博 士 ( 医 学 ) 藤 本 勝 也
学 位 論 文 題 名
ヒト末梢血単球由来マクロファージおよび
樹状細胞におけるDOCK180 蛋白の発現と貪食能との関連 学位論文内容の要旨
血液細胞のーつである単球は骨髄造血幹細胞から分化増殖し,さらにサイトカインの刺激を受けてマクロ ファ ージや 樹状細 胞(denMdcceu, 以下DC) へと分 化する .マク ロファ ージは 生体に侵入した各種の病 原体を貪食し,また一方では死細胞やアポトーシス細胞を貪食することで生体の免疫防御機構およぴ恒常性 維持 に重要 な役割 を果た してい る.DCも様々な抗原を貪食して成熟DCへ分化し,抗原提示細胞として生 体の免役システムを稼働させるのに重要な役割を果たしている.このようにマク口ファージやDCによる貪 食作用は生体内で不可欠であるが,この貪食作用を行うために低分子量G夕ンパク質のーつRacが重要な役 割 を 果た すこと が知ら れてい る,CDMプ ァミリ ー分子 の一員で あるDOCK180はこのRacに対す る特異 的 gua血ne川1Cleoddeex:changefactor(GEF)のーつであり,ヒトの上皮系細胞株を用いた検討ではインテ グリ ンから の刺激 により ,このDOCK180によ るRacの活 性化を 介して アポト ーシス細胞の貪食や細胞遊 走が行われることが報告されている.一方,末梢血自血球ではDOCK180の発現カ鋸忍められず,相補的に相 同 体 の ーつ で あ るDOCK2を 発 現し て お り ,リ ン バ 球 にお いて はこのDOCK2によるRacの活性 化を介 し て細 胞遊走 を制御していることが報告されている,しかし,DOCK2のノックアウトマウスを用いた検討で は, リンパ 球の細胞遊走は抑制されたが,単球では抑制されなかったため,単球系細胞においてはDOCK2 以 外 の 分子 に よ るRac活 性 化 機 構の 関 与 が 推測 さ れ て いた. 最近, 未熟DCはDOCK2に加 えてDOCK180 を発 現して おり,マウスのDC細胞株を用いた検討において,DCの成熟に伴い貪食能が低下するとDOCK180 の発 現も相 関的に 低下す ること が報告 され,DOCK180がDCのRacを介し た貪食 作用に関与していること が示唆されたものの、貪食能を有していない単球や分化誘導されたマクロファージを含めて単球系細胞にお けるDOCK180の発現と貪食能獲得については殆ど解明されていない.
本 研究で は単球系 細胞に おけるDOCKファミリー蛋白の貪食能への関与を明らかにするために,ヒト検 体 か ら 分離 さ れ た 正常 単 球 を 用いて マク口フ ァージ およびDCへ分化 誘導を 行い,DOCK180とDOCK2の 発現の変化と貪食能との関連について検討を行った,
1.マクロファージおよびDCにおけるDOCK180の経時的な発現増強
ヒ ト末梢 血から分 離した 単球をM―CSFを 用いてマ クロフ ァージに,GMてSFとIL・4,n冊.aを用いて DCに 誘導し た.フロ ーサイ トメト リーによる表面抗原解析ではマク口ファージではCD14の発現を維持し て お り ,一 方 ,DCで は 分 化 に伴 いCD14の 発 現が 低 下 し ,CDla,CD40,CD80,CD83の発現 増強が 認 められ,形態的所見とも合わせて,この系でマクロファージおよびDCへの正常な分化誘導が行われたと考 えられた.
次 に 定 量RトPCRに よ ル マ ク ロ フ ァ ー ジ お よ びDCに お け るDOCK180とDOCK2mRNAの 発 現 量 を 経 時 的に 解析し た,純 化した 単球にお いてはDOCK180mRNAの 発現は殆 ど認め られな かった が,マ クロ フ ァ ー ジま た はDCへ の 誘 導 によ り , 誘 導開 始2日 後 か ら, 単 球 に 比較 し てDOCK180mRNAの 発現は有 一356―
意 に増 加し た .誘 導さ れた マク ロ ファ ージ にお いてDOCK180 mRNAの発現は 経時的に増加し,誘導7日 目 に 最 大 量 に 達し た. 一方 、DCで は誘 導4日目 にDOCK180 mRNAの発 現は 最 大量 に達 した .同 時 に測 定 したDOCK2 mRNAの発 現量 は, 純 化単球におい て既に高いレベルの発現が認 められ,マクロファージ およびDCへ の誘導後もその発現量に有 意な変化は認められなかった .
さ ら にImmunoblotに よル マ ク口 ファ ージ お よびDCに おけ るDOCK180蛋 白 の発 現を 経時 的に 解 析し た とこ ろ, マ クロ ファ ージ およ びDCいずれの誘 導においても培養2日目からDOCK180蛋白の発現が認め られその発 現は経時的に増加した.
2.マクロ ファージおよびDCにおける貪 食能の経時的な増加
ZymosanAparticleを 用い てマ ク ロファージお よびDCのphagocytosis assayを経時的に行った.マク ロファージ およびDCいずれの誘導下に おいても,細胞の貪食能は経時的に増加した.マク口ファージにお いては誘導 開始2日後から単球と比較し て貪食能の有意な上昇が認 められた.ー方,DCでは誘導開始1日 後から単球 と比較して貪食能の有意な 上昇が認められた,
3. DOCK180mRNAのRNA interferenceに よるDCの貪食能低下
マク ロフ ァージお よびDCへの分化誘導にて同時 に誘導されたDOCK180が、獲 得された貪食能に関与し て い る こ と を 証 明 す る た め に 、D○CK180 mRNAに 対 す るsiRNAを 導 入 し てDOCK180 gene knock― dawn assayを 行 っ た .siRNA導 入48時 間 後 にDOCK180蛋 白 の 発 現 をImmunob】otに より 確認 し たと こ ろ, エレ クトロポ レーシ,ヨンのみ施行したDCおよびrandomol追oを導入し たDCの二種類のコント口 ー ル 細 胞 と 比 較 し て 、DOCK180に 対 す るsiRNAを 導 入 し たDCで は 明ら かなDOCK180蛋白 の発 現 低下 が認められ た.さらにこの条件下にお いてびmC6anApamcleを用いてphag匸)cytoSiSaSSayを行ったとこ ろ ,DOCK180に 対 す るsiRNAを 導 入 し たDCでは ,コ ント ロ ール のDCと比 較 して 有意 に貪 食能 が 低下 した,
以上のよ うに,本研究において私は ,末梢血から単離されたヒト単球では,マク口ファージおよびDCへ の分化に伴 い,それまで発現が認めら れなかったDOCK180が誘導さ れ,相関的に貪食能が亢進することを 明 らか とし , さら にsiRNAを用 いた 解析 に より ,DOCK180が ヒト のDCの 貪食 作用 に重 要な役割を果た しているこ とを示し,ヒトにおけるDOCKフんミリー蛋白の生理的機 能を初めて明らかとした.これらの 知見により ,HW感染による単球系細胞 の貪食能低下機構や難治性の自己免疫疾患である全身性エルテマ卜 ー デ ス の 病 態 解 明 が 成 さ れ こ れ ら の 難 治 性 疾 患 の 新 規 治 療 へ と 結 び っ く こ と が 期 待 さ れ る .
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ヒト末梢血単球由来マクロファージおよび
樹状細胞におけるDOCK180 蛋白の発現と貪食能との関連
マクロファージや樹状細胞(dendritic cell,以下DC)は高い貪食能を有し、生体の免疫防御機構および 恒 常性維持に貢献しているが 、この貪食作用を行うために低分子量G夕ンパク質のーつRacが重要な役割を 果 た す こ と が 知 ら れ て い る 。CDMフ ァ ミ リ ー 分 子 の 一 員 で あるDOCK180はこ のRacに 対す る 特異 的 guanine nucleotideeXchangefactor(GEF)のーつであり 、ヒトの上皮系細胞株を用いた検討では、この DOCK180によるRacの活J陸化を 介してアポトーシス細胞の 貪食や細胞遊走が行われることが報告されてい る 。 一方 ,リ ンバ 球 にお いて はDOCK180の 発現 が 認め られ ず、 相補 的 に相 同体 のーつ であるDOCK2を 発 現しており、このDOCK2によ るRacの活性化を介して細胞 遊走を制御していることが 報告されている。
し か し、DOCK2の ノッ クア ウ卜 マ ウスを用いた検討から単球 系細胞においてはDOCK2以外 の分子による Rac活J陸 化機 構の 関 与が 推測 され てお り 、ま たマ ウス のDC細胞株を用いた検討におい てDOCK180がDC のRacを介した貪食作用に関与していることが示唆されたものの、単球や分化誘導されたマクロファージを 含 めて単球系細胞におけるDOCK180の発現と貪食能獲得に ついては殆ど解明されていない。本研究では単 球 系細胞におけるDOCKファミ リー蛋白の貪食能への関与を 明らかにするために、ヒト 検体から分離され た 正 常単 球を 用い て マク ロフ ァー ジお よ びDCへ分 化誘 導を 行 い、DOCK180とDOCK2の発 現の変化と貪 食 能との関連について検討を 行った。はじめにヒト末梢血 から分離した単球をM℃SFを用いてマクロファ ー ジ に、GM―CSFとI卜4、n冊aを 用しゝてDCに誘導した。フ ローサイ卜メトリーによる表 面抗原解析の 結 果から、この系でマク口フ ァージおよびDCへの正常な分化誘導が行われたことを確認した。定量RrIPCR に よ るDOCK180とDOCK2rnRNAの 発 現 量 の 経 時 的 解 析 で は 、 純 化 し た 単 球 に お い て はDOCK180 mRNAの発 現は 殆ど 認 めら れな かっ たが 、 マク ロフ ァー ジま たはDCへの誘導により、誘 導開始2日後か ら 、 単 球 に 比 較 し てDOCK180mRNAの 発 現 は 有 意 に 増 加 し た 。DOCK180m耐乢 への 発現 は経 時 的に 増 加 し、マクロファージにおい て誘導7日目に、DCでは誘導4日目に最大量に達した。同時に測定したDOCK2 111RNAの発現量は、純化単球 において既に高いレベルの発現が認められ、マクロファージおよびDCへの誘 導 後 もそ の発 現量 に 有意 な変 化は 認め ら れな かっ た。 さら にImmunoblo仕ingによりDOCK180蛋白の発 現 を経時的に解析したところ 、マク口ファージおよびDCい ずれの誘導においても培養2日目からDOCK180 蛋 白 の発 現が 認め ら れ、 その 発現 は経 時 的に 増加 した 。次 にZym僞anApamcleを用いたphagocytc8is aSSayを経時的に行ったところ 、マクロファージおよびDCいずれの誘導下においても、細胞の貪食能は経 ―358―
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時的に 増加し た。マ ク口フ ァージ においては誘導開始2日後から、DCでは誘導開始1日後から単球と比較 して貪 食能の 有意な 上昇が 認めら れた。 さらにマ クロフ ァージおよびDCのDOCK180が、獲得された貪食 能 に 関 与し て い る こと を 証 明 する た め に 、DOCK180 mRNAに 対す るsiRNAを 導 入 し てDOCK180 gene knock―down assayを 行 っ た。siRNA導入48時 間後 にDOCK180蛋 白 の発 現 をImmunoblottingによ り 確 認し たとこ ろ、エ レクト 口ポレ ーション のみ施 行したDCおよびrandom01追oを 導入し たDCの二 種類 の コ ン トロ ー ル 細 胞と 比 較 し て、DOCK180に 対 す るsiRNAを 導入 し たDCで は 明 ら かなDOCK180蛋 白 の 発現 低下が 認めら れた。 さらに この条件 下にお いてphagC叫osisasSayを 行った ところ 、DOCK180に 対 するsiRNAを導 入したDCでは, コントロ ールのDCと比較 して有 意に貪 食能が 低下し た。以 上のよ う に,本研究では、末梢血から単離されたヒト単球では,マク口ファージおよびDCへの分化に伴い,それま で発現 が認め られな かったDOCK180が誘 導され, 相関的 に貪食能が亢進することを明らかとし,さらに siRNAを用 いた解 析によ り,DOCK180がヒトのDCの貪食作用に重要な役割を果たしていることを示した。
質 疑応 答 で は 、副 査 笠 原 教授 か ら 、DOCK180のknod【outマ ウスに ついて 、conmtiondb10ckoutマウ スにつ いて、DOCK180過剰 発現系 につい て、DOCK180の 分子複 合体の 挙動に ついての質問があった。次 いで副 査今村 教授か ら、DOCK180rnRNAの発現 量と貪 食能と の解離 につい て、RNAiで貪食能の低下が不 十分な 理由に ついて 、DOCK180の 発現調 節機構に ついて の質問があった。次いで副査田中助教授から、
DOCK180のプ ロモー ター解 析につ いて、DOCK180を誘導 する転 写因子 につい ての質問があった。次いで 主査小 池教授 から、SLEの病態 にDOCK180が どの様 に関連 するの かを検討 する方 法について、同じ貪食 能を有しながら異なるGEFを利用する生物学的な理由についての質問があった。いずれの質問に対しても、
申 請 者 は こ れ ま で の 文 献 的 報 告 お よ び 実 験 結 果 を 引 用 し 、 概 ね 適 切 に 回 答 し た 。 本論文 は、ヒ ト正常 単球系 細胞におけるDOC180蛋白と貪食能の関連を明らかにし、ヒトにおけるDOCK ファミリー蛋白の生理的機能を初めて明らかとした点で高く評価され、今後、難治性自己免疫疾患や免疫不 全症の病態解明、新規治療の開発に繋がることが期待される。
審査委員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ申請者が博 士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。
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