博 士 ( 工 学 ) 菅 原 美 博
学 位 論 文 題 名
超短光パルスを用いた結晶の弾性表面波のイメージング 学位論文内容の要旨
池に石を投げ込んだ 時、水面には円形の 波紋 が発生する。これと同じように、波紋は固体表面 にお いて も 発生する 。しかし、固体の波紋を人 間の目で直接見ることは、ほ ば不可能である。それ は身 近に 発 生し てい る固 体の 波 紋は 、ー 秒間 にlkm〜
10km
も の距 離を 進む 遠さ で 伝播 し、その振 動振 幅は 原 子の大き さと同じオーダーのためで ある。肉眼では見えない固体 の波紋がどのような波 面の 模様 を している のか、どのように伝播する のかを想像することは容易な ことではない。その伝 播特 性を 最 もよく理 解するための有効な手段の ーっは、固体の波紋を直接 見る ことである。本 研究 では 、 その固体 の波紋を可視化(イメージ ング)することに成功した。 即ち、固体の波紋の伝 播特性を調ぺるための 優れた手法を開発したのであ る。一般に、固体の表面 に沿って伝播する弾性波のモードのーっを弾性表面波(SAM「:surfaceacoustic
waves
)と呼び、固体の 波紋はその弾性表面波の伝 播によってあらわれる。その 伝播特性は水面の波 紋の 伝播 と は違った 性質を示す。例えぱ、結晶 表面の点波源から発生させた 弾性表面波は、結晶の 弾性 的異 方 性のため 波の位相速度が伝播方向に 依存するので、波面はもはや 円形とはならない。こ の結 果と し て、弾性 波によって運ぱれるエネル ギーの大きさは、伝播方向に 強い依存性を示し、表 面フ 穿ノ ン 集束効果 と呼ぱれる現象を生じる。 この表面フオノン集束効果は 物理的興味からだけで はな く、 弾 性表面波 デバイスヘの応用面からも 興味が増大している。表面弾 性波の伝播する距離が 比較 的長 く 、伝播を 妨げるものがない場合、そ の理論的解析は容易である。 しかしながら、デバイ スな どに こ の効果を 用いる場合、弾性波の伝播 を妨げる構造が絶えず存在し 、そのための解析は大 変困 難な も のとなる 。この事情を鑑みると、実 験的に弾性波の伝播を実時間 で追跡することが可能 にな れぱ 、 多種多様 な構造への応用が可能にな るぱかりでなく、表面弾性波 の物理的な現象の解明 にも 著し く 貢献する と期待される。しかしなが ら、固体表面の弾性波の伝播 を追跡する技術、即ち 実時間2次元イメージン グを行う技術はこれまでな かった。弾 性 表 面 波 を 用 い た 電 子 デ バ イ ス は 、
TV
用 フイ ルタ 、VTRのRF
モ ジュ レ ータ ー、 携帯 電話 のRF
フ イル タ やIFフイ ルタ など に 幅広 く使 用さ れて お り、&婀デバイス としてエレクトロニ クス の分 野 にお いて 、今 やな く ては ならない電 子デバイスとなっている。 このs亅AWデバイスに対 し て 現 在 用 い ら れ る弾 性表 面波 の周 波 数は 、数 百MHz〜 数GHzに まで 到達 し てい る。 また 弾性 表 面波 は、 レ ーザー超 音波技術の発達によって、 よりいっそう興味がもたれて いる。それは、光によ って 弾性 表 面波を励 起・検出することによって 、測定対象を破壊せずに物質 表面近傍の構造、およ び物質の弾性的・熱的 性質を得ることができるから である。
こ のよ う に多くの 応用の可能性を持つ弾性表 面波の本質を理解し、新たな 応用への道筋を明らか
―1027 ‑
にするため、本研究では、弾性的異方性物質、表面に薄膜構造を持つ物質、表面にマイクロ構造を 持つ物質の表面を伝播する弾性表面波を、時間・空間領域において直接 見る ことによってその 伝 播 特 性 を 直 感 的 に 理 解 し 、 そ の 上 で 定 量 的 な 解 析 を 行 う こ と を 目 的 と す る 。
本研究では、透明基板に金属薄膜を真空燕着した試料表面において、周波数領域100 MHz〜l
GHz
の弾性表面波の伝搬を、動画として観測を行っている。測定は、フェムト秒光パルスレーザー を用いたポンプ‐プローブ分光法によって行う。まず励起光パルスを透明基板側から直径およそ2um
に集光して金属薄膜に照射する。これにより金属薄膜に光吸収、および温度上昇を引き起こし、熱弾性的に弾性表面波を励起する。そして、検出光パルスを試料の表面側から照射し、我々のグル ープで開発した超高速現象用の光干渉計により、弾性表面波の伝搬を観測する。イメージングは、
光パルスを集光する対物レンズを2次元走査することによって行われる。この方法では、弾性表面 波の伝播によって引き起こされたpmオーダーの表面変位の信号を、psの時間分解能、umの空間 分解能でイメージングすることができる。
この測定方法によって観測された固体の波紋(弾性表面波)を図
1
に示す。図1(めは弾性的等方 的物質であるガラスを基板とした試料表面におけるある時刻の弾性表面波イメージである。図1 (b)、(c)
はそれぞれ弾性的異方性物質である立方晶系単結晶LiF(100)面、正方晶系単結晶rIb02( 001)面を 基板とした試料表面における弾性表面波イメージである。試料の表面には、それぞれ膜厚が数十nm の金の薄膜が真空蒸着されている。それぞれの表面波イメージをみると試料の弾性的な対称性を反 映した表面波の波面を示している。このように本実験の測定法は、空間的に複雑な波面をもって伝 播する弾性表面波の観測に非常に有効である。t
本論文は以下のように構成される。第1章では、異方性物質を伝播する弾性波に関する研究、レ ーザー超音波技術に関する研究、弾性表面波を用いた物性評価に関する研究、に関す.る背景を述べ る。第2章では、弾性表面波の定式化を行い弾性表面波の基本的な特性や計算方法について述べ、
弾性表面波速度の周波数分散と角度分散に対する実際の数値計算結果を記す。第3章では、ポンプ・
プローブ分光法と変形Sagnac光干渉計を基礎とした弾性表面波の時間分解イメージング法につ いて説明する。第4章では、等方性試料において観測された弾性表面波の時間分解イメージングに ついて考察する。第5章では、時間分解イメージデータから弾性表面波の分散関係イメージを取得 するニっの定量的解析法について述べる。そして、コンピュータシュミレーションデータと第
4
章 で観測された実験データに対しその解析法を適用し、そのフーリエ解析方法に対する評価する。第6
章では、時間分解イメージング法を様々な単結晶基板材料に適用した結果を示す。そして、単結 晶を伝播する表面波の伝播特性を定性的・定量的に考察する。第7
章では、表面にマイクロ構造を 持つ試料に対して測定を行った結果を示す。第8章では、本研究の成果を総括し今後の展望を述べ るb
―1028一
90
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. 0
0.2
y,m X 90 pun 135 Lun X 135 pm 150 ykm X 150 Lun
0.1
四1:ある瞬間 の弾性裏面 波イメージ :(a) 70nmの金薄膜が 真空蒸着さ れたクラウ ンガラス( 等方性試料 )。(b) 50nmの金薄農が真`
空 蒸 着 さ れ た 立 方 昌 系 単 結 晶LiF(1 00)面 。 り40nmの 金 薄 膜 が 真 空 蒸 着 さ れ た 正 方 晶 系 単 結 轟Te02 (001) 面 。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 オリバライト 副 査 教 授 田村信 一朗 副 査 教 授 田 中 啓 司
学 位 論 文 題 名
超 短 光 / ヾ ル スを 用 い た 結晶 の 弾 性 表面 波 の イ メー ジ ング
池に石を投げ 込んだ時、水面には円形の¨波紋¨が発生する。これと同じように、波紋は固体表面に おいても発生す る。しかし、固体の波紋を人 間の目で直接見ることは、 ほぼ不可能である。それは身 近 に発 生し てい る固 体 の波 紋は 、一 秒間 に
lkm‑:‑10km
も の 距離 を進 む速 さで 伝播し、その振動振 幅は原子の大き さと同じオーダーのためであ る。肉眼では見えない固体 の波紋がどのような波面の模 様をしているの か、どのように伝播するのか を想像することは容易なこ とではない。その伝播特性を 最もよく理解す るための有効な手段のーっは 、固体の波紋を直接 見る ことである。本研究では、その固体の波紋 を可視化(イメージング)す ることに成功した。 ´
一般に、固体 の表面に沿って伝播する弾性 波のモードのーっを弾性表面波(SAW: surface acoustic
waves)
と呼 び、 固体 の 波紋 はその弾性表面波の伝播 によってあらわれる。弾性 表面波を用いた電子 デ バ イ ス は 、TV
用 フ イ ル タ 、VTR
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フ イ ル タ な どに 幅広 く使 用さ れ てお り、SAW
デ バイ ス と してエレクトロニクスの分 野において、今やな く ては なら ない 電子 デ バイ スと なっ てい る 。こ のSAWデバイスに対して現在用 いられる弾性表面波 の 周波 数は 、数 百MHz〜 数GHzに まで 到達 し てい る。 この よ うな 高周 波数 の弾 性表面波の本質を理 解し、新たな応 用への道筋を明らかにするた め、本研究では、弾性的異 方性物質、表面に薄膜構造を 持つ物質、表面 にマイクロ構造を持つ物質の 表面を伝播する弾性表面波 を、時間・空間領域において 直接 見る こ とによってその伝播特性を直 感的に理解し、その上で定 量的な解析を行うことを目的 とする。本研 究で は、 透明 基 板に 金属薄膜を真空蒸着した 試料表面において、周波数 領域100 MHz〜l GHz の弾性表面波の 伝搬を、動画として観測を行 っている。測定は、フェム ト秒光パルスレーザーを用い た ボン プ― プロ ーブ 分 光法 によ って 行う 。 まず 励起 光パルスを透明基板側から 直径およそ2umに集 光して金属薄膜 に照射する。これにより金属 薄膜に光吸収、および温度 上昇を引き起こし、熱弾性的 に弾性表面波を 励起する。そして、検出光パ ルスを試料の表面側から照 射し、我々のグループで開発 した超高速現象 用の光干渉計により、弾性表 面波の伝搬を観測する。イ メージングは、光パルスを集 光 する対物レンズを2次 元走査することによって行わ れる。この方法では、弾性 表面波の伝播によっ て 引 き起 こさ れ たpmオー ダー の 表面 変位 の信 号を 、
ps
の 時間 分解 能、 ロm
の空 間 分解 能で イメ ー ジングすること ができる。本手法のように光 によって超音波(弾性表面 波)を励起・検出する技術は‑ 1030
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