氏 名(本籍)
学位の種類 学位記番号
学位授与の要件 学位論文題名 論文審査委員
小松原 博 文(茨城県)
博士(学術)
甲第 8号
学位規則第3条第2項該当
中枢神経指向性Simian lmmunodeficiency Virusの解析
(主査)松田基夫
(副査)佐俣哲郎
福 山 正 文
向 井 鎮三郎(国立感染症研究所室長)
論 文 内 容 の 要 旨
脳炎と痴呆症はHIV感染者にとって重要な症状である。しかし、 HIV感染による中枢神経系疾患の 発症機序は未だに不明な点が多い。国立感染症研究所筑波医学実験用霊長類センターの向井らの研究 で、免疫不全の症状を起こすsi蜘i㎜unode且ciency蜘s(SIV)mac239を2頭のカニクイザルに接 腫し、感染実験を行った結果、2頭中1頭が183週目にエイズ脳炎を発症した。次に、この2頭のカニ
クイザルから死亡1日前に採取した血液を2代目のカニクイザルにそれぞれ接種した。その結果、2代 目のカニクイザルは2頭(Cy1−2, Cy2−2)とも血液接腫後、20週目と63週目にそれぞれ脳炎を発症した。
これらの脳炎を発症したカニクイザルの脳組織からSIV産生が認められる細胞株(BM1とBM5細胞株)
が樹立された。そこで本研究では、このカニクイザルの脳組織の病理組織学的解析、上述したBM細 胞株の性状及びBM1細胞株とBM5細胞株が産生するSIV(SIV l)m1とSIV bm5)の表現型と遺伝子型 の解析を行った。
まず、脳炎を発症したカニクイザルでは脳組織の病理学的解析により脳髄膜下にSIV陽性多核巨細 胞が認められ、この多核巨細胞はマクロファージ抗体陽性であった。そしてBM1とBM5細胞株は両 方ともモノサイト系の細胞であり、無限増殖性を獲得していることが明らかになった。
次に、中枢神経指向性SIVはマクロファージ指向性を獲得しているという他の研究グループの報告 があることや、上述した様に脳炎を発症したカニクイザルの脳組織ではSIV陽性のマクロファージ系 細胞による感染病巣が検出されたことから、SIV bmの肺胞マクロファージへの感染及びその増殖性を 検討した。対照として用いた宿主細胞CEMx174ではSIV mac239、 SIV bm1及びSIV bm5共に感染及び その増殖が確認されたが、肺胞マクロファージ、モノサイトそして骨髄細胞への感染実験ではSIV bm1とSIV bm5のみの感染及びその増殖が確認された。またアストロサイト初代培養細胞への感染実 験の結果では、SIV mac239の感染のみが確認されたが、一方SIV bm1とSIV bm5では共に感染及びそ の増殖が確認された。
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更に、SIV bm1及びSIV bm5のゲノムRNAの全長約10k塩基に渡る全塩基配列を決定し、野生型株 であるSIV mac239と比較した。その結果、 SIV bm1では、野生型株であるSrVF mac239と比較してLrR で18、gαgで15[アミノ酸の変化は4個(Aa 4)]、ρ01で22(Aa 21)、8ηびで48(Aa 39)、ηげで27(Aa
23)個の置換が確認され、啄砂κ、 ρ7、 α 、アωではそれぞれ9(Aa 6)、3(Aa 1)、4(Aa 2)、9
(Aa 5)、4(Aa 3)個の塩基置換が認められた。またこれらの置換以外にSIV bm1では、 gαgで12個、
ρ01で12個と3個の2ヶ所で、θ卿ではθ卿領域内の多様性領域であるV領域中のV1領域に9個、 V4領 域に18個の連続したフレーム単位での根引がSIV mac239と比較して認められた。またSIV bm5では、
θ〃〃領域において46(Aa 33)個の置換とV4領域に21塩基に渡るフレーム単位での連続した四郷が認 められた。なお、SIV bm5では、θ泌領域以外で、π以 舐 α 、78〃の各領域にそれぞれ18(Aa 15)、
7(Aa 5)、3(Aa 1)、5(Aa 2)個の塩基置換がSIV mac239と比較して確認されたが、ρ01、ψ劣、砂7、
πげなどのアクセサリー遺伝子をコードしない1∫rR領域には変異が認められなかった。
さらにSIV bm5、先に述べた63週目の脳炎を発症したカニクイザルCy 2−2の髄液中SIV及びCy 2−2 の血漿中SIVのθ櫛領域の塩基配列を決定し、その比較検討を行ったところ、 SIV bm5とCy 2−2髄液中 SIVでは46ヶ所中43ヶ所が同一の変異をしており、一方血漿中SIVでは46ヶ所中6ヶ所がSIV bm5と 同一の置換を獲得しているのみで、SIV bm5は血漿中SIVとは明らかに異なることが確認された。
中枢神経指向性SIVはマクロファージ指向性も獲得しているが、一方マクロファージ指向性特有の θ卿領域にある4ヶ所[6802(AaV→M)、7130(AaK→E)、7750(Aa G→R)、8323(AaK→T)番
目の塩基]の特異的塩基置換も報告されている。そこでSIV bm株でθ御領域内の解析を行ったところ、
SIV bm5では6802番目の塩基がグアニンからアデニンに置換(Aa V→M)し、7750番目の塩基がグア ニンからシトシンに置換(AaG→R)しており、これらの2ヶ所ではマクロファージ指向性特有の置
換と同じ置換が認められた。しかし、7130番目の塩基ではアデニンからグアニンへの置換ではなくシ トシンへの置換で(Aa K→Q)、8323番目のヌクレオチドではSIV bm5では置換は確認されなかった。
これに対し、SIV bm1のθ〃 領域内では、6802番目の塩基がグアニンからチミン(AaV→M)に、マ クロファージ指向性特有の置換とは異なる置換を示しており、更に他の3ヶ所での置換は確認されな かった。この様にSIV bm5のθη 領域内では4ヶ所中2ヶ所でマクロファージ指向性と同じ置換をして いたことから、この2ヶ所のみでマクロファージ指向性を獲得した可能性も考えられるが、SIV bm1で は4ヶ所全てで同一の置換が確認されなかったので、SIV bmは、これら4ヶ所での置換以外の部位で の変異によりマクロファージ指向性を獲得したものと示唆される。
脳組織由来血管内皮細胞への三門。での感染には8854番目の塩基がアデニンからグアニンに置換
(Aa R→G)することが重要であるとされており、今回SIV bm1及びについて同様の解析を行ったとこ ろ、SIV bm1とSIV bm5共に同じ置換を保有することが認められた。
また、中枢神経指向性の代表的SIV株であるSIV/17E−Frと比較して、 SIV bm1はθη 領域の340番目
(AaK→R)と751番目(AaR→G)の2ヶ所でアミノ酸が同一置換していることが確認された。また SIV bm5は309番目(Aa M→1)、340番目(Aa K→R)そして751番目(Aa R→G)の3ヶ所に同一置
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換を持つことが確認された。この様に共通の置換が340番目と751番目で認められたことから、これら の置換が中枢神経指向性を獲得する上で、重要である可能性が示唆された。
以上の様に本研究では、脳炎発症ザルの病理像、そして中枢神経指向性SIVの遺伝子型と表現型が 明らかとなった。今回得られた知見は、エイズウイルスによるエイズ脳炎発症機構の解明に大きく貢 献するものと確信する。
論文審査の結果の要旨
本「博士の学位論文」として提出された論文は、サルを実験動物として用いエイズ脳炎組織由来細 胞株と、この細胞の産生するSIV(sim量an immunode且ciency virus)を中心に細胞生物学的、ウイルス 学的そして分子生物学的な解析を蓄積することによって、エイズ脳炎の発症機構の解明を目的として 行われたものである。
まず、野生型SIV mac239株を2頭のカニクイザルに接種し4年近く経て、エイズ脳炎を発症したの で2代目のサルに輸血継代したところ、初代サルよりも短期に、2頭ともエイズ脳炎を発症した。この 2頭の脳炎発症脳組織から、脳炎組織の病理像の一部を代表するような別々の細胞株を樹立した。この BM1、 BM5(Brain Monocyte−like)細胞株は両方とも、モノサイト系の細胞であり、無限増殖性を獲 得しており、CD4抗原陰性でそしてSIVを産生していた。
サルエイズ脳炎組織にSIV陽性のマクロファージ系細胞による感染病巣があったことと、中枢神経 指向性SIVはマクロファージ指向性を獲得しているという他のグループの報告があったので、 BM1と BM5細胞株がそれぞれ産生するSIV(SIV bm1とSIV bm5)のサル細胞マクロファージへの感染及びそ の増殖性を検討した。対照として用いた宿主細胞CEMx174ではSIV mac239、 SIV bm1及びSIV bm5 全ての株で感染及びその増殖が確認されたが、肺胞マクロファージ、モノサイトそして骨髄細胞への 感染実験ではsrV bm1とSIV bm5のみの感染とその増殖が確認された。またサルアストロサイト初代 培養細胞への感染では、SIV mac239では感染のみが確認されたが、 SIV bm1とSIV bm5では共に感染 及びその増殖が確認された。
ついで、SIV bm1及びSIV bm5プロウイルのゲノムDNAの全長10k塩基に渡る全塩基配列を決定し、
野生型株であるSIV mac239と比較した。その結果、 SIV bm1株とSIV bm5株ともにgα8、ρoZ、θ卿遺伝 子のほかに臨ρ似、ψ7、鰯、名ωなどのアクセサリー遺伝子にもアミノ酸置換を含む塩基置換が認め
られた。またこれらの置換以外に欠失があり、SIV bm1株では、 gαgで12個、ρ01で12個と3個の2ヶ 所で、θπσではV領域中のV1領域に9個、 V4領域に18個の連続したフレーム単位での欠失が認められ た。二方、SIV bm5株では、8πρのV4領域に21塩基に渡るフレーム単位での連続した欠失が認められ た。現在までに、エイズウイルスにはT細胞指向性、マクロファージ指向性、T細胞とマクロファージ 両方に指向性そして中枢神経指向性のものが知られており、これら指向性に共通にみられる点突然変 異がHIV、 SIVについて報告されている。これらのマクロファージ指向性共通点突然変異に注目して、
SIV bm1株とSIV bm5株の塩基配列を解析したところ、 SIV bm5には認められた既知のマクロファージ
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指向性特異的点突然変異がSIV bm1には全くみられないことが明らかになった。
一方、中枢神経指向性の代表的SIV株であるSIV/17E−Frと比較して、 SIV bm1はθ卿遺伝子の340番 目(AaK→R)と751番目(AaR→G)の2ヶ所でアミノ酸が同一置換していることが確認された。ま た、SIV bm5は309番目(Aa M→1)、340番目(Aa K→R)そして751番目(Aa R→G)の3ヶ所に同 一置換を持つことが確認された。この様に共通の置換が340番目と751番目で認められたことから、こ れらの置換が中枢神経指向性を獲得する上で、重要である可能性が示唆された。
以上のように、本研究論文は、細胞生物学、分子生物学そしてウイルス学的手法を駆使して展開さ れ、中枢神経指向性SIVの遺伝子型、表現型が明らかとなり、エイズウイルスによる脳炎発症機構の 一部が解明できたと考えられるので、博士(学術)の学位を授与するにふさわしいものと、本博士論 文審査員一同判断した。
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