東北医科薬科大学
審査学位論文(博士)要旨
氏名(本籍) タカハシ ショウタ
髙 橋 庄 太(山形県)
学位の種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬学第
5
号学位授与の日付 平成
29
年3
月10
日学位授与の要件 学位規則第4条
1
項該当学位論文題名
C
型肝炎ウイルスCore
蛋白質による小胞体ストレス誘導 機構の解析論文審査委員
主査 教 授 柴 田 信 之
副査 教 授 永 田 清
副査 教 授 久 下 周 佐
C
型肝炎ウイルスCore
蛋白質による 小胞体ストレス誘導機構の解析東北医科薬科大学大学院薬学研究科 微生物学教室 髙橋 庄太
<序論>
C
型肝炎感染症C
型肝炎の病態の特徴は、C
型肝炎ウイルス(HCV)
感染後、急性肝炎の様相を呈す ることはまれであり、ほとんどが不顕性感染した後に高頻度(70
%)で慢性肝炎へと 移行することである。慢性化した場合の自然治癒率は0.2%と低率で 20
年の経過でお よそ30
〜40
%が肝硬変へと移行する。さらに肝硬変の患者は年率7
%で肝細胞癌を発 症する。また、C
型肝炎患者の約50
%は脂肪肝を合併する。肝癌による死亡者の約70
% はHCV
起因することからも、この感染症が人の健康へ与える影響の大きさがわかる。近年
C
型肝炎の治療法は急速に進歩したが、ウイルス除去後も10
年間で3.1
〜11.1
% の発癌があることが報告されており、問題となっている。HCV
はフラビウイルス科 に属するおよそ3000
アミノ酸のウイルス前駆蛋白質をコードするプラス鎖のRNA
ゲ ノムを持つウイルスであり、がん遺伝子を持たない。現在もC
型肝炎の肝病態進行と 肝癌発症の詳細なメカニズムは未解明である。HCV Core
HCV Core
(以下Core
)はウイルス粒子の内核の構成因子である一方、病原性発現 との関連が示されているウイルス蛋白質の一つである。ウイルス蛋白質前駆体からsignal peptidase
によって未成熟型であるaa 1-191 (Core191)が切り出される。さら
にCore191
は小胞体膜上のsignal peptide peptidase
(SPP
)によって成熟型へと切 断される。成熟型のCore
のC
末端はaa 1-177 (Core177)
と報告されているが、異な るC
末端を持つ分子も報告されている。ウイルス粒子を形成するのはCore177
に限定 されることからも、このCore
の成熟過程はHCV
の複製に重要な意義を持つといえる。小胞体ストレス
HCV
は感染細胞に小胞体ストレスを誘導することが報告されている。またCore
単 独発現トランスジェニックマウスにおいても、肝細胞に小胞体ストレスを誘導し肝病 態の進行を促すことが報告されている。小胞体ストレスは、小胞体内腔で正常に高次COP
されずに小胞体の処理能力を超えて蓄積した状態である。細胞はミスホールド蛋白質 を感知し小胞体ストレス応答(
ER stress response
またはUPR
:Unfolded protein
response
)と呼ばれる機構を活性化することで小胞体内の恒常性を保つ。小胞体ストレス応答は、新規蛋白質の翻訳抑制、分子シャペロンによるリフォールディングの促 進、細胞質に逆輸送して分解する小胞体関連分解(
ERAD : Endoplasmic reticulum associated degradation
)の促進などで、これらの応答により細胞は恒常性を担保する。ERAD
は分解基質の変異部位が細胞質側 (ERAD-C), 内腔側 (ERAD-L), 膜内(ERAD-M)
かによって担う構成分子を異にする。この機構は出芽酵母により解析され、哺乳動物細胞との類似性が高い。また、小胞体ストレスは発癌および癌の進行に関与 していることが示唆されている。
<目的>
本研究では出芽酵母およびヒト培養細胞を用いて
Core
のC
末端の長さによる細胞 内応答の検討を行い、Coreによる病原性発現機構を解明することを目的とした。出芽 酵母にCore
を発現すると、油滴の蓄積やUPR
の誘導など哺乳動物細胞と同様な細胞 毒性を示すことから、本研究において有用なモデルとなると考えた。また出芽酵母で はSPP
活性が弱いためCore191
をプロセスされずに発現することが可能である。そ こで、まず出芽酵母を用いてCore
のC
末端の長さと小胞体ストレスなど細胞内応答 の関係を検討した。次に得られた知見を基盤に、哺乳動物細胞において同様な細胞毒 性発現機構があるのかをC
末端が異なったCore
および病原性が高いHCV
のCore
を 発現し検討した。<結果>
【
Core C
末端の長さで油滴形成および小胞体ストレス応答が異なる】出芽酵母において長さの異なる
Core
を発現させたところ油滴形成およびUPR
に違いが認められた。
Core191
は油滴形成を全く誘導せずに、UPR
を強く誘導した。一方、長さが成熟型として報告されている
Core177
に近づくにつれて油滴形成の増加およびUPR
の 減少が認められた。Core177
より4 aa
短いCore173
は油滴形成およびUPR
を誘導 した。【
Core
は小胞体膜細胞質側から小胞体内腔のミスホールド蛋白質蓄積を促進 する】哺乳動物細胞においてもCore
は小胞体膜細胞質側に局在することが報告され ているが、出芽酵母においてもCore191
、Core177
およびCore173
は同様に小胞体膜細胞質側に存在することが明らかになっている。そこで、Coreがどのようにして小胞 体膜細胞質側から小胞体ストレス応答を誘導するかを検討した。出芽酵母における小 胞体ストレスセンサー分子である
Ire1
は1回膜貫通型の小胞体膜蛋白質で小胞体内腔 のドメインⅢでミスホールド蛋白質の蓄積を感知することが知られている。Ire1
の変 異体発現株を用いてCore
による小胞体ストレスの誘導を検討した結果、ミスホールド 蛋白質の蓄積を感知するドメインⅢが必要であることから、Core
は小胞体内腔の変性 蛋白質を誘導する可能性が示唆された。【
Core
はERAD-L
を阻害することでUPR
を誘導する】次にどのようにして小胞体内腔へのミスホールド蛋白質の蓄積を誘導するのかメカニズムを検討した。ミス ホールド蛋白質の蓄積は
ERAD
および小胞体からゴルジ体への小胞輸送(COP
Ⅱ輸送)の関与が示唆されている。そこで、
ERAD-L
、-M
、-C
のそれぞれの基質の分解およびCOP
Ⅱ輸送の基質の蓄積に対するCore191
、Core177
の影響を検討した。Core177
はERAD-M
およびCOPⅡ輸送を阻害したが、ERAD-L
はわずかな阻害が認められた。Core191
はERAD-M
、ERAD-L
およびCOP
Ⅱ輸送を強く阻害した。Core177
は小胞 体ストレスを誘導しないことからCore
による小胞体ストレス誘導機構はERAD-L
が 大きく関与している可能性が強く示唆された。【
Core C
末端の長さに依存した小胞体ストレス誘導能はヒト培養細胞で再現される】次に出芽酵母で確認された
Core C
末端の長さに依存した小胞体ストレス誘 導能の違いは哺乳動物細胞で保存されるかを検討した。ヒト肝臓癌細胞Huh-7
にCore191
を発現するとSPP
による切断を受けてCore177
と同じ高さにバンドが確認 された。しかし、Core191
は強く小胞体ストレスを誘導したが、Core177
は誘導しなかった。
Core173
を発現した場合には不安定なためにウエスタンブロッティングでバンドは確認出来なかったが、小胞体ストレスを強く誘導した。一方、ヒト胎児腎細胞
HEK293FT
細胞で実験したところ、Core173
は小胞体ストレスをより強く誘導しCore173
の発現も確認できた。また、SPPで切断されないCore
人工変異体を発現す ると、小胞体ストレスをより強く誘導した。よって出芽酵母と同様にヒトの細胞にお いてもCore
にはC
末端に依存した小胞体ストレス誘導活性があることが明らかとな った。【肝病態高病原性の
HCV
由来のアミノ酸変異体Core
の解析】IFN
治療抵抗予 測因子として見つかったCore
のR70Q
変異は、肝癌の発生および悪性化に関与することが疫学的に示されている。次にこの変異について解析を行った。その結果、
R70Q
は小胞体ストレスを誘導し細胞増殖を強く抑制することが明らかになった。また、SDS-PAGE
上でR70Q
変異Core
はCore173
と同様な移動度を示すことが明らかに なった。R70Q
で確認された現象はCore173
と類似しているため、今回得られた結果 は、R70Q
はC
末端のプロセシングエラーを引き起こし、その結果小胞体ストレスを 誘導する可能性を示唆している。<考察>
HCV
ゲノムRNA
は変異が入りやすく、同一個体の中においてもゲノム配列の異なる ウイルスの集合体(quasispecies
)であることが報告されている。本研究は自然発生 のCore
の変異によってもプロセシングエラー(プロセスされない、短くなる)が起こ る可能性を示した。また、Core
のC
末端の長さに依存して小胞体ストレス誘導能が現 れることが初めて明らかになった。ウイルス粒子形成はCore177
のみで起こることか ら、変異によりプロセシングエラーを起こしたCore
はウイルスを形成せずに感染細胞 に留まり小胞体ストレスを誘導する可能性が考えられる。小胞体ストレスは持続的な 炎症誘発による肝発癌、および進行に寄与することから、
本研究で明らかに
Core C
末 端の長さに依存した小胞体 ストレス誘導能の違いは、HCV
の持続感染による病態 発現および発癌機構の解明 に繫がる重要な知見を与え る可能性が考えられた。<原著論文>