博 士 ( 工 学 ) 篠 原 潤 一
学 位 論 文 題 名
電力系統運用支援におけるエキスパートシステム実用化に関する研究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
電力系統を運用する為にコンピュータの活用が1960年代に始まり、現在では高品 質の電カを安定に供給する為に必要不可欠な存在になっている。この歴史の中で、電力 系統の状態を監視し、制御し、記録するなど、定型的な業務活動を人間による作業から コンピュータによる処理に移行させることによって、大規模な省力化を実現してきた。
この手法による自動化をほぼ達成した今、従来から非定型的とされていて、ペテラン運 用者の経験と勘に多くを依存する高度な業務を自動化することが次の課題とされている。
この課題に対して人工知能
(AI
)技術、その中でエキスパートシステム技術が、その 解決の可能性を持ち、至近時での実用化が期待される有カな手段とレて注目されている。さて、電力系統の運用の目的は、需要家に対して不断に良質の電カを供給することで あり、その為に電力系統を構成する発電所、変電所及び送電線などの設備を計画的に運 用することがコンピュータシステムに課された要件となる。そしてこの要件を実現する 為に、将来の状態を予測して予め手順を用意しておく計画業務と、電力系統の状態を監 視 し 、 電 力 系 統 を 時 々 刻 々 と 制 御 す る 監 視 ・ 制 御 業 務 が あ る 。
計画業務は、電力需要、河川流量等の予測をする業務と、それらの予測値をもとにし て、発電設備や送変電設備の運用や補修、停止などの計画を立案する業務から構成され ている。
監視・制御業務は計画業務によって立案された計画を基準として、当日の電力需要や 河川流量の状況、発電設備や送変電設備の状態などを監視し、計画を修正しながら電力 系統全体の制御を行う業務から構成されている。
これらの業務において、従来から非定型的とされていて、ペテラン運用者の経験と勘 に多くを依存する部分の代表例には次の様なものがある。
・法令により定性的に課せられた制約、あるいは各電力会社が独自に定量的な条件を定
めた制約を状況に応じて解釈し、関係部署と調整を行い、膨大な数の設備について補
修計画と停止計画を立案する。
・電力系統の事故に際して、電力系統から得られる多数のデータの中から重要なものを
認 識 し 、 不 正 デ ー タ を 見 抜 き 、 正 確 で 迅 述 な 状 況 判 断 を 行 う 。
・事故によって使用不可能となった設備を除外し、系統から解列した発電機を並列し、
停電需要家を復旧させるための操作手順を立案するとともに、復旧過程の系統の信頼
性や復旧操作の所要時‖
H
などを正確かつ迅速に判断する。この様な非定型な業務の巾から、現状の技術でエキスパートシステムとして実現でき る範囲を見極め、これを実用システムとして実現する研究を行った成果を本諭文で報告 する:
各章の概要は以下の通りである。
第1章は序論であり、電力系統の運用の中で監視業務、制御業務、計画業務の位置づ けを述べ、それぞれのコンピュー夕応用の現状と問題点を整理し、その問題点解決の為
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の エキスパ ートシス テム適 用のアプ ローチ 、その中 でエキスパート適用の意義と実用シ ステム構築の考え方を明確にしている。
第2章で は、監視 業務へ のエキス パート システム 適用に ついて述 べている 。そこでは 電 力系統の事故に際して電力系統から得られる多数のデータを使って事故の判定を行い、
事 故に直接 関係する デ一夕 と他を区 別し、 不正デー タがあればそれを指摘するエキスパ ー トシステ ムの構成 を提案 し、その 評価結 果を報告 している。またぺテラン運用者から 獲 得した知 識が、利 用され る状況に よって は誤った 知識となることもあるため、その対 策 として入 カしたデ ータを 運用者の 理解で きる形で 直接ヒューマンインタフェースに表 示 す る こ と に よ っ て 、 事 故 判 定 の 結 果 と 比 較 で き る 方 法を 併 せ て報 告 し てい る 。 第3章で は、制御 業務へ のエキス パ一Iトシス テム適用 について述べている。そこでは 事 故によっ て使用不 可能と なった設 備を除 外し、系 統から解列した発電機を並列し、停 電 地域を復 旧させる ための 操作手順 を立案 するエキ スパートシステムについて論じてい る 。特に事 故復I日につ いて公的、またはぺテラン運用者の私的な知識がドキュメント等 で 明示的に 示されて いる部 分と、暖 味な部 分を明確 にする方法論を述べ、知識の明確と な っていな い領域で 行われ る行為( 知識ベ ース行為 と呼ばれている)が必要な状態とな っ た 場 合に 、 運 用者 を 支 援す る ヒ ュー マ ン イン タ フ ェー ス の 構 成を 提 案 して いる。
第4章で は、計画 業務へ のエキス パート システム 適用に ついて述 ぺている 。停止計画 は 、法令、 あるいは 各電力 会社が独 自に定 めた制約 、たとえば、電カの予備率、定期検 査 の周期な どを基に 立案さ れる。こ れらの 制約は運 用者の判断で調整、緩和が可能なも の が多く、立案をする運用者の状況判断にまかされている範囲が大きい。この状況判断、
制 約の緩和 、計画の 調整等 の関係は たいへ ん曖味で あるため、現状では計画業務の自動 化 は非常に 困難であ る。一 方、立案 作業を 行う運用 者の状況判断を適切に支援するヒュ ー マンイン タフェー スが求 められて おり、 本論文で は停止計画の業務分析から、コンピ ユ ータによ り改善し うる事 項とその 解決策 としてフ ァジィ理論を応用したユーザインタ フェースを提案した。
第5章で は、電力 系統監 視制御シ ステム にエキス パート システム を搭載す る為に必要 な 、ソフトウエア、ハードウエア環境を明かとし、これを実現したことを報告している。
エ キスパートシステムが、―プロトタイプシステムの開発・機能評価の段階から実用シス テ ムの製作 ヘ進むに 従い、 ハードウ エアと ソフトウ エアを総合的に考慮した実用化シス テ ム 榊 築の た め のAI環境 が必要に なって いる。大 部分の プロトタ イプシ ステムが スタ ン ド ァ ロン 上 に 閉じ た 世界で榊 築され 、機能検 証を主 目的とす るのに対 し、実 用シス テムにおいては、スピード性能にI如する要們:、他のシステムとの協調などのiむ条件を満 た す こ とが 重 要 にな る 。この観 点で、 ハードウ エアと ソフトウ エアを統 合したAI環境 を爽用化した研究の成果を述べている。 ゛
第6章 は 本 論 文 の 結 諭 で あ り 、 各 章 でi廿 ら れ た 新 知 見 を と り ま と め て い る 。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨
主 査 教 授 大 内 東 副 査 教 授 宮 本 衛 市 副 査 教 授 嘉 数 侑 昇 副 査 教 授 長 谷 川 厚 副 査 助 教 授 栗 原 正 仁
学 位 論 文 題 名
電力系統運用支援におけるエキスパートシステム実用化に関する研究
工 キス パー トシ ステムは、人間の経験と勘に基づいて解が求め られている問題を 対象 とし 、明 示的 に表現された知識をヒューマンエキスパートか ら得てコンピュ一 夕に搭載することによって、人間と同等の解を確実、高速.に得ることを目的とした シス テム であ る。 その主な応用領域には、診断、計画、制御など があり、実用化の ため の研 究が 数多 くされている。しかし、データや知識に不正が 含まれる問題、知 識が 暖味 な範 囲に 関してのエキスパートシステム構築の問題、リ アルタイムェキス パー トシ ステ ム構 築のための環境の問題などがあり、研究の多く がプロトタイプに 留まっている。
本 論文 は電 力系 統運用支援システムにおけるこれらの問題点を 解決し、実用的エ キス パー トシ ステ ムを開発するために行った研究成果をまとめた ものであり,主要 な成果は次の点に要約される。
@ 系統 の構 造的 特徴を効果的に利用し、入カデータや知識に不 正があることを前 提とした事故判定システムを実現している。
@ヒューマンパ フォーマンスモデルに基づいて、運用者とコンピュータとが一体 と な っ て 復 旧 手 順 を 作 成 す る 事 故 復I日 シ ス テ ム を 実 現 し て い る 。 ◎ 実用 シス テム に必要な高速化と既存システムの有効利用を実 現するために、必 要 な 基 本 機 能 を 並 列 処 理 す る 専 用 プ ロ セ ッ サ を 開 発 し て い る 。 本論文は6章から構成されている。
第1章は 序論 であ り、 電 力系 統の 運用 の中 で監視業務、制御業務、計画業務 の位 紐 づけ を述 ベ、 それぞ れのコンピュー夕応用の現状と問題点を整理し、その問 題点 解 決の 為の エキ スパー トシステム適用のアプローチ、そのqIでエキスパート適 用の 意義と実用システム椛築の 考え方を明確にしている。
第2章で は、 艦視 業務 へ のエ キス パー トシ ステム適用について述ぺている。 そこ では電力系統の事故に際し て電力系統から得られる多数のデータを使って珂f故の判 定を行い、ヨf故に直接1刈 係するデータと他を区別し、不正デ一夕があればそれを指 摘 する エキ スパ ートシ ステムの構成を拠案し、その評価結果を報告している。 また ぺ テラ ン迎 用者 から獲 得した知識が、利用される状況によっては誤った知識と なる こ とも ある ため 、その 対策として入カしたデータを迎用者の理解できる形で直 接ヒ ユ ーマ ンイ ンタ フェー スに表示することによって、事故判定の結果と比較でき る方
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法を併せて報告している。
第3章で は、 制御 業務 への エキ スパ ―ト シス テム 適 用に つい て述 べている 。そこ では 事故 によ って 使用 不 可能 とな った 設備 を除外し、系統から解列した発電 機を並 列し 、停 電地 域を 復旧 さ せる ため の操 作手 順を立案するエキスパートシステ ムにつ いて 諭じ てい る。 特に 事 故復 旧に つい て公 的、またはぺテラン運用者の私的 な知識 がド キュ メン ト等 で明 示 的に 示さ れて いる 部分と、暖味な部分を明確にする 方法諭 を述 べ、 知識 の明 確と な って いな い領 域で 行われる行為(知識ペース行為と 呼ぱれ てい る) が必 要な 状態 と なっ た場 合に 、運 用者を支援するヒューマンインタ フェー スの構成を提案している。
第4章で は、 計画 業務 への エキ スパ ート シス テム 適 用に つい て述 ぺている 。停止 計画は、法令、あるいは各電力会社が独 自に定めた制約、たとえば、電カの予備率、
定期 検査 の周 期な どを 基 に立 案さ れる 。こ れらの制約は運用者の判断で調整 、緩和 が可能なものが多く、゛立案をする運用者の状況判断にまかされている範囲が大きい。
この 状況 判断 、制 約の 緩 和、 計画 の調 整等 の関係はたいへん暖味であるため 、現状 では 計画 業務 の自 動化 は 非常 に困 難で ある 。一方、立案作業を行う運用者の 状況判 断を 適切 に支 援す るヒ ュ ーマ ンイ ンタ フェ ースが求められており、本論文で は停止 計画 の業 務分 析か ら、 コ ンピ ュ一 夕に より 改善しうる事項とその解決策とし てファ ジィ理論を応用したユーザインタフェー スを提案している。
第5章で は、 電力 系統 監視 制御 シス テム にエ キス パ ート シス テム を搭載す る為に 必要 な、 ソフ トウ エア 、 ハー ドウ エア 環境 を明かとし、特にスピード性能に 関する 要件 、他 のシ ステ ムと の 協調 など の諸 条件 を満たすハードウエアとソフトウ エアを 統合したAI環境を実用化した研究の成果 を述べている。
第6章 は 本 論 文 の 結 諭 で あ り 、 各 章 で 得 ら れ た 新 知 見 を と り ま と め て い る 。 こ れを 要す るに 、筆 者 は電 力系 統運 用支 援におけるエキスパートシステム の実用 化を 通し て、 大規 模複 雑 系に 対す る実 用的 エキスパートシステムの構築に関 する新 知見 を得 たも ので あり 、 シス テム 情報 工学 に対して貢献するところ大なるも のがあ る。
よ って 筆者 は、 北海 道 大学 博士 (工 学) の学位を授与される資格あるもの と認め る。
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