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Academic year: 2021

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188. 胚性幹細胞における内胚葉から肝細胞への分化誘導と細胞治療の試み

久保 篤史

Key words:胚性幹細胞,ES 細胞,血友病,肝細胞,第 VIII 因子

奈良県立医科大学 第1内科教室

緒 言

これまでに我々は,血清存在下で胚性幹細胞(ES細胞)を内胚葉由来の肝細胞に分化法を確立し,また無血清培養条件 下でアクチビンが低濃度で中胚葉,高濃度で中・内胚葉を誘導することを明らかにした1).血友病は,凝固因子である第 VIII 因子(血友病 A)もしくは第 IX 因子(血友病 B)の欠損に起因する出血性疾患である.現在,血液凝固因子補充療法が有効 な治療法ではあるが,多くの血友病患者は出血症状に対する補充療法のみの治療を受けているのが現状であり,生涯にわたり この出血性疾患への管理と生活制限が必要とされる.今回我々は,ES細胞から分化させた肝細胞が,肝臓で産生される凝 固因子である第 VIII 因子を産生するかを検討した.   

方 法

今回我々は,血友病遺伝子治療の新しいアプローチとして,多能性幹細胞である ES 細胞に着目した.すでに報告されている AINV ES 細胞システムを用いて2),Cre/loxP を用いた組み換えにより 7kb という大きいサイズの第 VIII 因子 cDNA を安定

した遺伝子座に組みこみ,ドキシサイクリンの添加により安定して第 VIII 因子遺伝子を発現可能なES細胞 (tet-FVIII ES 細

胞)を構築した.また, ヒトFVIII 遺伝子(F8)の B ドメイン欠損 FVIII(BDD-FVIII)が,wild-type (WT)-F8 よりも FVIII 分泌能が高いことが報告されている3).さらに最近では,Bドメイン改変コンストラクト(226aa/N6)が,さらに FVIII 因子の分泌

効率を高めることが報告された4).そこで BDD ならびに 226aa/N6 のを同部位に組み込み,tet-BDD-FVIII ES 細胞ならび

に tet-226aa/N6 ES 細胞を作成した.ES 細胞からの肝細胞分化は,これまで確立した血清/無血清培地の切り替えにより行 い1),14 日間培養を行った.14 日後に無血清の培地に交換し,24 時間培養した後に上清を回収した.FVIII

活性は,one-stage a PTT clotting assay と FVIII により測定され,human FVIII 特異的 ELISA キットにより抗原を測定した.

結 果

Tet-FVIII ES 細胞を未分化ES細胞,血球系EBへの分化,肝細胞EBへの分化と3つの条件で分化培養を行った.こ れらの分化条件で分化後にテトラサイクリンを添加して培養した後に培養上清中の第 VIII 因子活性と抗原を測定した.この 3 条件の中で,肝細胞への分化条件のみで,FVIII の抗原,活性を確認することができた(図1).

(2)

    図 1. 未分化ES細胞,血球系EB,肝細胞EBからの FVIII 分泌. 未分化ES細胞,血球系EB,肝細胞EBがそれぞれの条件で培養された.無血清培地に交換後 24 時間培養さ れ,細胞上清の FVIII 活性(A)ならびに FVIII 抗原(B)が測定された.   次に,tet-BDD-FVIII ES 細胞,tet-226aa/N6 ES 細胞を用いて,同様に肝細胞への分化を誘導し,テトラサイクリンを添 加して,FVIII 活性と抗原について検討した.テトラサイクリン添加により,FVIII mRNA の誘導は,3 つの細胞株でほぼ同等 の誘導を確認することができた.その一方で,FVIII 活性と抗原については,tet-226aa/N6 ES 細胞で著明に上昇している ことが示された(図2).

(3)

 

 

図 2. WT-FVIII,BDD,226aa/N6 発現による FVIII 分泌.

WT-FVIII,BDD,226aa/N6 ES 細胞は,肝細胞条件で培養された.テトラサイクリン(Dox)の添加の有無で 24 時間培 養された.FVIII mRNA 発現レベル(A),FVIII 活性(B),FVIII 抗原(C)が測定された.

 

次に,ES 細胞を血清存在下で 3 日間培養すると内胚葉の細胞を一部分化することができる.これまでに中胚葉のマーカー遺 伝子であるBrachyury(Bry)と内胚葉のマーカー遺伝子である c-kit を用いて,内胚葉の分離が可能なことが報告されている

4).そこで,Bry-細胞(外胚葉),Bry+/c-kit-細胞(中胚葉),Bry+/c-kit+細胞(内胚葉)の3つの細胞群を FACS によ

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図 3. 内胚葉由来細胞からの FVIII の産生.

(A)Bry-GFP ならびに c-kit の発現での FACS 解析.

(B)FACS sorter による細胞分取後の RT-PCR による内胚葉遺伝子解析. (C)継続培養後の RT-PCR による肝細胞遺伝子発現解析.

(D)継続培養後の細胞上清での FVIII 活性(E)継続培養後の細胞上清での FVIII 抗原.  

これらの細胞をソート直後に RT-PCR で解析すると,Foxa2, Sox17 などの内胚葉遺伝子マーカーが,Bry+/c-kit+細胞で発

現していることが確認できた(図3B).さらにこれらの細胞群を継続培養すると,同細胞群からアルブミン(Alb)などの肝細胞 マーカー遺伝子の発現を認めた(図3C).これらの細胞を用いて,FVIII の分泌を検討すると,Bry+/c-kit+細胞群を継続培 養した群でのみ FVIII 活性,抗原がテトラサイクリンにより誘導されることが示された(図3D,E).

考 察

今回の我々の結果からES細胞から肝細胞に分化させれば,FVIII 因子遺伝子誘導で活性と抗原を有する FVIII を分泌させ 得ることが示された.これまでに,adenovirus, AAV などのベクターを用いた同様の検討はあったが,今回ES細胞での細胞 治療による血友病治療の可能性を示すことができた.さらに従来の FVIII ではなく,B ドメインを修飾した 226aa/N6 が FVIII

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内胚葉由来細胞が分化した細胞でのみ FVIII の産生を確認することができた.これらのことから,ただ単に FVIII cDNA を誘 導するのみでは,FVIII の分泌を期待することはできず,内胚葉由来の肝細胞で遺伝子過剰発現をすることが非常に重要であ ることが示された.このことは,肝細胞のみで FVIII の転写後修飾などを行う機構が存在しており,この機構なしでは FVIII mRNA を発現させても蛋白を誘導できないということであろうと推測される.以上のことから,ES 細胞でFVIII 遺伝子を発現さ せることで,FVIII 分泌を行うことが可能であることを示すことができた.これらのことをより発展させて,ES 細胞を用いた細胞療 法による血友病治療の可能性について,さらに検討していきたいと考えている.

 

本研究の共同研究者は,奈良県立医科大学 法医学教室 粕田承吾,羽竹勝彦,同・小児科 櫻井嘉彦,辰巳公平,嶋  緑倫,吉岡 章,同・消化器外科 大橋一夫先生,中島祥介,Department of Pediatrics, University of Michigan Medical Center の S. W. Pipe 先生,Department of Gene and Cell Medicine, Mount Sinai School of Medicine の S. Irion である.

文 献

1) Kubo, A., Shinozaki, K., Shannon, JM., Kouskoff, V., Kennedy, M., Woo, S., Fehling, HJ. & Keller, G.: Development of definitive endoderm from embryonic stem cells in culture. Development, 131: 1651-1662, 2004.

2) Kyba, M., Perlingeiro, RC. & Daley, GQ.: HoxB4 confers definitive lymphoid-myeloid engraftment potential on embryonic stem cell and yolk sac hematopoietic progenitors. Cell, 109: 29-37, 2002. 3) Pittman, DD., Alderman, EM., Tomkinson, KN., Wang, JH., Giles, AR. & Kaufman, RJ.: Biochemical,

immunological, and in vivo functional characterization of B-domain-deleted factor VIII. Blood, 81: 2925-2935, 1993.

4) Miao, HZ., Sirachainan, N., Palmer, L., Kucab, P., Cunningham, MA., Kaufman, RJ. & Pipe, SW.: Bioengineering of coagulation factor VIII for improved secretion. Blood, 103: 3412-3419, 2004. 5) Gouon-Evans, V., Boussemart, L., Gadue, P., Nierhoff, D., Koehler, CI., Kubo, A., Shafritz, DA. &

Keller, G.: BMP-4 is required for hepatic specification of mouse embryonic stem cell-derived definitive endoderm. Nat. Biotechnol, 24: 1402-1411, 2006.

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