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Science-Based Target 設定マニュアル 第 4.1 版 / 2020 年 4 月 <ご留意事項 > 本資料は Science Based Targets initiative の Science-based Target Setting Manual Version 4.1 を み

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Science-Based Target 設定マニュアル

第4.1 版 / 2020 年 4 月

パートナー組織 <ご留意事項>

● 本資料は、Science Based Targets initiative の「Science-based Target Setting Manual Version 4.1 」を、みずほ情報総研株式会社が仮訳したものです。 ● 本資料の利用に際しては、翻訳に関する二次著作権の扱いを含め、お取扱いには

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目次

エグゼクティブサマリー ... 3 ポイント ... 3 開発の背景 ... 3 本マニュアルに関して ... 4 SBT の設定に関する主な課題 ... 5 結論と推奨事項 ... 6 1. はじめに ... 9 2. SBT のためのビジネスケースを理解する ... 14 3. SBT 設定手法 ... 21 3.1 利用可能な手法と様々なセクターへの適用性 ... 21 3.2 SBT 手法を選択する際の推奨事項 ... 31 3.3 種類の異なる目標のメリットとデメリット ... 31 4. SBT の設定:全スコープの主な検討事項 ... 35 4.1 分野横断的な検討事項 ... 35 5. SBT の設定:スコープ 1 及び 2 の排出源 ... 41 5.1 一般的検討事項 ... 41 6. SBT の設定:スコープ 3 の排出源 ... 44 6.1 スコープ 3 インベントリの実施... 46 6.2 どのスコープ 3 カテゴリを目標バウンダリに含むべきか ... 49 6.3 単一目標か、複数目標か ... 51 6.4 目標の適切な種類を特定する ... 53 7. SBT のための社内体制を構築する ... 57 7.1 企業のあらゆる部署・部門を参画させる ... 57 7.2 課題や反対に対処する ... 60 8. 進捗をコミュニケーションし、把握する ... 62 8.1 SBT と実績の進捗を公にコミュニケーションする ... 62 8.2 目標を再計算する ... 68 用語 ... 70 略語一覧 ... 72

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エグゼクティブサマリー

ポイント

● 企業は、産業革命前と比べ、地球の気温上昇を 1.5℃または 2℃を十分に下回るように 抑えるための削減経路に則った温室効果ガス(GHG)排出量削減目標を設定することに より、気候変動対策で役割を担うことができる。このような目標を Science-Based Targets (SBT)と称する。 ● SBT は、積み上げ型の GHG 排出量削減目標よりも、はるかに多くのメリットを提供 しており、低炭素経済に移行する中で、企業の競争優位性を高める。 ● SBT の設定手法は複数あり、測定指標や野心に応じて異なる目標を計算するために使 用されてよい。 ● 厳密性と信頼性を確保するために、SBT は、目標期間、野心、対象となる社内やバリ ューチェーンの排出源に関する様々な認定基準を満たすべきである。 ● 目標設定プロセスのすべての段階に社内のステークホルダーを参画させるには、綿密 な計画を要する。 ● SBT の設定後、SBT を完全に、かつ簡潔、明確にコミュニケーションすることは、ス テークホルダーに正確に情報を伝え、信頼を構築するために重要である。

開発の背景

パリ協定で、各国政府は世界の気温上昇を摂氏2℃を十分に下回る水準に抑え、かつ 1.5℃ に抑える取組を目指すことに合意した。気温が1.5℃を超えると、危険な気候の影響や、干 ばつ、海面上昇、洪水、猛暑、生態系の破壊につながる人道的危機が起こりやすくなるだろ う。 各国政府やその他の主体の取組にも関わらず、人為的なGHG 排出量は、依然として増加を 続けている。現在の予想軌道では、世界の平均気温は今世紀末までに2.2℃~4.4℃上昇する とされている。現在の国家レベルでのコミットメントの下でさえ、2030 年の世界排出量は、 1.5℃シナリオで設定されている目標排出量よりもおよそ 90%高くなるだろう。(Climate Action Tracker 2018 年) 世界の気温目標を確実に達成するため、企業は極めて重要な役割を持つが、現在ほとんど の企業目標は十分に野心的とはいえない。世界のGHG 排出量の大部分は、法人セクターか ら直接的または間接的に影響を受けている。多くの企業が、気候変動が事業に及ぼすリスク

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やリーダーシップ、イノベーションを生みだす機会を認識し、GHG 排出量削減目標を設定 している。しかし、これまで、企業目標の多くは、気温上昇が1.5℃に抑えられる未来と合 致する目標の高さや計画とはなっていない。 SBT は、企業が長期的に排出量を管理するための着実なアプローチを提供する。SBT は、 ある企業によって達成可能なものというよりも、関連する炭素予算によって定められる世 界の GHG 排出削減量に必要とされているものの客観的、科学的評価を論拠としている。 SBT は、低炭素経済に移行する中で、企業の競争優位性を高めながら、長期的気候変動戦 略に確固たる基盤を提案する。 ますます多くの企業が、野心的な気候活動を推し進める強靭な事業計画の一環として、SBT を採用している。2020 年 4 月の時点で 350 超の企業が設定しており、500 超の企業が SBT イニシアチブを通して近い将来、設定を約束している。このような企業の多くが、ステーク ホルダーからの信用強化、規制がもたらすリスクの軽減、収益力・競争力の増加、イノベー ションの拡大を動機に挙げている。活動の広がりにも関わらず、排出量の多い鍵となるセク ターの参加は少ない。実用的、かつセクターに特化したガイダンスの開発と共に、このよう なセクターでの採用を進めていくことが、優先事項となっている。 本マニュアルに関して 本マニュアルは、SBT を設定する際の段階的なガイダンス及び推奨事項を提供する。SBT を設定する企業のメリットの理解から、設定したSBT に対する進捗のコミュニケーション まで、設定の主要な段階を扱う(図 ES-1)。 図ES-1: 本マニュアル各章 注記:SBT の基礎では、SBT の設定手法が最も参照すべき気候科学に照らしてどのように

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ニュアルの内容は、SBT を設定した企業 20 社超に行ったインタビューを基にしている。ま た、Call to Action 活動(ボックス 1-1 参照)1の一環として、SBT 評価に際しては、SBT イニシアチブが策定した推奨事項や認定基準を利用している。業界団体や非政府組織(NGO) 出身の専門家からなる技術諮問グループが、本マニュアルの草案に知見を提供した。 本マニュアルは基本的に企業を対象にしているものの、SBT に関心のあるその他ステーク ホルダーにも有益となるだろう。企業(及び支援を行うコンサルタント)は、GHG 排出削 減目標を検討する、または策定する際、本マニュアルを参考にするべきである。また、企業 は既存の目標が最新の科学と整合しているかを証明するために、本マニュアルを用いるこ ともできる。何より、企業は全体的なGHG マネジメント戦略の枠組みとして、本マニュア ル(具体的には SBT)を使用するべきである。投資家及び環境団体、政策立案者、研究者 を含め、その他ステークホルダーは、SBT 設定のベストプラクティスについて学ぶため、 本マニュアルを利用することができる。 本マニュアルは、SBT の設定に際して、現在あるベストプラクティスの概要を示している。 SBT を構成するものに求められるものは、科学的モデリング及び気候科学、国際的な排出 削減努力の進歩を受け、またSBT の設定から学んだ教訓を反映し、時間と共に変わるだろ う。セクター別、または地域ごとの検討事項を基にSBT の設定を補う新たなデータや資料、 ツールが将来利用可能になるかもしれない。本マニュアルは、現在利用可能なツールに焦点 を当てる一方で、基本的な科学が進化するにつれ、今後のSBT 設定のプラクティスを導く べき推奨事項全般を説明している。 本マニュアルでは、GHG 排出量削減対策を実施する際のガイダンスは提供しない。SBT を 達成するための成功戦略は、企業の目標及び開始時の状況、様々な選択肢のコスト、外部の 市況によって、対策を組み合わせたものとなる可能性が高い。一企業にどの戦略が最も適し ているかを決定することは、本マニュアルの対象範囲ではない。

SBT の設定に関する主な課題

企業は、SBT の設定につながる様々な課題に関するガイダンスを求めている。喫緊の課題 として、以下が挙げられる。 企業が SBT を設定するメリットとは?SBT は策定や実施のために社内の投資が必要とな ることが多いため、明確な戦略的メリットを伴うことが望ましい。 1 SBT イニシアチブ Call to Action のガイドライン詳細は、本ページを参照

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SBT の設定にどの手法を採用するべきか?様々な手法が利用可能であり、排出総量、もし くは物理的指標に基づいた排出原単位、または経済的指標に基づく排出原単位の削減比率 として目標を計算するかによって異なる。手法は、セクターの専門性によっても異なり、 様々な科学的データセットや排出予測を基にしていることもある。 信頼性の高いSBT とはどのようなものか?重要な検討事項は、目標の期間及び企業内の事 業活動(「スコープ1 と 2 の排出量」)及びバリューチェーン(「スコープ 3 の排出量」)か らの排出範囲を含む。 社内の賛同を得て信頼を構築するために効果的なコミュニケーション戦略とは?SBT の効 果的なコミュニケーションは、企業の経営判断を導き、社員からの賛同を高め、企業の世評 の向上を促す。

結論と推奨事項

SBT は多くの戦略的メリットを提供する。 SBT は、積み上げ型排出削減目標よりも以下の点において有効である。 ・ 企業のレジリエンス(逆境を乗り越える力)を培い、競争力を高める。 ・ イノベーションを推し進め、事業者のプラクティスを変える。 ・ 信頼及び評判を構築する。 ・ 公共政策の変化に影響を及ぼし、変化に備える。 SBT の設定手法は複雑であり、各社の事業やバリューチェーンの状況の中で考慮されるべ きである。 ・ 一般的に、SBT の設定手法には 3 つの構成要素がある。炭素予算(気温上昇を 1.5℃2℃ を十分に下回る水準に抑えるために排出可能なGHG 全体量を定義)、排出シナリオ(排 出削減の規模と時期を定義)、及び配分アプローチ(炭素予算が各企業にどのように配 分されるかを定義)である。 ・ 現在、複数のセクターに適用性がある3 つの手法が利用可能である。 ・ 企業はセクターのリーダーシップを発揮するため、最大の排出削減を押し進める手法や

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・ 原単位目標はスコープ1 及び 2 の排出源に対して設定してもよいが、目標が気候科学に 則り、総量削減につながる場合、あるいは当該セクターで確実に排出削減につながるセ クター別の脱炭素化経路を用いてモデル化される場合にのみ、設定されるべきである。 厳密性と信頼性を確保するために、SBT は様々な基準を満たすべきである。 最も重要なことは ・ SBT は、目標が公式に発表された日から、最短 5 年、最長 15 年を対象とするべきであ る。長期的な目標(例えば、2050 年までの目標)も策定することが奨励される。 ・ SBT のバウンダリは、GHG インベントリのバウンダリと一致すべきである。 ・ スコープ1,2 排出源からの削減量は、2℃を十分に下回る水準または 1.5℃を目指す脱炭 素化経路と一致すべきである。 ・ SBT は、企業全体のスコープ 1,2 排出量の少なくとも 95%を網羅すべきである。 ・ SBT の設定及び進捗を把握するため、一つの特定のスコープ 2 算定アプローチ(「ロケ ーション基準」あるいは「マーケット基準」)を使用すべきである。 ・ スコープ3 排出量が大きい(スコープ 1,2,3 排出量合計の 40%超)企業の場合、スコー プ3 の目標を設定すべきである。 ・ スコープ3 の目標は、通常、科学と整合する必要はないが、野心的で、測定可能である べきで、企業が現在あるベストプラクティスに沿って、どのようにバリューチェーンの 主なGHG 排出源に対処していくかは、明確に示すべきである。 ・ スコープ3 の目標バウンダリは、バリューチェーン排出量の大部分を含むことが望まし い。例えば、上位3 つの排出源カテゴリや、スコープ 3 排出量合計の 2/3 である2 ・ スコープ3 目標の性質は、関連する排出源カテゴリ及び企業がバリューチェーンパート ナーに対して持つ影響、バリューチェーンパートナーから入手可能なデータの品質によ って変わるだろう。 ・ SBT は、重大な変更を反映するため定期的に更新されるべきであり、そうしなければ、 目標の妥当性や一貫性が損なわれるだろう。 ・ オフセットや削減貢献量は、SBT にカウントされない。 目標設定プロセスのすべての段階に社内のステークホルダーを参画させるには、綿密な計 画を要する。 ・ SBT を設定する担当者は、目標設定過程において、目標を適合させ、実現可能性を評価 し、実践的な実施計画を作成するために、企業のあらゆる部署・部門と緊密に連携をと るべきである。 2 SBT イニシアチブの目標妥当性基準では、スコープ 3 目標は、GHF プロトコルスコープ 3 基準の表 5.4 で定義され ている通り、義務的なスコープ3 排出量全体の少なくとも 2/3 を網羅しなければならない。

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・ 担当者は、頻繁に社内で反対意見が起こるような問題を予測し、マニュアル化された対 応を策定することが望ましい。

・ スコープ3 目標に関して、企業は目標設定過程の間、賛同を増やし、実行を可能にする ため、サプライヤーと連携して取組み、支援することが望ましい。

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1. はじめに

世界の排出量はどれほどまで削減されなければならないのか? およそ200 カ国が第 21 回気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議に参加し、「世界の平均 気温上昇を産業革命前から2℃を十分に下回る水準、及び 1.5℃に抑える取組を行うこと」 (UNFCCC2015)を掲げたパリ協定に署名した。各国は、GHG 排出量の大幅な削減を含 め、様々な対策を約束したが、大きな欠陥が存在する。既存のコミットメントの下で最善の 努力をもってしても、2100 年までに 2.4℃から 3.8℃の気温上昇につながるだろうことだ (Carbon Action Tracker, 2018)。政府は、低炭素経済への移行は進んでいて、長期的には 不可避だと明確な意図を約束する一方、事業者は国が約束した取組の水準と、気候変動の最 悪の影響を避けるために求められる水準の差を埋める重要な役割を持っている。 2018 年に発表された「1.5℃特別報告書」(パリ協定の際にIPCC が作成要請されたもので、 世界の気温上昇を 1.5℃に抑えることは、2℃と比べて人間社会や自然システムへの気候関 連リスクを大幅に減少させるだろうという強いメッセージを送っている)では、野心を高め ることがかつてないほど急務となっている。気候変動に脆弱な国の政府は、より高い目標で ある 1.5℃閾値を支持している。気温上昇の 1.5℃への抑制はさらなる排出量の削減を意味 し、脱炭素化の速度を上げる必要があるものの、自然システムや水資源、農業生産性、やが ては経済、政治、社会の安定に対する破壊的な影響による世界の混乱を抑えられる希望を示 している。 事業者の役割とは? 世界の排出は、主に、電気及び熱生産、農業・林業・その他土地利用(AFOLU)、商業ビル、 運輸及び産業を含め、主要経済セクターの活動から生じている(図1.1)。

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図1.1. 主要経済セクターからの人為的 GHG 排出量(年間 GtCO2e) 2010 年データ 注記:その他エネルギーは、コークス炉や溶鉱炉での燃料の燃焼といった公共の電気及び熱生産以外の排 出源を対象としている。(出典:IPCC 2014) このような経済セクター内の企業も、当該企業が提供する電気のようなサービスに頼る企 業も、低炭素な未来への移行を促すために重要な役割を担っている。今、多くの企業が気候 変動が事業に及ぼすリスクや、気候変動がリーダーシップやイノベーションを生み出す機 会を認識している。多くの企業が、排出削減目標を設定し、GHG 排出量を把握し、公式に 報告することで、変化を公言している。科学と整合した目標は、目標設定のベストプラクテ ィスを例示し、包括的な企業の気候変動戦略の要を形成する。 排出量の差を埋めるビジネスチャンス 低炭素技術パートナーシップ・イニシアチブ(LCPTi)3は、9 つの事業セクター向けに低炭 素技術配備行動計画を作成した。仮にその高い目標が実現すれば、LCPTi は世界の気温 上昇を 2℃未満に抑えるために 2030 年までに必要な排出削減量の 65%に貢献できると PwC は見積もった。また、当該行動計画は、「経済の低炭素セクターに 5~10 兆ドルを 投資し、雇用にして2,000~4,500 万人年を支えられる」と推定した(PWC2015)。

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電力セクターの脱炭素化 発電は、世界のGHG 排出量のおよそ 1/3 を占める(図 1-1)。そのため、電力会社による 野心的な活動は、気温上昇が 2℃を十分に下回る水準に抑えるために不可欠となるだろ う。電力セクターは、発電を集中型から分散型に、化石燃料から再生可能エネルギーへ切 り替えることで、脱炭素化が期待される。電力セクター自体が講じる対策以外にも、その 他のセクターの企業が、風力、太陽、地熱エネルギー源のような選択肢に投資すること で、低炭素エネルギーの利用に影響を及ぼすことができる。 経済成長と排出量をデカップリングすることは可能であり、今後の低炭素経済の主要な 構成要素となるだろう。例えば、米国の大手発電事業者100 社は、2008 年から 2013 年 で 発 電 総 量 は 増 え た も の の 、 二 酸 化 炭 素 換 算 (CO2e ) 排 出 量 は 12 % 減 少 し た (CERES2015)。このようなデカップリングを達成するためには、2℃を十分に下回る温度 への抑制を実現するために排出の多い成長軌道に乗らず、早期に廃棄せざるをえなくな るだろう座礁資産の保有をやめ、排出量の多いインフラへの投資を避けなければならな いだろう。 SBT とは? 本マニュアルでは、GHG 排出削減目標が、最新の気候科学がパリ協定の目標(世界の気温 上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準に抑え、また 1.5℃に抑えるための取組を行 う)を達成するために必要とするものと合致していれば、”Science-based” (科学と整合する) と見なされる。 企業にもたらす影響 賢明な企業は、気候変動がもたらすリスクを理解し、SBT を設定することでリーダーシッ プを発揮している。SBT を設定した企業は、長期的な企業価値を構築し、次の点により将 来の収益性を守っている: ・企業のレジリエンスを培い、競争力を高める。 ・イノベーションを推し進め、事業者のプラクティスを変える。 ・信頼及び評判を構築する。 ・公共政策の変化に影響を及ぼし、準備を整える。 この点についての更なる議論は、第2 章参照。 上記のようなメリットやSBTi(ボックス 1-1)のような活動を通して、SBT を設定する企 業数は急速に増えている。2020 年 4 月現在、850 社超の企業がイニシアチブを通して SBT の設定をコミットしており、この内350 社がすでに SBT の認定を受けている。

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ボックス 1-1. Science Based Targets イニシアチブ (SBTi) SBT イニシアチブは、低炭素経済への移行において、将来性のある企業の成長を力強く 押し進める方法としてSBT の設定を推進している。 SBT イニシアチブは、CDP、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)、国連グ ローバル・コンパクト(UNGC)の共同活動である。 イニシアチブは  SBT を設定することで生じるイノベーションの促進、規制によってもたらさ れる不確定要素の減少、投資家からの信頼向上、収益性や競争力の強化に注目 し、SBT を設定した企業を、ケーススタデイやイベント、メディアを通して例 示する。  技術諮問グループ及び科学諮問グループの支援を得て、SBT 設定のベストプ ラクティスを定義し、推進する。  採用の障壁を低くする資料やワークショップ、ガイダンスを提供する。  企業にSBT の設定を公式にコミットさせることで、気候変動対策についてリ ーダーシップを発揮するよう呼びかけるCall to Action 活動を通して、企業の 目標を独立した立場から査定し認定する。その後、企業は2 年以内に SBTi に より目標の認定を受け公表される。 イニシアチブ全体の目標は、SBT の設定が企業の標準的取組となり、企業が世界の GHG 排出量を低減させる主要な役割を担うようになることである。持続可能なマネジメント の取組の基本的な部分にSBT を組み込むことは、この目標の達成に不可欠である。詳し くはhttp://sciencebasedtargets.org/を確認。 本マニュアルの目的 本マニュアルは、SBT を策定するための手引書である。SBT イニシアチブの活動から学ん だベストプラクティスや教訓を盛り込んでいる。特に、イニシアチブのCall to Action キャ ンペーンから認定基準や推奨事項をベストプラクティスとして盛り込んでいる。 本マニュアルの使用推奨者 本マニュアルは、気候科学に沿って新たなGHG 排出削減目標を立てようとしている企業が

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される。更なる情報については、SME 目標設定のレターを参照。 本マニュアルの内容 本マニュアルの大半は、SBT 設定の異なる段階を通して、読者を大まかに導く。ビジネス ケースの定義(第2 章)、様々な SBT 手法の適用の理解(第 3~6 章)、社内の賛同の獲得 (第7 章)、目標と進捗のコミュニケーション(第 8 章)によって構成されている。 マニュアル作成の経緯 本マニュアルは、SBT イニシアチブが取りまとめた、複数のステークホルダーによるプロ セスを経て作成された。業界やNGO 出身の専門家からなる技術諮問グループが、複数の草 案にきめ細かな知見を提供した。さらに、ベストプラクティスを理解し、実例を紹介するた め、SBT を設定済みの企業 20 社超にインタビューを行った。世界中のステークホルダーか ら新たな考察を得るため、草稿は意見公募手続きで公開した。作成にあたっては、米国のワ シントンDC、インドのムンバイ、ブラジルのサンパウロでウェビナーや対面でのワークシ ョップも行った。

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2. SBT のためのビジネスケースを理解する

本章では、SBT の設定で企業にどんな恩恵があるのかを見ていく。恣意的な目標や、達成 する自信のあるもの、あるいは同業他社が行っているものを基にした目標を設定すること で事業のメリットが生まれることもあるだろう。しかし、SBT によって企業はメリットを 最大限に生かし、漸進的な変化以上に前進することができる。 企業例:ランド・セキュリティーズ 「結局のところ、科学は意味をもたらし、我々の高い目標を現実的なものにしてくれる。 目標はもはや、検討もつかないところから発生した数字ではなくなり、実際問題とつなが った目標となる。SBT は我々が達成できるものではなく、必要なものを約束させる。そ ういった意味で、SBT はリーダーシップを示し、長期的な持続可能戦略の「柱」を提供 している。」(ランド・セキュリティーズ エネルギー部門長、トム・ビルネ氏) 表2-1. SBT を採用するメリット 機会 一般的なプラクティス - 積み上 げ型目標 SBT 企業のレジリエンス を培い、競争力を高め る。 積み上げ型目標は、しばしばコス トの低減や業務効率の改善につな がるが、企業は容易に手の届く結 果だけを目指すことになるかもし れない。 SBT の設定手法は、事業が、 経費削減や座礁資産のリス ク回避以上の様々な機会を 生かしながら、低炭素経済 と再調整をするよう促す。 イノベーションを推 し進め、事業者のプラ クティスを変える。 目標設定は、企業やサプライチェ ーンの事業者が、新たな解決策や 製品をひらめくきっかけとなるこ とも。積み上げ型目標は短期4目標 SBT は長期的視野を含むた め、GHG 排出量削減の短期 で一般的な解決策にとらわ れず、考えられる。新たな技

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れる。 信頼及び評判を構築 する。 GHG 削減努力を明確にしている 企業は、気候変動に対処するコミ ットメントを示すことで、世論の 信頼を集めるが、昨今、投資家や ステークホルダーは外部の、科学 的予測に基づく目標を要求してい るため、当該要件を欠く企業にと ってはリスクとなりえる。 SBT はステークホルダーか ら 高 い 信 頼 を 得 て い る 。 SBT を設定した企業は、最 新の参照可能な科学に基づ いて計画を立てていると示 せるため、長期投資のリス クが低くなることが多い。 公共政策の変化に影 響を及ぼし、準備を整 える。 積み上げ型目標は、政策立案者に 対して、気候変動に真剣に取組む メッセージを送るが、その信憑性 は目標の野心によって限定され る。 SBT によって、政策決定に 影響を及ぼしやすくなり、 政策の変更に適応し、政策 立案者により強いメッセー ジを送れる。SBT を設定し ている企業は、政府が気候 関連対策を強化しても、将 来の規制変更に対応しやす くなる。 企業のレジリエンスを培い、競争力を高める 自社の事業活動とバリューチェーンからのGHG 排出量を削減することにより、企業は低炭 素経済において、レジリエンスや競争力を高められる。より厳しい排出削減を達成すること で、特に製造や運搬にかかるエネルギーコストの経費削減を図り、競争力を伸ばすことがで きる。また、エネルギー消費が低下すると、化石燃料の価格変動に関連するリスクにさらさ れることが少なくなる。 企業例:P&G イノベーションと省エネを推進する野心的な目標 2014/2015 年度で、プロクター&ギャンブル(P&G)は、基準年の 2010 年から 2020 年ま でにスコープ1,2 の排出総量から、30%削減を掲げる SBT を設定した。再生可能エネル ギーが、目標を達成するための鍵となるだろう。同社は、テキサス州に100MW の風力発 電所を建設するために、EDF Renewable Energy と提携。「この発電所は、米国とカナダ のファブリック・ホームケア製品全てを生産するのに十分な風力発電を提供するだろう 5。」と述べている。これは、年間200,000 トンの GHG 排出量削減に等しい。 5 P&G 社の風力発電所に関する詳細情報は、以下を参照。http://cdn.pg.com/en-us/- /media/PGCOMUS/Documents/PDF/Sustanability_PDF/sustainability_reports/PG2015SustainabilityReport.pdf?la =en-US&v=1- 201605111505.

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また、従業員にエネルギー節約の新たな方法を見つけるよう促している。同社は、従業員 が省エネや経費節約に関するアイデアを共有するための”Power of 5”と呼ばれるプログ ラムを立ち上げた。これまで、同プログラムは、2,500 万ドル超の新たな省エネの機会を 作り出しており、今後2~3 年をかけて実施される予定である。 イノベーションを推し進め、事業者のプラクティスを変える 積極的な削減目標は、より大きなイノベーションや投資につながる。野心的な目標は、企業 のあらゆる部署の従業員に、漸進的な変化を超えて考えさせ、企業のプラクティスを真に変 えるような意欲を起こさせる。 SBT がきっかけとなって生まれたイノベーションは、新たなビジネスモデルや価値の源泉 につながる。イノベーションは、新たな製品、原材料調達の新たな方法、顧客との新たな関 わり方、市場拡大の新たな方法を創出することにより、企業の収益を再定義する一助となる。 代わりに、急進的なイノベーションは、現在の持続可能でない経済システムを破壊する可能 性がある。野心的な目標は、インターナルカーボンプライシングや炭素税といった革新的な 資金調達のプラクティスも促進することができる。創造的な資金調達のプラクティスは、野 心的な目標の達成に必要となる大規模な資金や研究開発(R&D)投資を可能にし、このよう な目標の達成は、収益の改善に結びつく。 企業例:デル 販売された製品やサービスのイノベーション デルの製品によって使用されるエネルギーは、同社のカーボンフットプリント全体で最 も多くを占めており、製品のエネルギー効率のイノベーションは、排出削減戦略全体の重 要な部分となる。SBT の一環として、デルは 2011 年を基準年として、2020 年までに製 品ポートフォリオの80%のエネルギー原単位を削減すると宣言した。この目標を達成す るため、ノートパソコン、デスクトップ、サーバー、ネットワーク機器といった製品ライ ンナップの技術にてこ入れした。例えば、同社の次世代ブレードサーバーは、合理化した データセンターのような機能があり、通常のデータセンターよりも GHG 排出量ははる かに少ない。顧客は容量や計算能力を得られ、IT チームは問題から解放され、競合他社 の同等製品よりも電力コストは最大20%削減される。 「エンジニアはデータが大好きだ。彼らにデータを渡すと対応するだろう。社内で最大の エネルギーフットプリントを見つけて、対処できる。彼らはビジネス戦略目標を実現する

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企業例:ウォルマート 「人は目の前にあるものが何であれ、最も難しいと感じるが、それは同時に多くの画期的 なイノベーションが起こる場所でもある。SBT は、おそらく私達の具体的な目標の中で も達成に最も長い期間を必要とするだけでなく、会社として設定する最も積極的で包括 的な目標となる。SBT は、私たちやステークホルダーを本気でイノベーションへと駆り 立てることになると思う。」(ウォルマート サステナビリティ部門長、フレッド・ベドア ー氏) 企業例:ケロッグ サプライチェーンのイノベーション SBT の一環として、ケロッグはスコープ 3 の排出総量を、2015 年を基準年として 2030 年までに20%、2050 年までに 50%削減すると宣言した。 これは、ケロッグ初のスコープ3 の量的目標であり、達成のために同社は、サプライヤー に働きかけ、基準年の GHG インベントリを作成し、何を変えられるか特定を進めてい る。目標を設定して以来、同社は課題や利用可能な選択肢を理解するため、排出量や材料 に関する CDP の質問書への対応をサプライヤーに奨励し、すでにサプライヤーの 75% (400 社超)と関わってきた。また、農家のフットプリントを減らす 35 のプログラムを 世界各地で実施しており、排出削減やレジリエンスに焦点をあてたスマート農業のプラ クティスを実施するため、50 万もの農業従事者を支援している。また、研究結果や学ん だ教訓をまとめ、個人農家と共有している7 従業員や顧客、投資家、その他ステークホルダーとの信頼及び評判を構築する SBT は、高い目標を設定し、有意義な GHG 排出削減の取組のための道筋を作るために、 厳格で制度的なアプローチを提示している。気候専門家の外部コミュニティが支援する目 標設定は、企業の持続可能性目標に信用を与え、従業員や顧客、政策立案者、環境団体、そ の他ステークホルダーの視点から見た企業の評判を高めることができる。 企業は、投資家から良い評判を得ることにもつながる。ますます多くの投資家が、多くのセ クターにおける気候変動の重要性やリスクを認識し始めている。例えば、2010~2019 年で、 CDP8を通して気候変動やエネルギー、排出量データの開示を求める機関投資家の運用の下、 資産価格は50%伸びた(64 兆 US ドルから 96 兆 US ドルへ)。2016 年時点で、世界の資 本保有上位500 の投資家の 60%が、気候リスクにさらされることを減らし、低炭素経済へ の投資を増やす行動を取っている(AODP 2017)。 7 ケロッグ社のSBT について、詳しくは http://sciencebasedtargets.org/case-studies/case-study-kellogg/ を参照。 8 https://www.cdp.net/en/info/about-us

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SBT を設定することで得られる知名度やプラスの評判はまた、一般的な雇用主の魅力や消 費者へのアピールを拡大させるだろう。例えば、コーン・コミュニケーション社が 2016 年 に行った調査では、ミレニアム世代の76%が、就職を決める際、企業の社会と環境へのコ ミットメントを参考にするとしている9。さらに、消費者の80%が、出来る限り社会あるい は環境を考慮した製品を購入し、大義のために購入ブランドを変えるという。このような消 費者の大多数が、企業にサステナビリティに関するコミットメントの結果の共有を望んで おり、多くの消費者が、目標に向けた企業のここ 1 年のビジネスプラクティスを調査して いた10 気候リスクや機会への関心を高める投資家 投資界では、気候変動が企業にどのように影響を及ぼすのか、あるいはその企業がリスク をどのように理解し、対処するのかという点について、気候変動が多くのセクターにおよ ぼす重大なリスクが日に日に認識されてきている。投資家の取組例には以下がある。

・ 4 つの地域の気候変動投資家グループの共同活動である The Global Investors Coalition on Climate Change (GICCC)は、COP21 で、資産にして 24 兆 US ド ル超となる 409 の投資家に承認された声明を公表した。「気候変動や気候政策に よってもたらされるリスクを最小限にとどめ開示し、機会を最大限に活かすため に投資する企業と連携すること」を含め、いくつかの対応策を宣言した11 ・ 非営利団体である Sustainable Accounting Standards Board (SASB)は、米連邦

証券取引委員会(SEC)に提出を義務付けられている財務書類において重大な影響 を及ぼす持続可能性情報を開示する際の業界基準を設定しようとしている。投資 家はこれを利用し、企業に対して評価や判断ができるようにする。 ・ 仏政府は、現在、金融機関に気候リスクの開示を義務付けている。 ・ 気候変動に関する2015 年国連パリ協定は、GHG の排出低減及び気候変動に強靭 な開発を目指す経路に、資金の流れを合わせるよう各国政府に約束させている (UNFCCC 2015)。 ・ 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、投資家及び銀行、保険会社、ス テークホルダーに情報を提供する際に、企業が使用する、任意で一貫性のある気 候に関連した金融リスクの開示条項を策定した。

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企業例:NRG エネルギー SBT を将来性のあるビジネスに活用 NRG エネルギーは、米国全土のおよそ 300 万の小売業者に電気を提供している。同社 は、2014 年を基準年として、スコープ 1,2,3 の排出総量から 2030 年までに 50%、2050 年までに90%を削減すると宣言した。NRG エネルギーは、米国で環境に優しいエネルギ ー生産者の先駆けとなることを視野に、クリーンエネルギーに大きな投資をしている。 「SBT の設定は、自らのフットプリントについて考えている我々の顧客全員のニーズに 直接答えました。これは、我々が、短期的及び中期的、長期的にリスクについて考えてい ることを知る必要のある投資家にとっても大事なことです。」とNRG エネルギー、サス テナビリティ部門長のローレル・ピーコック氏は語る。「高い目標を掲げることは、私た ちが今後とも引き続き信頼にたる、持続可能で安全なサプライヤーであり続けると示す ために重要です12。」 企業例:ランド・セキュリティーズ 「目標の認定は間違いなく、私たちの評判と投資家との関係を良いものにしてくれます。 長期的な投資の見通しは、今、一層良くなっています。最新の科学に沿って目標を更新し 続ける限り、私たちの目標は、今後50 年、投資家の要求に対して私たちの事業を確実な ものとしてくれます。サステナビリティチームには、弊社の取組を尋ねる投資家からの電 話が増えています。自社でSBT の設定を考えている企業もあれば、目標設定を投資する 企業の必須要件に考えている企業もあります。」 「目標は、国の規制に対しても、私たちの立場をよくしてくれると考えています。私たち は、英政府の現行目標に十分準拠しているので、さらに厳しい規制が導入されても、適合 することになるでしょう。実際、今、産業界はサステナビリティに関して政府をリードし ていると考えています。私たちは、企業が自分たちで何ができるのかを示していて、他社 が弊社に倣い、基準が高くなるような環境を作れたらと思っています13。」 (ランド・セキュリティーズ エネルギー部門長、トム・ビルネ氏) 公共政策の変化に影響を及ぼし、準備を整える SBT を設定し、達成することは、企業が、より厳しい排出削減量やエネルギー規制にさら される負荷を減らし、日々の事業活動に影響を及ぼし、財務的成長を阻害することもある規 制や政策変更にスムーズに適応できるようにする。SBT を設定した企業は、気候変動に係 る規制が将来より厳しくなった時に、競合他社より有利な立場に立つだろう。 12 NRG エネルギー社の SBT について、詳しくは http://sciencebasedtargets.org/case-studies/case-study-nrg/ を 参照。 13 ランド・セキュリティーズ社のSBT について、詳しくは http://sciencebasedtargets.org/case-studies/case-study-land-securities/. を参照。

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また、大手企業がSBT を採用し実施することは、移行を加速させている政策立案者やその 他ステークホルダーに対して、低炭素生産の技術的及び経済的実現可能性も示すことにな る。SBT を設定した企業は、低炭素政策への支持を示し、より望ましい政策状況から恩恵 を得るであろう低炭素技術の経路や再生可能エネルギーの解決策への需要を作り出すこと で、政策に影響を及ぼすことができる。 企業例:デル

「米ビジネス気候変動対応行動誓約(American Business Acts on Climate Pledge)は、 本当に重要な転換点だったと思います。企業はこのような問題を真剣に見つめ始める必 要がある、という連邦政府からの大きなサインだったのです。政府は単にルールや文化を 設定するだけでなく、見込み客でもあります。このような製品を購入することで、低炭素 イノベーションへの支持を表明することができるのです。そういった意味で、SBT を設 定することは私たちに有益に働くはずです。」 (デル 主席環境ストラテジスト、ジョン・ピューガー氏) SBT の設定は、経済成長と反目しない。前述したメリットが示すように、革新的な事業戦 略を目指すことは、財務的成功を促進し、低炭素経済で繁栄する準備を整えることができる。 企業は、引き続きビジネスに資する環境や事業活動の混乱を軽減する環境から、総合的に恩 恵を受けるだろう。このような状況を今後、確実にするために、企業はパリ協定の野心と足 並みをそろえた目標を設定する必要がある。

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3. SBT 設定手法

本章では、利用可能な手法の概要と様々なセクターに適する目標設定手法を選ぶガイダン スを提供する。また、SBT 設定の一般的な方法論のアプローチも説明する。 本章のテーマの詳細な技術的議論はSBT の基礎を参照のこと。 本章での重要なポイント ・ 現在、3 つの手法が利用可能であり、それぞれが複数のセクターに適用性がある。 すべての手法が全セクターに応用できるわけではない。 ・ SBT 設定手法の重要な要素は、炭素予算(2℃を十分に下回る、あるいは 1.5℃に 気温上昇を抑えるために排出可能なGHG 全体量を定義)、排出シナリオ(排出削 減の規模と期間を定義)、配分アプローチ(企業にどれくらいの予算が配分される かの定義)である。 ・ 部門別脱炭素化アプローチ法(SDA)または、排出総量の削減アプローチのいずれか の使用が推奨される。スコープ1、2 の排出量に関して、経済的原単位目標は目標 が気候科学に則り、総量削減につながる場合にのみ、設定されるべきである。 ・ 企業は、セクターのリーダーシップを発揮するために、排出量が最も削減される手 法と目標を選ぶべきである。

3.1 利用可能な手法と様々なセクターへの適用性

現在、公に利用可能となっている主な目標設定手法は3 つある14。本項では、利用可能な手 法の概要を説明し、様々なセクターに対する各手法の適合性を提案する。

Science-Based Target Setting Tool は、ユーザーが様々な手法を使って目標を作成するた めに利用できるものである。このツールは、定期的に更新される。 本章は、各手法のデータのインプットおよびアウトプットについても記述する。手法は使用 14 現在利用可能な手法に限らず、今後様々な特定セクターに新たなシナリオや手法が開発されると考えられている。 このような情報は、手法が公式に公開されるか、イニシアチブによって妥当性が確認されてから、SBT イニシアチブ のウェブサイトに掲載される。

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したインプットに影響を受けやすく、誤りは手法全体に響くため、データはできる限り正確 であるべきである。 利用可能な目標設定手法の概要 利用可能な目標設定手法は 3 つあり、排出総量削減アプローチ、部門別脱炭素化アプロー チ、経済的原単位削減アプローチである。一般的に、SBT 手法は 3 つの要素から構成され る。 1. 炭素予算; 2. 排出シナリオ;及び 3. 配分アプローチ(収束または削減) 手法は、上記の要素それぞれにおいて異なる。図3-1 は、SBT 手法の 3 つの主な要素を説 明している。 図3-1. SBT の設定手法の主な要素

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排出総量削減アプローチ 排出総量削減アプローチとは、排出総量の削減を用いて総量目標を設定する手法である。こ のアプローチでは、企業は全て当初の排出実績に関係なく、同率で排出総量を削減する。つ まり、排出総量削減目標は、基準年と比べ、目標年までに大気に放出されるGHG 量の削減 全体の観点から定義される(例えば、2018 年水準から 2025 年までに年間の CO2e 排出量 を35%削減)。 2℃を十分に下回るシナリオに則った目標に求められる削減は、最も少なくて毎年の削減量 が 2.5%。特に先進国の企業は、気温上昇を 1.5℃に抑えるシナリオに則る年間削減量が 4.2%の目標を採用するよう強く推奨されている。 これは目標を設定し、進捗を把握するための簡易でわかりやすい手法で、多くのセクターに 応用が可能である。表 3-1 では、このアプローチの使用が望ましくないセクターを明示す る。 手法 企業のインプット 手法のアウトプット 排出総量削減 アプローチ ・基準年 ・目標年 ・スコープ毎に分けられた基準年 の排出量 ・基準年と比べ、目標年までに大気 に放出したGHG 総量の削減全て 設定された総量目標の例

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・シスコは、2022 年度までに、2007 年度の基準年からスコープ 1,2 の GHG 排出総量を 60%削減すると宣言した。 ・世界的な食品飲料会社であるネスレは、2014~2020 年までにスコープ 1,2 の GHG 排出 総量の12%削減を約束した。 部門別脱炭素化アプローチ (SDA) SDA は、排出原単位の収束を用いて物理的原単位目標を設定する手法である。原単位目標 は、企業の生産量(例、製造トン製品当たりのtCO2e)のような、特定の事業指標に対する 排出量の削減によって定義される。SDA は 2060 年までに重要なセクターの排出量原単位 が世界的に収束することを前提としている。例えば、中国、米国、ブラジルの鉄鋼生産の排 出原単位は、現在の違いに関わらず、2060 年までに同水準となることが想定されている15 地域の経路は、この手法に組み込まれていない。 SDA は、国際エネルギー機関(IEA)の報告書『エネルギー技術展望(ETP) 2017』にある B2DS (Beyond 2℃ Scenario)を用いている。これは、気温上昇を 2℃を十分に下回る水準 に抑えることと合致したセクター経路を計算するために用いた排出量と活動量の予測から 構成されている(IEA2017)。IEA から 1.5℃シナリオデータが公開されていないため、SBT イニシアチブでは現在1.5℃目標の SDA の選択肢を提供していない。 現在、SDA 手法は、以下の単一、かつエネルギー多消費業界に、セクター別の経路を提供 している16

現在、Science-Based Target Setting Toolで利用可能なセクター: ・発電 ・鉄鋼 ・アルミニウム ・セメント ・紙/パルプ ・サービス/商業ビル

現在、SDA Transport Toolで利用可能なセクター: ・旅客/貨物輸送

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目標の排出原単位は、企業の基準年排出原単位や予想される活動量の伸び、セクターの予算 によって変わる。企業は、目標年の原単位を計算するために関連するSDA 経路を利用でき る。SDA 手法はスコープ 1 及び 2 を対象としていて、その他のスコープ 3 カテゴリに対す る適用性は限られている(第6 章を参照)。

SDA に特化した以前の Target setting tool では、上述した以外のセクターを対象とする一 般的な「その他産業」カテゴリにSBT を算定していた。このカテゴリには、建設産業や製 造業(食品・飲料、電子機器、機械等)が含まれていた。新しいScience-Based Target Setting Tool ではこの「その他産業」の経路は使用不可となっている点に留意いただきたい。該当す るセクターの企業は、目標の設定に排出総量削減アプローチを使用するべきである(詳しい ガイダンスは以下の「その他目標の策定法」の項を参照)。 手法 企業のインプット 手法のアウトプット 部門別脱炭素化アプローチ (SDA) ・基準年 ・目標年 ・スコープ毎に分けられた 基準年排出量 ・基準年の活動量のレベル (建物の床面積、移動した 距離等) ・目標年までの活動量の予 測変化 当該企業の特定の生産量に 対する排出量の減少(MWh 当たりのトンCO2e) SDA を使って設定された物理的原単位目標の例: ・イタリアの電力・ガスの製造・販売多国籍企業Enel は、2007 年を基準年とし、2020 年 までに1kWh 当たり CO2 排出量を 25%減らすと宣言した。 ・欧州の不動産運営会社Covivio は、2017 年の基準年から 2030 年までにスコープ 1 及び 2 の GHG 排出量を 1 平方メートル当たり 35%削減することを約束した。 経済的原単位削減アプローチ 付加価値当たりGHG 排出量(GEVA)は、経済的原単位の削減を利用して経済的原単位目標 を設定する手法である。GEVA 手法を用いて設定した目標は、1 ドルの付加価値当たりの tCO2e の原単位削減によって策定される17。GEVA 手法では、企業は GEVA を年率 7%削

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減するよう求められる(同率削減)。前年比7%の削減率は、2010 年水準から 2050 年まで に75%の排出総量削減に基づいている。近年の経済予測とこれまでの排出量推定に基づき、 年率7%は、以下に説明のある理想的な状況(ETP2017; SBTi2019)の下で、信頼度の高い IPCC (RCP2.6)の経路と大まかに合うものとなっており、その野心は、IEA の 2℃シナリオ 及びBeyond 2℃シナリオ経路の中間にある。 総量削減アプローチやSDA 手法と違い、GEVA は世界の排出量予算を個々の企業の付加価 値の成長が、基本となる経済予測と同等か、それ以下となる範囲で保っている。企業やセク ターの差別化された成長はGEVA(や他の経済的原単位目標設定手法)によって、釣り合い がとれるわけではない。しかも、現在受け入れられているGEVA の数値は、全ての企業が GDP と同率で成長し、GDP 成長が正確にわかるという理想的な状況によって決まる。この ような理由から、また経済指標の脆弱性のため、経済的原単位目標設定手法は、総量手法や 物理的原単位手法よりも脆弱なものと考えられる。 重要な注記:SBTi の認定基準では、GEVA を使ったスコープ 1 および 2 目標は、2℃を 十分に下回るシナリオおよび 1.5℃シナリオに沿った排出総量の削減につながる場合に のみ、認められる。従って、GEVA はスコープ 3 の目標設定に適用しやすい(スコープ 3 の目標設定に関する詳しいガイダンスは第8 章を参照)。 手法 企業のインプット 手法のアウトプット 付加価値当たり GHG 排出 量 ・基準年 ・目標年 ・スコープ毎に分けられた 基準年排出量 ・基準年の付加価値 ・目標年までの付加価値の 変化予測 当該企業の業績に対する排 出量削減(付加価値当たり のtCO2e など) GEVA を使って設定された経済的原単位目標の例: ・屋外電機製品メーカーのHusqvarna Group AB は、2015 年の基準年から 2020 年までに スコープ1 及び 2 の排出量を付加価値単位当たり 30%削減すると宣言した。

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ロフィールを最も代表する経済的指標を使うか、物理的指標を使うかを選ぶことができる。 例えば、セクター別の経路がまだ利用できないセクターの企業は、自社の主要製品の生産量 を基に原単位目標を設定できる。そのような目標策定では、排出総量削減が、総量削減アプ ローチに則っていることを確実にする必要がある。 その他目標の策定法を使って設定された目標の例: ・世界的なビール企業のアンハイザー・ブッシュ・インベブ社は、2017 年の基準年から 2025 年までにバリューチェーン上の排出量を飲料毎に25%削減する(スコープ 1,2,3)と約束し た。 手法の各セクターへの適合性 上述の3 つの手法は各々1 つ以上のセクターに適用できる一方、全ての手法が全てのセクタ ーに適用可能というわけではない。表3-1 では、特定の手法が特定のセクターに使用される ことが望ましい時を推奨している。 表3-1. スコープ 1,2,3 目標に対する手法の各セクターへの適合性 スコープ3 目標の設定に関するガイダンスは第 6 章を参照。 注記:SBTi の認定基準で特定の手法が要求されている場合、アスタリスク(*)や「~しなけ ればならない」という言葉を使用している。 セクター スコープ1,2 目標設定に適切な手法 特定セクターのスコープ3 目標の仕様 セクター別手法の策定中 発電 SDA 発電会社は、少なくともSDA で定められる 目標と同じくらい野心的なスコープ1 目標 を設定しなければならない。電力セクター は世界で GHG を最も多く排出しており、 他の手法で過少評価されうる量を費用効率 の高い方法で削減することができるため。* 石油/ガス 石油/ガス企業のセクター別目標設定手法 は現在策定中。

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SBTi による目標妥当性基準の目的におい ては、『石油/ガス』は、総合石油/ガス企業、 総合ガス企業、探査及び生産専業企業、精 製及びマーケティング専業企業、石油製品 の流通企業、ガスの流通及び小売り企業を 含むが、それだけに限定されない SBTi は企業を、SBTi の妥当性確認の目的 で石油/ガス企業として分類するか判断す るために、ケースバイケースで評価し、分 類する場合は、SBTi 石油/ガスセクターの 策定が完了するまで妥当性確認を進めない 権利を留保する。 天然ガスまたはその他化石燃料製品の販売 または輸送、流通(スコープ3、カテゴリ 11 「販売した製品の使用」)に関わる企業全て 18 ガスネットワークの所有者や運用者は、販 売したガスからの排出量に係るスコープ 3 「販売した製品の使用」を定量化し、これ に対処する目標を設定しなければならな い。現在、当該項目が GHG プロトコル算 定基準では任意となっている場合でもそう である。 スコープ 3 目標は、当該企業のスコープ 1,2,3 の排出合計に対するスコープ 3 の排 出量の割合に関係なく、2℃を十分に下回る シナリオ(年2.5%の同量削減)と一致した 排出総量削減または原単位目標を用い、ス コープ3「販売した製品の使用」を設定しな ければならない。*19 鉄鋼 総量削減に沿った SDA あるいは総量/原単 位目標 セメント パルプ/紙 アルミニウム 排出総量削減に沿った SDA あるいは総量/

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提出できる。 SBTi は、アルミニウムセクターに特化した ツールやガイダンスの策定の基盤も作成 中。 輸送サービス 輸送活動(スコープ 1,2 及び/または 3) ・ 旅客 ・ 貨物

SDA Transport tool または総量削減に沿っ た総量/原単位目標

注1. SDA Transport tool で対象となる 全輸送サブセクターの説明を得る、 また輸送活動の目標設定のベスト プラクティスを知るには、SBTi 輸 送ガイダンスを参照のこと。 注2. SDA Transport tool は排出総量削

減法を基に空輸(旅客と貨物)と海 運輸送に経路を提供しているが、更 に空輸及び海運セクターの策定が 現在作業中ある。 自動車の相手先ブラ ンド名製造(OEM) スコープ 3、カテゴ リ11「販売した製品 の使用」 ・乗客 ・貨物 スコープ3「販売した製品の使用」に関して OEM で設定される目標は、販売された車両 のWell-to-Wheel (油井から走行に至るまで に係る)排出量を網羅する SDA Transport tool に定められる最低限の野心の水準に見 合わなければならない。* サービス/商業ビル 商業/小売 総量削減に沿った SDA あるいは総量/原単 位目標 金融機関 食品と宿泊施設 教育 不動産 行政機関 健康 金融機関 スコープ 3、カテゴ リ15「投資」 金融機関がパリ協定に則った気候安定化経 路に投資と債権のポートフォリオを一致さ せるための目標設定手法を策定中。スコー プ 1,2 目標のみ初回のフィードバックに提 出可。 化学製品及び石油化学製品産業 総量削減法に沿った総量/原単位目標で目

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標を公式の妥当性確認に提出可。 SDA tool の化学セクター経路は現在使用不 可。化学製品及び石油化学製品産業のセク ター別ガイドラインを策定中。 その他産業 建設業 総量削減法に則った総量/原単位目標 注1. アパレルと靴のバリューチェーン 上の企業は、目標設定の際、詳しい ガイダンスを記した Apparel and Footwear sector SBT guidance を 確認すべきである。 注2. SDA に特化した以前の目標設定ツ ールの「その他産業」の経路は無効 となった。該当するセクターの企業 は、排出総量削減アプローチを使っ て目標を設定すべきである。 鉱業と採石業 以下の製造業 革及び革関連製品 織物 衣類 飲料 コンピューター、電 子、光学機器 電気機器 組立金属製品 食品 家具 機械、機器 その他非金属鉱物製 品 ゴ ム/プラスチック 製品 たばこ 木製及びコルク製品 非鉄金属基幹産業 その他製造加工 二つ以上のセクターで事業を行っている企業の場合、事業の大部分を占める最も大きなセ クターを特定するべきである。このようなセクターに適用する手法は、合算した最終目標を

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ター、施設、排出量のカテゴリ毎に個別の社内目標が立てられることがあるものの、外部へ の報告及びコミュニケーションのため、全組織に適用する合算した目標を作成することが 望ましい。

3.2 SBT 手法を選択する際の推奨事項

可能であれば、部門別脱炭素化アプローチ(SDA)あるいは排出総量削減法のいずれかを用い ることが望ましい。 経済的削減法は、経済的原単位目標(GEVA の使用等)を設定するために使用してもよい。一 般的に、スコープ1 及び 2 の原単位目標は、排出総量削減アプローチに則っているか、全 体としてセクターの排出削減を確実にするセクター別の経路(SDA 等)を使用してモデル 化される場合にのみ、設定されることが望ましい。 企業は最も野心的な目標を選ぶべきである 異なる手法によって作られたある企業の目標の野心に、ばらつきが見られることがあるだ ろう。これは、目標の策定の違い、並びに論拠とする削減経路自体のばらつきのためである。 例えば、SBT イニシアチブが定めた 1.5℃シナリオの限界許容範囲のシナリオには、(2020 ~2035 年の)年間削減量に 4.2~6%の違いがある。さらに、SDA でセクターに求められて いる野心の最低限の水準は、程度の差はあるものの、2℃を十分に下回る目標の総量削減率 よりも高いだろう。 確実に炭素予算を順守するために、企業は最も早い削減と最も少ない累積排出量となる最 も野心的な脱炭素化シナリオと手法を用いるべきである。手法をいくつか検討し、セクター のリーダーシップを発揮するため排出削減を最も推し進める手法と目標を選ぶべきである。 手法の選択は、基準年と目標年のインプットデータの利用可能性といった、実務的な検討事 項にも左右されるだろう。

3.3 種類の異なる目標のメリットとデメリット

総量目標と原単位目標を比較する どちらの目標にも長所と短所がある。原単位目標は必ずしも排出総量の削減につながらな い。生産量が増えると、たとえ単位基準当たりの効率がよくなったとしても、排出総量の増 加をもたらすことがあるからである。(図 3-1 で説明)。

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図3-2. 原単位削減目標は、生産レベルが上がった時に排出総量の増加につながる。 総量目標にも、欠点がある。同業者間でのGHG インベントリの比較ができず、報告された 削減量は、排出量の改善というよりも、生産量の減少に起因することがあるため、必ずしも 効率の改善を示さないことである。 企業は、総量と原単位、双方で目標を示すことが推奨される。20 (総量及び原単位)目標の組み合わせの例 ・ スコープ1,2,3:コカ・コーラ社は、2007 年を基準年として、2020 年までに中核 となる事業運営からGHG 排出総量を 50%削減すると宣言した。また、2007 年の 基準年から2020 年までに飲料部門から GHG 排出量を 33%削減すると約束した。 ・ スコープ1,2,3:欧州不動産運営会社 Covivio は、2017 年の基準年から 2030 年ま でにスコープ1 及び 2 の GHG 排出量を 1 平方メートル当たり 35%削減すること を約束した。2010 年の基準年から 2030 年までに、スコープ 1,2,3 の GHG 排出量 を1 平方メートル当たり 34%削減することも宣言している。 物理的原単位目標と経済的原単位目標の比較 物理的原単位目標と経済的原単位目標にも、独自の強みと限界がある。物理的原単位指標 (トン製品当たりのtGHG あるいは発電した MWh 当たりの tGHG 等)は、統一された製 品を作るセクター(鉄やセメントセクターなど)での使用に最も適していて、多様な製品を 製造する企業にはあまり適さないだろう。

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経済的原単位目標は、時間と共に製品価格の変動があまりないセクターに適しているだろ う。そのようなセクターでの排出量の増加は、企業の業績の伸びに結びつくことが多い。つ まり、製品がたくさん売れれば、製品を生産するために排出量は増加する。 しかし、セクターによっては、業績の伸びが、排出増加と結びついておらず、需要と供給、 価格変動といった他の市場原理に影響される。そのような場合、経済的指標は排出実績の把 握に有効でない。企業は、総量削減を用いるか、排出総量の削減に則った原単位目標を策定 するべきである。 価格変動のあるセクターの例: ・製薬会社の特定の薬の価格は、需要や特許、規制要因に基づいて変動することがある。 ・高級ブランド企業の付加価値(あるいは粗利益)は、マーケティングや高価な商品を購入 する消費者意欲に関連づけられ、価格に変動性をもたらす。 ・多くの商品の価格(鉄や農産物など)は、商品取引所での売買で決定される。 表3-1 に、この三種類の目標の主なメリットとデメリットをまとめる。 表3-1. 排出総量目標、物理的原単位目標、経済的原単位目標の主なメリットとデメリット 排出総量目標 物理的原単位目標 経済的原単位目標 大気に放出される GHG を具体量減らすよう設計 目標のコミュニケーショ ンのために力強い野心を 示す GHG 排出量全体から具体 量を削減させる誓約を伴 うため、環境面で確実であ り、ステークホルダーから も、信頼が厚い。世界の排 出削減取組に対する貢献 度を予測でき、透明性が高 い 事業の浮沈と関係なく、 GHG 排出量の実績及び効 率の改善を反映する 排出削減戦略や社内の進 捗把握と合致できる 企業同士で GHG 排出量 実績の比較可能性が増す こともある(使用されてい るインベントリ統合のア プローチが同じで、製品構 成が非常に類似している ことが前提) 多様な製品やサービスを 提供する企業に最適 成長の早い企業向き メリッ ト

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企業同士での GHG 原単 位や効率の比較が難しい 報告削減量は、パフォーマ ンスの改善より生産/産出 量の減少に起因すること がある 業 績 が 伸 び 、 成 長 率 が GHG 排出量と関連してい れば、目標の達成が厳しく なることもある 原単位が減少しても排出 総量は増えることがある ため、ステークホルダーか らあまり信頼できないと 見られるリスクがある(例 えば、GHG 原単位の減少 以上に生産量が増えるた め) 多様な事業を展開する企 業は、一つの物理的原単位 を共通事業指標として定 義することが難しいこと もある 経済指標の変動性や「理想 的な」状況に基づいた手法 のため、環境面で確実でな い ある年に財務損失があれ ば、目標進捗の把握は難し くなる 物理的生産プロセスに結 びついた排出量と相関し ないこともある(特に価格 変動が多いセクターには) デ メリ ット

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4. SBT の設定:全スコープの主な検討事項

重要な注記:本マニュアルは、SBT イニシアチブの目標妥当性認定基準に直接関連付け られていない。従って、第4~6 章は、SBTi の認定基準と推奨事項を単にベストプラクテ ィスとして組み入れている。必ずしもSBTi の認定基準を要件として説明していない。 SBTi の妥当性確認のために目標の提出を準備する際には、SBTi の認定基準(4.1 版21 や目標妥当性確認規定を閲覧するべきである。SBT は、企業の GHG インベントリを踏 まえているため、これらの章ではインベントリ開発のための GHG プロトコル基準の関 連要件にも言及する。 企業は常に、スコープ1,2 の排出量に対して SBT を設定すべきである。スコープ 3 の排出 量がスコープ1,2,3 排出量全体の大部分を占める場合は、スコープ 3 の目標も設定したいと 考えるかもしれない22。スコープに関わらず、重要な検討事項を通して、目標の構成や目標 に適用される削減の種類がわかる。 本章での重要なポイント ・SBT は、イニシアチブに公式の妥当性確認のために提出した日から、最短 5 年、最 長 15 年を網羅することが望ましい(サプライヤーエンゲージメント目標は例外)。 企業には、長期目標(2050 年までの目標など)を策定することも奨励されている。 ・SBT のバウンダリは、GHG インベントリのバウンダリと一致するべきである。 ・オフセットや削減貢献量は、SBT にカウントされるべきでない。

4.1 分野横断的な検討事項

基準年の選択 取組期間中、排出実績を有意義で、一貫性を持って把握するために、基準年を設定する必要 21 SBTi 認定基準第 4.1 版は、2020 年 7 月 15 日に発効となる。これ以前に SBTi が受領した目標は全て、認定基準第 4 版に則って評価される。 22 SBTi の目標妥当性認定基準は、スコープ 3 の排出量が排出量全体の 40%を超えたときにスコープ 3 目標を設定す るよう求めている。

図 1.1.  主要経済セクターからの人為的 GHG 排出量(年間 GtCO2e)  2010 年データ  注記:その他エネルギーは、コークス炉や溶鉱炉での燃料の燃焼といった公共の電気及び熱生産以外の排 出源を対象としている。(出典:IPCC 2014)  このような経済セクター内の企業も、当該企業が提供する電気のようなサービスに頼る企 業も、低炭素な未来への移行を促すために重要な役割を担っている。今、多くの企業が気候 変動が事業に及ぼすリスクや、気候変動がリーダーシップやイノベーションを生み出す機 会を認
図 3-2.  原単位削減目標は、生産レベルが上がった時に排出総量の増加につながる。  総量目標にも、欠点がある。同業者間での GHG インベントリの比較ができず、報告された 削減量は、排出量の改善というよりも、生産量の減少に起因することがあるため、必ずしも 効率の改善を示さないことである。 企業は、総量と原単位、双方で目標を示すことが推奨される。 20 (総量及び原単位)目標の組み合わせの例  ・  スコープ 1,2,3:コカ・コーラ社は、2007 年を基準年として、2020 年までに中核 となる事業運営

参照

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