a1 または hupL-s2/CMhupL-a のプライ マー(Table 3-1)を用いて、PCR によりジゴキシゲニンでラベルし 作製した。hoxE、hoxF、hoxY、hoxH プローブは、Anabaena PCC 7120 株 の そ れ ぞ れ の 構 造 遺 伝 子 を 鋳 型 に ( Fig. 3-2 )、 そ れ ぞ れ hoxE-s1/hoxE -a1. 、. hoxF-s1/hoxF -a2. 、. hoxY-s1/hoxY-a2. 、. CMhoxH-s/CMhoxH -a のプライマー(Table 3-1)を用いて、同様にし て作製した。サザンハイブリダイゼーション条件は、60℃、5xSSC (1xSSC: 0.15 M NaCl, 15 mM sodium citrate, pH 7.0)のバッファー 41.

(45) で一晩ハイブリダイゼーションし、60℃、0.5xSSC の洗浄液で 3 回 洗った。ジゴキシゲニン法による検出は、Luminescent Detection Kit (Roche)の手順に従った。 Hox 活性測定 Hox 誘導条件下で培養した細胞か ら第二章の酵素活性測定で述 べたのと同じ方法で、細胞抽出物の上清を調製し、Hox による水素 発生測定および Hox 活性染色を行った。. 42.

(46) 43.

(47) 44.

(48) 第三節 結果 サザンブロット法による hup および hox 遺伝子の分布 15 株のヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌の細胞から抽出した ゲノム DNA を制限酵素 EcoRI または HindIII で十分消化し、hup 遺 伝子に対しては hupL プローブを、hox 遺伝子に対しては hoxE、hoxF、 hoxY、hoxH プローブを用いて、サザンブロット解析を行った。 hupL 遺伝子は 15 株すべてにおいて検出されたが、hoxE,H 遺伝子 は 12 株においてしか検出できなかった。hoxE,H 遺伝子が検出され なかった 3 株においては、ヒドロゲナーゼ部分を構成するとみられ る hoxY 遺伝子も検出されなかった。なお、hoxF 遺伝子プローブを 用いた結果はあいまいで、後者 3 株のうち 2 株は、同じハイブリダ イゼーション条件で弱いシグナルが検出されたが、1 株は検出され なかった。hoxE,H 遺伝子が検出された 12 株のうち 11 株は hoxF の 強いシグナルが、1 株は弱いシグナルが検出された(Table 3-2)。 活性染色法による Hox の分布 前節で述べたように Anabaena PCC 7120 ?hoxH 株の Hox活性染色 法による解析(Fig. 2-5)から、hox 遺伝子を持たないものにも1本 の薄いバンドが見られたので、この薄いバンドに注意して hox 遺伝 子を持つ 12 株と持たないと思われる 3 株についてさらに調べた。 ?hoxH 株の解析結果と同様に、hox 遺伝子を持つと考えられる 12 株には少なくとも 2 本の陽性なバンドが見られたが(Fig. 3-3)、 hoxE,Y,H 遺伝子が検出されなかった 3 株には1本の薄いバンドしか 見られなかった(Fig. 3-4)。Hox による水素発生活性の生化学的測 定結果も hox 遺伝子の存否についての結果とよく対応していた (Table 3-2)。 まとめ hox 遺伝子も Hox 酵素活性も持たないものとしては、これまでに 45.

(49) Nostoc PCC 73102 一株が報告されていただけであったが、以上の結 果から新たに Nostoc IAM M 13、Nostoc IAM M 15 株がこのリストに つけ加わった。. 46.

(50) 47.

(51) 48.

(52) Fig. 3-4 Activity staining of Hox in hox-negative strains. The arrows indicate Hox positive bands.. 49.

(53) 第四節 考察 Fig. 2-6,7,8 に示した Hup と Hox の遺伝子破壊と Table 3-2 のそれ らの分布の解析から、それぞれのヒドロゲナーゼは次のような生理 的機能を持っていると考えられる。 Hup は、Anabaena PCC 7120 ?hupL 株の解析より水素再吸収のた めの主要な酵素であることが示唆されていたが、サザン解析より調 べた窒素固定ラン色細菌 15 株の全てに広く存在することが示され た。その生理的役割としては、再吸収した水素をエネルギー源とし て再利用することによって、自然界では窒素固定効率を高め、生存 に有利に働いている可能性が強く示唆された。一方、Anabaena PCC 7120 ?hupL 株の窒素固定生育下におけるニトロゲナーゼおよび成 長曲線の測定からは Hup 欠損による負の影響は見られなかった。こ れは、本実験条件(連続光、単一種のみの培養など)と自然界での 生存条件(昼夜の明暗、時に不十分な入射光、複数種との競合など) との違いによるものだと考えられる。 興味深いことに、Hox を持たない 3 株には、それぞれソテツ (Macrozamia sp.)、コケ(Cavicularia densa)と共生し、あるいは 菌類と共生し地衣類(Peltigera erumpens)の構成生物となっている という共通点が見られた。Hox を持たない 3 株はすべて共生生活を するものだったが、逆に Nostoc sp. PCC 7422 株と Nostoc sp. PCC 8307 株は、それぞれソテツ(Cycas sp.)、シダ(Azolla filiculoides) と共生できるにもかかわらず、hox 遺伝子ならびに Hox 活性を持っ ていた。Table 3-2 の結果をさらに詳しく見ると、このうちの Nostoc sp. PCC 7422 の Hox 誘導条件下の Hox 活性は、他の hox 遺伝子を持 つ株に比べてタンパク質当たり 1/26-1/92 倍と活性が低く、Hox 誘 導前や窒素欠乏条件下では検出限界以下の活性レベルであった。こ のことから、Nostoc sp. PCC 7422 株は hox 遺伝子を持ってはいるが、 Hox は低い活性レベルでしか機能していないと考えられる。Nostoc sp. PCC 8307 株はアカウキクサ Azolla から単離された。しかし、 50.

(54) Azolla に共生しているラン色細菌の定量的評価のために行なった各 ラン色細菌群のゲノム DNA に対するサザンブロットの研究からは、 共生しているラン色細菌の中で Anabaena 属または Nostoc 属は少数 派に属し、主要な共生ラン色細菌はこれら以外のものだと考えられ ると報告されている(Franche and Cohen-Bazire 1985; Franche and Cohen-Bazire 1987; Meeks et al. 1988; Peters and Meeks 1989)。このこ とから、Nostoc sp. PCC 8307 株は、Azolla との共生生活が必ずしも 十分には証拠だてられていないと考えられる。以上から、 Hox は 、 共生型窒素固定ラン色細菌において窒素固定を十分にしていると 思われるものの中には存在しないか、たとえ存在しても活性レベル が低いと現時点では判断される。Anabaena sp. PCC 7120 ?hoxH 株に おいて Hox は、窒素固定にとって必ずしも必要ではないという結果 (第三節)と合わせて考えると、これらの事実は Hox の生理的役割 が光合成における余剰な還元力の調節弁であるという Appel と Schulz(1998, 2000)の説と調和する。 Hox を持つ 12 株はすべて、hoxF,(Y),H に加えて hoxE も持つこと がサザンブロットより示され、このうち 11 株は明らかに hoxF を持 ち、残る 1 株も持っている可能性が示された(Table 3-2)。このこ とからヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌においても Hox は HoxEFUYH の 5 量体から構成されるタンパク質複合体として存在 する可能性が強く示唆される。R. eutropha の bidirectional NAD-linked hydrogenase は HoxFUYH の四量体からなる可溶性タン パク質であるが、 ラン色細菌の Hox はこれとは異なり、 さらに HoxE を持つ五量体だと考えられる。五量体の四量体部分は HoxE で膜と 結合し、後者のモチーフとして見られる 2Fe-2S クラスターが膜へ の電子伝達に関わっているのかもしれない(Schmitz et al. 2002) (Fig. 3-1)。. 51.

(55) 第四章. ヒドロゲナーゼ変異株の 光から水 素へのエネルギー変 換. 効率 第一節. 序論. ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌による水素生産の問題点は、 野生株のエネルギー変換効率が低く、また、水素生産活性が持続し ないことである。水素生産性増大に向けた改良においては、入射太 陽光に対するエネルギー変換効率約 1%で少なくとも 1 週間程度に わたって水素を生産することを当面の目標とする。Anabaena PCC 7120 株から作製した ?hupL 株は、水素生産性が野性株の 4-7 倍に増 大することが示された(第二章)ので、その水素生産性を詳細に評 価するため、励起光強度を変化させたときの変換効率と光照射時間 の関係について調べた。. 52.

(56) 第二節 方法 ラン色細菌培養条件 Anabaena PCC 7120 野生株と ?hupL 株は、BG11 で培養した対数 増殖期にある細胞を BG11 0 培地で 2 回洗い、1.5 l の BG11 0 培地(10 mM TES (pH 8.2) を添加)に移し、26℃で 70 µmol photon m-2 s -1 PAR (PAR: Photosynthetically Active Radiation) ( Model LI-250 Light Meter, LI-COR Inc.)の白色光を連続照射し、空気または空気+1% CO2 通 気条件下で、スターラーで撹拌しながら培養した。エネルギー変換 効率測定実験では、このうちの空気のみを通気して培養した細胞を 用いた。 エネルギー変換効率測定 ?hupL 株は、空気で通気培養した場合、窒素欠乏培地に移してか ら約 36 時間後に水素発生活性が最大値に達する。その最大活性時 前後(32-40 時間)の細胞懸濁液を濃縮(50-60 µg Chl a/ml)したも のを 1 ml 取り、 1 cm 角のポリスチレンキュベット(内容積 4.7 ml) に入れ、ブチルゴム栓とパラフィルムで密閉し気相をアルゴンガス に置換した。光源には模擬太陽光スペクトルを放出する M-26 ハロ ゲンランプ(Kondo-Sylvania, Ltd.)(Wakayama et al. 1998)を用い、 可視光(400-700 nm)のみを透過するフィルター(コールドフィル ターB 型、日本真空工学)を通して光を細胞に照射し、スターラー で攪拌しながら合計 35 分間光照射を続けた(Fig. 4-1)。その間、5-10 分おきに 100 µl の気相を抜き取り、ガスクロマトグラフィーで水素 濃度の変化を測定した。光源と試料との距離を変えることにより励 起光強度を 5-250 W/m2 PAR の範囲で変えて照射し、細胞懸濁液へ の入射光と透過光の光強度を熱伝堆 (N.V. v/h P.J., Kipp and Zonen) により測定し、その差を吸収光エネルギーとした。光から水素への エネルギー変換効率は、分子状水素の燃焼熱を 286 kJ/mol として、 生産 された水 素の燃焼 エネルギー と吸収された光エネルギーか ら 53.

(57) 計算した。 conversion efficiency (%) =. combustion energy of produced H 2 × 100 absorbed light energy. 54.

(58) Fig. 4-1 Experimental set-up for determination of energy conversion efficiency of H2 production. 55.

(59) 第三節 結果 エネルギー変換効率 ?hupL 株細胞懸濁液に励起光強度を 5-250 W/m2 PAR の範囲で変 えて照射し、水素生産量を測定した。PAR(光合成有効放射)は、 光合成に有効な波長範囲の放射 400-700 nm で、一般的にそのエネ ルギーは地表で受ける全太陽光の約半分を占める。 200 W/m2 PAR 以下では、10-35 分の照射時間にわたって水素濃度 はほぼ直線的に増加した。200 W/m2 PAR の水素生産は 100 W/m2 PAR の場合と比べて低く、250 W/m2 PAR では低い活性が時間と共 にさらに低下していった(Fig. 4-2)。 照射時間 10-35 分における可視光に対する変換効率は、励起光強 度 5-50 W/m2 PAR の範囲ではほとんど一定で約 1.0-1.6%(全太陽光 換算約 0.5-0.8%)であったが、光強度がこれを越えるにつれて効率 は低下した(Fig. 4-3)。250 W/m2 PAR では、光照射 10-20 分の効率 は 0.24%、20-30 分の効率は 0.17%であった。励起光強度 200 W/m2 PAR 以上では強光による光阻害が起きていると考えられる。 空気+1% CO2 通気培養による水素生産性への効果 ?hupL 株と野生株の培養条件を空気のみ通気から空気+1% CO2 通気に変えると、水素生産活性が最大となる培養時間は、空気のみ 通気の場合とほぼ同じで、 それぞれ 32 時間と 42-50 時間であった。 しかし、最大値に達した後の培養 50 時間以降での水素生産活性の 低下は、?hupL 株では空気+1% CO2 通気の方が空気のみの通気よ り も 緩やかになり 、水素生産の持続性 が有 意に 改善 された( Fig. 4-4A)。一方、野生株では、空気+1% CO2 通気による ?hupL 株の ような改善は認められなかった(Fig. 4-4B)。. 56.

(60) 1 2. 5 W/m. 2. 50 W/m. 0.8. 2. 200 W/m. 2. 0.6. 250 W/m. 2. (µmol H /cuvette). 2. H production. 2. 100 W/m. 0.4. 0.2. 0 0. 10. 20. 30. 40. Incubation time (min). Fig. 4-2 Time course of H2 production by the ?hupL mutant. At the times indicated, gas was sampled for H2 analysis.. 57.

(61) Conversion efficiency (%). 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0. 50. 100. 150. 200. 250. 2. Light intensity (W/m PAR). Fig. 4-3 Effects of light intensity on energy conversion efficiency of photobiological H2 production by ? hupL mutant . Conversion efficiencies are calculated against absorbed visible light (PAR) energy with ?hupL mutant at its nearly maximal H2 production stage. H2 productions were determined between 10 and 35 min after onset of illumination.. 58.

(62) (µmol H2 mg Chl a-1 h-1). H2 production rate. 60. (A). 50 40 30 20 10 0 0. 50. 100. 150. (µmol H2 mg Chl a-1 h-1). H2 production rate. Time (h) 60. (B). 50 40 30 20 10 0 0. 50. 100. 150. Time (h) Fig. 4-4 Time course of in vivo H 2 producing activities of wild-type and ? hupL. Cells were transferred from BG11 medium to BG11 0 medium at zero time and grown under either (A) air plus 1% CO 2 (v/v) or (B) air with continuous illumination. ● , wild-type; ■ , ?hupL. Vertical bars; SD values for three replicates. 59.

(63) 第四節 考察 これまで報告 されている窒素固定ラン色細菌のニトロゲナーゼ 系による光から水素への変換効率を Table 4-1 にまとめた。Anabaena sp. TU37-1 株をアルゴンガス気相下で光強度 22 W/m2 (PAR, 400-700 nm)を 12 時間ごとの明暗周期で照射した場合の培養を開始して最 初の明期 0-12 時間における効率は 2.4%、同光強度を連続照射した 場合の培養を開始して最初の 0-24 時間における効率は 2.2%であっ た(Kumazawa、Asakawa( 1995))。Anabaena variabilis PK84 変異株 を用いて、培地中のモリブデンを取り除きバナジウムを加えること でバナジウム型ニトロゲナーゼを発現させ、らせん状フォトバイオ リアクター内で空気+2% CO2 気相下、光強度 72.2 W/m2 PAR を 12 時間ごとの明暗周期で照射し培養したときの光照射 9 時間後に おける効率は約 0.14%であり(Borodin et al. (2000))、また、同株、 同フォトバイオリアクターを用い、空気+5% CO2 気相下で光強度 3 W/m2 連続光で 30 日間に渡って培養したときの平均効率は 1.4% であった( Markov et al. ( 1997))。 単細胞性窒素固定ラ ン色細菌 Synechococcus sp. Miami BG 043511 株をアルゴンガス気相下で光強 度 25 W/m 2 (PAR, 400-700 nm) 、 12 時間ごとの明暗周期で照射し、 24 時間培養したときの 0-24 時 間 における効率 は 2.6% であった (Kumazawa and Mitsui(1994))。 本研究で用いた Anabaena PCC 7120 株は、分子生物学的操作がし やすいことを理由に選んだ株であって、水素生産活性が特に高いと いう種ではないが(Table 1-4)、hupL 遺伝子を破壊することにより Table 4-1 における効率と比べてさほど劣らない効率が達成可能で あることが示された。この効率(全太陽光換算約 0.5-0.8%)は、当 面の目標である 1%に近いものであるが、さらなる向上が望まれる。 ?hupL 株の細胞を空気のみ通気培養したときは、最大水素生産活 性が 10 時間程度しか持続せず、培養 50 時間以降に水素生産性が急 速に低下した(Fig. 4-4B)。しかし、空気+1% CO2 通気の場合は、 60.

(64) 空気 のみ通気培養の場 合と比べて 水素生産性の低下が 緩やかにな り、ある程度の改善が見られた(Fig. 4-4A)。この場合、細胞が培 養 50 時間以降も成長を持続していたこと(Fig. 2-8A)から考えて、 細胞成長の改善分だけ 成長に必要 な窒素栄養供給のために窒素固 定の必要性が増加し、ニトロゲナーゼ活性低下の度合が低くなり、 それに伴う水素生産性の低下も遅れたと考えられる。このことから、 細胞 の生育に 必要な窒 素が窒素固定によって十分に充 足されなけ れば、窒素固定の必要性も持続し、ニトロゲナーゼ活性とそれに伴 う水素生産活性も持続するようになると考えられる。したがって、 窒素固定に向 いていた 電子を水素発生により多く振り 向けるよう にニトロゲナーゼの活性中心部位を改変し、窒素固定効率を低下さ せることができれば水素生産活性 をより長 く持続させることがで き、また同時に水素生産効率をさらに向上させることができる可能 性がある。 次に問題となるのは、励起光強度が 50 W/m2 PAR(全太陽光強度 100 W m-2 に相当)を超えると効率が急速に低下し、200 W/m2 PAR で光阻害が起こるということである。日本における日中の全太陽光 強度は、一般に 400-900 W/m2 である。このことから、野外での高 効率で連続的な水素生産のためには、ニトロゲナーゼの改良だけで は不十分で、強光下での光阻害に対する耐性を持たせて高い効率を 維持させる必要がある。今後の課題として、光阻害を起こしにくく するようにアンテナ色 素サイズの 調節などの光化学系 に対する 改 良を 加える必要性や光阻害を起こしにくい 株を野外か ら選抜す る 必要性が考えられる。. 61.

(65) 62.

(66) 謝辞 本研究を遂行するにあたり、終始御指導下さいました早稲田大学 教育学部櫻井英博教授に深く感謝致します。また、多くの有効な御 助言を下さいました駒澤大学持丸真里講師に感謝致します。最後に、 実験 の御協力 を頂きました早稲田大学教育学部櫻井研究室の皆 様 に感謝致します。. 63.

(67) 参考文献 Appel J, Schulz R (1996) Sequence analysis of an operon of a NAD(P)-reducing nickel hydrogenase from the cyanobacterium Synechocystis sp. PCC 6803 gives additional evidence for direct coupling of the enzyme to NAD(P)H-dehydrogenase (complex I). Biochim Biophys Acta 1298: 141-147 Appel J, Schulz R (1998) Hydrogen metabolism in organisms with oxygenic photosynthesis: hydrogenases as important regulatory devices for a proper redox poising? J Photochem Photobiol B 47:1-11 Appel J, Phunpruch S, Steinmüller K, Schulz R (2000) The bidirectional hydrogenase of Synechocystis sp. PCC 6803 works as an electron valve during photosynthesis. Arch Microbiol 173:333-338 Axelsson R, Oxelfelt F, Lindblad P (1999) Transcriptional regulation of Nostoc uptake hydrogenase. FEMS Microbiol Lett. 170: 77-81 Benemann J (1996) Hydrogen biotechnology: progress and prospects. Nature Biotechnol 14:1101-1103 Black TA, Cai Y, Wolk CP (1993) Spatial expression and autoregulation of hetR, a gene involved in the control of heterocyst development in Anabaena. Mol Microbiol 9:77-84 Boison G, Bothe H, Hansel A, Lindblad P (1999) Evidence against a common use of the diaphorase subunits by the bidirectional hydrogenase and by the respiratory complexⅠ in cyanobacteria. FEMS Microbiol Lett 174: 159-165 Boison G, Bothe H, Schmitz O (2000) Transcriptional analysis of hydrogenase genes in the cyanobacteria Anacystis nidulans and Anabaena variabilis monitored by RT-PCR. Curr Microbiol 40: 315-321 Boison G, Schmitz O, Mikheeva L, Shestakov S, Bothe H (1996) Cloning, molecular analysis and insertional mutagenesis of the bidirectional hydrogenase genes from the cyanobacterium Anacystis nidulans. FEBS Lett 394: 153-158 Boison G, Schmitz O, Schmitz B, Bothe H (1998) Unusual gene arrangement of the bidirectional hydrogenase and functional analysis of its diaphorase subunit HoxU in respiration of the unicellular cyanobacterium Anacystis nidulans. Curr Microbiol 36: 253-258 Borodin VB, Tsygankov AA, Rao KK, Hall DO (2000) Hydrogen production by Anabaena variabilis PK84 under simulated outdoor conditions. Biotechnol Bioeng 69:478-485 Bothe H, Kentemich T (1988) Hydrogenase-nitrogenase relationship in the cyanobacterium Anabaena 7119. In: Bothe et al. (eds) Nitrogen Fixation: Hundred Years After, Gustav Fischer, New York, pp 206 64.

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