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博 士 ( 薬 学 ) 今 道 裕 美

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 今 道 裕 美

学 位 論 文 題 名

The role of viral quasispecies in the pathogenesis of        HIV‑1 and related viruses (HIV およびその関連ウイルスの病原性におけるウイルス準種の役割)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  HIV(ヒト免疫不全ウイルス)が感染すると、免疫機能の低下に伴う種々の日和見感染 症の合併が起こり、AIDS(後天性免疫不全症候群)を発症する。AIDSに対する治療法は 過 去20年ほ どの 間に 劇的 な 進歩 を遂げ、1996年から導入された3種以上の薬の併用 療法であるHAART(多剤併用療法)の使用により、多くの症例において、長期間に渡り 血液中のHIVコピー数を検出限界以下に抑えることが可能になった。しかしながら、この HAART療 法に も限 界が あり 、HAARTによっても体内から完全にHIVウイルスを駆逐す ることはできず、ウイルスの血中レベルが2年以上検出限界以下に抑えられていた患者に おいても、低レベルでのウイルスの増殖が長期間に渡って維持されていることを示唆する データが、数多くの研究グループによって報告されている。こうした検出限界以下ながら もごく低レベルに存在するウイルスの増殖が、CD4陽性T細胞以外の細胞で起こっている 可能性を示唆するデータも、これまでに多く発表されており、ウイルスに感染しても細胞 が死滅しないこと、現在使用されているAIDS治療薬に対する感受性が低いこと、また、

感染細胞の半 減期が非常に長いこと等の理由から、HAART投与期間におけるウイルス増 殖に対するマク口ファージの関与が現在大いに注目されている。そこで、本研究では、

HAART投与患者における、低レベルのウイルス増殖のメカニズムと組織マクロファージ 指向性に関与するウイルス因子の解明に関する研究を行った。

  本研究の対象として、アメリカ国立アレルギーおよび感染症研究所のAIDSクリックに おける臨床試 験に参加していた患者の中から、HAART療法により血中のウイルスレベル が1〜3年もの長期に渡り検出限界以下に抑えられていた患 者3名を選んだ。HAART治 療 開始 前、HAART投与 期間 内、 および、HAART中断後の3点 において、血液サンプル を採取し、血 中に存在するウイルスのDNAシークエンスを解析した。HIVのプ口テアー ゼ領域を用い たウイルスのDNAシークエンス解析の結果、HAART投与開始以前に存在し ていたウイル ス産生細胞(レザパ一)からのウイルスの増殖は、HAART投与によっても 完全に抑制されていないことが明らかとなった。この期間には、PBMC(末梢血単球)か ら は常 にウ イル スRNAが検 出さ れ、HAART投与 期間 に血 中よ り採取してきたPBMCを 培養下で刺激すると、正常なウイルスの産生が見られることも併せて見い出された。さら に、HAART存在下、長期間に渡り低レベルのウイルスの増殖を担ってきたレザバーは、

HAART投与中断後、速やかに増殖サイクルを回復させることが本研究により明らかとな った。こうした低レベルのウイルスの増殖が、どこでどの様な細胞によってまかなわれて いるかについては、現在不明であるが、ウイルスに感染しても細胞が死滅しないこと、現     一130−

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在使用されているエイズ治療薬に対する感受性が低いこと、また、感染細胞の半減期が非 常に長いこと等の理由から、組織マク□ファージの役割が現在大いに注目されている。

  HIVは、細胞表面上に存在するCD4およびケモカインレセプターを使って、標的細胞に 侵入 する。主 なケモ カインレ セプター として 、CXCR4とCCR5の2種が知られており、

これらがウイルスのある程度の細胞指向性を決めるのに役立っていることが知られている。

しかしながら、組織マクロファージに対するウイルスの指向性に関しては、末梢血から比 較的に簡単に入手可能なT細胞などに較ベ、体内組織に存在するマクロファージの入手が 大変困難であることから、これまでに大きな研究の進歩は見られていない。そこで、我々 は、HIVのエンベ口ープの遺伝子をコードするSIV(サル免疫不全ウイルス)とHIVのキ メラウイルスであるSHIVを用いたアカゲザルの動物モデル系において、感染初期には主 に血中のCD4陽性細胞により(T‑cell phase)、また、感染後期においては組織中に存在 するマク口ファージによってウイルスの増殖が維持されている(Macrophage phase)とい う点に着目して、Tーcell phaseからMacrophage phaseへの変遷期にウイルスにどのよう な変化が起こっているのかについて検討した。そして、SHIVのエンベ口ープ領域を用い たウ イルスのDNAシ ークエン ス解析の 結果、アカゲザルにおけるSHIV感染後期にあた るMacrophage phaseには、エンベ口ープのV2ループにアミノ酸残基を欠損したウイル スが多く検出され、、また、V2にアミノ酸欠損を持っウイルスの中には、糖鎖の欠損を伴う ものがあることが明らかとなった。特に、アミノ酸164‑165に欠損を持っウイルスは肺胞 マク口ファージに強い指向性を示し、また、マク口ファージ指向性の認められたウイルス には 全てCD4非依存 性感染が 認められ た。活性化したPBMCと較べた場合、マク口ファ ージ細胞表面上に存在するCD4およびケモカインレセプターの発現量が非常に低いことが 知られていることから、CD4陽性T細胞がほぼ完全に末梢血中から消滅してしまっている SHIVの感染後期においては、CD4を低レベル、あるいは全く発現していないターゲット 細胞にも感染できるV2アミノ酸欠損変異株が、ウイルスの進化の過程で優先的に選択され たものと考えられる。

  長年のエイズ研究の成果により、HIV感染はコント口ール可能な慢性ウイルス感染症と 変貌しつつある。しかしながら、現在使用されているHAARTによってもウイルスを根絶 することはできず、低レベルながらもウイルスの増殖を続けるレザパーがHAART存在下 においても存在していることが、本研究により明らかとなった。ウイルスのレザパーとし て最も着目されているのが組織マクロファージであり、本研究においては、SHIV/アカゲ ザルの動物モデル系を使うことにより、マク口ファージ指向性に関与するウイルス因子を 同定することに成功した。本研究で確立されたウイルスは、SHIVウイルスとしては初の マクロファージ指向性を獲得したウイルスであり、このウイルスを使用することにより、

ウイルスがどのような経路でマクロファージに感染するかを個体レベルで調べることが可 能になった。また、HAART投与後の長期に渡るウイルスの増殖の組織マク口ファージに おけるメカニズムについても、個体レベルで言及することが可能になり、今後の検討が望 まれる。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査

副 査 副 査 副 査

教授 教授 助教授 助教授

横 沢 有 賀 高 橋 川 原

英良 寛芳 和彦 裕之

     学位論文題名

The role of viral quasispecies in the pathogenesis of     HIV‑1 and related viruses

(HIV およびその関連ウイルスの病原性におけるウイルス準種の役割)

  AIDSに対する 治療法 は過去20年 ほどの 間に劇的 な進歩を遂げ、1996年から導入 さ れた3種以上 の薬の 併用療法 であるHAART(多 剤併用療法)の使用により、多く の症例において、長期間にわたり血液中のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)コピー数を 検 出限界 以下に抑 えるこ とが可能になった。しかし、このHAART療法によっても体 内 か ら 完 全にHIVを 駆 逐 すること はでき ず、HAART投与患 者におい て低レ ベルで の ウイル スの増殖 が長期 間にわたり維持されていることが判明した。現在、HAART 投与期間における低レベルでのウイルスの増殖に対する組織マク口ファージの関与 が注目されているが、HIV感染患者からの組織マクロファージの入手が非常に困難で あることや、適切な動物モデルが存在しないことなどから、組織マクロファージに関 する研究が進んでいない。

  本論文提 出者は、HAART投与患者における低レベルのウイルス増殖のメカニズム と組織マク口ファージ指向性に関与するウイルス因子の解明に関する一連の研究を 展開し、以下の成果をおさめた。

(1)HAART投与 患者に おける低 レベル でのウイ ルス増殖のメカニズムの研究対象 として、アメリカ国立アレルギーおよび感染症研究所のAIDSクリックにおける臨床 試 験に参 加してい た患者 の中から、HAART療法により血中のウイルスレベルが長期 に わたり 検出限界 以下に 抑えられ ていた 患者3名を選出して、HAART治療開始前、

HAART投 与 期 間内 、 お よびHAART中 断後 の3点に お い て血液 サンプル を採取 し、

HIVのプ ロテアー ゼ領域 を用いて 、血中 に存在す るウイルスのDNAシークエンスを 解 析した 。そして 、HAART投与開始以前に存在していたウイルス産生細胞(レザパ

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ー)からのウイルスの増殖が、HAART投与によっても完全に抑 制されていないこと を明らかにした。また、この期間 にはPBMC(末梢血単球)からは常にウイルスRNA が 検 出 さ れ る こ と 、HAART投 与期 間に 血中 より 採取 したPBMCを 培養 下で 刺激 す ると正常なウイルスが産生される ことを明らかにした。さらに、HAART存在下、長 期間にわたり低レベルでのウイル スの増殖を担ってきたレザパーが、HAART投与中 断 後 、 す み や か に 増 殖 サ イ ク ル を 回 復 さ せ る こ と を 明 ら か に し た 。

(2)SHIV(サルーヒト免疫不全キメラウイルス)を用いたア カゲザルの動物モデ ル系を用いて、感染初期(T‑cell phase)では主に血中のCD4陽性細胞により、また、

感染 後期(Macrophage phase)では組織中に存在するマク口 ファージによって、ウ イル スの 増 殖が 維持 され てい るこ とに 着目 して 、T‑cell phaseか らMacrophage phaseへの変遷期にウイルスに起こっている変化について検討した。そして、アカゲ ザル にお け るSHIV感 染後 期に あた るMacrophage phaseに は、 エン ベ 口ー プのV2 ループにアミノ酸残基を欠損した ウイルスが多く検出されること、V2にアミノ酸欠 損を持っウイルスの中には糖鎖が欠損しているものがあることを明らかにした。特に、

アミノ酸位置164‑165に欠損を持っウイルスは肺胞マク口ファ ージに強い指向性を 示し、マク口ファージ指向性の認 められたウイルスには全てCD4非依存性感染が認 めら れる こ とを 明ら かにした。活性化したPBMCと比較した 場合、マク口ファージ 細胞表面上に存在するCD4およびケモカインレセプターの発現 量が非常に低いこと が知られており、本研究の結果か ら、CD4陽性細胞がほぽ完全 に末梢血中から消滅 して しま っ てい るSHIVの 感染 後期 にお いて は、CD4を低レ ベルあるいは全く発現 していないターゲッ卜細胞にも感 染できるV2アミノ酸欠損変異株が、ウイルスの進 化の過程で優先的に選択されたと提案した。

  以上の知見およびそれを得るた めに用いた新研究技法は、HAART投与患者におけ る低レベルでのウイルス増殖のメ カニズムの理解にとどまらず、HAART療法におけ る限界を実証したという点で、臨床的にも意義のあるものであると言える。また、本 研究 で確 立 され たウ イルスはSHIVウイルスとしては初のマ ク口ファージ指向性を 獲得したウイルスであり、このウイルスを使用することにより、ウイルスがどのよう な経路でマク口ファージに感染するかを個体レベルで調べることが可能になった。こ れは、HAART投与後の長期にわたるウイルスの増殖の組織マク 口ファージにおける メ カ ニ ズ ム を 個 体 レ ベ ル で 言 及 す る 上 で 、 重 要 な 寄 与 を な す も の で あ る 。   審査員一同このことを高く評価し、本論文提出者が博士(薬学)の称号を受けるに ふさわしいものと一致して判断した。

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参照

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