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博士 (行 動科 学)小 島治幸

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Academic year: 2021

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博士 (行 動科 学)小 島治幸

     学 位 論 文 題 名

視 覚 の 時 間 的 反 応 特 性 と 時 空 間 的 処 理 機 構 に      関 す る 心 理 物 理 学 的 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要旨

  本論文は,視的持続と呼ばれる視覚現象を中心的な対象として,人間の視覚 系の時間的反応特性に関する一連の心理物理学的実験を遂行し,視覚系の時空 間的処理機構の実体を明らかにしようとしたものである。本論文は3部からな り,第I部では視覚の時空間特性に関する先行研究を概説し,第II部では本論文 の中心部として視覚の時間的反応特性に関する心理物理学的諸実験の成果を記 述 し , 第m部 で は 視 覚 系 の 時 空 間 的 処 理 機 構 に つ いて 考 察 し て い る 。   第I部「視覚の時空間的特性」では,視覚系の時空間処理に関してこれまで 明らかにされた心理物理学的知見や生理学的知見と,これまで提案された視覚 処理モデルなどを概説している。第1章では視覚反応と視覚情報の持続性に関 する研究について,第2章では視覚の時空間特性と時空間処理機構に関する心 理物理学的研究,ならびに視覚処理機構に関する生理学的研究について,第3 章では運動視の視覚処理機構に関する心理物理学的研究と生理学的研究につい て,第4章では視覚マスキング研究とその生理学的研究について,それぞれ先 行研究の内容を詳細に概説している。

  第II部「視覚の時間的反応特性に関する実験的研究」は,視的持続の時間や 視覚の時間解像度を測定した8つの心理物理学的実験の報告からなる。第5章 の実験Iから実験IVでは,時空間的に離散的に呈示される複数の刺激を用いて それらの視的持続を測定し,視的持続が刺激間の空間的距離と共に増加すると いう効果(空間的効果)を確認し,視覚の時間的処理特性と視覚情報の保持機 構について考察している。実験Iでは,異なる位置にある2光点刺激を同時に 反復呈示する方法でフリッカー閥を測定し,視的持続における空間的効果が同 時相では生じないこと,また,同時相では視的持続は刺激呈示時間の増加や背

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景輝の上昇と共に短くなることを明らかにしている。実験IIでは,視的持続の 空間的効果と運動知覚の関係に着目し,円周上に配置された複数光点を順次1 呈示 する時に生じる負の仮現運動を利用して視的持続を測定している。これ によ って視的持続の空間的効果の存在を確認し,また,視的持続が背景輝度 の増加と共に短くなることを明らかにしている。実験IIIでは,順呈示条件と ラン ダム呈示条 件において ,左右に分 割した円周 の一方に2光点, 他方に1 光点 を半円周内で同時に連続的に呈示し,左右のパタンが識別可能となる視 的持 続を測定している。そして,ランダム呈示条件における視的持続が順呈 示条 件の平均値に近く,またそれらの視的持続と背景輝度変数の関係が同じ であ ることから,視的持続の空間的効果は,運動と無関係,もしくは局所的 な運 動に基づくことを明らかにしている。実験IVでは,局所的運動の影響を 省いた視的持続の性質について検討しており,円周上に複数刺激をラ ンダム な順 に継時的に呈示し,バタンの知覚的統合時間を指標として視的持続を測 定し ている。それによって,視的持続の空間的効果は,運動知覚とは独立で あり ,網膜離心度に依存しない効果であることを確認している。以上の諸実 験結 果を考察した上で,視的持続の空間的効果は,隣接した刺激が継時的に 呈示 される場合に生じ,それは運動知覚やパタンの時間識別過程よりも低次 の水準で生じる,また,視的持続に及ぼす背景輝度や刺激呈示時間の効果は,

空 間 的 効 果 よ り も 低 次 の 水 準 で 生 じ る と い う 結 論 を 導 い て い る 。   第6章では ,時空間的 関係が変化 する複数の視覚刺激の時間的処理特性に つ い て検 討 して い る。 実 験Vで は,棒状刺 激を2つの異なる 位置に各2回,

合計4回連 続的に呈示 して,同位 置内の2回呈示の間 の時間を調 整すること によ ってフリッカー閾を測定している。閥値は,刺激間の空間的距離と共に 増 加 し, 空 間的 距 離が 約2 deg以上 で最大とな り,時間的 距離がOm秒か ら 100m秒まで増加すると徐々に低下するという結果であった。これらは,視覚 処理 における局所領域間の相互作用を反映していると考えられることから,

ある 程度の時間遅れをもって局所的ユニットに対して抑制的に作用する機構 が存在するという結論を導いている。

  第7章では ,視覚処理 モデュール 内での情報の符号化の過程と時間的特性 の関 係に焦点を あて,各モ デュールに関して時間的反応を調べた3つの実験 を報告している。実験VIでは,刺激の大きさを処理するモデュールに着目し,

マス キングパラ ダイムによ って.空間 内の2つの異なる 位置の一方 に2回呈     ‑2―

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示のテスト刺激,他方に1回呈示のマスク刺激をランダムな順で呈示し,テ スト刺激内でのISIを調整するという方法によってフリッカー閥を測定してい る。閾値は,刺激問距離に対して,刺激が大きい場合に単調増加関数,.刺激 が小さい場合にU字型関数を示すものであった。また,フリッカー閥と空間 周波数の関係については,低空間周波数よりも高空間周波数の刺激の方が抑 制効果が大きくなることを明らかにしている。実験vnでは,刺激間時間に着 目して実験VIと同様の実験を行ない,刺激間時間が長くなるにっれてフリッ カー閾が小さくなるという結果を得ており,局所刺激に対する時空間相互作 用が順向抑制型であることを明らかにしている。実験vniでは,明るさと色 を処理するモデュールに着目し,四角形の対角位置の頂点に2つのテスト光 を交互に同時呈示し,交代時間を調整する方法によって視的持続を測定して いる。これによって,視的持続はテスト光の輝度コントラスト及び色コント ラストの低下と共に増加することが確認され,視覚の時間的特性が,輝度ば かりではなく,色純度の関数としても変化することを明らかにしている。

  第m部「視覚の時空間的処理機構に関する考察」では,第I部の先行研究の 知見と第II部の実験結果に基づぃて,視覚の時空間的処理機構について考察 している。第8章では,線形システム理論による視覚の時空間処理モデル,

時空間フイ´レターモデル,時間的反応関数のモデル,運動知覚モデルを取り 上げ,その問題点を指摘している。ここで著者´は,視覚系は時空間的に離散 的かつ局所的に存在する刺激を独立に処理するのではなく,そこには反応特 性の異なる様々な処理ユニット間の相互作用が存在することを指摘してい る。また,線形システム理論に基づくモデルでは,視覚系を時間的ならびに 空間的に線形的な反応を行うフイルターとしてみなすが,第II部で示した実 験結果からみて,視覚系はこのようなフイルタリングに基づぃて反応してい ないと主張している。また,視覚システムにおける機能的な処理単位である,

モデュール内のユニットは,刺激属性の処理の他に,時空間的フイルターの 役割も果たしており,視覚システムは局所的な時空間フイルターの集合体で あるという見解を提示している。このような見解に基づぃて,第II部の諸実 験結果を統一的に説明するものとして,局所領域間の相互作用を組み込んだ 時空間処理機構のモデルを独自に提案している。これは,時空間的に局在す る 刺 激 に 対す る 局 所 ユ ニ ッ ト の 時 間 的反 応の 計算論 的モ デル であ る。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

阿部純一 三谷鉄夫 金子   勇 田山忠行

学 位 論 文 題 名

視覚の 時間的 反応特性 と時空間的処理機構に      関 する心 理物理学 的研究

  本 論 文 は , 視 的 持 続 と 呼 ば れ る 視 覚 現 象 を 中 心 的 な 対 象 と し て , 人 間 の 視 覚 系 の 時 間 的 反 応 特 性 に 関 す る 一 連 の 心 理 物 理 学 的 実 験 を 遂 行 す る こ と に よ っ て , 視 覚 系 の 局 所 的 な 時 空 間 的 処 理 機 構 の 実 体 を 明 ら か に し よ う と し た も の で あ る 。

  I部 で は , 視 覚 反 応 と 視 覚 情 報 の 持 続 性 に 関 す る 研 究 , 視 覚 の 時 空 間 特 性 と 時 空 間 処 理 機 構 に 関 す る 心 理 物 理 学 的 研 究 と 生 理 学 的 研 究 , 運 動 視 の 視 覚 処 理 機 構 に 関 す る 心 理 物 理 学 的 研 究 と 生 理 学 的 研 究 , 視 覚 マ ス キ ン グ 研 究 と そ の 生 理 学 的 研 究 な ど , 視 覚 系 の 時 空 間 処 理 に 関 し て こ れ ま で 明 ら か に さ れ て き た 心 理 物 理 学 的 知 見 や 生 理 学 的 知 見 , さ ら に は , こ れ ま で 提 案 さ れ て き た 各 種 の 視 覚 処 理 モ デ ル を 詳 細 に 概 説 し て い る 。 こ れ ら は ご く 最 近 の 研 究 ま で 含 め て か な り 徹 底 的 に 行 わ れ て お り , こ の 部 分 だ け で も 展 望 論 文 と し て 価 値 あ る も の と し て 評 価 で き る 。

  IIBは , 視 的 持 続 の 時 間 や 視 覚 の 時 間 解 像 度 を 測 定 し た8つ の 心 理 物 理 学 的 実 験 か ら 構 成 さ れ て い る 。 実 験Iか ら 実 験IVで は , 時 空 間 的 に 離 散 的 に 呈 示 さ れ る 刺 激 を 用 い て そ れ ら の 視 的 持 続 を 測 定 し , 視 覚 の 時 間 的 処 理 特 性 と 視 覚 情 報 の 保 持 機 構 に つ い て 考 察 し て い る 。 実 験Iで は , 視 的 持 続 に お け る 空 間 的 効 果 が 同 時 相 で は 生 じ な い こ と , ま た , 同 時 相 で は 視 的 持 続 が 刺 激 呈 示 時 間 の 増 加 や 背 景 輝 度 の 上 昇 と 共 に 短 く を る こ と を 明 ら か に し て い る 。 実 験IIで は , 負 の 仮 現 運 動 を 利 用 し て 視 的 持 続 の 空 間 的 効 果 の 存 在 を 確 認 し , 視 的 持 続 が 背 景 輝 度 の 増 加 と 共 に 短 く な る こ と を 明 ら か に し て い る 。 実 験mで は , 視 的 持 続

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の空間的効果が,運動とは無関係,もしくは局所的な運動に基づくことを明ら かにしている。実験IVでは,視的持続の空間的効果が網膜離心度に依存しない 効果であることを確認している。これらの結果から,視的持続の空間的効果は,

隣接した刺激が継時的に呈示される場合に生じ,運動知覚やパタンの時間識別 過程よりも低次の水準で生じる,また,視的持続の背景輝度や刺激呈示時間の 効果が空間的効果よりも低次の水準で生じるとぃう結論を導いている。実験V では,フリッカー閥の測定によって,視覚処理における局所領域間の相互作用 を確認し,視覚システムには,局所領域での刺激処理だけではをく,そこには ある程度の時間遅れをもって局所的ユニットに対して抑制的に作用する機構が 存在するという考察を導いている。実験VIから実験vniでは,視覚処理モデュ ール内での情報の符号化の過程と時間的特性の関係に焦点をあて,各モデュー ルの時間的反応を測定している。実験VIでは,刺激の大きさに着目し,フリッ カー閥は,刺激間距離に対して刺激が大きい場合には単調増加関数,刺激が小 さい場合にはU字型関数を示すとぃう結果を得ている。実験VIIでは,刺激間時 間に着目し,局所刺激に対する時空間相互作用が順向抑制型であることを明ら かにしている。実験VIIIでは,明るさと色に着目し,視覚の時間的特性が,輝 度ばかりではなく色純度の関数としても変化することを明らかにしている。以 上の実験の結果から,視的持続の空間的効果が生み出される処理の水準,視覚 処理における局所領域間で時間遅れをもった抑制的を相互作用の存在,様々な 刺激属性の処理と抑制作用との関係を明らかにしている。これらの知見は,高 度な技術的手法によって得られた反応データに基づくものであり,確かな知見 として評価できる。

  第III部では,第I部の先行研究の知見と第II部の諸実験結果に基づぃて,視覚 の時空間的処理機構について考察している。ここで著者は,線形システム理論 による視覚の時空間処理モデル,時空間フイルターモデル,時間的反応関数の モデル,′運動知覚モデルを取り上げ,視覚系は時空間的に離散的かつ局所的に 存在する刺激を独立に処理するのではなく,そこには反応特性の異なる様々な 処理ユニット間の相互作用が存在することを指摘している。また,視覚系は線 形システム理論によるフイルタリングに基づぃて反応していないと主張する。

また,視覚システムにおける機能的処理単位であるモデュール内の処理ユニツ トは,刺激属性の処理の他に,時空間的フイルターの役割も果たしており,視 覚システムは局所的な時空間フイルターの集合体であるという見解を提示して いる。さらに,局所領域間の相互作用を組み込んだ時空間処理機構の計算論的 モデルを独自に提案している。これらの考察は,高度な数学的表現と神経心理

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学的知見とをふんだんに取り入れた独創性の高いものとなっており,この方面 の 今 後 の 研 究 の 発 展 に 寄 与 す る も の と し て 評 価 で き る 。   以上により,審査委員会は,本論文の著者小島治幸氏に博士(行動科学)の 学位を授与することが妥当であるとの結論に達した。

参照

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