博 士 ( 医 学 ) 相 馬 広 幸
学 位論文題名
Associations between rvIultiple System Atrophy and Polymorphisms of SLCIA4, soS 刀 k 矼 , andE ぽ 4EBPZGenes ( 多系統萎縮症と SLClA4 , SQSTM1 , EIF4EBP1 遺伝子との相関)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
【背 景 と 目 的】 多 系 統 萎縮 症(multiple system atrophy; MSA)は 成人発 症の孤 発性神 経変性 疾患で ある. その臨床 像は自 律神経 障害,levodopa治療に抵抗性のパーキンソン症候群,小脳性 運動失 調症を 三主徴と するが 一様で はなく,運動症状においてパーキンソン症候群が前景にたつ 例をMSA‑P,小 脳 性 運 動失 調 症 が 前景 に たっ 例をMSA‑Cと 分類し ている .病理 像では 乏突起 神 経膠 細 胞 内 にみ ら れるa―synucleinを含 む細胞質 内封入 体が特 徴的で ある. そのた め,MSAは パーキ ンソン 病やレビー小体型痴呆とともにa―synucleinopathyと分類されている.MSAの病因は 不明で あるが ,遺伝的 背景が 発症素 因として存在していることが疑われている.近年の研究によ りnitric oxideやsuperoxideがa‑synucleinopathyの 発症や 進行に 関与す ること が推測 されて い る , そ の た め , こ れ ら のス ト レ ス に対 す る 反 応に 関 与 す る遺 伝 子 はMSAの発 症 や 進 行に 影響 を 及 ば す可 能 性 が ある こ と が 推測 さ れる. 私達は この仮 説に基 づき酸 化スト レスに関 与 す る と 推 測 さ れ る 遺 伝 子 の 多 型 とMSAと の 関 連 解 析 を 行っ た . 候 補遺 伝 子 はHoltzら の 報 告 を 基 に 選 定 し た . 彼 ら は 培 養 ド パ ミ ン 神 経 細 胞 に 酸 化 ス ト レ ス を 惹 起 す る 6‑hydroxydopamine又 はl‑methyl‑4‑phenylpyridiniumを暴 露した 際に多 数の遺 伝子の発現量が 増加し たこと を報告し ている(Holtz etal.丿Biol Chem. 2003;278:19367‑77),これらの遺伝子 群は 酸 化 ス トレ ス 反 応 に関 与 し , 神経 細 胞やグ リア細 胞を保 護,も しくは 傷害を 強める可 能 性が あ る と 推測 さ れ る .本 研 究 の 目的 は 酸化ス トレス 反応に 関与す ると推 測され る遺伝子 の 多 型 がMSAの 発 症 に 及 ば す 影 響 を 患 者 ― 対 照 比 較 研 究 に よ り 検 討 す る こ と で あ る .
【対 象 と 方 法】 対 象 患 者群 は119( 男性59, 女性60)名 , 平均 発 症 年 齢59.4土8.5 (41一79) 歳 ,MSA‑C 93名 ,MSA‑P 26名 , 診 断 基 準 で は75名 がprobable,44名 がpossibleに 該 当し た , 正 常対 照 群 は123( 男 性61, 女 性62)名, 平 均 年 齢58.7土8.9 (41―83)歳 . 解析 す る遺 伝 子 は 前述 の よ う にHoltzら の報 告 か らCCAAT/enhancer‑binding protein homologous protein,activating transcription factor3,CCAAT/enhancer‑binding protein‑B,sequestosome1 (SQSTMl),cysteinyl‑tRNA synthetase,solute carrier family lA4 (SLCIA4),activating
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transcription factor4,eukIヴotiCtranSlationinitiationfaCtor4E.bindingprotein1(EIF4EBPl)の8 遺 伝 子 を 選 択 し た . 一 次 解 析 で は1遺 伝 子 に っ き3丶 一 丶7箇 所 の 一 塩 基 多 型 (SNP) を 解 析 し た , 一 次 解 析 に お い て 有 意 な 相 関 又 は そ の 傾 向 を 示 し た 遺 伝 子 に つ い て , 二 次 解 析 と し て 解 析SNPを 増 や し て 遺 伝 子 全 体 を 網 羅 す る 連 鎖 不 平 衡 マ ッ ピ ン グ を 行 い , そ れ に 基 づ ぃ た ハ プ ロ タ イ プ 相 関 解 析 を 行 っ た .SNPの ジ ェ ノ タ イ ピ ン グ はSNaPshotMultiplexKit(Applied Biosystems) を 用 い た プ ラ イ マ ー1塩 基 伸 長 法 に て 行 っ た . 二 群 間 の 恥 ゆ デ ー タ の 評 価 に は 分 割 表 と カ イ 二 乗 テ ス 卜 を 用 い た . 全 て のSNPデ ー タ はHardy‐Weinberg平 衡 か ら 逸 脱 し て い な い 事 を 確 認 し た . ハ プ ロ タ イ プ はEXpectation_MaXimizationalgorithmを 用 い て 推定 し た . 連 鎖 不 平 衡 マッ ピ ン グ は 連鎖 不 平 衡 尺 度D 値 と トsquare値 に 基 づ い た.lD 1冫0.9又 は トsquare 冫0.5を 強 い 連 鎖 不 平 衡 と み な し た , 統 計 学 的 検 定 に はBonferroni補 正 (Pc; 補 正 後p値 ) を 用 いた. 有意 水準はp‐valueく0.05とした .
【 結 果 】 一 次 解 析 で は ,2つ のsNP,SLClA4SNP十28833(V3981,rs759458,gen0ぢpe:p 0.00132,allele:p 0.00217) とSQSTMlSNP十890(in廿on1,rs502729,genotype:p 0.0291, anele:pニ ニO.0123) にMSAと の 有 意 な 相 関 を認 め た . 前 者はBonferroni補 正 後 も 有 意な 相 関 を 示 し た (K=7,genoぢpe:Pc 0.00930,allele:Pc O.0151) が , 後 者の有 意性は 消失 した. ハ プ ロ タ イ プ に 基 づ ぃ た 相 関 解 析 で は 有 意 な 相 関 を 示 す 遺 伝 子 は 認 め な か っ た が ,EIF4EBP1 の ハ プ ロ タ イ プ に 有 意 な 相 関 を 示 す 傾 向 の あ る も の を 見 出 し た (p 0.0739) . 二 次 解 析 で は , 一 次 解 析 に お い て 有 意 な 相 関 又 は そ の 傾 向 を 示 し たSLClA4及 びSQSTM1, EIF4EBP1の3遺 伝 子 を 検 討 し た .SLClA4で は , 連 鎖 不 平 衡 マ ッ ピ ン グ か らSNP‐1793, 十6992, 十26627, 十28833をtag‐SNPに 選 定 し ハ プロ タ イ プ 解 析を 行 い , ハ プロ タ イ プ T−C−G‐C 及 び T‐C‐T‐A に 有意 な 相 関 を 認め た (Pc 0.0261,0.000768). ま た , 一 次解 析 に て 有 意な 相 関 を 示 し たSNP十28833は 解 析 し た 全14SNPで あ ら た め てBonferroni補 正 を 行 っ た 後 も 有 意 性 を 保 っ た (genoり俳 :Pc 0.0186,allele:Pc〓 ニ0.0303) .SQSTM1で は,SNP十890と十12643 に よ る ハ プ ロ タ イ プ 解 析 を 行 い , ハ プ ロ タ イ プ C‐T 及 ぴ A.T に 有 意 な 相 関 を 認 め た (Pc 0.0136,0.0369).EIF4EBPlでは,SNP‐606,十14426,十20787,十29758カゝら構成されるノ丶 プ ロ タ イ プ C‐T.G‐C に 有 意 な 相関 を 認 め た (Pc―0.0480) .ま た , 追 加 解 析し た 恥 口 単 独 で の関連 解析 では有 意な相 関を示 すもの は認 めなか った.
【 考 察 】SLClA4は 細 胞 膜 に 存 在 す る 中 性 ア ミ ノ 酸 輸 送 体 で あ り , 神 経 栄 養 因 子 で あ る セ リ ン の 代 謝 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と が 推 測 さ れ て い る ,SQSTM1は ユ ビ キ チ ン 結 合 蛋 白 で あ り ,MSA剖 検 脳 に て グ リ ア 細 胞 質 内 封 入 体 に 認 め ら れ る こ と も 報 告 さ れ て い る . EIF4EBP1はm恥uの 翻 訳 の 調 整 (capdependent廿anslation) に 関 与 し て い る . こ れ ら は 機 能 的な面 から もMSA疾患感 受性候 補遺伝 子で あると 考えら れる.
【 結 論 】SLClA4, SQSTM1及 びEIF4EBPlの 遺 伝 子 多 型 はMSAと 有 意 な 相 関 を 示 し た . ―37−
これら 3 遺伝子がMSA の疾患感受性候補遺伝子であることが遺伝学的に示された.
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学位論文審査の要旨 主査 教 授 渡辺 雅彦 副査 教 授 畠山 鎮次 副査 教授 佐々木秀直
学位論文題名
Associations between Multiple System Atrophy and Polymorphisms of SLCIA4, SQSTM1 ,and EIF4EBPZGenes
( 多系統萎縮症とSLCIA4 ,soSTMl ,EIF4EBP1 遺伝子との相関)
多系統萎縮症(MSA) は成人発症の孤発性神経変性疾患である,その病因は不明であるが窒 化及び酸化ストレス反応に関与する遺伝子が影響を及ぼすことが推測される,本論文ではこ の 仮説に基 づき酸 化ストレスに関与すると推測される遺伝子の多型とMSA との関連解析を 行 っ た .対 象 患 者群は119 名, 性年齢調 整対照 群は123 名であ り,解析 遺伝子は CHOP , ATF3 , CEBPB , SQSTM1 , CARS , SLCIA4 , ATF4 , EIF4EBP1 の 8 遺 伝 子 を選 択 し た, 一 次 解 析 では 1 遺 伝子に っき3 〜7 箇所の一 塩基多 型(SNP) を 解析し ,有意な 相関又 はその 傾向を示した遺伝子について,二次解析として遺伝子全体を網羅する連鎖不平衡マッピン グに基づいたハプロタイプ相関解析を行った.一次解析では,SLCIA4 SNP+28833 (V398I , rs759458) に MSA との有意な相関を,SQSTMl SNP +890 (intronl ,rs502729) にその傾向を 認めた.ハプロタイプ解析ではEIF4EBP1 にて有意な相関を示す傾向にあった.二次解析で は SLCIA4 ,SQSTM1 , EIF4EBP1 の 3 遺 伝 子 を検 討した が,い ずれもハ プロタ イプ解析 に て 有 意 な相 関 を 認めた. 本論文 では,相 関解析 にて SLCIA4 , SQSTM1 及びEIF4EBP1 の 遺 伝子多型とMSA との有意な相関を認めたことを報告した,
副 査の畠山 鎮次教 授から,相関が認められた遺伝子のSNP はそのタンパクにおいてどの ような構造的及び機能的差異を生み出す事が予測されるのか,という点について質問があ っ た.申請 者は, 中性アミ ノ酸ト ランスポ ーターをコードする SLCIA4 ではアミノ酸置換 を 伴うSNP である ため,ト ランス ポーター の構造に 差異が生じる可能性があり,SNP の遺 伝子における位置からセリンに対する感受性に差異が生じる可能性が予測されることをス ラ イドや文 献を引 用し回答 した. また, SQSTM1 で は intron に位 置する SNP のために予測 が難しいことも回答した.また,副査の畠山教授から,SLCIA4 におけるセリンに対する感
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受性について,更には,どのような基礎的実験が疾患との関連性を証明でき得るのか,と いう質問があった.申請者は,前者についてはスライドや文献を引用し回答し,後者につ いては , SLCIA4 では発 現解析 による SNP 型で の機能の 差異を 検討する 実験が証明に繋が る可能性を回答した.副査の畠山教授から,今後の発展としての発現解析やタンパクの機 能解析についてアドバイスがあった.
次いで副査の佐々木秀直教授から,統計学的解析における偽陽性の可能性について,ま た,それを克服するための方策について質問があった.申請者は,偽陽性の確率を明らか にする指標は不明ではあるが,検出カにっいては 0.15 と低く,偽陽性・偽陰性の確率は低 くはないこと,また,これを克服するためには解析対人数を増やす必要があることをスラ イドや 文献を引 用し回答した,次いで,結果の信頼性を高めるためには,別個の MSA コホ ー卜による解析にて同様の結果が見出されることが重要であるとのアドバイスがあった.
最後に主査の渡辺雅彦教授から,対象人数をどの程度に増やした場合に偽陽性・偽陰性 の可能性を許容できるレベルにまで低くすることができ,信頼でき得るデータとなるのか,
という質問があった.申請者は,偽陰性の指標となる検出カについては,対象数が 1000 人 程度であれば充分許容でき得る程度にまで高めることができると予測されることを,文献 を引用し回答した.主査の渡辺教授から,セリンの中枢神経における重要性,神経変性疾 患との関連にっいてアドバイスがあった.
この論文は, MSA の原因解明の手がかりのーっとして高く評価され,今後の機能解析研究 による発展が期待される.
審査員一同は,これらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ 申 請 者が 博士(医 学)の学 位を受 けるのに 充分な 資格を有 するも のと判定 した.
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