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ガソリンエンジン燃焼におけるPM の?成量および?

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(1)

ガソリンエンジン燃焼におけるPM の?成量および?

成挙動の計測?法に関する研究

著者 中島 樹志

著者別表示 NAKASHIMA Tatsushi

雑誌名 博士論文本文Full

学位授与番号 13301甲第5315号

学位名 博士(工学)

学位授与年月日 2021‑03‑22

URL http://hdl.handle.net/2297/00062848

(2)

博⼠論⽂

ガソリンエンジン燃焼における

PM の⽣成量および⽣成挙動の計測⼿法 に関する研究

A Study on Measurement Method of the Amount and Behavior of Particulate Matter

Generated in Gasoline Engine Combustion

⾦沢⼤学⼤学院 ⾃然科学研究科 機械科学専攻

学籍番号 ︓1524032009

⽒ 名 ︓中島 樹志

主任指導教員 ︓⻄島 義明

提 出 ︓2021 年 3 ⽉

(3)
(4)

⽬ 次

第1章 序論 5

1.1 研究の背景 5

1.2 本研究の位置づけと⽬的 11

1.3 本論⽂の構成 12

図表 14

参考⽂献 22

第2章 PM⽣成・排出特性に関する従来の研究 25

2.1 粒⼦状物質(PM)の⽣成に関する基礎研究 25

2.2 PM の計測⼿法 28

2.3 ガソリンエンジンにおける PM 解析に関する従来研究 31

2.4 本研究の意義 34

図表 36

参考⽂献 50

第3章 ガソリンエンジン燃焼における Soot 重量計測⼿法の提案 53

3.1 計測⼿法としての透過光減衰法選定の背景 53

3.2 ガソリンエンジン燃焼への透過法減衰法の適⽤性検討 56

3.3 実験装置と計測⽅法 66

3.4 透過光減衰法による燃焼終了後の Soot 重量の計測精度 71

3.5 透過光減衰法の計測能⼒まとめ 72

図表 74

参考⽂献 95

第 4 章 燃焼中および実エンジンへの透過光減衰法の適⽤ 98

4.1 燃焼中への適⽤検討 98

4.2 実エンジンへの適⽤検討 104

4.3 実エンジン燃焼場を想定した予混合気場および壁⾯付着燃料のある 105

混合気場への透過光減衰法の試⾏ 4.4 燃焼中および実エンジンへの適⽤時の課題と対応まとめ 112

(5)

図表 114

参考⽂献 135

第 5 章 結論 137

5.1 開発した透過光減衰法の Soot 重量の計測能⼒ 137 5.2 燃焼場への透過光減衰法の試⾏より得られた知⾒ 139

5.3 今後の展望 140

主な使⽤記号 142

研究業績 146

謝辞 148

(6)

第1章 序論

1.1 研究の背景

今⽇,⾃動⾞は移動と輸送の主要⼿段として,我々の⽣活において最も⾝近で不可

⽋なものとなっている.⼀⽅,⾃動⾞からの排出ガスは都市における⼤気汚染の主要因 であるとともに,地球温室効果ガスである⼆酸化炭素(Carbon Dioxide,以下CO2) においても無視できない排出源となっている.⽇本においてはCO2排出量の約20%を⾃動

⾞からの排出ガスが占めており,さらなる排出ガスの浄化と燃費の改善が求められている.

このような背景から,⽇⽶欧では2025年前後までの排出ガスと燃費の規制強化が予定さ れている.⾃動⾞業界に携わるメーカは,国際市場での⽣き残りをかけた技術競争に取り 組んでいる(1.1)

現在,および今後の⾃動⾞に⽤いられる動⼒源の推移について,国際エネルギー機関

(International Energy Agency,以下IEA)が,地球環境の改善シナリオに基づき予 測している.図1-1にIEAによる2050年までの乗⽤⾞および軽量トラック(Passenger / Light Duty Vehicle,以下PLDV)の年次販売台数予測を⽰す.IEAのEnergy Technology Perspectives 2015(1.2)では,⻑期的な温室効果ガス排出削減に向けて,

産業⾰命以前からの世界平均気温の上昇を2050年に2℃以内に抑制するシナリオ

(2Degree celsius Scenario,以下2DS),および6℃以内に抑制するシナリオ

(6Degree celsius Scenario,以下6DS)が提⽰され,分析されている.これらのシナ リオを実現するためのIEA mobility modelを⽤いた検討において,2050年時点での PLDV販売台数は,2016年の約2倍となる年間に約1億6千万台の販売台数が予想され ている.気候変動を回避するためにCO2排出量を2000年レベルに抑制する2DSに向けては,

電気⾃動⾞と燃料電池⾞の販売台数を著しく増加させる必要がある.

このような中で,CO2排出を抑えた⾃動⾞の普及は,とりわけ重要な施策の⼀つとなっ ている.⽇本政府は,「低炭素社会づくり⾏動計画(平成20年7⽉閣議決定)」,「エ ネルギー基本計画(平成26年4⽉閣議決定)」,「⽇本再興戦略2016(平成28年 6⽉閣議決定)」等の⽂書において,環境性能に優れた⾃動⾞の普及⽬標を掲げている

(1.3).環境性能に優れた⾃動⾞は,従来の内燃機関と電気モータを組み合わせたハイブ

リッド⾃動⾞(Hybrid Electric Vehicle,以下HEV)やプラグインハイブリッド⾃動⾞

(Plug-in Hybrid Electric Vehicle,以下PHEV),そして電気モータのみで駆動⼒

(7)

を得る電気⾃動⾞(Electric Vehicle,以下EV),⽔素をエネルギー源とした燃料電池

⾃動⾞(Fuel Cell Electric Vehicle,以下FCEV)をはじめとした低燃費かつ低排出 ガスとなる⾃動⾞が次世代⾃動⾞と定義づけられている.⽇本政府の次世代⾃動⾞の 普及⽬標は,2030年までに新⾞販売の5割から7割を⽬指すことが明記されている.

⼀⽅,図1-1に⽰されたIEAによる2050年までのPLDVの年次販売台数予測における PHEV gasoline,PHEV diesel,HEV gasoline,HEV diesel,CNG/LPG,Diesel,

Gasoline等のカテゴリに相当するエンジン搭載⾞は,2050年においても依然として約60%

を占める.このことはエンジンのもつ地球環境への影響の⼤きさとともに,エンジンの⾼効率化 への取り組みが引き続き重要であることを⽰している.

エンジンが量産化されてから100年以上が経過し,エンジンは⼈類の⽣活を豊かにする⼿

段として,無くてはならない⼯業製品となっている.エンジンは,世界各国固有のエネルギソ ース(例えばガソリン,軽油,アルコール,天然ガス等)に対応しつつ普及および発展し続 けており,⾼いロバスト性を有する動⼒源であると⾔える.この⾼いロバスト性を有するエンジ ンは,世界の年間新⾞販売台数1億台の⾃動⾞産業の有⼒な動⼒源である(1.4)

燃料と空気を⽤いるエンジンは,動⼒を取り出す際に混合気を燃焼させるため,動⼒と 同時に環境,および⼈体に悪影響を及ぼす排出ガス物質として,未燃焼炭化⽔素

(Unburned Hydro Carbon,以下HC),窒素酸化物(Nitrogen Oxides,以 下 NOx) , ⼀ 酸 化 炭 素 ( Carbon Monoxide , 以 下 CO ) , 粒 ⼦ 状 物 質

(Particulate Matter,以下PM)と温室効果ガスであるCO2,メタン(Methane,

以下CH4),亜酸化窒素(Nitrous oxide,以下N2O)等を排出する(1.5).これらの 排出ガス物質は環境汚染源となる(1.6)(1.7)(1.8)ことから,世界各国で排出規制が施⾏さ れており,エンジンの排出ガスの浄化が進められてきた.また,温室効果ガスは地球環境 変化に影響すると解釈されており(1.9),CO2規制として⾃動⾞からの排出ガス規制が施⾏

されている(1.10).さらには燃料となる化⽯燃料は有限であることを勘案し,エンジンの⾼効 率化も望まれている(1.11)

以上の⾃動⾞⽤エンジンを取り巻く環境において,温室効果ガスを含めた排出ガスの⾼

浄化と排出量の低減,⾼効率化が必達の性能である.今後も継続して強化が進む規制 に対応するために,エンジンの継続した技術開発が必要である.

⾃動⾞の規制,特に排出ガス規制の歴史は古く,⽶国における1943年カリフォルニア州 ロサンゼルスにおけるスモッグの発⽣に対応し,1962年制定されたクランクケース・エミッション 規制が始まりである(1.12).全⽶では1963年に⼤気浄化法が制定され,その後1970年に

(8)

はマスキー法が制定された.マスキー法は1975年型⾞からHC,COを1970年規制の10分 の1以下とし,かつ1976年型⾞からNOxを1971年型⾞平均排出量の10分の1以下にする ものであった(1.13).欧州では,1970年に排出ガス規制が開始され,現在の欧州委員会

(European Commission,以下EC)が施⾏するEuro規制に発展してきた(1.14).⽇

本では1967年に公害対策基本法,1968年に⼤気汚染防⽌法が施⾏され,⾃動⾞の排 出ガス中のCOを3%以下とすることが義務づけられた.その後,1972年に昭和48年度排 出ガス規制基準,1973年に昭和48年度使⽤過程⾞に対する排出ガス規制が施⾏されて

いる(1.15).⽇⽶欧では上記規制を⽪切りに,規制物質の拡⼤,および規制値を厳格化す

ることで現在に⾄っている.

表1-1に欧州,北⽶カリフォルニア州,⽇本における最新の排出ガス規制(1.16)(1.17)

⽰す.これまでのCO,HC,NOxの規制値強化に加え,粒⼦状物質(Particulate Matter,以下PM)の重量(以下PM重量)および粒⼦数(以下PM粒⼦数)の規制 導⼊が世界的に展開されている.

PM重量およびPM粒⼦数の規制導⼊が進む理由は,各国が制定した粒⼦径2.5μm 以下を対象とする粒⼦状物質濃度(以下PM2.5濃度)の環境基準に準じている(1.18). 粒⼦状物質の健康影響は、個⼈の健康への作⽤として⽇常的に臨床の場で観察される ものではなく、⽐較的⼩さな相対リスクが幅広い地域において疫学的に観察されるものとさ れている.すなわち、⼈体への健康影響を評価するには疫学的研究が⾏われてきた.最 も有名かつ重要な疫学研究は、⽶国のハーバード6都市研究と呼ばれている(1.19). PM2.5濃度が⻑期にわたり相対的に⾼い都市では、呼吸器や循環器が原因の死亡が増 加することを明らかにした.⽶国では、これらの研究を基に、1997年に環境基準を設定し ている.更に,より粒径が⼩さい粒⼦ほど肺の奥深くに⼊り込むため、より健康影響が懸念 されることがわかってきた.本結果を受け,⾃動⾞の排出ガス規制においても,排出ガス 中のPM重量およびPM粒⼦数の規制導⼊がディーゼルエンジン,そしてガソリンエンジン搭 載⾞両へと導⼊されてきている.

上記のCO,HC,NOx等の排出ガス規制に加え,燃費規制への対応に向けて,ガソリ ンエンジン技術は常に発展してきた.図1-2にガソリンエンジン技術の発展の中での改善⽬

的と改善アイテムを⽰す.ガソリンエンジンが発明されてから,燃費,排出ガス,動⼒性 能の向上を⽬的として,燃料供給⽅式がキャブレタから現在のマルチポイント吸気マニフォ ールド噴射⽅式(Multi-point intake-Port Fuel Injection,以下MPFI)や燃焼室 内直接噴射⽅式(Gasoline in-cylinder Direct Injection,以下GDI)に⾄る⻑い 発展過程を経てきた.ガソリンエンジンの発展は精密にエンジンの運転をコントロールするこ

(9)

とであり,以下の三つの⼿法が実践されてきた.

・ 燃料噴射制御の精密化

・ エンジン運転状態の最適化

・ 燃焼状態の最適化

第⼀の⼿法である燃料噴射制御の精密化においては,エンジンの運転状態に対して⼀

サイクル毎に燃焼室内へ供給する噴射量および噴射時期をコントロールすることにより,エ ンジンの性能を向上させることができる.この観点から,機械式キャブレタの後,電⼦式キ ャブレタ,シングルポイント吸気マニフォールド噴射⽅式(Single-point intake-Port Fuel Injection,以下SPFI),現在広く使⽤されているMPFI,そしてGDI へと発展し てきた.MPFI はキャブレタとSPFI などと⽐較して精密に⼀サイクル毎に各シリンダへの噴 射量をコントロールすることができる.結果として、エンジン運転状態が変化する過渡モード を含めたエンジン全運転領域において,適切な理論空燃⽐制御が可能となり,排出ガス の浄化を⾶躍的に改善させている.

第⼆の⼿法であるエンジン運転状態の最適化では,可変制御デバイスによりエンジンの 運転条件に応じて各種パラメーターを制御し,エンジンの燃焼サイクル状態を最適化させる ことができる.例えば,吸気弁および排気弁の開閉弁タイミング、開弁リフトを可変制御す るための可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing,以下VVT)と可変バル ブリフト機構(Variable Valve Actuation,以下VVA)等を使い,実際の運転状態 に対する最適な吸気量,内部EGR量を制御すると共に,吸気⾏程期間および排気⾏

程期間の最適化によりサイクル効率を改善する.

第三の⼿法である燃焼状態の最適化では,GDIを基礎とした新たな燃焼システムを実 現させることができる.図1-3(1.20)に典型的なGDIエンジンのレイアウトを⽰す.MPFIエン ジンと⽐較して,GDIエンジンは燃焼室内の混合気形成⽅法が異なる.さらに,エンジン の燃焼システム,コントロールシステム,構成の複雑さ,後処理システムなどの⾯から考え ると,GDIエンジンは,MPFIエンジンに⽐べて⾮常に複雑なものとなる.図1-4はMPFIエ ンジンおよびGDIエンジンの混合気形成の模式図(1.21)である.⼀般的に⽤いられている MPFIエンジンでは,吸気弁の閉弁時または開弁時にガソリンを吸気ポートに噴射し,吸 気⾏程で予混合気を⽣成し,燃焼室内に混合気が導⼊される.その際,絞り弁で混合 気量をコントロールすることにより負荷を調整する.このような負荷のコントロール⽅法は,

燃焼室内の充填効率を低下させポンプ損失を⼤きくする.⼀⽅,GDIエンジンでは,⾼

圧噴射弁を使いガソリンを直接エンジンの燃焼室内に噴射し,混合気の形成過程を完全

(10)

に燃焼室内で⾏う.また,燃焼室内に燃料供給する噴射量および噴射時期をコントロー ルすることにより,負荷調整に加え燃焼室内の混合気濃度分布が制御可能となり,希薄 燃焼が実⾏できる.すなわちGDIエンジンはMPFIエンジンに対して,燃焼室内の充填効 率向上,希薄燃焼によるポンプ損失減少等により,動⼒性能および燃費を改善するポテ ンシャルを持つ.さらに,燃焼室内に直接供給する燃料の蒸発過程で,燃焼室内の混 合気を冷却する作⽤も期待できるため,GDIエンジンの圧縮⽐はMPFIエンジンに⽐べて

⾼くできる利点がある.図1-5(1.22)にGDIエンジンとMPFIエンジンの動⼒性能の⽐較を⽰

す.GDIエンジンはポンプ損失の減少と圧縮⽐の向上により動⼒性能を向上でき,燃費 においてもMPFIエンジンより2〜5%以上向上できる.

混合気形成の⾯から考えると,GDIエンジンはMPFIエンジンより利点がある.MPFIエ ンジンの場合,負荷が急に増加した時と始動時には,吸気弁付近に液膜が形成される.

図1-6(1.23)に吸気ポートへの燃料液膜の付着の様⼦を⽰す.緑で⽰された領域は,燃

料中に含有された蛍光剤からの発光であり,燃料液膜の形成部位を⽰している.この液 膜の揮発には数サイクルを要するため,各サイクルの燃料噴射量を厳密にコントロールする ことができない.その結果,理論空燃⽐からのズレが⽣じて不安定な燃焼となり,有害ガ スの排出量が増加する.

⼀⽅,GDIエンジンでは燃焼室内へ燃料を直接噴射することにより,吸気ポートに液膜 を形成することなく精密に噴射量をコントロールすることができる.したがって,GDIエンジン では過渡時の混合気濃度の制御性を向上でき,燃費,動⼒性能と排出ガス特性を最 適化することに対し有⽤である.

⼀⽅,GDIエンジンでは,MPFIエンジンでは注⽬されてこなかったPM重量およびPM粒

⼦数が問題視されている.燃焼室内へ燃料を噴射することにより吸気ポートには液膜が形 成されない代わりに,ピストン頂⾯等の燃焼室壁⾯に燃料液膜が形成されやすい.結果,

主燃焼中に燃料液膜が不完全燃焼する為である.乗⽤⾞に対する欧州の排ガス規制を 事例に上げれば,表1-1に⽰す通り,GDIエンジン搭載⾞両に対して,Euro5からPM 重量が規制化され,Euro6cからPM粒⼦数が規制化され始めている.

⼀⽅,⾃動⾞の排出ガス規制は世界的に年々強化されているにもかかわらず,実路

⾛⾏時の排出ガス量は必ずしも規制の強化に応じて低減されているわけではないことが報 告されている(1.24).図1-7に排出ガス規制と市販⾞両の排出ガス計測結果を⽰す.これ は,近年の排出ガス低減技術により認証時の排出ガスが⼤幅に低減されている⼀⽅で,

システム等が複雑化し,環境変化や⾛⾏条件変化の影響を受けやすくなったためと推測さ

(11)

れている.このため,実路⾛⾏時の排出ガス低減が重要であり,欧⽶においては実路⾛

⾏時の排出ガス(Real Driving Emissions,以下RDE)規制の導⼊を前提とした実 証試験が始まっている.

とりわけ欧州では,2015年に発⽣したデフィートデバイスによるNOx排出量の実使⽤環境 化での増加問題が発⽣し,RDE規制の適⽤が前倒しされることとなった.RDE規制は実使

⽤環境を想定し,従来のシャシダイナモメータ(Chassis Dynamo-Meter,以下CDM)

が整備された環境下での室内試験ではなく,気温,気圧,湿度,⾼度,⾞速,使⽤燃 料,⾛⾏路のカーブ,および勾配についても含めた⾛⾏試験である.その詳細内容について は未決定な点はあるが,⼀定の係数(Conformity Factor︓以下CF)を⽤い,同年度 排出ガス規制Euro 6cの規制値にCFを乗じた値を規制値としてRDEに適⽤する.2017年 Euro 6d-TEMPではCFNOx=2.1,2020年Euro 6dではCFNOx=1.5として実使⽤環 境下での性能を満⾜する必要がある.なお,CFの対象となる排出ガス成分としては,

2016年現在ではNOxのみが決定されている.しかしながら,対象成分はHC,CO,CO2, PM重量およびPM粒⼦数,CH4などへと今後拡⼤するものと考えられる.とりわけ⼈体への 健康影響を鑑み,PM重量およびPM粒⼦数を対象とした規制強化の動きがある.

⾃動⾞の排出ガス規制が年々強化されるにもかかわらず,実路⾛⾏時の排出ガス量は 必ずしも規制の強化に応じて低減されていない実状を鑑み,実路⾛⾏時の排出ガス低減 が重要視されている.欧⽶においては,RDE規制の導⼊を前提とした実証試験が始まっ ている.⽇本においても,「排出ガス不正事案を受けたディーゼル乗⽤⾞等検査⽅法⾒

直し検討会」の中間とりまとめ(1.25)が⾏われた.図1-8に⾞両搭載型排出ガス分析計

(Portable Emission Measurement System,以下PEMS)(1.26)を⽰す.中間ま とめでは,PEMSを⽤いた路上⾛⾏検査を導⼊することが必要であると述べられている.今 後,乗⽤⾞等へのRDE規制の導⼊が進んでいくものと考えられている.近年の技術進化 により排出ガス分析計の⼩型化と精度向上が進み,PEMSを⽤いた計測⾃体は概ね可 能となっている.しかし,得られる結果は道路状況,ドライバの運転特性,ルート設定,

気象条件などの様々な因⼦の影響を受けるため,試験毎に条件が異なり試験結果の評 価が難しいと⾔う課題がある.

特にガソリンエンジンにおいて,今後,低減ニーズの⾼まるPM重量およびPM粒⼦数に関 しては,温度,湿度等の気象条件影響を⾼く受けることが判っている.図1-9に欧州にお ける法規認証テストサイクル(New European Driving Cycle,以下NEDCモード)⾛

⾏における外気温変更時のPM重量およびPM粒⼦数排出への影響(1.27)を⽰す.図1-9

(12)

の上図は,NEDCモードにおける市街地⾛⾏サイクル(Urban Driving Cycle,以下 UDC),郊外⾛⾏サイクル(Extra Urban Driving Cycle,以下EUDC),図1-9 の下図は,各サイクルのPM重量およびPM粒⼦数の排出量を,外気温25℃をベースとし て外気温変化させた際と相対⽐較して⽰している.PM重量およびPM粒⼦数共に外気温 の低下に伴い増加する傾向を⽰すと共に,ドライビングサイクルの違いによっても影響感度 が⼤きく変わることが判る.以上のように,外気温等の気象条件に加え,⾛⾏パターンに 代表されるドライバの運転特性によって,PM重量およびPM粒⼦数の排出特性は⼤きく影 響を受ける.

とりわけ,RDE 規制の導⼊をいち早く進めているのは欧州である.Euro6c より実⾛⾏で の排気を規制する RDE 規制の導⼊が検討されている(1.28)(1.29)(1.30).RDE 規制では,テ スト時,実⾛⾏時を問わず,あらゆる⾛⾏環境下で基準値をクリアすることが求められている.

現在検討が進む RDE 規制は,公道⾛⾏テストを前提に,PEMS を⽤い,市街地,郊外,

⾼速道路を所定距離⾛⾏した排出量を累積して計測することを義務付けたテスト法である.

現時点で RDE 規制にて義務化されていることは,以下 4 点である.

・ 市街地(時速 60km 以下),郊外(60〜90km),⾼速道路(時速 90〜

145km)を各 16km 以上⾛⾏すること

・ ⾛⾏時間(90〜120 分)における市街地⾛⾏時間の 6〜30%は停⽌時間 であること

・ 路上⾛⾏を通じた累積標⾼(上り)が,100km移動あたり1200m以内であ ること,⾼度は1300m以下

・ 気温は-7〜35℃

今後の地球環境の維持のためには、規定された法規認証サイクルは勿論のこと,実路⾛

⾏においても確実に排出ガスの低減を進めるべきであることは⾔うまでもない.

1.2 本研究の位置づけと⽬的

⾃動⾞が,移動と輸送の主要⼿段として,⼈類の⽣活を豊かにする⼿段として,我々 の⽣活において最も⾝近で不可⽋なものであることは変わらない.その中でガソリンエンジン は、それがもつ経済性より,今後も⻑く活⽤が⾒込まれる動⼒源である.その魅⼒を継続し つつ,地球環境負荷の低減のためにも,更なる熱効率の向上と排出ガスの⼀層の低減が望

(13)

まれる.その中でもGDIエンジンから排出されるPMの低減は,重要課題である.

GDIエンジンから排出されるPMを低減しうる技術開発を進めるにあたり,前提になるのは PMの主成分である煤(以下Soot)が⽣成する燃焼室内における実現象の解明である.

GDIエンジンの燃焼室内現象は,燃焼室内への燃料噴射,燃料とガスとの混合,点⽕

を経た燃焼の進⾏,その過程でのSootの⽣成と酸化,排気弁から燃焼室外への既燃ガ スの排出に⾄る複雑なプロセスからなる.本研究では,燃焼室内での燃焼開始〜終了過 程のSoot重量の時間的変化、および結果として燃焼室外へ排出されるSoot重量の計測 を可能とし,GDIエンジンから排出されるPM低減の⼀助となることを⽬指す.

以上より,本研究の⽬的は,GDIエンジンから排出されるPM低減に向けて,焼室内で

⽣成されるSoot重量を定量的かつ連続的に計測しうる⼿法を提案することである.

1.3 本論⽂の構成

本論⽂は,序論としての本章,第 2〜4 章の本論,第 5 章の結論から構成されてい る.

第 2 章では,本研究対象とする PM,およびその計測⼿法に関する従来研究を述べる.

PM ⽣成に関する基礎研究から,PM の計測⼿法,そしてガソリンエンジンにおける PM ⽣ 成,排出に関する研究成果を述べ,本研究の意義と研究の⽬標について記す.具体的 には,PM ⽣成に関する研究はディーゼルエンジン主体に実施されてきたが,規制強化の流 れの中でガソリンエンジンに対しても研究対象として進んでいる.⼀⽅,燃焼室内の PM 主 成分である Soot 重量の計測に関する研究については,レーザ誘起⾚熱法(Laser Induced Incandescence,以下 LII 法)等の定量計測⼿法も提案されているが,Soot

⾃体を⾚熱消失させるため,燃焼サイクルの特定時刻の計測に留まっている.単⼀燃焼サイ クルにおける Soot 重量の時間的変化を連続計測可能とする本研究は,新たな PM 低減に 繋ぐ知⾒を創出することにつながり,意義が⾼い.

第 3 章では,単⼀燃焼サイクルにおける燃焼室内で⽣成される Soot 重量を定量的かつ 連続的に計測しうる⼿法について述べる.本研究では,Lambert-Beer の法則にもとづく 透過光減衰法を⽤いた Soot 重量の計測⼿法を提案する.Soot 粒⼦を含んだ燃焼ガスに レーザ光を照射し、透過光画像を観察する.光の透過量から Soot 粒⼦による減衰率(吸 光度)を求め,Soot 重量を算出する.これにより,燃焼場を乱すことなく燃焼室内の Soot 重量が把握できる⼿法である.なお,Soot 粒⼦径,粒⼦数密度が透過光に与える

(14)

影響,他の外乱発光および吸光影響についても考察する.燃焼終了時の平衡状態におけ る Soot 重量について他の計測⼿法と対⽐し,本計測⼿法の計測精度について記す.

第4章では,提案する透過光減衰法を燃焼中および実ガソリンエンジンに適⽤する際の課 題と対応について述べる.現時点,燃焼中のSoot粒⼦の粒径分布および数密度を対象と し,精度検証された計測技術,素反応計算モデルは存在しない.よって,第3章で提案す る透過光減衰に着⽬したSoot重量計測法の燃焼中における計測精度を論述できる環境に はない.本章では,既存の他の計測⼿法との組合せによる燃焼中のSoot重量計測とその 精度実証の可能性を述べた上で,実ガソリンエンジンに適⽤する上での留意点とその対応案,

加えて試⾏結果を述べる.

最後に,第 5 章では,本論⽂で得られた知⾒をまとめ,本論⽂を閉じる.

(15)

Fig.1-1 Global portfolio of technologies for PLDVs in 2DS(1.2)

(16)

Table1-1 Emission requirements for gasoline engine(1.16)(1.17)

(17)

Fig.1-2 Developing objects and items of gasoline engine Fuel consumption Exhaust emission

Output Power Engine noise & vibration MPFI Spark ignition GDI

Auto ignition

Cost Mass-

productivity Global market Legislation

Non-polluting Environmental impact

Mechanical carburetor

Electrical carburetor

Single PointSPFI

Fuel Injection

Electronic Engine Management

Multi-PointMPFI

Fuel Injection Exhaust GasEGR

Recirculation

StratifiedGDI

lean

GDI

Homogenous Down-sizingDSZ

VCR

Variable Compression Ratio

VariableVD

Displacement VariableVVA

Valve Actuation

VVT

Variable Valve Timing VariableVCM

Charge Mortion

Userʼs Value

Business Condition Purchasing

Condition

Technologies

Fig.1-3 Typical GDI engine system layout(1.20)

(18)

Fig.1-4 Comparison of GDI and PFI mixture preparation systems(1.21)

Fig.1-5 Benefit on power output from GDI(1.22)

(19)

Fig.1-6 Phenomena of wall wetting fuel film on intake-port(1.23) Fuel Film Portion

(20)

Fig.1-7 Comparison between gasolineʼs and dieselʼs vehicle exhaust emissions in EU(1.24)

(21)

Fig.1-8 System configuration and installation of PEMS on vehicle(1.26)

(22)

Fig.1-9 Impact of ambient temperature on PM and PN emissions over NEDC(1.27)

(23)

参考⽂献

(1.1) ⼤聖 泰弘 : 排出ガス対策技術の最新動向, ⾃動⾞技術vol. 57 No. 9 20034484, p17-22 (2003)

(1.2) International Energy Agency : Energy Technology Perspectives 2015, P45 (2015)

(1.3) 次世代⾃動⾞ガイドブック 2016-2017 : 環境省, 経済産業省, 国⼟交通省 (1.4) ⽇経Automotive Technology : IHS Automotiveの⾃動⾞市場予測,

p.27-29 (2014)

(1.5) ⼭海堂 : 改訂・⾃動⾞⽤ガソリンエンジン, ISBN4-381-10133-2, p.83-85, (2005)

(1.6) 独 ⽴ ⾏ 政 法 ⼈ 環 境 再 ⽣ 保 全 機 構 : ⼤ 気 環 境 の 情 報 館 , http://www.erca.go.jp/yobou/taiki/kangaeru/kankyou/03.html (1.7) 環境省 : 平成28年版 環境・循環型社会・⽣物多様性⽩書, p.104-107,

(2016)

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(26)

第2章 PM⽣成・排出特性に関する 従来の研究

第1 章にて述べたように,⾃動⾞が移動と輸送において,⼈類の⽣活を豊かにする⼿段 として,我々の⽣活において最も⾝近で不可⽋なものであることは変わらない.その中でガ ソリンエンジンは、それがもつ経済性より,今後も⻑く活⽤が⾒込まれる動⼒源である.その 魅⼒を継続しつつ,地球環境負荷の低減のためにも,更なる熱効率の向上と排出ガスの⼀

層の低減が望まれる.その中でも燃費性能に優れた GDI エンジンから排出される PM の低 減は,重要課題である.

本章では,PM に関する従来研究ついて述べる.最初に PM の⽣成過程,構成成分や

⼤きさといった基礎研究について紹介する.この PM に関する基礎研究は,主にディーゼルエ ンジンでの燃焼を対象に研究が盛んに⾏われてきた.次に,PM に関する計測⼿法として,

量や数,成分など多岐にわたる計測⼿法について紹介する.そして最後に,本研究の対象 であるガソリンエンジン,特に GDI エンジンにおける PM の⽣成および排出特性に関する研究 について紹介した上で,研究課題について⾔及し本研究の意義について述べる.

2.1 粒⼦状物質(PM)の⽣成に関する基礎研究

⼤気中に存在する PM は,健康⾯での影響が⼼配されていることから,⼤気汚染物質とし て環境基準が定められている.図 2-1に PM の⼈体への影響を⽰す.⼀旦吸い込まれた粒

⼦は⻑期にわたり肺や体内に留まり,免疫機構などに影響を及ぼすといわれている(2.1).表 2-1に PM の発⽣源を⽰す.発⽣源としては,⼟壌粒⼦,海塩粒⼦,⽕⼭噴煙等の⾃

然起源と,⼯場,事業場等の固定発⽣源および⾃動⾞,船舶,航空機等の移動発

⽣源からなる⼈為起源に分けられる.⼀⽅,環境基準として各国が制定した PM2.5 濃度 の対象となる微⼩な PM は⾃然界にはほとんど存在せず,⼈為起源が中⼼である(2.2)

中でも⾃動⾞から排出される PM は,他の⼤気汚染物質(HC、NOx、CO および有害

⼤気汚染物質等)とは異なり,単独の化学物質ではなく,例えば硫酸塩,硝酸塩,

有機化合物等から構成される混合物である.このため,物理的,化学的な性質や発⽣

源も様々であり,粒径や組成は広い範囲に亘る.結果,⾃動⾞のエンジンから排出され る PM は,他の汚染ガス成分と違って標準物質がなく,「規定条件でフィルタに捕集された 物質」という形で法規上では定義されている.

(27)

エンジンからの PM 排出の抑制のため,⽣成過程の詳細について把握する必要がある.

そのため,エンジン内燃焼場で⽣成する PM やその主成分である Soot の⽣成メカニズムに ついて,これまで様々な研究が⾏われてきた.エンジン実機を対象に Soot やその前駆物 質についての研究(2.3)や,より詳細なメカニズムを把握するために定常拡散⽕炎を対象とし

た研究(2.4)など,様々なアプローチが⾏われている(2.5)

これらの研究例をまとめると,エンジン内の燃料と空気の混合気濃度が過濃な領域での 燃焼場において,以下の過程を経て PM は⽣成・成⻑する.

1)燃料が熱分解され低級炭化⽔素となり,これが成⻑して Soot の核を形成.

2)Soot の核が合体や凝集を繰り返しながら成⻑していくといった過程を経て,PM の主 成分である Soot が⽣成.

そして燃焼場から放出された Soot 粒⼦は周囲温度の低下と共に,下記過程をたどる.

3)周囲の未燃炭化⽔素や硫化物などを吸着しながらさらに凝集.

図 2-2にエンジンより排出された PM 粒⼦の観察結果(2.6),図 2-3に PM の模式図,

図 2-4に PM の構成成分を⽰す.結果,Soot が主体となり,その表⾯上に可溶有機 分(Soluble Organic Fraction,以下 SOF),硫化物(以下 Sulfate)など が付着した状態で房状の PM が⽣成される(2.7)ものと考えられている.以下では各ステップ の過程について詳細に述べる.

1)燃料が熱分解され低級炭化⽔素となり,これが成⻑して Soot の核を形成する過程 エンジン等の燃焼場において,⾼温の空気不⾜状態になることで燃料は,様々な物質 に熱分解を意味する Pyrolysis される.雰囲気中に少量の酸素が含まれている場合や⽐

較的⾼温場の場合では,主にアセチレンが⽣成される.⼀⽅で⽐較的低温場の場合で は熱分解による⽣成物は燃料種により様々なものとなる.拡散燃焼場の場合,⽕炎⾯よ り燃料側において燃料の熱分解によって主に C4 以下の低級分⼦量の炭化⽔素が⽣成さ れる.そして,これらが脱⽔素や重合することで Soot が⽣成される.この低級炭化⽔素 から Soot ⽣成に⾄るまでのメカニズムについては様々な諸説がある.しかし,現在では Frenklach ら(2.8)(2.9)によって提案された Soot ⽣成経路中に多環芳⾹族炭化⽔素

(28)

(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons,以下 PAHs) を経由するといった過程を経 ていくものと考えられている.⼀旦熱分解され低級炭化⽔素となった燃料は直後に再結合 や反応を繰り返すことで,ベンゼン環を形成する.このとき,初期の段階では単環芳⾹族 のベンゼンや⼆環のナフタレンなどといった⽐較的⼩さな PAHs が形成され,炭素数の⼤き な PAHs へと成⻑し,Soot に遷移するといったメカニズムである.低級炭化⽔素からベン ゼンの⽣成については,理論や実験から様々な⽣成経路が提案されている.図 2-5 に Frenklach らによって提案された PAHs および Soot の成⻑メカニズムを⽰す.単環芳⾹

族から PAHs 成⻑反応については,Frenklach らによって提案された Hydrogen Abstraction C2H2 Addition(以下 HACA)メカニズムや,O2付加反応を含む経路に よって進⾏するといった経路が考えられている.

2)Soot の核が合体や凝集を繰り返しながら成⻑していくといった過程を経て,PM の主 成分である Soot が⽣成する過程

ある程度まで成⻑した PAHs は,急速に脱⽔素・重合することで Soot の核が⽣成され ると⾔われている(2.8).この Soot 粒⼦核が⽣成される過程については未だ不明な点が多く 様々な諸説が提案されている.図 2-6 に Kroto らが提案する表⾯成⻑を意味する Surface growth による開殻成⻑モデルを⽰す.Soot 粒⼦核の⽣成について,例えば Kroto(2.10)の Surface growth による開殻成⻑モデルや,Heath(2.11)の閉殻成⻑モデ ルなどによって,Soot 粒⼦核が⽣成されるといった説が提案されている.また,PAHs から の⽔素の引き抜きについても未だ不明な点が多い.この他にも Soot へ遷移する過程の 温度条件やより詳細な過程について現在多くの詳細調査が⾏われている.

⽣成された Soot 粒⼦の核は,およそ 2〜5nm 程度の⼤きさで,⽐較的柔らかく液体 に近い性質を持っていると⾔われている(2.12).図 2-7に合体を意味する Coagulation プ ロセスを⽰す.周囲に存在する粒⼦の核同⼠が衝突することで Coagulation を繰り返し,

球状で数⼗ nm 程度の⼤きさの粒⼦にまで成⻑していく.このプロセスでの PM は Nucleation-mode PM と呼称されている.図 2-8に凝集を意味する Aggregation プ ロセスを⽰す.数⼗ nm 程度にまで成⻑すると硬く固体の性質となっていき,さらに粒⼦同

⼠が衝突することで Aggregation し,球状ではなく房状の形を成していく.雰囲気が⾼

温かつ⾼い酸素濃度の条件の場合では,Soot は酸化することで減少していく.⼀般に炭 化⽔素系燃料を⽤い拡散⽕炎を形成すると輝炎が観察できるが,これは⽕炎内側で発

⽣した Soot の酸化,もしくは⾼温化による熱輻射によるものである.周囲酸素濃度が低 い場合や燃焼時間が⽐較的短い場合,酸化しきらず残った Soot が⽕炎外へと放出され ていく.

(29)

3)周囲の未燃炭化⽔素や硫化物などを吸着しながらさらに凝集する過程

酸化しきらず燃焼場から放出された Soot は周囲の燃焼ガスや未燃ガスとともに流動し ていき,周囲温度の低下とともに固化または液化した未燃の PAHs を含む炭化⽔素や燃 料由来の硫化物などを表⾯上に付着させていく.またエンジン運転状態によっては排気管 内で凝縮⽔なども付着させていく.このように,PM が凝集を繰り返しながら排気管を流動 していき,やがて⼤気中に放出される.エンジン排気管から放出された PM は,これらを含 んだ状態でその粒径も数百 nm〜μm オーダー程度の粗⼤なものとなっていく.本プロセス での PM は Accumulation-mode PM と呼称されている.

図 2-9に全体の PM ⽣成プロセスを⽰す(2.13).⼀般には上述のような過程を経て燃焼 場から Soot または PM が⽣成され排出されていくものと考えられている.ただし,当然すべ ての粒⼦が同⼀の粒径になることはなく,実際にエンジンから排出される PM は粒径分布を 持っている.参考として図 2-10に Kittelson らの研究によるディーゼルエンジンから排出され た代表的な粒径分布を⽰す(2.7).個数基準でみると,PM は 20nm 以下の⼤きなピークと,

20nm から 200nm 付近に分布を持つ.このうち,20nm 以下の⼤きなピークは,前述し た Nucleation-mode PM と呼ばれ,SOF や Sulfate と考えられ,排ガスの冷却や希釈 の際に⽣じる凝集により⽣成する.そして,20nm から 200nm 付近の分布は,

Accumulation-mode PM と呼ばれ,燃焼により⽣成する Soot の凝集体とその表⾯に吸 着する有機物質が主成分である.

また,基となる燃料種によっても発⽣量は⼤きく異なる.拡散燃焼の場合では,例えば Soot ⽣成経路中に経由すると考えられている芳⾹族類を燃料とした場合では多量の Soot が⽣成され,⼆重結合を持つアルケン類,単結合の直鎖構造であるアルカン類の順 に Soot ⽣成量が減少していく傾向である.したがって,燃料中の含有成分によって PM

⽣成量は⼤きく異なる.ガソリンの産地やオクタン価によって含有成分は異なるため,PM 排出特性は異なる.特に⾼オクタン価の燃料は低オクタン価のものよりも芳⾹族含有量が 多くなる傾向があるため,それに伴い⽕炎内の Soot ⽣成量および PM 排出量は多くな るものと予想されている(2.14)(2.15)(2.16)

2.2 PM の計測⼿法

PM の計測⽅法は,計測する位置や計測対象など多岐にわたる.これは,2.1 節で記し たように,⾃動⾞のエンジンから排出される PM は,他の汚染ガス成分と違って標準物質が

(30)

なく,「規定条件でフィルタに捕集された物質」という形で定義されているため,⽣成条件に より構成や成分などが⼤きく変化することが⼀因として考えられる.そのため,従来の計測法 と新しい計測法の等価性を証明することが難しく,数多く提案されている代替法は,いまだ に公的計測法としては認められていない.

計測位置は,⾃動⾞のテールパイプ,エンジン燃焼室内,燃焼する⽕炎中などである.

計測対象は,例えば PM 重量や PM 粒⼦数といった物理的な計測や,PM を構成する成分 分析や元素分析といった化学的な計測がある.これら計測には市販される計測器や確⽴さ れた計測⼿法が多数存在しており,代表的な PM 重量,PM 粒⼦数,成分や体積濃度の 計測⼿法の概要を以下に記す.

① PM 重量計測︓フィルタ捕集法

⽶国の環境省 EPA では,「全量希釈フィルタ重量法」と呼ばれる計測⽅法⾃体が PM を 定義している.すなわち,「全量希釈トンネル設備を⽤いてエンジン排出ガスの全量を空気 で希釈し,52℃以下まで冷却して専⽤フィルタを通過させた際,フィルタ上に捕集される 固形および液状の微粒⼦」が,EPA が定めた PM である.また,このフィルタを⼀定の温 度・湿度の雰囲気に 8 時間程度放置し,その後,秤量した結果が PM 重量として規定さ れる.ここで温度が規定されているのは,排出ガス中の炭化⽔素を主成分とする物質の 状態が温度低下にともなって気体から液体に変化し,フィルタに補集される量が変化するた めである.また,⻑時間放置するのは,フィルタ上にある⽔を含む揮発性物質量を安定さ せた後に秤量する⽬的である.捕集の際の運転モードは,従来,⼩さいエンジンにおいて は市街地を⾛⾏するモード,⼤きいエンジンにおいては,定常モードの組み合わせであった.

しかし,近年ではすべての試験で過渡モードを採⽤する⽅向に変化してきている.

PM は計測⽅法によって定義されている物質と述べたが,全量希釈フィルタ重量法が現 在の唯⼀の公的計測法である(2.17)(2.18).図 2-11 に PM 計測に使⽤される希釈トンネ ルの外観図を,図 2-12に PM 計測装置の全体構成ならびに PM 重量計測法を⽰す.

このような全量希釈トンネルを⽤いた場合,エンジンの排気量が⼤きくなると巨⼤なトンネル 装置が必要になり,設置場所や設備費などの問題が⽣じる.また,フィルタ重量法はバッ チ測定法であるため,エンジン改良試験などで要求されるリアルタイムでの PM の発⽣挙動 の観測ができない.加えて,規制が厳しくなったことで排出される PM が激減し,フィルタ上 に採取される PM 重量はフィルタ本体の重量の 1/1000 程度になっている.そのため,天 秤で精度よく秤量することも難しくなってきている.

② PM 粒⼦数計測︓固体粒⼦数計測システム

(31)

上述のフィルタ重量法の課題に加え,欧州を中⼼に,「⼈体に影響が⼤きいのは排出 粒⼦のうちでも特に微⼩なものであり,粒⼦径という視点を規制にも加味すべき」との意⾒

が出されている.これが背景となり,国連の WP.29 の下に,既存の粒⼦計測法の最適 化 ま た は 代 替 計 測 法 の 確 ⽴ を ⽬ 指 す PMP イ ン フ ォ ー マ ル グ ル ー プ ( Particle Measurement Program,以下 PMP)が組織された.この PMP の活動の結果,新 しい計測法として提案されたのが「固体粒⼦数計測システム」である.この⽅法では,固体 粒⼦を重さではなく個数で計測する.粒⼦数を計測する⽅法は,粗⼤粒⼦に左右されて しまうフィルタ重量法での計測に⽐べ,微⼩粒⼦の排出量をより反映した計測ができるのが 利点である.欧州ではすでに,軽量⾞やディーゼル重量⾞の型式認証時,PM 粒⼦数

規制(2.19)が施⾏されている.

図 2-13に国連の発⾏する国際規則(UNECE 規則)で採⽤された,PMP 法による 固体粒⼦計測システムの構成を⽰す(2.20).全流希釈トンネルで希釈された排出ガスをサ ンプリングするシステムで,まず前段の分級器で 2.5μm 以上の粗⼤粒⼦を取り除き,次 に液体のみで構成される揮発性の粒⼦を蒸発させる.最後に残った固体粒⼦を,検出 下限 23nm の凝縮粒⼦カウンタ(Condensation Particle Counter,以下 CPC)で 計数する.つまり,本システムでは粒⼦径として 23 nm〜2.5 μm の固体粒⼦を計数す ることとなる.ここで,液体粒⼦をわざわざ蒸発させるのは,そのような粒⼦の⽣成・消滅が サンプリング条件に⼤きく影響され,計測の再現性を悪化させる要因になるためである.こ のように,EU で規制される PM 粒⼦数は,計測精度を重視した結果,微⼩粒⼦の⼀

部である液体粒⼦をあえて取り除いたものとなっている.なお,粒⼦数という考え⽅には欧 州以外でも関⼼が持たれており,23nm 以下のさらに微細な固体粒⼦をどう考えるかの議 論も続いている(2.21)

③ PM 成分計測

PM 排出量の低減には,その成分分析が不可⽋である.PM 成分の分析には,これま でソックスレー抽出やイオンクロマトグラフといった⼿間と時間がかかる分析⽅法が⽤いられて きた.ここでは,簡易に,かつ短時間で PM の分析ができるガス分析を⽤いた酸化還元法

(Redox Method)による微量 PM の分析法について記す(2.22).図 2-14に酸化還元 法の測定原理を⽰す.980℃に調整された炉の中に,PM を捕集した⽯英フィルタを挿⼊

し,N2をキャリアとして SOF と Sulfate を気化させる.その後,それぞれの成分を酸化・

還元し,SOF は CO2として,また Sulfate は SO2としてガス分析計で測定する.SOF と Sulfate が気化した後,キャリアを O2に切り替え,Soot を酸化して CO2としてガス分析す る.これらのガス濃度から,それぞれの重量を計算する.

(32)

④ Soot 体積濃度計測︓レーザ誘起⾚熱法(LII)

レーザ誘起⾚熱法(Laser Induced Incandescence,以下 LII)は,PM 粒⼦の 主な構成分である Soot 粒⼦への⾼強度のレーザ照射により,Soot 粒⼦がレーザ光を吸 収し放射される光を検知することで,Soot を把握する⼿法である.LII 法に関する研究と して,Eckbreth や Melton らが実験や数値計算による研究を⾏っている(2.23)(2.24). Melton は,単⼀球形の Soot 粒⼦へのレーザ照射による⾚熱と昇華に関する数値解析 を⾏っている.この放射光の最⼤強度は,Soot 粒⼦温度が最⼤の時,概ね Soot 粒⼦

の体積濃度に⽐例すると報告している.LII 法で,照射するレーザ光をシート状にすること で所定断⾯における Soot 分布画像を得ることができる.⼩酒ら(2.25),藤本ら(2.26),朝

井ら(2.27),稲垣ら(2.28)をはじめとする多くの研究者らが,LII 法を⽤いてディーゼル噴霧の

Soot 解析を⾏っている.

図 2-15に LII 装置のレイアウト図を,図 2-16に計測原理を⽰す(2.29).Nd-YAG レーザから発振される波⻑ 1064nm の光は数 mJ にチューニングされ,計測範囲において は均⼀な強度と効果的な形状にフォーミングされている.その計測範囲を通過する排出ガ ス中の Soot は励起加熱(Induced Incandescence)され,分光機能付きハーフミラ ーにより,400nm と 780nm に分光される.この励起加熱光の減衰強度と時間の⽐から 温度が求まり,グラフ勾配から Primary 粒⼦径平均値が得られるとしている.Melton ら の研究では,ガソリンエンジンにおける燃焼温度 2500K に対し,LII のレーザ照射による Soot 粒⼦の到達温度は 4300K 付近まで達するとし,2500K と 4300K における放射 強度の⽐が約 400 倍あることから,燃焼による発光の影響を抑えながら,Soot 位置を把 握することができるとしている.⼀⽅,4300K は Soot が酸化燃焼するには⼗分な温度場 であることから,Soot を励起加熱させる過程で⾚熱消滅する Soot が存在する懸念がある.

加えて,燃焼中の Soot 粒⼦の粒径分布および数密度を対象とし,精度検証された計測 技術,素反応計算モデルは存在しない.よって,本 LII 法は精度実証に⾄っていない.

以上,代表的な PM 計測⼿法について述べてきた.現時点では,⾃動⾞のテールパイプ より排出される PM 特性の解析が主である.エンジン燃焼室内もしくは燃焼する⽕炎中を計 測対象とするものとしては LII が存在するが,Soot の⾚熱消滅の懸念より,⼀燃焼サイクル 中を連続計測しうるものではない.同時に,計測精度を論じるための代替計測技術も存在 しないため,その計測能⼒も実証されていないのが実情である.

2.3 ガソリンエンジンにおける PM 解析に関する従来研究

(33)

2.1 節で⽰した PM 特性や⽣成過程に関する基礎研究や,2.2 節で⽰した PM に関す る様々な計測⼿法は,主に拡散燃焼を主体とするディーゼル分野にて研究され,PM 特 性が解明され,そして計測⼿法が確⽴されてきたものである.しかし,第 1 章にて⽰したよ うに,予混合燃焼を主体とするガソリン分野においても,PM 排出量の低減は重要視され ており,昨今研究が盛んに⾏われている.本節では,ガソリン分野における研究の⼀例を

⽰す.

Smallwood らは,エンジン運転条件が変化する過渡運転時における PM 排出特性を 把握するため LII 法をガソリンエンジンの排気系に適⽤し,モード運転時の PM 排出を計測 し,冷間始動時に PM が多く排出されていると報告している(2.30).堀らは,GDI エンジン から排出される PM と PAHs の計測を⾏っている(2.31).ディーゼルエンジンと⽐較し,PM や PAHs 排出に差はみられるものの,PM ⽣成メカニズムはディーゼル燃焼と同様と推測して いる.図 2-17 に Walter らにより調査された市販ガソリンエンジン搭載⾞両における PM 排出特性を⽰す(2.32).欧州排出ガス規制 Euro4 に適合されたガソリンエンジン搭載⾞

両にて,欧州における法規認証テストサイクル NEDC モードを⾛⾏した際の評価結果であ る.2017 年からの欧州規制 Euro6c(4.5mg/km,6X1011#/km)を⾚線で記し ている.MPFI エンジンに対し GDI エンジンでは,PM 重量および PM 粒⼦数ともに排出量 が増加する傾向にある.また,各種エンジンの評価結果より,PM 重量および PM 粒⼦数 には⾼い相関性があることが⽰唆されている.図 2-18に Zhang らにより調査された市販 ガソリンエンジン搭載⾞両から排出される PM 粒⼦の粒径分布特性を⽰す(2-33).北⽶に おける法規認証テストサイクル FTP モードを⾛⾏した際の評価結果である.図 2-18中,

緑線は MPFI エンジン,⾚線はインジェクタが燃焼室サイドに搭載された GDI エンジン,⻘

線はインジェクタが燃焼室中央,つまり点⽕プラグ横に搭載された GDI エンジンの結果であ る.⾞両重量等の⾞両個々の特性影響も含まれていると考えられるが,粒⼦数の絶対 値には⼤きな違いがみられるものの,粒径の存在範囲および粒⼦数のピークとなる粒径等,

粒径分布特性には類似性がみられる.本結果より,ガソリン燃焼場より排出される PM は,

燃料の噴射形態による混合気形成の違い,例えば混合気の濃度分布の影響は少なく,

⼀様の粒径分布特性を有することがわかる.同様に市場ガソリンエンジン搭載⾞両におけ る PM 粒⼦の粒径分布特性について,Khalek らは複数の市販燃料を⽤いて調査してい

(2.34).図 2-19-aに供試した燃料性状,図 2-19-bに PM 粒⼦の粒径分布特性へ

の影響を調査した結果を⽰す.90%蒸留温度が⾼いなどの燃料の蒸留特性の悪化,な らびに炭素数の多い⾼級分⼦量の炭化⽔素の重量⽐率が⾼いほど,PM 粒⼦数が増加

(34)

する特性を導いている.⼀⽅,粒径の存在範囲および粒⼦数のピークとなる粒径等,粒 径分布特性には類似性がみられる.本結果からも,燃料性状を市販の範疇で変化させ た際においても,ガソリン燃焼場より排出される PM は,⼀様の粒径分布特性を有すると

⾔える.

また,GDI エンジンの PM 排出特性として冷間始動時に多い要因に関しては,Ketterer らは,燃料が筒内に噴射されてから燃焼に⾄るまでのプロセスより分析している(2-35).図 2-20 に燃料が筒内に噴射されてから燃焼に⾄るまでのプロセス,および噴射開始時期と PM 排出量としての PM 粒⼦数との関係を⽰す.任意の圧⼒のもと⾼圧噴射弁より噴射さ れた燃料噴霧は,燃料噴霧の持つ運動エネルギーによりノズル噴孔で規定された⽅向に 移⾏し,周囲の空気との運動量交換を伴いながら混合が進む.⼀⽅,噴射後の混合と 燃料蒸発の時間確保のため,燃料を噴射する時期は吸気⾏程の前半,⾔い換えればピ ストンが上死点近傍にある時期に⾏われる.故に,所定の噴霧燃料はピストン頂⾯に衝 突する際にピストン頂⾯に付着し,燃料液膜を形成する.本液膜形成は,ピストンが上 死点に近いタイミング(図 2-20中の A 期間)ほど多くなる傾向となる.形成された燃料 液膜は,周辺空気およびピストンからの加熱により液膜表⾯より蒸発していくものの,点⽕

時期までに蒸発しきらない燃料は,主燃焼時の既燃ガスから加熱されながら液膜表⾯より 燃焼していく(図 2-20(a)(b)).この際の液膜表⾯からの過濃混合気状態での燃焼

(図 2-20(c))が,PM の主成分である Soot ⽣成を招き,PM 排出量を増加させてい ると報告している.

以上,ガソリンエンジン分野における PM ⽣成および排出特性に関する研究例を述べて きた.総論として下記にまとめる.

・ ガソリンエンジン燃焼における PM ⽣成メカニズムは,ディーゼルエンジン燃焼と 同様と推測されている.

・ MPFI エンジンに対し GDI エンジンでは,PM 重量および PM 粒⼦数ともに排 出量が増加する傾向にあり,低減は急務である.

・ MPFI,GDI のエンジン形態に関わらず,PM 重量および PM 粒⼦数には⾼

い相関性がある.

・ MPFI,GDI の燃料の噴射形態による混合気形成の違い,例えば混合気の 濃度分布や,使⽤される燃料性状により,排出される PM 粒⼦数の絶対値 は変わるものの,⼀様の粒径分布特性となる.

・ ガソリンエンジンにおける PM 排出要因は,燃料が筒内に噴射されてから燃焼 に⾄るまでの複雑な燃料・空気の混合プロセスに関わるものの,その分析は排

(35)

出特性を主にするものに留まっている.

2.4 本研究の意義

以上のように,PM ⽣成メカニズムに関する研究は,ディーゼルエンジンの燃焼を主体に 多く実施されており,PM ⽣成に関する知⾒や,それを明らかにするための計測技術も数 多く確⽴されてきた.これに加えて,第1章でも述べたように,近年のガソリンエンジンに対 する PM 排出規制の導⼊もきっかけとなり,ガソリンエンジンにおいても PM に対する研究も 近年になって実施されている.しかし,これら研究では,排出された PM 特性に主眼が置 かれ,冷間始動時に PM 排出量が増加する等,結果系の解析に留まっている.また,エ ンジン燃焼室内もしくは燃焼する⽕炎中を計測対象とするものとしては,LII 法に代表される ように⼀燃焼サイクル中の特定時刻を解析するものに留まっているのが実情である.ガソリン エンジンから排出される PM低減に向けては,燃焼室内での燃焼状態と排出されるPM特性 を関連付けることが重要であり,そして燃焼室内における PM ⽣成要因とその影響度を合わ せて把握する必要があると考える.

GDI エンジンから排出される PM を低減しうる技術開発を進めるにあたり,前提になるの は PM が⽣成する燃焼室内における実現象の解明である.GDI エンジンの燃焼室内現象 は,燃焼室内への燃料噴射,燃料と燃焼室内ガスとの混合,点⽕を経た燃焼の進⾏,

その過程での PM の主成分である Soot の⽣成と酸化,排気弁から燃焼室外への既燃焼 ガスの排出に⾄る複雑なプロセスからなる.本研究で提案する「燃焼室内で⽣成される Soot 重量を定量的かつ連続的に計測しうる⼿法」は,PM の⽣成特性と排出特性を体 系的に解明することを可能とし,新たな低減⼿法を開発する上で重要な知⾒を創出する 研究であると考える.

提案する計測⼿法として,提案後の活⽤性をもとに下記能⼒を有することを⽬標に掲げ る.

・ 計測項⽬︓燃焼室内のSoot重量

先に述べた通り、排出されるPM重量とPM粒⼦数には 相関あることから,PMの主成分であるSoot重量にて 代表する

・ 計測精度︓±10%(フィルタ捕集法と対⽐)

平衡状態となる燃焼終了後におけるSoot重量を対象 に,唯⼀の公的計測法であるフィルタ捕集法と対⽐し,

(36)

計測精度を確認する.精度±10%はフィルタ捕集法 と対⽐しても遜⾊なく,かつ再現性ある計測⼿法として 妥当と判断する

・ 計測能⼒︓燃焼開始〜終了過程のSoot重量を連続計測可能

Sootが⽣成する燃焼室内における実現象を時系列に 計測することを⽬指す

尚,前節2.1で述べたPMの⽣成・成⻑プロセスより,燃焼場におけるPMの主成分は Sootであり,燃焼場から放出されたSoot粒⼦が周囲温度の低下と共に,周囲の未燃炭 化⽔素や硫化物などを吸着しながらさらに凝集・成⻑する.よって,以下の論述では,燃 焼場におけるPMはSootと定義し,エンジンより排出された燃炭化⽔素や硫化物などを吸 着した凝集・成⻑体をPMと定義して述べていく.

(37)

Fig.2-1 Influence of PM on Human Body(2.1)

Table2-1 Producing Source of Particulate Matter(2.2)

(38)

Fig.2-2 Direct Photograph of Particulate Matter(2.6)

(39)

Fig.2-3 Schematic of Emission Particulate Matter(2.7)

Fig.2-4 Components of Particulate Matter from Diesel Engine(2.7)

(40)

Fig.2-5 PAHs and Soot Production Mechanism(2.8)(2.9)

Fig.2-6 Surface Growth Model(2.10)

(41)

Fig.2-8 Aggregation Process Fig.2-7 Coagulation Process

Fig.2-9 PM (Soot) Formation Process(2.13)

(42)

Fig.2-10 Typical Particulate Matter Size Distribution from Diesel Engine(2.7)

Fig.2-11 Outward Appearance of the Full Flow Dilution Tunnel System(2.18)

(43)

Fig.2-12 PM Measurement by Collecting Filter Investigation of the Full Flow Dilution Tunnel System(2.18)

Fig.2-13 PM Number Measurement System by PMP Method(2.20)

(44)

Fig.2-14 PM Components Analysis by Redox Method(2.22)

(45)

Fig.2-15 Optical Analysis System of LII(2.29)

Fig.2-16 Analysis Principal of LII(2.29)

(46)

Fig.2-17 PM Mass and Particle Number Emission and Euro6c Legislation on Euro4 Calibrated Vehicles(2.32)

(47)

Fig.2-18 Particle Size Distribution for PFI, GDI Vehicles over the FTP

(48)

Fig.2-19-a Particle Size Distribution for Various Fuel over the FTP Cycle(2.34) Test Fuel Property

(49)

Fig.2-19-b Particle Size Distribution for Various Fuel over the FTP Cycle(2.34) FTP Phase 1

FTP Phase 2

FTP Phase 3

参照

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