博 士 ( 農 学 ) 篠 田 浩 一
学 位 論 文 題 名
デ ン ド ロ ビ ウ ム の 生 育 ・ 開 花 調 節 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本論文は,表41,図33,引用文献用94を含む総頁数166頁の和文論文であり,9章をもって構 成されている。
デンドロビウムは,東南アジアに分布する10種程度の野生種を元に育成されたもので,現在東 海地方を中心として約250万鉢,30億円程度の生産が行われており,洋ラン類の中ではシンビジ ウム,ファレノプシスに次ぐ生産量となっている。本種の普通栽培における開花時期は2月前後 であるが,1975年頃より山上げ栽培が始まり,また1983年頃より平地で冷房機を利用して低温処 理を行ない,年内に出荷する促成栽培の事例が見られるようになった。しかし,デンドロビウム の生育・開花条件には未解明な点が多く,生育不良や着花不良が多発したことから,生育段階別 の制御条件の解明が求められるようになった。本研究は,デンドロビウムの高品質・安定開花の ための生育・開花制御法の確立を目的として,リ―ドバルブの萌芽から生育・充実・花芽分化・
開花に至る各生育段階別に,主として温度反応から制御基準を明らかにするとともに,養分吸収 や糖代謝にっいて検討を行ったものである。
第1章では,研究対象作物の形態上の特徴及び生育相の概略を述べながら用語の定義を与えた。
第2章では,リードバルブの萌芽条件にっいて検討を行った。その結果,萌芽は10℃40日間の 低 温処理や400ppmのべンジルア デニン(BA)処理により促進されることが明らかとなった。
BA処理の効果は高温条件で顕著であった。ただし,萌芽直後に25℃以上の高温に長時間遭遇す る と,止め葉の発生が著しく早 まり茎は短くなることから ,25℃条件でBA処理を行い2〜4 週間管理した後,夜温15℃に移すことにより,茎長・節数の滅少を招かずに止め葉発生時期を1
〜2か月早めることができた。
第3章では,リ―ドバルブの生育並びに止め葉の発生時期に及ぼす温度の影響を検討した。冬 期の夜温と止め葉の発生時期並びに茎長との間には極めて高い相関がみられ,夜温が高いほど止 め葉の発生が促進され,茎は短くなった。また,一日の平均気温を一定にして昼夜温を組合わせ た場合も,夜温が高いほど止め葉の発生時期が促進された。しかし止め葉の発生時期に影響を及
ぼ す下限 温度 は品種 によっ て異な ること が明 らかと なり, その温 度は 早生種では10℃,中生種で は15℃, 晩生種 では18℃ 程度 と推察された。茎長・節数が最大となる温度は各品種とも10〜 15℃ で あった 。
第4章では ,施肥 条件 が生育 ・開花 並びに 体内無 機成 分の変 化に及 ぼす影 響を 検討し た。液 肥 中 の 窒 素 濃 度を25〜200ppmの範囲 で毎週 施用し たとこ ろ, 窒素濃 度が高 いほど 茎長 ・節数 ・茎 葉 乾物重 及び 無機成 分含有 量が増 加したが,多窒素条件では止め葉の発生時期が遅れるとともに,
開 花率が 低下 した。 施肥打 ち切り に伴い ,茎 中の窒 素,リ ン,カ リウ ムの含有率は急激に低下し た 。開 花時の 窒素, リン ,カリ ウム, カルシ ウム ,マグ ネシウ ムの含 有割合 は, 葉では10:1: 8:15:3, 茎 で は10:3:16:16:5で あ っ た 。 施肥 打 ち 切 り 時期 が 遅れ るにっ れ上位 節の開 花 が制御 され ,この 傾向は 低濃度 条件で も認 められ た。ま た,葉 緑素 計を用いることにより,非 破 壊で体 内窒 素濃度 を推定 するこ とがで きる ことが 示され た。こ の場 合,株当たり上・中・下位 葉 の3点を測 定する こと により ,推定 精度は 高まっ た。
第5章では ,生育 に伴 う炭水 化物組 成の変 化を調 査し た。止 め葉発 生直後 の茎 中の炭 水化物 と し ては還 元糖 が最も 多く, 次いで グルコ マン ナンを 主体と する熱 水可 溶炭水化物であり,非還元 糖 ,デン プン 含有量 は極め て少な かった 。し かし, 時間の 経過と とも に還元糖は大幅に減少し,
逆 にグ ルコマ ンナン は止 め葉発 生後4週間 目以降 急激に 増加 した。 また, 花芽分 化のた めの 低温 処 理に伴 い, 還元糖 ,非還 元糖, グルコ マン ナンが 増加し ,特に グコ マンナンは低温処理後半に 増 加する こと が示さ れた。
第6章 では, 開花 に及ぼ す温度 の影響 を検 討した 。昼夜変温管理した場合の花芽分化の適温は,
昼 温20℃以 下 , 夜 温10〜13℃ であ り ,20/10℃(8/16時間 )条 件の低 温処理 では20日程度 で花 芽 の肥大 が起 こるが ,小花 の分化 を促進 する ために は40日程 度の 低温処 理を行う必要があった。
毎 日の低 温遭 遇時間 として は,10℃で16時 間程度 必要 であり ,低温 遭遇時 間が減少するにっれ,
腋 芽の肥 大遅 延や肥 大する 腋芽数 の減少 が見 られ, 肥大を 始めた 腋芽 も途中で枯死することが多 か った。
低 温処 理中の 日中の25℃以 上の温 度は開 花を抑 制し ,高芽 の発生 を促進 した。高芽の発生は30
℃2時 間の高 温遭遇 でも 認めら れ,よ り長時 間の高 温遭遇では腋芽の肥大そのものが抑制された。
高 芽の発 生は ,低温 処理開 始から20日間20℃以上 の高 昼温に 遭遇す ること により多発し,それ以 降 の時期 の高 温処理 では発 生は見 られな かっ た。高 芽の発 生は, 従来 低温不足によるものとされ て き た が , 低 夜 温 と 高 昼 温 の 組 み 合わ せ に よ り 発生 が 促 進 さ れる こ と が 明 らか と な っ た 。 BAは昼 温 が25℃以 上 の場 合や10℃の低 温時間 が短い 場合 など, 花芽分 化が起 こり にくい 温度
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条件が開花に促進的に作用した。
花芽分化後は高温条件で開花が促進されるが,高温条件では小花数の減少や花の小型化が起こ り,品質が低下した。ステ―ジ別では,花芽の伸長初期の高温は開花節当たりの小花数を減少さ せ,また,伸長後期の高温は小花の枯死や着色不良を招いた。このため,高品質化をめざした夜 一
温管理としては,15℃程度が好適であった。
第7章では,低温処理前の環境条件が開花に及ぼす影響を検討した。止め葉発生後,25/15℃ の低温条件では,その後の花成が著しく抑制され35/20℃あるいは35/25℃という高温条件で促 進れさた。また,止め葉発生後20℃管理した株はその後低温処理を行っても全く開花しないのに 対し,25℃,30℃で管理した株は経時的に開花率が高まり,高温条件で充実が促進されることが 示された。
第8章では,植物成長調節物質を利用した品質向上技術として,矮化剤並びに落葉防止剤の利 用法を検討した。その結果,ウニコナゾ―ルの散布により節間伸長が顕著に抑制されることが明 らかになった。また,ジベレリンには落葉促進,ウニコナゾールは落葉防止効果が認められた。
第9章では,以上の実験によって得られた知見を基に,デンド口ビウムの生育段階別の環境制 御条件を取りまとめた。また,デンドロビウムの交配親となっている野性種にっいては,生育・
開花習性に不明な点が多く残されていることから,今後の育種を進めていくためにも,野性種の 生育・開花習性の把握が重要であることを指摘した。・
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 筒 井 澄 副 査 教 授 但 野 利 秋 副査 教授 喜久田嘉郎
本論文は ,表41,図33,引用文献94を含む総頁数166頁,9章からなる和文論文である。
デンド口ビウムは,東南アジアに分布する10種程度の野性種を元に育成されたもので,洋ラン 類の中ではシンビジウム,ファレノプシスに次ぐ重要作物である。しかし,その生育・開花条件 には未解明な点が多く,生育不良や着花不良が多発するため,生育段階別の制御条件の解明が求 められていた。本研究では,デンド口ビウムの高品質・安定開花のための生育・開花制御法の確
立を 目的と して, リード バル プの萌 芽から 生育・ 充実 ・花芽 分化・ 開花に 至る各 生育段階別に,
主と して温 度反応 から制 御基 準を明 らかに すると とも に,養 分吸収 や糖代 謝にっ いて検討を行つ たも のであ る。
第1章で は,研 究対象 作物 の形態 上の特 徴及び 生育相 の概 略を述べながら用語の定義を与えた。
第2章 で は,リ ードバ ルブの 萌芽 条件に っいて 検討を 行った 。萌 芽は10℃40日間 の低温 処理や 400ppmの べ ン ジ ル ア デ ニ ン (BA) 処 理に よ り 促 進 され ,BA処 理の 効 果 は 高 温条 件 で 顕 著 で るこ とを示 した。
第3章 で は,リ ードバ ルブの 生育 並びに 止め葉 の発生 時期に 及ば す温度 の影響 を検討 した 。冬 期の 夜温が 高いほ ど止め 葉の 発生が 促進さ れ,茎 は短 くなっ た。こ の止め 葉の発 生時期に影響を 及ば す下限 温度は 品種に よっ て異な り,早 生種で は10℃ ,中生 種では15℃, 晩生種では18℃程度 で あ り, 茎 長 ・ 節 数が 最 大 と な る温 度 は 各 品 種 とも10〜 15℃ で ある な ど を明 らかに した。
第4章 で は,施 肥条件 が生育 ・開 花並び に体内 無機成 分の変 化に 及ぼす 影響を 検討し た。 液肥 中の 窒素濃 度が高 いほど 茎長 ・節数 ・茎葉 乾物重 及び 無機成 分含有 量が増 加した が,多窒素条件 では 止め葉 の発生 時期が 遅れ るとと もに,開花率が低下した。施肥打ち切りに伴い,茎中の窒素,
リン ,カリ ウムの 含有率 は急 激に低 下し, 打ち切 り時 期が遅 れるに っれ上 位節の 開花が抑制され た。 また, 葉緑素 計を用 いる ことに より, 非破壊 で体 内窒素 濃度を 推定す ること ができることが 示さ れた。
第5章 で は,生 育に伴 う炭水 化物 組成の 変化を 調査し た。止 め葉 発生直 後の茎 中では 還元 糖が 最も 多く, 次いで グルコ マン ナを主 体とす る熱水 可溶 炭水化 物であ り,非 還元糖 ,デンプン含有 量は 極めて 少ナょ かった 。花 芽分化 のための低温処理に伴い,還元糖,非還元糖,グルコマンナン が 増 加 し , 特 に グ ル コ マ ン ナ ン は 低 温 処 理 後 半 に 増 加 す る こ と が 示 さ れ た 。 第6章 で は,開 花に及 ぼす温 度の 影響を 検討し た。花 芽分化 の適 温は, 昼温20℃ 以下 ,夜温10
〜 13℃ で あ り,20/10℃(8/16時間 )条件 の低温 処理 では小 花の分 化を促 進す るため には40日 程 度 が 必 要 で あ っ た 。 毎 日 の 低 温 遭 遇時 間 と し て は,10℃ で16時 間 程 度 が必 要 で あ っ た。
低温 処理中 の日 中の25℃ 以上の 高温 は開花 を抑制 し,高 芽の発 生を 促進し た。高芽の発生は,
低温 処理開 始から20日間 内に25℃ 以上 の高昼 温に遭 遇する ことに より 多発し ,それ以降の時期の 高 温 処理 で は 発 生 は見 ら れ な かっ た。BAは昼温 が25℃ 以上の 場合や10℃の 低温時 間が短 い場合 など ,花芽 分化が 起こり にく い温度 条件で 開花に 促進 的に作 用した 。
花芽 分化後 は高 温条件 で開花 が促進 される が, 高温条 件では 小花数 の滅 少や花 の小型化が起こ り , 品質 が 低 下 す るの で , 高 品質 化をめ ざし た夜温 管理と しては ,15℃ 程度が 好適で あっ た。
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第7章 で は, 低 温 処 理 前の環 境条件 が開 花に及 ばす影 響を検 討し た。止 め葉発 生後,25/15℃ の 低温 条 件 で は ,そ の 後 の花成 が著 しく抑 制され35720℃ ある いは35/25℃と いう 高温条 件で促 進れさ た。 また, 止め葉 発生後20℃管 理した 株はそ の後低 温処 理を行 っても全く開花しないのに 対し,25℃,30℃で管 理し た株は 経時的 に開花 率が 高まり ,高温 条件で 充実が促進されることが 示され た。
第8章 では, 植物生 長調節 物質 を利用 した品 質向上 技術 として ,矮化 剤並び に落葉 防止 剤の利 用法を 検討 した。 ウニコ ナゾー ルの散 布は 節間伸 長を顕 著に抑 制し ,また ,落葉防止効果も高い ことを 明ら かにし た。
第9章 では, 得られ た知見 に総 合的考 察を加 え,デ ンド ロビウ ムの生 育段階 別の環 境制 御条件 を取り まと めた。
以上 のよう に,本 論文は 不明 な点の 多かっ たデン ド口ビ ウム の生育 ・開花習性とその制御法を 明 らか に し た も ので , 花 卉園芸 学な らびに 実際栽 培に貢 献する とこ ろが大 きいと 評価さ れる 。 よって 審査 員一同 は,別 に行っ た学力確認試験の結果と併せて,・本論文の提出者篠田浩一は,博 士(農 学) の学位 を受け るのに 十分な 資格 がある ものと 認定し た。