6. SBT の設定:スコープ 3 の排出源
6.4 目標の適切な種類を特定する
スコープ3目標は、以下の説明にあるように、総量目標あるいは排出原単位目標、サプライ ヤーエンゲージメント目標の形をとって設定できる。他の種類の目標を設定したいとも考 えるかもしれないが、そのような総量あるいは原単位、またはエンゲージメントの目標に置 き換えられる場合にのみ、他の種類の目標を設定することが望ましい。
スコープ3の排出源は報告事業者の直接の管理下にないため、野心的な削減は、スコープ1 及び 2で比較できるような排出削減の実現よりも難しくなる。このため、スコープ 3の総 量目標あるいは原単位目標は、2℃を十分に下回るシナリオあるいは 1.5℃シナリオに沿う 必要はなく、2℃シナリオに則ることができる。代わりに、以下に示す選択肢のいずれかを 用い、野心的な原単位削減を推進するべきである。
総量目標
総量目標は、最低でも2℃シナリオに則るべきである。スコープ3総量目標の設定にふさわ しい手法は、総量削減法とSDAだが、SDAがスコープ3に直接適用可能なのは特定のセ クターのみである(ボックス6-3を参照)。
排出原単位目標
既存のベストプラクティスの下、原単位目標は以下の種類の目標のいずれかを示す場合、野 心的と考えられる。
・ 2℃シナリオに則った物理的原単位目標。SDAを用いて設定される(適用可能な経路が
あれば。ボックス 6-3 を参照)か、2℃シナリオに沿って総量削減につながるようにモ デル化されるべきである。
・ 排出総量の増加とならず、取組期間中に毎年少なくとも2%ずつ排出量を削減し、排出 原単位を削減する物理的原単位目標36
・ 削減期間中に、前年比少なくとも年率で平均 7%の排出原単位を削減する経済的原単位 目標。経済的原単位目標の設定時に使用される GEVA手法に関する情報は 3.1 項を参 照いただきたい。
サプライヤーエンゲージメント目標あるいはカスタマーエンゲージメント目標
サプライヤーエンゲージメント目標あるいはカスタマーエンゲージメント目標では、企業 はサプライヤーや顧客に SBT の採用を促進することを誓う。目標例としては以下がある。
・ 日本大手総合化学メーカーの住友化学は、製品重量でサプライヤーの 90%が 2024 年 までに科学にと整合したGHG排出量削減目標を設けることを約束した。
・ SKYCITY Entertainment Groupは、購入製品、サービス、資本財を含め、支払額で
サプライヤーの 67%が 2023 年までに科学に整合した目標を設定することをコミット している。
企業がバリューチェーンパートナー間でまだ具体的な削減機会の方策を特定していない場 合や、間接支出が多く、協力的な削減取組を行うほど個々のサプライヤーに十分な支出をし ていない場合、このような目標は特に有益だろう。サプライヤーエンゲージメント目標は、
同一サプライヤーのほかの顧客にメリットとなる削減行動を推し進める一助となることも ある。
エンゲージメント目標は、関連する上流または下流のスコープ 3 カテゴリについて設定で きる。企業は支出あるいは排出量の影響に基づき、どのサプライヤーや顧客を目標に含める か、を特定できる。エンゲージメント目標は、代替方法として、業務リスクといった様々な 要因に基づいて企業がすでに特定した「重要なサプライヤー」または「戦略的なサプライヤ ー」に注力することもできる。支出データや重要なサプライヤーリストは、それらが確実に サプライヤーに対する影響力の代理となる時は、有利である。しかし、支出が最も多いサプ ライヤーが必ずしも GHGの排出が最も多いわけではないので、新たなスコープ 3 目標と 同様に、エンゲージメント目標がスコープ3排出合計の少なくとも3分の2を網羅するこ とを確実にするべきである。
なことは、エンゲージメント目標がサプライヤーや顧客の時宜にかなった排出削減に結び つくことである。そのため、妥当性確認のためにイニシアチブに提出された目標は、発表さ れた日から遅くとも5年以内に達成すべきである。また、サプライヤーと顧客は、最低でも 排出量データがより利用しやすいスコープ1と2の排出にSBTを設定すべきである。サプ ライヤーのスコープ 3 排出量が多い場合、データがより利用可能となるにつれ、徐々にス コープ 3 目標も設定されるべきである。サプライヤーは年間ベースで進捗の報告も行うべ きである。
最後に、カテゴリ1の排出量の大部分が二次サプライヤー(ティア2)または、報告事業者 からさらに遠いサプライヤーから発生し、影響力を行使できない可能性のある場合、サプラ イヤーエンゲージメント目標の設定は推奨されない。
ボックス6-3. スコープ3目標を設定する際のSDAの限界
スコープ3の総量目標または原単位目標を設定するためにSDAを使用する際、2つの限 界を認識すべきである。
1つ目は、スコープ3目標にSDAを使用できるのは、一次サプライヤーのGHG排出量 が、企業からさらに遠いサプライヤーからの排出量と比べて著しく多い時、及びスコープ 1と2のデータが一次サプライヤーから入手できる時である。つまり、実際、SDAは建 物(リース資産とフランチャイズ)及び、上流または下流の輸送、配送に最適となる。
2つ目の限界は、スコープ3目標全体がどれほど広範囲かによって、いくつかのカテゴリ で削減量を把握するための選択肢を狭めてしまう点である。例えば、ある建設会社はSDA の鉄鋼の経路を使って、購入した鉄の原単位目標を設定できる。この経路では、GHGの 排出がより少ない鉄の代用品に素材を変更することを認めないため、購入した鉄のGHG 原単位を減少させることでしか目標を達成できない。この問題は、購入した製品・サービ ス全体に目標をたてることで回避できる。
企業がSBTの一部として設定できるその他の種類の目標
はっきりと排出を削減する目標をたてるのではなく、事業のある側面または製品のパフォ ーマンスを改善する目標の設定を考えることもあるだろう。そのような目標は多様であり、
よくある例としては以下が挙げられる。
- GHG排出量の多い材料の使用を止める、または減らす目標。「2025年までに社有車の 25%を電気自動車とする」など。
- セクターのベストプラクティスを採用する目標。「農作物のサプライヤー全てが、肥料 散布率を減らし、スローリリース肥料または硝化抑制剤を使用する」など。
- 再利用可能材料の使用を増やす目標。「梱包材のリサイクル量を2022年までに2015年
水準から80%増やす」など。
そのような目標によって、大まかな排出削減目標を、より的を絞った社内の経営判断を導く ことができる目標に分解できる。そのような目標をSBTの一部として設定する場合、その 目標が総量目標または原単位目標、エンゲージメント目標に貢献するものとして、予想され る排出削減の利点を定量化できるようにするべきである。
企業は削減努力全体の完全性を担保するために、ある一部の排出源の目標がその他の排出 源の排出増加につながらないか、考慮すべきである。例えば、ある企業は使用段階における 製品ポートフォリオのエネルギー原単位を削減する目標、またはガソリン/ディーゼル車か ら天然ガス自動車に切り替える目標を設定したいと考える。しかし、もし、エネルギー効率 の低い製品と比較した時に、エネルギー効率の高い製品や天然ガス自動車が製造段階で多 くの排出量を出す場合、ライフサイクル全体に目標を設定するべきである。
企業がSBTの一部として設定すべきでない目標
ある種の総量目標あるいは原単位目標は、エンゲージメント目標で予想されている削減に つながることの証明が難しいため、設定すべきでない。特に、GHGの具体的な質量を排出 から削減する目標(「2030年までに500万トンの排出量を削減する」など)や、セクター平 均値に対する実績を基準とする目標は設定すべきでない。これは、そのような目標では排出 実績の変化が明確でないからである。また、セクターで基準とされた目標は、時間が経つに つれ、セクターの実績の変化で変わることもあり、実績の長期的な変化を把握する能力を損 なう。