博 士 ( 医 学 ) 國 原 孝
学位論文題名
Lazaroid Reduces Production of IL‑8 and IL‑1 Receptor Antagonist in the Postischemic Spinal Cord Injury (ラザロイドは虚血後脊髄障害におけるインターロイキン8 と イ ン タ ー ロ イ キ ン 1 受 容 体 桔 抗 体 の 生 成 を 抑 制 す る )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
【背 景】 大動脈手 術後の脊 髄障害は 生活の質 を極端に損 なう合併 症であり 、それを 回 避 することは 血管外科 において 長く未解決の問題であった。最近の研究で、21一アミノス テ口イド(ラザ口イド)は脂質過酸化反応を抑制する機序により、中枢神経系の虚血再潅流 障 害に保護的 に働くこ とが示さ れてきた。虚血再潅流障害の成立機序においては、内皮細 胞 も重要な役 割の1っを 演じるが 、ラザ口 イドが脊 髄虚血後 の内皮細胞障害を軽減するか 否 かはあまり 検討され ていなか った。内皮細胞障害の際に、種々の炎症性サイトカインや 抗 炎症性サイ トカイン が生成さ れてくることが知られているが、われわれはウサギ虚血性 脊 髄障害モデ ルにおい てこうし た炎症性サイ卜カインや抗炎症性サイ卜カインの生成にラ ザ口イドが影響を及ぼすか否か検討した。
【 対象と方法]ウサギ脊髄虚血モデル(New Zealancl white rabbits (n=26);体重3.2 士O.lkg)を用いた。 全身麻酔 後気管切 開、調節呼吸下に上下肢動脈圧、心拍数、直腸温を モ 二 夕ー し、後腹 膜経路で20分間の腎 動脈下大 動脈遮断(AX C)を 行い脊髄 虚血モデ ルを 作 成 した 。 直 腸温 は 全手 技 を 通じ て38℃ 以 上に コ ン 卜□ ー ルし た 。脂質過 酸化阻害 の interventionと し て ラ ザ 口 イ ドU74389Gを 使用 し 、AXC直 前 に3mg/kgを 静脈 内 投 与し たL群(n 10)と同量の生理食塩水を投与したP群(n 10)に分類した。さらに腎動脈下大動 脈 の 剥離 、 テ ーピ ン グの み 施 行し 、AJXCは行わ ないで同量 の生理食 塩水を投 与したS群
(n 6)を 作成した 。AXC前、AXC解 除5分前、5分後、1時 間後にELISA法で インター 口イ キ ン(IL)ー8,1ロ,1受容体拮 抗体(lRa)を、バイオアッセイ法で腫瘍壊死因子Q(TNFa)を 測 定 した 。 脂 質過 酸 化阻 害 に よる 脊 髄 保護 効 果を 評 価 する た め、AXC 24、48時間 後に
′rarlovスコアによる機能評価をした後犠牲死させ、摘出脊髄より前記のサイトカインの測 ―125一
定 な ら び にHE,K―B.GFAPの3種 の 染 色 標 本 を 作 成 し 病 理 学 的 評 価 を 加 え た 。 【 結 果] 血 漿 中のILー8,lRaはAXC前値 と比較し て、L群、P群共にAXC解除1時間後に お い て も 上 昇 を 続 け た 。L群 のIL一8,lRaはP群 の それ と 比較 し て 有意 に 低 値で あ った
(pく0.05)。 血 漿中 のTNFQはAXC解 除5分 後に 最 大値 と な り以後 は低下した 。IL−18値ほ 測 定 感度 以 下 であ っ た。 脊 髄 組織内IL−8濃度はP群 と比較してL群で有意 に低値で あった
(pく0.05)。脊髄組 織内ILーlRa、TNFa濃度はL群で低い傾向にあったが有意差はなかった。
Tarlov Scoreは24,48時間後共にL群で有意に良好であった(それぞれDく0.01,pくO.02)。
病 理 所見 はP群 で 灰白 質 の軟 化 、 出血 、 神経 細 胞 の壊 死 を多 数認めた が、L群で は軽度萎 縮した神経細胞を散見する程度で、障害は明らかに軽度であった。
【考 察】脊髄 機能評価 や病理学 的評価tま 既存の報 告とほぼ同等の結果であり、脊髄虚 血を 作成する という点 では、わ れわれの 実験モデ ルは妥当で あると考 えられる 。炎症性 サ イ ト カイ ン で あるIL−8がAXC解除1時 間後で既 に血漿中 で有意に上 昇してお り、また 脊髄 組 織 中で も 上 昇し て いた 事 実 より、IL―8上昇のsourceは 、虚血再潅 流による 内皮細胞 障 害や 活性化自 血球が存 在する虚 血脊髄で ある可能 性が大であ ると考え られる。 ラザ口イ ド 前処 置がこれ らを有意 に抑制し たことよ り、ラザ ロイドが脊 髄虚血再 潅流によ る内皮細 胞 障 害 や自 血 球 の活 性 化を 軽 減 する こ とが 示 唆 され た 。 抗炎 症性サイ トカイン であるILー 1RaもIL18と 同様の上 昇を示し 、その原 因は手術 侵襲やIL−8による刺激 であると いわれて い る 。S群で 手 術 経過 と とも に 上昇を続 けたのは 手術侵襲に よるもの と思われ るが、ラ ザ
□ イ ド投 与 群 でが そ れが 軽 減 された理 由は、お そらくILー8上 昇が抑制 されたこ とに起因 する であろう 。IL−1ロ値 が測定感 度以下で あったのtま、IL―1Raの存在がこれを抑制した た め と考 え ら れた 。TNF口 は 種々 のサイト カイン生 成のトリガ ーである といわれ ており、
わ れ わ れ の モ デ ル で もILー8の 生 成 を 刺 激 し た 可 能 性 は あ る 。 しか しTNFQの測 定 値 は AXC解 除5分後 に 最 大値 と なり 以 後 は低 下 した こ と と、 実 験群間 の測定有 意差がな いこと か ら 、IL−8の 実験 群 問の 測 定有 意差の原 因とはな らないと思 われる。 おそらく ラザ口イ ド は マ ク 口 フ ァ ー ジ や 活 性 化 自 血 球か ら のTNFa放 出 に は大 き な影 響 を 及ぼ さ ない も の と思 われる。 炎症性サ イトカイ ンによる 血管平滑 筋細胞増殖 は遅発性 脊髄障害 に関与す る と言 われてお り、炎症 性サイ卜 カインの 上昇を早 期に検出し 、これを 低下させ ることは 脊 髄障害防止に大きな臨床的意義があるものと考える。
【 結 論】 ウ サ ギ虚 血 性脊 髄障 害モデル においてAXC前のラザ□ イド投与 により、 全身 およ び虚血脊 髄からのIL―8およびIL一lRaの産生 が抑制さ れ、脊髄機 能や病理 学的評価 が ―126―
有意に改善した。即ちラザ口イドが虚血脊髄における内皮細胞障害および自血球活性化を 軽減していることが今回初めて明らかになった。さらなる基礎的、臨床的検討が必要では あるが、ラザ□イドが大血管術後の脊髄障害防止に非常に有用である可能性が示唆された。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学位論文題名
Lazaroid Reduces Product10nofIL  ̄ 8andIL ‐ 1 ReCeptorAntagoniStinthePOStiSChemiCSpinalCOrdInjury (ラザロイドは虚血後脊髄障害におけるインターロイキン8 と イ ン タ ー ロ イ キ ン 1 受 容 体 桔 抗 体 の 生 成 を 抑 制 す る )
大動 脈手 術後 の脊 髄障 害を 回避す るこ とは 血管 外科 にお いて長く未解決の問題であ った。最近の研究で、21―アミノステ口イド(ラザ口イド)は脂質過酸化反応を抑制する機 序に より、中枢神経系の虚血再潅流障害に保護的に働くことが示されてきたが、ラザ口イ ドが 脊髄虚血後の内皮細胞障害を軽減するか否かはあまり検討されていなかった。本研究 では ウサギ虚血性脊髄障害モデルにおいて内皮細胞障害の際に生成される炎症性サイトカ イ ン や 抗 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン に ラ ザ 口 イ ド が 影 響 を 及 ぼ す か 否 か 検 討 し た 。 ウ サギ 脊髄 虚血 モデ ル(New Zealand white rabbits;3.2土O.lkg)を用いた。全身麻酔 後気管切開、調節呼吸下に上下肢動脈圧、心拍数、直腸温(38℃以上にコント口ール)をモ ニタ ーし 、後 腹膜 経路 で20分間 の腎動脈下大動脈遮断(AXC)を行い脊髄虚血モデルを作成 し た 。AXC直 前 に ラ ザ □ イ ドU74389Gを3mg/kg静 脈 内 投 与 し たL群 (n 10)、 同量 の生 理食 塩水を投与したP群(n 10)、AXCは行わないS群(n 6)を作成した。AXC前、AXC解 除5分前、5分後、1時間後にELISA法で血漿中のインター□イキン(IL)一8,1B,1受容体拮 抗 体(lRa)を 、バ イオ アッ セイ 法で 腫瘍 壊死 因子a(TNFa)を 測定 した 。AXC 24、48時間 後に′Farlovスコアによる脊髄機能評価をした後犠牲死させ、摘出脊髄より前記のサイトカ イ ン の 測定 なら びにHE,K―B,GFAPの3種の 染色 標本 を作成 し病 理学 的評 価を 加え た。
血 漿 中のIL―8,lRaはAXC前 値と 比較 して 、L群 、P群共にAXC解除1時間 後に おい ても 上 昇 を 続け 、L群 でP群と 比較し て有 意に 低値 であ った (pく0.05)。 血漿 中のTNFaはAXC
顯 哲
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授 授
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査 査
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主 副
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解除5分後に最大値となり以後は低下した。IL一18値は測定感度以下であった。脊髄組織 内IL―8濃度はP群と比較してL群で有意に低値であった(pく0.05)。脊髄組織内IL‑lRa、 TNFa濃度はL群で低い傾向にあったが有意差はなかった。Tm‑lov Scoreは24,48時間後 共にL群で有意に良好であった(それぞれpく0.01,pく0.02)。病理所見はP群で灰白質の軟 化、出血、神経細胞の壊死を多数認めたが、L群では軽度萎縮した神経細胞を散見する程 度で、障害は明らかに軽度であった。
脊髄機能評価や病理学的評価は既存の報告とほば同等の結果であり、本研究の実験モ デルは妥当と考えられた。IL−8上昇のsourceは、虚血再潅流による内皮細胞障害や活性 化自血球が存在する虚血脊髄である可能性が大であると考えられ、ラザ□イド前処置がこ れらを有意に抑制したことより、ラザ□イドが脊髄虚血再潅流による内皮細胞障害や自血 球の活性化を軽減することが示唆された。IL‑lRaもIL一8と同様の上昇を示し、その原因 は手術侵襲やIL―8による刺激であるといわれている。S群での上昇は手術侵襲の関与が考 えられるが、ラザロイド投与でそれが軽減されたのは、ILー8上昇の抑制によるものであろ う。IL一18値が測定感度以下であったのは、IL‑lRaの存在がこれを抑制したためと考え られた。TNFaは種々のサイトカイン生成のトリガーであるといわれており、本研究の モデルでもIL−8の生成を刺激した可能性はある。しかしラザ口イドはマク口ファージや活 性 化 自 血 球 か ら のTNFa放 出 に は 大 き な 影 響 を 及 ぼ さ な い も の と 思 わ れ た 。 以上をまとめると、ウサギ虚血性脊髄障害モデルにおいてAXC前のラザ口イド投与に より、全身および虚血脊髄からのIL−8およびIL一lRaの産生が抑制され、脊髄機能や病理 学的評価が有意に改善した。即ちラザロイドが虚血脊髄における内皮細胞障害および自血 球活性化を軽減していることが今回初めて明,らかになった。
学位論文の公開発表に際し、副査の丸藤教授からはサイ卜カインを検討した理由、測定 下限値の問題、再灌流後投与での有用性、主査の北畠教授から臨床での使用薬剤、ラザ口 イドの臨床応用の可能性、TNFaが早期に上昇する理由、副査の安田教授から脊髄組織 での内皮細胞の病理学的変化、将来の薬物的治療の方向性などについて質問があった。申 請者は豊富な実験結果と、蓄積された学識をもって、文献的考察も交えて誠実かっ概ね適 切に回答し得た。
本研究はラザ口イドが虚血脊髄における内皮細胞障害、自血球活性化を軽減すること を初めて明らかにし、今後さらなる基礎的、臨床的検討が必要ではあるが、大血管術後脊 髄 障 害 防 止 へ の 臨 床 応 用 に 重 要 な 示 唆 を 与 え る も の と 評 価 で き る 。
審 査 員一 同 は、申請 者の豊富 な学識に併 せ、本研 究が関連 領域研究 の進展に 与える成 果を評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。