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博 士 ( 医 学 ) 小 原 修 幸

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 小 原 修 幸

学 位 論 文 題 名

マ ウ ス 下 丘 神 経 細胞 に お け る

選 択 的 セ ロ ト ニ ン 再 取 り 込 み 阻 害 薬 の 効 果

学 位 論 文 内 容 の要 旨

【背景と目的】

耳鳴りは外部の音が無いにも関わらず音知覚を生じる現象であるが、音が体内に存在する場合と、

体内に原因となる音が無くても音知覚を感じる場合がある。体内に存在する音としては頭頸部に 存在する血管を流れる血流音、耳小骨筋攣縮などに伴う筋性耳鳴、耳管開放症や耳管機能不全症 に伴う耳管性耳鳴が原因として挙げられる。体内に原因となる音が無い場合、その発生は内耳ま た はそこか ら聴皮 質へ至る 末梢神 経や中枢神経に何らかの発生機序が存在すると考えられる。

  臨床的に耳鳴りは多様な原因から生じていると考えられ、病態も様々であるとされているが、

そのほとんどが耳鳴の自覚症状以外の所見に乏しく、その病態については明らかではない。また、

明 確 に 耳 鳴 り の 発 生 し て い る 場 所 を 末 梢 性 と 中 枢 性 に 分 け る こ と は 困 難 で あ る 。   以上に述べたように、耳鳴りの発生機序については諸説があるが、本研究では聴神経より中枢 に原因をもつ中枢性耳鳴について検討を行った。中脳下丘における神経伝達はシナプスからの興 奮性入カと抑制性入カによるものであり、蝸牛からの音入カは興奮性のシナプス伝達として直接、

または上オリーブ核群や外側毛帯核を経由して下丘に達する。その一方で、外側上オリーブ核や 外側毛帯核から抑制性のシナプス入カも存在しており、下丘において音情報の統合や調節がたさ れていると考えられている。

  セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は抗うつ薬の一種であり、シナプスにおいてセロトニント ランスポーターに作用し、神経伝達物質であるセロトニンの再取り込みを阻害することによって、

シナプス間隙のセロトニンの濃度を増加させる。SSRIは耳鳴りの治療薬として処方されることも あり、一定の効果があると報告されている。SSRIの耳鳴に対する作用機序としては、その抗うつ 作用によって耳鳴りの自覚症状が軽減されることによるとされてきたが、未だ詳細については解 明されていなぃ。本研究ではSSRIの下丘に対する作用について検討することを目的として、下丘 神 経 細 胞か ら パ ッチ ク ラ ンプ 法 を 用い て 抑 制 性シ ナ プ ス後 電 流(sIPSC)の 記録を 行った 。

【実験方法】

C57BL/6Jマウスより下丘を含む急性中脳スライス標本を作成して実験に用いた。すべての実験は 北 海道大学 動物実験 に関す る規定に 従って 行った。8−35日齢のC57BL/6Jマウスよルエーテル 麻 酔下に全脳を摘出した。氷冷した高スクロースの人工脳脊髄液(artificial cerebral spinal     −289ー

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fluid以 下ACSFと略す)においてりニアスライサーを用いて厚さ400LLmの急性スライスを作成 し た。作成したスライスは95%の酸素と5%の二酸化炭素混合ガスで飽和した標準ACSFで満たし た イ ン タ ー フ ェ ー ス 型 保 存 箱 内 で 室 温 に て1時 間 以 上 放 置 し た 後 に 測 定 に 用 い た 。

【結果】

  セロトニン(10 M)の投与に より記録開始5分後(control)のGABA作動性sIPSCの頻度は投与前 と比較しては有意に増加した(2099土990,n=6,p<0. 05)。また、マレイン酸フルボキサミン (SSRI) 10MMの投与開 始から5分経過後のGABA作動 性sIPSCの頻度は投与前と比 較して統計学的 に有意に増加した(149土24%,n=7,p<0. 05)。次に、グリシン作動性sIPSCの振幅および頻度は セロトニン(10ロM)の投与により有意に増加した(197土81%,n二ニ6,P<O. 05)が、GABA作動性sIPSC の頻度の変化と比較すると小さな効果であった。

【考察】

    以上より、下丘中心核神経細胞に韜いては、セロトニンはGABA作動性とグリシン作動性両者 のsIPSCの頻度を増加させ、神経 細胞の活動電位の発生に対して抑制的に作用することが示唆さ れた 。SSRIの薬理作用はシナプス間隙のセロトニン濃度を増加させることであるから、この結果 はSSRIによルセロトニン濃度が増加することによるものであ ると推測される。しかし、SSRIの 薬理作用はセロトニントランスポーターの遮断のみではなく、volume―regulated anion channels を遮 断することや、グリシン受容体の遮断といった作用も報告されている。また、SSRIのー種で ある フルオキセチン(fluoxetine)をラットの海馬培養細胞に投与するとsIPSCの頻度と振幅が増 加す ることが報告されており、セロトニンが存在しなぃ実験系においてもsIPSCに対する薬理作 用が 認められている。そのため、本研究で得られた結果に対する薬理的な作用機序については更 なる検討を要すると思われる。

  ま た、興奮性シナプス後電流(EPSC)に対する作用が不明であり、実際にセロトニンが神経伝達 に抑 制的に働くか否かについては明らかではない。マレイン酸フルボキサミン(SSRI)がGABA作動 性sIPSCの頻度を有意に増加させ るという結果については、中枢性の耳鳴りが中枢聴覚路におけ る神 経細胞の過興奮に起因するという仮説が提唱されているため、耳鳴を抑制させるという臨床 効 果 が 下 丘 に 対 す る 薬 理 作 用 に よ る も の で あ る 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ る 。   本 研究により、マレイン酸フルボキサミン(SSRI)はGABA作動性sIPSCの頻度を増加させること から 、その抗うつ作用に加えて中枢聴覚路の神経伝達に対して直接作用することにより臨床的な 耳鳴りの改善効果に関与している可能性があることが示唆された。

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(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

マウス下丘神経細胞における

選択的セロトニン再取り込み阻害薬の効果

  学位論文の内容は以下の通りである。

  臨床的に耳鳴りは多様な原因から生じていると考えられ、病態も様々であるとされてい るが、そのほとんどが耳鳴の自覚症状以外の所見に乏しく、その病態については明らかで はない。また、明確に耳鳴りの発生している場所を末梢性と中枢性に分けることは困難で ある。

  耳鳴りの発生機序については諸説があるが、本研究では聴神経より中枢に原因をもつ中 枢性耳鳴について検討を行った。中脳下丘における神経伝達はシナプスからの興奮性入カ と抑制性入カによるものであり、蝸牛からの音入カは興奮性のシナプス伝達として直接、

または上オループ核群や外側毛帯核を経由して下丘に達する。その一方で、外側上オリー プ核や外側毛帯核から抑制性のシナプス入カも存在しており、下丘において音情報の統合 や調節がなされていると考えられている。

  セ口トニン再取り込み阻害薬(SSRDは抗うつ薬の一種であり、シナプスにおしゝてセロト ニントランスポーターに作用し、神経伝達物質であるセロトニンの再取り込みを阻害する ことによって、シナプス間隙のセ口トニンの濃 度を増加させる。SSRIは耳鳴りの治療薬 として処方されることもあり、一定の効果があ ると報告されている。SSRIの耳鳴に対す る作用機序としては、その抗うつ作用によって耳鳴りの自覚症状が軽減されることによる とされてきたが、未だ詳細については解明され ていない。本研究ではSSRIの下丘に対す る作用につしゝて検討することを目的として、下丘神経細胞からバッチクランプ法を用いて 抑制性シナプス後電流(sIPSC)の記録を行った。

  セ ロト ニン(10ルM)の 投与 により記録開始5分 後(control)のGABA作動性sIPSCの頻度 は投与前と比較しては有意に増加した(2099土99%,n=6,pく0.05)。また、マレイン酸フ ル ポ キ サ ミ ン(SSRD10ルMの 投 与 開 始 か ら5分 経 過 後 のGABA作 動 性sIPSCの頻 度は 投 与前と比較して統計学的に有意に増加した(149土24%,nニニ7,pく0.05)。次に、グリシン作 動性sIPSCの振幅および頻度はセロトニン(10ルrvDの投与により有意に増加した(197土 81%,n=6,Pく0.05)が、GABA作動性sIPSCの頻 度の変化と比較すると小さな効果であっ

‑ 291

彦 弘

と 之

雅 充

さ 温

谷 田

渡 吉

本 神

授 授

授 授

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

(4)

た。

  以上より、下丘中心核神経細胞におしゝては、セロトニンはGABA作動性とグリシン作動 性両者のsIPSCの頻度を増加させ、神経細胞の活動電位の発生に対して抑制的に作用する ことが示唆された。SSRIの薬理作用 はシナプス間隙のセ口トニン濃度を増加させること であるから、この結果はSSRIによル セ口トニン濃度が増加することによるものであると 推測される。しかし、SSRIの薬理作 用はセ口トニントランスポーターの遮断のみではな く、volume‑regulated anion channelsを遮断することや、グリシン受容体の遮断としゝっ た作用も報告されている。また、SSRIの一種であるフルオキセチン(fluoxetine)をラット の海馬培養細胞に投与するとsIPSCの頻度および振幅が増加することが報告されており、

セロトニンが存在しない実験系・においてもsIPSCに対する薬理作用が認められている。そ のため、本研究で得られた結果に対する薬理的な作用機序については更なる検討を要する と思われる。

  また、興奮性シナプス後電流(EPSC)に対する作用が不明であり、実際にセロトニンが神 経伝達に抑制的に働くか否かについ ては明らかではなしゝ。マレイン酸フルボキサミン (SSRI)がGABA作 動性sIPSCの 頻度 を有 意に 増 加さ せる とい う結 果に ついては、中枢性 の耳鳴りが中枢聴覚路における神経細胞の過興奮に起因するという仮説が提唱されている ため、耳鳴を抑制させるという臨床効果が下丘に対する薬理作用によるものである可能性 があると考えられる。

  本 研 究 に より 、マ レイ ン酸 フル ポキ サミ ン(SSRDはGABA作動 性sIPSCの 頻度 を増 加 させることから、その抗うつ作用に加えて中枢聴覚路の神経伝達に対して直接作用するこ とに より 臨床 的 な耳 鳴り の改 善効 果に 関与している可能 性があることが示唆された。

  この発表に対し、次のような質疑 応答がおこなわれた。

  副査の吉岡教授からこの実験にマレイン酸フルポキサミンを用いた理由および動物の情 動との関連性について、副査の本間教授からデー夕毎に薬剤投与による作用に差が大きく なった原因について、副査の福田教授から中枢性難聴との関連性について、副査の神谷教 授からこのSSRIの効果が急性効果で あるか否かについて、主査の渡邊教授から興奮性シ ナプス入カヘのSSRIの効果について の質問があった。申請者はこれらの質問に対して一 部不十分な点もあったが、文献的知識や自らの研究結果に基づいて概ね妥当な回答をなし た。

  審査委員からは、本論文が下丘に おけるSSRIの作用をシナプス入カのレベルで詳細に 研究した内容であり、今後の脳神経研究や耳鳴に対する今後の治療への一助になる報告で あるとの評価がなされた。

  審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ 申請 者が 博 士( 医学 )の 学位 を受 けるのに充分な資 格を有するものと判定した。

‑ 292

参照

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